説明

熱変色性印刷物

【課題】 従来の熱変色像を備えた印刷物のような装飾効果や視覚効果を発現できると共に、印刷時に版の目詰まり等を生じることなく階調的な像をより繊細且つ効率的に形成できる熱変色性印刷物を提供する。
【解決手段】 基材2上に可逆熱変色性インキによる印刷像を備えた熱変色性印刷物1であって、前記印刷像が、ベタ印刷により形成された可逆熱変色層3上に、網点印刷により形成された非熱変色層A4が設けられる形態である。前記可逆熱変色層3及び/又は非熱変色層A4上に、非熱変色層A4と色調の異なる非熱変色性インキからなる加飾層5が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱変色性印刷物に関する。詳細には、温度変化による色変わりや像変化を生じる視覚効果の高い熱変色性印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度変化によって像の色調が変わる印刷物が広く普及しており、そのなかで、平面的な印刷でありながら階調性を付与することで熱変色像に立体的な視覚効果を生じさせた印刷物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
前記印刷物では、平均粒子径5〜6μmの熱変色性顔料を用いた熱変色性インキによるスクリーン印刷で、階調的に濃い部分と階調的に淡い部分で熱変色層を形成することで、像全体が色調の濃淡を備えた立体感のある熱変色像を構成するものである。
しかしながら、熱変色性顔料を用いた網点印刷で階調的な像を表現する場合、顔料の平均粒子径が大きく粗大粒子を含有しているため、版の目詰まりを生じ易く、微細なドットを形成することが困難である。そのため色調変化は発現できるものの、階調度の粗い像となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−81275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の熱変色像を備えた印刷物のような装飾効果や視覚効果を発現できると共に、印刷時に版の目詰まり等を生じることなく階調的な像をより繊細且つ効率的に形成できる熱変色性印刷物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基材上に可逆熱変色性インキによる印刷像を備えた熱変色性印刷物であって、前記印刷像が、ベタ印刷により形成された可逆熱変色層上に、網点印刷により形成された非熱変色層Aが設けられる形態である熱変色性印刷物を要件とする。
更に、前記可逆熱変色層上の非熱変色層Aの占有面積比率が、3%〜50%の範囲にあること、前記非熱変色層Aを構成するドットの平均外径が、0.01mm〜1mmの範囲にあること、前記非熱変色層Aの厚みが0.1μm〜20μmの範囲にあること、前記非熱変色層Aが白色であることを要件とする。
更に、前記可逆熱変色層及び/又は非熱変色層A上に、非熱変色層Aと色調の異なる非熱変色性インキからなる加飾層が形成されること、前記印刷像が可逆熱変色層、非熱変色層A、加飾層の順に印刷することで形成されること、前記非熱変色層A及び/又は非熱変色層Bが可逆熱変色層の設けられていない基材上に形成されることを要件とする。
更に、基材上に可逆熱変色性インキによる印刷像を備えた熱変色性印刷物であって、前記印刷像が、ベタ印刷により形成された可逆熱変色層上に、光透過率が異なる二種以上の光透過性非熱変色層Bが並設されてなることを要件とし、前記光透過性非熱変色層Bの光透過率が10〜80%の範囲にあることを要件とする。
更には、前記可逆熱変色層を構成する可逆熱変色性インキが、平均粒子径0.3μm〜10μmのマイクロカプセル顔料を含有すること、前記可逆熱変色層の変色温度が25℃以上40℃以下であること、前記印刷物が便箋であることを要件とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、従来から適用される熱変色像による装飾効果や視覚効果を発現できると共に、印刷時に版の目詰まりや階調部分のつぶれ等を生じることがなく、より繊細で鮮明な階調性を有する像を効率的に形成することが可能な熱変色性印刷物となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に用いられる可逆熱変色性組成物の色濃度−温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
【図2】本発明の熱変色性印刷物の一実施例の説明図である。
【図3】図2の熱変色性印刷物の要部断面説明図である。
【図4】本発明の熱変色性印刷物の他の実施例の要部断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の熱変色性印刷物には、紙類等の基材の表面や裏面の少なくとも一部にベタ印刷による可逆熱変色層が設けられ、該可逆熱変色層上に網点印刷による非熱変色層(A)や光透過性を有する非熱変色層(B)を配設することで、階調性(階調表現)を有する変色像が形成されるものである。
【0009】
前記基材としては、汎用の印刷が可能である紙類が好適に用いられ、便箋、レポート用紙、手帳等の筆記紙や、名刺、カタログやパンフレット、カレンダー等の形態で構成される。尚、前記基材の材質として紙類以外に、樹脂シート、布帛、木材、金属薄板等を適用することもできる。この場合、印刷面にコート層等を形成して印刷像の定着性を向上させることが好ましい。
【0010】
前記可逆熱変色層は、可逆熱変色性材料を含むインキをベタ印刷することで形成でき、印刷像の色変わりを発現するものである。
前記可逆熱変色層を構成する変色材料は、可逆熱変色性、不可逆熱変色性のいずれの性質であっても適用できるが、繰り返しの使用が可能な可逆熱変色性を有する材料が好適である。
前記可逆熱変色性材料としては、特に、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体の必須三成分を少なくとも含む加熱により消色する可逆熱変色性組成物を汎用のカプセル化を用いてマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル顔料が有効である。
前記可逆熱変色性組成物としては、汎用の材料を適宜用いることができるが、具体的には、特公昭51−35414号公報、特公昭51−44706号公報、特開平7−186540号公報に記載されている可逆熱変色性組成物が挙げられる。
また、本出願人が提案した特公平1−29398号公報に記載された如き、温度変化による色濃度−温度曲線に関し、3℃以下のヒステリシス幅をもつ、高感度の可逆熱変色性組成物が挙げられる。
更に、本出願人が提案した特公平4−17154号公報に記載されている、大きなヒステリシス特性を示して変色する感温変色性色彩記憶性組成物も有効である。
また、加熱発色型の組成物として、消色状態からの加熱により発色する、本出願人の提案による、電子受容性化合物として、炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を適用した系(特開平11−129623号公報、特開平11−5973号公報)、或いは特定のヒドロキシ安息香酸エステルを適用した系(特開2001−105732号公報)を挙げることができる。更には、没食子酸エステル等を適用した系(特開2003−253149号公報)等を応用できる。
前記マイクロカプセル顔料の粒子径は特に限定されることなく適用できるが、平均粒子径が0.3μm〜10μmの範囲、好ましくは0.5〜5μmの範囲にあるものが好適であり、更に、可逆熱変色性組成物:マイクロカプセル壁膜=7:1〜1:1(質量比)、好ましくは6:1〜1:1の範囲を満たすものがより好適である。この範囲のものは色濃度、変色の鋭敏性、圧力や熱に対する持久性等の面でより高い性能を発現する。
【0011】
前記可逆熱変色性組成物(加熱消色型)を内包したマイクロカプセル顔料の色濃度−温度曲線におけるヒステリシス特性を図1のグラフによって説明する。
図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する温度t(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは消色を開始する温度t(以下、消色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは発色を開始する温度t(以下、発色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する温度t(以下、完全発色温度と称す)における濃度を示す点である。
変色温度領域は前記tとt間の温度域であり、加熱又は冷却に応じて発色状態と消色状態の両相が共存でき、色濃度の差の大きい領域であるtとt間の温度域が実質変色温度域(二相保持温度域)である。
また、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さ〔即ちt−t:t=(t+t)/2、t=(t+t)/2〕がヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が小さいと変色前後の両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しえない。また、前記ΔH値が大きいと変色前後の各状態の保持が容易となる。
【0012】
前記可逆熱変色層は体温によって変色することが好ましい。この場合、熱変色層部分に触れることで印刷像を容易に変色させることができるため、加熱用の道具を用いることなく、装飾効果と視覚効果を高めることが可能となる。尚、具体的な変色温度としては、25℃以上40℃以下、好ましくは、28℃以上38℃以下に設定される。
【0013】
また、指や摩擦体を用いた摩擦熱や、熱源を用いて変色させるタイプの印刷物を作成することも可能である。この場合、可逆熱変色層の変色温度を41℃以上80℃以下、好ましくは45℃以上70℃以下に設定され、常温で変色し難い構成とすることができる。
前記構成では、摩擦熱を発する道具や、熱源となる道具に関連する付属品として印刷物を用いる際に有用なものとなる。
【0014】
前記可逆熱変色層は、可逆熱変色性インキを調製し、紙面等の基材上にスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷、転写等の印刷手段により形成できる他、可逆熱変色層を形成したラベルを基材に貼着することでも形成できる。
また、前記可逆熱変色層の下層に非変色性インキによる着色層をベタ状又は図柄模様等の形態で形成し、可逆熱変色層の着色状態での色調や消色時の様相変化等を付与することで、より装飾効果を高めることもできる。
【0015】
前記ベタ状の可逆熱変色層上の少なくとも一部分には、網点印刷により形成された非熱変色層Aまたは光透過性を有する非熱変色層Bが形成され、これらの非熱変色層の効果で、繊細な階調性を有する熱変色像が構成される。
前記網点印刷により形成される非熱変色層Aは、汎用の染料や顔料を用いた印刷インキにより構成される。前記インキの色調は像の様式によって適宜選択できるが、可逆熱変色層の色調変化がより鮮明に視認できることから白色が好適である。尚、前記白色は酸化チタンや汎用の半透明フィラーによって調色される。
また、より繊細な階調的印刷像を形成するために、前記非熱変色層Aを構成するドットの平均外径を0.01mm〜1mmの範囲とすることが好ましく、0.01mm未満では印刷像(非熱変色層A)が均一化してしまい階調表現が視覚し難くなり、1mmを超えると階調表現が粗くなり繊細且つ精密な像形成が困難なものとなる。
更に、可逆熱変色層上の非熱変色層Aの占有面積比率を3%〜50%の範囲にすることが好ましく、更には、前記非熱変色層Aの厚みを0.1μm〜20μmの範囲にすることが好ましい。これらの範囲では、ドットが潰れることなく、下層の可逆熱変色層の色調変化を明瞭に視認できるものとなる。
【0016】
前記光透過性を有する非熱変色層Bは、光透過率が異なるものを二種以上並設することによって繊細な階調的印刷像を形成することができる。光透過率が異なるものを二種以上並べて印刷することで、可逆熱変色層自体の色調を含めた三段階以上の階調を得ることができ、複雑な階調像を構成することが可能となる。
前記光透過率が異なる非熱変色層Bは、いずれも光透過率が10〜80%の範囲となることが好ましい。前記範囲とすることで、下層の可逆変色層の色調変化に伴って、非熱変色層Bが積層される箇所での段階的な濃淡や色調の変化が確実に視認されるため、より視覚効果の高い像が形成できる。尚、前記光透過率は非熱変色層Bを透過率100%の透明PETフィルム上に形成し、分光光度計(日立分光光度計:U3210)を用いて400〜700nmの透光率を測定したものを平均した値である。
前記光透過性を有する非熱変色層Bは公知の材料を用いた印刷インキにより形成されるものであり、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、微粒子酸化ケイ素等の半透明フィラーを用いることで非熱変色層に半透明性を付与できる。その際、光透過率は、前記フィラーの種類や配合量、更に着色剤の色調や配合量等によって調整される。また、酸化チタンや他の顔料の少量配合によっても形成できる。
【0017】
また、より繊細な階調的印刷像を形成するために、前記非熱変色層Bを網点印刷によって構成することができる。この場合、光透過性の差による階調と共に、網点のドット量の差によっても階調性を付与できるため、印刷像により繊細な濃淡を形成でき、精密な像を描くことが可能となる。また、下層の可逆熱変色層の色変化もより鮮明に視覚できるものとなる。
この場合も前記ドットの平均外径を0.01mm〜1mmの範囲とすることが好ましく、0.01mm未満では印刷像(非熱変色層B)が均一化してしまいドットによる階調表現が視覚し難くなり、1mmを超えると階調表現が粗くなり繊細且つ精密な像形成が困難なものとなる。
尚、前記非熱変色層Aや非熱変色層Bは可逆熱変色層の設けられていない基材上に形成することもでき、これにより像全体を水彩画のようなぼかした構成とすることも可能である。
【0018】
更に、前記可逆熱変色層や非熱変色層A,B上には、各非熱変色層と色調の異なる非熱変色性インキからなる加飾層を形成することができる。前記加飾層は、階調性が付与された像に対して輪郭や加飾を施すために用いられ、変色像をより鮮明且つ色彩豊かなものとすることが可能となる。尚、前記加飾層は、紙類等の基材上に直接形成してもよく、印刷像をより複雑な構成とすることも可能となる。
【0019】
尚、前記非変色層や加飾層に用いられる非変色性インキには、汎用の染料、顔料、光輝性顔料等の着色剤を用いたインキや塗料等の形態としたものが適用される。前記光輝性顔料としては、天然雲母、合成雲母、ガラス片、アルミナ等の表面に、チタン、ジルコニウム、クロム、バナジウム、鉄等の金属酸化物によるコーティングを施した金属光沢顔料や、コレステリック液晶型光輝性顔料等が用いられる。
【0020】
前記非変色性インキによる各層は、基材に可逆熱変色層を印刷した後に、非熱変色層A,B、加飾層の順に印刷することで熱変色性印刷像が形成される。前記印刷方法としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷、転写等による直接印刷が適用される他、透明基材に印刷を施したシール形態のものを可逆熱変色層や基材に貼着することでも形成できる。
【0021】
更に、前記印刷物には、可逆光変色層や可逆水変色層を併設することができる。この場合、屋外や窓際等の紫外線照射下での変色や、液体付着による像変化が発現できるため、より意外性が高く、装飾効果の高いものとなる。尚、各変色層の上層や下層には非変色性インキによる加飾層を設けることができる。
前記可逆光変色層は、紫外線の照射により可逆的に変色するフォトクロミック化合物を層中に含むものであり、汎用のフォトクロミック化合物を適用できる。
前記フォトクロミック化合物としては、スピロピラン系化合物、フルギド系化合物、ジヒドロピレン系化合物、インジゴ系化合物、アジリジン、多環芳香族系化合物、アゾベンゼン系化合物、サリチリデンアニリン系化合物、キサンテン系化合物、スピロオキサジン系化合物、ジアリールエテン系化合物、ナフトピラン系化合物、ナフトオキサジン系化合物等が例示できる。尚、前記フォトクロミック化合物をマイクロカプセルに内包して使用することも可能である。
【0022】
可逆水変色層としては、低屈折率顔料をバインダー樹脂に分散状態に固着させた、非吸水状態で不透明であり、吸水状態で透明化する多孔質層が好適に用いられる。
前記低屈折率顔料としては、微粒子状珪酸、バライト粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、沈降性炭酸カルシウム、石膏、クレー、タルク、アルミナホワイト、塩基性炭酸マグネシウム等の一種又は二種以上を併用して用いることができ、これらの顔料は屈折率が1.4〜1.7の範囲にあり、水等を吸液すると良好な透明性を示すものである。前記低屈折率顔料の粒径は特に限定されるものではないが、0.03〜10.0μmのものが好適に用いられる。また、前記低屈折率顔料のうち、好適には微粒子状珪酸が用いられる。
前記低屈折率顔料は、バインダー樹脂を結合剤として含むビヒクル中に分散させて分散インキとなし、印刷、塗布、吹き付け等の手段により多孔質層(可逆水変色層)を形成する。
前記バインダー樹脂としては、ウレタン系樹脂、ナイロン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、アクリルポリオール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合樹脂、ブタジエン樹脂、クロロプレン樹脂、メラミン樹脂、及び前記各樹脂エマルジョン、カゼイン、澱粉、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、尿素樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0023】
更に、前記多孔質層と共に、撥水性樹脂層を併用することもできる。前記撥水性樹脂層は、撥水性樹脂を含む撥水処理液を多孔質層上に適宜形状の像を形成するよう付着させ、浸透乾燥して得られるので、多孔質層の一部に内在し、共存状態に配設されるので、前記撥水性樹脂層の共存箇所の多孔質層は、撥水効果により吸水状態が形成されず、不透明状態が保持される。従って、常態(非吸水状態)では、判別し難い撥水性樹脂層と多孔質層が、撥水性樹脂層が配設されていない部分の多孔質層への吸水により判別可能となる。
前記撥水性樹脂としては、シリコーン系、パラフィン系、ポリエチレン系、アルキルエチレン尿素系、フッ素系等の撥水性樹脂から選ばれ適用される。
また、前記多孔質層や撥水性樹脂層を形成する際に、汎用の染料、顔料、光輝性顔料等を添加することもできる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、実施例中の部は質量部である。また、平均粒子径はレーザー式粒度分布測定機(堀場製作所製:LA300)によって測定した値である。
【0025】
実施例1(図2、3参照)
縦方向に罫線21が印刷された縦長長方形状白色上質紙を基材2とし、該基材2の右下及び左上箇所に可逆熱変色性インキを用いたスクリーン印刷を施すことで6個の花型のベタ状可逆熱変色層3(厚さ10μm:青紫色からピンク色に変化)を形成した。尚、可逆熱変色性インキは、(イ)成分として3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド1部、(ロ)成分として2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸ステアリル45部、ラウリン酸ステアリル5部からなる可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T:27℃、T:30℃、T:30℃、T:33℃、ΔH:3.0℃、平均粒子径6.0μm、青色から無色に色変化する)と、ピンク色顔料を含む青紫色可逆熱変色性スクリーン印刷インキである。
【0026】
次に、前記各花型のベタ状可逆熱変色層3の上に、外側から内側に向かって徐々にドット数が少なくなり、中心部に円形の密集部を有するスクリーン版を用いて、白色印刷インキを網点印刷することで白色非熱変色層A4を形成した。前記非熱変色層A4は、外径0.1mm〜0.5mm(平均外径0.3mm)のドットから構成されており、非熱変色層Aの占有面積が可逆熱変色層の表面積の約10%であった。
【0027】
更に、前記可逆熱変色層3の外縁(輪郭)、可逆熱変色層3内、白色非熱変色層A4内、基材2に、黒、黄、緑、赤の四色を用いて網点及びベタ状のスクリーン印刷により、輪郭線や色づけを施すことで加飾部5とし、三層(3,4,5)による階調性の高いガーベラの可逆熱変色像を形成することで、便箋形態の熱変色性印刷物1を得た。
得られた熱変色性印刷物1は、常温(変化前)では6つの青紫色の花(加飾部5による輪郭を備えた可逆熱変色層3と白色非熱変色層A4による階調部分)と黄色のつぼみと緑色及び黄緑色の葉茎が視認されるが、各花を体温で33℃以上に加温する(変化後)と可逆熱変色層3が青紫色からピンク色に色変化するため、ピンク色の花が視認される。その際、可逆熱変色層3が暗色から明色となるため、白色非熱変色層A4が積層された部分が灰色からパステル調に視認され、装飾性の高い像となった。また、常温で放置すると可逆熱変色層3が青紫色に復色するため、花がもとの青紫色に戻る。尚、前記様相変化は繰り返し発現できるものであった。
前記便箋形態の熱変色性印刷物1を用いた手紙は、受け取った相手が手にとって読むことで像が変色するため、驚きを与えることができる、視覚効果及び話題性の高いものとなった。
【0028】
実施例2
前記実施例1で作製した熱変色性印刷物1の右上箇所に、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物〔1−(2−フェニル−5−メチル−4−チアゾイル)−2−(3−メチル−2−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン〕を含む印刷インキ(常態では無色であり、紫外線照射により橙色に発色する)を用いて太陽の像を印刷した後、乾燥させることでフォトクロミック層(可逆光変色層)を設け、次いで、黒色及び白色のスクリーン印刷用インキを用いて前記フォトクロミック層とその輪郭部分に網点印刷することで、階調性を付与する白色非熱変色層と輪郭や内部線となる加飾部を形成した。
前記熱変色性印刷物1は温度変化によって実施例1と同様の色変化及び効果を示すものであり、更に、フォトクロミック層は常態では基材2の白色に加飾部の輪郭と内部線からなる太陽の像が視認されるものであった。前記基材2の表面に紫外線が当たると太陽の像が橙色に着色されるものであり、暗所に放置すると再び消色するものであった。この様相変化は繰り返し行なうことができた。そのため、手紙を受け取った相手が窓際等に便箋を近づけて太陽光を当てることで、フォトクロミック層が色変化を発現して橙色の太陽像が浮かび上がった。
この状態で机上等に放置すると、室内の日当たりに応じて、明所では着色状態を維持し、暗所ではもとの白色(透明)に戻った。この様相変化は繰り返し行なうことができた。
そのため、温度変化と紫外線量によって常態では視認できない所望の像を現出できる便箋となり、視覚効果及び意外性のより高いものとなった。
【0029】
実施例3(図4参照)
縦方向に罫線21が印刷された縦長長方形状白色上質紙を基材2とし、該基材2の右下及び左上箇所に可逆熱変色性インキを用いたスクリーン印刷を施すことで3個の花型と4個のつぼみ型のベタ状可逆熱変色層3(厚さ15μm:青紫色からピンク色に変化)を形成した。尚、前記可逆熱変色性インキは、加温により青紫色から無色に色変化する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T:27℃、T:30℃、T:30℃、T:33℃、ΔH:3.0℃、平均粒子径:8.0μm)とピンク色染料を含む可逆熱変色性インキをスクリーン印刷することにより形成される。
【0030】
次に、前記各花型のベタ状可逆熱変色層3の上に、外側から内側に向かって光透過率が大きくなるように三種類の光透過性非変色層B6〔光透過率25%(61)、50%(62)、70%(63)〕を順に印刷することで、中心に向かって可逆熱変色層3の色調が鮮明に視認されるような階調性を備えた印刷像を得た。
前記光透過性非変色層B(61,62,63)に用いられるインキは、半透明フィラー(具体的には炭酸カルシウム又は炭酸マグネシウム)を含むものであり、配合量に応じて透過率が調整されている。
【0031】
更に、前記可逆熱変色層3の外縁(輪郭)、可逆熱変色層3内、各非熱変色層B6内、基材2に、黒、黄、緑、赤の四色を用いて網点及びベタ状のスクリーン印刷により、輪郭線や色づけを施すことで加飾部5とし、階調性が高い鮮明なバラの可逆熱変色像を形成して便箋形態の熱変色性印刷物1を得た。
得られた熱変色性印刷物1は、常温(変化前)では青紫色の3つの花と4つのつぼみ(加飾部5による輪郭を備えた可逆熱変色層3と三種類の光透過性非変色層Bによる階調部分)と緑色及び黄緑色の葉茎が視認されるが、各花とつぼみを体温で33℃以上に加温する(変化後)と可逆熱変色層3が青紫色からピンク色に色変化するため、ピンク色の花とつぼみが視認される。その際、可逆熱変色層3が明色となるため、非熱変色層B6が積層された部分が暗色から明色パステル調に視認され、装飾性の高い像となった。また、常温で放置すると可逆熱変色層3が青紫色に復色するため、花とつぼみがもとの青紫色に戻る。尚、前記様相変化は繰り返し発現できるものであった。
前記便箋形態の熱変色性印刷物1を用いた手紙は、受け取った相手が手にとって読むことで像が変色するため、驚きを与えることができる、視覚効果及び話題性の高いものとなった。
【0032】
実施例4(図2参照)
縦方向に罫線21が印刷された縦長長方形状白色上質紙を基材2とし、該基材2の右下箇所に可逆熱変色性インキを用いたスクリーン印刷を施すことで3個の花型ベタ状可逆熱変色層3(厚さ8.0μm:オレンジ色から黄色に変化)を形成した。尚、前記可逆熱変色性インキは、加温により赤色から無色に色変化する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T:27℃、T:30℃、T:30℃、T:33℃、ΔH:3.0℃、平均粒子径:3.0μm)と黄色染料を含む可逆熱変色性インキをスクリーン印刷することにより形成される。
【0033】
次に、前記各花型のベタ状可逆熱変色層3の上に、内側から外側に向かって徐々にドット数が少なくなり、下端部近傍に密集部を有するスクリーン版を用いて、白色印刷インキを網点印刷することで白色非熱変色層A4を形成した。前記非熱変色層A4は、外径0.05mm〜0.5mm(平均外径0.2mm)のドットから構成されており、占有面積が可逆熱変色層3の表面積の約20%であった。
【0034】
更に、前記可逆熱変色層3の外縁(輪郭)、可逆熱変色層3内、白色非熱変色層A4内、基材2に、黒、黄、緑、ピンクの四色を用いて網点及びベタ状のスクリーン印刷により、輪郭線や色づけを施すことで加飾部5とし、三層による階調性の高いユリの可逆熱変色像を形成することで、便箋形態の熱変色性印刷物1を得た。
得られた熱変色性印刷物1は、常温(変化前)では3つのオレンジ色の花(加飾部5による輪郭を備えた可逆熱変色層3と白色非熱変色層A4による階調部分)と緑色及び黄緑色の葉茎が視認されるが、各花を体温で33℃以上に加温する(変化後)と可逆熱変色層3がオレンジ色から黄色に色変化するため、黄色の花が視認される。その際、可逆熱変色層3が濃色から淡色となるため、白色非熱変色層A4が積層された部分が暗色パステル調から明色パステル調に視認される装飾性の高い像となった。また、常温で放置すると可逆熱変色層3がオレンジ色に復色するため、花がもとのオレンジ色に戻る。尚、前記様相変化は繰り返し発現できるものであった。
前記便箋形態の熱変色性印刷物1を用いた手紙は、受け取った相手が手にとって読むことで像が変色するため、驚きを与えることができる、視覚効果及び話題性の高いものとなった。
【0035】
実施例5
前記実施例4で作製した熱変色性印刷物1の基材2右上箇所に、耐水性非変色水色インキでベタ状に印刷した後、湿式法珪酸、ウレタンエマルジョン、水、シリコーン系消泡剤、水系インキ用増粘剤、エチレングリコール、イソシアネート系架橋剤を均一に混合、攪拌してなる白色スクリーン印刷用インキを用いて雲形にベタ状印刷し、乾燥硬化させて多孔質層(可逆水変色層)を形成した。更に、前記多孔質層上に、フッ素樹脂系撥水剤、増粘剤、希釈溶剤、消泡剤を均一に混合攪拌してなる無色透明スクリーン印刷用インキを用いて複数の雨雫形の印刷を施し、乾燥硬化させることで非吸液像を設け、次いで、青色及び白色のスクリーン印刷用インキを用いて前記水色インキによるベタ状印刷部の輪郭部分に網点印刷することで加飾部を形成した。
前記熱変色性印刷物1は温度変化によって実施例4と同様の色変化及び効果を示すものであり、更に、多孔質層を設けた部分は、常態では青色背景に白色の雲が視認されるものであった。前記雲部分に液体を付着させることで、非吸液像を形成していない多孔質層部分が透明化して背景の水色が視覚され、非吸液像である複数の雨雫が白色に浮かび上がるものであった。
この状態で机上等に放置して液体が乾燥すると多孔質層が不透明化するため、非吸液像はもとの白色雲状に戻った。この様相変化は繰り返し行なうことができた。
そのため、温度変化と液体付着によって常態では視認できない所望の像を現出できる便箋となり、視覚効果及び意外性のより高いものとなった。
【0036】
実施例6
前記実施例3で作製した熱変色性印刷物1の光透過性非変色層B6を網点印刷により形成した以外は同様の構成で熱変色性印刷物1を得た。
前記光透過性非変色層B(61,62,63)は、半透明フィラー(具体的には炭酸カルシウム又は炭酸マグネシウム)を含むインキにより形成され、それぞれの光透過率が25%(61)、50%(62)、70%(63)となるように調整されており、各非熱変色層B(61,62,63)は、外径0.2mm〜0.5mm(平均外径0.3mm)のドットから構成され、その占有面積が可逆熱変色層3の表面積の約25%となるものであった。
光透過性非変色層Bを網点印刷により形成した前記構成とすることで、中心に向かって可逆熱変色層3の色調が鮮明に視認される繊細な階調性有し、可逆熱変色層3の色調変化がより鮮明に視覚できる印刷像となった。
【符号の説明】
【0037】
完全発色温度
発色開始温度
消色開始温度
完全消色温度
ΔH ヒステリシス幅
1 熱変色性印刷物
2 基材
3 可逆熱変色層
4 非熱変色層A
5 加飾部
6 非熱変色層B
61,62,63 光透過性非変色層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に可逆熱変色性インキによる印刷像を備えた熱変色性印刷物であって、前記印刷像が、ベタ印刷により形成された可逆熱変色層上に、網点印刷により形成された非熱変色層Aが設けられる形態である熱変色性印刷物。
【請求項2】
前記可逆熱変色層上の非熱変色層Aの占有面積比率が、3%〜50%の範囲にある請求項1記載の熱変色性印刷物。
【請求項3】
前記非熱変色層Aを構成するドットの平均外径が、0.01mm〜1mmの範囲にある請求項1又は2に記載の熱変色性印刷物。
【請求項4】
前記非熱変色層Aの厚みが0.1μm〜20μmの範囲にある請求項1乃至3のいずれかに記載の熱変色性印刷物。
【請求項5】
前記非熱変色層Aが白色である請求項1乃至4のいずれかに記載の熱変色性印刷物。
【請求項6】
前記可逆熱変色層及び/又は非熱変色層A上に、非熱変色層Aと色調の異なる非熱変色性インキからなる加飾層が形成される請求項1乃至5のいずれかに記載の熱変色性印刷物。
【請求項7】
前記印刷像が可逆熱変色層、非熱変色層A、加飾層の順に印刷することで形成される請求項6に記載の熱変色性印刷物。
【請求項8】
前記非熱変色層A及び/又は加飾層が可逆熱変色層の設けられていない基材上に形成される請求項1乃至7のいずれかに記載の熱変色性印刷物。
【請求項9】
基材上に可逆熱変色性インキによる印刷像を備えた熱変色性印刷物であって、前記印刷像が、ベタ印刷により形成された可逆熱変色層上に、光透過率が異なる二種以上の光透過性非熱変色層Bが並設されてなる熱変色性印刷物。
【請求項10】
前記光透過性非熱変色層Bの光透過率が10〜80%の範囲にある請求項9記載の熱変色性印刷物。
【請求項11】
前記可逆熱変色層を構成する可逆熱変色性インキが、平均粒子径0.3μm〜10μmのマイクロカプセル顔料を含有する請求項1乃至10のいずれかに記載の熱変色性印刷物。
【請求項12】
前記可逆熱変色層の変色温度が25℃以上40℃以下である請求項1乃至11のいずれかに記載の熱変色性印刷物。
【請求項13】
前記印刷物が便箋である請求項1乃至12のいずれかに記載の熱変色性印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−194862(P2011−194862A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67470(P2010−67470)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】