説明

熱潜在性開環重合触媒

【課題】4級アンモニウム塩化物や4級ホスホニウム塩化物を用いた、シルセスキオキサンの開環重合に用いることができる新規熱潜在性開環重合触媒を提供する。
【解決手段】ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩化物又はトリフェニルホスホニウムクロリド等の4級ホスホニウム塩化物からなる熱潜在性開環重合触媒、及び、これを用いた、120℃以下では開環重合せず、一方、150℃では開環重合する、シルセスキオキサンの開環重合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱潜在性を示す重合触媒に関し、詳細には、シルセスキオキサンの開環重合に用いることができる新規熱潜在性開環重合触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
環状ポリシロキサンの開環重合としては、特許文献1にシクロシロキサン混合物を触媒存在下に反応させて線状シロキサンを製造する方法において、触媒として種々のものが開示されており、ルイス酸、水酸化テトラメチルアンモニウム、第4級アンモニウムとホウ素の錯体、第4級ホスホニウムとホウ素の錯体、第4級アンモニウムリン酸塩、第4級アンモニウムホウ酸塩、第4級アンモニウム炭酸塩、第4級アンモニウムケイ酸塩等が開示されているが、そのリストには4級アンモニウム塩化物や4級ホスホニウム塩化物は記載されていない。また、反応温度について室温から高温までの範囲が示されているが触媒が熱潜在性を示すことの有無やその利点等についての言及は一切ない。
【0003】
特許文献2にはカルベンを触媒としてポリオルガノシロキサンの開環重合及び/又は再分配を行う方法が開示され、また、水酸化テトラブチルホスホニウムや水酸化テトラメチルアンモニウムにも言及されているが、そのリストには4級アンモニウム塩化物や4級ホスホニウム塩化物は記載されていない。
【0004】
特許文献3には、環状ポリシロキサン類の混合物から酸性又は塩基性触媒でポリオルガノシロキサン類を製造する方法に関して開示があり、その触媒としてホスホニトリルハライドが開示され、また硫酸、塩酸、ルイス酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、テトラブチルホスホニウムシラノレート等が触媒として例示されている。
【0005】
特許文献4には、線状ホスファゼン塩基触媒がシロキサンの開環重合触媒として開示されている。
【0006】
一方、特許文献5には、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリド、トリフェニルメチルホスホニウムクロリド等の4級ホスホニウム塩が、D単位からなる環状ポリシロキサンの開環反応触媒として記載されているが、この開環反応はジクロロシラン化合物と環状シロキサンとの反応を触媒するものであり、環状シロキサン、とくにシルセスキオキサンの開環重合反応を触媒するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−278983号公報
【特許文献2】特開2007−517103号公報
【特許文献3】特開平4−320423号公報(特許第3297070号)
【特許文献4】特開2000−197823号公報(特許第4542653号)
【特許文献5】特開2007−23021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明は、4級アンモニウム塩化物や4級ホスホニウム塩化物を用いた、シルセスキオキサンの開環重合に用いることができる新規熱潜在性開環重合触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、4級アンモニウム又は4級ホスホニウムの塩化物からなる熱潜在性開環重合触媒である。
本発明はまた、4級アンモニウム又は4級ホスホニウムの塩化物からなる熱潜在性開環重合触媒を用いた、120℃以下では開環重合せず、一方、150℃では開環重合する、シルセスキオキサンの開環重合方法でもある。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明の熱潜在性開環重合触媒は上述の構成により、シルセスキオキサンに配合すると、活性化温度未満においては未重合で安定な低粘度シルセスキオキサン組成物であり、活性化温度に加熱時にのみ重合反応を行わせることができ、例えば、120℃以下では開環重合せず、一方、150℃では開環重合する、シルセスキオキサンの開環重合方法に用いることができる。従って、加熱環境(例えば120℃の環境。)であっても活性化温度未満にあっては組成物の低粘度を確保できる硬化性組成物において有利に使用可能である。
(2)本発明の熱潜在性開環重合触媒は上述の構成により、開環重合反応という反応形式により環状シロキサンの重合を行うものであり、縮合反応のように硬化反応の副生物(水、メタノール等)が生じない。このため、副生物による硬化物への悪影響がないという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱潜在性開環重合触媒は、4級アンモニウム又は4級ホスホニウムの塩化物からなる。上記触媒においては4級アンモニウム塩化物及び4級ホスホニウム塩化物の併用を排除するものではない。
【0012】
本発明の一態様において、上記4級アンモニウム塩化物は、その4級アンモニウムカチオンが
R1R2R3R4N
(ただし、式中、R1、R2、R3、R4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、かつ、(i)R1〜R4がアルコキシル基、エーテル基、シリル基又はリン酸基を含有していてもよい炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基(炭素数2以上の場合は飽和でも不飽和でもよい。)であるか、又は(ii)R1〜R4のうちの1つ若しくは2つがベンジル基若しくはフェニル基で残りの3つ若しくは2つがアルコキシル基、エーテル基、シリル基若しくはリン酸基を含有していてもよい炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基(炭素数2以上の場合は飽和でも不飽和でもよい。)である。)で表されるものである。これらのうち、長鎖アルキル基(炭素数4〜18。以下同様。)と短鎖アルキル基(炭素数1〜3。以下同様。)の組み合わせを有するアンモニウム塩化物か、ベンジル基と長鎖アルキル基と短鎖アルキル基の組み合わせを有するアンモニウム塩化物がより好ましい。上記炭素数4〜18のアルキル基、ベンジル基又はフェニル基のうち、炭素数4〜18のアルキル基又はベンジル基がより好ましく、炭素数4〜18のアルキル基がさらに好ましい。また、アルキル基は、炭素数8〜18がより好ましい。このような4級アンモニウム塩化物の具体例は、下記例示に含まれている。
【0013】
また本発明の一態様は、上記4級アンモニウム塩化物は、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、フェニルトリエチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムクロライド、アセチルコリンクロライド、ベンザルコニウムクロライド、ベンゼトニウムクロライド、ベンゾイルコリンクロライド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、1−ブチル−1−メチルピロリジウムクロライド、カルバミルコリンクロライド、クロロコリンクロライド、(3−クロロ−2−ハイドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサメトニウムクロライド、ラウロイルコリンクロライド、メタコリンクロライド、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウムクロライド、β−メチルコリンクロライド、n−オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、ホスホコリンクロライドカルシウム塩、ホスホコリンクロライドナトリウム塩、スタキドリンハイドロクロライド、スクシニルコリンクロライド、テトラアミルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、トリメチル[2,3−(ジオレイルオキシ)プロピル]アンモニウムクロライド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、及びトリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種である。これらのうち、好ましくは、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、フェニルトリエチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、n−オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラアミルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライドであり、より好ましくはジメチルジステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライドである。
【0014】
4級ホスホニウム塩化物は、その4級ホスホニウムカチオンが
R1R2R3R4P
(ただし、式中、R1、R2、R3、R4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、アルコキシル基、エーテル基又はシリル基を含有していてもよい炭素数1〜18の炭化水素基(炭素数2以上の脂肪族基の場合は飽和でも不飽和でもよい。)であり、少なくとも1つは炭素数4〜18のアルキル基又はフェニル基である。)で表されるものである。上記炭化水素基は、脂肪族であっても芳香族であってもよい。上記炭素数4〜18のアルキル基又はフェニル基のうち、炭素数4〜18のアルキル基がより好ましく、また、アルキル基は、炭素数4〜10がより好ましい。
【0015】
上記4級ホスホニウム塩化物としては、例えば、アセトニルトリフェニルホスホニウムクロライド、アリルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、trans−2−ブテン−1,4−ビス(トリフェニルホスホニウムクロライド)、(4−クロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(2−クロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(クロロメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(シアノメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(2,4−ジクロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(ホルミルメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(1−ナフチルメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、トリブチル(シアノメチル)ホスホニウムクロライド、及び2−(トリメチルシリル)エトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらのうち、好ましくは、アセトニルトリフェニルホスホニウムクロライド、アリルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、トリブチル(シアノメチル)ホスホニウムクロライドであり、より好ましくはアセトニルトリフェニルホスホニウムクロライド、アリルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライドである。
【0016】
本発明の熱潜在性開環重合触媒をシルセスキオキサンに用いて、活性化温度未満においては未重合の低粘度シルセスキオキサン組成物としての安定性を示すとともに、活性化温度に加熱時にのみ重合反応を行わせることができ、例えば、本発明の開環重合方法、すなわち、120℃以下では開環重合せず、一方、150℃では開環重合する、シルセスキオキサン同士の開環重合方法を構成することができる。4級アンモニウム塩化物や4級ホスホニウム塩化物がシルセスキオキサンのような環状ポリシロキサン類同士の開環重合反応を触媒することは新規な知見であり、また、この触媒が熱潜在性を示すこともまた新規な知見である。なお、熱潜在性を示すとは、活性化温度未満においては通常の反応時間で反応を進行させず、反応混合物の分子量が増加しないか、実質的に増加しないにもかかわらず、活性化温度以上においては通常の反応時間(例えば数時間程度以内。)で反応を進行させ、重合により分子量が増大してゲル化することをいう。すなわち、本発明の触媒は、例えば、120℃又はそれよれ低い温度では反応が起こらず、開環重合でゲル化するためには少なくとも120℃よりも高い温度において反応させる必要があり、一方、150℃では開環重合反応が生じる、というような感熱的反応特性を持つものである。しかしながら、この場合、150℃未満であっても開環重合反応が生じる場合があることを含意することに留意すべきであり、従って、本発明の開環重合方法において、120℃より高く150℃未満の温度、例えば、125℃またはそれ以上、例えば130℃、135℃、140℃、145℃等の温度で開環重合反応が生じる場合を含む。
【0017】
上記シルセスキオキサンは、例えばトリアルコキシシランの加水分解、縮合反応に代表されるような工程を経て生じる一般式(RSiO3/2)nの構造を有するもので、環状構造を含有するポリシロキサンである。上記シルセスキオキサンの構造としては、籠型、ラダー型、ランダム型構造のものが知られている。また、上記シルセスキオキサンとしては各種の変性シルセスキオキサンも知られている。上記シルセスキオキサンは、いずれも環状構造を含有するものであり、シルセスキオキサン同士が開環重合反応を行うことができる。
【0018】
上記シルセスキオキサンの環状構造は、典型的には例えば、以下のような構造である。(1)式は籠型構造、(2)式はラダー型構造を、それぞれ示す。
【0019】
【化1】

【0020】
上記シルセスキオキサンと上記触媒の配合割合としては、上記シルセスキオキサン100重量部に対して、上記触媒が0.1〜10重量部であることが好ましく、0.5〜3重量部がより好ましい。上記触媒が0.1〜10重量部であると反応性が良好であり有利である。
【0021】
重合反応は、常圧下(すなわち、大気圧下)で、例えば、125〜200℃、1〜10時間の条件で反応させることが通常行われている。
【0022】
本発明の開環重合方法において、シルセスキオキサンと本発明の触媒を必須成分とするが、必要に応じて、本発明の目的を阻害しないかぎり、その他の各種の添加剤を反応系に配合することができ、例えば、溶剤、接着付与剤、安定化剤などが挙げられる。溶剤の使用により、シルセスキオキサンと本発明の触媒との反応系の均一化を向上することができる利点がある。
【0023】
上記溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは、単独で使用できるほか、2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の記載は専ら説明のためであって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1〜19、比較例1〜4
各実施例の化合物及び各比較例の化合物を用いて、それぞれについて、以下の反応系で、分子量の増加の有無を判定評価した。
判定:
「試験後の分子量/試験前の分子量」の比の値で分子量の変化の度合いを示した。また高分子量化による分子量測定不可能な場合「ゲル」と表記した。結果の比の値の数値を表1〜3に示した。
【0026】
表1中の略号の意味は以下のとおり。
化合物1:ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド
化合物2:トリメチルステアリルアンモニウムクロライド
化合物3:ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド
化合物4:ジアリルジメチルアンモニウムクロライド
化合物5:ベンジルジメチルフェニルアンモニウムクロライド
化合物6:テトラメチルアンモニウムクロライド
化合物7:テトラプロピルアンモニウムクロライド
化合物8:ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド
化合物9:ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド
化合物10:デシルトリメチルアンモニウムクロライド
化合物11:ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド
化合物12:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド
化合物13:トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライド
化合物14:アセトニルトリフェニルホスホニウムクロライド
化合物15:アリルトリフェニルホスホニウムクロライド
化合物16:2−(トリメチルシリル)エトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロライド
化合物17:テトラブチルホスホニウムクロライド
化合物18:テトラフェニルホスホニウムクロライド
化合物19:トリブチル(シアノメチル)ホスホニウムクロライド
化合物20:ベンジルトリフェニルホスホニウムハイドロオキサイド
化合物21:テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド
化合物22:水酸化カリウム
化合物23:テトラブチルホスホニウムブロマイド
シルセスキオキサン1:ポリ(ビニルシルセスキオキサン)(分子量1200)
シルセスキオキサン2:フェニルトリメトキシシラン(10mol%)、エチルトリメトキシシラン(60mol%)、ジメチルジメトキシシラン(30mol%)の加水分解重縮合物(分子量4500)
【0027】
反応系の詳細は以下のとおり。
反応系1:冷却管を装着した100mlナスフラスコにシルセスキオキサン1が7重量%となるようにジメチルアセトアミド溶液を調製した。そこへ化合物1〜23を1重量部添加し、各温度条件下で撹拌を行った。また、40℃の温度条件のものは一週間静置した。試験終了後、THFを展開溶媒としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により分子量を測定し、重合が進行したか否かを判定した。
反応系2:50mlのスクリュー管にシルセスキオキサン2を1.0g量りとり、そこへ化合物1〜23を溶解させたアセトン溶液(ただし、実施例18のみTHF溶液)を化合物1〜23が1重量部になるように添加した。シルセスキオキサンと触媒が均一になるように撹拌を行った後、減圧することで溶媒を完全に留去した。スクリュー管の蓋を閉め、密閉してから40℃条件下にて一週間静置した。試験終了後、THFを展開溶媒としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により分子量を測定し、重合が進行したか否かを判定した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
実施例の結果から、本発明の触媒である塩化物を使用すると、120℃以下では反応が実質的に進行せず、150℃では充分に反応が進行して高分子量化し、ゲル化することが確かめられた。実施例から、長鎖アルキル基と短鎖アルキル基の組み合わせを有する4級アンモニウム塩化物か、ベンジル基と長鎖アルキル基と短鎖アルキル基の組み合わせを有する4級アンモニウム塩化物がより好ましいこと、また、4級ホスホニウム塩化物のより好ましいものは、少なくとも3つのフェニル基を有するもの(トリフェニル又はテトラフェニル)か、長鎖アルキル基のみを有するもの、であることが確かめられた。なお、120℃、6時間の反応条件において、「試験後の分子量/試験前の分子量」の比の値が2を超えているが、ゲルには達していない状態であり、反応が実質的に進行していないといえる。また、この状態から、120℃以下では反応が進行しないと判断できる。一方、ブロマイド、ハイドロオキサイド等は、低温でも反応をしてしまうか、または、加熱しても反応が進行しないことが明らかであり、熱潜在性は示されなかった。このことは、本発明の触媒の従来技術に対する技術的貢献を明らかにするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4級アンモニウム又は4級ホスホニウムの塩化物からなる熱潜在性開環重合触媒。
【請求項2】
4級アンモニウム塩化物は、その4級アンモニウムカチオンが
R1R2R3R4N
(ただし、式中、R1、R2、R3、R4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、かつ、(i)R1〜R4がアルコキシル基、エーテル基、シリル基又はリン酸基を含有していてもよい炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基(炭素数2以上の場合は飽和でも不飽和でもよい。)であるか、又は(ii)R1〜R4のうちの1つ若しくは2つがベンジル基若しくはフェニル基で残りの3つ若しくは2つがアルコキシル基、エーテル基、シリル基若しくはリン酸基を含有していてもよい炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基(炭素数2以上の場合は飽和でも不飽和でもよい。)である。)で表されるものである請求項1記載の重合触媒。
【請求項3】
4級アンモニウム塩化物は、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、フェニルトリエチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムクロライド、アセチルコリンクロライド、ベンザルコニウムクロライド、ベンゼトニウムクロライド、ベンゾイルコリンクロライド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、1−ブチル−1−メチルピロリジウムクロライド、カルバミルコリンクロライド、クロロコリンクロライド、(3−クロロ−2−ハイドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサメトニウムクロライド、ラウロイルコリンクロライド、メタコリンクロライド、(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウムクロライド、β−メチルコリンクロライド、n−オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、ホスホコリンクロライドカルシウム塩、ホスホコリンクロライドナトリウム塩、スタキドリンハイドロクロライド、スクシニルコリンクロライド、テトラアミルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、トリメチル[2,3−(ジオレイルオキシ)プロピル]アンモニウムクロライド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、及びトリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の触媒。
【請求項4】
4級アンモニウム塩化物は、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、フェニルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、n−オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項2記載の触媒。
【請求項5】
4級アンモニウム塩化物は、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド及びトリメチルテトラデシルアンモニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項4記載の触媒。
【請求項6】
4級ホスホニウム塩化物は、その4級ホスホニウムカチオンが
R1R2R3R4P
(ただし、式中、R1、R2、R3、R4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、アルコキシル基、エーテル基又はシリル基を含有していてもよい炭素数1〜18の炭化水素基(炭素数2以上の脂肪族基の場合は飽和でも不飽和でもよい。)であり、少なくとも1つは炭素数4〜18のアルキル基又はフェニル基である。)で表されるものである請求項1記載の触媒。
【請求項7】
4級ホスホニウム塩化物は、トリフェニルホスホニウムクロライド類、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、及びトリブチル(シアノメチル)ホスホニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項6記載の触媒。
【請求項8】
トリフェニルホスホニウムクロライド類は、アセトニルトリフェニルホスホニウムクロライド、アリルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、trans−2−ブテン−1,4−ビス(トリフェニルホスホニウムクロライド)、(4−クロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(2−クロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(クロロメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(シアノメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(2,4−ジクロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(ホルミルメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(1−ナフチルメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、及び2−(トリメチルシリル)エトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項7記載の触媒。
【請求項9】
4級アンモニウム又は4級ホスホニウムの塩化物からなる熱潜在性開環重合触媒を用いた、120℃以下では開環重合せず、一方、150℃では開環重合する、シルセスキオキサンの開環重合方法。
【請求項10】
4級アンモニウム塩化物は、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムクロライド、アセチルコリンクロライド、ベンゼトニウムクロライド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、1−ブチル−1−メチルピロリジウムクロライド、カルバミルコリンクロライド、クロロコリンクロライド、(3−クロロ−2−ハイドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサメトニウムクロライド、ラウロリルコリンクロライド、メタコリンクロライド、β―メタコリンクロライド、n−オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、フェニルトリエチルアンモニウムクロライド、ホスホコリンクロライドカルシウム塩、ホスホコリンクロライドナトリウム塩、スタキドリンハイドロクロライド、スクシニルコリンクロライド、テトラアミルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、及びトリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項9記載の開環重合方法。
【請求項11】
4級ホスホニウム塩化物は、アセトニルトリフェニルホスホニウムクロライド、アリルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、trans−2−ブテン−1,4−ビス(トリフェニルホスホニウムクロライド)、(4−クロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(2−クロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(クロロメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(シアノメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(2,4−ジクロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(ホルミルメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、(1−ナフチルメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、2−(トリメチルシリル)エトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、及びトリブチル(シアノメチル)ホスホニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項9記載の開環重合方法。

【公開番号】特開2013−82832(P2013−82832A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224923(P2011−224923)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】