説明

熱現像装置及び熱現像方法

【課題】 シート状熱現像感光材料を固定された加熱部と押さえローラとの間で摺動しながら搬送して加熱現像する場合に、熱現像感光材料の先端が破壊し難く、装置内の汚染や熱現像感光材料の仕上がり品質の低下や濃度低下不良を防止できる熱現像装置及び熱現像方法を提供する。
【解決手段】 この熱現像装置は、露光により潜像が形成されたフィルムFを固定された加熱手段と押さえ手段との間で摺動しながら搬送し加熱現像し、その露光時にフィルムの搬送方向先端Faにおいてその先端近傍に露光しない非露光領域Mを形成する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光により潜像が形成されたシート状熱現像感光材料を、固定された加熱手段と押さえ手段との間で摺動しながら搬送して加熱現像する熱現像装置及び熱現像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潜像の形成されたシート状の熱現像感光材料を搬送しながら加熱し現像する熱現像プロセスにおいて加熱ドラムの周囲に複数の押さえローラを配置するドラム方式が公知である。この場合、熱現像感光材料の乳剤面(EC面)が加熱ドラムに接し、BC面が押さえローラに接し、また熱現像感光材料は加熱ドラムの回転とともに移動し熱現像感光材料の先端が加熱ドラムに当たることはない。また、熱現像感光材料の搬送速度は20mm/秒以下であり、加熱現像中における熱現像感光材料の膜剥がれは特に問題にはなっていない。また、剥がれ落ちても、ドラム回転方式のため、スポット(点状)故障(密着不良による濃度低下)となる程度であった。
【0003】
一方、シート状の熱現像感光材料を加熱手段で加熱しながら加熱手段と押さえ手段との間で摺動し搬送する熱現像方法では、熱現像感光材料の先端が押さえ手段や加熱手段に接触する。常温では熱現像感光材料における感光層を構成する乳剤層は次の化学式(化1)に示すように主な組成である脂肪酸銀が互いに結合することで比較的強い層を成している。
【0004】
【化1】

【0005】
現像温度以上に加熱されると、脂肪酸はイオン化し、特に露光されて潜像が形成された付近では銀イオンが現像銀を形成するために奪われて脂肪酸となるために、未現像時に比べて感光層は弱くなる。そのため熱現像時に熱現像感光材料の先端が押さえ手段や加熱手段等の部材に接触すると、感光層の破壊が発生し易くなり、剥がれ落ちた感光層成分が装置内を汚染したり、熱現像感光材料の仕上がり品質が低下してしまう。特に、ドラム回転方式に比べ、フィルム搬送方向に沿って、スジ状の密着不良(濃度低下不良)を招き易く、診断上の重要領域であるシートフィルム中央部に発生する虞があり、好ましくない。
【0006】
近年は、処理能力増大の要望に応えるため熱現像感光材料の搬送速度も大きくなってきており、そのため部材との衝突エネルギも大きくなってしまう。特に感光層の反対側から加熱する場合に感光層が押さえローラに当たり壊れ易く、上記の装置内汚染や濃度低下不良を誘発したり、ローラ等に付着・汚染して現像性能を低下させる虞もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、シート状熱現像感光材料を固定された加熱部と押さえローラとの間で摺動しながら搬送して加熱現像する場合に、熱現像感光材料の先端が破壊し難く、装置内の汚染・熱現像感光材料の仕上がり品質の低下・濃度低下不良を防止できる熱現像装置及び熱現像方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による熱現像装置は、露光により潜像が形成されたシート状熱現像感光材料を、固定された加熱手段と押さえ手段との間で摺動しながら搬送し加熱現像する熱現像装置であって、前記露光時に前記シート状熱現像感光材料の搬送方向先端においてその先端近傍に露光しない非露光領域を形成することを特徴とする。
【0009】
この熱現像装置によれば、シート状熱現像感光材料の搬送方向先端近傍に非露光領域を形成するので、熱現像感光材料を固定された加熱手段と押さえ手段との間で摺動しながら搬送し加熱現像しても、搬送方向先端近傍の非露光領域における感光層(乳剤層)が露光状態の場合よりも弱くならず破壊し難くなる。このため、先端の感光層の剥がれが発生し難いので、感光層剥がれに起因する装置内の汚染・熱現像感光材料の仕上がり品質の低下・濃度低下不良を防止できる。
【0010】
上記熱現像装置において前記シート状熱現像感光材料を前記潜像が形成された面(感光層)の反対側面から前記加熱手段が加熱することが好ましい。
【0011】
また、前記シート状熱現像感光材料の搬送速度は少なくとも30mm/秒であることで、装置の熱現像スピードを大きくでき、プリント生産性を向上できる。
【0012】
また、前記非露光領域は前記搬送方向先端から2mm以内に形成されることが好ましい。
【0013】
また、前記シート状熱現像感光材料の両面に前記潜像が形成されるようにしてもよい。
【0014】
本発明による熱現像方法は、露光により潜像が形成されたシート状熱現像感光材料を、固定された加熱部と押さえローラとの間で摺動しながら搬送し加熱現像する熱現像方法であって、前記露光時に前記シート状熱現像感光材料の搬送方向先端においてその先端近傍に露光しない非露光領域を形成することを特徴とする。
【0015】
この熱現像方法によれば、シート状熱現像感光材料の搬送方向先端近傍に非露光領域を形成するので、熱現像感光材料を固定された加熱部と押さえローラとの間で摺動しながら搬送し加熱現像しても、搬送方向先端近傍の非露光領域における感光層(乳剤層)が露光状態の場合よりも弱くならず破壊し難くなる。このため、先端の感光層の剥がれが発生し難いので、感光層剥がれに起因する装置内の汚染・熱現像感光材料の仕上がり品質の低下・濃度低下不良を防止できる。
【0016】
上記熱現像方法において前記シート状熱現像感光材料を前記潜像が形成された面の反対側面から前記加熱部が加熱することが好ましい。
【0017】
また、前記シート状熱現像感光材料の搬送速度は少なくとも30mm/秒であることで、装置の熱現像スピードを大きくでき、プリント生産性を向上できる。
【0018】
また、前記非露光領域は前記搬送方向先端から2mm以内に形成されることが好ましい。
【0019】
また、前記シート状熱現像感光材料の両面に前記潜像が形成されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱現像装置及び熱現像方法によれば、シート状熱現像感光材料を固定された加熱部と押さえローラとの間で摺動しながら搬送して加熱現像する場合に、熱現像感光材料の先端が破壊し難くなり、装置内の汚染・熱現像感光材料の仕上がり品質の低下・濃度低下不良を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1は本実施の形態による熱現像装置の要部を概略的に示す側面図である。図4はシート状熱現像感光材料(フィルム)の断面構成を模式的に示す一部断面図である。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態の熱現像装置40は、図4のようにPET等からなるシート状の支持基体F2と支持基体F2の片面上に熱現像感光材料が塗布されてなる感光層F1とを有するシート状熱現像感光材料(以下、「フィルムF」という。)を副走査搬送しながら光走査露光部55からのレーザ光Lで感光層F1の表面(EC面)に潜像を形成し、次に、フィルムFを支持基体F2の表面(EC面の反対側のBC面)側から加熱して現像し潜像を可視化し、曲率のある搬送経路を通して装置上方に搬送し排出するものであり、比較的小型の装置筐体40aを備え、机等に設置して使用可能なデスクトップ型に構成されている。
【0023】
図1の熱現像装置40は、装置筐体40aの底部近傍に設けられ未使用の多数枚のフィルムFを収納するフィルム収納トレー部45と、フィルム収納トレー部45の最上のフィルムFをピックアップして搬送するピックアップローラ46と、ピックアップローラ46からのフィルムFを搬送する搬送ローラ対47と、搬送ローラ対47からのフィルムFをガイドし搬送方向をほぼ反転させて搬送するように曲面状に構成された曲面ガイド48と、曲面ガイド48からのフィルムFを副走査搬送するための搬送ローラ対49a,49bと、搬送ローラ対49aと49bとの間でフィルムFに画像データに基づいてレーザ光Lを光走査して露光することによりEC面に潜像を形成する光走査露光部55と、搬送ローラ対49aの上流側にフィルムFの先端を検知するように配置された反射型の光センサ61と、を備える。
【0024】
熱現像装置40は、更に、潜像の形成されたフィルムFをBC面側から加熱し所定の熱現像温度まで昇温させる昇温部50と、昇温されたフィルムFを加熱して所定の熱現像温度に保温する保温部53と、加熱されたフィルムFをBC面側から冷却する冷却部54と、冷却部54の出口側に配置されてフィルムFの濃度を測定する濃度計56と、濃度計56からのフィルムFを排出する搬送ローラ対57と、搬送ローラ対57で排出されたフィルムFが載置されるように装置筐体40aの上面に傾斜して設けられたフィルム載置部58と、を備える。
【0025】
図1のように、熱現像装置40では、装置筐体40aの底部から上方に向けて、フィルム収納トレー部45、基板部59、搬送ローラ対49a,49b・昇温部50・保温部53(上流側)の順に配置されており、フィルム収納トレー部45が最下方にあり、また昇温部50・保温部53との間に基板部59があるので、熱影響を受け難くなっている。
【0026】
また、副走査搬送の搬送ローラ対49a,49bから昇温部50までの搬送路は比較的短く構成されているので、光走査露光部55によりフィルムFに対し露光が行われながらフィルムFの先端側では昇温部50、保温部53で熱現像加熱が行われる。
【0027】
昇温部50と保温部53とで加熱部を構成し、フィルムFを熱現像温度まで加熱し熱現像温度に保持する。昇温部50は、フィルムFを上流側で加熱する第1の加熱ゾーン51と、下流側で加熱する第2の加熱ゾーン52と、を有する。
【0028】
第1の加熱ゾーン51は、アルミニウム等の金属材料からなり固定された平面状の加熱ガイド51bと、加熱ガイド51bの裏面に密着されたシリコンラバーヒータ等からなる平面状の加熱ヒータ51cと、加熱ガイド51bの固定ガイド面51dにフィルムを押圧可能にフィルム厚さよりも狭い隙間を維持するように配置されかつ表面が金属等に比べ熱絶縁性のあるシリコンゴム等からなる複数の押さえローラ51aと、を有する。
【0029】
第2の加熱ゾーン52は、アルミニウム等の金属材料からなり固定された平面状の加熱ガイド52bと、加熱ガイド52bの裏面に密着されたシリコンラバーヒータ等からなる平面状の加熱ヒータ52cと、加熱ガイド52bの固定ガイド面52dにフィルムを押圧可能にフィルム厚さよりも狭い隙間を維持するように配置されかつ表面が金属等に比べ熱絶縁性のあるシリコンゴム等からなる複数の押さえローラ52aと、を有する。
【0030】
保温部53は、アルミニウム等の金属材料からなり固定された加熱ガイド53bと、加熱ガイド53bの裏面に密着されたシリコンラバーヒータ等からなる平面状の加熱ヒータ53cと、加熱ガイド53bの表面に構成された固定ガイド面53dに対し所定の隙間(スリット)dを有するように対向して配置された断熱材等からなるガイド部53aと、を有する。保温部53は、昇温部50側が第2の加熱ゾーン52と連続して平面的に構成され、途中から装置上方に向けて所定の曲率で曲面状に構成されている。
【0031】
昇温部50の第1の加熱ゾーン51では、昇温部50の上流側から搬送ローラ対49a,49bにより搬送されてきたフィルムFがモータ65(図2参照)により回転駆動された各押さえローラ51aにより固定ガイド面51dに押圧されることでBC面が固定ガイド面51dに密に接触して加熱されながら搬送されるようになっている。
【0032】
第2の加熱ゾーン52でも同様に、第1の加熱ゾーン51から搬送されてきたフィルムFがモータ66(図2参照)回転駆動された各押さえローラ52aにより固定ガイド面52dに押圧されることでBC面が固定ガイド面51dに密に接触して加熱されながら搬送されるようになっている。
【0033】
なお、昇温部50の第2の加熱ゾーン52と保温部53との間に上方にV字状に開口した凹部を設けるように構成してもよく、昇温部50からの異物が凹部内に落下することにより、昇温部50からの異物が保温部53に持ち込まれることを防止できる。
【0034】
保温部53では、第2の加熱ゾーン52から搬送されてきたフィルムFが加熱ガイド53bの固定ガイド面53dとガイド部53aとの間の隙間ddにおいて加熱ガイド53bからの熱で加熱(保温)されながら、第2の加熱ゾーン52側の押さえローラ52aの搬送力により隙間ddを通過する。このとき、フィルムFは、隙間ddにおいて水平方向から垂直方向に向きを次第に変えながら搬送され、冷却部54に向かう。
【0035】
冷却部54では、保温部53からほぼ垂直方向に搬送されてきたフィルムFを金属材料等からなる冷却プレート54bの冷却ガイド面14cに、モータ67(図2参照)で回転駆動される押さえローラ54aで接触させて冷却しながら、垂直方向から次第に斜め方向にフィルムFの向きをフィルム載置部58に変えて搬送するようになっている。なお、冷却プレート54bをフィン付きのヒートシンク構造とすることで冷却効果を増すことができる。冷却プレート54bの一部をフィン付きのヒートシンク構造にしてもよい。
【0036】
冷却部54から出た冷却されたフィルムFは濃度計56で濃度測定され、モータ68(図2参照)で回転駆動される搬送ローラ対57により搬送されてフィルム載置部58へと排出される。フィルム載置部58は複数枚のフィルムFを一時的に載置しておくことができる。
【0037】
上述のように、図1の熱現像装置40では、フィルムFは、昇温部50及び保温部53においてBC面が加熱状態の固定ガイド面51d、52d、53dに向いており、熱現像感光材料の塗布されたEC面が開放された状態で搬送される。また、冷却部54では、フィルムFは、BC面が冷却ガイド面54cに接触し冷却され、熱現像材料が塗布されたEC面が開放された状態で搬送される。
【0038】
光走査露光部55は、図1に模式的に示すように、外部から入力した画像データに基づいて変調されて半導体レーザ55aから出射したレーザ光Lがコリメータレンズ、シリンドリカルレンズ55bを通してポリゴンミラー55cに入射し主走査方向に反射し偏向され、fθレンズ55dを通してミラー55eで反射し、露光部筐体55fから出射するように構成されている。出射したレーザ光Lは、図1の紙面垂直方向に主走査しながら搬送ローラ対49aと49bとの間で副走査搬送されるフィルムFを露光することで、画像データに基づいてフィルムFのEC面に潜像を形成する。光走査露光部55内の上述の各部品55a乃至55eは、露光部筐体55f内で固定または支持されている。
【0039】
図2に図1の熱現像装置40の制御系の要部ブロック図を示す。熱現像装置40は、図2のように、中央演算処理装置(CPU)から構成される制御部60を有し、制御部60は、フィルム露光時に光センサ61によるフィルム先端の検知に基づいて時間計測部63で露光開始時間を遅らすように光走査露光部55を制御する。
【0040】
また、モータ62は、フィルムFを副走査搬送するための搬送ローラ対49a,49bを駆動し、制御部60により制御される。また、モータ64は、フィルム収納トレー部45からフィルムFをピックアップローラ46を通して搬送する搬送ローラ対47を駆動し、制御部60により制御される。
【0041】
また、露光終了後のフィルムFは、昇温部50、保温部53及び冷却部54における搬送速度が30mm/秒となるように制御部60がモータ65,66,67,68を制御して押さえローラ51a、52a、54a及び搬送ローラ対57により搬送される。
【0042】
次に、図1,図2の熱現像装置40の制御について図3を参照して説明する。図3は、図1の搬送ローラ対49a,49b間で副走査搬送されるフィルムF上における主走査開始位置を模式的に示す平面図である。
【0043】
図1,図2において、フィルムFがフィルム収納トレー部45からピックアップローラ46,搬送ローラ対47により搬送ローラ対49aに向けてガイド48で案内されながら搬送される。そして、フィルムFが図3の副走査方向Hに搬送されて図1の搬送ローラ対49aに接近すると、その先端Faが光センサ61により検知される。
【0044】
上記フィルムFの先端検知に基づいて時間計測部63で先端検知からの時間を計測し、所定時間経過後に光走査露光部55が作動し、図1,図2の熱現像装置40に入力した画像データに基づいてフィルムFにレーザ露光を行う。即ち、半導体レーザ55aから出射したレーザ光Lが図3のようにフィルムF(EC面)上において先端Faから距離mだけ離れた主走査開始位置aで主走査を図の横方向(図1の紙面垂直方向)に開始する。そして、フィルムFが図3の副走査方向Hに副走査搬送されながらレーザ露光が続行してフィルムFに潜像が形成される。これにより、フィルムFの先端Faから距離mだけ離れた領域がレーザ光により露光されずに図3,図4のように非露光領域Mとなる。
【0045】
上述のようにして潜像の形成されたフィルムFは、次に昇温部50の第1の加熱ゾーン51に搬送され、先端Faが固定ガイド面51dと押さえローラ51aとの間に進入し、フィルムFが各押さえローラ51aによりガイド面51dに押し付けられ各押さえローラ51aの回転により搬送されながら加熱され、同様に第2の加熱ゾーン52でも各押さえローラ52aにより固定ガイド面52dに押し付けられ各押さえローラ52aの回転により搬送されながら加熱される。
【0046】
次に、フィルムFは、保温部53に搬送され、固定ガイド面53dとガイド部53aとの間の隙間ddで加熱ガイド53bからの熱で保温されながら、上流側の押さえローラ52aの搬送力により隙間ddを通過する。
【0047】
次に、フィルムFは、冷却部54に搬送され、冷却ガイド面54cに押さえローラ54aで接触させられて冷却されながら垂直方向から次第に斜め方向に向きを変えて搬送され、搬送ローラ対57により冷却部54から更に搬送されてフィルム載置部58へと排出される。
【0048】
以上のように、図1,図2の熱現像装置40によれば、図3のようにフィルムFの搬送方向Hの先端Fa近傍に非露光領域Mを形成するので、フィルムFを加熱ガイド51b,52bの固定ガイド面51d,52dと押さえローラ51a,52aとの間で摺動しながら搬送し加熱現像しても、非露光領域Mにおける感光層F1が露光された状態の場合よりも弱くならず破壊し難くなる。即ち、フィルムFの感光層F1が現像温度以上に加熱されると、露光されて潜像が形成された付近では銀イオンが現像銀を形成するために、未現像時に比べて感光層は弱くなるのに対し、本実施の形態ではフィルムFの搬送方向Hの先端Fa近傍に非露光領域Mが存在するので、潜像が形成されずに潜像が形成された場合よりも弱くならず破壊し難くなる。
【0049】
上述の理由から、フィルムFが搬送されて固定ガイド面51d,52dと押さえローラ51a,52aとの間に進入しるとき、更に保温部53から冷却部54に搬送され冷却ガイド面54cと押さえローラ54aとの間に進入するとき、その先端Faが図4の破線のようにローラ51a、52a、54aに次々と当たっても、先端Faに形成された非露光領域Mで感光層F1の剥がれが発生し難いので、感光層剥がれに起因する装置内の汚染やフィルムの仕上がり品質の低下や濃度低下不良を防止できるのである。また、装置内の汚染を防止できるので、装置清掃のメンテナンスサイクルを延長可能となる。
【0050】
また、上述のように、フィルムFは先端Faの非露光領域Mで感光層F1の剥がれが発生し難いので、フィルムの搬送速度を大きくでき、従来20〜28mm/秒程度であった搬送速度を30mm/秒以上にでき、装置のプリント生産性を向上できる。
【0051】
また、図3,図4においてフィルムFの非露光領域Mは、フィルムFの先端検知に基づき時間計測部63で計測する所定時間を変えて先端Faから主走査開始位置aまでの距離mを変えることで変更可能であるが、その距離mは先端Faにおける感光層剥がれを防止できる2mm程度でよい。
【0052】
また、図1の熱現像装置40では、昇温部50において、上流側の第1の加熱ゾーン51がフィルムFを予熱する予熱部を構成し、下流側の第2の加熱ゾーン52がフィルムFを所定温度に昇温する昇温部を構成し、昇温されたフィルムFを保温部53で所定温度に維持するようになっているが、かかる昇温部50におけるフィルムFの予熱及び昇温には、図1のような押さえローラの加圧によるBC面加熱が好ましく、この場合、フィルムの加熱・搬送中にフィルム先端が押さえローラに当たっても感光層の剥がれによる感光層破壊を防ぐことができるのである。
【0053】
次に、露光された感光層の現像による強度低下について図6,図7を参照して更に説明する。図6は上述のフィルムFの断面図であり、レーザ光による露光時におけるフィルム内の化学的反応を模式的に示した図である。図7は、同じくフィルムFの断面図であり、図6のような潜像の形成されたフィルムを加熱した時におけるフィルム内の化学的反応を模式的に示した図である。
【0054】
図6のように、フィルムFは、PETからなる支持体(基層)上に、ポリビニルブチラールを主材とする感光層が形成され、更にその上にセルロースブチレートからなる保護層が形成されている。感光層には、図6のように、感光性ハロゲン粒子と、有機酸銀であるベヘン酸(Beh.Ag)と、銀イオン還元剤と、が含まれ、現像性の向上と最大濃度の向上と銀画像色調の向上のために調色剤が配合されている。
【0055】
露光時に図1の光走査露光部55からレーザ光LがフィルムFに照射されると、図6に示すように、レーザ光Lが照射された領域に、ハロゲン化銀が感光し潜像が形成される。そして、フィルムFは例えば40℃以下の温度では実質的に熱現像されないが、フィルムFを例えば80℃以上である最低熱現像温度以上の現像温度に加熱すると、熱現像される。これは、図7に示すように、ベヘン酸から銀イオン(Ag+)が放出され、銀イオンを放出したベヘン酸は、調色剤と錯体を形成して銀イオンの拡散能力が高くなり、感光したハロゲン化銀まで拡散し、感光したハロゲン化銀粒子を核として還元剤が作用し、化学的反応により銀画像が形成されるからと考えられている。そして、現像銀が形成された領域では上述のような化学的反応の結果として感光層の物理的な強度が大きく低下してしまうのである。
【実施例】
【0056】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明する。図8に示す熱現像装置を実験で使用し、次のような構成とした。
【0057】
加熱系として、厚さ10mmのアルミニウムプレートの裏面にシリコンラバーヒータを貼付しプレート状の加熱プレートとし、上流側から予熱部、昇温部、保温部として直線的に配置した。加熱プレートのガイド面に、厚さ1mmのシリコンゴム層を表層に設けた直径12mm、有効搬送長380mmのシリコンゴムローラを0.2N/cmの線圧となるように配置した。シリコンゴムローラは、予熱部及び昇温部には等間隔に配置し(昇温部には1〜4の番号のローラを配置)、断熱材による隙間保温とした保温部には出口側に番号5,6のローラを配置し、ローラと加熱プレートとの隙間が0.1mmとなるようにした。このシリコンゴムローラで熱現像感光材料を塗布したフィルムを押圧しBC面を加熱プレートに接触させながら搬送した。
【0058】
冷却系として、厚さ10mmのアルミニウムプレートを第1及び第2の冷却プレートとして直線的に配置し、第1の冷却プレートにはシリコンラバーヒータを設け、冷却温度を制御可能にし第1の冷却プレートを徐冷部とし、第2の冷却プレートのアルミニウムプレートの裏面に厚さ0.7mm、高さ35mm、奥行き390mmのフィン21枚をピッチ4mmで配置したヒートシンクを接合し、第2の冷却プレートを急冷部とした。第1の冷却プレートに、厚さ1mmのシリコンゴム層を表層に設けた直径12mm、有効搬送長380mmのシリコンゴムローラを0.2N/cmの線圧で等間隔に配置し(上流側から番号7〜12のローラを配置)、ローラと冷却プレートとの隙間が0.1mmとなるようにし、フィルムを押圧しながら搬送した。第2の冷却プレートにも同様のシリコンゴムローラを等間隔に配置した。
【0059】
フィルムの搬送速度は33mm/秒とし、また、加熱プレートの温度は123℃とし、第1の冷却プレートの温度は110℃〜90℃、第2の冷却プレート温度は30〜60℃とした。加熱プレートと冷却プレートの間は、プレート間での熱移動を抑制するために2mmの間隙を設けた。
【0060】
熱現像用フィルムは、特開2004−102263号公報に開示されているような有機溶剤系の熱現像用フィルムである、コニカミノルタ社製メディカルフィルムSD-P(サイズは半切)を使用した。フィルム厚は180μmであった。
【0061】
これらのフィルムを用いて、図8の熱現像装置において熱現像プロセスを実行した。即ち、実施例として、塗布液を塗布した乳剤層面(EC面)側を開放してシリコンゴムローラで押圧し、BC面を加熱プレートに接触させながら搬送し、熱現像を行ったが、この場合、フィルム先端から2mmまでを未露光とし、それ以外をベタ画像に露光した。また、比較例としてフィルム全面をベタ画像に露光した以外は実施例と同じ条件で熱現像を行った。
【0062】
上記実施例及び比較例に関し、フィルム先端からの乳剤層の剥がれの程度を確認するために各ローラにおける乳剤による汚れ量を測定することで本発明の効果を評価した。その結果を図9のグラフに示す。図9の横軸に、図8のように上流側から下流側まで配置した番号1〜12の各ローラの位置を示し、縦軸に各ローラの直径の変化量(増加量、mm)を乳剤付着量(汚れ量)として示す。
【0063】
図9から分かるように、フィルム先端を未露光とした実施例によれば、フィルム全面を露光した比較例と比べて、フィルム先端辺からの乳剤剥がれを抑制し、乳剤のローラ付着を低減でき、これにより、装置清掃のメンテナンスサイクルを延長可能となる。
【0064】
以上のように本発明を実施するための最良の形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、熱現像装置40の加熱部の構成は図1の構成に限定されず、図1の隙間ddにおける加熱による保温部53を例えば、図5のように、曲面状の加熱ガイド53bと、加熱ガイド53bの裏面に密着された曲面状の加熱ヒータ53cと、加熱ガイド53bの曲面状の固定ガイド面53dにフィルムを押圧可能にフィルム厚さよりも狭い隙間を維持するように配置されかつ表面が金属等に比べ熱絶縁性のあるシリコンゴム等からなる複数の押さえローラ53eと、から構成してもよい。上述のように構成した場合、フィルムFが保温部53に搬送されて固定ガイド面53dと押さえローラ53eとの間に進入し、その先端Faがローラ53eに次々と当たっても、先端Faに形成された非露光領域Mで感光層F1の剥がれが発生し難いので、感光層剥がれに起因する装置内の汚染や熱現像感光材料の仕上がり品質の低下や濃度低下不良を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施の形態による熱現像装置の要部を概略的に示す側面図である。
【図2】図1の熱現像装置40の制御系の要部ブロック図である。
【図3】図1の搬送ローラ対49a,49b間で副走査搬送されるフィルムF上における主走査開始位置を模式的に示す平面図である。
【図4】シート状熱現像感光材料(フィルム)の断面構成を模式的に示す一部断面図である。
【図5】図1の熱現像装置40の加熱部の変形例を概略的に示す要部側面図である。
【図6】本実施の形態におけるフィルムの断面図であり、レーザ光による露光時におけるフィルム内の化学的反応を模式的に示した図である。
【図7】本実施の形態におけるフィルムの断面図であり、図6のような潜像の形成されたフィルムを加熱した時におけるフィルム内の化学的反応を模式的に示した図である。
【図8】実施例及び比較例で使用した熱現像装置の要部構成を示す側面図である。
【図9】実施例及び比較例に関しフィルム先端からの乳剤層の剥がれの程度を確認するために各ローラにおける乳剤による汚れ量を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
40 熱現像装置
47 搬送ローラ対
49a,49b 搬送ローラ対
50 昇温部
51 加熱ゾーン
51a 押さえローラ
51b 加熱ガイド
51c 加熱ヒータ
51d 固定ガイド面
52 加熱ゾーン
52a 押さえローラ
52b 加熱ガイド
52c 加熱ヒータ
52d 固定ガイド面
53 保温部
53b 加熱ガイド
53c 加熱ヒータ
53d 固定ガイド面
53e 押さえローラ
54 冷却部
55 光走査露光部
55a 半導体レーザ
60 制御部
61 光センサ
62 モータ
63 時間計測部
64 モータ
65,66,67,68 モータ
F フィルム(シート状熱現像感光材料)
F1 感光層
F2 支持基体
Fa 先端
H 副走査搬送方向
L レーザ光
M 非露光領域
a 主走査開始位置
m 距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光により潜像が形成されたシート状熱現像感光材料を、固定された加熱手段と押さえ手段との間で摺動しながら搬送し加熱現像する熱現像装置であって、
前記露光時に前記シート状熱現像感光材料の搬送方向先端においてその先端近傍に露光しない非露光領域を形成することを特徴とする熱現像装置。
【請求項2】
前記シート状熱現像感光材料を前記潜像が形成された面の反対側面から前記加熱手段が加熱する請求項1に記載の熱現像装置。
【請求項3】
前記シート状熱現像感光材料の搬送速度は少なくとも30mm/秒である請求項1または2に記載の熱現像装置。
【請求項4】
前記非露光領域は前記搬送方向先端から2mm以内に形成される請求項1,2または3に記載の熱現像装置。
【請求項5】
前記シート状熱現像感光材料の両面に前記潜像が形成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱現像装置。
【請求項6】
露光により潜像が形成されたシート状熱現像感光材料を、固定された加熱部と押さえローラとの間で摺動しながら搬送し加熱現像する熱現像方法であって、
前記露光時に前記シート状熱現像感光材料の搬送方向先端においてその先端近傍に露光しない非露光領域を形成することを特徴とする熱現像方法。
【請求項7】
前記シート状熱現像感光材料を前記潜像が形成された面の反対側面から前記加熱部が加熱する請求項6に記載の熱現像方法。
【請求項8】
前記シート状熱現像感光材料の搬送速度は少なくとも30mm/秒である請求項6または7に記載の熱現像方法。
【請求項9】
前記非露光領域は前記搬送方向先端から2mm以内に形成される請求項6,7または8に記載の熱現像方法。
【請求項10】
前記シート状熱現像感光材料の両面に前記潜像が形成される請求項6乃至9のいずれか1項に記載の熱現像方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−57947(P2007−57947A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244428(P2005−244428)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】