説明

熱圧着装置及び熱圧着方法

【課題】合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを隙間なく良好な状態で密着させる技術を提供する。
【解決手段】熱圧着装置10は、金属シート53上にて合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2とを重ね合わせて形成した圧着対象物20を、上チェスブロック32と下チェスブロック52と、の間に挟持して加熱、加圧して溶着する装置である。下チェスブロック52は、圧着対象物20に接触して加熱、加圧するため当該熱圧着対象物20より高剛性の弾性材料で形成された金属シート53と、金属シート33より下型ダイセット50側に配置され金属シート53より低弾性率の材料で形成された弾性材54と、弾性材54より下型ダイセット50側に配置された押圧プレート55と、押圧プレート55に下型ダイセット50からの加圧力を伝達する複数の弾性支持体56と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂プレートの表面に合成樹脂フィルムを熱圧着する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂プレートの表面に合成樹脂フィルムを貼着する方法としては、従来、接着方式や熱圧着方式が知られている。接着方式は接着剤や溶剤を用いて合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを張り合わせるものであり、熱圧着方式は合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを重ね合わせた状態で金型の間に挟み、熱と圧力とを加えることによって両者を熱溶着させるものである。
【0003】
接着方式は合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとの密着性は良好であるが、表面に溝部や凹部などを有する合成樹脂プレートに合成樹脂フィルムを貼り付ける場合、接着剤や溶剤によって溝部や凹部などが閉塞されたり、変形したりすることがある。このため、表面に溝部や凹部などを有する合成樹脂プレートに合成樹脂フィルムを貼り付ける技術分野においては、熱圧着方式が多用されている。
【0004】
一方、薄型の非接触ICカードの製造工程中のプレス作業において、過大圧力の印加による電子部品の破損などを防止することにより、歩留まり率を高める技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−348155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱圧着方式において、表面に溝部、凹部あるいは孔部を有する合成樹脂プレートの当該表面に合成樹脂フィルムを熱圧着する場合、合成樹脂プレートの反りや変形などの原因により、合成樹脂フィルムと重ね合わせた状態にある合成樹脂プレートに対し、圧力が均等かつ充分に加わらず、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとが完全に密着しないことがある。特に、合成樹脂プレート及び合成樹脂フィルムの周縁における密着不良が問題となっている。
【0007】
また、熱圧着過程において、合成樹脂プレート自体の変形に起因して、受熱状態や受圧状態にバラつきが生じ、合成樹脂プレートに形成されている溝部の一部が変形し、溝部本来の機能が失われることがある。
【0008】
表面に溝部、凹部あるいは孔部を有する合成樹脂プレートの当該表面に合成樹脂フィルムを熱圧着する場合における前記変形は、特許文献1記載の技術を採用することにより、ある程度の変形には対応可能であるが、前述した溝部、凹部あるいは孔部を有する合成樹脂プレートの場合、射出成形によって形成された合成樹脂プレートの変形量が助長され、対応が困難となっていた。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを隙間なく良好な状態で密着させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱圧着装置は、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを重ね合わせた圧着対象物を上金型と下金型との間に挟持して加熱、加圧して溶着する熱圧着装置において、前記上金型若しくは前記下金型の少なくとも一方に、前記圧着対象物に接触して加熱、加圧するため当該熱圧着対象物より高剛性の弾性材料で形成された第1シート材と、前記第1シート材より金型側に配置され前記第1シート材より低弾性率の材料で形成された第2シート材と、前記第2シート材より前記金型側に配置された押圧部材と、前記押圧部材に金型の加圧力を伝達する複数の弾性支持体と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすれば、加圧時、押圧部材を介し、金型の加圧力を第1シート材及び第2シート材に伝えることが可能となり、第1シート材が、合成樹脂プレートの反りや表面の凹凸に沿って倣うような状態に変形すると共に、前記押圧部材も同方向に倣うこととなり、その間の第2シート材が互いの変形量の差を吸収する。また、弾性支持体は、押圧部材の変形量に応じて、型締め方向に受圧する。このようにして、金型の加圧力が万遍なく圧着対象物に加わる結果、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを隙間なく良好な状態で密着させることができる。
【0012】
前記第1シート材、前記第2シート材、前記押圧部材及び複数の前記弾性支持体が、前記上金型若しくは前記下金型の少なくとも一方に対して着脱可能であることが望ましい。
【0013】
このような構成とすれば、圧着対象物のサイズや形状などが変更された場合に、前述した第1シート材、第2シート材などを交換することによって対応可能となるため、汎用性が高まる。
【0014】
ここで、前記押圧部材を、前記加圧力方向と平行な境界面で区画され、それぞれ複数の前記弾性支持体で支持された複数のプレート片で形成することが望ましい。
【0015】
このような構成とすれば、加圧時、押圧部材を構成する複数のプレート片がそれぞれ独立した状態で金型の加圧力を第1シート材及び第2シート材に伝えることが可能となる。つまり、第1シート材が、合成樹脂プレートの反りや表面の凹凸に沿って倣うような状態に変形すると共に、押圧部材を構成する複数のプレート片が、加圧力方向と平行な方向に独立して変位した状態で、金型の加圧力を圧着対象物の部位に応じて伝達することができるので、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを隙間なく良好な状態で密着させることができる。
【0016】
また、複数の前記弾性支持体のうちの少なくとも一つが個別に前記上金型若しくは前記下金型に対して着脱可能であることが望ましい。
【0017】
このような構成とすれば、前記上金型若しくは前記下金型が、圧着対象物において必要とする位置に必要な加圧を行うことができる状態となるので、合成樹脂プレートの反りなどへの追従性が向上し、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとの密着性向上に有効である。
【0018】
さらに、前記弾性支持体の金型側に当該弾性支持体の押圧力方向の長さの調整手段を設けることが望ましい。
【0019】
このような構成とすれば、金型から伝わる押圧プレートに対する押圧力を弾性支持体ごとに調整(設定)することが可能となるため、合成樹脂プレートの反りなどへの追従性がさらに向上し、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとの密着性向上に有効である。
【0020】
一方、前記上金型と前記下金型との間に配置された前記合成樹脂プレート及び前記合成樹脂フィルムを囲む領域を真空化する減圧手段を設けることもできる。
【0021】
このような構成とすれば、前記圧着対象物(合成樹脂プレート及び合成樹脂フィルム)を熱圧着する工程において、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとの間に残存する気体を排除することができるので、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとの密着性をさらに向上させることができる。
【0022】
次に、本発明の熱圧着方法は、前述した熱圧着装置を用いて、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを重ね合わせた圧着対象物を上金型と下金型との間に挟持して加熱、加圧して溶着する熱圧着方法であって、熱圧着後、前記上金型と前記下金型との間から脱型した成型体を、当該成型体より熱伝導率の高い材料で形成された冷却部材で挟持する冷却工程を設けたことを特徴とする。
【0023】
このような構成とすれば、熱圧着工程を終えて金型から脱型した後の高温の成型体(熱圧着が完了した圧着対象物)が不均一に冷却されることに起因して、反ったり、変形したりすることを防止することができる。
【0024】
また、前記上金型と前記下金型との間に挟持する前の前記合成樹脂プレートを当該合成樹脂プレートの軟化温度未満の温度まで加熱する予熱工程を設けることが望ましい。
【0025】
このような構成とすれば、熱圧着工程における急速な加熱に起因する前記合成樹脂プレートの反りや変形を防止することができ、熱圧着時間の短縮化を図ることもできる。
【0026】
一方、前記上金型と前記下金型との間に配置された前記合成樹脂プレート及び前記合成樹脂フィルムとを囲む領域を真空雰囲気とし、その後、前記合成樹脂プレートと前記合成樹脂フィルムとを熱圧着することもできる。
【0027】
このような構成とすれば、熱圧着工程が開始される前に、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとの間に残存する気体を排除することができるので、成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとの密着性をさらに向上させることができる。
【0028】
前記合成樹脂プレートと前記合成樹脂フィルムとを重ね合わせたとき、前記合成樹脂フィルムの周縁部を前記合成樹脂プレートの周縁部より内側に配置することが望ましい。
【0029】
このような構成とすれば、前記熱圧着工程において、合成樹脂プレートの周縁部が面方向に拡がり、その厚みが減少することに起因して生じる合成樹脂フィルムの密着不良を防止することができるため、特に合成樹脂プレート周縁部における密着性の向上に有効である。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを隙間なく良好な状態で密着させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態である熱圧着装置を示す一部切欠正面図である。
【図2】図1のA−A線における一部省略断面図である。
【図3】図2のB−B線における一部省略断面図である。
【図4】下チェスブロックの構成を示す分解斜視図である。
【図5】図1に示す熱圧着装置を用いた熱圧着工程を示す図である。
【図6】図1に示す熱圧着装置上下が型締め状態にあるときの断面図である。
【図7】(a)は加圧前の樹脂プレート及び樹脂プレートの状態を示す一部省略断面図であり、(b)は加圧後の合成樹脂プレート及び合成樹脂プレートの状態を示す一部省略断面図である。
【図8】図5に示す熱圧着工程の後に使用する冷却装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。図1〜図4に示すように、本実施形態の熱圧着装置10においては、上金型としての上型ダイセット30の下面に上モールドベース31を介して上チェスブロック32が取り付けられ、下金型としての下型ダイセット50の上面に下モールドベース51を介して下チェスブロック52が取り付けられている。熱圧着装置10は、下プラテン12の上昇動作、下降動作に伴い、合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2とを重ね合わせた圧着対象物20を、上チェスブロック32と、下チェスブロック52と、の間に挟持して加熱、加圧して溶着する装置である。上型ダイセット30は上プラテン11の下面に取り付けられ、下型ダイセット50は下プラテン12の上面に取り付けられている。
【0033】
図2,図3に示すように、上チェスブロック32は、圧着対象物20に接触して加熱、加圧するため当該熱圧着対象物20より高剛性の弾性材料で形成された第1シート材(金属シート33)と、金属シート33より上型ダイセット30側に配置され金属シート33より低弾性率の材料で形成された第2シート材(弾性材34)と、弾性材34より上型ダイセット30側寄りで上モールドベース31に密着した状態で配置された上スライドブロック35と、を備え、金属シート33下面の左右側縁に沿って、一対の帯板状の上サイドカバー36が取り付けられている。上モールドベース31、上スライドブロック35、弾性材34及び金属シート33の正面、背面には、それぞれ上フロントプレート37、上バックプレート38が付設されている。
【0034】
ここで、上モールドベース31と上バックプレート38は、図示しない連結手段により上型ダイセット30に固定される固定部としている。上フロントプレート37、上スライドブロック35、弾性材34、金属シート33、上サイドカバー36からなる上チェスブロック32は、上モールドベース31と上スライドブロック35を摺動自在に係合させることにより、図2中に記載された矢線X方向にスライドさせて容易に脱着可能となっている。そして、図2に示す上チェスブロック32を成形時の位置にセットし、上フロントプレート37と上モールドベース31とを図示しない連結手段で固定することによって、上チェスブロック32が成形時の位置に固定される。
【0035】
図1に示すように、上型ダイセット30、上モールドベース31及び上チェスブロック32の周囲を包囲する筒状の真空枠39が上プラテン11の下面に垂下状に固定され、真空枠39の下端部外周には、真空枠39に対して摺動昇降可能な短筒状の可動枠39aが取り付けられている。可動枠39aの内周面と摺動する真空枠39の外周面にOリング39bが取り付けられ、可動枠39aの下縁にOリング39cが取り付けられ、図示しない駆動機構によって、可動枠39aは上下動可能に構成されている。
【0036】
また、後述する熱圧着工程において、真空枠39及び可動枠39aの内部(金属シート53上にセットされた圧着対象物20を囲む領域)の空気を吸引して真空化するため、可動枠39aには複数の真空ポート39dが開設されている。従って、下プラテン12が上昇したとき、真空枠39及び可動枠39aは上型ダイセット30、上モールドベース31及び上チェスブロック32の周囲を気密状に包囲した状態となる。なお、図2、図3及び図6においては、説明の便宜上、図1に示す真空枠19,39及び可動枠39aを省略して図示している。
【0037】
図2〜図4に示すように、下チェスブロック52は、圧着対象物20に接触して加熱、加圧するため当該熱圧着対象物20より高剛性の弾性材料で形成された第1シート材(金属シート53)と、金属シート33より下型ダイセット50側に配置され金属シート53より低弾性率の材料で形成された第2シート材(弾性材54)と、弾性材54より下型ダイセット50側に配置された押圧部材(押圧プレート55)と、押圧プレート55に下型ダイセット50からの加圧力を伝達する複数の弾性支持体56と、を備えている。金属シート53上面のコーナ部寄りの部分には複数の位置決めピン53pが立設され、金属シート53の左右側縁に沿って、一対の帯板状の下サイドカバー57が取り付けられている。
【0038】
押圧プレート55は、上型ダイセット30からの加圧力方向と平行な境界面55bで区画された複数のプレート片55aで形成され、それぞれのプレート片55aが複数の弾性支持体56によって支持されている。押圧プレート55の下側に配置された下スライドブロック58には前記加圧力方向と平行をなす複数の貫通孔58aが貫設され、略円筒状をなす複数の弾性支持体56がそれぞれ貫通孔58a内に摺動可能に挿通されている。
【0039】
下スライドブロック58の下面には、押圧プレート55側に凹んだ凹状部58b(図4参照)が形成され、この凹状部58b内に支持プレート59が密着状態で嵌め込まれ、図示しない連結手段により下スライドブロック58に固定されている。支持プレート59は、押圧プレート55と同様、前記加圧力方向と平行な境界面59bで区画された複数のプレート片59cで形成され、それぞれのプレート片59cの上面に、下スライドブロック58に貫設された複数の貫通孔58aと同じ位相で複数の調整ポスト59aが突設されている。複数の調整ポスト59aはいずれも略四角柱状をなしているが、この形状に限定するものではない。
【0040】
図2,図3に示すように、下スライドブロック58及び支持プレート59を下モールドベース51上に取り付けたとき、複数の調整ポスト59aは、それぞれ、下スライドブロック58下面の貫通孔58aの開口端からその中へ進入した状態となる。これにより、貫通孔58a内に挿通された弾性支持体56の下端部は、調整ポスト59aの突出長さ分だけ押し上げられ、各弾性支持体56の上端部は、下スライドブロック58の上面58cから突出した状態で押圧プレート55の下面55cに当接する。この結果、下スライドブロック58の上面58cと、押圧プレート55の下面55cと、の間には僅かな隙間Sが形成される。
【0041】
また、図2に示すように、金属シート材53、弾性材54、押圧プレート55、下スライドブロック58、支持プレート59及び下モールドベース51の正面、背面には、それぞれ下フロントプレート60、下バックプレート61が付設されている。上金型と同様に、下モールドベース51と下バックプレート61は、下型ダイセット50に図示しない連結手段により固定される固定部としている。下サイドカバー57から支持プレート59まで積層された構成部品、及び下フロントプレート60は、下モールドベース51と下スライドブロック58を摺動自在に係合させることにより、図2に記載の矢線X方向にスライドさせて容易に脱着可能となっている。そして、図2に示す下チェスブロック52を成形時の位置にセットし、下フロントプレート60と下モールドベース51とを、図示しない連結手段で固定することによって、下チェスブロック52が成形時の位置に固定される。
【0042】
さらに、図1に示すように、下型ダイセット50、下モールドベース51及び下チェスブロック52の周囲を包囲する筒状の真空枠19が下プラテン12の上面に起立状に固定されている。上プラテン11下面に固定された真空枠39の可動枠39aの下縁部39eにあるOリング39cと、下プラテン12上面に固定された真空枠19の上縁部19aと、は対向配置されており、後述する下プラテン12の上昇動作、下降動作に伴って、真空枠19の上縁部19aが可動枠39の下縁部39eのOリング39cに接触(密着)、離隔する。
【0043】
次に、図1,図2及び図5〜図8に基づいて、熱圧着装置10を用いた熱圧着方法について説明する。図1,図2に示す熱圧着装置10は、下プラテン12の上昇動作、下降動作に伴い下チェスブロック52が上チェスブロック32に接近、離隔する機能を有し、下プラテン12が上昇したとき、下チェスブロック52の金属シート53と、上チェスブロック32の金属シート33と、の間に圧着対象物20(金属シート53上にて合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2とを重ね合わせることによって形成されたもの)を挟持し、加熱、加圧して溶着する。
【0044】
図5に示すように、所定の射出成型装置70を用いた射出成型工程によって形成された合成樹脂プレートPを予熱装置71上に載置して所定温度(例えば、室温より高く、合成樹脂のガラス転移温度や軟化温度より低い温度)まで予熱する(予熱工程)。この後、図示しない別工程にて形成された合成樹脂フィルムF1,F2と、予熱が完了した合成樹脂プレートPと、を、図1,図2に示すように開状態(下降位置)にある下チェスブロック52(図1参照)の金属シート53上において交互に重ね合わせ、合成樹脂プレートPの上下面を樹脂フィルムF1,F2で挟んだ構造を有する圧着対象物20を形成する。
【0045】
このとき、圧着対象物20の所定箇所に開設された複数の位置決め孔(図示せず)に、金属シート53に突設された複数の位置決めピン53pを挿通させることによって圧着対象物20を正しい位置にセットする。この段階において、上チェスブロック32及び下チェスブロック52は所定温度(合成樹脂プレートP及び樹脂フィルムF1,F2の軟化温度程度)に昇温した状態となっている。
【0046】
前述したように、予熱装置71を用いた予熱工程を設けることにより、後述する熱圧着工程における急速加熱に起因する合成樹脂プレートPの反りや変形を防止するとともに、熱圧着時間の短縮化を図ることができる。なお、予熱装置71による予熱工程を省略して、室温状態の合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2とを金属シート53上で重ね合わせて圧着対象物20を形成して熱圧着作業を開始することも可能である。
【0047】
金属シート53上にて圧着対象物20が形成された後、下プラテン12の上昇動作に伴って下チェスブロック52が上昇すると、図1に示す真空枠19の上縁部19aが可動枠39の下縁部39eのOリング39cに接触(密着)して真空枠19,39同士が接合され、圧着対象物20を囲む領域が気密化されるとともに、可動枠39aの真空ポート39dからの吸気が開始され、圧着対象物20を囲む領域が真空化される。
【0048】
真空枠19の上縁部19aが可動枠39の下縁部39eのOリング39cに接触した後、下チェスブロック52はさらに上昇し、下チェスブロック52の金属シート53上の圧着対象物20の上面が、上チェスブロック32の金属シート33下面に接触し、図6に示すように、金属シート33,53の間に圧着対象物20が挟持された状態となる。
【0049】
この後、合成樹脂プレートP及び樹脂フィルムF1,F2の軟化温度程度まで昇温した状態にある上チェスブロック32及び下チェスブロック52から金属シート33,53を介して圧着対象物20が加圧、加熱される。なお、可動枠39aの真空ポート39dからの吸気は、圧着対象物20を囲む領域が所定の真空度に達した時点で自動停止され、真空度が悪化すると自動再開されるので、圧着対象物20を囲む領域を所定の真空度に保つことができる。
【0050】
このような加圧、加熱状態を所定時間保持すると、圧着対象物20を構成する合成樹脂プレートPと樹脂フィルムF1,F2とが互いに熱溶着して一体化された成型体100が形成される(熱圧着工程)。
【0051】
前述した熱圧着工程において、上型ダイセット30及び下型ダイセット50によって発生する加圧力は、下チェスブロック52に設けられた押圧部材(押圧プレート55)を介して、第1シート材(金属シート53)及び第2シート材(弾性材54)に伝えられる。このとき、第1シート材(金属シート53)が、合成樹脂プレートPの反りや表面の凹凸に沿って比較的なだらかに倣うような状態に変形すると共に、押圧部材(押圧プレート55)も同方向に倣うこととなり、その間にある第2シート材(弾性材54)が互いの変形量の差を吸収する。また、押圧部材(押圧プレート55)の下面に接している複数の弾性支持体56は、押圧部材(押圧プレート55)を介して、型締め方向に一定の加圧力を伝達する。
【0052】
これにより、上型ダイセット30及び下型ダイセット50の加圧力が万遍なく圧着対象物20に加わるので、合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2とを隙間なく良好な状態で密着させることができる。第1シート材としては、アルミニウムあるいはステンレスなどの金属シート53が好適であるが、比較的硬度の高い合成樹脂材料で形成した第1シート材を使用することもできる。また、第2シート材としては、シリコンやウレタンなどの弾性材54が好適であるが、第1シート材より低弾性率の材料で形成されたものであれば、これらに限定するものではない。
【0053】
また、図4に示すように、押圧部材(押圧プレート55)は、前記加圧力方向と平行な境界面55bで区画され、それぞれ複数の弾性支持体56で支持された複数のプレート片55aで形成されているため、加圧時、複数のプレート片55aがそれぞれ独立した状態で金型の加圧力を第1シート材(金属シート材53)及び第2シート材(弾性材54)に伝えることができる。つまり、金属シート材53が、合成樹脂プレートPの反りや表面の凹凸に沿って倣うような状態に変形すると共に、押圧プレート55を構成する複数のプレート片55aが、加圧力方向と平行な方向に独立して変位した状態で、金型の加圧力を圧着対象物20の部位に応じて伝達することができるので、合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2とを隙間なく良好な状態で密着させることができる。
【0054】
また、それぞれの弾性支持体56が、下型ダイセット50に取り付けられた下チェスブロック52を構成する下スライドブロック58の貫通孔58aに着脱可能に取り付けられていることにより、下金型は、圧着対象物20において必要とする位置に必要な加圧を行うことができる状態となるので、合成樹脂プレートPの反りなどへの追従性が向上し、合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2との密着性向上に有効である。
【0055】
さらに、図1,図3,図4に示すように、弾性支持体56の金型側(下型ダイセット50側)に、当該弾性支持体56の押圧力方向の長さの調整手段として、複数の調整ポスト59cを有する支持プレート59を配置している。このような構成とすれば、個々の調整ポスト59cの突出長さを変更することにより、下型ダイセット50から押圧プレート55に伝わる押圧力を弾性支持体56ごとに調整(設定)することが可能となるため、合成樹脂プレートPの反りなどへの追従性がさらに向上し、合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2との密着性向上に有効である。
【0056】
つまり、弾性支持体56の長さや調整ポスト59aの突出長さは、合成樹脂プレートPの変形度合いや変形状況に応じて変更することができる。また、弾性支持体56の材料は合成樹脂材、金属材などの弾性変形可能なものが好適であり、必要に応じて、弾性支持体56の材料を変更することにより弾性係数を変えることもできる。本実施形態の弾性支持体56は円筒形状であるが、円柱形状あるいはその他の形状とすることもできる。
【0057】
一方、図1に示すように、上金型側に取り付けられた上チェスブロック32と、下金型側に取り付けられた下チェスブロック52と、の間に挟持された圧着対象物20を囲む領域を真空化する減圧手段として、真空枠19,39及び真空ポート39d付きの可動枠39aなどを設けている。
【0058】
従って、圧着対象物20の熱圧着工程において、真空ポート39dを通して吸気することにより、合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2との間に残存する気体を排除することができるので、合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2との密着性をさらに向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態においては、金属シート53上で合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2とを重ね合わせて圧着対象物20を形成したとき、図7(a)に示すように、合成樹脂フィルムF1,F2の周縁部F1e,F2eを合成樹脂プレートPの周縁部Peより内側に配置している。
【0060】
これにより、圧着対象物20の熱圧着工程中、図7(b)に示すように、圧着対象物20の周縁部において合成樹脂プレートPが面方向に拡がり、その厚みが減少することに起因する密着不良を防止することができるため、合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2とを隙間なく良好な状態で密着させることができる。
【0061】
前述した熱圧着工程において、合成樹脂プレートPと合成樹脂フィルムF1,F2とが熱溶着して成型体100が形成されると、真空ポート39dを経由して大気が導入され、真空枠19,39内の真空状態が解除された後、下プラテン12が下降し、下チェスブロック52が上チェスブロック32から離隔し、成型体100が脱型可能となる。脱型後の成型体100は、室温雰囲気で放冷しても良いが、図8に示すように、冷却機能を有する上金型72と下金型73との間に挟持して冷却することが望ましい(冷却工程)。
【0062】
図8に示すように、上金型72及び下金型73は成型体100(合成樹脂プレート及び合成樹脂フィルムF1,F2)よりも熱伝導率の高い材料で形成され、それぞれの内部に、温調機74において所定温度に調整された冷却媒体を通す冷却管75,76が配管されている。
【0063】
このような冷却工程を設ければ、熱圧着工程を経て金型から脱型した後、高温状態にある成型体100が不均一に冷却されることによって、反ったり、変形したりすることを防止することができる。
【0064】
なお、圧着対象物20を構成する合成樹脂プレートP及び合成樹脂フィルムF1,F2の材質については限定しないが、例えば、合成樹脂プレートPの素材として、ポリエチレン、ポリスチレンなどの一般合成樹脂材料あるいはポリカーボネイト、ポリエーテルアミドなどのエンジニアリングプラスチックス系合成樹脂などを使用することができ、合成樹脂フィルムF1,F2としては、前述した材料あるいはPTFE、PVDFなどのフッ素系合成樹脂材料を使用することができる。
【0065】
また、本実施形態では、成型体100(圧着対象物20)は、合成樹脂プレートPの上下面に合成樹脂フィルムF1,F2を熱圧着して形成されているが、これに限定しないので、合成樹脂プレートPの片面(上面若しくは下面)に合成樹脂フィルムF1,F2のいずれか一方のみを熱圧着することもできる。
【0066】
本実施形態では、押圧プレート55、弾性支持体56、貫通孔58aを有する下スライドブロック58及び調整ポスト59a付きの支持プレート59を下チェスブロック52のみに設けているが、これらの部材を、上チェスブロック32及び下チェスブロック52の両方に設けた構造あるいは上チェスブロック32のみに設けた構造とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る熱圧着装置及び熱圧着方法は、電気・電子機器製造業あるいは分析機材製造業の分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 熱圧着装置
11 上プラテン
12 下プラテン
19,39 真空枠
19a 上縁部
20 圧着対象物
30 上型ダイセット
31 上モールドベース
32 上チェスブロック
33,53 金属シート
34,54 弾性材
35 上スライドブロック
36,57 サイドカバー
37 上フロントプレート
38 上バックプレート
39a 可動枠
39b,39c Oリング
39d 真空ポート
39e 下縁部
50 下型ダイセット
51 下モールドベース
52 下チェスブロック
53p 位置決めピン
55 押圧プレート
55a,59c プレート片
55b,59b 境界面
56 弾性支持体
58 下スライドブロック
58a 貫通孔
58b 凹状部
59 支持プレート
59a 調整ポスト
60 上フロントプレート
61 下バックプレート
70 射出成型装置
71 予熱装置
72 上金型
73 下金型
74 温調機
75,76 冷却管
100 成型体
F1,F2 合成樹脂フィルム
P 合成樹脂プレート
F1e,F2e,Pe 周縁部
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを重ね合わせた圧着対象物を上金型と下金型との間に挟持して加熱、加圧して溶着する熱圧着装置において、前記上金型若しくは前記下金型の少なくとも一方に、前記圧着対象物に接触して加熱、加圧するため当該熱圧着対象物より高剛性の弾性材料で形成された第1シート材と、前記第1シート材より金型側に配置され前記第1シート材より低弾性率の材料で形成された第2シート材と、前記第2シート材より前記金型側に配置された押圧部材と、前記押圧部材に金型の加圧力を伝達する複数の弾性支持体と、を備えたことを特徴とする熱圧着装置。
【請求項2】
前記第1シート材、前記第2シート材、前記押圧部材及び複数の前記弾性支持体が、前記上金型若しくは前記下金型の少なくとも一方に対して着脱可能である請求項1記載の熱圧着装置。
【請求項3】
前記押圧部材を、前記加圧力方向と平行な境界面で区画され、それぞれ複数の前記弾性支持体で支持された複数のプレート片で形成した請求項1または2記載の熱圧着装置。
【請求項4】
複数の前記弾性支持体のうちの少なくとも一つが個別に前記上金型若しくは前記下金型に対して着脱可能である請求項1〜3のいずれかに記載の熱圧着装置。
【請求項5】
前記弾性支持体の金型側に当該弾性支持体の押圧力方向の長さの調整手段を設けた請求項1〜4のいずれかに記載の熱圧着装置。
【請求項6】
前記上金型と前記下金型との間に配置された前記合成樹脂プレート及び前記合成樹脂フィルムを囲む領域を真空化する減圧手段を設けた請求項1〜5のいずれかに記載の熱圧着装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱圧着装置を用いて、合成樹脂プレートと合成樹脂フィルムとを重ね合わせた圧着対象物を上金型と下金型との間に挟持して加熱、加圧して溶着する熱圧着方法であって、熱圧着後、前記上金型と前記下金型との間から脱型した前記圧着対象物を、当該圧着対象物より熱伝導率の高い材料で形成された冷却部材で挟持する冷却工程を設けたことを特徴とする熱圧着方法。
【請求項8】
前記上金型と前記下金型との間に挟持する前の前記合成樹脂プレートを当該合成樹脂プレートの軟化温度未満の温度まで加熱する予熱工程を設けた請求項7記載の熱圧着方法。
【請求項9】
前記上金型と前記下金型との間に配置された前記合成樹脂プレート及び前記合成樹脂フィルムとを囲む領域を真空雰囲気とし、その後、前記合成樹脂プレートと前記合成樹脂フィルムとを熱圧着する請求項7または8記載の熱圧着方法。
【請求項10】
前記合成樹脂プレートと前記合成樹脂フィルムとを重ね合わせたとき、前記合成樹脂フィルムの周縁部を前記合成樹脂プレートの周縁部より内側に配置する請求項7〜9のいずれかに記載の熱圧着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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