説明

熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体の製造方法

【課題】高い流動性と機械的特性とを併せ有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び成形体の製造方法並びに熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本組成物の製造方法は、植物性材料及び該熱可塑性樹脂の合計100質量%に対して植物性材料50〜95質量%含有する組成物を、植物性材料に電子線を照射する電子線照射工程と、熱可塑性樹脂と電子線が照射された植物性材料とを混合する混合工程と、をこの順に備えて得る。本成形体の製造方法は、前記熱可塑性樹脂組成物を押出成形又は射出成形して成形体を得る。本組成物は、植物性材料及び熱可塑性樹脂の合計100質量%に対して植物性材料を50〜95質量%含有し、植物性材料の少なくとも一部は電子線が照射された植物性材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体の製造方法に関する。更に詳しくは、熱可塑性樹脂と電子線が照射された植物性材料とが含有された熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法並びにその熱可塑性樹脂組成物を用いた成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ケナフ等の成長が早く、二酸化炭素吸収量が多い植物資源は、二酸化炭素排出量削減及び二酸化炭素の固定化等の観点から注目され、樹脂との複合材料やパルプ等としての用途が期待されている。樹脂と混合して利用する技術としては下記特許文献1及び2が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−105245号公報
【特許文献2】特開2000−219812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び特許文献2の技術は、いずれも熱可塑性樹脂に対して多量の植物性材料を混合できる点において優れている。しかし、上記特許文献1では、ケナフ繊維の含有量が50質量%を超える場合に、樹脂組成物の流動性が著しく低下するので射出成形において、満足する製品形状や製品形態が得られない等の問題が発生することが示されている。一方、上記特許文献2では、樹脂にロジンや可塑剤を加えず、植物繊維のみを配合した場合には植物繊維が均一に分散され難く、樹脂と植物繊維の間の親和性が悪いことなどから、強度等に劣り、又品質の均一性にも欠け、実用性に乏しい材料しか得られないことが示されている。このように、樹脂に植物性材料を多量に混合しつつも、成形性及び機械的特性を両立させることは難しく、これらの特性を併せ有する材料が求められている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、植物性材料を50質量%以上と多く含有させつつ、射出成形や押出成形等を行うことができる高い流動性と優れた機械的特性とを併せ有する熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法並びにその熱可塑性樹脂組成物を用いた成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は以下に示す通りである。
(1)植物性材料と熱可塑性樹脂とを含有し、該植物性材料及び該熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に該植物性材料を50〜95質量%含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
植物性材料に電子線を照射する電子線照射工程と、
熱可塑性樹脂と電子線が照射された植物性材料とを混合する混合工程と、をこの順に備えることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(2)上記混合は、混合室及び該混合室内に配置された混合羽根を備える撹拌機を用いて行い、且つ、
該撹拌機の該混合室中で、上記電子線が照射された植物性材料と、該撹拌機の該混合羽根の回転により溶融された上記熱可塑性樹脂と、を混合する上記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(3)上記電子線照射工程における電子線照射量は600〜1800kGyである上記(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(4)上記電子線照射工程と上記混合工程との間に、上記電子線が照射された植物性材料を粉砕する粉砕工程を備える上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(5)上記植物性材料は、ケナフである上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(6)上記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン及び/又はポリ乳酸である上記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(7)上記混合工程の後に、該混合工程で得られた熱可塑性樹脂組成物を、押し固めてペレットを得るペレット化工程を備える上記(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(8)上記(1)乃至(7)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を押出成形又は射出成形して成形体を得ることを特徴とする熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
(9)植物性材料と熱可塑性樹脂とを含有し、該植物性材料及び該熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に該植物性材料が50〜95質量%であり、且つ該植物性材料の少なくとも一部は電子線が照射された植物性材料であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(10)上記電子線が照射された植物性材料は、上記植物性材料全体を100質量%とした場合に20質量%以上である上記(9)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法によれば、電子線を照射した植物性材料(以下、単に「EBI植物性材料」ともいう)を用いることで熱可塑性樹脂に対して50〜95質量%と高い割合で植物性材料を混合できる。更に、EBI植物性材料を用いることで得られる熱可塑性樹脂組成物に高い流動性が発現される。特に射出成形が可能な程度に優れた流動性が得られ、射出圧力を小さく抑えることができ、成形性及び成形効率に優れる。加えて、本方法による熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた成形体(熱可塑性樹脂成形体)においては高い機械的特性が発揮される。特に曲げ弾性率及び曲げ強度に優れ、更には、優れた柔軟性が得られる。
上記混合工程が、EBI植物性材料と混合室中で混合羽根の回転により溶融された熱可塑性樹脂とを混合する工程である場合は、より優れた熱可塑性樹脂組成物の流動性及び成形体の機械的特性が得られる。更に、短時間で混合を行うことができ、また、外部からの加熱を要することなく熱可塑性樹脂組成物を製造できる。更に、加熱を要さず別途の加熱手段等が不要であり、短時間で混合できるために低コストで熱可塑性樹脂組成物を製造できる。
電子線照射量が600〜1800kGyである場合は、とりわけ顕著に熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上させることができ、また、この熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた成形体においてとりわけ顕著に優れた機械的特性が発揮される。
電子線照射工程と混合工程との間に粉砕工程を備える場合は、熱可塑性樹脂組成物内に含まれる植物性材料をより小さく細分化して含有させることができ、熱可塑性樹脂組成物に更に高い流動性が発現される。また、この熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた成形体においては更に高い機械的特性、特にとりわけ優れた柔軟性が発揮される。
植物性材料がケナフである場合、ケナフは成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するため、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献できる。
熱可塑性樹脂がポリプロピレン及び/又はポリ乳酸である場合は、優れた環境特性を備える熱可塑性樹脂組成物が得られる。特に、ポリプロピレンにおいてはポリプロピレンが有する優れた低環境負荷性及び優れた軽量特性を、ポリ乳酸においてはポリ乳酸が有する生合成できる非石油系樹脂であるという特性を、各々活かしながら植物性材料との複合により高い機械的特性(強度など)を得ることができる。
混合工程の後に、混合工程で得られた熱可塑性樹脂組成物を、押し固めてペレットを得るペレット化工程を備える場合は、加熱することなくペレット形状に成形でき、熱可塑性樹脂組成物への熱負担を抑制できる。このため射出成形できる高い流動性を維持し、更には射出圧力をより小さく抑制することもできる。また、得られる成形体には高い機械的特性を発揮させることができる。
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法によれば、植物性材料を多量に含有するにもかかわらず、熱可塑性樹脂組成物を押出成形又は射出成形により成形できる。更に、これらの成形方法においても成形性に優れ、また、生産性に優れた成形を行うことができる。更に、得られる成形体においては、高い機械的特性が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、電子線が照射された植物性材料を用いるために、熱可塑性樹脂に対して50〜95質量%と高い割合で植物性材料を含有できる。また、このように多量の植物性材料を含有しても熱可塑性樹脂組成物は流動性に優れ、特に射出成形が可能な程度に優れた流動性を発揮し、射出圧力を小さく抑えることができ、成形性に優れる。更に、この熱可塑性樹脂組成物から成形された成形体は優れた機械的特性が発揮され、とりわけ曲げ弾性率、曲げ強度及び柔軟性が併せて優れる。
植物性材料全体を100質量%とした場合に電子線が照射された植物性材料を20質量%以上含有する場合は、特に優れた流動性を示し、成形性(寸法精度など)に優れ且つ成形圧力を抑制して効率よく成形を行うことができる。また、得られる成形体は優れた機械的特性が発揮され、とりわけ曲げ弾性率、曲げ強度及び柔軟性が併せて優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、植物性材料と熱可塑性樹脂とを含有し、該植物性材料及び該熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に該植物性材料を50〜95質量%含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
植物性材料に電子線を照射する電子線照射工程と、
熱可塑性樹脂と電子線が照射された植物性材料とを混合する混合工程と、をこの順に備える。
【0010】
上記「電子線照射工程」は、植物性材料に電子線を照射する工程である。
上記「植物性材料」は、植物に由来する材料である。この植物性材料としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物性材料が挙げられる。この植物性材料は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかではケナフが好ましい。ケナフは成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するため、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献できるからである。
【0011】
また、上記植物性材料として用いる植物体の部位は特に限定されず、木質部、非木質部、葉部、茎部及び根部等の植物体を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよく2ヶ所以上の異なる部位を併用してもよい。これらのなかでは、ケナフの木質部(ケナフコア)を用いることが好ましい。
ケナフは靭皮と称される外層部分とコアと称される芯材部分とからなるが、このうち靭皮は、強靱な繊維を有するために利用価値が高いのに対して、コアはケナフ全体の60体積%程をも占めるにも関わらず廃棄又は燃料化されることが多い。コアは靭皮に比べて繊維長が短く且つ見掛け比重が小さく嵩高いために、取扱い性が悪く、樹脂との混練が難しいためである。しかし、本方法によれば、ケナフコアであっても電子線照射を行うことで、熱可塑性樹脂と容易に混合することができ、更には、優れた流動性を有する熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0012】
尚、本発明におけるケナフとは、木質茎を有する早育性の一年草であり、アオイ科に分類される植物である。学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等が含まれ、更に、通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が含まれる。
また、本発明におけるジュートとは、ジュート麻から得られる繊維である。このジュート麻には、黄麻(コウマ、Corchorus capsularis L.)、及び、綱麻(ツナソ)、シマツナソ並びにモロヘイヤ、を含む麻及びシナノキ科の植物を含むものとする。
【0013】
電子線照射される前の植物性材料の形態は特に限定されず、採取した植物の形状のまま用いてもよく、採取した植物を細分化して用いてもよい。但し、電子線を照射する前の植物性材料は過度に細分化しないことが好ましい。通常、採取した植物の形状のまま用いるか、又は細分化する場合は電子線照射装置に入る大きさにする程度に留めることが好ましい。従って、電子線を照射する前の植物性材料の大きさは特に限定されないものの、例えば、最大長さ(粒状である場合には最大粒径)は50cm以下(通常1cm以上)とすることができる。また、この電子線照射前の植物性材料の形状は特に限定されず、チップ状(板状及び薄片状等を含む)、繊維状、不定形状(粉砕物状等を含む)及び粉末状(粒状及び球状等を含む)などの形態が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
尚、本方法により得られる熱可塑性樹脂組成物では、通常、上記電子線照射前の植物性材料の形態はそのまま維持されない。電子線照射により細分化され易くなることに加えて、混合工程を経るため形態が変化され易いからである。
【0014】
上記「電子線」は、エネルギーを有する電子の流れであればよく、その発生方法等は特に限定されないものの、通常、陰極から放出された熱電子を電場により加速して得られた電子線を用いる。また、植物性材料に対する電子線の照射量は特に限定されないが、500kGy以上(通常2500kGy以下)とすることが好ましい。500kGy以上の照射量とすることで高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物を得ることができ、更に、この熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体においては優れた機械的特性(特に曲げ弾性率、曲げ強度及び柔軟性)を得ることができる。
上記照射量は600〜1800kGyとすることが好ましく、700〜1700kGyがより好ましく、800〜1600kGyが更に好ましく、900〜1500kGyがより更に好ましく、1000〜1400kGyが特に好ましく、1000〜1300kGyがより特に好ましい。これらの各々の好ましい範囲ではそれぞれにより優れた流動性及び機械的特性が得られる。
【0015】
電子線が照射された植物性材料が含有された熱可塑性樹脂組成物では、電子線が照射されていない植物性材料(以下、単に「非EBI植物性材料」ともいう)が含有された熱可塑性樹脂組成物に比べて高い流動性が得られる。このため本方法による熱可塑性樹脂組成物は、成形性に優れ、更には、生産性良く低コストで成形体を得ることができる。更に、一般に、熱可塑性樹脂のみからなる成形体に比べて、植物性材料(非EBI植物性材料)が含まれた成形体では高い曲げ特性が得られることが知られている。これは植物性材料が樹脂の機械的特性を補強するためであるが、本方法による成形体においても補強効果が得られる。特に後述するようにEBI植物性材料は、非EBI植物性材料に比べて脆くなることが確認されるが、このEBI植物性材料を用いても優れた補強効果が発揮される。加えて、非EBI植物性材料を用いる場合に比べて、EBI植物性材料を用いた成形体では顕著な柔軟性(高い撓み量など)の向上が認められる。
【0016】
このようにEBI植物性材料が含有された熱可塑性樹脂組成物の流動性は向上され、この熱可塑性樹脂組成物による成形体は優れた機械的特性(高曲げ弾性率、高曲げ強度、及び高柔軟性など)を有する。これらの効果が得られる理由は定かではないが、上述のように植物性材料は電子線の照射により脆くなる。これは植物性材料に含まれるセルロース、ヘミセルロース及びリグニン等の高分子量成分が分解(低分子量化)されたためであると考えられる。このようにEBI植物性材料が脆くなり、その結果、植物性材料を効率よくより細かく均一に細分化(粉砕)でき、非EBI植物性材料と熱可塑性樹脂とを混合する場合に比べて樹脂内により小さな粒子として分散・含有されるために高い流動性が得られるものと考えられる。更に、植物性材料のきめ細かく均一な分散・含有により、植物性材料と熱可塑性樹脂との接触面積が増し、クラック起点が非EBI植物性材料に比べて減ることで、極めて高い機械的特性が得られるものと考えられる。
【0017】
上記「混合工程」は、EBI植物性材料と熱可塑性樹脂とを撹拌機で混合する工程である。
上記「熱可塑性樹脂」は、特に限定されず種々のものを用いることができる。例えば、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリエステル樹脂{(ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル樹脂)、(ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエチレン樹脂)}、ポリスチレン、ポリアクリル樹脂(メタアクリレート、アクリレート等)、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらのなかでは、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂のうちの少なくとも一方であることが好ましい。また、上記ポリオレフィンのなかではポリプロピレンがより好ましい。
【0018】
一方、ポリエステル樹脂のなかでは、生分解性を有するポリエステル樹脂(以下、単に「生分解性樹脂」ともいう)が好ましい。生分解性樹脂としては、(1)乳酸、リンゴ酸、グルコース酸及び3−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体、並びに、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体、などのヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、(2)ポリカプロラクトン、及び、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体、などのカプロラクトン系脂肪族ポリエステル、(3)ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート及びポリブチレンアジペート、などの二塩基酸ポリエステル、等が挙げられる。
これらのなかでは、ポリ乳酸、乳酸と乳酸を除く他の上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、及び上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体が好ましく、特にポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸は一般に柔軟性が得られ難い樹脂であるが、本方法を用いることで優れた柔軟性を付与することができ、本発明によるメリットをより効果的に得ることができる。
これらの生分解性樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
尚、上記乳酸にはL−乳酸及びD−乳酸を含むものとし、これらの乳酸は単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0019】
上記「撹拌機」は、EBI植物性材料と熱可塑性樹脂とを混合する装置である。この撹拌機としては、EBI植物性材料と熱可塑性樹脂とを混合することができるものであればよく、その種類などは特に限定されない。即ち、例えば、押出機(一軸スクリュー押出機及び二軸混練押出機等)、ニーダー及びミキサー(高速流動式ミキサー、バドルミキサー、リボンミキサー等)等の各種撹拌機(混合機及び混練機などを含む)を用いることができるが、特に下記撹拌機が好ましい。
撹拌機{以下、図4(特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレット図1を引用)及び図5(特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレット図2を引用)参照}としては、国際公開04/076044号パンフレットに記載の撹拌機1が好ましい。即ち、撹拌機1は、材料供給室13と、該材料供給室13に連接された混合室3と、該材料供給室13と該混合室3とを貫通して回転自在に設けられた回転軸5と、該材料供給室13内の該回転軸5に配設され且つ該材料供給室13に供給された混合材料(EBI植物性材料及び熱可塑性樹脂)を該混合室3へ搬送するらせん状羽根12と、該混合室3内の該回転軸5に配設され且つ該混合材料を混合する混合羽根10a〜10fと、を備える撹拌機が好ましい。
【0020】
上記撹拌機を用い、EBI植物性材料及び熱可塑性樹脂を撹拌機1(材料供給室13)へ投入し、撹拌機1の混合羽根10a〜10fを回転させることで、EBI植物性材料及び熱可塑性樹脂が共に、混合室3の内壁へ向かって押し付けるように打撃し且つ押し進められ、材料同士の衝突するエネルギー(熱量)により短時間で熱可塑性樹脂が軟化又は溶融され、EBI植物性材料と混合され、更には混練される。また、得られる熱可塑性樹脂組成物には射出成形が可能な優れた流動性が発現される。
また、この撹拌機を用いることで、非EBI植物性材料に比べて上述のように脆くなったEBI植物性材料は、撹拌機内で混合時に更に細かく細分化され(粉砕され)、非EBI植物性材料を用いる場合に比べてより微細な粒子となって熱可塑性樹脂に分散・含有される。このため、得られた熱可塑性樹脂組成物は優れた流動性を示し、加えてこの組成物から得られた成形体は優れた機械的特性、とりわけ優れた柔軟性が発揮される。
【0021】
上記混合羽根10a〜10fは、上記回転軸5の円周方向の一定角度間隔の部位における軸方向において対向すると共に、回転方向において互いの対向間隔が狭まるような取付け角で該回転軸5に配設された少なくとも2枚の混合羽根(10a〜10f)によって構成され、該混合羽根10a〜10fの該回転軸5に対する取付け角は、該回転軸5に取り付けられる該混合羽根10a〜10fの根元部から半径方向外方の先端部まで同一であることが好ましく、更には、上記混合羽根10a〜10fが矩形板状をなすことが好ましい。
また、上記混合室は、該混合室を構成する壁に冷却媒体を循環させることができる混合室冷却手段を備えることがより更に好ましい。この構成により、混合室内の過度な温度上昇を抑制でき、熱可塑性樹脂の分解及び熱劣化を抑制(更には防止)できる。
【0022】
上記「混合」における各種条件は特に限定されないが、例えば、混合時の温度は特に限定されないが、混合室外壁の温度を200℃以下(より好ましくは150℃以下、更に好ましくは120℃以下)に制御することが好ましく、更には、50℃以上(より好ましくは60℃以上、更に好ましくは80℃以上)に制御することが好ましい。また、この温度は10分以内(より好ましくは5分以内)に到達させることが好ましい。短時間で高温にすることで熱可塑性樹脂の劣化をより効果的に抑制できる。更に、上記温度範囲とするのも15分以内(より好ましくは10分以内)とすることが好ましい。
【0023】
また、上記温度の制御は、撹拌機の混合羽根の回転速度を制御することによって行うことが好ましい。より具体的には、混合羽根の先端の回転速度を5〜50m/秒となるように制御することが好ましい。この範囲に制御することで、効率よく熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させつつ、EBI植物性材料をより小さく細分化でき、更には、熱可塑性樹脂と細分化されたEBI植物性材料とをより強力に(より均一に)混合することができる。
【0024】
更に、この混合における終点は特に限定されないが、上記回転軸に負荷されるトルクの変化により決定できる。即ち、上記回転軸に負荷されるトルクを測定し、そのトルクが最大値となった後に混合を停止することが好ましい。これにより、EBI植物性材料と熱可塑性樹脂とを相互に分散性よく混合できる。更に上記トルクの最大値となった後にトルクが低下し始めてから混合を停止させることがより好ましい。特に最大トルクに対して40%以上(とりわけ好ましくは50〜80%)のトルク範囲で混合を停止することが特に好ましい。これにより、EBI植物性材料と熱可塑性樹脂とを相互により分散性よく混合できると共に、混合室内部から混合物(熱可塑性樹脂組成物)を160℃以上の温度で取り出すことができ、混合室内に熱可塑性樹脂組成物が付着して残存されることをより確実に防止できる。尚、EBI植物性材料は、撹拌機へ投入する前に押し固めてペレット化して用いてもよい。
【0025】
上記混合工程で混合するEBI植物性材料と熱可塑性樹脂との量比は、得られる熱可塑性樹脂組成物内において植物性材料の割合が50〜95質量%となるものであればよい。この量比は、EBI植物性材料と熱可塑性樹脂との合計を100質量%とした場合に、EBI植物性材料は50〜90質量%が好ましく、50〜85質量%がより好ましく、50〜80質量%がより好ましい。更に、50〜75質量%(より特に好ましくは50〜70質量%、更に好ましくは55〜70質量%、とりわけ好ましくは55〜65質量%)が特に好ましい。この範囲では得られる熱可塑性樹脂組成物で優れた流動性が得られ、また、この熱可塑性樹脂組成物を用いた成形体では優れた機械的特性(特に曲げ弾性率、曲げ強度及び柔軟性)が得られる。
【0026】
また、植物性材料の割合が50〜95質量%となる熱可塑性樹脂組成物では、その植物性材料の全量がEBI植物性材料であってもよく、一部のみがEBI植物性材料であり且つ他部は非EBI植物性材料であってもよい。一部のみがEBI植物性材料である場合には、含まれる植物性材料全体を100質量%とした場合に、EBI植物性材料は少なくとも20質量%以上(より好ましくは50〜99質量%、更に好ましくは70〜95質量%、特に好ましくは80〜93質量%)であることが好ましい。20質量%以上のEBI植物性材料が含有されることで、EBI植物性材料が含まれることによる効果を十分に得ることができる。
【0027】
本方法では、更に、上記電子線照射工程及び上記混合工程以外に他の工程を備えることができる。他の工程としては、EBI植物性材料を粉砕する粉砕工程が挙げられる。この粉砕工程は電子線照射工程と混合工程との間に行うことができる。
この粉砕工程における細分化の程度は特に限定されないが、粉砕物の形状が非繊維状{長さL/直径R(円形でない場合は最大長さ)が10未満}となる場合(例えば、ケナフのコア)には、その大きさは1mm以下が好ましく、0.05〜1mmがより好ましく、0.05〜0.7mmが更に好ましく、0.07〜0.5mmがより更に好ましく、0.1〜0.4mm特に好ましく、0.1〜0.3mmとすることがより特に好ましい。一方、粉砕物の形状が繊維状{長さL/直径R(円形でない場合は最大長さ)が10以上}となる場合(例えば、ケナフの靭皮)には、その大きさは10mm以下が好ましく、0.5〜7mmがより好ましく、1.0〜5mmが更に好ましい。
【0028】
尚、植物性材料(EBI植物性材料及び非EBI植物性材料を含む)の大きさについて、その形状が非繊維状である場合はJIS Z8801に準拠する。従って、非繊維状の場合に大きさが「X〜Ymm」であるとは、目開きXmmの円孔板篩を通過せず且つ目開きYmmの円孔板篩を通過するものを意味する。一方、その形状が繊維状である場合はJIS L1015に準拠し、直接法にて無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。従って、繊維状の場合に大きさが「X〜Ymm」であるとは、上記平均値がXmm以上且つYmm以下であることを意味する。
【0029】
更に、上記粉砕工程以外の他の工程としては、混合工程により得られた混合物(その時点における熱可塑性樹脂組成物)をその後の工程で使用し易いように加工する工程を備えることができる。即ち、例えば、混合物(その時点における熱可塑性樹脂組成物)をペレット化する工程(ペレット化工程)が挙げられる。ペレット化する際には、二軸押出機等の混合物を加熱して軟化又は溶融してペレット化することもできるが、加熱することなく押し固めてペレット化することが好ましい。
【0030】
特に本方法では、混合工程の後に、混合工程で得られた熱可塑性樹脂組成物を、押し固めてペレットを得るペレット化工程を備えることが好ましい。即ち、熱可塑性樹脂組成物を加熱することなくペレットを成形する工程を備えることが好ましい。
加熱を行わずペレット化することで、本方法で得られた熱可塑性樹脂組成物に特有の高い流動性を維持でき、成形効率を向上させつつ、成形性を向上させることができる。更に、得られる成形体においては、熱履歴による劣化を抑制し、本方法で得られた熱可塑性樹脂組成物に特有の高い機械的特性を維持することができる。
【0031】
このペレット化工程は、種々の圧縮成形方法(押し固め方)を用いることができ、例えば、ローラー式成形方法及びエクストルーダ式成形方法などを用いることができる。ローラー式成形方法は、ローラー式成形機を用いる方法であり、ダイに接して回転されるローラーにより混合物(その時点での熱可塑性樹脂組成物)がダイス内に圧入された後、ダイスから押し出されて成形される。ローラー式成形機には、ダイの形状が異なるディスクダイ式(ローラーディスクダイ式成形機)とリングダイ式(ローラーリングダイ式成形機)が挙げられる。一方、エクストルーダ式成形方法は、エクストルーダ式成形機を用いる方法であり、スクリューオーガの回転により混合物(その時点での熱可塑性樹脂組成物)がダイス内に圧入された後、ダイスから押し出されて成形される。これらの圧縮成形方法のなかでは、特にローラーディスクダイ式成形方法を用いる方法が好ましい。この圧縮成形方法で用いられるローラーディスクダイ式成形機は圧縮効率が高く、本方法におけるペレット化工程に特に好適である。
【0032】
更に、本方法では下記特定のローラーディスクダイ式成形機500(図2及び主要部を図3に例示)を用いてペレット化することが特に好ましい。即ち、複数の貫通孔511が穿設されたディスクダイ51と、該ディスクダイ51上で転動されて該貫通孔511内に非圧縮物{混合物(その時点での熱可塑性樹脂組成物)}を押し込むプレスローラ52と、該プレスローラ52を駆動する主回転軸53と、を備え、上記ディスクダイ51は、上記貫通孔511と同方向に貫通された主回転軸挿通孔512を有し、上記主回転軸53は、上記主回転軸挿通孔512に挿通され且つ該主回転軸53に垂直に設けられたプレスローラ固定軸54を有し、上記プレスローラ52は、上記プレスローラ固定軸54に回転可能に軸支されて上記主回転軸53の回転に伴って上記ディスクダイ51表面で転動されるローラーディスクダイ式成形部50を有するローラーディスクダイ式成形機(ペレット化装置)500である。
このローラーディスクダイ式成形機500では、上記構成に加えて更に、上記プレスローラ52は表面に凹凸521を備えるものであることが好ましい。また、主回転軸53の回転に伴って回転される切断用ブレード55を備えることが好ましい。
【0033】
上記ローラーディスクダイ式成形機500では、例えば、図3においては、主回転軸53の上方から投入された混合物(その時点での熱可塑性樹脂組成物)をプレスローラ52が備える表面凹凸521が捉えて貫通孔511内に押し込み、ディスクダイ51の裏面側から押し出される。押し出された紐状の混合物(その時点での熱可塑性樹脂組成物)は、切断用ブレード55により適宜の長さに切断されてペレット化され、下方に落下されて回収される。
ペレット化された熱可塑性樹脂組成物の形状及び大きさは特に限定されないが、柱状(その他の形状であってもよいが、円柱状が好ましい)であることが好ましい。また、その最大長さは1mm以上(通常20mm以下)とすることが好ましく、1〜10mmがより好ましく、2〜7mmが特に好ましい。
【0034】
[2]成形体の製造方法
本発明の成形体の製造方法は、前記本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を押出成形又は射出成形して成形体を得ることを特徴とする。
即ち、本成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂組成物を押出成形又は射出成形して成形体を得る成形工程を備える。
上記熱可塑性樹脂組成物は、前述のようにEBI植物性材料を含有するために、優れた流動性を有する。このため、成形時の計量時間(射出成形機における計量時間等)、及び射出時間などを短縮できる結果、成形サイクルが短縮されて、成形効率を向上させることができる。押出成形及び射出成形における各種成形条件及び使用する装置等は特に限定されず、目的とする成形体及び性状、使用されている熱可塑性樹脂の種類等により適宜のものとすることが好ましい。
【0035】
また、本発明の成形体の製造方法では、混合して得られた熱可塑性樹脂組成物を冷却した後に破砕機等を用いてチップ化し、このチップを押出成形機又は射出成形機に投入して成形を行うことができる。また、前記混合工程後に熱可塑性樹脂組成物をペレット化するペレット化工程を備える場合には、得られたペレットを押出成形機又は射出成形機に投入して成形を行うことができる。
【0036】
本発明の製造方法により得られる成形体の形状、大きさ及び厚さ等は特に限定されない。また、その用途も特に限定されない。この成形体は、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等として用いられる。このうち自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等が挙げられる。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー及びカウリング等が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【0037】
[3]熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、植物性材料と熱可塑性樹脂とを含有し、植物性材料及び熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に植物性材料が50〜95質量%であり、且つ植物性材料の少なくとも一部は電子線が照射された植物性材料であることを特徴とする。
更に、この熱可塑性樹脂組成物は、EBI植物性材料を植物性材料全体100質量%に対して20質量%以上(より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、100質量%であってもよい)であることが好ましい。20質量%以上のEBI植物性材料が含有されることで、EBI植物性材料が含まれることによる効果を十分に得ることができる。
上記熱可塑性樹脂については、前記[1]の熱可塑性樹脂組成物の製造方法における熱可塑性樹脂組成物をそのまま適用できる。
【0038】
本組成物は、植物性材料及び熱可塑性樹脂以外にも他の成分を含有できる。他の成分としては、熱可塑性樹脂として前記ポリエステル樹脂を用いる場合のカルボジイミド化合物が挙げられる。カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
カルボジイミドの含有量は特に限定されないが、用いる前記ポリエステル樹脂(特にポリ乳酸)の全体を100質量部とした場合に0.1〜5質量部(より好ましくは0.1〜2質量部、特に好ましくは0.5〜1.0質量部)が好ましい。この範囲では、カルボジイミド化合物を用いたことによるポリエステル樹脂(生分解性樹脂)の加水分解抑制作用をより効果的に得ることができる。
その他、更に、各種帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤等も配合できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これら他の成分は、どの工程で配合してもよいが、通常、混合工程で配合する。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
[1]実施例1〜5の熱可塑性樹脂組成物の製造
植物性材料として棒状のケナフコアを用い、この棒状のケナフコアに表1の電子線照射量(1200〜1800kGy)となるように電子線照射装置(図2の40)を用いて電子線を照射した(電子線照射工程)。
その後、EBI植物性材料を破砕機(株式会社ホーライ製、形式「Z10−420」、図2の45)を用いて粒径5mm以下(JIS Z8801に準拠する目開き5mmの円孔板篩を通過したもの)に粉砕した(粉砕工程)。
次いで、EBI植物性材料と、表1に示すポリプロピレン(実施例1〜3及び5)又はポリ乳酸樹脂(実施例4)のうちのいずれかのペレットと、を表1に示す質量比で、撹拌機1(株式会社エムアンドエフ・テクノロジー製、WO2004−076044号に示された器機)の材料供給室(図4の13)に投入(植物性材料と熱可塑性樹脂とで合計700gを表1の量比で投入)した後、混合室(容量5L、図4の3)内で撹拌して混練した。この混合に際して混合羽根(図2の10及び図5の10a〜10f)は回転速度2000rpmで回転させた。そして、混合羽根にかかる負荷(トルク)が上昇し、最大値に達した時点から4秒後に撹拌を停止すると共に混合物を撹拌機1から排出した(混合工程)。
上記ポリプロピレンとして、日本ポリプロ株式会社製、品名「ノバテック BC06C」(平均粒径3.0mm、見掛け比重0.9)を用い、上記ポリ乳酸樹脂として、トヨタ自動車株式会社製、品名「U’z S−17」、(平均粒径4mm、見掛け比重1.26)を用いた。
【0040】
得られた各熱可塑性樹脂組成物を破砕機(株式会社ホーライ製、形式「Z10−420」)を用いて破砕した後、ローラーディスクダイ式成形機(図2の500){株式会社菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径(図3の511)4.2mm}に投入して、フィーダー周波数20Hzにて、ペレット化速度30kg/hで各熱可塑性樹脂組成物を直径約4mm且つ長さ約5mmの円柱状のペレットにした。その後、各ペレットをオーブンにて100℃で24時間乾燥させて、ペレット化された実施例1〜5の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0041】
[2]比較例1〜2の熱可塑性樹脂組成物の製造
電子線の照射を行わない以外は、実施例2と同様にして比較例1の熱可塑性樹脂組成物を得た。また、電子線の照射を行わない以外は、実施例4と同様にして比較例2の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0042】
[3]熱可塑性樹脂成形体の成形
上記[1]及び[2]で得られた実施例1〜5及び比較例1〜2の各熱可塑性樹脂組成物(ペレット)を射出成形機(住友重機械工業株式会社製、形式「SE100DU」)に各々投入し、シリンダー温度190℃、型温度40℃の条件で射出成形して厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmの長方形板状の試験片を得た。また、この成形を行う際の射出形成機における射出圧力(射出充填圧)を計測し、表1に併記した。
【0043】
[4]熱可塑性樹脂成形体の特性評価
上記[3]で得られた実施例1〜5及び比較例1〜2の各成形体の曲げ弾性率、曲げ強度及び最大撓み量を測定した。この測定に際しては、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmの長方形板状の上記試験片を用い、各試験片を支点間距離(L)64mmとした2つの支点(曲率半径5mm)で支持しつつ、支点間中心に配置した作用点(曲率半径5mm)から速度2mm/分にて荷重の負荷を行って、各試験片の曲げ弾性率をJIS K7171に従って測定した。その結果を表1に併記した。
更に、上記[1]及び[2]における「電子線照射量」に対する、上記「射出圧力」及び上記「最大撓み量」の相関をグラフにして図1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
[5]実施例の効果
実施例1〜5のいずれにおいても50質量%以上の植物性材料を混合することができた。特に植物性材料と熱可塑性樹脂との混合を促進するための添加剤を何ら用いることなく混合することができた。
【0046】
また、比較例1は、撹拌機を用いたために60質量%と多量の植物性材料を電子線照射することなく混合することができた。しかし、比較例1の熱可塑性樹脂組成物を用いた射出成形では射出圧力が108MPaと大きく、最大撓み量は2.5mmと小さかった。また、得られた成形体の外表面には目視によりケナフコアに由来する粒子状の植物性材料が確認された。
これに対して、EBI植物性材料を用いた実施例2(照射量1200kGy)及び実施例5(照射量1800kGy)では、射出圧力は実施例2が80MPaであり、実施例5が70MPaであり、比較例1に比べて26〜35%と顕著に低下されていることが分かる。また、得られた成形体の最大撓み量は実施例2が4.2mmであり、実施例5が3.0mmであり、比較例1に比べて17〜40%と顕著に向上されていることが分かる。また、得られた成形体の外表面には目視により植物性材料は確認されず、外観性状が滑らかであり優れていた。
【0047】
また、電子線照射量が1200kGyである実施例2と、電子線照射量が1800kGyである実施例5とを比べると、射出圧力は実施例5の方が小さく優れているものの、最大撓み量は実施例2の方が大きいことが分かる。
【0048】
更に、比較例2は、撹拌機を用いたために60質量%と多量の植物性材料を電子線照射することなく混合することができた。しかし、比較例2の熱可塑性樹脂組成物を用いた射出成形では射出圧力が185MPaと大きく、最大撓み量は2.0mmと小さかった。また、得られた成形体の外表面には目視によりケナフコアに由来する粒子状の植物性材料が確認された。
これに対して、EBI植物性材料を用いた実施例4(照射量1200kGy)では、射出圧力は108MPaであり、比較例2に比べて42%と顕著に低下されていることが分かる。また、得られた成形体の最大撓み量は2.6mmであり、比較例2に比べて30%も向上されていることが分かる。また、得られた成形体の外表面には目視により植物性材料は確認されず、外観性状が滑らかであり優れていた。
【0049】
また、図1より、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを使用した場合に比べてポリ乳酸を用いた場合の方が、射出圧力の初期低下率(グラフの傾き)及び最大撓み量の初期向上率(グラフの傾き)のいずれにも優れており、EBI植物性材料を用いたことによる効果はポリ乳酸においてより享受し易いことが分かる。
更に、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いた場合、電子線照射量を1200kGyから1800kGyまで大きくするに従って、射出圧力の低下率は小さくなる一方、最大撓み量は1200kGyの場合に比べると低下し始めることが分かる。従って、電子線照射量は射出圧力を小さくする目的においては照射量が多いことが好ましく、最大撓み量を大きくする目的においては照射量は少ない方が好ましいことが分かる。更に、これらの両者をバランスよく得るためには1800kGyよりも1200kGyの方が適していることが分かる。
【0050】
また、最大撓み量及び曲げ特性に着目すると、比較例1に比べて実施例2は、最大撓み量が2.5mmから4.2mmへと1.7倍にも向上され、曲げ弾性率は4900MPaから2800MPaへと43%小さくできている。一方、比較例2に比べて実施例4は、最大撓み量が2.0mmから2.6mmへと1.3倍にも向上されつつ、曲げ弾性率は8000MPaから6800MPaへと15%も小さくできている。即ち、いずれの例においても比較例に比べて実施例では顕著に柔軟性が向上されていることが分かる。そして、現在、汎用されているポリプロピレン樹脂のみからなる射出成形物について同様に測定した場合の曲げ強度は15MPa程度であることから、曲げ強度については汎用樹脂よりも高い値を維持できていることが分かる。
【0051】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
また、本方法では電子線を照射する工程を備えるが、この電子線に変えて他の高エネルギー線を植物性材料に照射することで本発明と同等の効果を得ることも可能である。このような高エネルギー線としては、X線、紫外線及びレーザ光等が挙げられる。しかし、本発明の効果を得る目的においては、植物性材料の特性を活かしつつ脆く加工することができる点において電子線を用いることがとりわけ好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体の製造方法は、自動車関連分野及び建築関連分野などにおいて広く利用される。特に自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等に好適であり、なかでも自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等に好適である。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー及びカウリング等が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材にも好適である。具体的には、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】植物性材料に対する電子線照射量と、成形体を得るための射出圧力及び成形体の最大撓み量と、の相関を示すグラフである。
【図2】本熱可塑性樹脂組成物の製造方法の各工程を模式的に示す説明図である。
【図3】ローラーディスクダイ式成形機の要部の一例を示す模式的な斜視図である。
【図4】撹拌機の一例を示す模式的な断面図である。
【図5】撹拌機に配設された混合羽根の一例を示す模式的な側面図である。
【符号の説明】
【0054】
1;撹拌機、3;混合室、5;回転軸、10及び10a〜10f;混合羽根、12;らせん状羽根、13;材料供給室、40;電子線照射装置、45;粉砕機、500;ローラーディスクダイ式成形機(ペレット化装置)、50;ローラーディスクダイ式成形部(ペレット化部)、51;ディスクダイ、511;貫通孔、512;主回転軸挿通孔、52;プレスローラ、521;凹凸部、53;主回転軸、54;プレスローラ固定軸、55;切断用ブレード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性材料と熱可塑性樹脂とを含有し、該植物性材料及び該熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に該植物性材料を50〜95質量%含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
植物性材料に電子線を照射する電子線照射工程と、
熱可塑性樹脂と電子線が照射された植物性材料とを混合する混合工程と、をこの順に備えることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
上記混合は、混合室及び該混合室内に配置された混合羽根を備える撹拌機を用いて行い、且つ、
該撹拌機の該混合室中で、上記電子線が照射された植物性材料と、該撹拌機の該混合羽根の回転により溶融された上記熱可塑性樹脂と、を混合する請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
上記電子線照射工程における電子線照射量は600〜1800kGyである請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
上記電子線照射工程と上記混合工程との間に、上記電子線が照射された植物性材料を粉砕する粉砕工程を備える請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
上記植物性材料は、ケナフである請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
上記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン及び/又はポリ乳酸である請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
上記混合工程の後に、該混合工程で得られた熱可塑性樹脂組成物を、押し固めてペレットを得るペレット化工程を備える請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を押出成形又は射出成形して成形体を得ることを特徴とする熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
植物性材料と熱可塑性樹脂とを含有し、該植物性材料及び該熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に該植物性材料が50〜95質量%であり、且つ該植物性材料の少なくとも一部は電子線が照射された植物性材料であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
上記電子線が照射された植物性材料は、上記植物性材料全体を100質量%とした場合に20質量%以上である請求項9に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−108142(P2009−108142A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279576(P2007−279576)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】