説明

熱機械分析装置

【課題】引張試験において試料が破断しても、保持部材の転倒や保持部材載置部からの脱落が起きない熱機械分析装置を提供する。
【解決手段】試料支持管内を通って下方に延びた検出棒19の下端に、試料17を保持する試料上端保持部19aが設けられている。試料上端保持部19aは、逆U字型の腕部32aと腕部32aの下端に取り付けられ、中央部に切込み32cが設けられた平坦部32bで構成された保持部材載置部32と、保持部材載置部32上に載置された保持部材28で構成されている。転倒防止部材30が保持部材載置部32及び保持部材28に係合するように腕部32aに着脱可能に取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を加熱もしくは冷却することによって、又はさらに引張荷重を加えながら、試料の伸びや収縮などの寸法変化を検出する熱機械分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の温度を一定の速度で変えながら、その試料の寸法を温度の関数として測定する熱膨張測定と、さらに試料に圧縮又は引張荷重を加えた場合における試料の機械的性質の変化を測定する方法とを含めて熱機械的分析(Thermal Mechanical Analysis:TMA)といわれ、その分析手法は金属、非金属のあらゆる分野に利用されている。例えば、耐火物などの窯業の分野では、成型する際の収縮率を知る必要があり、その焼成工程の設定、製品の品質管理などに熱膨張測定はきわめて重要である。また、ガラス、合成樹脂の分野では、ガラス転移温度、軟化温度、結晶転移温度の決定や、熱力学的見地からの研究などに用いられている。
【0003】
熱機械分析装置では、検出棒を試料に直接接触させるか、又は検出棒に試料を引っ張り方向に取り付けて、外部から試料を加熱し、その試料の寸法変化を、検出棒の上下動の位置変化として検出し測定する方法が多く用いられている。
【0004】
そのような熱機械分析装置で、試料を引っ張り方向に取り付けて測定するには、試料の下端を試料支持管の下端部で支持し、上端が変位測定器の差動トランスコアの下端に連結され試料支持管内を通って下方に延びた検出棒の下端で試料の上端を支持し、試料の温度を変えながら、又はさらに引張荷重を加えながらその試料の寸法変化を変位測定器により測定する
【0005】
図5は熱機械分析装置を構成する検出棒19の先端部分を示したものである。検出棒19の下端に試料上端保持部19aが形成されている。試料上端保持部19aは、逆U字型の腕部32a、及びその下端に取り付けられた平坦部32bからなる保持部材載置部32と、保持部材載置部32に載置される保持部材28とで構成されている。保持部材載置部32の平坦部32bには試料を差し込む切込み32cが設けられており、その切込み32cに試料を差し込むことにより、フィルムなどの帯状試料17の上端を保持した状態の保持部材28を載置することができる。試料17は切込み32cに差し込まれて下方に垂れ、試料支持管の下端の試料下端保持部(図示は省略)に固定される。
【0006】
保持部材28は1対の重ね合わせられた保持板28a,28bと、保持板28a,28bを重ね合わせた状態で固定するためのネジ29a,29bで構成されている。試料17は上端が保持板28aと28bの間に挟まれて保持される。この状態で加熱炉を試料の位置に位置決めし、温度を変化させながら検出棒19が試料支持管に対して相対的に上方に引き上げられることで試料17の引張試験が行われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱機械分析装置で帯状試料の引張試験を行なうと、試料が測定中に破断する場合がある。この場合、保持部材28は保持部材載置部32の平坦部32bに載置されているだけであるので、試料が破断した反動によって保持部材28の転倒や保持部材載置部32からの脱落が起きることがあった。保持部材28の転倒や脱落が起きると、加熱炉を移動させる際に保持部材28が試料支持管と加熱炉との間、又は検出棒19と加熱炉との間に挟まって試料支持管や検出棒19が破損することがあるという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、引張試験において試料が破断しても、保持部材の転倒や保持部材載置部からの脱落が起きない熱機械分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、変位測定器と、その下方に設置された試料支持管と、変位測定器に連結され試料支持管内まで延びた検出棒と、検出棒の下端部と試料支持管の下端部の間で試料の上下端を固定して支持する試料支持部と、試料支持部に支持された試料を加熱する加熱炉とを備えて、試料の温度を変えたときの試料の寸法変化を変位測定器により測定する熱機械分析装置であって、試料支持部は、検出棒の下端部に設けられて試料の上端を保持して固定する試料上端保持部と、試料支持管の下端部で試料の下端部と係合して保持する試料下端保持部とを備え、試料上端保持部は、試料の上端を保持する保持部材と、検出棒の下端部に設けられ、試料を保持した保持部材を着脱可能に載置する保持部材載置部と、保持部材の転倒又は脱落を阻止するように保持部材載置部及び保持部材に係合して着脱可能に装着される転倒防止部材と、を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の熱機械分析装置の好ましい形態の一例は、保持部材載置部が、腕部と、その腕部の下端に取り付けられて保持部材を載置するとともに試料が差し込まれる切込みが形成された平坦部とを備え、保持部材が、試料を間に挟んで保持する保持板と、保持板を試料を間に挟んだ状態で固定し、その状態で保持板の厚みから突出する長さをもつ締結部品とを備えており、転倒防止部材は、保持部材載置部の腕部と保持部材の保持板とをともに挟み、かつ保持部材の締結部品の突出部と係合して保持部材の転倒又は脱落を阻止する形状をもつようになっているものである。
【0011】
また、転倒防止部材が外方向に突出した把持部を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱機械分析装置は、保持部材の転倒又は脱落を防止する転倒防止部材を備えているようにしたので、引張試験の測定時に試料が破断しても、保持部材の転倒又は保持部材載置部からの脱落を防止することができる。これにより、熱機械分析装置を構成する検出棒、試料支持管、加熱炉などに保持部材が接触して破損したりするのを防ぐことができる。その結果、測定に際して頻繁に安心して試料交換を行なうことができるようになり、測定装置の稼働率が上がる。
【0013】
転倒防止部材として、保持部材載置部の腕部と保持部材の保持板とをともに挟み、かつ保持部材の締結部品の突出部と係合して保持部材の転倒又は脱落を阻止する形状をもつものを使用するようにすれば、保持部材を構成する締結部品を利用して保持部材の転倒又は脱落を確実に防止することができるので、転倒防止部材と係合するための部品を新たに設ける必要がない。
【0014】
転倒防止部材が外方向に突出した把持部を備えていれば、転倒防止部材の取扱いが容易であり、熱機械分析装置への着脱を容易に行なうことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の好適な形態を説明する。
図1に一実施例の熱機械分析装置の断面構造を示す。
7は変位測定器である。変位測定器7は、差動トランスコイル7aと差動トランスコア7bから構成される。検出棒19の上下動によって差動トランスコア7bの位置が上下に変化するのを検出し、試料の熱膨張による寸法変化を知ることができる。
フオースコイル5に電流を流し永久磁石6との相互作用によって、中心の軸(フオースコイル5の中心の軸、差動トランスコア7b、中間軸8、検出棒19)を介して試料17に引張荷重を加えることができる。
そして、変位測定器7の差動トランスコイル7aの上部に永久磁石6が設置され、両者が支持筒2に保持され、その支持筒2に支持金具3が取り付けられ、支柱1上を上下にマイクロメータ(図示は省略)によって手動で移動させることができる。
【0016】
下部に取り付けられている試料支持管16内を通って下方に延びた検出棒19の下端部に帯状試料の上端を保持する試料上端保持部19aが設けられており、試料上端保持部19aに試料17が保持される。試料17の下端は試料支持管16の最下部に設けられた試料下端保持部16aに固定される。検出棒19は上端部が中間軸8の下端開口に挿入され、その中間軸8を介して差動トランスコア7bの下端に接続されている。差動トランスコア7bから上方に延長された軸が永久磁石6の中央を通り、フオースコイル5の中央に接続されている。上部にはバネ4が設けられ、バネ4の上端は支持金具3に固定され、下端はフオースコイル5の上面中央棒に固定されている。
【0017】
試料支持管16は円筒状をなし、その底部に試料17が装着される。試料上端保持部19aに帯状試料17の上端が保持された状態で、試料支持管16が試料17と検出棒19を外部の環境から隔離する。試料支持管16の上端は口金13の開口に挿入され、その口金13を介して、この分析装置のベースプレート11の金具12に試料支持管押さえ20によって固定されている。21は波付座金、22はスプリングホルダで、これらは試料支持管16を口金13とともに固定するためのものである。
図示は省略しているが、装置の下部に加熱炉が設けられており、この場合、試料支持管16及び検出棒19の外周部に加熱炉を上昇させて、試料17を加熱するようになっている。
ベースプレート11上の各部を外部の影響から隔離するために、ベースプレート11上にカバー固定用金具10を設置し、容器カバー9が被せられる。
【0018】
図2は検出棒19の下端部の拡大図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
検出棒19下端部の試料上端保持部19aは、逆U字型の腕部32a及び腕部32aの下端に取り付けられた平坦部32bで構成される保持部材載置部32と、保持部材載置部32の平坦部32b上に載置される保持部材28で構成されている。保持部材載置部32の平坦部32bの中央部には切込み32cが設けられており、保持部材28に保持された帯状試料17は、切込み32cに差し込まれて下方に垂れる。下方に垂れた試料17の下端は試料下端保持部19bに固定される。
【0019】
保持部材28は1対の保持板28a,28bが間に試料17の上端を挟んだ状態で重ね合わせられ、締結部品であるネジ29a,29bによって固定される。ネジ29a,29bは保持板28a,28bの表面に対して垂直に取り付けられており、ネジ29a,29bによって保持部材28による試料17の保持強度を調節できるようになっている。2つのネジ29a,29bは、互いの頭が離間するように配置されている。
【0020】
保持部材載置部32の腕部32aに転倒防止部材30が着脱可能に取り付けられている。図3は転倒防止部材30を詳細に示す図であり、(A)は正面図、(B)は上面図、(C)は側面図である。転倒防止部材30は、例えば厚み0.05〜0.5mmのステンレス板が折り曲げられて形成されたものである。転倒防止部材30の材料は特に限定されない。引張試験では、加熱炉において試料を1000℃に加熱することがあるため、そのような高温に耐えるものであれば使用することができる。
【0021】
転倒防止部材30は図3(C)に示されるコ字形の2つの脚片31aと31bが図3(A)に示される正面側の上部で連結片31cで連結された形状をしている。正面側では連結片31cの下方に開口30aが形成され、上端には連結片31cの上方に開口30bが形成され、背面側では脚片31aと31bの間はつながっていない。開口30aの幅寸法は保持部材28の厚み寸法より広く、ネジ29a,29bの長さよりも短くなるように設定されている。開口30bは背面側につながっており、腕部32aと保持部材28にこの転倒防止部材30を上から被せて取り付けることができるようになっている。
【0022】
保持部材28は、保持板28a,28bの表面が保持部材載置部32の腕部32aの逆U字型に対して垂直方向になるように平坦部32b上に載置される。転倒防止部材30は2つの脚片31a,31bが腕部32aに被せられ、保持部材28が開口30a内に嵌め込まれるようにする。この状態で、図2(B)に示されるように、保持部材28のネジ29aと29bの間に転倒防止部材30の脚片31a,31bが挿入され、転倒防止部材30の外側表面がネジ29a,29bの頭と係合する。この状態にすることで、転倒防止部材30は腕部32a,ネジ29a及び29bの頭と係合して、保持部材28を保持部材載置部32に保持する。これにより、引張試験時における試料17の破断による反動で、保持部材28の転倒や保持部材載置部19aからの脱落を防止できる。
【0023】
転倒防止部材30は、例えば図4に示されるように、連結片31cに掴持部34が設けられているものであってもよい。掴持部34が設けられていれば、ピンセットなどによって転倒防止部材30を掴むことができるので、サイズの小さい転倒防止部材30であっても取扱いが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】熱機械分析装置の一実施例を概略的に示す断面図である。
【図2】検出棒の先端部分を詳細に示す拡大図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図3】転倒防止部材の一例を示す図であり、(A)は正面図、(B)は上面図、(C)は側面図である。
【図4】転倒防止部材の他の例を示す図であり、(A)は正面図、(B)は上面図、(C)は側面図である。
【図5】従来の熱機械分析装置の検出棒の先端部分を詳細に示す図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【符号の説明】
【0025】
7b 差動トランスコア
8 中間軸
13 口金
16 試料支持管
16a 試料下端保持部
17 試料
19 検出棒
19a 試料上端保持部
28 保持部材
28a,28b 保持板
29a,29b ネジ
30 転倒防止部材
30a,30b 転倒防止部材の開口
31a,31b 脚片
31c 連結片
32 保持部材載置部
32a 保持部材載置部の腕部
32b 保持部材載置部の平坦部
34 掴持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位測定器と、その下方に設置された試料支持管と、前記変位測定器に連結され前記試料支持管内まで延びた検出棒と、前記検出棒の下端部と試料支持管の下端部の間で試料の上下端を固定して支持する試料支持部と、前記試料支持部に支持された試料を加熱する加熱炉とを備えて、試料の温度を変えたときの試料の寸法変化を前記変位測定器により測定する熱機械分析装置において、
前記試料支持部は、前記検出棒の下端部に設けられて試料の上端を保持して固定する試料上端保持部と、試料支持管の下端部で試料の下端部と係合して保持する試料下端保持部とを備え、
前記試料上端保持部は、試料の上端を保持する保持部材と、前記検出棒の下端部に設けられ、試料を保持した前記保持部材を着脱可能に載置する保持部材載置部と、前記保持部材の転倒又は脱落を阻止するように前記保持部材載置部及び前記保持部材に係合して着脱可能に装着される転倒防止部材と、を備えていることを特徴とする熱機械分析装置。
【請求項2】
前記保持部材載置部は、腕部と、前記腕部の下端に取り付けられ前記保持部材を載置するとともに試料が差し込まれる切込みが形成された平坦部とを備えており、
前記保持部材は、試料を間に挟んで保持する保持板と、前記保持板を試料を間に挟んだ状態で固定し、その状態で前記保持板の厚みから突出する長さをもつ締結部品とを備えており、
前記転倒防止部材は、前記保持部材載置部の腕部と前記保持部材の保持板とをともに挟み、かつ前記保持部材の締結部品の突出部と係合して前記保持部材の転倒又は脱落を阻止する形状をもつ請求項1に記載の熱機械分析装置。
【請求項3】
前記転倒防止部材は外方向に突出した把持部を備えている請求項1又は2に記載の熱機械分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−109510(P2009−109510A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327102(P2008−327102)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3119807号
【原出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】