説明

熱可塑性重合体組成物

【課題】卓越した難燃性と機械的強度を有する熱可塑性重合体組成物の提供。
【解決手段】芳香族ビニル系熱可塑性重合体ゴム(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)からなる、動的架橋された熱可塑性重合体組成物、とりわけ(A)が芳香族ビニル系ランダム共重合体ゴムである熱可塑性重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性重合体組成物に関するものである。更に詳しくは、卓越した難燃性と機械的強度を有する熱可塑性重合体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性重合体は、成形性に優れることに加え、耐衝撃性、可とう性に優れていることから、自動車材料、電気・電子材料を始めとする多岐の材料分野で使用されているが、その易燃性のためにその用途が制限されている。
熱可塑性重合体の難燃化の方法としては、ハロゲン系、リン系、無機系の難燃剤を熱可塑性重合体に添加することが知られており、それによりある程度難燃化が達成されている。しかしながら、近年火災に対する安全性の要求がとみにクローズアップされ、更に高度な難燃化技術の開発と共に、機械的性質の低下がなく、環境上の問題のない難燃化技術開発が強く望まれている。
【0003】
熱可塑性重合体の難燃化技術として、ポリプロピレンとスチレン系熱可塑性エラストマーにポリリン酸アンモニウムと金属水和物を配合した被覆材料(特許文献1参照)が開示されている。上記被覆材料は成形性及び可とう性に優れるものの、架橋されていないために耐摩耗性または耐久性が劣る。
一方、架橋材料としては、熱可塑性樹脂に特定のハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンを配合し、電子線架橋したチューブあるいは熱収縮チューブ(特許文献2参照)、初期に対して架橋後の機械的特性が特定の値を有する難燃性電線(特許文献3参照)が開示されている。上記2つの架橋材料は耐久性に優れているものの、熱可塑性がないために成形性が劣る。
このように難燃性に優れ、かつ機械的強度を満足した難燃性重合体組成物の開発が求められている。
【特許文献1】特開平9−31267号公報
【特許文献2】特許第2765361号
【特許文献3】特開平10−168248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような現状に鑑み、上記のような問題点のない、即ち難燃性と機械的強度に優れた熱可塑性重合体組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、難燃性と機械的強度に優れた熱可塑性重合体ゴム組成物を鋭意検討した結果、特定のポリマーの組み合わせにより、驚くべきことに難燃性と機械的強度が飛躍的に向上せしめることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は以下の組成物を提供するものである。
(1)芳香族ビニル系熱可塑性重合体ゴム(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)からなる動的架橋された熱可塑性重合体組成物。
(2)(A)が芳香族ビニル系熱可塑性ランダム共重合体ゴム(A−1)である(1)に記載の熱可塑性重合体組成物。
(3)(A)が、共役ジエン系単量体単位10〜49重量%と芳香族ビニル単量体単位51〜90重量%からなるランダム結合を主体とする熱可塑性共重合体ゴムであって、オレフィン性二重結合の水素添加率が50%以上である(1)または(2)に記載の熱可塑性重合体組成物。
(4)(B)が芳香族ビニル系樹脂及び/またはポリフェニレンエーテル系樹脂である(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物。
(5)(C)が非ハロゲン難燃剤である(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物。
【0006】
(6)(C)がりん系難燃剤である(5)に記載の熱可塑性重合体組成物。
(7)更にエチレン・α−オレフィン共重合体(D)を含有する(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物。
(8)(D)がメタロセン触媒を用いて製造されているエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンを含有するエチレン・α−オレフィン共重合体である(7)に記載の熱可塑性重合体組成物。
(9)架橋剤(E)により架橋してなる(1)〜(8)のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物。
(10)芳香族ビニル系熱可塑性重合体ゴム(A)と熱可塑性樹脂(B)からなる熱可塑性重合体組成物であって、(A)が、共役ジエン系単量体単位と芳香族ビニル単量体単位とからなる、オレフィン性二重結合の水素添加率が50%以上である共重合体ゴムであり、かつ水素添加後において芳香族ビニル単量体単位ブロックとエチレン・α−オレフィン単量体単位のランダムブロックとエチレン・α−オレフィン・芳香族ビニル単量体単位のランダムブロックから形成されている芳香族ビニル系熱可塑性ランダム共重合体ゴム(A−2)であって、熱可塑性樹脂(B)がオレフィン系樹脂またはオレフィン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂であることを特徴とする熱可塑性重合体組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、難燃性と機械的強度に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に関して具体的に説明する。
本発明の組成物は、芳香族ビニル系熱可塑性重合体ゴム(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)からなる熱可塑性重合体組成物である。ここで、(A)が、熱可塑性を維持しつつ、架橋されることが重要である。上記成分が架橋されることにより、熱分解が抑制されるために難燃性に優れる。そして、(A)、(B)に対して、(C)を添加する場合には、さらに高度な難燃性が発現することを見出し、本発明を完成した。
以下に本発明の各成分について詳細に説明する。
【0009】
(A)成分
本発明における(A)成分の芳香族ビニル系熱可塑性重合体ゴムは、芳香族ビニル単量体単位を含有する熱可塑性ゴム状重合体であり、例えば共役ジエン系単量体と芳香族ビニル単量体とからなる共重合体ゴムである。また立体規則性についてはランダムでもブロックでも制限はされないが、(B)成分との相容性の観点から芳香族ビニル系ランダム共重合体ゴム(A−1)が好ましい。
そして、(A)成分の共重合体ゴムは、オレフィン性二重結合の水素添加率が50%以上であって、共役ジエン系単量体単位が10〜49重量%、好ましくは20〜49重量%、更に好ましくは25〜45重量%と、芳香族ビニル単量体単位が51〜90重量%、好ましくは51〜80重量%、更に好ましくは55〜75重量%とからなるランダム結合を主体とする共重合体が好ましい。
上記(A)成分において、必要に応じて、例えば、オレフィン系、メタクリル酸エステル系、アクリル酸エステル系、不飽和ニトリル系、塩化ビニル系単量体等の共役ジエンと共重合可能な単量体(以下、共重合可能な単量体という。)を共重合することができる。
【0010】
上記共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1、3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1、3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等を挙げることができ、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンが好ましく、1,3−ブタジエン、イソプレンが最も好ましい。
また、前記芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等を挙げることができ、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。上記芳香族単量体は一種または二種以上併用することができる。
【0011】
本発明の好ましい(A)成分において、水素添加前の共役ジエン単量体部分のビニル結合は、分子内に均一に存在していても、分子鎖に沿って増減あるいは減少してもよいし、また、ビニル結合含有量の異なった、複数個のブロックを含んでいてもよい。そして、芳香族ビニル単量体および/または共重合可能な単量体を含む場合は、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体および/または共重合可能な単量体とはランダムに結合することが好ましいが、ブロック状の芳香族ビニル単量体および/またはブロック状の共重合可能な単量体を含んでもよい。ブロック状の芳香族ビニル重合体の含有率は、全芳香族ビニル単量体中の20重量%以下が好ましく、更に好ましくは10重量%以下である。
【0012】
上記(A)成分中の全オレフィン性二重結合は、50%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上が水素添加され、そして主鎖の残存二重結合が5%以下、側鎖の残存二重結合が5%以下である。ここで、水素添加率の測定法は公知のNMR法で行い、詳細はWO01/48079号公報に記載されている。このような共重合体ゴムの具体例としては、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(スチレン−イソプレン)等のスチレン・ジエン系ゴムを部分的または完全に水素添加したゴム状重合体を挙げることができる。
このような(A)成分は、上述のスチレン・ジエン系ゴムを公知の水素添加方法で部分水素添加することにより得られる。例えば、F.l.Ramp,etal,j.Amer.Chem.Soc.,83,4672(1961)記載のトリイソブチルボラン触媒を用いて水素添加する方法、Hung Yu Chen,j.Polym.Sci.Polym.LetterEd.,15,271(1977)記載のトルエンスルフォニルヒドラジドを用いて水素添加する方法、あるいは特公昭42−8704号公報に記載の有機コバルトー有機アルミニュウム系触媒あるいは有機ニッケル−有機アルミニュウム系触媒を用いて水素添加する方法等を挙げることができる。
【0013】
ここで、特に好ましい水素添加の方法は、低温、低圧の温和な条件下で水素添加が可能な触媒を用いる特開昭59−133203号、特開昭60−220147号の各公報あるいは不活性有機溶媒中にて、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウム化合物と、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子またはセシウム原子を有する炭化水素化合物とからなる触媒の存在下に水素と接触させる特開昭62−207303号公報に示される方法である。
また、(A)成分の25℃における5重量%スチレン溶液粘度(5%SV)は、20〜300センチポイズ(cps)の範囲にあることが好ましい。特に好ましい範囲は25〜150cpsである。
【0014】
本発明にて用いられる(A)成分は、複数の種類のものを混合して用いても良い。そのような場合には、加工性のさらなる向上を図ることが可能となる。
本発明において、(A)成分の架橋レベルの向上の観点から、(A)成分中に占めるポリスチレン換算分子量が15万以下の重合体の割合が30%以下であることが好ましく、該重合体の割合を制御する方法として、分子量が15万以下の部分が30%以下になるように全体の分子量を高める方法、または分子量15万以下の部分を抽出等の操作で除去する方法、あるいは重合触媒等により選択的に分子量15万以下が生成しない重合方法等が挙げられる。
【0015】
本発明において、(B)成分が、オレフィン系樹脂またはオレフィン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂(B−1)の場合は、特に(A)成分は、共役ジエン系単量体単位と芳香族ビニル単量体単位とからなる、オレフィン性二重結合の水素添加率が50%以上である共重合体ゴムであり、かつ水素添加後に芳香族ビニル単量体単位ブロック(A−2−1)とエチレン・α−オレフィン単量体単位のランダムブロック(A−2−2)とエチレン・α−オレフィン・芳香族ビニル単量体単位のランダムブロック(A−2−3)から形成される熱可塑性重合体ゴム(A−2)であることが好ましい。ここで、(A−2−3)を主体に(A−2−2)を含有することが、オレフィン系樹脂またはオレフィン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂(B−1)との相容化のためには重要である。このような(A−2)の具体例としては、共役ジエン系単量体が1,3−ブタジエンであり、芳香族ビニル単量体がスチレンである共重合体ゴムが挙げられる。この共重合体ゴムの水素添加により、芳香族ビニル単量体単位ブロック(A−2−1)からはポリスチレンブロックが形成され、エチレン・α−オレフィン単量体単位のランダムブロック(A−2−2)からはエチレン・ブチレンランダム共重合体ブロックが形成され、そしてエチレン・α−オレフィン・芳香族ビニル単量体単位のランダムブロック(A−2−3)からはエチレン・ブチレン・スチレンランダム共重合体ブロックが形成される。
【0016】
上記水素添加前の共役ジエン単量体部分のビニル結合は、分子内に均一に存在していても、分子鎖に沿って増減あるいは減少してもよいし、また、ビニル結合含有量の異なった、複数個のブロックを含んでいてもよい。そして、芳香族ビニル単量体および/または共重合可能な単量体を含む場合は、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体および/または共重合可能な単量体とはランダムに結合することが好ましいが、ブロック状の芳香族ビニル単量体および/またはブロック状の共重合可能な単量体を含んでもよい。ブロック状の芳香族ビニル重合体の含有率は、全芳香族ビニル単量体中の20重量%以下が好ましく、更に好ましくは10重量%以下である。
【0017】
また前記(A−1)、(A−2)には、(A)で記載の水素添加方法、共重合可能な単量体、スチレンの溶液粘度、分子量等の要件が適用される。
本発明における(A)成分は芳香族ビニル系ランダム共重合体ゴム(A−1)であることが好ましいが、必要に応じて芳香族ビニル系ブロック共重合体ゴム(A−3)を含有してもよい。このような共重合体ゴムの代表例の一つとして、芳香族ビニルブロックと共役ジエンブロックを有する共重合体またはその水素添加物が挙げられ、具体的には水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体である。
このようなブロック共重合体(A−3)は、芳香族ビニル単位と共役ジエン単位からなるブロック共重合体、または上記共役ジエン単位部分が部分的に水素添加または、必要に応じて、不飽和カルボン酸基またはその無水物あるいはエポキシ基で変性されたブロック共重合体である。
【0018】
上記ブロック構造は、芳香族ビニル単位からなる重合体ブロックをSで表示し、共役ジエン及び/またはその部分的に水素添加された単位からなる重合体ブロックをBで表示する場合、SB、S(BS)n、(但し、nは1〜3の整数)、S(BSB)n 、(但し、nは1〜2の整数)のリニアーブロック共重合体や、(SB)n X(但し、nは3〜6の整数。Xは四塩化ケイ素、四塩化スズ、ポリエポキシ化合物等のカップリング剤残基。)で示され、B部分を結合中心とする星状(スタ−)ブロック共重合体であることが好ましい。なかでもSBの2型、SBSの3型、SBSBの4型のリニア−ブロック共重合体が好ましい。
【0019】
(B)成分
本発明において熱可塑性樹脂(B)は、(A)と相溶もしくは均一分散し得るものであればとくに制限はない。たとえば、芳香族ビニル系、ポリフェニレンエーテル系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリカーボネート系、ポリオキシアルキレン、ポリメタクリレート系等の単独もしくは二種以上を混合したものを使用することができる。特に熱可塑性樹脂として芳香族ビニル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン系樹脂等が好ましい。
上記芳香族ビニル系樹脂は、芳香族ビニル単量体の単独重合体、不飽和ニトリル単量体単位と芳香族ビニル単量体単位からなる重合体等の芳香族ビニル単量体が主体の共重合体であり、ゴム変性体であってもゴム非変性体であっても制限されない。具体的にはスチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル単量体を必須成分とし、必要に応じてアクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体、炭素数が1〜8のアルキル基からなるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル、あるいはアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミド等の単量体を含有した共重合体であることが好ましい。また必要に応じて、ゴム変性することも可能であり、上記重合体のマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなるゴム変性重合体が好ましい。
【0020】
このようなゴム変性重合体の例としては、HIPS樹脂(ゴム変性ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)等が挙げられる。
本発明における好ましい(B)としてのポリフェニレンエーテル系樹脂(PPEと称する)は、たとえばポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体等が好ましく、中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。またPPEの製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3,306,874号明細書記載の方法による第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば2,6キシレノールを酸化重合することにより容易に製造でき、そのほかにも米国特許第3,3061075号明細書、米国特許第3,257,357号明細書、米国特許3,257,358号明細書、及び特公昭52−17880号公報、特開昭50−51197号公報に記載された方法で容易に製造できる。本発明にて用いる上記PPEの還元粘度ηsp/C(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)は、0.20〜0.70dl/gの範囲にあることが好ましく、0.30〜0.60dl/gの範囲にあることがより好ましい。
【0021】
本発明における好ましい(B)としてのオレフィン系樹脂は、例えばエチレン系またはプロピレン系樹脂等の炭素数2〜20であるエチレン及び/またはα−オレフィンの単独もしくは二種以上を含有する共重合樹脂が挙げられ、特にプロピレン系樹脂が更に好ましい。
本発明で最も好適に使用されるプロピレン系樹脂を具体的に示すと、ホモのアイソタクチックポリプロピレン、プロピレンとエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1等の他のα−オレフィンとのアイソタクチック共重合樹脂(ブロック、ランダムを含む。)等が挙げられる。
(B)の中のオレフィン系樹脂の一つのプロピレンを主体としたα−オレフィンとのランダム共重合樹脂は、高圧法、スラリー法、気相法、塊状法、溶液法等で製造することができ、重合触媒としてZiegler−Natta触媒、シングルサイト、メタロセン触媒が好ましい。特に狭い組成分布、分子量分布が要求される場合には、メタロセン触媒を用いたランダム共重合法が好ましい。
【0022】
また、本発明にて好適に用いられるオレフィン系樹脂のメルトインデックスは、0.1〜100g/10分(230℃、2.16kg荷重(0.212Pa))の範囲のものが好ましく用いられる。熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性、機械的強度の観点から100g/10分以下であることが好ましく、また、流動性、成形加工性の観点から0.1g/10分以上が好ましい。
本発明における(A)と(B)からなるポリマー成分100重量部中の量比については、(A)は好ましくは1〜99重量部、更に好ましくは、20〜80重量部、最も好ましくは、30〜70重量部である。
【0023】
(C)成分
本発明において(C)として使用する難燃剤は、ハロゲン系、リン系、窒素系、ケイ素系、無機系、チャー形成剤、ドリップ防止剤等から選ばれる1種以上の難燃剤である。非ハロゲン系が好ましく、中でもりん系難燃剤が最も好ましい。
上記(C)としてのハロゲン系難燃剤は、ハロゲン化ビスフェノ−ル、芳香族ハロゲン化合物、ハロゲン化ポリカーボネート、ハロゲン化芳香族ビニル系重合体、ハロゲン化シアヌレート樹脂、ハロゲン化ポリフェニレンエーテル等が挙げられ、好ましくはデカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロムビスフェノールA、テトラブロムビスフェノールAのオリゴマー、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系ポリカ−ボネ−ト、ブロム化ポリスチレン、ブロム化架橋ポリスチレン、ブロム化ポリフェニレンオキサイド、ポリジブロムフェニレンオキサイド、デカブロムジフェニルオキサイドビスフェノール縮合物、含ハロゲンリン酸エステル及びフッ素系樹脂等である。
中でもドリップ防止剤としては、樹脂中にフッ素原子を含有する樹脂であるフッ素系樹脂が有効であり、その具体例として、ポリモノフルオロエチレン、ポリジフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等を挙げることができる。また、必要に応じて上記含フッ素モノマ−と共重合可能なモノマ−とを併用してもよい。
【0024】
前記(C)としてのリン系難燃剤としては、有機リン化合物、赤リン、無機系リン酸塩等が挙げられる。
上記有機リン化合物の例としては、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ビホスフィン、ホスホニウム塩、ホスフィン酸塩、リン酸エステル、亜リン酸エステル等である。より具体的には、トリフェニルフォスフェート、メチルネオベンチルフォスファイト、ヘンタエリスリトールジエチルジフォスファイト、メチルネオペンチルフォスフォネート、フェニルネオペンチルフォスフェート、ペンタエリスリトールジフェニルジフォスフェート、ジシクロペンチルハイポジフォスフェート、ジネオペンチルハイポフォスファイト、フェニルピロカテコールフォスファイト、エチルピロカテコールフォスフェート、ジピロカテコールハイポジフォスフェートである。
ここで、特に有機リン化合物として、芳香族系リン酸エステル単量体(化学式(1))、芳香族系リン酸エステル縮合体(化学式(2))が好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
(但し、Ar 、Ar、Ar 、Ar 、Ar 、Ar、Arはそれぞれ独立に、無置換または炭素数1〜10の炭化水素基で少なくとも一つ置換されたフェニル基から選ばれる芳香族基である。Arは炭素数6〜20の二価の芳香族基である。mは1以上の整数である。)
前記(C)において、リン系難燃剤の一つの赤リンは、一般の赤リンの他に、その表面をあらかじめ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンよりえらばれる金属水酸化物の被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンより選ばれる金属水酸化物及び熱硬化性樹脂よりなる被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンより選ばれる金属水酸化物の被膜の上に熱硬化性樹脂の被膜で二重に被覆処理されたものなどである。
【0028】
前記(C)において、リン系難燃剤の一つの無機系リン酸塩は、ポリリン酸アンモニウムが代表的である。
本発明における前記(C)としての窒素系難燃剤は、トリアジン骨格含有化合物、アラミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維等から選ばれる1種以上の難燃剤である。
上記トリアジン骨格含有化合物は、リン系難燃剤の難燃助剤として一層の難燃性を向上させるための成分である。その具体例としては、メラミン、メラム、メレム、メロン(600°C以上でメレム3分子から3分子の脱アンモニアによる生成物)、メラミンシアヌレ−ト、リン酸メラミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、メチルグルタログアナミン、メラミン樹脂、BTレジンを挙げることができるが、低揮発性の観点から特にメラミンシアヌレ−トが好ましい。
【0029】
窒素系難燃剤としてのアラミド繊維は、平均直径が1〜500μmで平均繊維長が0.1〜10mmであることが好ましく、イソフタルアミド、またはポリパラフェニレンテレフタルアミドをアミド系極性溶媒または硫酸に溶解し、湿式または乾式法で溶液紡糸することにより製造することができる。
窒素系難燃剤としてのポリアクリロニトリル繊維は、平均直径が1〜500μmで平均繊維長が0.1〜10mmであることが好ましく、ジメチルホルムアミド等の溶媒に重合体を溶解し、400°Cの空気流中に乾式紡糸する乾式紡糸、または硝酸等の溶媒に重合体を溶解し水中に湿式紡糸する湿式紡糸法により製造される。
【0030】
本発明における前記(C)としてのケイ素系難燃剤は、シリコ−ン樹脂、シリコ−ンオイル、ポリオルガノシリケート、シリカから選ばれる1種以上の難燃剤である。
上記シリコ−ン樹脂は、SiO 、RSiO3/2、RSiO、RSiO1/2の構造単位を組み合わせてできる三次元網状構造を有するシリコ−ン樹脂である。ここで、Rはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、あるいは、フェニル基、ベンジル基等の芳香族基、または上記置換基にビニル基を含有した置換基を示す。ここで、特にビニル基を含有したシリコ−ン樹脂が好ましい。このようなシリコ−ン樹脂は、上記の構造単位に対応するオルガノハロシランを共加水分解して重合することにより得られる。
ケイ素系難燃剤としてのシリコーンオイルまたはポリオルガノシリケートは、例えば化学式(3)で示される。
【0031】
【化3】

【0032】
(但し、p、qは0または1であり、nは1以上の整数である。R1〜R4は炭素数1〜20の炭化水素であり、特にメチル基、フェニル基、アルキル基置換フェニル基、アルケニル基から選ばれる置換基を有することが好ましい。またR1〜R4は同一でも異なっていても良い。)
前記シリコーンオイルまたポリオルガノシリケートの粘度は、600〜1000000センチストークス(25℃)が好ましく、さらに好ましくは90000〜150000センチストークス(25℃)である。
【0033】
ケイ素系難燃剤としてのシリカは、無定形の二酸化ケイ素であり、特にシリカ表面に炭化水素系化合物系のシランカップリング剤で処理した炭化水素系化合物被覆シリカが好ましく、更にはビニル基を含有した炭化水素系化合物被覆シリカが好ましい。
上記シランカップリング剤は、p−スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニル基含有シラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、及びN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランである。ここで、特に熱可塑性樹脂と構造が類似した単位を有するシランカップリング剤が好ましく、例えば、スチレン系樹脂に対しては、p−スチリルトリメトキシシランが好適である。
【0034】
シリカ表面へのシランカップリング剤の処理は、湿式法と乾式法に大別される。湿式法は、シリカをシランカップリング剤溶液中で処理し、その後乾燥させる方法であり、乾式法は、ヘンシェルミキサ−のような高速撹はん可能な機器の中にシリカを仕込み、撹はんしながらシランカップリング剤液をゆっくり滴下し、その後熱処理する方法である。
そして、前記(C)としての無機系難燃剤は、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズの水和物等の無機金属化合物の水和物、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン等の単体または、それらの複合体(合金)、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、ニッケル、銅、タングステン、スズ、アンチモン等の単体または、それらの複合体が挙げられる。これらは、1種でも2種以上を併用してもよい。この中で特に、無機金属化合物の水和物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトからなる群から選ばれたものが難燃効果が良く、経済的にも有利である。
【0035】
前記(C)としてのチャー形成剤は、燃焼時に炭化被膜を形成する化合物であれば制限されないが、例えばフェノール樹脂が代表的であり、ノボラック樹脂、レゾール樹脂または架橋フェノール樹脂であり、特にノボラック樹脂が好ましい。そして、その樹脂は、フェノ−ル類とアルデヒド類を硫酸または塩酸のような酸触媒の存在下で縮合して得られる熱可塑性樹脂である。
本発明における前記(C)の添加量は,(A)と(B)からなる樹脂成分100重量部に対して、1〜500重量部であり、好ましくは1〜300重量部、更に好ましくは、3〜200重量部、最も好ましくは、5〜100重量部である。
本発明において、必要に応じて、トリアジン骨格含有化合物、含金属化合物、シリコ−ン樹脂、シリコ−ンオイル、ポリオルガノシリケート、シリカ、アラミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維、フッ素系樹脂、フェノール樹脂から選ばれる一種以上の難燃助剤を配合することができる。
難燃助剤の量は、(A)と(B)からなるポリマー成分100重量部に対して、好ましくは0.001〜500重量部、更に好ましくは、1〜200重量部、最も好ましくは、5〜100重量部である。
【0036】
(D)成分
本発明において、架橋レベルを更に向上させる必要がある場合には、エチレン・α−オレフィン共重合体(D)を更に添加することができる。(D)は動的架橋前でも後でも添加は可能であるが、動的架橋前に添加することが好ましい。
上記(D)のエチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレンおよび炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体が更に好ましい。α−オレフィンとして、例えばプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、ドデセン−1等が挙げられる。中でもヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1が好ましく、特に好ましくは炭素数3〜12のα−オレフィンであり、とりわけプロピレン、ブテン−1、オクテン−1が最も好ましい。
また、(D)は必要に応じて、不飽和結合を有する単量体を含有することができ、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン、1,4−ヘキサジエン等の非共役ジオレフィン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン誘導体等の環状ジエン化合物、及びアセチレン類が挙げられる。とりわけエチリデンノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCP)が最も好ましい。
【0037】
また(D)は、ガラス転移温度(Tg)が−10℃以下であることが好ましい。
そして、(D)の100℃で測定したムーニー粘度(ML)(ISO 289−1985(E)準拠)は、20〜150が好ましく、更に好ましくは50〜120である。
本発明における(D)は、公知のメタロセン系触媒を用いて製造することが好ましい。
一般にはメタロセン系触媒は、チタン、ジルコニウム等のIV族金属のシクロペンタジエニル誘導体と助触媒からなり、重合触媒として高活性であるだけでなく、チーグラー系触媒と比較して、得られる重合体の分子量分布が狭く、共重合体中のコモノマーである炭素数3〜20のα−オレフィンの分布が均一である。
【0038】
本発明において用いられる(D)は、α−オレフィンの共重合比率が1〜60重量%であることが好ましく、更に好ましくは10〜50重量%、最も好ましくは20〜45重量%である。α−オレフィンの共重合比率は組成物の硬度、引張強度等の観点から60重量%以下が好ましく、一方、柔軟性、機械的強度の観点から1重量%以上が好ましい。
上記(D)の密度は、0.8〜0.9g/cmの範囲にあることが好ましい。この範囲の密度を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を用いることにより、柔軟性に優れ、ゴム特性の優れた本発明の熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
本発明にて用いられる(D)は、長鎖分岐を有していることが望ましい。長鎖分岐が存在することで、機械的強度を落とさずに、共重合されているα−オレフィンの比率(重量%)に比して、密度をより小さくすることが可能となり、低密度、低硬度、高強度のエチレン・α−オレフィン共重合体を得ることができる。長鎖分岐を有するエチレン・α−オレフィン共重合体としては、米国特許明細書第5278272号明細書等に記載されている。
【0039】
また、(D)は、室温以上に熱天秤(DSC)の融点ピークを有することが望ましい。融点ピークを有するとき、融点以下の温度範囲では形態が安定しており、取扱い性に優れ、ベタツキも少ない。
また、本発明にて用いられる(D)のメルトインデックスは、0.01〜100g/10分(230℃、2.16kg荷重(0.212Pa))の範囲のものが好ましく用いられ、更に好ましくは0.2〜10g/10分である。本発明の熱可塑性エラストマー組成物の架橋性の観点から100g/10分以下が好ましく、また、流動性、加工性の観点から0.01g/10分以上が好ましい。
(D)の量は、(A)と(B)からなるポリマー成分100重量部に対して、好ましくは0.1〜500重量部、更に好ましくは、1〜100重量部、最も好ましくは、1〜50重量部である。
本発明における(A)は、(E)架橋剤で架橋されることが好ましい。
(E)架橋剤は、(E−1)架橋開始剤を必須成分とし、必要に応じて(E−2)多官能単量体、(E−3)単官能単量体を含有する。上記(E)架橋剤は、(A)100重量部に対し0.001〜10重量部、好ましくは0.005〜3重量部の量で用いられる。上記範囲内では架橋のレベルが高まり、組成物の耐熱性とゴム特性のバランスが向上する。
【0040】
ここで、(E−1)架橋開始剤は、有機過酸化物、有機アゾ化合物等のラジカル開始剤等が挙げられ、その具体的な例として、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンおよび2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類;アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドおよびm−トリオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウリレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、およびクミルパーオキシオクテート等のパーオキシエステル類;ならびに、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイドおよび1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類を挙げることができる。
【0041】
これらの化合物の中では、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンおよび2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3が好ましい。
上記(E−1)は、(E)成分中で好ましくは1〜80重量%、更に好ましくは10〜50重量%の量が用いられる。架橋性の観点から1重量%以上が好ましく、機械的強度の観点から80重量%以下が好ましい。
本発明において、(E)架橋剤に必要に応じて含まれる(E−2)多官能単量体は、官能基としてラジカル重合性の官能基が好ましく、とりわけビニル基が好ましい。官能基の数は2以上であるが、(E−3)との組み合わせで特に3個以上の官能基を有する場合には有効である。具体例としては、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ダイアセトンジアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジイソプロペニルベンゼン、P−キノンジオキシム、P,P’−ジベンゾイルキノンジオキシム、フェニルマレイミド、アリルメタクリレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、1,2−ポリブタジエン等が好ましく用いられる。特にトリアリルイソシアヌレートが好ましい。これらの多官能単量体は複数のものを併用して用いてもよい。
【0042】
上記(E−2)は、(E)成分中で好ましくは1〜80重量%、更に好ましくは10〜50重量%の量が用いられる。架橋性の観点から1重量%以上が好ましく、機械的強度の観点から80重量%以下が好ましい。
本発明において用いられる前記(E−3)は、架橋反応速度を制御するために加えるビニル系単量体であり、ラジカル重合性のビニル系単量体が好ましく、芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体、アクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エステル単量体等のエステル系単量体、アクリル酸単量体、メタクリル酸単量体等の不飽和カルボン酸単量体、無水マレイン酸単量体等の不飽和カルボン酸無水物、N−置換マレイミド単量体等を挙げることができる。
【0043】
上記(E−3)は、(E)成分中で好ましくは1〜80重量%、更に好ましくは10〜50重量%の量が用いられる。架橋性の観点から1重量%以上が好ましく、機械的強度の観点から80重量%が好ましい。
本発明において、最も好ましい(E)架橋剤の組み合わせについては、架橋開始剤として、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名パーヘキサ25B)または日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3と、多官能単量体として、日本化成(株)製、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)及びジビニルベンゼンとの組み合わせが、優れた機械的強度を発現させる。
【0044】
また、本発明において、その特徴を損ねない程度にその他の無機フィラー、可塑剤、有機・無機顔料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、帯電防止剤、抗菌剤を含有することが可能である。
本発明の組成物の製造には、通常の樹脂組成物、エラストマー組成物の製造に用いられるバンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、2軸押出機等の一般的な方法を採用することが可能である。とりわけ効率的に動的架橋を達成するためには2軸押出機が好ましく用いられる。2軸押出機は、(A)、(B)または(A)、(B)、(C)、あるいは(A)、(B)、(C)、(D)を均一かつ微細に分散させ、さらに他の成分を添加させて、架橋反応を生じせしめ、本発明の組成物を連続的に製造するのに、より適している。
【0045】
本発明の熱可塑性重合体ゴム組成物は、(A)、(B)、(C)、(D)を同一押出機でまず前段で製造後、(E)を添加して架橋してもよいし、複数の押出機を用いて各成分を製造し溶融混合してもよい。
本発明の組成物の製造法については、たとえば次のような加工工程を経由して製造することができる。すなわち、(A)、(B)、(C)、(D)とをよく混合し、溶融混練することが好ましい。(E)を、(A)〜(D)とともに当初から添加してもよいし、押出機の途中から添加してもよいし、当初と途中とに分けて添加してもよい。(A)と(B)の一部を押出機の途中から添加してもよい。具体的には、芳香族ビニル系ランダム共重合体ゴム(a)、ポリスチレン(b−1)、ポリフェニレンエーテル(b−2)、リン酸エステル(c)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(d)からなる組成物を動的架橋法により架橋せしめた組成物の製造法として、(a)、(b−1)、(b−2)、(d)を押出機の前段で溶融混練した後に、サードフィーダーで途中から(c)をフィードして溶融混練後ペレット化を行う。次いで、上記ペレットと(e)架橋剤を混合後、押出機で動的架橋を行いペレットを得る方法が挙げられる。その際に上記二段階工程を一段階で製造しても良い。
【0046】
また特に好ましい溶融押出法としては、原料添加部を基点としてダイ方向に長さLを有し、かつL/Dが5から100(但しDはバレル直径)である二軸押出機を用いる場合である。二軸押出機は、その先端部からの距離を異にするメインフィ−ド部とサイドフィ−ド部の複数箇所の供給用部を有し、複数の上記供給用部の間及び上記先端部と上記先端部から近い距離の供給用部との間にニ−ディング部分を有し、上記ニ−ディング部分の長さが、それぞれ3D〜10Dであることが好ましい。
また本発明において用いられる製造装置の一つの二軸押出機は、二軸同方向回転押出機でも、二軸異方向回転押出機でもよい。また、スクリュ−の噛み合わせについては、非噛み合わせ型、部分噛み合わせ型、完全噛み合わせ型があり、いずれの型でもよい。低いせん断力をかけて低温で均一な樹脂を得る場合には、異方向回転・部分噛み合わせ型スクリュ−が好ましい。さらに大きい混練を要する場合には、同方向回転・完全噛み合わせ型スクリュ−が好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、これら実施例および比較例において、各種物性の評価に用いた試験法は以下の通りである。
1.難燃性
東洋精機製作所製 コーンカロリーメータIII を用い、ASTM−E1354に基づいた方法により発熱速度(kW/m)を測定する。測定条件としては、照射熱量(Radiant Heat Flux)50kW/m)、試料設置 水平方向、試料表面積 0.006mとする。
2.ゴム特性(回復角度)
2mm厚さのシートを23℃の室内で180度折り曲げ、その状態で水平面に置き、1kgの分銅を10秒間載せた後に取り除き、形状が十分に回復してから水平面と折り曲げシートとの角度を測定し、回復角度とする。回復角度が小さいほど回復性が高く、高いゴム特性を示す。
上記シートを指で押さえた時のクッション感をゴム特性の指標とし、以下の基準で評価を行なう。
◎ 極めて良好
○ 良好
△ 良好であるが、少しクッション性に劣る
× クッション感はない
【0048】
3.引張破断強度[MPa]
2mm厚さのシートから、JIS K6251に準じ、23℃にて評価する。 実施例、比較例で用いる各成分は以下のものを用いる。
(イ)芳香族ビニル系熱可塑性重合体ゴム(A)
1)芳香族ビニル系ランダム共重合体
WO01/48079号公報等に記載の公知の方法に基づき、スチレン・ブタジエンランダム共重合体を水素添加することにより製造する。水素添加率は99%であり、数平均分子量は10万である。その際に異なったスチレン/ブタジエンの組成比を有する前駆体を用いる。
2)芳香族ビニル系ブロック共重合体
WO01/48079号公報等に記載の公知の方法に基づき、スチレン・ブタジエンブロック共重合体を水素添加することにより製造する。水素添加率は99%であり、数平均分子量は10万である。その際に異なったスチレン/ブタジエンの組成比を有する前駆体を用いる。
【0049】
(ロ)熱可塑性樹脂(B)
1)ポリスチレン
ゴム非変性ポリスチレン(PSと称する) MFR:0.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)
2)ポリフェニレンエーテル
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(PPEと称する)還元粘度ηsp/C(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)は、0.50dl/g
3)ポリプロピレン
アイソタクチックホモポリプロピレン(PPと称する) MFR:0.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)
【0050】
(ハ)難燃剤(C)
1)ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールAエーテル(FR1)
第一工業製薬(株)製のハロゲン系難燃剤(FR1と称する)
2)芳香族リン酸エステル縮合体:ビスフェノールA ビス(ジフェニルホスフェート)(FR2)
市販の、ビスフェノールA由来の芳香族縮合リン酸エステル{大八化学工業(株)製、商品名 CR741(FR2と称する)}
3)水酸化マグネシウム(FR3)
協和化学工業(株)製(FR3と称する)
4)赤リン(FR4)
燐化学工業(株)製(FR4と称する)
【0051】
(ニ)エチレン・α−オレフィン共重合体(D)
1)エチレンとオクテン−1との共重合体(TPE−1)
特開平3−163088号公報に記載のメタロセン触媒を用いた方法により製造した。共重合体のエチレン/オクテン−1の組成比は、72/28(重量比)であり、ムーニー粘度は100である。(TPE−1と称する)
2)エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン(ENB)共重合体(TPE−2)
特開平3ー163088号公報に記載のメタロセン触媒を用いた方法により製造する。共重合体のエチレン/プロピレン/ENBの組成比は、72/24/4(重量比)であり、ムーニー粘度は100である。(TPE−2と称する)
3)エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン(ENB)共重合体(TPE−3)通常のチーグラー触媒を用いた方法により製造する。共重合体のエチレン/プロピレン/ENBの組成比は、72/24/4(重量比)であり、ムーニー粘度は105である。(TPE−3と称する)
【0052】
(ホ)架橋剤(E)
1)架橋開始剤(E−1)
2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(POXと称する)
2)多官能単量体(E−2)
トリアリルイソシアヌレート(TAICと称する)
【0053】
[実施例1〜16および比較例1〜2]
2軸押出機を用いて、表1、2に記載の組成物を200℃で溶融押出し最終組成物を製造する。
このようにして得られた組成物をTダイ押出機を用いて、2mm厚のシート成形品を作製し、各種評価を行なう。その結果を表1、2に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の組成物は、自動車用部品、自動車用内装材、エアバッグカバー等の自動車材料、機械部品、電気部品、ケーブル、ホース、ベルト、玩具、雑貨、日用品、建材、シート、フィルム等を始めとする用途に幅広く使用可能である。成形材料としては発泡成形材料、カレンダー成形材料、パウダースラッシュ成形材料、複層成形材料、インサート成形材料、共押出成形材料、射出成形材料、ブロー成形材料、押出シート成形材料、異型押出成形材料、繊維補強成形材料に有用である。具体的には、壁紙、封止材料、エッジ材料、防水シート、管状材料、電線被覆材料、滑り止め材料、緩衝材料、水泳用品、床被覆材料であり、産業界に果たす役割は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル系熱可塑性重合体ゴム(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)からなる動的架橋された熱可塑性重合体組成物。
【請求項2】
(A)が芳香族ビニル系熱可塑性ランダム共重合体ゴム(A−1)である請求項1に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項3】
(A)が、共役ジエン系単量体単位10〜49重量%と芳香族ビニル単量体単位51〜90重量%からなるランダム結合を主体とする熱可塑性共重合体ゴムであって、オレフィン性二重結合の水素添加率が50%以上である請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項4】
(B)が芳香族ビニル系樹脂及び/またはポリフェニレンエーテル系樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項5】
(C)が非ハロゲン難燃剤である請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項6】
(C)がりん系難燃剤である請求項5に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項7】
更にエチレン・α−オレフィン共重合体(D)を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項8】
(D)がメタロセン触媒を用いて製造されているエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンを含有するエチレン・α−オレフィン共重合体である請求項7に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項9】
架橋剤(E)により架橋してなる請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項10】
芳香族ビニル系熱可塑性重合体ゴム(A)と熱可塑性樹脂(B)からなる熱可塑性重合体組成物であって、(A)が、共役ジエン系単量体単位と芳香族ビニル単量体単位とからなる、オレフィン性二重結合の水素添加率が50%以上である共重合体ゴムであり、かつ水素添加後において芳香族ビニル単量体単位ブロックとエチレン・α−オレフィン単量体単位のランダムブロックとエチレン・α−オレフィン・芳香族ビニル単量体単位のランダムブロックから形成されている芳香族ビニル系熱可塑性ランダム共重合体ゴム(A−2)であって、熱可塑性樹脂(B)がオレフィン系樹脂またはオレフィン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂であることを特徴とする熱可塑性重合体組成物。

【公開番号】特開2009−67969(P2009−67969A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240928(P2007−240928)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】