説明

熱接着シート

【課題】残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れ、簡単な工程で被接着物を接着でき、位置決めを正確に行なうことができる熱接着シートを提供する。
【解決手段】熱溶融して被接着物に密着される酸変性ポリオレフィン層を有する接着層112と、接着層112に積層して接着層112が被接着物に密着した後に剥離される基材フィルム111とを備え、接着層112を構成する酸変性ポリオレフィン層に粘着性又は感圧性を付与した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接着物を接着する熱接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品の部品は、金属、樹脂、セラミック等の材料から形成されており、同種材料または異種材料の工業製品の部品接着には、従来反応型接着剤や粘着剤等が用いられていた。ここで、反応型接着剤としては、2液混合型樹脂、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。具体的には、特許文献1に示されるように、2つの被接着物間に塗布された反応型接着剤は、硬化剤との反応、加熱により、又は紫外線照射により反応して硬化する。これにより、2つの被接着物が接着固定される。
【0003】
また、粘着剤としては、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等を粘着層に有する両面粘着シート等が挙げられる。具体的には、特許文献2に示されるように、粘着シートは一方の被接着物上に貼着され、剥離紙を剥離した後に他方の被接着物が圧着される。これにより、2つの被接着物が接着される。
【0004】
しかしながら、被接着物の接着に反応型接着剤を用いた場合は、塗布工程が必要となるため接着工程が煩雑になる。また、耐薬品性が低く、薬品を用いる環境で強度が劣化する問題がある。また、被接着物の接着に粘着剤を用いた場合は、粘着層に溶剤成分が残留し、被接着物を浸食する問題がある。また、耐水性や耐油性が低く、長期間の使用で強度が劣化する問題もある。
【特許文献1】特開2001−115125号公報(第3頁−第6頁、第1図)
【特許文献2】特開平6―17011号公報(第3頁−第4頁、第7図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、工業製品の部分接着には、残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れ、簡単な工程で被接着物を接着できる熱接着シートが好適に使用される傾向にある。熱接着シートは、基材フィルム上に熱接着性樹脂を溶融コーティングして形成された接着層から構成されるものである。また、熱接着フィルムは基材フィルムを貫通しないように、熱接着性樹脂層からなる接着層をハーフカットし、不要な熱接着性樹脂層を部分的に取り除き所定形状の接着層が基材フィルム上に形成されている。この熱接着性シートを用いて被接着物である工業製品の部品を接着させる場合、まず、被接着物である部品の所定位置に接着層を位置合わせし、基材フィルムを剥がした後、所定形状に形成された接着層にもう一方の被接着物を重ね合わせる。その後、接着層の上下面又は片面から熱シールバーや超音波装置により接着層を加熱した後、接着層が硬化して被接着物同士が接着固定される。
【0006】
しかし、所定位置に熱接着シートを位置合わせしたとき、接着層に位置ズレが発生したまま、被接着部に接着層を固着した場合、接着層は熱溶融した後、硬化して固着されるものであるため、一度固着した接着部を再生して使うことはできない。また、このとき、位置ズレが発生して接着層が固着された工業製品の部品も同様に再生不能になるため、接着層の位置ズレは生産コストの上昇を招く虞がある。したがって、接着層を熱溶融して被接着物に固着する前の接着層の位置決めを正確に行なう必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れ、簡単な工程で被接着物を接着でき、位置決めを正確に行なうことができる熱接着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による熱接着シートは、熱溶融して被接着物に密着される酸変性ポリオレフィン層を有する接着層と、前記接着層に積層して前記接着層が被接着物に密着した後に剥離される基材フィルムと、を備え、前記酸変性ポリオレフィン層が粘着性又は感圧性を有することを特徴とする。
【0009】
この構成によると、熱接着シートの使用時、酸変性ポリオレフィン層を有する接着層側を被接着物上に当接させ、基材フィルムを接着層から剥離して接着層を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層上に圧着する。その後、接着層を被接着物で挟持した状態で接着層を熱シールする。これにより、接着層が溶融して、接着層が常温に降温され硬化したとき、被接着物同士が接着固定される。このとき、接着層の酸変性ポリオレフィン層は粘着性又は感圧性を有するため、接着層を加熱して溶融する前、接着層を被接着物上に当接させるとき、接着層の酸変性ポリオレフィン層を被接着物上の所望の位置に仮着させることができる。これにより、接着層が所望の位置から僅かにずれた場合、接着層と基材フィルムを含む熱接着シートごと被接着物から接着層を引き離し、改めて、接着層を被接着物上の所望の位置に仮着させることができる。そして、この作業を行なうことにより、接着層の位置あわせを正確に行なうことができる。したがって、接着層の位置あわせの後、基材フィルムを剥離して接着層を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層上に圧着し、その後、接着層を熱シールすることにより、所望の位置に正確に接着層を転移させて被接着物同士を接着固定することができる。また、酸変性ポリオレフィンは残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れるため、接着強度を長期間維持することができる。
【0010】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記酸変性ポリオレフィン層が粘着付与樹脂を含有することを特徴とする。この構成によると、酸変性ポリオレフィン層に所定の粘着性又は感圧性を付与することができる。
【0011】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記基材フィルムがポリエチレンテレフタレートにより構成されることを特徴とする。この構成によると、基材フィルムがポリエチレンテレフタレートにより構成され、強度が高く、接着工程での取扱いが容易になる。
【0012】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記接着層が耐熱性フィルムの両面に酸変性ポリオレフィン層を備えることを特徴とする。通常、接着層が被接着物上に転移された後、被接着物間に挟持され熱シールされる際に、接着層が所定温度で加熱されるとともに、被接着物間において所定圧力で押圧される。このとき、接着層の酸変性ポリオレフィン層が溶融して押出され、酸変性ポリオレフィン層が薄肉することがある。しかし、本発明の構成によると、2層の酸変性ポリオレフィン層間に耐熱性フィルムを介在させることにより、熱シールされる際の接着層への加熱及び加圧によって、酸変性ポリオレフィン層が薄肉した場合でも、耐熱性フィルムが薄肉することなく残る。したがって、熱シールされた接着層は被接着物の安定的な接着を可能にする。
【0013】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記接着層が前記耐熱性フィルムの両面に複数の酸変性ポリオレフィン層を積層して構成されることを特徴とする。この構成によると、耐熱性フィルムと被接着物とを安定的に接着する酸変性ポリオレフィン層を接着層の最外層に配置し、耐熱性フィルムの両面に耐熱性フィルムと安定的に接着する酸変性ポリオレフィンを配することにより、接着層が被接着物に対して安定的な接着を可能にするとともに、耐熱性フィルムの両面において、デラミネーションが発生し難い等、接着層自体の経時的強度を確保することができる。
【0014】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記耐熱性フィルムがポリエチレンナフタレートにより構成されることを特徴とする。この構成によると、熱シール時の加熱と押圧により、酸変性ポリオレフィン層が押出され、肉薄した場合でも、接着層には酸変性ポリオレフィン層より高い融点及びガラス転移点を有するポリエチレンナフタレートが肉薄することなく残るので、接着層の耐熱性が増す。また、ポリエチレンナフタレートは電気絶縁性、水蒸気バリア性及び酸素ガスバリア性に優れるため、被接着物に仮着し熱シールされるまでの間に被接着物の酸化や空気による汚染によって被接着物が劣化することを防止することができる。これにより、接着層は被接着物の安定的な接着を可能にする。
【0015】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記接着層に積層して前記接着層が被接着物に密着する前に剥離されるカバーフィルムを備えることを特徴とする。この構成によると、粘着性又は感圧性を有する酸変性ポリオレフィン層にカバーフィルムを備えることにより、接着層表面に埃等の不純物が付着するのを防ぐことができる。したがって、接着層表面の粘着性又は感圧性が低下するのを抑えることができる。また、被接着物に不純物が混入するのを防ぐことができる。また、熱接着シートの表面がカバーフィルムで覆われ粘着性又は感圧性を有さないため取り扱いも容易になる。
【0016】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記接着層と前記カバーフィルムとの剥離強度が、前記接着層と前記基材フィルムとの剥離強度と比較して低いことを特徴とする。この構成により、熱接着シートの接着層を被接着物に仮着させる際、粘着性又は感圧性を有する酸変性ポリオレフィン層側のカバーフィルムを基材フィルムより容易に剥離させることができる。これにより、熱接着シートの被接着物への仮着をより効率的に行なうことができる。
【0017】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記基材フィルム上に同一形状の複数の前記接着層を所定間隔で配置したことを特徴とする。この構成によると、基材フィルムが所定間隔で送られ、各接着層を順に複数の被接着物に転移させることができる。
【0018】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記基材フィルムに所定間隔で位置決め用孔を設けたことを特徴とする。この構成によると、位置決め用孔にピン等を挿通して基材が所定間隔毎に位置決めされ、各接着層を同じ位置で転移させることができる。
【0019】
また本発明は、上記構成の熱接着シートにおいて、前記基材フィルムを貫通しないように、前記接着層にハーフカットが設けられ、同一形状の複数の前記接着層が分割されていることを特徴とする。この構成によると、同一形状の複数の接着層を所定間隔で基材フィルム上に容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れ、簡単な工程で被接着物を接着でき、位置決めを正確に行なうことができる熱接着シートを容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下に本発明の第1実施形態を図面を参照して説明する。図1は本実施形態の接着シートを示す平面図であり、図2は図1におけるA−A’の断面図である。図1及び図2に示すように熱接着シート110はポリエチレンテレフタレート(PET)から成る基材フィルム111上に酸変性ポリエチレン(PEa)から成る接着層112が積層されている。
【0022】
基材フィルム111は厚さ約50μmのテープ状に形成され、長手方向に所定の間隔Tで位置決め用孔110aが形成されている。接着層112は基材フィルム111上に間隔Tで複数配列され、各接着層112は同一形状に形成されている。また、熱接着シート110には基材フィルム111及び接着層112を貫通する貫通孔110bが設けられている。この貫通孔110bにより筒状の被接着物に対しても熱接着シート110を簡単に接着することができる。
【0023】
接着層112を構成する酸変性ポリエチレンは、基材フィルム111上に溶融した酸変性ポリエチレンをTダイ押出機で押出し塗布して形成される。基材フィルム111上に塗布された酸変性ポリエチレンは基材フィルム111とともにロールで挟み込んで送られる。これにより、厚みが約50μmの接着層112を容易に形成することができる。
【0024】
また、基材フィルム111上に接着層112を積層した後にプレス加工により打ち抜いて位置決め孔110a及び貫通孔110bを容易に形成することができる。また、基材フィルム111を貫通しないように接着層112外縁に沿って接着層112側からハーフカットして接着層112を所望の形状に形成することができる。接着層112を除く基材フィルム上の不要部分はロール等により巻き取って除去される。
【0025】
この構成による熱接着シート110の使用方法は、まず、酸変性ポリエチレンからなる接着層112側を被接着物上に当接させ、基材フィルム111を接着層112から剥離して接着層112を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層112上に圧着する。その後、接着層112を被接着物で挟持した状態で、接着層112を熱シールする。これにより、接着層112が溶融した後、接着層112が常温に降温され硬化したとき、被接着物同士が接着固定される。
【0026】
このとき、本実施形態にかかる接着層112を構成する酸変性ポリエチレンは粘着性又は感圧性を有する。このため、接着層112を熱シールする前、接着層112を被接着物上に当接させる際、接着層112を被接着物上の所望の位置に酸変性ポリエチレンの粘着性又は感圧性を利用して仮着させることができる。これにより、接着層112が所望の位置から僅かにずれた場合、接着層112と基材フィルム111を含む熱接着シート110ごと接着層112を被接着物から引き離し、改めて接着層112を被接着物上の所望の位置に仮着させることができる。そして、この作業を行なうことにより、接着層112の位置あわせを正確に行なうことができる。したがって、接着層112の位置あわせの後、基材フィルム111を剥離して接着層112を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層112上に圧着し、その後、接着層112を熱シールすることにより、所望の位置に正確に接着層112を転移させて被接着物同士を接着固定することができる。また、酸変性ポリエチレンは残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れるため、接着強度を長期間維持することができる。
【0027】
また、図3に示すように、粘着性又は感圧性を有する接着層112に厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されるカバーフィルム115を積層しても良い。このとき、カバーフィルム115は接着層112に積層して接着層12を被接着物に密着する前に剥離される。これにより、粘着性又は感圧性を有する酸変性ポリエチレンにカバーフィルム115を積層することで、接着層112表面に埃等の不純物が付着するのを防ぐことができる。したがって、接着層112表面の粘着性又は感圧性が低下するのを抑えることができる。また、被接着物に接着層112を介して不純物が混入するのを防ぐことができる。また、熱接着シート110の表面がカバーフィルム115で覆われ粘着性又は感圧性を有さないため取り扱いも容易になる。
【0028】
また、粘着性又は感圧性を有する接着層112にポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されるカバーフィルム115を積層する場合、接着層112とカバーフィルム115との剥離強度が、接着層112と基材フィルム111との剥離強度と比較して低く構成されている。したがって、熱接着シート110の接着層112を被接着物に仮着させる際、粘着性又は感圧性を有する酸変性ポリオレフィン層側のカバーフィルム115を基材フィルム111より容易に剥離させることができる。これにより、熱接着シート110の被接着物への仮着をより効率的に行なうことができる。
【0029】
尚、基材フィルム111及びカバーフィルム115は耐熱性を有する耐熱性樹脂であればよく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリメチルペンテン(TPX(登録商標))、ポリアセタール(POM)、環状ポリオレフィン、ポリエチレン(PP)等の無延伸または延伸フィルムを用いることができる。尚、ポリエチレンテレフタレートは安価で強度が強いため接着工程での取扱いが容易になるためより望ましい。また、基材フィルム111と接着層112との間又はカバーフィルム115と接着層112との間に公知の剥離剤を設け、基材フィルム111と接着層112との間又はカバーフィルム115と接着層112との間の剥離強度を調整してもよい。
【0030】
次に、熱接着シート110を構成する接着層112について詳細に説明する。本発明にかかる接着層を構成する酸変性ポリオレフィン層は被接着物を接着するために設ける層であり、被接着物の材質により適宜選択して用いる必要がある。したがって、本実施形態による酸変性ポリエチレンに限定されない。例えば、酸変性ポリオレフィン層を構成する樹脂としては、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等であり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよいものである。
【0031】
また、酸変性ポリオレフィン層を構成する樹脂に粘着性付与樹脂を含有させることにより、接着層112を構成する酸変性ポリオレフィン層に粘着性又は感圧性を付与することができる。このとき、使用される粘着性付与樹脂としては、例えば、ロジン類(重合ロジン、水添ロジン、ロジンエステル等)、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、石油樹脂などである。
【0032】
また、酸変性ポリオレフィン層を構成する樹脂にエラストマー樹脂を混合した樹脂を用いることにより、酸変性ポリオレフィン層の柔軟性、耐熱性、耐衝撃性を向上させる、接着層112の位置決めをする際、接着層112が破れる等、破損するのを防ぐことができる。また、被接着物との接着性も安定する。なお、エラストマー以外にタッキファイアを添加して酸変性ポリオレフィン層に柔軟性等を付与することも可能である。
【0033】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態にかかる熱接着シート210は接着層212の構成が異なるのみで、その他の構成は第1実施形態で説明した構成と同一である。図4は本発明の第2実施形態に係る熱接着シート210の層構成を示す断面図である。
【0034】
図4に示すように、第2実施形態に係る熱接着シート210はポリエチレンテレフタレート(PET)から成る基材フィルム111上に接着層212が積層され、接着層212上にカバーフィルム115が積層されている。
【0035】
また、接着層212は、厚さ12μmのポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム232の両面にそれぞれ、厚さ25μmの酸変性ポリエチレン231a、231bが形成されている。
【0036】
この構成による熱接着シート210は、カバーフィルム115を剥離した後、粘着性又は感圧性を有する酸変性ポリエチレン231aを被接着物上に当接させ、基材フィルム111を接着層212から剥離して接着層212を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層212上に圧着する。その後、接着層212を被接着物で挟持した状態で接着層212を熱シールする。これにより、接着層212が溶融して、接着層212が常温に降温され硬化したとき、被接着物同士が接着固定される。
【0037】
このとき、本実施形態にかかる接着層212を構成する酸変性ポリエチレン231aは粘着性又は感圧性を有する。このため、接着層212を熱シールする前、接着層212を被接着物上に当接させたとき、接着層212を被接着物上の所望の位置に酸変性ポリエチレン231aの粘着性又は感圧性を利用して仮着させることができる。これにより、接着層212が所望の位置から僅かにずれた場合、接着層212と基材フィルム111を含む熱接着シート210ごと被接着物から接着層212を引き離し、改めて接着層212を被接着物上の所望の位置に仮着させることができる。そして、この作業を行なうことにより、接着層212の位置あわせを正確に行なうことができる。したがって、接着層212の位置あわせの後、基材フィル111を剥離して接着層212を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層212上に圧着し、その後、接着層212を熱シールすることにより、所望の位置に正確に接着層212を転移させて被接着物同士を接着固定することができる。また、酸変性ポリエチレンは残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れるため、接着強度を長期間維持することができる。
【0038】
また、接着層212が被接着物上に転移された後、被接着物間に挟持され熱シールされる際に、接着層212が所定温度で加熱されるとともに、被接着物間において所定圧力で押圧されるが、このとき、接着層212の酸変性ポリエチレン231a、231bが溶融して押出され、酸変性ポリエチレン231a、231bが薄肉することがある。しかし、本実施形態による熱接着シート210は2層の酸変性ポリエチレン231a、231b間に耐熱性フィルムであるポリエチレンナフタレート232が介在されている。この構成により、熱シールされる際の接着層212への加熱及び加圧によって、酸変性ポリエチレン231a、231bが薄肉した場合でも、ポリエチレンナフタレート232が薄肉することなく残る。したがって、熱シールされた接着層212は被接着物の安定的な接着を可能にする。また、ポリエチレンナフタレート232は電気絶縁性、水蒸気バリア性及び酸素ガスバリア性に優れるため、被接着物に仮着し熱シールされるまでの間に被接着物の酸化や空気による汚染によって被接着物が劣化することを防止することができる。これにより、接着層212は被接着物の安定的な接着を可能にする。
【0039】
次に、熱接着シート210を構成する接着層212について詳細に説明する。本発明にかかる接着層212を構成する酸変性ポリオレフィン層は被接着物を接着するために設ける層であり、被接着物の材質により適宜選択して用いる必要がある。したがって、本実施形態による酸変性ポリエチレンに限定されない。例えば、酸変性ポリオレフィン層を構成する樹脂としては、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等であり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよいものである。
【0040】
また、酸変性ポリオレフィン層を構成する樹脂に粘着性付与樹脂を含有させることにより、接着層212を構成する酸変性ポリオレフィン層に粘着性又は感圧性を付与することができる。このとき、使用される粘着性付与樹脂としては、例えば、ロジン類(重合ロジン、水添ロジン、ロジンエステル等)、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、石油樹脂などである。
【0041】
また、酸変性ポリオレフィン層を構成する樹脂にエラストマー樹脂を混合した樹脂を用いることにより、酸変性ポリオレフィン層の柔軟性、耐熱性、耐衝撃性を向上させる、接着層212の位置決めをする際、接着層212が破れる等、破損するのを防ぐことができる。また、被接着物との接着性も安定する。なお、エラストマー以外にタッキファイアを添加して酸変性ポリオレフィン層に柔軟性等を付与することも可能である。
【0042】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態にかかる熱接着シート310は接着層312の構成が異なるのみで、その他の構成は第1実施形態で説明した構成と同一である。図5は本発明の第3実施形態に係る熱接着シート310の層構成を示す断面図である。
【0043】
図5に示すように、第3実施形態に係る熱接着シート310はポリエチレンテレフタレート(PET)から成る基材フィルム111上に接着層312が積層され、接着層312上にカバーフィルム115が積層されている。
【0044】
また、接着層312は、厚さ12μmのポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332の両面にそれぞれ、厚さ44μmの酸変性ポリプロピレン333a、333bが形成され、最外層に厚さ25μmの酸変性ポリエチレン331a、331bが形成されている。
【0045】
この構成による熱接着シート310の使用方法は、まず、カバーフィルム115を剥離した後、粘着性又は感圧性を有する酸変性ポリエチレン331aを被接着物上に当接させ、基材フィルム111を接着層312から剥離して接着層312を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層312上に圧着する。その後、接着層312を被接着物で挟持した状態で接着層312を熱シールする。これにより、接着層312が溶融して、接着層312が常温に降温され硬化したとき、被接着物同士が接着固定される。
【0046】
このとき、本実施形態にかかる接着層312を構成する酸変性ポリエチレン331aは粘着性又は感圧性を有する。このため、接着層312を熱シールする前、接着層312を被接着物上に当接させたとき、接着層312を被接着物上の所望の位置に酸変性ポリエチレン331aの粘着性又は感圧性を利用して仮着させることができる。これにより、接着層312が所望の位置から僅かにずれた場合、接着層312と基材フィルム111を含む熱接着シート110ごと被接着物から接着層312を引き離し、改めて接着層312を被接着物上の所望の位置に仮着させることができる。そして、この作業を行なうことにより、接着層312の位置あわせを正確に行なうことができる。したがって、接着層312の位置あわせの後、基材フィル111を剥離して接着層312を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層312上に圧着し、その後、接着層312を熱シールすることにより、所望の位置に正確に接着層312を転移させて被接着物同士を接着固定することができる。また、酸変性ポリエチレンは残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れるため、接着強度を長期間維持することができる。
【0047】
また、接着層312が被接着物上に転移された後、被接着物間に挟持され熱シールされる際に、接着層312が所定温度で加熱されるとともに、被接着物間において所定圧力で押圧されるが、このとき、接着層312の酸変性ポリエチレン331a、331bが溶融して押出され、酸変性ポリエチレン331a、331bが薄肉することがある。しかし、本実施形態による熱接着シート310は2層の酸変性ポリエチレン331a、331b間に耐熱性フィルムであるポリエチレンナフタレート332が介在されている。この構成により、熱シールされる際の接着層312への加熱及び加圧によって、酸変性ポリエチレン331a、331bが薄肉した場合でも、ポリエチレンナフタレート332が薄肉することなく残る。したがって、熱シールされた接着層312は被接着物の安定的な接着を可能にする。また、ポリエチレンナフタレート332は電気絶縁性、水蒸気バリア性及び酸素ガスバリア性に優れるため、被接着物に仮着し熱シールされるまでの間に被接着物の酸化や空気による汚染によって被接着物が劣化することを防止することができる。これにより、接着層312は被接着物の安定的な接着を可能にする。
【0048】
また、酸変性ポリエチレン331a、331bとポリエチレンナフタレート332の間には、ポリエチレンナフタレート332に対して安定的に接着する酸変性ポリプロピレン333a、333bを配している。これにより、接着層312が被接着物に対して安定的な接着を可能にするとともに、耐熱性フィルム332の両面において、デラミネーションが発生し難い等、接着層312自体の経時的強度も確保することができる。また、酸変性ポリエチレン331a、331bは酸変性ポリプロピレン333a、333bより低温で金属と熱溶着するため、熱シールの温度を低く抑えることができる。
【0049】
次に、熱接着シート310を構成する接着層312について詳細に説明する。本発明にかかる接着層312を構成する酸変性ポリオレフィン層は被接着物を接着するために設ける層であり、被接着物の材質により適宜選択して用いる必要があり、本実施形態による酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリエチレンに限定されない。例えば、酸変性ポリオレフィン層を構成する樹脂としては、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等であり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよいものである。
【0050】
また、酸変性ポリオレフィン層331aを構成する樹脂に粘着性付与樹脂を含有させることにより、接着層312を構成する酸変性ポリオレフィン層に粘着性又は感圧性を付与することができる。このとき、使用される粘着性付与樹脂としては、例えば、ロジン類(重合ロジン、水添ロジン、ロジンエステル等)、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、石油樹脂などである。
【0051】
また、酸変性ポリオレフィン層を構成する樹脂にエラストマー樹脂を混合した樹脂を用いることにより、酸変性ポリオレフィン層の柔軟性、耐熱性、耐衝撃性を向上させる、接着層312の位置決めをする際、接着層312が破れる等、破損するのを防ぐことができる。また、被接着物との接着性も安定する。なお、エラストマー以外にタッキファイアを添加して酸変性ポリオレフィン層に柔軟性等を付与することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によると、工業製品の部品の被接着物を接着する接着シートに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】は、本発明の熱接着シートを示す平面図である。
【図2】は、本発明の熱接着シートを示す断面である。
【図3】は、本発明の熱接着シートを示す断面である。
【図4】は、本発明の熱接着シートを示す断面である。
【図5】は、本発明の熱接着シートを示す断面である。
【符号の説明】
【0054】
110 熱接着シート
110a 位置決め孔
110b 貫通孔
111 基材シート
112 接着層
115 カバーシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融して被接着物に密着される酸変性ポリオレフィン層を有する接着層と、
前記接着層に積層して前記接着層が被接着物に密着した後に剥離される基材フィルムと、を備え、
前記酸変性ポリオレフィン層が粘着性又は感圧性を有することを特徴とする熱接着シート。
【請求項2】
前記酸変性ポリオレフィン層が粘着付与樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱接着シート
【請求項3】
前記基材フィルムがポリエチレンテレフタレートにより構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱接着シート。
【請求項4】
前記接着層が耐熱性フィルムの両面に酸変性ポリオレフィン層を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1に記載の熱接着シート。
【請求項5】
前記接着層が前記耐熱性フィルムの両面に複数の酸変性ポリオレフィン層を積層して構成されることを特徴とする請求項4に記載の熱接着シート。
【請求項6】
前記耐熱性フィルムがポリエチレンナフタレートにより構成されることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の熱接着シート。
【請求項7】
前記接着層に積層して前記接着層が被接着物に密着する前に剥離されるカバーフィルムを備えることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1に記載の熱接着シート。
【請求項8】
前記接着層と前記カバーフィルムとの剥離強度が、前記接着層と前記基材フィルムとの剥離強度と比較して低いことを特徴とする請求項7に記載の熱接着シート。
【請求項9】
前記基材フィルム上に同一形状の複数の前記接着層を所定間隔で配置したことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1に記載の熱接着シート。
【請求項10】
前記基材フィルムに所定間隔で位置決め用孔を設けたことを特徴とする請求項9に記載の熱接着シート。
【請求項11】
前記基材フィルムを貫通しないように、前記接着層にハーフカットが設けられ、
同一形状の複数の前記接着層が分割されていることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の熱接着シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−84442(P2009−84442A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256455(P2007−256455)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】