説明

熱接着性の基材表皮用積層フィルム及びそれを用いた壁装材

【課題】 ポリ塩化ビニル系及び非ポリ塩化ビニル系基材、特にポリオレフィン系壁装基材に十分な接着性を有し、屈曲白化への耐性、防汚性、耐傷つき性(耐摩耗性)、意匠性、エンボス加工性等に優れ、且つ、有機溶剤系接着剤を使用せずに基材に熱接着可能な壁装材の表皮用積層フィルム、及び、上記表皮用積層フィルムをポリオレフィン系樹脂基材或いはポリ塩化ビニル系樹脂基材に積層してなる壁紙、化粧シート等の壁装材を提供する。
【解決手段】 エチレン不飽和カルボン酸共重合体又はエチレンと不飽和カルボン酸を主構成単位成分とする多元共重合体をベース樹脂とするアイオノマー、及びそれらの組成物からなる表皮層の一面に基材と接着樹脂層を積層してなることを特徴とする熱接着性の基材表皮用積層フィルム、及び、その積層フィルムをポリオレフィン系樹脂基材或いはポリ塩化ビニル系樹脂基材に積層してなる壁紙、化粧シート等の壁装材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱接着性の基材表皮用積層フィルム及びそれを用いた壁装材に関し、特に、特定アイオノマー又はその組成物を表皮層とし、該層裏面に基材シートに良好な熱接着性を示す接着樹脂層を積層した特定構成により、壁紙、化粧シート等壁装材の基材シートとの接着に際し溶剤揮散を生じることなく強固に密着出来、然も、表面の耐傷付き性(耐摩耗性)、防汚性、意匠性、エンボス加工性等に優れた熱接着性基材表皮用の積層フィルム及びそれを用いた壁装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、壁紙や化粧シートなどの壁装材の基材としては、諸物性に優れ成形加工性もよく安価であるところから可塑剤を配合した軟質ポリ塩化ビニル系樹脂基材が多用されている。
【0003】
軟質ポリ塩化ビニル樹脂は、それ自体加工性に富み、そのままでも表面模様や外観も可成り綺麗に仕上げることが可能であるが、室内装飾用等に於いて装飾性や美観が強く求められる用途には、表面層に発泡ポリ塩化ビニル層等を積層した壁紙等が使用されている。
しかしながら、これら軟質ポリ塩化ビニルは、殆どの場合、ポリ塩化ビニル樹脂分100部に対して40部以上と大量の可塑剤が配合されており、この可塑剤が表面にブリードすることによる表面汚れのため、又、特に、発泡ポリ塩化ビニルの場合は、発泡倍率が2〜6倍程度であるため表面が多孔質となり、そのため表面が特に汚れ易い欠点が有る。
この解決手段として、該ポリ塩化ビニル樹脂の表面をアクリル系樹脂フィルム等の防汚性フィルムで被覆する方法が行われている。
又、例えば、特殊な感触の梨地模様、絹様の柔らかい感触の曇表面模様等のポリ塩化ビニル樹脂表面では具現することが難しい特殊な表面模様を得るために、別の表皮樹脂層でポリ塩化ビニル基材表面を被覆することも従来から屡々行われていた。
【0004】
又、ポリ塩化ビニルは廃棄焼却時に塩化水素ガスなどの有毒ガスや発ガン性物質であるダイオキシンが発生するなど環境対策上極めて多くの問題点を有している。
従って、最近に至り、ポリ塩化ビニル系樹脂に替わる素材としてアクリル系樹脂、エチレン・酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等の非ポリ塩化ビニル系樹脂を基材として用いた壁装材が急速に広まりつつある。
【0005】
これらの非ポリ塩化ビニル系の壁装材は、上記のような問題点が無いだけでなく、軟質ポリ塩化ビニル樹脂のような可塑剤を大量には含まないため、又、例え、少量含んでも表面にブリードし難いため、これによる表面汚れや、環境汚染が少ない、更に、空気中の浮遊物の付着による汚れが少ないなどの長所を有する。
特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・αーオレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂基材は、化学安定性が良く、無害で且つ安価であるためそれを基材として使用する試みは屡々行われている。
【0006】
然し、上記のような非ポリ塩化ビニル系樹脂は、反面、一旦汚れが付着すると汚染物の除去が困難であると云う問題点を抱えている。
そこで、ポリ塩化ビニル系樹脂基材で使用したと同様に表面に表皮樹脂層として防汚性フィルムを積層することが検討された。
このような防汚性フィルムとして、従来、エチレン・酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)やアクリル系フィルム等が使用されてきたが、これら従来のフィルムを積層した壁装材は糊を塗布後折り畳んで重ね置きする工程(養成工程)で、折れ皺が発生し、施工後も折れ皺復元性が悪いため、皺が消えず、美観を著しく損なうと云う欠点があった。
又、前記フィルムと非ポリ塩化ビニル系樹脂基材は一般にドライラミネート法等で積層される。
その際、有機溶剤を使用するため、自然環境への影響、火災の危険性、作業者の健康面への影響等が問題となり、そのため有機溶剤を使用しない熱圧着法で積層することの出来るフィルムが強く要望されていた。
上記問題を解決するための提案も既に幾つか提出されており、例えば、特許文献1には、融点70〜105℃のエチレン系共重合体からなる接着性樹脂層を、例えば、結晶性ポリプロピレン等前記接着性樹脂よりも高融点の防汚性熱可塑性樹脂の無延伸層に積層し、該積層フィルムの20%伸長時モジュラス値が0.5〜7.0N/10mmとなるようにした壁装材表面保護用無延伸積層フィルムの発明が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平2002−1883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1の積層フィルムは、ポリオレフィン等の非ポリ塩化ビニル系樹脂基材との熱接着性に優れ、折れ皺も発生しがたく、一旦生じた折れ皺の復元性も良好であるが、そのポリプロピレン表皮層は、耐傷つき性や、耐摩耗性が必ずしも十分とは云えず、長期の使用期間中に表面に微細な傷が無数に生じ、美観を損ねる等の欠点がある。
【0009】
又、この欠点を回避するためにポリプロピレン表皮層に替えてポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)表皮層を用いた場合は、耐傷つき性や、耐摩耗性は改善されるものの屈曲白化耐性やポリオレフィン基材等との接着性が必ずしも十分でないと云う新たな問題を生ずる。
【0010】
特に、ポリオレフィン樹脂基材は、その骨格に極性基を有さないため表皮樹脂層との熱接着に用いる接着性樹脂の選択が難しいこともあり、本発明者等が知る限りに於いて、上述した問題点の全てが解消されたポリオレフィン壁紙基材用の熱接着性表皮フィルムは未だ出現していない。
【0011】
従って、本発明の目的は、非ポリ塩化ビニル樹脂系壁装基材、特にポリオレフィン系樹脂基材にも十分な接着強度を有し、屈曲白化に耐性を有するだけでなく、防汚性、耐傷つき性(耐摩耗性)、表面外観、意匠性、エンボス加工性に優れ、且つ、有機溶剤を含む接着剤を使用することなく基材に熱接着が可能な壁装材の表皮用積層フィルムを提供するにある。
更に、本発明の他の目的は、上記諸特性に加え、更に耐薬品性に顕著に優れた表皮用積層フィルムを提供するにある。
又、本発明の別の目的は、ポリ塩化ビニル系樹脂基材に適用した場合にも、ポリオレフィン系樹脂基材の場合と同様に上記諸効果を奏する表皮用積層フィルムを提供するにある。
又、本発明の更に別の目的は、上記表皮用積層フィルムをポリオレフィン系樹脂基材或いはポリ塩化ビニル系樹脂基材に積層してなる壁紙、化粧シート等の壁装材を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、エチレン不飽和カルボン酸共重合体又はエチレンと不飽和カルボン酸を主構成単位成分とする多元共重合体をベース樹脂とするアイオノマー、或いは、そのアイオノマーを主配合成分として含有する組成物からなる表皮層の一面に基材との熱接着性が良好な接着樹脂層を積層してなることを特徴とする熱接着性の基材表皮用積層フィルムが提供される。
【0013】
本発明の基材表皮用積層フィルムは、特定のアイオノマー又はその組成物を表皮層とし、これに、例えば、ポリオレフィン系基材の場合はエチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂等の、又、ポリ塩化ビニル基材の場合はエチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂等の、基材との熱接着性に優れた接着性樹脂層を共押出等の方法により積層した点が構成上の顕著な特徴である。
これにより、本発明の表皮用積層フィルムは、ポリオレフィン樹脂やポリ塩化ビニル樹脂からなる壁装材用基材に積層した場合に、表皮層として優れた耐傷つき性、耐摩耗性、防汚性や優れた意匠外観性、エンボス加工性等を具現する。
上記積層フィルムの内でも表皮層の樹脂素材が前記アイオノマーとオレフィン・グリシジルモノマー共重合体及びポリオレフィンからなる組成物であるものは更に耐熱性、耐薬品性にも顕著に優れる。
【0014】
本発明の上記積層フィルムは、例えば、壁紙、化粧シート等の壁装材基材の表面被覆用フィルムとして特に好適に使用出来る。
【0015】
又、上記積層フィルムはその接着樹脂層が、熱接着すべき基材に対し29N/25mm以上の接着強度(Tピール)を有するものであることが好ましい。
特に、前記熱接着すべき基材がポリオレフィン系樹脂シートである場合に於いて、前記接着樹脂層が、エチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂、不飽和カルボン酸又はその誘導体で酸変性されたオレフィン系重合体樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂及びエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれた少なくとも1種からなる樹脂層、又は前記樹脂の少なくとも1種と前記以外の樹脂であって該接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるものとのブレンド組成物からなる樹脂層であり、前記熱接着すべき基材がポリ塩化ビニル系樹脂シートである場合に於いて、前記接着樹脂層が、エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂層、又は前記樹脂とそれ以外の樹脂であって接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるものとのブレンド組成物からなる樹脂層であることが上記諸特性の具現及び特に基材樹脂との熱接着強度の観点から好ましい。
【0016】
更に、接着樹脂層が樹脂種を異にする複数層からなる態様のものは表皮層と基材との物性の差異を緩衝し、両者の密着性を一層向上させる観点から好ましい。
【0017】
又、本発明によれば、上記本発明の積層フィルムを樹脂基材表面に熱接着してなる壁装材が提供される。
【0018】
この場合に於いて、前記樹脂基材が軟質ポリ塩化ビニル樹脂シートである場合は、前記積層フィルムの接着樹脂層がエチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂からなる樹脂層であることが奏する上記諸効果、特に、基材樹脂との接着強度の観点から好ましい。
【0019】
又、前記樹脂基材がポリオレフィン樹脂シートである場合は、前記接着樹脂層がエチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂、不飽和カルボン酸又はその誘導体で酸変性されたオレフィン系重合体樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂及びエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれた少なくとも1種からなる樹脂層であることが上記と同様の観点から好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱接着性の基材表皮用積層フィルムは、特定アイオノマー又はその組成物を表皮層とし、その裏面側に共押出等により基材に対し優れた熱接着性を示す特定接着樹脂層を積層した構成により、屈曲による白化等の不都合を生じないだけでなく、それをポリ塩化ビニル系樹脂基材やポリオレフィン系樹脂基材に熱接着させて得られた壁紙、化粧シート等の壁装材は、基材樹脂との熱接着強度が強く、防汚性、耐傷つき性(耐摩耗性)、表面外観、意匠性、エンボス加工性に顕著に優れる。
特に、表皮層が上記アイオノマー組成物よりなるものは、更に耐薬品性にも顕著に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係る熱接着性の基材表皮用積層フィルム及びそれを用いた壁装材の実施形態について詳細且つ具体的に説明する。
【0022】
本発明の基材表皮用積層フィルムは、アイオノマー又はその組成物からなる表皮層と該表皮層の一面に積層され、壁紙基材等の基材樹脂に対し優れた熱接着性を有する接着樹脂層とからなるが、該表皮層を構成するアイオノマーのベース樹脂としては、エチレン不飽和カルボン酸2元共重合体の他にエチレンと不飽和カルボン酸単位を主構成単位成分とし、これに任意の他の単量体を共重合させた多元共重合体を用いることが出来る。
【0023】
このエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(多元を含む)に於ける不飽和カルボン酸含有量は、5〜30重量%、特に8〜25重量%の範囲にあることが好ましく、又、多元共重合体の場合に於いては、他の単量体成分含有量は、40重量%以下、好ましくは、30重量%以下である。
【0024】
上記共重合体を構成する不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸などを例示することが出来るが、特にアクリル酸又はメタクリル酸であることが好ましい。
又、上記多元共重合体に於ける他の単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ー2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などを例示することが出来る。
【0025】
又、上記ベース樹脂をアイオノマー化するイオン源としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属の他亜鉛などを好適例として挙げることが出来る。
特に好適なアイオノマーは、2価金属のアイオノマー、特に亜鉛又はマグネシウムのアイオノマーである。
アイオノマーとしては、その中和度が90%以下、特に10〜85%程度のものが好ましい。
【0026】
上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーとしては又、加工性、機械的強度などの観点から、その190℃、2160g荷重に於けるメルトフローレート(MFR)(JIS K7210−1999に準拠)が0.01〜500g/10分、特に0.1〜300g/10分程度のものを使用することが好ましい。
【0027】
アイオノマーのベース樹脂であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、高温、高圧下のラジカル共重合によって製造することが出来る。
又、そのアイオノマーは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体と金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩などを反応させることによって得ることが出来る。
【0028】
本発明の積層フィルム表皮層は、上記アイオノマーを単独で使用することが出来るが、アイオノマーとその他樹脂との組成物、好ましくはオレフィンの単独重合体、オレフィン同士の共重合体及びオレフィンと極性単量体の共重合体から選ばれるオレフィン系重合体を、例えばアイオノマーと等重量以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下となる割合で混合した組成物として使用することが出来る。
【0029】
このようなオレフィン系共重合体の例としては、エチレンの単独重合体やエチレンと炭素数3以上のαーオレフィンの共重合体であって、一般に中・高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、直鎖超低密度ポリエチレンなどとして知られているポリエチレン;プロピレンの単独重合体、プロピレンと他のαーオレフィンのランダム共重合体やブロック共重合体などとして知られているポリプロピレン;ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンなどのポリオレフィン、オレフィンと極性単量体、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル;一酸化炭素;などの上記アイオノマー以外の共重合体を挙げることが出来る。
【0030】
上記オレフィン系重合体が、エチレン・極性単量体共重合体である場合には、その配合量にもよるが耐摩耗性や耐傷つき性などを考慮すると、極性単量体含量が30重量%以下、特に20重量%以下のものを使用するのが好ましい。
又、オレフィン系重合体が、ポリエチレンやエチレン・極性単量体共重合体である場合には、190℃、2160g荷重に於けるメルトフローレート(MFR)(JIS K7210−1999に準拠)が0.1〜100g/10分、特に0.2〜50g/10分のものを使用するのが好ましく、またポリプロピレンである場合には、230℃、2160g荷重に於けるメルトフローレート(MFR)が0.1〜100g/10分、特に0.2〜50g/10分のものを使用するのが好ましい。
【0031】
本発明の表皮層樹脂用アイオノマー組成物の好適例として、アイオノマー、オレフィン・グリシジルモノマー共重合体及びポリオレフィンからなる組成物を挙げることが出来、このアイオノマー組成物層は、該層の樹脂成分としてアイオノマーを単独で使用する場合に比べて耐傷付き性、耐摩耗性は殆ど遜色無い程度に良好であり、耐薬品性、表面硬度、耐熱性、意匠性(特に絹状の柔らかい曇り表面感触等を具現出来、外観性に優れる)等はより優れる。
特に、アイオノマー、オレフィン・グリシジルモノマー共重合体、ポリオレフィンの合計量を100重量部とするときに、前記アイオノマーが50〜96.7重量部、好ましくは73〜95.5重量部、更に好ましくは81〜94重量部、オレフィン・グリシジルモノマー共重合体が、0.3〜10重量部、好ましくは0.5〜7重量部、更に好ましくは1〜4重量部、ポリオレフィンが3〜40重量部、好ましくは4〜20重量部、更に好ましくは5〜15重量部となる割合の組成物が上記観点から好ましい。
【0032】
上記の好適アイオノマー組成物に於いては、アイオノマーとして、特にイオン源として、亜鉛、マグネシウム、カルシウムのような2価金属イオンを含有するものを使用すると、上記のような特性を容易に発現することが出来るので好ましい。
又、成形性、機械的特性、他成分との混和性などを考慮すると、190℃2160g荷重に於けるメルトフローレートが0.01〜100g/10分、特に0.1〜50g/10分のものを使用するのが好ましい。
【0033】
上記好適アイオノマー組成物を構成するオレフィン・グリシジルモノマー共重合体は、オレフィンとグリシジルモノマーとの2元共重合体のみならず、更に他の単量体を含有する多元共重合体であっても良い。
かかる共重合体に於けるオレフィン成分としては、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどを挙げることが出来るが、特にエチレンの共重合体が好ましい。
【0034】
又グリシジルモノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジルエステル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル等のグリシジル不飽和エーテルを挙げることが出来る。
更に、上記多元共重合体に於ける他の単量体としては、例えば、ビニルエステルや不飽和カルボン酸エステルが好ましく、これら他の単量体の具体例としては、アイオノマーのベース樹脂であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体に於ける他の単量体として既に例示したものを挙げることが出来る。
【0035】
上記オレフィン・グリシジルモノマー共重合体に於いては、オレフィンが50〜99重量%、特に52〜98重量%、グリシジルモノマーが0.5〜20重量%、特に1〜18重量%、上記他の単量体が0〜49.5重量%、好ましくは0〜40重量%の範囲で共重合されているものが好ましい。
【0036】
このような共重合体は、ランダム共重合体であってもグラフト共重合体であっても良いが、一般にはアイオノマーとの反応の均一性からランダム共重合体を使用するのが好ましい。
このようなランダム共重合体は、例えば、高温、高圧下のラジカル共重合によって得ることが出来る。
【0037】
上記共重合体としてエチレン共重合体を使用する場合には、190℃、2160g荷重に於けるメルトフローレート(MFR)が、0.01〜1000g/10分、特に0.1〜200g/10分のものを使用するのが好ましい。
【0038】
上記好適アイオノマー組成物を構成するポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることが出来る。
これらの中ではポリエチレン、中でも直鎖低密度ポリエチレンを用いるか、或いはポリプロピレン、中でもプロピレン・α−オレフィン共重合体を使用することが好ましい。
すなわち直鎖低密度ポリエチレンやプロピレン・α−オレフィン共重合体を使用することにより、他成分との分散性が優れ、意匠性、耐熱性、耐摩耗性、耐傷つき性、防汚性、機械的強度等に優れた樹脂組成物を容易に得ることが出来る。
【0039】
特に、直鎖低密度ポリエチレンの場合は、他の樹脂成分との相溶性に優れ、折り曲げに対して白化し難い組成物を得ることが出来る。
上記直鎖低密度ポリエチレンは、エチレンと炭素数3以上、好ましくは3〜12のα−オレフィンの共重合体であって、密度が900〜940kg/m、好ましくは900〜930kg/mのものである。
これらはシクロペンタジエニル骨格を有する配位子を有するジルコニウムの化合物から成る触媒成分と有機アルミニウムオキシ化合物触媒成分の組合せ触媒のようなシングルサイト触媒、或いは高活性チタン触媒成分と有機アルミニウム化合物触媒成分の組合せ触媒のようなマルチサイト触媒の存在下に、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどを共重合することによって製造することが出来る。
直鎖低密度ポリエチレンとしては、他成分との混和性や加工性を考慮すると、190℃、2160g/荷重に於けるメルトフローレート(MFR)が0.1〜100g/10分、特に0.2〜50g/10分のものを使用するのが好ましい。
【0040】
ポリオレフィンとして好適な上記プロピレン・α−オレフィン共重合体は、プロピレンを主体とするプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体であって、密度は870〜930kg/m、特に880〜920kg/mのものが好ましく、又230℃、2160g/荷重に於けるメルトフローレート(MFR)が0.1〜100g/10分、特に0.2〜80g/10分のものが好ましい。
プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、炭素数2〜12、特に炭素数2〜10のものが好ましく、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチルー1−ペンテンなどの1種又は2種以上を例示することが出来る。
【0041】
上記プロピレン共重合体は、ランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよい。
特に好適なプロピレンランダム共重合体は、プロピレン含量が85〜99.9重量%、好ましくは90〜99.5重量%であるプロピレンとエチレンのランダム共重合体又はプロピレンとエチレンと他のα−オレフィンとからなるランダム共重合体である。
これらは立体特異性触媒の存在下で共重合された結晶性の重合体である。
【0042】
又、ブロック共重合体は、プロピレンと他のαーオレフィンを順次に重合又は共重合して得られるもので、一般には(1)プロピレンの重合の後(2)プロピレンとやや多量のαーオレフィンの共重合及び/又は(3)α−オレフィンの重合からなる重合段階を一つ以上組み合わせることによって行われる。
上記(1)のプロピレンの重合に於いては少量のα−オレフィンを共重合させる場合があり、又、(3)のα−オレフィンの重合に於いてプロピレンを少量共重合させる場合がある。
いずれにしても上記ブロック共重合体は、立体特異性触媒の存在下で上記多段階の重合によって得ることが出来る。
好適なプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、(1)のプロピレン重合体ブロックを60〜95重量%程度含有するプロピレンとエチレンのブロック共重合体である。
【0043】
上記好適アイオノマー組成物は、前記アイオノマー、オレフィン・グリシジルモノマー共重合体、ポリオレフィンを溶融混合することにより得ることが出来る。
溶融混合に際しては、スクリュー押出機、ロールミキサー、バンバリミキサー等の通常の混合装置を使用することが出来る。
又溶融混合は上記3成分を同時に配合して行うことが出来るが、最も好ましいのはオレフィン・グリシジルモノマー共重合体とポリオレフィンを予め溶融混合したものとアイオノマーを溶融混合する方法である。
この方法によれば、オレフィン・グリシジルモノマー共重合体がポリオレフィンに希釈されることによりアイオノマーとの反応が局部的に起こらず均一となるため優れた諸性質を有する組成物を品質安定性良く製造出来る利点がある。
【0044】
次に、本発明の積層フィルムに於ける接着樹脂層の構成素材について述べる。
本発明に於いて、該接着樹脂層を構成する素材としては基材に対し熱接着性が良好で且つ前記表皮層に、例えば、共押出等に依る密着積層が可能な樹脂であれば特に限定されることなく用いることが出来、使用される基材の種類、性質、表皮層の性質に応じて適宜選択されてよいが、熱接着すべき基材に対し29N/25mm以上の接着強度(Tピール)を有することが好ましい。
【0045】
例えば、接着すべき基材がポリ塩化ビニル系樹脂シートである場合には、エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂層、又は、該樹脂とそれ以外の樹脂であって接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるものとのブレンド組成物からなる樹脂層を挙げることが出来、これら樹脂層は基材との接着強度が大きいと云う観点から特に好適である。
【0046】
又、基材がポリオレフィン系樹脂シートである場合は、エチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂、不飽和カルボン酸又はその誘導体で酸変性されたオレフィン系重合体樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂及びエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれた少なくとも1種からなる樹脂層、又は前記樹脂の少なくとも1種と前記以外の樹脂であって接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるものとのブレンド組成物からなる樹脂層を挙げることが出来、これら樹脂層は上記同様の観点から好適である。
【0047】
本発明の接着樹脂層を構成する素材の一つである上記エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂は、エチレンと一酸化炭素と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体であるが、本発明に於いて使用される該共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分に於けるアルキル基は、直鎖状又は分岐状であって、その炭素数は1〜18であり、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、キシル基、2エチル−ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、この内炭素数2〜8のものが好ましい。
【0048】
又、この共重合体樹脂では、エチレンは30〜90重量%、好ましくは40〜80重量%で、一酸化炭素は1〜40重量%、好ましくは5〜30重量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは5〜60重量%、好ましくは20〜50重量%含まれていることが望ましい。
【0049】
このような共重合体樹脂を製造するには、単量体であるエチレン、一酸化炭素、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのそれぞれを、触媒としてのt−ブチルパーオキシイソブチレート又はアゾイソブチロニトリルなどと共に所定の割合で高速攪拌反応器中に供給して混合し、高温高圧下に高速で攪拌することによって単量体を共重合させればよい。
【0050】
このエチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂は、メルトフローレート(MFR190℃、2160g荷重)(JIS K7210−1999に準拠)が1〜1000g/10分、より好ましくは5〜200g/10分であることが望ましい。
又、接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるために該エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体にブレンドされる樹脂成分としては、エチレン・メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸エチル共重合体樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂等を例示することが出来、これらの内でもエチレン・メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸共重合体樹脂が好ましい。
これら他の樹脂成分のブレンドは一種類のみならず複数種配合することが出来る。
又その配合量はエチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂100重量部に対し合計で100重量部以下(50%以下)であることが好ましい。
【0051】
本発明の接着樹脂層を構成する素材の他の一つである上記エチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂は、エチレンと不飽和カルボン酸と(メタ)アクリル酸アルキルエステルの三元共重合体からなるが、この三元共重合体樹脂に於ける不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸等を例示することが出来る。
これらの中では、アクリル酸又はメタクリル酸が特に好ましい。
又、上記共重合体に於ける(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味するが、具体的には、メチル、エチル、n−ブチル、イソブチル、2−エチルヘキシル、イソオクチルなどのエステルを例示することが出来る。
かかる共重合体に於ける不飽和カルボン酸含量は、1〜15重量%、特に2〜12重量%、(メタ)アクリル酸エステル含量は、4〜25重量%、特に6〜20重量%共重合されていることが望ましい。
このような共重合体としてはまた、190℃、2160g/荷重に於けるメルトフローレート(MFR)(JIS K7210−1999に準拠)が0.5〜100g/10分、特に1〜50g/10分のものが好ましい。
上記共重合体樹脂は高温、高圧下のラジカル共重合によって得ることが出来る。
【0052】
又、接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるために該共重合体樹脂にブレンドされる他の樹脂成分としては、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル等を例示することが出来る。
これら他の樹脂成分のブレンドは一種類のみならず複数種配合することが出来る。
又その配合量は上記エチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂100重量部に対し合計で100重量部以下であることが好ましい。
【0053】
本発明の接着樹脂層を構成する素材の別の一つである上記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂は、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であり、そのエステル成分としては、メチル、エチル、n−ブチル、2−エチルヘキシル、イソオクチルなどのエステルを例示することが出来る。
このような共重合体としては又、190℃、2160g/荷重に於けるメルトフローレート(MFR)が0.5〜100g/10分、特に1〜50g/10分のものが好ましい。
又、(メタ)アクリル酸エステル成分含量は5〜50重量%であることが好ましい。
このような共重合体樹脂は高温、高圧下のラジカル共重合によって得ることが出来る。
【0054】
又、接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるために該共重合体樹脂にブレンドされる他の樹脂成分としては、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体樹脂やエチレン・アクリル酸エチル共重合体樹脂又はポリエチレン等を例示することが出来、これらの内でもエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸エチル共重合体樹脂が好ましい。
これら他の樹脂成分のブレンドは一種類のみならず複数種配合することが出来る。
又その配合量は上記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂100重量部に対し合計で100重量部以下であることが好ましい。
【0055】
本発明の接着樹脂層を構成する素材の又別の一つである不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたオレフィン系重合体は、樹脂状或いはエラストマー状のオレフィン系重合体を不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性又は共重合変性したものである。
【0056】
このベース樹脂となるオレフィン系重合体は、オレフィンの単独重合体、2種以上のオレフィンの共重合体、オレフィンと極性単量体の共重合体などである。
具体的には、樹脂状オレフィン重合体として、高、中、低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体などのエチレン系共重合体;プロピレン単独重合体、プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体などのプロピレン系重合体;ポリ−1−ブテンなどを挙げることが出来る。
【0057】
又エラストマー状オレフィン重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体ゴムのようなエチレン・α−オレフィン共重合体ゴム;プロピレン・α−オレフィン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体ゴムのようなエチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体ゴム;規則性を制御したポリプロピレンにエチレン・プロピレン共重合体部を共重合したブロック共重合体;エチレン・アクリル酸メチル共重合体ゴム;エチレン・アクリル酸メチル・架橋サイトモノマー共重合体ゴム等を挙げることが出来る。
上記各共重合体に於けるα−オレフィンとしては、炭素数2〜12程度のものが好ましい。
【0058】
上記ベースポリマーのオレフィン系重合体にグラフト又は共重合される不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物を例示することが出来る。
グラフト又は共重合変性されたオレフィン系重合体に於いてグラフトモノマー単位或いは共重合モノマー単位の含有量は、変性重合体を基準として好ましくは0.01〜20重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%である。
【0059】
上記変性重合体としては又、ベース樹脂がエチレン系重合体の場合、190℃、2160g/荷重に於けるメルトフローレートが0.1〜50g/10分、特に0.2〜10g/10分のものを使用するのが好ましい。
又、変性重合体のベース樹脂がプロピレン系重合体の場合は、230℃、2160g/荷重に於けるメルトフローレートが0.1〜50g/10分、特に0.2〜10g/10分のものを使用するのが好ましい。
【0060】
又、接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるために該酸変性オレフィン系重合体樹脂にブレンドされる樹脂成分としては、エチレン・アクリル酸エチル共重合体樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等を例示することが出来、これらの内でもエチレン・アクリル酸エチル共重合体樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂が好ましい。
これら他の樹脂成分のブレンドは一種類のみならず複数種配合することが出来る。
又その配合量は該酸変性オレフィン系重合体樹脂100重量部に対し合計で100重量部以下であることが好ましい。
【0061】
次に、本発明の接着樹脂層を構成する素材の更に別の一つであるエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂は、エチレンと酢酸ビニルの共重合体であるが、本発明に於いてこの共重合体の成分組成は、エチレンが95〜50重量%、好ましくは85〜60重量%、酢酸ビニルが10〜50重量%、好ましくは15〜40重量含まれていることが望ましい。
【0062】
上記共重合体樹脂としては又、190℃、2160g/荷重に於けるメルトフローレートが0.01〜500g/10分、特に0.1〜300g/10分のものを使用するのが好ましい。
又、接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるために該共重合体樹脂にブレンドされる他の樹脂成分としては、ワックス、タフマー(商品名)と呼ばれる市販α−オレフィン系共重合体樹脂、接着性ポリエチレンであるアドマー(商品名)等を例示することが出来、これらの内でもタフマー、アドマーが好ましい。
これら他の樹脂成分のブレンドは一種類のみならず複数種配合することが出来る。
又その配合量はエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対し合計で100重量部以下であることが好ましい。
【0063】
本発明の積層フィルムに於いて上記接着樹脂層は、必ずしも単層である必要はなく、上記したエチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂、エチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂、不飽和カルボン酸又はその誘導体で酸変性されたオレフィン系重合体樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂やそれらの組成物等から選ばれ、樹脂種を異にする複数層からなることが出来る。
【0064】
このような複層からなる接着樹脂層として、例えば、不飽和カルボン酸又はその誘導体で酸変性されたオレフィン系重合体層と、エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂層又は該樹脂とエチレン・メタクリル酸共重合体樹脂又はエチレン・アクリル酸共重合体樹脂等のブレンド組成物層の2層からなるものを挙げることが出来、この態様の接着樹脂層は、前記表皮層との接着性がより向上すると云う利点を有する。
【0065】
上述した表皮層用のアイオノマー樹脂素材と接着層用の樹脂素材から本発明の基材表皮用積層フィルムを製造する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の如何なる方法を用いて形成積層してもよいが、生産性と共に労働衛生や環境的配慮から、有機溶剤を用いる接着剤を使わない溶融押出法が好ましく、特に、表皮樹脂層と接着樹脂層を共押出で同時形成する方法が好ましい。
【0066】
又、本発明の基材表皮用積層フィルムの厚みは、特に制限はなく、その用途、目的に応じて適宜設定すればよいが、壁紙や化粧シート等の壁装材用に供されるポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の基材(通常厚さ300mm〜30μm程度)の表面被覆に用いる場合は一般に1〜100μm程度が好ましい。
又表皮層/接着樹脂層の厚み比は1:10〜10:1程度が好ましい。
【0067】
上記の基材表皮用積層フィルムを、例えば、壁紙や化粧シート用ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル基材に積層して壁装材とするには必ずしもこれに限定される訳ではないが熱圧着による方法が好適である。
【0068】
このようにして得られた本発明の壁装材の好適層構成例を示す。
但し、エチレン不飽和カルボン酸共重合体亜鉛アイオノマー表皮層を(a)、該a)アイオノマーとオレフィン・グリシジルモノマー共重合体とポリオレフィンとのアイオノマー組成物表皮層を(b)とする。
ポリオレフィン基材シートの場合、
i) a)又はb)表皮層/エチレン・アクリル酸エチル共重合体樹脂層/ポリエチレン又はポリプロピレン基材層、
ii) a)又はb)表皮層/エチレン・アクリル酸エチル共重合体グラフト酸変性物層/ポリエチレン又はポリプロピレン基材層、
iii) a)又はb)表皮層/エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂層/ポリエチレン又はポリプロピレン基材層、
iv) a)又はb)表皮層/エチレン・アクリル酸イソブチル・メタクリル酸共重合体樹脂層/ポリエチレン又はポリプロピレン基材層
ポリ塩化ビニル基材シートの場合、
i) a)又はb)表皮層/エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂層/ポリ塩化ビニル基材層、
【実施例】
【0069】
次に実施例によって本発明を説明する。
「原材料」
1)表皮層用アイオノマー(a):ベース樹脂:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量11重量%)、金属イオン源:亜鉛、中和度63%、MFR:5.0g/10分
2)表皮層用アイオノマー組成物(b):エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジルメタクリレート含量12重量%、MFR:3.0g/10分)2重量部、プロピレン・エチレンランダム共重合体(ポリプロピレンF232DC(三井化学社製、密度900kg/m、MFR9.0g/10分(230℃))15重量部を予め溶融混合し、得られたブレンド物と前記アイオノマー(a)83重量部を溶融混練して得たアイオノマー組成物
3)接着層用樹脂(1) エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂(EnBACO):一酸化炭素含量10重量%、nーブチルアクリレート含量30重量%、MFR6.5g/10分(190℃)
4)接着層用樹脂(2) 酸変性オレフィン系重合体樹脂(EEA-g-MAH):アクリル酸エチル含量25重量%、無水マレイン酸含量1.1重量%、MFR0.92g/10分(190℃)
5)接着層用樹脂(3) エチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂(EiBAMAA):アクリル酸イソブチル含量20重量%、メタクリル酸含量4重量%、MFR12g/10分(190℃)
6)接着層用樹脂(4) エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂(EEA):アクリル酸エチル含量25重量%、MFR5g/10分(190℃)
7)接着層用樹脂(5) エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA):酢酸ビニル含量28重量%、MFR6g/10分(190℃)
8)軟質ポリ塩化ビニル(PVC)シート: 厚さ0.1mm
9)ポリオレフィン(PE)シート:低密度ポリエチレンシート、厚さ0.1mm
10)ポリプロピレン樹脂シート(表面比較用):PP、厚さ0.1mm
11)ポリエステル樹脂シート(表面比較用):PETーG、厚さ0.1mm
【0070】
「評価方法」
表皮積層フィルム/基材シート接着強度:T型剥離試験;引張速度300mm/min、測定温度23℃、試験片幅25mm、n=2〜3、
試験結果の評価
◎: 接着強度>49N/25mm
○: 接着強度49-29N/25mm
△: 接着強度29-9.8N/25mm
×: 接着強度9.8-4.9N/25mm
××: 接着強度<4.9N/25mm
表面傷つき性
JIS L0862,L0849に準拠して、次の条件で学振式磨耗試験を実施して評価した。
◎: シート評価に傷が確認できない。
○: 傷のついていない部分が、シート表面の80%以上
△: 傷のついていない部分が、シート表面の50%以上80%未満
×: 傷のついていない部分が、シート表面の50%未満
試験機 :東洋精機 磨耗試験機 往復速度:60回/分
滑り片 :綿帆布 10号 往復回数:100回
荷重 :450g(1.92g/mm2) サンプル形態:2mm厚み
(プレスシート)
測定温度:23℃
防汚性
JIS A5705,A1454に準拠して、次の条件で汚染性を評価した。
サンプル:0.15mm厚みシート
汚染物質:潤滑油、大豆油、牛乳、醤油
◎ 目視にて、膨潤も変色しない
○ 目視にて、僅かに膨潤もしくは変色する
× 目視にて、膨潤して変色する
耐熱性
以下の条件で表皮層どうしをヒートシールして、耐熱性を評価した。
HS温度 140℃、HS時間 1sec、HS圧力 0.2MPa
◎ シールせずに剥離する
○ 僅かにシールされるが、簡単に界面で剥離する
× 凝集剥離、または基材破壊が発生する
屈曲白化
シートを180°屈曲させた後、元のシート状に戻した時の屈曲部分を目視にて評価した
◎ 屈曲部分が目視では判断できない
○ 屈曲部分が、僅かに線状に残る
× 屈曲部分が白化して残る
耐薬品性: JIS A5705,A1454準拠、 観察; ー 変化無し、A 変化小、B 変化大
艶戻り性: 180(又は100)℃に加熱されたギヤーオーブン中に1分間(又は30分)放置した後、ギヤーオーブンから取りだして放置冷却したフィルムのグロス値を測定し、加熱前の値と比較する。
加熱後のグロス値が加熱前の値より大きくなっているもの:×、変わっていないもの:○
光学性(表面グロス:入射角60°): JIS Z8741
ヤカン耐熱: 加熱沸騰水2リットルが入ったステンレス製ヤカンを直接シート上に置き、10秒間放置した後、シートへの融着性を評価する。
ヤカンがシートに融着しているもの:×、ヤカンがシートから簡単に剥がれるもの:○
【0071】
(実施例1)
2台の押出機を用いて表皮層用アイオノマー(a)と接着層用樹脂(1)(EnBACO)をそれぞれ溶融し、220℃のTダイから共押出し、冷却固化して厚さ150μmの基材表皮用熱接着性積層フィルム(1a)を得た(表皮層厚さ100μm、接着樹脂層厚さ50μm)。
次いで、この積層フィルム(1a)を25mm幅にカットし、該フィルムの接着樹脂層側面が壁紙基材PVCシート面に接するように配置し、温度150℃、圧力0.098MPaで10秒間熱圧着してPVC基材の表面被覆壁紙を得た(表面被覆壁紙1a/PVC)。
次に、上記同様押出機を用いて表皮層用アイオノマー組成物(b)と接着層用樹脂(1)(EnBACO)をそれぞれ溶融し、220℃のTダイから共押出し、冷却固化して厚さ150μmの基材表皮用熱接着性積層フィルム(1b)を得た(表皮層厚さ100μm、接着樹脂層厚さ50μm)。
次いで、この積層フィルム(1b)を上記同様に熱圧着してPVC基材の表面被覆壁紙を得た(表面被覆壁紙1b/PVC)。
【0072】
(実施例2)
実施例1と同様の押出機を用いて表皮層用アイオノマー組成物(b)と接着層用樹脂(2)(EEA-g-MAH)をそれぞれ溶融し、220℃のTダイから共押出し、冷却固化して厚さ150μmの基材表皮用熱接着性積層フィルム(2b)を得た(表皮層厚さ100μm、接着樹脂層厚さ50μm)。
次いで、この積層フィルム(2b)を25mm幅にカットし、該フィルムの接着樹脂層側面が壁紙基材PO(ポリエチレンPE)シート面に接するように配置し、温度150℃、圧力0.098MPaで10秒間熱圧着してポリエチレン基材の表面被覆壁紙(2b/PE)を得た。
【0073】
(実施例3)
実施例2に於いて、接着層用樹脂(2)(EEA-g-MAH)を(3)(EiBAMAA)に替えた以外は実施例2と同様にして積層フィルム(3b)と表面被覆壁紙(3b/PE)を得た。
【0074】
(実施例4)
実施例2に於いて、接着層用樹脂(2)(EEA-g-MAH)を(4)(EEA)に替えた以外は実施例2と同様にして積層フィルム(4b)と表面被覆壁紙(4b/PE)を得た。
【0075】
(実施例5)
実施例2に於いて、接着層用樹脂(2)(EEA-g-MAH)を(5)(EVA)に替えた以外は実施例2と同様にして積層フィルム(5b)と表面被覆壁紙(5b/PE)を得た。
【0076】
(実施例6)
実施例1〜5で得られた積層フィルム(1a,1b〜 5bの6試料)について表面傷つき性、表面防汚性、耐熱性、折曲白化性、耐候性を夫々同一条件下による相対比較により評価した。
又、比較のため基材と同じPVCシート、PEシート、市販ポリエステル樹脂フィルム、市販ポリプロピレンフィルムを同一条件下に比較評価した。
更に、被覆壁紙(1a/PVC、1b/PVC,2b/PE~5b/PEの6試料)についてその接着強度を測定評価した。
評価結果を表1に纏めて示した。
【0077】
【表1】

【0078】
(実施例7)
前記実施例2で用いた、基材表皮用熱接着性積層フィルム(2b)の耐薬品性を評価した。
結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
(実施例8)
実施例5の壁紙(層構成:b/EVA/PE)について艶戻り性、ヤカン耐熱を評価した。
結果を表3に示す。
【0081】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン不飽和カルボン酸共重合体又はエチレンと不飽和カルボン酸を主構成単位成分とする多元共重合体をベース樹脂とするアイオノマー、或いは、そのアイオノマーを主配合成分として含有する組成物からなる表皮層の一面に基材との熱接着性が良好な接着樹脂層を積層してなることを特徴とする熱接着性の基材表皮用積層フィルム。
【請求項2】
壁装材基材の表面被覆用である請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記表皮層が、前記アイオノマーとオレフィン・グリシジルモノマー共重合体及びポリオレフィンからなるアイオノマー組成物層である請求項1又は2記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記接着樹脂層が熱接着すべき基材に対し29N/25mm以上の接着強度を有する請求項1乃至3の何れかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記熱接着すべき基材がポリオレフィン系樹脂シートである場合に於いて、前記接着樹脂層が、エチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂、不飽和カルボン酸又はその誘導体で酸変性されたオレフィン系重合体樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂及びエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれた少なくとも1種からなる樹脂層、又は前記樹脂の少なくとも1種と前記以外の樹脂であって該接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるものとのブレンド組成物からなる樹脂層であり、前記熱接着すべき基材がポリ塩化ビニル系樹脂シートである場合に於いて、前記接着樹脂層が、エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂層、又は前記樹脂とそれ以外の樹脂であって接着樹脂層の加工性、熱接着性を更に向上させるものとのブレンド組成物からなる樹脂層である請求項4記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記接着樹脂層が樹脂種を異にする複数層からなる請求項1乃至5の何れかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の積層フィルムを樹脂基材表面に熱接着してなる壁装材。
【請求項8】
前記樹脂基材が軟質ポリ塩化ビニル樹脂シートであり、前記積層フィルムの接着樹脂層がエチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂からなる樹脂層である請求項7記載の壁装材。
【請求項9】
前記樹脂基材がポリオレフィン樹脂シートであり、前記積層フィルムの接着樹脂層がエチレン・不飽和カルボン酸・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂、不飽和カルボン酸又はその誘導体で酸変性されたオレフィン系重合体樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂及びエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれた少なくとも1種からなる樹脂層である請求項7記載の壁装材。

【公開番号】特開2006−205527(P2006−205527A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20262(P2005−20262)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】