熱式流量測定装置
【課題】流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差を低減できる熱式流量計を提供する。
【解決手段】熱式流量計は、センサハウジングに組み込まれる流量センサと、この流量センサの姿勢変化を検出する傾斜センサ4を備えている。流量センサは、姿勢変化によって生じる流量誤差を補正する流量補正部37を備える。この流量補正部37は、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と吸気量との相関データを記録した補正マップを有し、この補正マップより、傾斜センサ4の検出結果を基に流量誤差を求め、流量センサによって検出される吸気量を流量誤差に応じて補正する。
傾斜センサ4によって流量センサの姿勢変化が検出された場合は、傾斜センサ4の検出結果を基に流量誤差を求め、流量センサによって検出される吸気量を流量誤差分だけ補正することにより、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差を低減できる。
【解決手段】熱式流量計は、センサハウジングに組み込まれる流量センサと、この流量センサの姿勢変化を検出する傾斜センサ4を備えている。流量センサは、姿勢変化によって生じる流量誤差を補正する流量補正部37を備える。この流量補正部37は、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と吸気量との相関データを記録した補正マップを有し、この補正マップより、傾斜センサ4の検出結果を基に流量誤差を求め、流量センサによって検出される吸気量を流量誤差に応じて補正する。
傾斜センサ4によって流量センサの姿勢変化が検出された場合は、傾斜センサ4の検出結果を基に流量誤差を求め、流量センサによって検出される吸気量を流量誤差分だけ補正することにより、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差を低減できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体通路を流れる流体流量を流量センサを用いて検出する熱式流量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気やガス等の流体流量を検出する熱式流量センサが公知である。
この流量センサは、流体温度より一定温度だけ高い基準温度に加熱されるヒータ素子と、流体の流れ方向に対しヒータ素子の上流側と下流側とにそれぞれ配置される測温抵抗体とを有し、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差より流体流量を検出する方式である。
ところで、流量センサをガスメータ等の積算流量計として使用する場合は、敷設される配管の向き、および、配管を流れる流体(ガス)の流れ方向によって流量センサの取り付け姿勢が変化する。例えば、図10(a)に矢印で示す様に、水平方向に流体が流れる場合、図10(b)に矢印で示す様に、下から上に向けて流体が流れる場合、図10(c)に矢印で示す様に、上から下に向けて流体が流れる場合は、それぞれ、流量センサの取り付け姿勢が変化する。なお、図10(a)〜(c)には、流量センサに使用されるセンサチップ14が示されており、このセンサチップ14に設けられるメンブレン16にヒータ素子と測温抵抗体が配置されている。
【0003】
ところが、図10(a)〜(c)のように、センサチップ14の取り付け姿勢が変化すると、それぞれ、ヒータ素子で加熱された流体の自然対流に起因する熱の影響が異なるため、センサ出力に誤差が生じる。すなわち、ヒータ素子から発生する熱は、流体の自然対流によって上方に向けて拡散し易いため、流体が水平方向に流れる図10(a)の場合は、流体の自然対流に起因する熱の移動が流量検出に与える影響は小さくなる。言い換えると、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差に与える影響(流体の自然対流に起因する熱の影響)が小さいので、流量誤差は小さくなる。
これに対し、図10(b)の場合は、自然対流に起因する熱の移動が、流体の流れに伴う熱の移動に加わるため、図10(a)の場合と比較して、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差が大きくなる。
【0004】
一方、図10(c)の場合は、自然対流に起因する熱の移動が、流体の流れに伴う熱の移動を妨げるように作用するため、図10(a)の場合と比較して、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差が小さくなる。
上記の結果、図11に示す様に、センサチップ14の姿勢が大きく変化すると、それに伴って流量誤差が生じ、特に、流量が少なく(流速が遅く)なる程、流量誤差も大きくなる。なお、図11に示す破線グラフ(1)は、図10(a)に示すセンサチップ14の姿勢に対応する流量特性、実線グラフ(2)は、図10(b)に示すセンサチップ14の姿勢に対応する流量特性、実線グラフ(3)は、図10(c)に示すセンサチップ14の姿勢に対応する流量特性である。
【0005】
特許文献1には、流量センサの取り付け姿勢に応じてセンサ出力を補正する熱式流量計が開示されている。
この熱式流量計は、流体の圧力に応じた流量センサの検出信号に対するゼロ点補正量を流量センサの取り付け姿勢毎に登録したゼロ点補正テーブルと、流量センサが組み込まれた流体通路を流体が流れる向きと流体の圧力とに応じてゼロ点補正テーブルからゼロ点補正量を求めて流量センサの検出信号を補正するゼロ点補正手段と、このゼロ点補正手段により補正された流量センサの検出信号に従って流体通路を流れる流体の流量を求める流量算出手段とを備えている。
上記の構成によれば、流体通路に対する流量センサの取り付け姿勢に応じて流量センサの出力をゼロ点補正できるので、流量センサの取り付け姿勢に依存するセンサ出力の変化を補正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4150756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記の特許文献1に記載された流量センサは、例えば、ガスメータ等の積算流量計として使用されるもので、ガス配管に取り付けられる流量センサの姿勢が使用中に変化することはない。つまり、敷設されるガス配管の向き(ガス配管を流れるガスの流れ方向)により流量センサの取り付け姿勢が異なるだけで、ガス配管に一度取り付けた流量センサの姿勢が使用中に変化することはない。
これに対し、例えば、自動車のエンジンが吸入する吸気量を検出する空気流量計は、車体の姿勢変化に応じて流量センサの姿勢も変化する。
【0008】
つまり、自動車に用いられる流量センサは、エンジンの吸気通路に対する流量センサの取り付け姿勢が一定であっても、車体の姿勢変化に応じて流量センサ自体の姿勢が変化する。このため、流量センサの姿勢が使用途中で変化する場合は、特許文献1に開示された従来技術で対応することはできない。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差を低減できる熱式流量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1に係る発明)
本発明は、通電によって発熱するヒータ素子を備え、このヒータ素子から放出される放熱量を基に、流体通路を流れる流体流量を検出する流量センサと、この流量センサの姿勢変化を検出する姿勢検出手段と、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と流体流量との相関データを有し、この相関データより姿勢検出手段の検出結果を基に流量誤差を求め、流量センサによって検出される流体流量を流量誤差に応じて補正する流量補正手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の熱式流量測定装置は、流量センサの姿勢変化を検出する姿勢検出手段を備えているので、この姿勢検出手段によって流量センサの姿勢変化が検出された場合は、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と流体流量との相関データより、姿勢検出手段の検出結果を基に流量誤差を求めて、流量センサによって検出される流体流量を流量誤差分だけ補正することができる。これにより、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差を低減できるので、例えば、使用中に流量センサの姿勢が変化する自動車用の空気流量計にも好適に用いることができる。
【0011】
(請求項2に係る発明)
請求項1に記載した熱式流量測定装置は、内燃機関を搭載する車両に使用され、内燃機関が吸入する吸入空気量を検出することを特徴とする。
自動車等の車両は、走行中に車体の姿勢が変化することが多いため、本発明の熱式流量測定装置を使用することにより、車体の姿勢変化に伴って流量センサの姿勢が変化しても、その姿勢変化によって生じる流量誤差を補正できるので、内燃機関に吸入される吸気量を精度良く検出できる。
【0012】
(請求項3に係る発明)
請求項1または2に記載した熱式流量測定装置において、姿勢検出手段は、流量センサの傾斜角度を検出する傾斜センサであることを特徴とする。
姿勢検出手段は、その一例として、傾斜による液面の変化を静電容量の変化として検出し、電圧等の電気信号に変換して出力する重力応用静電容量変化型の傾斜センサを用いることができる。
【0013】
(請求項4に係る発明)
請求項3に記載した熱式流量測定装置において、傾斜センサは、流量センサに取り付けられている、あるいは、流量センサが組み込まれるセンサハウジングに取り付けられていることを特徴とする。
傾斜センサを流量センサまたはセンサハウジングに取り付けることにより、流量センサの姿勢変化を精度良く検出できる。
【0014】
(請求項5に係る発明)
請求項2に記載した熱式流量測定装置において、姿勢検出手段は、車両に備え付けられている傾斜センサであることを特徴とする。
例えば、車両の姿勢制御に傾斜センサを使用することが知られている。この場合、予め、傾斜センサが車両に備え付けられているので、この傾斜センサを本発明の姿勢検出手段に利用することができる。
【0015】
(請求項6に係る発明)
請求項1〜5に記載した何れか一つの熱式流量測定装置において、流量センサは、基板の一部にメンブレンが形成され、このメンブレン上にヒータ素子を配置したセンサチップと、ヒータ素子の発熱温度が流体通路を流れる流体の温度より一定温度だけ高くなるようにヒータ素子への通電量を制御するヒータ温度制御部と、流体の流れ方向に対しメンブレン上でヒータ素子の上流側と下流側にそれぞれ配置される測温抵抗体を有し、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差より流体流量を検出する流量検出部とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の熱式流量測定装置は、ヒータ素子の上流側と下流側にそれぞれ測温抵抗体を配置しているので、順方向の流体流れ、つまり、ヒータ素子の上流側から下流側へ向かう流体流量だけでなく、ヒータ素子の下流側から上流側へ逆流する流体流量も検出できる。
従って、自動車の内燃機関に吸入される吸気量を検出する空気流量計(エアフロメータとも呼ばれる)に本発明の熱式流量測定装置を適用した場合に、内燃機関に吸入される順方向の吸気量を検出できるだけでなく、例えば、吸気脈動によって生じる逆流時の空気流量も精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】熱式流量計の断面図である。
【図2】(a)流量センサの平面図、(b)同図(a)のA−A断面図である。
【図3】センサチップのメンブレン上に配置された抵抗体を示す平面図である。
【図4】傾斜センサの構成と作動を説明する模式図である。
【図5】ヒータ温度制御部の回路図である。
【図6】流量検出部の回路図である。
【図7】(a)流量検出の原理を示す温度分布図、(b)空気の流れ方向に沿って切断したセンサチップの断面図である。
【図8】熱式流量計の出力特性を示すグラフである。
【図9】デジタル演算部の構成図である。
【図10】流量センサの姿勢と流体の自然対流に起因する熱の影響とを説明するための図面である。
【図11】流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と流体流量との相関を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
この実施例1では、自動車のエンジンに吸入される吸気量を検出する熱式流量計1の一例を説明する。
熱式流量計1は、図1に示す様に、エンジンの吸気通路(図示せず)に取り付けられるセンサハウジング2と、このセンサハウジング2に組み込まれる流量センサ3(図2参照)、および、流量センサ3の姿勢変化を検出する傾斜センサ4(図4参照)を備える。
まず、傾斜センサ4について図4を基に説明する。
傾斜センサ4は、例えば、流量センサ3の回路チップ5(図2参照)に組み込む、あるいは、センサハウジング2の一部に取り付けることができる。
この傾斜センサ4は、静電容量媒体であるシリコンオイルが半分程封入された円形のオイルケース4aを有し、このオイルケース4aの内部にリング状の基準電極6と半円形を有する2枚の比較電極7、8とが配置されている。
【0020】
基準電極6は、オイルケース4aの内周に沿って周方向に配置され、一方の端部が給電端子6aとしてオイルケース4aの内部空間より外側に取り出されている。
2枚の比較電極7、8は、それぞれ同一面積を有し、基準電極6の内側で互いに向かい合わせた状態に配置され、それぞれの出力端子7a、8aがオイルケース4aの内部空間より外側に取り出されている。なお、図4に示す基準電極6はリング状であるが、例えば、円板状に形成して、2枚の比較電極7、8と向かい合わせて配置することもできる。
この傾斜センサ4は、シリコンオイルに浸かっている基準電極6と比較電極7、8との間でそれぞれコンデンサA、Bを構成し、シリコンオイルに浸かっている比較電極7、8の面積比が変化すると、各コンデンサA、Bの静電容量が変化するため、その静電容量の変化を電気信号(アナログ電圧)に変換して2本の出力端子7a、8aより出力する。
【0021】
例えば、図4(b)に示すように、傾斜センサ4が水平状態を保っている時は、シリコンオイルに浸かっている比較電極7の面積と比較電極8の面積とが等しいため、各コンデンサA、Bに蓄えられる静電容量は等しくなる。
これに対し、図4(a)に示すように、図示左側へ傾斜センサ4が傾いた時は、比較電極7の方が比較電極8よりシリコンオイルに浸かっている面積が大きくなるため、コンデンサAの方がコンデンサBより静電容量が大きくなる。一方、図4(c)では、比較電極8の方が比較電極7よりシリコンオイルに浸かっている面積が大きくなるため、コンデンサBの方がコンデンサAより静電容量が大きくなる。
上記のように、本実施例の傾斜センサ4は、シリコンオイルに浸かっている比較電極7、8の面積比の変化を静電容量の変化として検出することにより、流量センサ3の姿勢変化を検出する。
【0022】
センサハウジング2には、吸気通路を上流側(エアクリーナ側)から下流側(エンジン側)に向かって流れる空気、つまり、エンジンに吸入される空気の一部を取り込むバイパス通路が形成されている。このバイパス通路は、図1に示す様に、吸気通路の上流側(図示左側)に向かって開口する入口9aと、吸気通路の下流側に向かって開口する出口9bとの間を連通するメイン通路9と、このメイン通路9を流れる空気の一部を取り込むサブ通路10とを有する。
メイン通路9は、入口9aと出口9bとの間が略直線的に形成され、且つ、出口側の流路断面積が出口9bに向かって次第に減少するテーパ形状に形成されている。
サブ通路10は、メイン通路9の途中から分岐するサブ入口10aと、センサハウジング2の側面に開口するサブ出口10bとの間を連通して形成される。このサブ通路10は、通路途中に大きな曲がり部が設けられて、メイン通路9より通路長が長く形成されている。
【0023】
流量センサ3は、後述するヒータ温度制御部11(図5参照)、流量検出部12(図6参照)、および、デジタル演算部13(図9参照)等の機能を有し、これらの機能が、上記の回路チップ5とセンサチップ14(図2参照)とに設けられている。回路チップ5とセンサチップ14は、共通の樹脂ケース15に一体に収容されてセンサアセンブリとして構成されている。
センサチップ14には、図2(b)に示す様に、センサ基板14aの一部にメンブレン16が形成されている。このメンブレン16は、センサ基板14aの表面にスパッタ法あるいはCVD法等により形成される絶縁膜であり、例えば、異方性エッチングにより、センサ基板14aの裏面から絶縁膜との境界面までセンサ基板14aの一部を除去して空洞部14bを設けることにより形成される。
【0024】
センサチップ14には、図3に示す様に、メンブレン16の表面上にヒータ素子17、傍熱抵抗体18、測温抵抗体19が配置され、メンブレン16から外れた領域には、図5に示す吸気温検出抵抗体20、第1の抵抗体21、第2の抵抗体22が配置されている。 ヒータ素子17は、メンブレン16の略中央部に配置され、ヒータ温度制御部11によって基準温度に制御される。
傍熱抵抗体18は、ヒータ素子17の周囲を囲む様に近接して配置され、ヒータ素子17の温度を検出する。
測温抵抗体19は、図3に示す様に、空気の流れ方向に対してヒータ素子17の上流側(図示左側)に配置される2個の測温抵抗体19(第1測温抵抗体19a、第2測温抵抗体19b)と、ヒータ素子17の下流側に配置される2個の測温抵抗体19(第1測温抵抗体19c、第2測温抵抗体19d)とを有する。
【0025】
吸気温検出抵抗体20は、空洞部14bが形成されていないセンサ基板14aの厚肉部分に配置されて吸気温度(サブ通路10を流れる空気の温度)を検出する。この吸気検出抵抗体20は、ヒータ素子17の熱が温度検出に影響を及ぼさないように、ヒータ素子17から所定距離だけ離れた位置に配置される。
第1の抵抗体21と第2の抵抗体22は、吸気温検出抵抗体20と同様に、センサ基板14aの厚肉部分に配置され、ヒータ素子17の熱影響を受けないように、ヒータ素子17から所定距離だけ離れた位置に配置される。なお、第1の抵抗体21と第2の抵抗体22は、どちらか一方あるいは両方を回路チップ5に設けることもできる。
ヒータ素子17、傍熱抵抗体18、測温抵抗体19、吸気温検出抵抗体20、第1の抵抗体21、第2の抵抗体22は、例えば、スパッタあるいは蒸着などの成膜技術により薄膜形成した後、エッチングにより所望の形状にパターニングして形成することができる。抵抗体の材料としては、例えば、信頼性の高い白金を使用することが望ましい。
【0026】
ヒータ温度制御部11は、図5に示す様に、後述するブリッジ回路と、このブリッジ回路の二つの中点端子23、24に接続されるオペアンプ25と、このオペアンプ25の出力に基づいてオン/オフするトランジスタ26より構成され、ヒータ素子17の温度を吸気温より所定温度(例えば200℃)だけ高い基準温度に制御する。
ブリッジ回路は、給電端子27とアース端子28との間に接続される二本のブリッジアームを有し、一方のブリッジアームには、ヒータ素子17の温度を検出する傍熱抵抗体18と第1の抵抗体21とが直列に接続され、他方のブリッジアームには、吸気温度を検出する吸気温検出抵抗体20と第2の抵抗体22とが直列に接続されている。
このヒータ温度制御部11は、例えば、ヒータ素子17の温度、あるいは、吸気温度が変化してブリッジ回路のバランスが崩れると、ヒータ素子17に流れる電流を制御して元のバランス状態に戻すように働く。
【0027】
具体的に説明すると、例えば、ヒータ素子17の温度が基準温度より低下すると、ヒータ素子17の抵抗値が低下してブリッジ回路の二つの中点端子23、24間に電位差が生じるため、オペアンプ25の出力によりトランジスタ26がオンする。その結果、電源29よりヒータ素子17に電流が流れて、ヒータ素子17の温度が上昇する。その後、ヒータ素子17の温度が基準温度まで上昇すると、二つの中点端子23、24間の電位差が無くなる、つまり、ブリッジ回路の平衡が保たれることにより、トランジスタ26がオフしてヒータ素子17に供給される電流が遮断される。その結果、ヒータ素子17の温度が基準温度に保たれる。
【0028】
流量検出部12は、図6に示す様に、4個の測温抵抗体19を各辺に配置して形成されるブリッジ回路と、このブリッジ回路の二つの中点端子30、31に接続されるオペアンプ32とで構成され、上流側の測温抵抗体19(第1測温抵抗体19a、第2測温抵抗体19b)と下流側の測温抵抗体19(第1測温抵抗体19c、第2測温抵抗体19d)との温度差より吸気量を検出する。
流量検出部12のブリッジ回路は、所定の電圧が印加される給電端子33と、アースに接続されるアース端子34との間に二本のブリッジアームを有し、一方のブリッジアームには、ヒータ素子17より上流側の第1測温抵抗体19aと下流側の第1測温抵抗体19cとが直列に接続され、他方のブリッジアームには、ヒータ素子17より下流側の第2測温抵抗体19dと上流側の第2測温抵抗体19bとが直列に接続されている。
【0029】
ここで、ヒータ素子17からの放熱量と測温抵抗体19の検出温度との関係について、図7を基に説明する。
サブ通路10に空気流れが発生していない時は、図7(a)の破線グラフで示す様に、ヒータ素子17を中心として上流側と下流側とで温度分布が対称となり、上流側の測温抵抗体19a、19bと下流側の測温抵抗体19c、19dとの間に温度差は生じない。
これに対し、サブ通路10に順方向の空気流れが発生している場合は、上流側の測温抵抗体19a、19bの方が下流側の測温抵抗体19c、19dより空気流れによる冷却効果が大きいため、図7(a)の実線グラフで示す様に、ヒータ素子17の下流側(図示右側)へ偏った温度分布が生じる。つまり、上流側の測温抵抗体19a、19bの方が下流側の測温抵抗体19c、19dより検出温度が低くなる。
一方、サブ通路10に逆方向の空気流れが発生すると、ヒータ素子17の上流側へ偏った温度分布が生じるため、上流側の測温抵抗体19a、19bの方が下流側の測温抵抗体19c、19dより検出温度が高くなる。
【0030】
上記の様に、サブ通路10に空気の流れが発生すると、図8に示す様に、空気流量(吸気量)および空気の流れ方向に応じて、上流側の測温抵抗体19a、19bの検出温度と下流側測の測温抵抗体19c、19dの検出温度との間に温度差ΔTが生じるため、この温度差ΔTより吸気量および空気の流れ方向を検出できる。
上流側の測温抵抗体19a、19bの検出温度と下流側測の測温抵抗体19c、19dの検出温度との間に温度差ΔTが生じた場合、つまり、上流側の測温抵抗体19a、19bの抵抗値と下流側の測温抵抗体19c、19dの抵抗値とがそれぞれ変化して、ブリッジ回路の二つの中点端子30、31間に電位差が生じると、その電位差がオペアンプ32で増幅されてデジタル演算部13へ出力される。
【0031】
デジタル演算部13は、回路チップ5に構成され、図9に示す様に、流量検出部12で検出される吸気量に応じた電圧信号(アナログ値)をデジタル変換するA/D変換器35と、傾斜センサ4の検出信号(アナログ電圧)をデジタル変換するA/D変換器36と、流量センサ3の姿勢変化によって生じる流量誤差を補正する流量補正部37(以下に説明する)と、補正された流量信号(電圧値)を周波数値に変換して外部のECU(図示せず)へ出力する信号出力部38等を有している。なお、信号出力部38は、電圧値を周波数値に変換することなく、電圧値のままECUへ出力する構成でも良い。
流量補正部37は、流量センサ3の姿勢変化によって生じる流量誤差と吸気量との相関データ(図11参照)を記録した補正マップを有し、この補正マップより、傾斜センサ4の検出結果を基に流量誤差を求め、流量センサ3によって検出される吸気量を流量誤差に応じて補正する。
【0032】
(実施例1の作用および効果)
本実施例の熱式流量計1は、流量センサ3の姿勢変化を検出する傾斜センサ4を備えているので、流量センサ3の姿勢が使用中に変化する場合でも、その流量センサ3の姿勢を検出することで、流量補正を行うことができる。すなわち、傾斜センサ4によって流量センサ3の姿勢変化が検出された場合は、流量センサ3の姿勢変化によって生じる流量誤差と吸気量との相関データを記録した補正マップより、傾斜センサ4の検出結果を基に流量誤差を求めて、流量センサ3によって検出される吸気量を流量誤差分だけ補正することができる。
これにより、流量センサ3の姿勢変化によって生じる流量誤差を低減できるので、エンジンに吸入される吸気量を精度良く検出できる。特に、走行中に車体の姿勢変化に伴って流量センサ3の姿勢が変化する自動車用の熱式流量計1として好適に使用できる。
【0033】
(変形例)
実施例1では、傾斜センサ4を流量センサ3の回路チップ5に組み込む、あるいは、センサハウジング2の一部に取り付けることを記載したが、例えば、車体の姿勢制御に傾斜センサ4を使用している車両では、新たに傾斜センサ4を設ける必要はなく、既に備え付けられている傾斜センサ4を本発明の姿勢検出手段に利用することもできる。
実施例1では、デジタル演算部13に流量補正部37を設けているが、流量補正部37の機能を外部のECUに持たせる構成でも良い。
【0034】
実施例1に記載した流量センサ3は、ヒータ素子17の上流側と下流側にそれぞれ測温抵抗体19を配置しているが、ヒータ素子17の上流側と下流側のどちらか一方のみ測温抵抗体19を配置した構成でも良い。
実施例1に記載したヒータ温度制御部11は、ヒータ素子17の温度を検出する傍熱抵抗体18と第1の抵抗体21、および、吸気温度を検出する吸気温検出抵抗体20と第2の抵抗体22とでブリッジ回路を構成しているが、傍熱抵抗体18を廃止することもできる。この場合、傍熱抵抗体18をヒータ素子17に置き換えてブリッジ回路を構成すれば良い。
【符号の説明】
【0035】
1 熱式流量計(熱式流量測定装置)
2 センサハウジング
3 流量センサ
4 傾斜センサ(姿勢検出手段)
11 ヒータ温度制御部
12 流量検出部
13 デジタル演算部
14 センサチップ
14a センサ基板(基板)
16 メンブレン
17 ヒータ素子
19 測温抵抗体
37 流量補正部(流量補正手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体通路を流れる流体流量を流量センサを用いて検出する熱式流量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気やガス等の流体流量を検出する熱式流量センサが公知である。
この流量センサは、流体温度より一定温度だけ高い基準温度に加熱されるヒータ素子と、流体の流れ方向に対しヒータ素子の上流側と下流側とにそれぞれ配置される測温抵抗体とを有し、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差より流体流量を検出する方式である。
ところで、流量センサをガスメータ等の積算流量計として使用する場合は、敷設される配管の向き、および、配管を流れる流体(ガス)の流れ方向によって流量センサの取り付け姿勢が変化する。例えば、図10(a)に矢印で示す様に、水平方向に流体が流れる場合、図10(b)に矢印で示す様に、下から上に向けて流体が流れる場合、図10(c)に矢印で示す様に、上から下に向けて流体が流れる場合は、それぞれ、流量センサの取り付け姿勢が変化する。なお、図10(a)〜(c)には、流量センサに使用されるセンサチップ14が示されており、このセンサチップ14に設けられるメンブレン16にヒータ素子と測温抵抗体が配置されている。
【0003】
ところが、図10(a)〜(c)のように、センサチップ14の取り付け姿勢が変化すると、それぞれ、ヒータ素子で加熱された流体の自然対流に起因する熱の影響が異なるため、センサ出力に誤差が生じる。すなわち、ヒータ素子から発生する熱は、流体の自然対流によって上方に向けて拡散し易いため、流体が水平方向に流れる図10(a)の場合は、流体の自然対流に起因する熱の移動が流量検出に与える影響は小さくなる。言い換えると、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差に与える影響(流体の自然対流に起因する熱の影響)が小さいので、流量誤差は小さくなる。
これに対し、図10(b)の場合は、自然対流に起因する熱の移動が、流体の流れに伴う熱の移動に加わるため、図10(a)の場合と比較して、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差が大きくなる。
【0004】
一方、図10(c)の場合は、自然対流に起因する熱の移動が、流体の流れに伴う熱の移動を妨げるように作用するため、図10(a)の場合と比較して、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差が小さくなる。
上記の結果、図11に示す様に、センサチップ14の姿勢が大きく変化すると、それに伴って流量誤差が生じ、特に、流量が少なく(流速が遅く)なる程、流量誤差も大きくなる。なお、図11に示す破線グラフ(1)は、図10(a)に示すセンサチップ14の姿勢に対応する流量特性、実線グラフ(2)は、図10(b)に示すセンサチップ14の姿勢に対応する流量特性、実線グラフ(3)は、図10(c)に示すセンサチップ14の姿勢に対応する流量特性である。
【0005】
特許文献1には、流量センサの取り付け姿勢に応じてセンサ出力を補正する熱式流量計が開示されている。
この熱式流量計は、流体の圧力に応じた流量センサの検出信号に対するゼロ点補正量を流量センサの取り付け姿勢毎に登録したゼロ点補正テーブルと、流量センサが組み込まれた流体通路を流体が流れる向きと流体の圧力とに応じてゼロ点補正テーブルからゼロ点補正量を求めて流量センサの検出信号を補正するゼロ点補正手段と、このゼロ点補正手段により補正された流量センサの検出信号に従って流体通路を流れる流体の流量を求める流量算出手段とを備えている。
上記の構成によれば、流体通路に対する流量センサの取り付け姿勢に応じて流量センサの出力をゼロ点補正できるので、流量センサの取り付け姿勢に依存するセンサ出力の変化を補正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4150756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記の特許文献1に記載された流量センサは、例えば、ガスメータ等の積算流量計として使用されるもので、ガス配管に取り付けられる流量センサの姿勢が使用中に変化することはない。つまり、敷設されるガス配管の向き(ガス配管を流れるガスの流れ方向)により流量センサの取り付け姿勢が異なるだけで、ガス配管に一度取り付けた流量センサの姿勢が使用中に変化することはない。
これに対し、例えば、自動車のエンジンが吸入する吸気量を検出する空気流量計は、車体の姿勢変化に応じて流量センサの姿勢も変化する。
【0008】
つまり、自動車に用いられる流量センサは、エンジンの吸気通路に対する流量センサの取り付け姿勢が一定であっても、車体の姿勢変化に応じて流量センサ自体の姿勢が変化する。このため、流量センサの姿勢が使用途中で変化する場合は、特許文献1に開示された従来技術で対応することはできない。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差を低減できる熱式流量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1に係る発明)
本発明は、通電によって発熱するヒータ素子を備え、このヒータ素子から放出される放熱量を基に、流体通路を流れる流体流量を検出する流量センサと、この流量センサの姿勢変化を検出する姿勢検出手段と、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と流体流量との相関データを有し、この相関データより姿勢検出手段の検出結果を基に流量誤差を求め、流量センサによって検出される流体流量を流量誤差に応じて補正する流量補正手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の熱式流量測定装置は、流量センサの姿勢変化を検出する姿勢検出手段を備えているので、この姿勢検出手段によって流量センサの姿勢変化が検出された場合は、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と流体流量との相関データより、姿勢検出手段の検出結果を基に流量誤差を求めて、流量センサによって検出される流体流量を流量誤差分だけ補正することができる。これにより、流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差を低減できるので、例えば、使用中に流量センサの姿勢が変化する自動車用の空気流量計にも好適に用いることができる。
【0011】
(請求項2に係る発明)
請求項1に記載した熱式流量測定装置は、内燃機関を搭載する車両に使用され、内燃機関が吸入する吸入空気量を検出することを特徴とする。
自動車等の車両は、走行中に車体の姿勢が変化することが多いため、本発明の熱式流量測定装置を使用することにより、車体の姿勢変化に伴って流量センサの姿勢が変化しても、その姿勢変化によって生じる流量誤差を補正できるので、内燃機関に吸入される吸気量を精度良く検出できる。
【0012】
(請求項3に係る発明)
請求項1または2に記載した熱式流量測定装置において、姿勢検出手段は、流量センサの傾斜角度を検出する傾斜センサであることを特徴とする。
姿勢検出手段は、その一例として、傾斜による液面の変化を静電容量の変化として検出し、電圧等の電気信号に変換して出力する重力応用静電容量変化型の傾斜センサを用いることができる。
【0013】
(請求項4に係る発明)
請求項3に記載した熱式流量測定装置において、傾斜センサは、流量センサに取り付けられている、あるいは、流量センサが組み込まれるセンサハウジングに取り付けられていることを特徴とする。
傾斜センサを流量センサまたはセンサハウジングに取り付けることにより、流量センサの姿勢変化を精度良く検出できる。
【0014】
(請求項5に係る発明)
請求項2に記載した熱式流量測定装置において、姿勢検出手段は、車両に備え付けられている傾斜センサであることを特徴とする。
例えば、車両の姿勢制御に傾斜センサを使用することが知られている。この場合、予め、傾斜センサが車両に備え付けられているので、この傾斜センサを本発明の姿勢検出手段に利用することができる。
【0015】
(請求項6に係る発明)
請求項1〜5に記載した何れか一つの熱式流量測定装置において、流量センサは、基板の一部にメンブレンが形成され、このメンブレン上にヒータ素子を配置したセンサチップと、ヒータ素子の発熱温度が流体通路を流れる流体の温度より一定温度だけ高くなるようにヒータ素子への通電量を制御するヒータ温度制御部と、流体の流れ方向に対しメンブレン上でヒータ素子の上流側と下流側にそれぞれ配置される測温抵抗体を有し、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差より流体流量を検出する流量検出部とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の熱式流量測定装置は、ヒータ素子の上流側と下流側にそれぞれ測温抵抗体を配置しているので、順方向の流体流れ、つまり、ヒータ素子の上流側から下流側へ向かう流体流量だけでなく、ヒータ素子の下流側から上流側へ逆流する流体流量も検出できる。
従って、自動車の内燃機関に吸入される吸気量を検出する空気流量計(エアフロメータとも呼ばれる)に本発明の熱式流量測定装置を適用した場合に、内燃機関に吸入される順方向の吸気量を検出できるだけでなく、例えば、吸気脈動によって生じる逆流時の空気流量も精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】熱式流量計の断面図である。
【図2】(a)流量センサの平面図、(b)同図(a)のA−A断面図である。
【図3】センサチップのメンブレン上に配置された抵抗体を示す平面図である。
【図4】傾斜センサの構成と作動を説明する模式図である。
【図5】ヒータ温度制御部の回路図である。
【図6】流量検出部の回路図である。
【図7】(a)流量検出の原理を示す温度分布図、(b)空気の流れ方向に沿って切断したセンサチップの断面図である。
【図8】熱式流量計の出力特性を示すグラフである。
【図9】デジタル演算部の構成図である。
【図10】流量センサの姿勢と流体の自然対流に起因する熱の影響とを説明するための図面である。
【図11】流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と流体流量との相関を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
この実施例1では、自動車のエンジンに吸入される吸気量を検出する熱式流量計1の一例を説明する。
熱式流量計1は、図1に示す様に、エンジンの吸気通路(図示せず)に取り付けられるセンサハウジング2と、このセンサハウジング2に組み込まれる流量センサ3(図2参照)、および、流量センサ3の姿勢変化を検出する傾斜センサ4(図4参照)を備える。
まず、傾斜センサ4について図4を基に説明する。
傾斜センサ4は、例えば、流量センサ3の回路チップ5(図2参照)に組み込む、あるいは、センサハウジング2の一部に取り付けることができる。
この傾斜センサ4は、静電容量媒体であるシリコンオイルが半分程封入された円形のオイルケース4aを有し、このオイルケース4aの内部にリング状の基準電極6と半円形を有する2枚の比較電極7、8とが配置されている。
【0020】
基準電極6は、オイルケース4aの内周に沿って周方向に配置され、一方の端部が給電端子6aとしてオイルケース4aの内部空間より外側に取り出されている。
2枚の比較電極7、8は、それぞれ同一面積を有し、基準電極6の内側で互いに向かい合わせた状態に配置され、それぞれの出力端子7a、8aがオイルケース4aの内部空間より外側に取り出されている。なお、図4に示す基準電極6はリング状であるが、例えば、円板状に形成して、2枚の比較電極7、8と向かい合わせて配置することもできる。
この傾斜センサ4は、シリコンオイルに浸かっている基準電極6と比較電極7、8との間でそれぞれコンデンサA、Bを構成し、シリコンオイルに浸かっている比較電極7、8の面積比が変化すると、各コンデンサA、Bの静電容量が変化するため、その静電容量の変化を電気信号(アナログ電圧)に変換して2本の出力端子7a、8aより出力する。
【0021】
例えば、図4(b)に示すように、傾斜センサ4が水平状態を保っている時は、シリコンオイルに浸かっている比較電極7の面積と比較電極8の面積とが等しいため、各コンデンサA、Bに蓄えられる静電容量は等しくなる。
これに対し、図4(a)に示すように、図示左側へ傾斜センサ4が傾いた時は、比較電極7の方が比較電極8よりシリコンオイルに浸かっている面積が大きくなるため、コンデンサAの方がコンデンサBより静電容量が大きくなる。一方、図4(c)では、比較電極8の方が比較電極7よりシリコンオイルに浸かっている面積が大きくなるため、コンデンサBの方がコンデンサAより静電容量が大きくなる。
上記のように、本実施例の傾斜センサ4は、シリコンオイルに浸かっている比較電極7、8の面積比の変化を静電容量の変化として検出することにより、流量センサ3の姿勢変化を検出する。
【0022】
センサハウジング2には、吸気通路を上流側(エアクリーナ側)から下流側(エンジン側)に向かって流れる空気、つまり、エンジンに吸入される空気の一部を取り込むバイパス通路が形成されている。このバイパス通路は、図1に示す様に、吸気通路の上流側(図示左側)に向かって開口する入口9aと、吸気通路の下流側に向かって開口する出口9bとの間を連通するメイン通路9と、このメイン通路9を流れる空気の一部を取り込むサブ通路10とを有する。
メイン通路9は、入口9aと出口9bとの間が略直線的に形成され、且つ、出口側の流路断面積が出口9bに向かって次第に減少するテーパ形状に形成されている。
サブ通路10は、メイン通路9の途中から分岐するサブ入口10aと、センサハウジング2の側面に開口するサブ出口10bとの間を連通して形成される。このサブ通路10は、通路途中に大きな曲がり部が設けられて、メイン通路9より通路長が長く形成されている。
【0023】
流量センサ3は、後述するヒータ温度制御部11(図5参照)、流量検出部12(図6参照)、および、デジタル演算部13(図9参照)等の機能を有し、これらの機能が、上記の回路チップ5とセンサチップ14(図2参照)とに設けられている。回路チップ5とセンサチップ14は、共通の樹脂ケース15に一体に収容されてセンサアセンブリとして構成されている。
センサチップ14には、図2(b)に示す様に、センサ基板14aの一部にメンブレン16が形成されている。このメンブレン16は、センサ基板14aの表面にスパッタ法あるいはCVD法等により形成される絶縁膜であり、例えば、異方性エッチングにより、センサ基板14aの裏面から絶縁膜との境界面までセンサ基板14aの一部を除去して空洞部14bを設けることにより形成される。
【0024】
センサチップ14には、図3に示す様に、メンブレン16の表面上にヒータ素子17、傍熱抵抗体18、測温抵抗体19が配置され、メンブレン16から外れた領域には、図5に示す吸気温検出抵抗体20、第1の抵抗体21、第2の抵抗体22が配置されている。 ヒータ素子17は、メンブレン16の略中央部に配置され、ヒータ温度制御部11によって基準温度に制御される。
傍熱抵抗体18は、ヒータ素子17の周囲を囲む様に近接して配置され、ヒータ素子17の温度を検出する。
測温抵抗体19は、図3に示す様に、空気の流れ方向に対してヒータ素子17の上流側(図示左側)に配置される2個の測温抵抗体19(第1測温抵抗体19a、第2測温抵抗体19b)と、ヒータ素子17の下流側に配置される2個の測温抵抗体19(第1測温抵抗体19c、第2測温抵抗体19d)とを有する。
【0025】
吸気温検出抵抗体20は、空洞部14bが形成されていないセンサ基板14aの厚肉部分に配置されて吸気温度(サブ通路10を流れる空気の温度)を検出する。この吸気検出抵抗体20は、ヒータ素子17の熱が温度検出に影響を及ぼさないように、ヒータ素子17から所定距離だけ離れた位置に配置される。
第1の抵抗体21と第2の抵抗体22は、吸気温検出抵抗体20と同様に、センサ基板14aの厚肉部分に配置され、ヒータ素子17の熱影響を受けないように、ヒータ素子17から所定距離だけ離れた位置に配置される。なお、第1の抵抗体21と第2の抵抗体22は、どちらか一方あるいは両方を回路チップ5に設けることもできる。
ヒータ素子17、傍熱抵抗体18、測温抵抗体19、吸気温検出抵抗体20、第1の抵抗体21、第2の抵抗体22は、例えば、スパッタあるいは蒸着などの成膜技術により薄膜形成した後、エッチングにより所望の形状にパターニングして形成することができる。抵抗体の材料としては、例えば、信頼性の高い白金を使用することが望ましい。
【0026】
ヒータ温度制御部11は、図5に示す様に、後述するブリッジ回路と、このブリッジ回路の二つの中点端子23、24に接続されるオペアンプ25と、このオペアンプ25の出力に基づいてオン/オフするトランジスタ26より構成され、ヒータ素子17の温度を吸気温より所定温度(例えば200℃)だけ高い基準温度に制御する。
ブリッジ回路は、給電端子27とアース端子28との間に接続される二本のブリッジアームを有し、一方のブリッジアームには、ヒータ素子17の温度を検出する傍熱抵抗体18と第1の抵抗体21とが直列に接続され、他方のブリッジアームには、吸気温度を検出する吸気温検出抵抗体20と第2の抵抗体22とが直列に接続されている。
このヒータ温度制御部11は、例えば、ヒータ素子17の温度、あるいは、吸気温度が変化してブリッジ回路のバランスが崩れると、ヒータ素子17に流れる電流を制御して元のバランス状態に戻すように働く。
【0027】
具体的に説明すると、例えば、ヒータ素子17の温度が基準温度より低下すると、ヒータ素子17の抵抗値が低下してブリッジ回路の二つの中点端子23、24間に電位差が生じるため、オペアンプ25の出力によりトランジスタ26がオンする。その結果、電源29よりヒータ素子17に電流が流れて、ヒータ素子17の温度が上昇する。その後、ヒータ素子17の温度が基準温度まで上昇すると、二つの中点端子23、24間の電位差が無くなる、つまり、ブリッジ回路の平衡が保たれることにより、トランジスタ26がオフしてヒータ素子17に供給される電流が遮断される。その結果、ヒータ素子17の温度が基準温度に保たれる。
【0028】
流量検出部12は、図6に示す様に、4個の測温抵抗体19を各辺に配置して形成されるブリッジ回路と、このブリッジ回路の二つの中点端子30、31に接続されるオペアンプ32とで構成され、上流側の測温抵抗体19(第1測温抵抗体19a、第2測温抵抗体19b)と下流側の測温抵抗体19(第1測温抵抗体19c、第2測温抵抗体19d)との温度差より吸気量を検出する。
流量検出部12のブリッジ回路は、所定の電圧が印加される給電端子33と、アースに接続されるアース端子34との間に二本のブリッジアームを有し、一方のブリッジアームには、ヒータ素子17より上流側の第1測温抵抗体19aと下流側の第1測温抵抗体19cとが直列に接続され、他方のブリッジアームには、ヒータ素子17より下流側の第2測温抵抗体19dと上流側の第2測温抵抗体19bとが直列に接続されている。
【0029】
ここで、ヒータ素子17からの放熱量と測温抵抗体19の検出温度との関係について、図7を基に説明する。
サブ通路10に空気流れが発生していない時は、図7(a)の破線グラフで示す様に、ヒータ素子17を中心として上流側と下流側とで温度分布が対称となり、上流側の測温抵抗体19a、19bと下流側の測温抵抗体19c、19dとの間に温度差は生じない。
これに対し、サブ通路10に順方向の空気流れが発生している場合は、上流側の測温抵抗体19a、19bの方が下流側の測温抵抗体19c、19dより空気流れによる冷却効果が大きいため、図7(a)の実線グラフで示す様に、ヒータ素子17の下流側(図示右側)へ偏った温度分布が生じる。つまり、上流側の測温抵抗体19a、19bの方が下流側の測温抵抗体19c、19dより検出温度が低くなる。
一方、サブ通路10に逆方向の空気流れが発生すると、ヒータ素子17の上流側へ偏った温度分布が生じるため、上流側の測温抵抗体19a、19bの方が下流側の測温抵抗体19c、19dより検出温度が高くなる。
【0030】
上記の様に、サブ通路10に空気の流れが発生すると、図8に示す様に、空気流量(吸気量)および空気の流れ方向に応じて、上流側の測温抵抗体19a、19bの検出温度と下流側測の測温抵抗体19c、19dの検出温度との間に温度差ΔTが生じるため、この温度差ΔTより吸気量および空気の流れ方向を検出できる。
上流側の測温抵抗体19a、19bの検出温度と下流側測の測温抵抗体19c、19dの検出温度との間に温度差ΔTが生じた場合、つまり、上流側の測温抵抗体19a、19bの抵抗値と下流側の測温抵抗体19c、19dの抵抗値とがそれぞれ変化して、ブリッジ回路の二つの中点端子30、31間に電位差が生じると、その電位差がオペアンプ32で増幅されてデジタル演算部13へ出力される。
【0031】
デジタル演算部13は、回路チップ5に構成され、図9に示す様に、流量検出部12で検出される吸気量に応じた電圧信号(アナログ値)をデジタル変換するA/D変換器35と、傾斜センサ4の検出信号(アナログ電圧)をデジタル変換するA/D変換器36と、流量センサ3の姿勢変化によって生じる流量誤差を補正する流量補正部37(以下に説明する)と、補正された流量信号(電圧値)を周波数値に変換して外部のECU(図示せず)へ出力する信号出力部38等を有している。なお、信号出力部38は、電圧値を周波数値に変換することなく、電圧値のままECUへ出力する構成でも良い。
流量補正部37は、流量センサ3の姿勢変化によって生じる流量誤差と吸気量との相関データ(図11参照)を記録した補正マップを有し、この補正マップより、傾斜センサ4の検出結果を基に流量誤差を求め、流量センサ3によって検出される吸気量を流量誤差に応じて補正する。
【0032】
(実施例1の作用および効果)
本実施例の熱式流量計1は、流量センサ3の姿勢変化を検出する傾斜センサ4を備えているので、流量センサ3の姿勢が使用中に変化する場合でも、その流量センサ3の姿勢を検出することで、流量補正を行うことができる。すなわち、傾斜センサ4によって流量センサ3の姿勢変化が検出された場合は、流量センサ3の姿勢変化によって生じる流量誤差と吸気量との相関データを記録した補正マップより、傾斜センサ4の検出結果を基に流量誤差を求めて、流量センサ3によって検出される吸気量を流量誤差分だけ補正することができる。
これにより、流量センサ3の姿勢変化によって生じる流量誤差を低減できるので、エンジンに吸入される吸気量を精度良く検出できる。特に、走行中に車体の姿勢変化に伴って流量センサ3の姿勢が変化する自動車用の熱式流量計1として好適に使用できる。
【0033】
(変形例)
実施例1では、傾斜センサ4を流量センサ3の回路チップ5に組み込む、あるいは、センサハウジング2の一部に取り付けることを記載したが、例えば、車体の姿勢制御に傾斜センサ4を使用している車両では、新たに傾斜センサ4を設ける必要はなく、既に備え付けられている傾斜センサ4を本発明の姿勢検出手段に利用することもできる。
実施例1では、デジタル演算部13に流量補正部37を設けているが、流量補正部37の機能を外部のECUに持たせる構成でも良い。
【0034】
実施例1に記載した流量センサ3は、ヒータ素子17の上流側と下流側にそれぞれ測温抵抗体19を配置しているが、ヒータ素子17の上流側と下流側のどちらか一方のみ測温抵抗体19を配置した構成でも良い。
実施例1に記載したヒータ温度制御部11は、ヒータ素子17の温度を検出する傍熱抵抗体18と第1の抵抗体21、および、吸気温度を検出する吸気温検出抵抗体20と第2の抵抗体22とでブリッジ回路を構成しているが、傍熱抵抗体18を廃止することもできる。この場合、傍熱抵抗体18をヒータ素子17に置き換えてブリッジ回路を構成すれば良い。
【符号の説明】
【0035】
1 熱式流量計(熱式流量測定装置)
2 センサハウジング
3 流量センサ
4 傾斜センサ(姿勢検出手段)
11 ヒータ温度制御部
12 流量検出部
13 デジタル演算部
14 センサチップ
14a センサ基板(基板)
16 メンブレン
17 ヒータ素子
19 測温抵抗体
37 流量補正部(流量補正手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電によって発熱するヒータ素子を備え、このヒータ素子から放出される放熱量を基に、流体通路を流れる流体流量を検出する流量センサと、
この流量センサの姿勢変化を検出する姿勢検出手段と、
前記流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と流体流量との相関データを有し、この相関データより前記姿勢検出手段の検出結果を基に流量誤差を求め、前記流量センサによって検出される流体流量を前記流量誤差に応じて補正する流量補正手段とを備えることを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載した熱式流量測定装置は、
内燃機関を搭載する車両に使用され、前記内燃機関が吸入する吸入空気量を検出することを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した熱式流量測定装置において、
前記姿勢検出手段は、前記流量センサの傾斜角度を検出する傾斜センサであることを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載した熱式流量測定装置において、
前記傾斜センサは、前記流量センサに取り付けられている、あるいは、前記流量センサが組み込まれるセンサハウジングに取り付けられていることを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項5】
請求項2に記載した熱式流量測定装置において、
前記姿勢検出手段は、前記車両に備え付けられている傾斜センサであることを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項6】
請求項1〜5に記載した何れか一つの熱式流量測定装置において、
流量センサは、
基板の一部にメンブレンが形成され、このメンブレン上に前記ヒータ素子を配置したセンサチップと、
前記ヒータ素子の発熱温度が流体通路を流れる流体の温度より一定温度だけ高くなるように前記ヒータ素子への通電量を制御するヒータ温度制御部と、
流体の流れ方向に対し前記メンブレン上で前記ヒータ素子の上流側と下流側にそれぞれ配置される測温抵抗体を有し、上流側の前記測温抵抗体と下流側の前記測温抵抗体との温度差より流体流量を検出する流量検出部とを有することを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項1】
通電によって発熱するヒータ素子を備え、このヒータ素子から放出される放熱量を基に、流体通路を流れる流体流量を検出する流量センサと、
この流量センサの姿勢変化を検出する姿勢検出手段と、
前記流量センサの姿勢変化によって生じる流量誤差と流体流量との相関データを有し、この相関データより前記姿勢検出手段の検出結果を基に流量誤差を求め、前記流量センサによって検出される流体流量を前記流量誤差に応じて補正する流量補正手段とを備えることを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載した熱式流量測定装置は、
内燃機関を搭載する車両に使用され、前記内燃機関が吸入する吸入空気量を検出することを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した熱式流量測定装置において、
前記姿勢検出手段は、前記流量センサの傾斜角度を検出する傾斜センサであることを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載した熱式流量測定装置において、
前記傾斜センサは、前記流量センサに取り付けられている、あるいは、前記流量センサが組み込まれるセンサハウジングに取り付けられていることを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項5】
請求項2に記載した熱式流量測定装置において、
前記姿勢検出手段は、前記車両に備え付けられている傾斜センサであることを特徴とする熱式流量測定装置。
【請求項6】
請求項1〜5に記載した何れか一つの熱式流量測定装置において、
流量センサは、
基板の一部にメンブレンが形成され、このメンブレン上に前記ヒータ素子を配置したセンサチップと、
前記ヒータ素子の発熱温度が流体通路を流れる流体の温度より一定温度だけ高くなるように前記ヒータ素子への通電量を制御するヒータ温度制御部と、
流体の流れ方向に対し前記メンブレン上で前記ヒータ素子の上流側と下流側にそれぞれ配置される測温抵抗体を有し、上流側の前記測温抵抗体と下流側の前記測温抵抗体との温度差より流体流量を検出する流量検出部とを有することを特徴とする熱式流量測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−247266(P2012−247266A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118311(P2011−118311)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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