説明

熱抵抗及び透湿抵抗測定装置

【課題】 衣服等の繊維製品等を構成する材料の定常状態での熱抵抗及び透湿抵抗とをより誤差少なく簡便に測定する改良された装置を提供する。
【解決手段】 測定部が水平に設けた多孔性金属板と、上方に開放した注水路を有しかつ上記多孔性金属板の下面に接して固定されかつ加熱手段を内蔵した金属ブロックと、この金属ブロックの温度制御装置と、金属ブロック加熱電力測定装置と、上記注水路に水を供給する注水装置とを備えた熱抵抗及び透湿抵抗測定装置において、上記多孔性金属板として熱抵抗が0.083〜0.102K・m/W、透湿抵抗が0.0078〜0.0123kPa・m2/Wの燒結金属板を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品等の定常状態での熱及び水蒸気の移動特性を測定する装置に関し、詳しくは繊維製品等の熱抵抗及び透湿抵抗を測定する装置に関し、さらに詳しくは測定部が水平に設けた多孔性金属板と、上方に開放した注水路を有しかつ上記多孔性金属板の下面に接して固定されかつ加熱手段を内蔵した金属ブロックと、この金属ブロックの温度制御装置と、金属ブロック加熱電力測定装置と、上記注水路に水を供給する注水装置とを備えた熱抵抗及び透湿抵抗測定装置において、繊維製品等の定常状態での熱抵抗及び透湿抵抗をより誤差少なく測定できる改良された装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、衣服等の繊維製品等を設計する場合に、衣服等の快適性は重要な評価指標である。その快適性の中で最も基本的でかつ重要な特性は、熱と水分の移動に関係する特性である。衣服等を実際に着用した際の快適性は、人体の皮膚と衣服とで形成される空間内の温度と湿度とが大きく影響し、それぞれをいわゆる快適域内に制御することが重要である。これを達成するための測定技術を、衣服等の繊維製品等を構成する材料の設計から衣服等の試作まで段階的に大分類すると、まず第1ステップとして衣服等の繊維製品等を構成する材料の定常状態での熱及び水蒸気の移動特性を誤差少なく測定する技術、第2ステップとして模擬皮膚と衣服等の繊維製品等を構成する材料とで形成する空間内の熱及び水蒸気の移動特性を誤差少なく測定する技術、第3ステップとして模擬人体と衣服等の繊維製品等とで形成する空間内の熱及び水蒸気の移動特性を誤差少なく測定する技術が必要であり、またこれらの結果と実際に着用した際の熱及び水蒸気の移動特性または快適感とを対比させることが重要である。
【0003】
また一般に、熱の移動特性としては、例えば熱抵抗、クロー値、放散熱損失量、保温率、温度等がある。また水蒸気の移動特性としては、透湿抵抗、水蒸気通過量、透湿度、湿度等がある。これら熱及び水蒸気の移動特性は、例えば温度では℃、湿度では%RHなどというように、異なる測定単位系で測定することが簡便で、別々の測定装置で測定されることが多い。しかしながら、このように異なる測定単位系で測定した熱及び水蒸気の移動特性は、その各々が全体の系に及ぼす効果を相互に比較して材料を最適設計するのが困難であり、工夫が必要である。本発明者はその一つの解として、熱及び水蒸気の移動をエネルギーの移動と考え、熱抵抗及び透湿抵抗を特性として選ぶべきであると考えるに至った。
【0004】
これを具体的に説明すると、前記第1ステップに相当する従来法の定常状態での熱の移動特性に関係する試験方法としては、例えばJIS L 1096(一般織物試験方法,1999)の第8.28.1項に記載されている保温性A法(恒温法)が公知である。この技術は、上部が開放されたフード内の下部に設けられ、かつ周囲を熱ガードで囲まれた恒温発熱体の上部の金属板表面に試験片を取り付け、低温度の外気に向かって流れ出す熱量が一定となり、発熱体の表面温度が一定値を示すようになってから2時間後に試験片を透過して放散される熱損失を求め、これと試験片のない裸状のままで同様の温度差及び時間に放散される熱損失とから保温率を計算によって求めるものである。この方法は熱の移動特性を測定するには優れた技術であるが、水蒸気の移動特性を誤差少なく測定する技術は何ら開示も示唆もしていない。
【0005】
また前記第1ステップに相当する定常状態での水蒸気の移動特性に関係する試験方法としては、例えばJIS L 1099(繊維製品の透湿度試験方法,1993)に記載されている方法が公知である。その一例は、予め約40℃に温めた透湿カップに吸湿剤を入れ、試験片の表面を吸湿剤に向けて透湿カップに載せて固定してシールして試験体とし、この試験体を温度40±2℃、湿度(90±5)%RHの恒温恒湿装置内の試験片上約1cm上部の風速が0.8m/sを越えない位置に置き、1時間後に試験体を取り出して直ちに質量を測定し、測定後に再び試験体を恒温恒湿装置内の同位置に置き、1時間後に試験体を取り出して直ちに質量を測定し、繊維製品の試験片を通過した水蒸気の質量をその繊維製品1m2・1時間当たりに換算するものである。この方法は繊維製品の試験片を通過した水蒸気の質量を測定するには優れた技術であるが、熱の移動特性を測定する技術は何ら開示も示唆もしていない。
【0006】
上記2例で得られた熱損失や保温率と、通過水蒸気量とは測定装置も単位も異なるので、それら特性の相互比較はできず、相互に比較して材料を最適設計できる熱抵抗及び透湿抵抗を求めることはできない。
【0007】
一方、前記第2ステップに相当する、同一の測定装置を使用し、衣服等を構成する材料の熱及び水蒸気の移動特性を測定する装置や方法に関係する研究は従来から多数行われている。例えば函体の上面に模擬皮膚を設けると共に、この函体内に水を入れておき、ヒーターで加温することにより、発生蒸気を模擬皮膚の上面から放出させるように構成した人工的な発汗を行う装置が開示されている(特許文献1)。しかしながらこの装置では、発汗量の制御は函体内の水温を上げるしか他に方法はないので、この装置で透湿量と温度を別々に制御することは困難であり衣服等を着用した環境条件から大きく異なるとともに、前記第1ステップに相当する技術ではなく、かつ相互に比較できる熱及び水蒸気の移動特性や、相互に比較できる熱抵抗及び透湿抵抗を求めることは困難である。
【0008】
また前記第2ステップに相当する、外部から函体内に導入された水蒸気を函体の任意の面に設けられた水蒸気透過性膜または水蒸気透過性板から放出させるにあたり、函体内部の温度及び湿度の調節によって放散水蒸気の量および温度を制御できる装置が提案されている(特許文献2)。しかしながらこの装置では、水蒸気透過性膜の孔から放散される水蒸気には空気の流れが伴うため、実際の人体の発汗作用と異なり、衣服等を着用した環境条件から大きく異なるとともに、前記第1ステップに相当する技術ではなく、相互に比較できる熱及び水蒸気の移動特性や、相互に比較できる熱抵抗及び透湿抵抗を求めることは困難である。
【0009】
また近年では、前記第2ステップに相当する、改良された衣服内気候シミュレーション装置が開発されている。例えば、多孔質材料からなる模擬皮膚、発汗孔を有する基体およびこの基体に熱を供給する熱源部を備えた発汗手段と、前記発汗孔に水を供給する送水手段と、前記熱源部から前記基体に供給する熱量を制御する熱量制御手段と、前記模擬皮膚に近接した上面に試料を伸展固定する試料固定手段と、前記模擬皮膚と前記試料との間の空隙内の温度および湿度を測定する空隙温湿度センサとを備え、前記送水手段から前記発汗孔への送水量を制御する送水量制御手段を有する装置を使用し、人体の運動状態を模擬して送水を間欠的に行う衣服内気候シミュレーション技術が開示されている(特許文献3)。この技術は非定常状態での人体の運動状態を模擬し、模擬皮膚と衣服等を構成する材料とで形成する空間内の熱及び水蒸気の移動の結果としての温度および湿度を、衣服を実着用して運動した時の皮膚と衣服等を構成する材料とで形成する空間内の温度および湿度とよく対応させて測定できるという点で優れている。さらに上記の各発汗孔と送水手段とをチューブで直結し、基体中の各発汗孔から約0.01cc/min程度(基体に供給される全発汗量として245g/(m2×hr)程度)の微量の水を均一に吐出させ、多孔の模擬皮膚で水を拡散させ、均一な水蒸気として放出できる点でも優れている。しかしながらこの装置では各発汗孔とチューブとを接続部する必要から基体の構造が複雑になり、発汗孔の数にも上限が生じ、またチューブの内径が小のためスケールの沈着による圧力損失増大による吸水量の誤差が生じやすいので改良が望まれるほか、この技術は前記第1ステップに相当する技術ではなく、また模擬皮膚と試料との空間の温湿度を測定するので、相互に比較できる熱及び水蒸気の移動特性や、相互に比較できる熱抵抗及び透湿抵抗を求めることは困難である。
【0010】
これに類似の技術として、発熱性部材および塩化ビニル、シリコン、ゴムおよびアクリル樹脂からなるグループから選択される低熱伝導性部材をこの順に積層してなる模擬皮膚からなり、例えば医療用プラスチックシリンジを使用して各発汗孔に独立して体温の水溶液を一定連続的かつ可変に供給可能な水溶液供給手段を付加した装置で、模擬皮膚の表面温度や衣服内環境を測定する技術が開示されている(特許文献4)。この技術は人間の発汗、発熱状態を人工的に発現させ、模擬皮膚の発汗孔からの気体状および液状・玉状の発汗を安定的かつ容易に制御でき、皮膚からの放熱および皮膚温度を精度良く再現でき、この装置を使用することにより人体が衣服を着用したときの衣服内環境を精度良く再現できる点で優れている。しかしながらこの装置では各発汗孔とチューブとを接続する必要から基体の構造が複雑になり、発汗孔の数にも上限が生じ、またチューブの内径が小のためスケールの沈着による圧力損失増大による吸水量の誤差が生じやすいので改良が望まれるほか、この技術は前記第1ステップに相当する技術ではなく、また低熱伝導性部材を模擬皮膚として用いているので、衣服等の繊維製品等を構成する材料の熱抵抗を求めることはできず、 透湿抵抗を求めることも困難である。
【0011】
本発明者は、これらの問題点を解決できる装置を考案した(特許文献5)。しかしながら研究を進めた結果、特許文献5に記載の装置の多孔性金属板として微小孔を多数穿った金属板(微小孔多孔性金属板)を使用し、かつ水位をその表面付近に制御して透湿抵抗の測定を行った場合、水の蒸発は上記微小孔の周辺からのみ生じて充分な潜熱移動がおこらず、測定した熱損失は水を使用しない乾燥状態における熱損失(顕熱移動)と殆ど変わらないため、例えば水で湿潤させたセルロース膜で微小孔多孔性金属板の表面を覆ってから測定を開始しなければならなかった。しかしながら含水量などをいつも同一としセルロース膜を水で均一に湿潤させるのは容易でなく、本発明の目的とする透湿抵抗(潜熱移動)を精度良く測定するには更なる改良が必要であることが判った。また水位を微小孔多孔性金属板の表面より上にし、微小孔多孔性金属板の表面と透湿防水膜との間に水の層を形成させて上記金属板全面と透湿防水膜とを湿潤させたところ、その熱損失は上昇して妥当な値となったが、オーバーフローする水の処理対策等が別途必要になり、更なる改良が必要であることも判った。
【0012】
そこで多孔性金属板として所定の特性を満足する燒結金属板を使用して研究をさらに進めた結果、水位をその表面付近に制御することにより透湿防水膜は充分に湿潤させることができ、透湿抵抗を精度良く測定することができた。しかしながら試験を重ねるにつれ焼結金属板の微細孔が閉塞する現象が生じたり、水を使用しない状態での熱抵抗の試験を行った場合に裸の燒結金属板のみで測定した熱抵抗が試料を燒結金属板上に配置して測定した熱抵抗よりも大となる(すなわち着衣状態でいえば、衣服を着用した方が裸体よりも熱が移動しやすく涼しい)異常な結果となってしまった。
【0013】
【特許文献1】特開昭58−21164号公報
【特許文献2】特公平4−6012号公報
【特許文献3】特開2003−49311号公報
【特許文献4】特開2003−167510号公報
【特許文献5】実用新案登録第3121969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
熱の移動と水蒸気の移動の両者をエネルギーの移動としてとらえ、衣服等の繊維製品等を構成する材料の定常状態での熱抵抗及び透湿抵抗をより誤差少なく簡便に測定する改良された装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は第1に、測定部が水平に設けた多孔性金属板と、上方に開放した注水路を有しかつ上記多孔性金属板の下面に接して固定されかつ加熱手段を内蔵した金属ブロックと、この金属ブロックの温度制御装置と、金属ブロック加熱電力測定装置と、上記注水路に水を供給する注水装置とを備えた熱抵抗及び透湿抵抗測定装置において、上記多孔性金属板が0.083〜0.102K・m/Wの熱抵抗及び0.0078〜0.0123kPa・m2/Wの透湿抵抗を有すると共に燒結金属板からなることを特徴とする熱抵抗及び透湿抵抗測定装置である。
【0016】
本発明は第2に、多孔性金属板が、燒結金属板と0.8以上の赤外線放射率をもつ赤外線放射成分とからなる熱抵抗及び透湿抵抗測定装置である。
【0017】
本発明は第3に、多孔性金属板が、微細孔の平均径が5〜40μmである燒結金属板の表面に上記微細孔の平均径を上記範囲内に維持するように赤外線放射成分を固着させてその表面の赤外線放射率を0.8以上としたことを特徴とする上記の熱抵抗及び透湿抵抗測定装置である。
【0018】
本発明は第4に、多孔性金属板が、銅粉の焼結体からなる焼結金属板にクロムメッキを施したのちそのメッキ層の上に0.8以上の赤外線放射率をもつ赤外線放射成分を固着させたものであり、かつこの多孔性金属板が金属ブロックと着脱自在の関係にあることを特徴とする上記の熱抵抗及び透湿抵抗測定装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、衣服等の繊維製品等を構成する材料の定常状態での熱抵抗及び透湿抵抗とをより誤差少なく簡便に測定できる改良された装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず全体像を説明する。
【0021】
本発明において、被測定物質の典型例は衣服等の繊維製品等であり、例えば衣服、キルト、寝袋、室内装飾材、及びその他繊維製品や、繊維に似た製品に使用される多層複合材を含む生地、フィルム、コーティング、発泡材、及び皮革も包含される。
【0022】
熱抵抗Rctとは、試料の両面の温度差(即ち多孔金属板表面温度と雰囲気温度との差)を、温度勾配方向に合成された単位面積当たりの熱流速で除した値である。乾燥熱流速は、一つまたはそれ以上の伝導、対流および放射の成分から構成されることがある。熱抵抗Rct(K・m2/W)は、生地試料または複合試料に固有の値であり、この値から定常状態での温度に応じて所定の面積を通過する乾燥熱流速が決まる。
【0023】
透湿抵抗Retは、試料両面の水蒸気圧差(即ち多孔金属板表面温度での飽和水蒸気圧と雰囲気の水蒸気圧との差)を温度勾配方向に合成された単位面積当たりの熱流速で除した値である。蒸発熱流速は、拡散と対流の両成分から構成されることがある。透湿抵抗Ret(Pa・m2/W)は、生地試料または複合試料に固有の値であり、この値から定常状態での水上気圧差に応じて所定の面積を通過する潜在的な蒸発熱流速が決まる。
【0024】
上記熱抵抗と透湿抵抗とから、水蒸気透過指数imtを求めることができる。水蒸気透過指数imtは、透湿抵抗に対する熱抵抗の割合で、以下の(1)式から求められる。
【0025】
imt=S・Rct/Ret ・・・(1)
ここに、S=60Pa/K、imtは無次元の数値で0〜1の間の値となる。この値が0であるということは、試料が水蒸気を通さない性質であることを意味し、換言すれば透湿抵抗が無限大である。この値が1となる試料は、同じ厚さの空気層と同じ熱抵抗及び透湿抵抗を持つことを意味する。
【0026】
また上記透湿抵抗から、水蒸気透過性Wdを求めることができる。水蒸気透過性Wdは、透湿抵抗と温度に依存する生地試料または複合試料の特性であり、以下の(2)式から求められる。
【0027】
Wd=1/(Ret・φTm) ・・・(2)
ここに、φTmは測定部が温度Tmの時の水の蒸発に伴う潜熱で、例えばTm=35℃の時0.672W.h/gである。水蒸気透過性はg/m2.h.Paで表される。
【0028】
試験に供する試験片は皮膚温度近傍の例えば30〜40℃、好ましくは33〜37℃、より好ましくは35℃に電気的に加熱された多孔性金属板上に載せる。空調された空気を試験片上面を横切って試験片上面と平行方向に流れるよう送風する。熱抵抗を測定するためには、例えば温度20〜25℃、相対湿度65%RHの空調された空気を送風し、系が定常状態に達した後に試験片を通過する熱流束を測定する。本発明の装置を用いた試験方法では、試験片+境界面における空気層の熱抵抗から裸の多孔性金属板上面の空気層の熱抵抗を引き算することによって、試料の熱抵抗Rctが求められる。ただし、両者の抵抗はいずれも同じ試験条件下で測定された抵抗値を用いる。
【0029】
透湿抵抗を測定するために、皮膚温度近傍の例えば30〜40℃、好ましくは33〜37℃、より好ましくは35℃に電気的に加熱された多孔性金属板は水蒸気は透過するが液体の水は透過しない膜(以下、透湿防水膜という)で覆う。加熱多孔性金属板に供給された水分は蒸発して、蒸気として膜を透過する。従って液体の水は試験片に接触しない。試験片が膜上に設置された状態で、多孔性金属板と同じ温度例えば温度25〜35℃、相対湿度例えば40〜65%RHの空調された空気を送風する。板上の温度が一定に保たれている時の熱流束は、水分の蒸発割合の目安で、この割合から試験片の透湿抵抗が測定される。本発明装置を用いた試験方法では、試験片+境界面の空気層の透湿抵抗から裸の多孔性金属板上面の空気層の透湿抵抗を引き算することによって試料の透湿抵抗Retが求められる。ただし、両者の抵抗はいずれも同じ試験条件下で測定された抵抗値を用いる。
【0030】
以下に図面を参照しながら本発明の測定装置全体の最良の形態について詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明に係わる温度及び注水量を制御可能な測定装置の一構成例を示す概念図である。図中の温度及び注水量を制御可能な測定部7の構成要素である1は多孔性金属板である。この多孔性金属板1は、その上面から熱及び水蒸気を均一に放散させて測定誤差を小とするために水平に設置する必要があり、その下面に接して固定されかつ加熱手段を内蔵した金属ブロック6により加熱されるとともに、この金属ブロック6の上面に開口した注水路12から水を供給される。
【0032】
多孔性金属板の各部位の温度と水蒸気の放散を更に均一にするために、その厚さは1〜5mm、好ましくは約3mmとし、その面積は最低0.04m2(例えば200mm×200mm)とする。
【0033】
温度制御装置3は温度センサ2を含み、加熱手段13を制御することにより、測定部7の温度Tmを±0.1K以内の誤差で一定に保つようにする。加熱電力は、適切な加熱電力測定装置4によって、その使用範囲の全体にわたって±2%で測定するようにする。
【0034】
注水路12は焼結金属板を必須構成材とする多孔性金属板(以下「焼結金属板」という場合がある)1と接触している金属ブロック6に内蔵されている。注水装置5はポンプなどの給水装置14と、上記注水路12に連通させた連通管15と、給水源16と、これらをつなぐ管17とから構成され、注水路12に水を供給する。この注水路12から焼結金属板1に水を供給し、蒸発させて水蒸気として放散させる。
【0035】
焼結金属板1に入る前に、水は焼結金属板1の温度に予熱されていなくてはならない。蒸発量が僅かであるため、これは水が焼結金属板1へ入る前に金属ブロック6中の注水路12に通すことによって可能で、水の蒸発量を一定温下で定常状態にすることができる。
【0036】
図2は、本発明に係わる温度制御が可能な熱及び水蒸気ガードを備えた装置の一構成例を示す概念図である。ただしこの図では、熱ガードのみを備えた例を示す(この場合も熱及び水蒸気ガードという)。熱抵抗及び透湿抵抗をより誤差少なく測定するためには、焼結金属板1は、その周囲を熱及び水蒸気ガード8 で囲むことが望ましい。その構成は、上記した測定部7と同様にすることが望ましい。しかしながら事情が許さない場合は、蒸気ガードを除いた熱ガードのみの構造とすることもできる。9は温度制御装置、10は温度センサである。この熱及び水蒸気ガード8は、測定テーブル11の開口部に納められている。
【0037】
測定誤差を小とするため、測定テーブルにおける測定部の位置は、調節可能で、測定部の上に設置された試験片表面が測定テーブルと同一平面になるようにしなければならない。例えば5mm以下程度の薄い試料の場合、それぞれの試料から最低3枚の試験片を採取し試験するのが好ましい。試験を行う前に試験片は適切な温湿度下で最低12時間調湿するのが好ましい。試験片は測定部と熱ガードを完全に覆うようにする。また例えば、出来るだけ多くの配線を熱及び水蒸気ガード8の内側表面に沿わせるなどして、配線から測定部またはその温度測定装置への熱損失は最小にしなければならない。
【0038】
温度制御機能を有する熱及び水蒸気ガード8、は金属のように高い熱伝導性を持つ材質から成り、電気的な加熱手段を内蔵する。この目的は、測定部7の側面及び底面からの熱の漏洩を防ぐためである。熱及び水蒸気ガードガードの幅bは、最低15mmなければならない。熱ガードの上部表面と測定部の金属板の表面の段差は1.5mmを超えてはならない。温度センサ10により測定された熱ガードの温度Tsは、温度制御装置9によって測定部の温度Tmと±0.1Kの精度で一定に維持される。
【0039】
これら測定部7と熱及び水蒸気ガード8を備えた装置は、必要な環境条件を備えた恒温恒湿室に設置してそのまま試験に供しても良いが、これらへの送風条件を一定に維持して測定誤差を小とするために、試験用風洞の中に測定部と熱ガードが組み込むことが好ましい。また風洞内の環境温度及び湿度は管理されている必要がある。空調された空気は送風されており、測定部7と熱及び水蒸気ガード8の表面上を横切って平行に流れるようにする。このため測定テーブル11上方を囲むように測定部7と熱及び水蒸気ガード8の表面に平行な面をもつ送風管(図示せず)を設けることが望ましいが、この送風管の高さは50mm以上が好ましい。試験中の気流温度Taの変動は±0.1Kを超えないようにする。なお熱抵抗及び100Pa・m/W以下の透湿抵抗の測定の場合、±0.5Kの精度があれば十分である。試験中の気流の相対湿度の変動は±3%R.H.を超えないことが望ましい。この気流の測定は測定テーブル11の上方15mmの覆われていない測定部の中央で、空気温度20℃の時に行うとよい。この地点で測定された試験中の風速Vaは平均1m/sで、変動は±0.05m/sを超えてないことが望ましい。この地点の気流はSv/Vaで表される風速変動係数が0.05〜0.1程度の乱流であることが重要である。風速変化は1秒以下の時定数を持つ器機で測定して10分間にわたって6秒間隔で測定するのがよい。
【0040】
このように構成した測定部、または測定部と熱及び水蒸気ガード、または試験用風洞の中に測定部と熱及び水蒸気ガードを組み込んだ試験用風洞を設けた装置は、雰囲気の温度及び湿度の変更を容易にしかつ一定に維持して測定誤差を小とするために、恒温恒湿槽の中に組み込むことが好ましい。
【0041】
次に、本発明の特徴である多孔性金属板の必須構成材である焼結金属板について、さらに詳しく説明する。
【0042】
多孔性金属板1は熱抵抗が0.083〜0.102K・m/W、透湿抵抗が0.0078〜0.0123kPa・m2/Wであってかつ必須構成材が燒結金属板からなることを要する。このようにすることによって初めて、測定部が水平に設けた焼結金属板と、上方に開放した注水路を有しかつ上記多孔性金属板の下面に接して固定されかつ加熱手段を内蔵した金属ブロックと、この金属ブロックの温度制御装置と、金属ブロック加熱電力測定装置と、上記注水路に水を供給する注水装置とを備えた熱抵抗及び透湿抵抗測定装置で繊維製品等の定常状態での熱抵抗及び透湿抵抗をより誤差少なく測定できる。
【0043】
本発明で用いる焼結金属板の熱抵抗が0.083〜0.102K・m/Wの範囲にないと、焼結金属板の上に順次試料を重ねて熱抵抗を測定した場合、試料の重ね枚数と熱抵抗との間に直線性の関係が成立せず、試料の熱抵抗の正確な測定が困難となる。また焼結金属板の熱抵抗を0.083K・m/Wより小とするためには焼結金属板の厚さを小とすると良いが、焼結板が変形し易くなりまた焼結板内の水位の制御が困難となる。焼結金属板の熱抵抗が0.102K・m/Wより大となると、試料の重ね枚数と熱抵抗との間に直線性の関係がますます成立せず、試料の熱抵抗の正確な測定が不可能となる。
【0044】
焼結金属板の透湿抵抗が0.0078〜0.0125kPa・m2/Wの範囲にないと、試料の重ね枚数と透湿抵抗との間に直線性の関係が成立せず、試料の透湿抵抗の正確な測定が困難となる。焼結金属板の透湿抵抗を0.0078kPa・m2/Wより小とするためには焼結金属板の厚さを小としかつ焼結金属板の微細孔を5μmより小とすると良いが、焼結板が変形し易くなりまたメッキ等の後処理や異物沈着による微細孔の目詰まりが生じ、好ましくない。焼結金属板の透湿抵抗を0.0123kPa・m2/Wより大とすると、水蒸気の発生が透湿防水膜の透湿抵抗より少なくなり、生成する水蒸気量の制御が困難となる。
【0045】
熱抵抗が0.083〜0.102K・m/W、透湿抵抗が0.0078〜0.0123kPa・m2/Wであり、焼結金属板特有の問題も解決できる燒結金属板のより具体的な構成は次の通りである。
【0046】
焼結金属板は多孔質であり、その微細孔の平均径は5〜40μm、好ましくは10〜20μmとする。微細孔の平均径が5μmより小であると水の滲出が困難になり、透湿抵抗が大となる傾向があると同時に、目詰まりしやすくなり保守が困難となる。また後述の遠赤外線放射率の高い化合物を固着させる場合の加工が困難になる。微細孔の平均径が40μmより大となると水の拡散が困難になり、透湿抵抗が大となる傾向がある。
【0047】
金属ブロック6から焼結金属板の表面に熱を効率よく伝導させるために、焼結金属板を形成する粒子は銅粉であることが望ましい。また熱抵抗と透湿抵抗の測定の経時変化を抑制するために、焼結金属板内外の表面にはクロムメッキ等を施すことが望ましい。
【0048】
多孔性金属板の各部位の温度と水蒸気の放散を更に均一にするために、その厚さは1〜5mm、好ましくは約3mmとし、その面積は最低0.04m2(例えば200mm×200mm)とする。また焼結金属板の外周縁部には外周部への水の流出を防止するためにシール層を形成することが望ましい。さらに焼結金属板および金属ブロック6内の注水路12の保守作業を容易簡便にするために、焼結金属板1と金属ブロック6とは締結部材としてのボルト21等で着脱自在に固定することが望ましい。
【0049】
焼結金属板1の表面の赤外線放射率は、20℃、波長8μm〜14μmで測定した場合、0.8より大きい必要があることが判明した。こうすることにより、焼結金属板表面からの熱放射が促進され、燒結金属板のみで測定した熱抵抗が試料を燒結金属板上に配置して測定した熱抵抗よりも小となり、試料の熱抵抗をより精度良く求めることができる。
【0050】
焼結金属板1の表面の赤外線放射率を0.8以上とするためには、その表面に赤外線放射率が0.8以上の赤外線放射成分を有機樹脂等のバインダーを介して焼結金属板の微細孔の平均径よりも小さい厚さで固着させることが望ましい。
【0051】
この様な赤外線放射成分としては、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、アルミナなどの不活性固体微小粒子が挙げられるが、焼結金属板の微細孔を閉塞しにくく、樹脂による焼結金属板表面への固着がしやすく、脱落しにくい0.2μm以下の微小粒径(平均粒径0.08μm)のものが容易に入手できるカーボンブラックなどが特に望ましい。
【0052】
赤外線放射成分を固着させる有機樹脂としては赤外線放射率が高いフッ素系樹脂やポリエステル系樹脂などが挙げられるが、熱的および化学的安定性が高いフッ素系樹脂が好ましい。
【0053】
赤外線放射率が0.8以上の赤外線放射成分は、上記有機樹脂を介して上記焼結金属板の微細孔の平均径より小さい厚さで固着させると、焼結金属板の微細孔を閉塞することがない。例えばこの厚さは、焼結金属板の微細孔の平均径の1/5〜1/20程度とすれば、焼結金属板の微細孔を閉塞することがないし、高放射率の化合物や有機樹脂の脱落も防止することができる。
【0054】
赤外線放射成分を上記有機樹脂を介して上記焼結金属板の表面に固着させる方法は、例えばカーボンブラックを分散配合した1μm以下、好ましくは0.5μm以下の熱溶融性フッ素系樹脂粉末を焼結金属板の表面に塗布して焼結し、薄膜を形成させることが望ましい。また上記カーボンブラックを上記熱溶融性フッ素系樹脂粉末に分散させたのち、同様の焼結操作をしてもよい。このようにすれば、非親水性のフッ素系樹脂を用いても、熱抵抗と透湿抵抗の測定は、精度良くおこなうことができる。
【0055】
焼結金属板1の表面の赤外線放射率を0.8以上とするために上記粉末を溶射することもできるが、その溶射量が少ないと粉末の付着斑を生じ、またその溶射量が多いと焼結金属板の微細孔を閉塞して水の滲出が困難になると同時に目詰まりしやすくなるので、溶射量は上記のように焼結金属板の微細孔の平均径の1/5〜1/20程度とすることが好ましい。
【0056】
焼結金属板1にメッキを施したり、赤外線放射成分を上記有機樹脂を介して上記焼結金属板の表面に固着させると、焼結金属板1の微細孔の上記処理後の平均径(特に焼結金属板の表層の平均径)は当初の平均径より小さくなるが、焼結金属板の微細孔の平均径の1/5〜1/20程度とすれば、透湿抵抗に影響を及ぼすことがなく、目詰まり等による測定値の経時変化も殆どなく、精度良く測定することができる。
【0057】
以上のような焼結金属板の構成とすることにより、焼結金属板のみの透湿抵抗を0.0078〜0.0123kPa・m2/Wにすることが必要である。透湿抵抗の測定は、大きな寸法の焼結金属板を作製できる場合は本発明の装置にセットして、上述した方法で測定することができる。しかしながら小さな寸法の試験的焼結金属板で測定したい場合には、例えば市販の小型の迅速熱特性測定装置(サーモラボIIなど)を使用して、大きな誤差なく測定することができる。例えば恒温の加熱板の上に水を含ませたろ紙などをおき、その上に水を含ませた焼結金属板を載せ、その周囲を発泡スチロール板などの断熱板で囲い、加熱板の消費電力を測定して計算により大凡の透湿抵抗を求めることができる。小さな寸法の試験的焼結金属板で熱抵抗を測定したい場合には、水を含ませたろ紙を用いずかつ焼結金属板に水を含ませないで、上記透湿抵抗測定と同様の測定を行うと大凡の熱抵抗を求めることができる。
【0058】
注水は特許文献5に記載のように水柱を管理する方法が好適である。本発明の場合、送水圧力0〜1mmHOで透湿抵抗を0.0078〜0.0123kPa・m2/Wにすることができる。ちなみに、環境温度35℃、環境相対湿度65%RHでの焼結金属板からの水の蒸発量は390g/mhr(38.9mg/cmhr)程度であり、ランニング時の発汗量と最大発汗量との間の発汗量に相当する。
【0059】
以上に述べた本発明の構成とすることにより、衣服等の繊維製品等を構成するの材料の定常状態での熱抵抗及び水蒸気抵抗とをより誤差少なく簡便に測定することができる。
【0060】
以下に実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0061】
図1と図2に示した構成の測定装置を試作した。焼結金属板は、銅粉を焼結した微細孔の平均径(ろ過径)は20μm、厚さ3mm、一辺の長さ20cmの正方形(400cm2)の焼結金属板で、クロムメッキを施した。その後、放射率0.95で平均粒子径0.08μmのカーボンブラック粉体と平均粒子径0.1μmの熱溶融性フッ素樹脂粉体との混合粉体を焼結金属板の表面に厚さ約2μm相当溶射し、表面の赤外線放射率を0.94とした。
【0062】
金属ブロックは、その表面の一辺の長さ20cmの正方形(400cm2)のアルミ製で、下部にヒータを鋳込んだ。ヒータの消費電力は、加熱電力測定器により測定した。金属ブロックには温度センサを挿入し、温度制御装置によりその温度を35℃に制御した。金属ブロックの上部には、上方に開口した幅9mm、深さ9mmの注水路を縦横に各13本等間隔に設けた。この金属ブロックには、上記注水路に給水するための給水路を設けた。焼結金属板と金属ブロックとは、ボルトで相互を固定し、測定テーブルに水平に設置した。
【0063】
上記注水路に水を供給する注水装置は、上記注水路に連通させた内径18mm、高さ120mmの連通管と、チューブ式給水ポンプと、この連通管に給水ポンプより給水するための内径2.5mmの製チューブとで構成した。連通管には静電容量式水位検出センサを取り付けて給水ポンプをON、OFF制御できるようにした。ただし熱抵抗の測定の場合は給水と注水とは行わなかった。
【0064】
この測定部と同じ構成とした幅50mmの熱及び水蒸気ガードで測定部を囲み、測定テーブルに水平に設置した。
【0065】
測定テーブルに設置した測定部と熱及び水蒸気ガードの上方には、高さ5cm、幅35cm、長さ50cmの覆いを設け、側面の一方から回転円柱型送風機で送風し、側面の反対側の一方から排気し、かつその覆いの上部中央に風速センサを取り付けた構造の風洞を設け、風速を1m/sに制御した。
【0066】
この測定部と熱及び水蒸気ガードとを組み込んだ風洞を、温度25℃、相対湿度65%RHの恒温恒湿槽の中に設置した。ただし制御系の装置、給水ポンプは、恒温恒湿槽の外に設置した。
【0067】
温度、相対湿度、風速、加熱電力が定常状態に達してからそれらを計測し、焼結金属板の熱抵抗を算出したところ、0.094K・m2/Wであった。
次いで焼結金属板の上に、試験片として、厚さ0.54mm、目付204g/m2の撥水防汚加工した黄色のアラミド製平織物(商品名ノメックスIIIAアラミド)を1〜4枚被せて測定して総熱抵抗を算出したところ、それぞれ0.112、0.135、0.152、0.170K・m2/Wに増大した。試験片の枚数に対して総熱抵抗の値をプロットしたところ1次の回帰直線が得られ、試験片の熱抵抗効果が精度良く検出できた。
[比較例1]
【0068】
クロムメッキを施しただけの焼結金属板(赤外線放射率0.54)を用いた以外は実施例1と同様の試験を行った。その結果、焼結金属板の熱抵抗は0.125K・m2/Wであった。次いで焼結金属板の上に試験片を1枚被せたところ、総熱抵抗は0.116K・m2/Wに減少した。裸の焼結金属板の方が焼結金属板の上に試験片を1枚被せた方がより熱抵抗が大きいということは、例えば裸体の方が衣服を着用するよりも暖かいことになり、間違った結果であるといえる。したがって、試験片の熱抵抗効果は検出できない。
【実施例2】
【0069】
実施例1において、(1)測定部の多孔性金属板と熱および水蒸気ガードの多孔性金属板の表面に厚さ0.02mmのセロファン膜をかぶせたこと、(2)多孔性金属板の発汗孔中の水位と連通管中の水位とが略同一水平面上の高さ(水柱の高さはほぼ0mm)になるように調整したこと以外は実施例と同一の装置と条件とで計測を行った。
【0070】
焼結金属板のみでの透湿抵抗は0.0096kPa・m2/Wであった。また焼結金属板の上に0.02mmのセロハン膜を1〜8枚被せた場合の総透湿抵抗は、0.0091〜0.0094の範囲でほぼ不変であった。
[比較例2]
【0071】
焼結金属板の代わりに、アルマイト板に直径1mmの通水孔を1.5cm間隔に縦横13個、計169個/400cm2設けた穴あき多孔板を使用した以外は実施例2と同様の試験を行い透湿抵抗を求めたところ、穴あき多孔板のみでの透湿抵抗は0.073kPa・m2/Wと過大であった。
【0072】
別途、環境温度35℃、環境相対湿度65%RHでの穴あき多孔板からの水の蒸発量を測定したところ73g/mhr(7.3mg/cmhr)とセロハン膜での透湿能力約380g/mhr(38mg/cmhr)に比較して過小であり、透湿防水膜による透湿量の精密な制御はできないことがわかった。
【0073】
また水位を多孔金属板表面から上になるようにし、多孔金属板表面とセロハン膜との間に均一な水の層を形成させて測定部全面を湿潤させたところ、穴あき多孔板表面より水がオーバーフローする状態となり、漏水対策や高度な水位制御技術が更に必要であることが判った。
【実施例3】
【0074】
実施例2の焼結金属板の上にセロハン膜を被せ、さらにその上に、試験片として、厚さ0.54mm、目付204g/m2の撥水防汚加工した黄色のアラミド製平織物(商品名ノメックスIIIAアラミド)を1〜4枚被せて測定を行い総透湿抵抗を算出したところ、それぞれ0.0139、0.0185、0.0231、0.0281kPa・m2/Wに増大した。試験片の枚数に対して総透湿抵抗の値をプロットしたところ1次の回帰直線が得られ、試験片の透湿抵抗効果が精度良く検出できた。
【実施例4】
【0075】
実施例1および実施例3に準じて、一般的な衣料用生地試料の試験を行った。試料は表1のとおりである。
【0076】
【表1】

【0077】
これら試料につき測定した熱抵抗、透湿抵抗、総熱損失、および従来の保温率測定の例としてサーモラボII(カトーテック社製)によるKES保温率を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
顕熱移動のみを測定しているKES保温率と本発明における熱抵抗を比較すると、すべての試料の測定値は回帰直線上にのり、非常に高い相関があることが判る。
【0080】
次に、顕熱移動のみを測定しているKES保温率と透湿抵抗とを比較すると、樹脂ラミネートされ透湿性が低いアウター(コーティング布帛)のみ他の3試料の回帰直線から大きく外れ、独特の特性を示すことが判る。
【0081】
次に、顕熱移動のみを測定しているKES保温率と、顕熱移動及び潜熱移動を合わせて測定している総熱損失とを比較すると、上記の透湿抵抗と同様に、アウター(コーティング布帛)のみ他の3試料の回帰直線から大きく外れ、独特の特性を示すことが判る。
【0082】
そこで総熱損失を顕熱移動分と潜熱移動分とに分けてみると、表3のようになる。
【0083】
【表3】

【0084】
全体的にみると、肌着、Yシャツ、フリースの3試料は潜熱移動が顕熱移動の数倍あるのに対し、コーティング布帛は潜熱移動が顕熱移動の半分近くに抑えられている。またニット地(肌着)とYシャツ(薄手布帛)とを比較すると、厚みがありデッドエアを多く含む編み地の方が潜熱、顕熱移動共に抑えられて総熱損失が少なくなっている。Yシャツ(薄手布帛)とアウター(コーティング布帛)の比較では、顕熱移動は同等であるが、潜熱移動はコーティング布帛の方が非常に小さい。ニット地(フリース)とアウター(コーティング布帛)の比較では、総熱損失は同等であるが、ニット地(フリース)は顕熱移動を積極的におさえるのに対し、アウター(コーティング布帛)は潜熱移動を積極的に抑えており、顕熱移動と潜熱移動の内訳が大きく異なる。
【0085】
従来、コーティング布帛を着用すると暖かく感じるのに、保温率等の顕熱移動特性測定ではなかなかその特徴が検出できなかった。本発明により顕熱移動と潜熱移動とを合わせて、あるいは分離して精度良く測定できるようになり、コーティング布帛の特性が熱特性として初めて実証し得たことは、特筆に値するものである。
【0086】
また操作や保守(メンテナンス)性も大幅に改善することができた。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係わる装置の一構成例を示す概念図である。
【図2】本発明に係わる装置の一構成例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0088】
1: 多孔性金属板(焼結金属板)
2: 温度センサ
3: 温度制御装置
4: 加熱電力測定装置
5: 注水装置
6: 金属ブロック
7: 測定部
8: 側面熱及び水蒸気ガード
9: 温度制御装置
10: 温度センサ
11: 測定テーブル
12: 注水路
13: 加熱手段
14: 給水装置
15: 水位制御水槽
16: 給水源
17: 連通管
18: 水位検出センサ
19: 管
20: 底面熱ガード
21: ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定部が水平に設けた多孔性金属板と、上方に開放した注水路を有しかつ上記多孔性金属板の下面に接して固定されかつ加熱手段を内蔵した金属ブロックと、この金属ブロックの温度制御装置と、金属ブロック加熱電力測定装置と、上記注水路に水を供給する注水装置とを備えた熱抵抗及び透湿抵抗測定装置において、上記多孔性金属板が0.083〜0.102K・m/Wの熱抵抗及び0.0078〜0.0123kPa・m2/Wの透湿抵抗を有すると共に燒結金属板からなることを特徴とする熱抵抗及び透湿抵抗測定装置。
【請求項2】
多孔性金属板が、焼結金属板と0.8以上の赤外線放射率をもつ赤外線放射成分とからなる請求項1記載の熱抵抗及び透湿抵抗測定装置。
【請求項3】
多孔性金属板が、微細孔の平均径が5〜40μmである焼結金属板の表面に上記微細孔の平均径を上記範囲内に維持するように赤外線放射成分を固着させてその表面の赤外線放射率を0.8以上としたことを特徴とする請求項1又は2記載の熱抵抗及び透湿抵抗測定装置。
【請求項4】
多孔性金属板が銅粉の焼結体からなる焼結金属板にクロムメッキを施したのちそのメッキ層の上に0.8以上の赤外線放射率をもつ赤外線放射成分を固着させたものであり、かつこの多孔性金属板が金属ブロックと着脱自在の関係にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の熱抵抗及び透湿抵抗測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−46048(P2008−46048A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223446(P2006−223446)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(593012745)財団法人日本化学繊維検査協会 (6)
【Fターム(参考)】