説明

熱硬化性樹脂充填材

【課題】プリント配線板表面の貫通穴内壁面に導体膜が形成されたスルーホールに熱硬化性樹脂を充填する充填スルーホールの形成において、穴部への充填・硬化後の形状保持性、スルーホールからはみ出した樹脂の研磨性、かつ良好なスルーホール部の放熱特性を可能とする熱硬化性樹脂充填材を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤と、一般式:(R1COO)n−R2(置換基R1は炭素数が5以上の炭化水素、置換基R2は水素又は金属アルコキシド、金属、n=1〜4)で表される脂肪酸で表面処理されたシリコンフィラーとを含む熱硬化性樹脂充填材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリント配線板の穴埋めなどに用いられる熱硬化性樹脂充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化・高機能化に伴い、プリント配線板のパターンの微細化、実装面積の縮小化、部品実装の高密度化が要求されている。そのため、スルーホールが設けられた両面基板や、コア材上に絶縁層、導体回路が順次形成され、ビアホールなどで層間接続されて多層化されたビルドアップ配線板などの多層基板が用いられる。そして、BGA(ボール・グリッド・アレイ)、LGA(ランド・グリッド・アレイ)などのエリアアレイ実装が行われる。
【0003】
このようなプリント配線板において、表面及びスルーホールやビアホールといった貫通穴などの穴部の内壁に導電層が形成され、印刷などにより、穴部に熱硬化性樹脂などの樹脂が充填される。このとき、樹脂は、穴部から若干はみ出すように充填されるため、はみ出した部分は、硬化後、研磨などにより平坦化・除去される。さらに、表面の導電層がパターニングされる(例えば特許文献1など参照)。
【0004】
このように、プリント配線板の穴部に充填される樹脂には、通常、熱膨張率を低下させるなどのために、フィラーが含有されている。プリント配線板の穴部に樹脂を充填させる際に、スクリーンメッシュに裏まわりし、余分な部分にペーストが付着したり、研磨時の削りかすなどが表面に残存する場合があるため、これらによる導通を防ぐために、一般に、上記フィラーとして例えばシリカやアルミナなどの非金属フィラーが用いられる(例えば特許文献1など参照)。
【0005】
部品実装の高密度化などに伴い、熱硬化性樹脂充填剤には放熱特性の向上が要求されている。しかしながら、非金属フィラーは、金属フィラーと比較して熱伝導率が低く、良好な放熱特性を得ることが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−70720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、プリント配線板表面の導通を防ぐために熱硬化性樹脂充填剤に非金属フィラーを用いると、良好な放熱特性を得ることが困難であるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、プリント配線板表面の導通を抑え、良好な放熱特性を有する熱硬化性樹脂充填材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明の一態様の熱硬化性樹脂充填材は、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤と、シリコンフィラーと、を含むことを特徴とする。このような構成により、プリント配線板表面の導通を抑えるとともに、良好な放熱特性を得ることが可能となる。
【0010】
本発明の一態様の熱硬化性樹脂充填材において、一般式:(RCOO)n−R(置換基Rは炭素数が5以上の炭化水素、置換基Rは水素又は金属アルコキシド、金属、n=1〜4)で表される脂肪酸を含むことが好ましい。このような構成により、チキソ性が付与されるとともにその経時劣化を抑え、プリント配線板の穴部への充填・硬化後の優れた形状保持性、研磨性を得ることが可能となる
【0011】
本発明の一態様の熱硬化性樹脂充填材において、前記脂肪酸は、シリコンフィラーが脂肪酸により表面処理されて含有されることが好ましい。このような構成により、効率的にチキソ性を付与することが可能となる。
【0012】
本発明の一態様の熱硬化性樹脂充填材において、脂肪酸は、シリコンフィラー100質量部に対して0.1〜2質量部含有されることが好ましい。このような構成により、良好なチキソ性を発現させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の一態様のプリント配線板において、このような熱硬化性樹脂充填材の硬化物で充填された穴部を有することが好ましい。このような構成により、良好な放熱特性を有し、高い信頼性を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様の熱硬化性樹脂充填材により、プリント配線板表面の導通を抑えるとともに、良好な放熱特性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】評価基板の作成工程図である。
【図2】実施例1に係る穴部の断面顕微鏡写真である。
【図3】比較例1に係る穴部の断面顕微鏡写真である。
【図4】評価基板の作成工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本実施形態の熱硬化性樹脂充填材は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及びシリコンフィラーを含むことを特徴とするものである。
【0017】
本実施形態の熱硬化性樹脂充填材を構成するエポキシ樹脂としては、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであればよく、公知のものを使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジナフトール型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、プロピレングリコール又はポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、フェニル−1,3−ジグリシジルエーテル、ビフェニル−4,4’−ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコール又はプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、トリグリシジルパラアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルトトルイジンなどのアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0018】
これらの市販品としては、ビスA型液状エポキシ樹脂として、三菱化学社製 828、ビスF型液状エポキシ樹脂として、三菱化学社製 807、アミン型液状エポキシ(パラアミノフェノール型液状エポキシ)として、三菱化学社製 jER−630、住友化学社製 ELM−100などが挙げられる。
【0019】
これらのうち、粘度が低くペースト化した際にフィラーの充填量を増やせることができ、また耐熱骨格であるベンゼン環を含むパラアミノフェノール型液状エポキシなどが特に好ましい。これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0020】
エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させるために用いられるものである。このようなエポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、三級アミン、三級アミン塩、四級オニウム塩、三級ホスフィン、クラウンエーテル錯体、及びホスホニウムイリドなどが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0021】
これらのうち、好ましいものとしては、イミダゾール類、イミダゾールのAZINE化合物、イミダゾールのイソシアヌル酸塩、イミダゾールヒドロキシメチル体、ジシアンジアミドとその誘導体、メラミンとその誘導体、ジアミノマレオニトリルとその誘導体、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエタノーアミン、ジアミノジフェニルメタン、有機酸ジヒドラジッドなどのアミン類、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン化合物などが挙げられる。
【0022】
これらの市販品としては、イミダゾール類として、四国化成工業社製 2E4MZ、C11Z、C17Z、2PZ、イミダゾールのAZINE化合物として、四国化成工業社製 2MZ−A、2E4MZ−A、イミダゾールのイソシアヌル酸塩として、四国化成工業社製 2MZ−OK、2PZ−OK、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7として、サンアプロ社製 DBU、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとして、味の素社製 ATUが挙げられる。
【0023】
これらのうち、特にイミダゾールは、エポキシ樹脂の硬化物において耐熱性、耐薬品性に優れ、また疏水性が得られることから、吸湿を抑制することができることから好適である。また、ジシアンジアミド、メラミンや、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、3,9−ビス[2−(3,5−ジアミノ−2,4,6−トリアザフェニル)エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等のグアナミン及びその誘導体、及びこれらの有機酸塩やエポキシアダクトなどは、銅との密着性や防錆性を有することが知られており、エポキシ樹脂の硬化剤として働くとともに、プリント配線板の銅の変色防止に寄与することができることからで、好適に用いることができる。
【0024】
このようなエポキシ樹脂硬化剤の配合割合は、通常の割合で充分であり、例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部が適当である。
【0025】
シリコンフィラーは、放熱特性の付与、硬化収縮による応力緩和、線膨張係数の調整に用いられるものである。シリコン(Si)は、半導体元素であり、シリカ、アルミナに比べて放熱性が高い。さらに、シリコンは導電性が低いことからプリント配線板の穴部に樹脂を充填させる際に、スクリーンメッシュに裏まわりし、余分な部分にペーストが付着したり、研磨時の削りかすなどが表面に残存するなどの場合でも、導通などの問題も生じない
【0026】
また、これらシリコンフィラーの平均粒径は、0.1〜25μmが好ましい。平均粒径が0.1μm未満では、比表面積が大きくフィラー同士の凝集作用の影響により分散不良が発生し、またフィラーの充填量を増やすのが困難になる。一方、25μmを超えると、プリント配線板の穴部への充填性が悪くなるうえ、穴埋めした部分に導体層を形成したときに平滑性が悪くなるという問題がある。より好ましくは、1〜10μmである。
【0027】
このようなシリコンフィラーの配合割合は、熱硬化性樹脂充填材全体量に対して45〜90質量%とすることが好ましい。45質量%未満では、得られる硬化物の熱膨張が大きくなるうえ、十分な放熱特性が得られない。一方、90質量%を超えると、ペースト化が困難になり、良好な印刷性や穴埋め充填性を得ることが困難となる。より好ましくは、50〜75質量%である。
【0028】
このようなシリコンフィラーに加えて、通常の樹脂組成物に用いられる公知の無機フィラーを用いてもよい。具体的には、例えば、シリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、マイカ、タルク、有機ベントナイトなどの非金属フィラーや、銅、金、銀、パラジウムなどの金属フィラーが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0029】
これらのうち、低吸湿性、低体積膨張性に優れるシリカや、炭酸カルシウムが好適に用いられる。シリカとしては、非晶質、結晶のいずれであってもよく、これらの混合物でもよい。特に非晶質(溶融)シリカが好ましい。また、炭酸カルシウムとしては、天然の重質炭酸カルシウム、合成の沈降炭酸カルシウムのいずれであってもよい。
【0030】
このような無機フィラーの形状は、球状、針状、板状、鱗片状、中空状、不定形状、六角状、キュービック状、薄片状などがあげられるが、無機フィラーの高充填の観点から球状が好ましい。
【0031】
このようなシリコンフィラーを含む無機フィラーの配合割合は、無機フィラーの総量で、熱硬化性樹脂充填材全体量に対して45〜90質量%とすることが好ましい。45質量%未満では、得られる硬化物の熱膨張が大きくなり過ぎ、さらに十分な研磨性や密着性を得ることが困難となる。一方、90質量%を超えると、ペースト化が困難になり、良好な印刷性や穴埋め充填性を得ることが困難となる。より好ましくは、50〜75質量%である。
【0032】
無機フィラーとして、シリカなどの絶縁性フィラーを用いる場合、十分な放熱特性を得る上で、無機フィラーの総量に対して、シリコンフィラーを50質量%以上含むことが好ましい。
【0033】
また、本実施形態の熱硬化性樹脂充填材において、さらに脂肪酸を用いることが好ましい。脂肪酸は、熱硬化性樹脂充填材にチキソ性を付与するために用いられる。単にチキソ性を付与するだけであれば、有機ベントナイト、タルクなどの不定形フィラーを添加するだけでもよいが、この場合、当初のチキソ性は良好だが、経時でチキソ性が劣化する。脂肪酸は、エポキシ樹脂との相溶性が低く、通常エポキシ樹脂の添加剤、表面処理剤としては用いられないが、本実施形態の熱硬化性樹脂充填材は、この脂肪酸とエポキシ樹脂との相溶性の低さを利用し、脂肪酸の添加により、良好なチキソ性を得ることができるとともに、チキソ性の経時変化を抑制し、保持することが可能となる。
【0034】
本実施形態の熱硬化性樹脂充填材における脂肪酸は、一般式:(RCOO)n−R(置換基Rは炭素数が5以上の炭化水素、置換基Rは水素又は金属アルコキシド、金属、n=1〜4)である。当該脂肪酸は、炭素数が5以上のとき、チキソ性付与の効果を発現させることができる。より好ましくはnが7以上である。
【0035】
脂肪酸としては、炭素鎖中に二重結合あるいは三重結合を有する不飽和脂肪酸であってもよいし、それらを含まない飽和脂肪酸であってもよい。例えば、ステアリン酸(炭素数と不飽和結合の数および括弧内はその位置による数値表現とする。18:0)、ヘキサン酸(6:0)、オレイン酸(18:1(9))、イコサン酸(20:0)、ドコサン酸(22:0)、メリシン酸(30:0)などが挙げられる。これら脂肪酸の置換基R1の炭素数は5〜30が好ましい。より好ましくは、炭素数5〜20である。
【0036】
また、例えば、置換基R2を、アルコキシル基でキャッピングされたチタネート系の置換基とした金属アルコキシドなど、カップリング剤系の構造で長い(炭素数が5以上の)脂肪鎖を有する骨格のものであってもよい。例えば、商品名KR−TTS(味の素ファインテクノ社製)などを用いることができる。その他、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム(それぞれ川村化成工業社製)など金属石鹸を用いることができる。その他金属石鹸の元素として、Ca、Zn、Li、Mg,Naなどがある。
【0037】
このような脂肪酸の配合割合は、シリコンフィラーを含む無機フィラー100質量部に対して0.1〜2質量部とすることが好ましい。0.1質量部未満であると、十分なチキソ性を付与することできず、プリント配線板の穴部を埋め込む際、ダレが生じやすくなる。一方、2質量部を超えると、熱硬化性樹脂充填材の見かけの粘度が高くなりすぎるため、プリント配線板の穴部への埋め込み性が低下する。また、穴部に充填・硬化した後、穴部内に気泡が残存するなど、消泡性が悪化し、ボイドやクラックを生じやすくなる。より好ましくは、0.1〜1質量部である。
【0038】
脂肪酸は、予め脂肪酸で表面処理をしたシリコンフィラーを含む無機フィラーを用いることにより配合されてもよく、より効果的に熱硬化性樹脂充填材にチキソ性を付与することが可能となる。この場合、脂肪酸の配合割合は、脂肪酸で処理していないフィラーを用いた場合より低減することができ、無機フィラーを全て脂肪酸処理フィラーとした場合、脂肪酸の配合割合は、無機フィラー100質量部に対して0.1〜1質量部とすることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態の熱硬化性樹脂充填材において、さらにシラン系カップリング剤を添加してもよい。このような構成により、無機フィラーとエポキシ樹脂との密着性を向上させ、その硬化物におけるクラックの発生を抑えることが可能となる。
【0040】
シラン系カップリング剤としては、例えば、エポキシシラン、ビニルシラン、イミダゾールシラン、メルカプトシラン、メタクリロキシシラン、アミノシラン、スチリルシラン、イソシアネートシラン、スルフィドシラン、ウレイドシランなどが挙げられる。
【0041】
このようなシラン系カップリング剤の配合割合は、無機フィラー100質量部に対して0.05〜2.5質量部とすることが好ましい。0.05質量部未満であると、十分な密着性が得られず、クラックの発生を招き易い。一方、2.5質量部を超えると、熱硬化性樹脂充填材をプリント配線板の穴部に充填・硬化した後、穴部内に気泡が残存するなど、消泡性が悪化し、ボイドやクラックを生じやすくなる。
【0042】
シラン系カップリング剤は、予めシラン系カップリング剤で表面処理をした無機フィラーを用いることにより配合されてもよい。
【0043】
本実施形態の熱硬化性樹脂充填材において、室温で液状のエポキシ樹脂を用いている場合、必ずしも希釈溶剤を用いる必要はないが、組成物の粘度を調整するため、希釈溶剤を添加してもよい。希釈溶剤としては、例えばメチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、及び上記グリコールエーテル類の酢酸エステル化物などのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤などの有機溶剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0044】
希釈溶剤の配合割合は、熱硬化性樹脂充填材の全体量の10質量%以下であることが好ましい。希釈溶剤の配合割合が、10質量%を超えると、硬化時に、揮発成分の蒸発の影響により、穴部内に泡やクラックが発生しやすくなる。より好ましくは、5質量%以下である。
【0045】
本実施形態の熱硬化性樹脂充填材において、その他必要に応じて、フェノール化合物、ホルマリン及び第一級アミンを反応させて得られるオキサジン環を有するオキサジン化合物を配合してもよい。オキサジン化合物を含有することにより、プリント配線板の穴部に充填された熱硬化性樹脂充填材を硬化した後、形成された硬化物上に無電解めっきを行なう際、過マンガン酸カリウム水溶液などによる硬化物の粗化を容易にし、めっきとのピール強度を向上させることができる。
【0046】
また、通常のスクリーン印刷用レジストインキに使用されているフタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラックなどの公知の着色剤を添加してもよい。
【0047】
また、保管時の保存安定性を付与するために、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、tert−ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知の熱重合禁止剤や、粘度などの調整のために、クレー、カオリン、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知の増粘剤、チキソトロピー剤を添加することができる。その他、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤、レベリング剤やイミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シランカップリング剤などの密着性付与剤のような公知の添加剤類を配合することができる。
【0048】
得られる熱硬化性樹脂充填材において、回転式粘度計により測定される粘度は、25℃、5rpmの30sec値で、200−1000Psであることが好ましい。200Ps未満であると、形状保持が困難となり、ダレが発生する。また、1000Psを超えると、プリント配線板の穴部への埋め込み性が低下する。より好ましくは200−800Psである。
【0049】
粘度は、JIS Z 8803に記載されているコーンローター(円錐ロータ)とプレートから成るコーンプレート型粘度計で、たとえばTV−30型(東機産業製、ロータ 3°×R9.7)で測定される。
【0050】
本実施形態の熱硬化性樹脂充填材は、スクリーン印刷法、ロールコーティング法、ダイコーティング法など公知のパターニング方法を用いて、例えば表面及び穴部の壁面に銅などの導電層が形成されたプリント配線板の穴部に充填される。このとき、穴部から少しはみ出るように完全に充填される。そして、穴部が熱硬化性樹脂充填材で充填されたプリント配線板を、例えば、150℃で60分間加熱することにより、熱硬化性樹脂充填材を硬化させ、硬化物を形成する。
【0051】
そして、プリント配線板の表面からはみ出した硬化物の不要部分を、公知の物理研磨方法により除去し、平坦化する。そして、表面の導電層を所定パターンにパターニングして、所定の回路パターンが形成される。なお、必要に応じて過マンガン酸カリウム水溶液などにより硬化物の表面粗化を行った後、無電解めっきなどにより硬化物上に導電層を形成してもよい。
【実施例1】
【0052】
以下、実施例及び比較例を示して本実施形態を具体的に説明する。尚、以下において「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0053】
(ペーストの調製)
表1に示す成分を、それぞれの配合割合(質量部)にて撹拌機にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散を行い、熱硬化性樹脂充填材である実施例1−3及び比較例1、2のペーストを調製した。
【0054】
【表1】

*1:828(三菱化学社製)
*2:807(三菱化学社製)
*3:パラアミノフェノール型エポキシ jER−630(三菱化学社製)
*4:トリアジン骨格含有イミダゾール2MZ−A(四国化成社製)
*5:SO−C5(アドマテックス社製)
*6:金属シリコンパウダー♯600(キンセイマテック社製)
*7:マイクロパウダー3S(備北粉化工業社製 マイクロパウダー3Nの質量に対して1wt%の脂肪酸表面処理)
*8:マイクロパウダー3N(備北粉化工業社製)
*9:トリメトキシエポキシシラン KBM−403(信越化学社製)
【0055】
〈熱伝導率の測定〉
得られた各ペーストを、銅箔の光沢面上に(18μm)にアプリケーターによって塗布し熱風循環式乾燥炉にて150℃×60分硬化させ、その後銅箔より剥離し、厚み約200μmの硬化物を作製した。
【0056】
その後、JIS-H-7801に記載されているレーザフラッシュ法(キセノンフラッシュアナライザー LFA447 NETZSCH社製)により、25±1℃での熱伝導率を測定した。
測定結果を表2に示す。実施例1−3では、2W/mkと良好な熱伝導率が得られていることがわかる。
【0057】
(穴埋め基板の作成)
得られた各ペーストを用いて、プリント配線板の穴部を充填した。
図1に工程図を示す。図1(a)に示すように、基材11に穴部としてスルーホール12が形成され、表面及びスルーホール壁面に導電層13が形成されたプリント配線板(両面板)10(MCL−E−67 日立化成工業社製)を用い、前処理として塩酸1%水溶液による酸処理(洗浄)を行った。
【0058】
プリント配線板の仕様は、厚さ:1.6mm、スルーホール径:0.25mm、スルーホールピッチ:1mm、スルーホール数:400穴の両面基板であり、パターン形成なしとした。
【0059】
そして、図1(b)に示すように、半自動スクリーン印刷機(SSA−PC560A 東海商事社製)を用いて、スクリーンメッシュ14を印刷面15上に配置してペースト16を供給することによりドットパターン印刷を行い、図1(c)に示すように、スルーホール12にペースト16を充填した。このとき、必要に応じて、押し出し面17にはみ出すペースト量が各ペーストで一定になるように調整した。
【0060】
次いで、図1(d)に示すように、各ペーストがそれぞれ充填されたプリント配線板を熱風循環式乾燥炉(DF610 ヤマト科学社製)に投入し、150℃で60分間、硬化処理を行い、スルーホール12が硬化物18で充填された穴埋め基板20を形成した。
このようにして形成された穴埋め基板20について、以下のように評価した。
【0061】
〈穴埋め性評価〉
得られた各ペーストを用いた各穴埋め基板20について、穴部の断面を光学顕微鏡により観察した。観察穴数は、各穴埋め基板20について50穴とした。
図2、図3に、それぞれ実施例1、比較例1の光学顕微鏡写真を示す。なお、実施例2、3は実施例1と、比較例2は、比較例1と、それぞれ同様の状態であった。
【0062】
また、各実施例、比較例の評価結果を表2に示す。評価基準は、以下の通りである。
○:全てのスルーホールで、クラック/ボイドが認められない。
×:ボイド/クラックがいずれかが認められる。
このように、実施例1、2、3において、良好な穴埋め性が得られることがわかる。
【0063】
(研磨基板の作成)
得られた各ペーストを用いて形成された各穴埋め基板20について、図4(a)に示すように、ハイカットバフ19(SFBR−♯320 住友3M社製)を、片面2軸、表裏で計4軸セットしたバフ研磨機(手動式2軸研磨機 正興電機製作所社製)に同じ条件で1回通し、スルーホール12よりはみ出したペーストの硬化物17を研磨することにより、例えば図4(b)に示すような研磨基板30を得た。
【0064】
〈研磨性評価〉
得られた各研磨基板について、表面の研磨状態を目視及び光学顕微鏡にて観察した。各実施例、比較例の評価結果を表2に示す。評価基準は、以下の通りである。
○:表面にはみ出したペーストが研磨により除去されている。
×:スルーホールの周辺、隣接するスルーホール間に、ペーストの残渣物が認められる。
このように、実施例1、2において、良好な研磨性が得られることがわかる。
【0065】
【表2】

【0066】
このように、シリコンフィラーの添加により、良好な熱伝導性が得られることがわかる。また、脂肪酸処理した無機フィラーを添加することにより、良好な穴埋め性、研磨性が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0067】
10…プリント配線板
11…基材
12…スルーホール
13…導電層
14…スクリーンメッシュ
15…印刷面
16…ペースト
17…押し出し面
18…硬化物
19…ハイカットバフ
20…穴埋め基板
30…研磨基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤と、シリコンフィラーと、を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂充填材。
【請求項2】
一般式:(RCOO)n−R
(置換基Rは炭素数が5以上の炭化水素、置換基Rは水素又は金属アルコキシド、金属、n=1〜4)
で表される脂肪酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂充填材。
【請求項3】
前記脂肪酸は、前記シリコンフィラー100質量部に対して0.1〜2質量部含有されることを特徴とする請求項2に記載の熱硬化性樹脂充填材。
【請求項4】
エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤と、一般式:(RCOO)n−R(置換基Rは炭素数が5以上の炭化水素、置換基Rは水素又は金属アルコキシド、金属、n=1〜4)で表される脂肪酸で表面処理されたシリコンフィラーと、を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂充填材。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載の熱硬化性樹脂充填材の硬化物で充填された穴部を有することを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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