説明

熱硬化型塗料および塗装方法

【課題】凹凸を充填する機能、防錆力および美観の機能を備え、厚い塗膜を形成できる熱硬化型塗料を得る。
【解決手段】塗装物の金属材料1に化学的処理や機械的前処理を実施して塗装に適する表面状態にしてから、アクリル樹脂ワニス30〜45重量%、メラミン樹脂ワニス10〜20重量%、エポキシ樹脂ワニス5〜15重量%、二酸化珪素、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ベントナイトおよびモノカルボン酸アミド系有機物を含有する熱硬化型塗料で10〜250μmの塗膜厚さを形成し、150〜190℃で加熱硬化させ、熱硬化型塗膜2を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた塗膜を形成する熱硬化型塗料および塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の塗装物の金属部分の塗装方法は、前処理実施後に防錆顔料を含有するエポキシ樹脂系、エポキシ樹脂およびメラミン樹脂などから構成される防錆力のある熱硬化型の下塗り塗料で塗膜を形成していた。塗膜形成後、例えば120℃以上で加熱硬化を行っていた。その後、必要に応じて下塗り塗料と相性のよい同系の中塗り塗料や凸凹を平滑にするためのスプレーパテで塗膜を形成し、120℃以上で加熱硬化を行っていた。さらに、美観が得られる熱硬化型メラミン樹脂系エナメル上塗り塗料で塗膜を形成し、120℃以上で加熱硬化を行っていた。
【0003】
一方、これらのことを踏まえ、防錆力を備えるとともに、凸凹の修正機能および美観の機能を備えた一回の塗装で厚い塗膜を形成することのできるアルキド樹脂系の熱硬化型塗料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−143359号公報 (第2〜4ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の熱硬化型塗料においては、次のような問題がある。
【0005】
塗装物の金属部分の塗装は、防錆に重点をおいた下塗り塗料、美観に重点をおいた上塗り塗料の別々の塗料を用意しなければならなかった。更に、場合によっては防錆性も有しながら上塗りの美観を持たせるための下地としての中塗り塗料やスプレーパテを塗装しなければならなかった。また、一回の塗装で80μm以上の塗装を実施すると、加熱硬化中に溶剤分が沸騰してわき(ピンホール)が発生する塗膜欠陥が生じ、だれを生じる可能性がある。
【0006】
一方、一回の塗装で防錆力や美観の機能などを備えた塗料が提案されているが、限られた樹脂系であり、素材確保やコストなどの点から、同様の効果を発揮する他の樹脂系からなる熱硬化型塗料が望まれていた。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、凹凸を充填する機能、防錆力および美観の機能を備え、厚い塗膜を形成できる熱硬化型塗料および塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の熱硬化型塗料は、アクリル樹脂ワニス30〜45重量%、メラミン樹脂ワニス10〜20重量%、エポキシ樹脂ワニス5〜15重量%、二酸化珪素、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ベントナイトおよびモノカルボン酸アミド系有機物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、防錆力を重視する下塗り機能、凸凹の修正機能および中塗り機能、美観を重視する上塗り機能を備え、厚い塗膜を形成することができる熱硬化型塗料で塗装を行うので、工数、作業時間を削減し、作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0011】
先ず、本発明の実施例1に係る熱硬化型塗料を図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る熱硬化型塗料を塗布した塗装物を示す断面図である。
【0012】
図1に示すように、酸洗鋼板やSPCC材といった塗装物の金属材料1面に対して、塗装に適した表面状態にするため、リン酸亜鉛被膜といった化学的処理やサンドブラスト処理といった機械的前処理を実施する。その後、例えばスプレー塗りで熱硬化型塗料の熱硬化型塗膜2を10〜250μmの厚さで形成し、150〜190℃で10〜60分加熱硬化させる。熱硬化型塗料は、アクリル樹脂ワニスを主成分とする熱硬化型塗料である。熱硬化型塗料の成分を表1に示す。
【表1】

【0013】
熱硬化型塗料は、二酸化珪素を添加することにより、美観、耐久性能を損なわずに防錆性能を向上させることができる。
【0014】
また、エポキシ樹脂ワニスにより、より優れた付着性および高防食性を得ることができる。しかしながら、15重量%超過すると、特に屋外での紫外線、熱などにより、塗膜劣化現象である褪色、チョーキングを生じ易くなる。5重量%未満では、付着性や防食性に充分な効果を発揮しなくなるので、適正な添加を行うことが必要である。
【0015】
硫酸バリウムと炭酸カルシウムはいずれも3〜6重量%添加しており、その配合比は、硫酸バリウム:炭酸カルシウム=2:1〜1:2(重量比)にすることにより、一回の塗装で50μm以上の厚さの熱硬化型塗膜2を得ることができる。その中でもほぼ1:1(重量比)にすることにより、最も安定した品質を得ることができる。
【0016】
更にベントナイトとモノカルボン酸アミド系有機物の配合比を2:1〜1:2(重量比)にすることにより、一回の塗装で150μm以上の厚さの熱硬化型塗膜2を得ることができる。その中でもほぼ1:1(重量比)にすることにより、最も安定した品質を得ることができる。
【0017】
なお、有機溶剤シンナーで塗料粘度を35〜65秒に調整し、スプレー塗装を実施することで更にだれが生じ難くなり、厚い膜厚を形成することができ、わき(ピンホール)などの塗装欠陥を生じ難くすることができる。
【0018】
一般的に、熱硬化型塗料は、必要な種々の機能を有するため、基本材料の選定と配合のバランスが重要である。10μmという薄い塗膜から250μmという厚い塗膜に対して、熱硬化条件を一定の150〜190℃で10〜60分としても安定した品質が保たれるのは、各樹脂の配合バランスに起因したものである。特に、アクリル樹脂ワニスが45重量%超過では可撓性(耐衝撃性)に悪影響を与え、また、30重量%未満では、軟化し、耐食性に悪影響を及ぼす。アクリル樹脂ワニスが30〜45重量%、メラミン樹脂ワニスが12〜17重量%のときに最も安定した品質が得られる。
【0019】
表1に示す熱硬化型塗料による熱硬化型塗膜2について、以下のような試験を行った。
【0020】
1.初期物性試験
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験)50μm以下(B法)、50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
2.耐久性試験
2−1塩水噴霧試験:JIS Z2371 塩水噴霧試験1000時間実施後の外観判定および2次物性試験
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験)50μm以下(B法)、50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
2−2耐湿試験:JIS K5600 耐湿試験(結露発生50℃、98%RH)1000時間実施後の外観判定および2次物性試験
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験)50μm以下(B法)、50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
2−3亜硫酸ガス試験:20ppm、40℃、90%RH、1000時間実施後の外観判定および2次物性試験
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験)50μm以下(B法)、50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
2−4塩素ガス試験:1ppm、40℃、90%RH、1000時間実施後の外観判定および2次物性試験
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験)50μm以下(B法)、50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
2−5耐候性試験:JIS K5600 促進耐候性試験(サンシャインカーボンアーク灯式)500時間実施後の外観判定、初期状態に対する色差ΔE、光沢度保持率、および2次物性試験
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験)50μm以下(B法)、50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)
【0021】
これらの試験結果を表2に示す。
【表2】

【0022】
表2からこの熱硬化型塗料で、優れた防錆力および美観の両方の機能を有する高品質な熱硬化型塗膜2が得られることが分かる。
【0023】
なお、熱硬化型塗料の塗装は、配電盤、制御盤に適用される金属材料である鋼板やSPCC材に適用することができるし、車両など交通機器を構成する鋼板、SPCC材、アルミ材などにも適用できる。
【0024】
上記実施例1の熱硬化型塗料によれば、防錆力および美観の両方の機能を有し、付着力、平滑性(凸凹修正機能)、厚膜機能といった中塗りおよびスプレーパテ機能も有するので、一回の塗装で下塗り兼中塗り(兼スプレーパテ)兼上塗りの塗装が可能であり、耐久性に優れ、安定した品質の熱硬化型塗膜2を得ることができ、工数、作業時間を削減し、作業性を向上させることができる。
【実施例2】
【0025】
次に、本発明の実施例2に係る熱硬化型塗料を図2を参照して説明する。図2は、本発明の実施例2に係る熱硬化型塗料を塗布した塗装物を示す断面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、熱硬化型塗膜に常温硬化型塗膜を形成するである。図2において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0026】
図2に示すように、熱硬化型塗膜2を形成した後に、常温硬化型のウレタン樹脂塗料で厚さ20〜60μmの常温硬化型塗膜3を形成している。ウレタン樹脂塗料の成分を表2に示す。
【表3】

【0027】
熱硬化型塗膜2に常温硬化型塗膜3を形成したものについて、実施例1と同様の試験を行った。ただし、耐久試験においては、いずれの試験項目も500時間長く実施した。
【0028】
これらの試験結果を表4に示す。いずれも良好な結果であった。
【表4】

【0029】
上記実施例2の熱硬化型塗料によれば、実施例1による効果のほかに、熱硬化型塗膜2に常温硬化型塗膜3を形成することができるので、美観を重視した上塗り塗装ができ、塗装表面の凸凹が極めて少なくきれいな仕上がり面を得ることができる。
【実施例3】
【0030】
次に、本発明の実施例3に係る熱硬化型塗料を図3を参照して説明する。図3は、本発明の実施例3に係る熱硬化型塗料を塗布した塗装物を示す断面図である。なお、この実施例3が実施例1と異なる点は、熱硬化型塗膜に付着向上バインダーを塗布後、常温硬化型塗膜を形成するである。図3において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0031】
図3に示すように、熱硬化型塗膜2を形成した後に、常温硬化型の付着向上バインダー塗料により厚さ10〜30μmの付着向上バインダー塗膜4を形成し、更に常温硬化型のハイソリッドラッカー塗料もしくはアクリルラッカー塗料で厚さ15〜50μmの常温硬化型塗膜5を形成している。付着向上バインダー塗料、ハイソリッドラッカー塗料およびアクリルラッカー塗料の成分を表5、6、7に示す。
【表5】

【表6】

【表7】

【0032】
熱硬化型塗膜2に付着向上バインダー塗膜4と常温硬化型塗膜5を形成したものについて、実施例1と同様の試験を行った。ただし、耐久試験においては、いずれの試験項目も500時間長く実施した。これらの試験結果は、実施例2の表4に示したものと同様であり、いずれも良好な結果であった。
【0033】
上記実施例3の熱硬化型塗料によれば、実施例1による効果のほかに、付着向上バインダー塗膜4を介して常温硬化型塗膜5を形成することができるので、塗装表面の凸凹が極めて少なくきれいな仕上がり面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例1に係る熱硬化型塗料を塗布した塗装物を示す断面図。
【図2】本発明の実施例2に係る熱硬化型塗料を塗布した塗装物を示す断面図。
【図3】本発明の実施例3に係る熱硬化型塗料を塗布した塗装物を示す断面図。
【符号の説明】
【0035】
1 金属材料
2 熱硬化型塗膜
3、5 常温硬化型塗膜
4 付着向上バインダー塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂ワニス30〜45重量%、メラミン樹脂ワニス10〜20重量%、エポキシ樹脂ワニス5〜15重量%、二酸化珪素、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ベントナイトおよびモノカルボン酸アミド系有機物を含有することを特徴とする熱硬化型塗料。
【請求項2】
アクリル樹脂ワニス30〜45重量%、メラミン樹脂ワニス10〜20重量%、エポキシ樹脂ワニス5〜15重量%、二酸化珪素0.5〜1.5重量%、硫酸バリウム3〜6重量%、炭酸カルシウム3〜6重量%、ベントナイト1〜2重量%、モノカルボン酸アミド系有機物1〜2重量%、着色顔料、添加剤および溶剤を含有することを特徴とする熱硬化型塗料。
【請求項3】
前記硫酸バリウムと前記炭酸カルシウムとの配合比を2:1〜1:2とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱硬化型塗料。
【請求項4】
前記硫酸バリウムと前記炭酸カルシウムとの配合比を1:1とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の熱硬化型塗料。
【請求項5】
前記ベントナイトと前記モノカルボン酸アミド系有機物との配合比を2:1〜1:2とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の熱硬化型塗料。
【請求項6】
前記ベントナイトと前記モノカルボン酸アミド系有機物との配合比を1:1とすることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の熱硬化型塗料。
【請求項7】
アクリル樹脂ワニス30〜45重量%、メラミン樹脂ワニス10〜20重量%、エポキシ樹脂ワニス5〜15重量%、二酸化珪素、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ベントナイトおよびモノカルボン酸アミド系有機物を含有する熱硬化型塗料により熱硬化型塗膜を形成した後に、
変性ポリオール樹脂ワニスを含有するウレタン樹脂塗料による常温硬化型塗膜を形成することを特徴とする塗装方法。
【請求項8】
アクリル樹脂ワニス30〜45重量%、メラミン樹脂ワニス10〜20重量%、エポキシ樹脂ワニス5〜15重量%、二酸化珪素、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ベントナイトおよびモノカルボン酸アミド系有機物を含有する熱硬化型塗料により熱硬化型塗膜を形成した後に、
硝化綿樹脂ワニスを含有する付着向上バインダー塗料で付着向上バインダー塗膜を形成し、
この付着向上バインダー塗膜に硝化綿樹脂ワニスを含有するハイソリッドラッカー塗料、もしくはアルキド樹脂ワニスを含有するアクリルラッカー塗料による常温硬化型塗膜を形成することを特徴とする塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−143982(P2008−143982A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330849(P2006−330849)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】