説明

熱硬化性樹脂成形材料

【課題】従来の熱硬化性樹脂成形材料と比較して、成形性を実用的なレベルに維持しつつ、熱時剛性に優れた成形品を得ることができる熱硬化性樹脂成形材料を提供すること。
【解決手段】熱硬化性樹脂と、バサルト繊維とを含有することを特徴とし、前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂の中から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、更にバサルト繊維の含有量は熱硬化性樹脂成形材料全体に対して10重量%以上75重量%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂成形材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂成形材料は成形性に優れ、成形品の機械的強度、耐熱性、寸法安定性にも優れるため、自動車、電気、電子等の基幹産業分野で長期に渡り使用されてきた。特に最近では、金属部品をガラス繊維で強化した高強度の熱硬化性樹脂成形品に置換することで、大幅なコストダウンが可能となることから、積極的に金属部品からの代替検討が行われている。
しかしながら近年、熱硬化性樹脂成形材料に対する要求レベルは益々高度化しており、特に高温雰囲気下で使用される場合、従来のガラス繊維入り熱硬化性樹脂成形材料によって得られる成形品では剛性に関して不充分であることがあった。
熱硬化性樹脂成形材料によって得られる成形品の高熱時における剛性を向上させる方法については種々検討されてきた(例えば、特許文献1参照)が、更なる向上が望まれている。
【0003】
【特許文献1】特開平02−6551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来のガラス繊維入り熱硬化性樹脂成形材料と比較して、成形性を実用的なレベルに維持しつつ、高熱時における剛性に優れた成形品を得ることができる熱硬化性樹脂成形材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(9)によって達成される。
(1)熱硬化性樹脂と、バサルト繊維とを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂成形材料。
(2)前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂の中から選ばれる1種以上を含むものである(1)に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
(3)前記バサルト繊維の含有量は熱硬化性樹脂成形材料全体に対して10重量%以上75重量%以下である(1)又は(2)に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
(4)前記バサルト繊維の平均繊維長は、0.5mm以上10mm以下である(1)〜(3)のいずれかに記載の熱硬化性樹脂成形材料。
(5)前記バサルト繊維の平均繊維径は、5μm以上20μm以下である(1)〜(4)のいずれかに記載の熱硬化性樹脂成形材料。
(6)更に、前記バサルト繊維以外の充填材を含有するものである(1)〜(5)のいずれかに記載の熱硬化性樹脂成形材料。
(7)前記充填材と、前記バサルト繊維との合計含有量は、熱硬化性樹脂成形材料全体に対し、30重量%以上75重量%以下である(6)に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
(8)前記充填材は無機充填材及び/又は有機充填材を含むものである(6)又は(7)に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
(9)前記無機充填材は、ガラス繊維、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、マイカ、タルク、ワラストナイト、ガラスビーズの中から選ばれる1種類以上を含むものである(8)に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、熱硬化性樹脂と、バサルト繊維とを含有することを特徴とするものであり、従来のガラス繊維入り熱硬化性樹脂と比較し、成形性を実用的なレベルに維持しつつ、高熱時の剛性に優れた成形品を得ることができる熱硬化性樹脂成形材料を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の熱硬化性樹脂成形材料(以下、「成形材料」ということがある)について説明する。
本発明の成形材料は、熱硬化性樹脂と、バサルト繊維とを含有することを特徴とする。
【0008】
本発明において用いられる熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂の中から選ばれたものを1種以上含むものであることが好ましい。この中でもフェノール樹脂が幅広い用途に用いることができる点から好ましい。
【0009】
上記フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂を挙げることができ、これらを単独、あるいは両者を併用することができる。
【0010】
ノボラック型フェノール樹脂を使用する場合、通常、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを使用する。ヘキサメチレンテトラミンを用いる場合、その含有量は特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して、10〜30重量部を含有することが好ましく、更に15〜20重量部含有することが好ましい。ヘキサメチレンテトラミンの含有量を上記範囲とすることで、成形品の機械的強度及び成形収縮量を良好なものとすることができる。
【0011】
本発明の成形材料は、バサルト繊維を含有することを特徴とする。
バサルト繊維は、玄武岩を高温で溶融紡糸された非晶性の人造鉱物繊維であり、優れた耐熱性を有すると共に、耐湿性、耐薬品性、高絶縁性、防音性等にも優れている。
上記バサルト繊維の含有量は、熱硬化性樹脂成形材料全体に対して10重量%以上75重量%以下であることが好ましい。更に好ましくは20重量%以上70重量%以下である。特に好ましくは30重量%以上65重量%以下である。バサルト繊維の含有量を上記範囲とすることで、特に熱時の剛性を向上させることができる。
【0012】
上記バサルト繊維の平均繊維長は、0.5mm以上10mm以下であることが好ましい。更に好ましくは1.5mm以上4.0mm以下である。バサルト繊維の平均繊維長を上記範囲とすることで、熱時の剛性を向上させる効果を更に高めることができる。
【0013】
上記バサルト繊維の平均繊維径は、5μm以上20μm以下であることが好ましい。更に好ましくは7μm以上17μm以下である。バサルト繊維の平均繊維径を上記範囲とすることで、熱時の剛性を向上させる効果を更に高めることができる。
【0014】
上記バサルト繊維は、表面処理を施して用いることができる。例えば、アミノシランを用いることができる。アミノシランで表面処理をすることにより、用いられる熱硬化性樹脂との密着性を向上させることができる。
【0015】
本発明の成形材料は、更に、上記バサルト繊維以外の充填材を含有することができる。
また、上記充填材は無機充填材及び/又は有機充填材を含むことが好ましい。
【0016】
上記無機充填材は、ガラス繊維、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、マイカ、タルク、ワラストナイト、ガラスビーズの中から選ばれたものを1種類以上含むものであることが好ましい。これらの中でもガラス繊維が成形品の機械的強度を向上させる効果が高いことから好ましく用いることができる。
【0017】
上記有機充填材は、例えば、ポリビニールブチラール、アクリロニトリルブタジエンゴム、デニム、木粉等を用いることができる。これらの中でもアクリロニトリルブタジエンゴムが成形品の靭性を向上させる効果が高まることから好ましく用いることができる。
【0018】
上記充填材の含有量は特に限定されず、適宜用途によって決定することができる。好ましくは充填材と、バサルト繊維との合計含有量で、熱硬化性樹脂成形材料全体に対して、30重量%以上75重量%以下、好ましくは30重量%以上70重量%以下、さらに好ましくは30重量%以上65重量%以下である。
【0019】
本発明の成形材料には、以上に説明した成分の他にも、本発明の目的を損なわない範囲で離型剤、硬化助剤、顔料等の添加剤を添加することができる。
【0020】
本発明の成形材料を製造する方法は、通常の混練方法が適用できる。
例えば、熱硬化性樹脂、バサルト繊維、ガラス繊維、必要に応じて硬化助剤、顔料、離型剤を加えて混合した後、溶融混練し、冷却後粉砕して得ることができる。溶融混練は、混練ロール、コニーダ、二軸押出し機等の混練装置単独あるいは混練ロールと他の混合装置との組み合わせにより行うことができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
実施例及び比較例の配合と特性を表1に示す。表1に示す含有量は全て重量%を表す。
【0023】
【表1】

【0024】
(表1の注)
1.原材料
(1)ノボラック型フェノール樹脂:住友ベークライト社製・「A-1082」(数平均分子量850)
(2)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:日本化薬社製・「EOCN1020−70」
(3)バサルト繊維:昭和高分子社製・バサルトファイバー (平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
(4)ガラス繊維:日本板硝子社製・「RES03−BM38」(平均繊維径11μm、平均繊維長3mmのチョップドストランド)
(5)シリカ:Elkem社製・「マイクロシリカ 940−U」
(6)有機充填材:アクリロニトリルブタジエンゴム:JSR社製・PNC−38
(7)硬化助剤A:秩父石灰工業社製・「消石灰」
(8)硬化助剤B:四国化成社製・キュアゾール「2P4MZ」
(9)着色剤:三菱化学社製・「カーボンブラック#750B」
(10)離型剤:日本油脂社製・「ステアリン酸」
【0025】
2.成形材料の作製
(実施例1)
ノボラック型フェノール樹脂35重量%、ヘキサメチレンテトラミン6重量%、バサルト繊維18重量%、ガラス繊維38重量%、硬化助剤として消石灰1重量%、離型剤としてステアリン酸1重量%、顔料としてカーボンブラック1重量%を混合して組成物を調製した。
上記組成物を80〜90℃の混練ロールで約15分間溶融混練し、冷却後粉砕して成形材料を得た。
【0026】
(実施例2)
バサルト繊維を28重量%に増量し、ガラス繊維を28重量%に減量した以外は、実施例1と同様にして成形材料を得た。
【0027】
(実施例3)
バサルト繊維を38重量%に増量し、ガラス繊維を18重量%に減量した以外は、実施例1と同様にして成形材料を得た。
【0028】
(実施例4)
バサルト繊維を48重量%に増量し、ガラス繊維を8重量%に減量した以外は、実施例1と同様にして成形材料を得た。
(実施例5)
バサルト繊維を56重量%に増量し、ガラス繊維を用いなかった以外は、実施例1と同様にして成形材料を得た。
【0029】
(実施例6)
ノボラック型フェノール樹脂及びヘキサメチレンテトラミンをそれぞれ28重量%、4重量%に減量し、バサルト繊維を65重量%に増量した以外は、実施例5と同様にして成形材料を得た。
【0030】
(実施例7)
バサルト繊維を52重量%に減量し、有機充填材としてアクリロニトリルブタジエンゴムを4重量%追加配合した以外は、実施例5と同様にして成形材料を得た。
【0031】
(実施例8)
ノボラック型フェノール樹脂を14重量%に減量し、ヘキサメチレンテトラミンを用いず、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂27重量%を配合し、硬化助剤として消石灰の代わりにキュアゾールを用いた以外は、実施例5と同様にして成形材料を得た。
【0032】
(比較例1)
ノボラック型フェノール樹脂35重量%、ヘキサメチレンテトラミン6重量%、ガラス繊維56重量%、硬化助剤として消石灰1重量%、離型剤としてステアリン酸1重量%、顔料としてカーボンブラック1重量%を混合して組成物を調製した。
上記組成物を80〜90℃の混練ロールで約15分間溶融混練し、冷却後粉砕して成形材料を得た。
【0033】
(比較例2)
ガラス繊維を28重量%に減量、シリカを28重量%追加配合した以外は比較例1と同様にして成形材料を得た。
【0034】
(比較例3)
ガラス繊維を18重量%に減量、シリカを38重量%に増量した以外は比較例2と同様にして成形材料を得た。
【0035】
(比較例4)
ガラス繊維を52重量%に減量、アクリロニトリルブタジエンゴムを4重量%追加配合した以外は、比較例1と同様にして成形材料を得た。
【0036】
3.試料の作製及び評価方法
(1)曲げ強度、曲げ弾性率
トランスファー成形(金型温度175℃、硬化時間3分間)により試料を作製し、JIS K 6911に準拠して行った。
【0037】
(2)熱時曲げ強度、曲げ弾性率
200℃において、上記同様にして測定した。
【0038】
(3)成形性
結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2の結果から明らかなように、熱硬化性樹脂と、バサルト繊維とを含有する本発明の熱硬化性成形材料によって得られた成形品は、バサルト繊維を含まない比較例と比較して室温における曲げ強度、曲げ弾性率は同等ながら、200℃において特に剛性の指標となる曲げ弾性率が向上していることが判明した。また、表には記載されていないが、ガラス繊維を含む従来タイプの成形材料である比較例と同等の成形性を有していた。
更に、実施例においては、熱硬化性樹脂としてノボラック型フェノール樹脂及びクレゾール型エポキシ樹脂を用いた例を示したが、バサルト繊維と同じ無機充填材であるガラス繊維が、多くの熱硬化樹脂においても機械的強度が向上することから、他の熱硬化性樹脂に本発明に用いられるバサルト繊維を含有させた場合も、上記熱時の曲げ弾性率が向上するという効果が発揮されるものと推察される。
本発明の熱硬化性樹脂成形材料によって得られる成形品の一例としては、自動車のエンジン周りの部品、ブレーキ関連部品等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、バサルト繊維とを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂の中から選ばれる1種以上を含むものである請求項1に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項3】
前記バサルト繊維の含有量は熱硬化性樹脂成形材料全体に対して10重量%以上75重量%以下である請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項4】
前記バサルト繊維の平均繊維長は、0.5mm以上10mm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項5】
前記バサルト繊維の平均繊維径は、5μm以上20μm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項6】
更に、前記バサルト繊維以外の充填材を含有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項7】
前記充填材と、前記バサルト繊維との合計含有量は、熱硬化性樹脂成形材料全体に対し、30重量%以上75重量%以下である請求項6に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項8】
前記充填材は無機充填材及び/又は有機充填材を含むものである請求項6又は7に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項9】
前記無機充填材は、ガラス繊維、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、マイカ、タルク、ワラストナイト、ガラスビーズの中から選ばれる1種類以上を含むものである請求項8に記載の熱硬化性樹脂成形材料。

【公開番号】特開2008−106194(P2008−106194A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292514(P2006−292514)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】