説明

熱硬化性樹脂組成物、硬化物および高熱伝導コイル

【課題】適度な硬化性を有し、絶縁性に優れた硬化物を与える熱硬化性樹脂組成物および優れた放熱性を有する高熱伝導コイルを提供すること。
【解決手段】ビニルエステル樹脂および/または不飽和ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)および酸化マグネシウム(C)を含む高熱伝導樹脂組成物であって、樹脂(A)の酸価が10mgKOH/g以下で、ビニルエステル樹脂の原料として使用するエポキシ樹脂と不飽和酸の当量比(エポキシ基/カルボキシル基)が1.05/1〜1.50/1であり、不飽和ポリエステル樹脂の原料として使用するアルコール成分と酸成分の当量比(水酸基/カルボキシル基)が1.05/1〜1.50/1である熱硬化性樹脂組成物、同熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物並びに高熱伝導コイルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化性樹脂組成物、硬化物およびこの硬化物を絶縁層として有する高熱伝導コイルに関する。さらに詳しくは、硬化物の熱伝導率が高い熱硬化性樹脂組成物、同熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物およびこの硬化物を絶縁層として有する放熱性に優れた高熱伝導コイルに関し、この高熱伝導コイルは、特に、環境対策のために注目されているハイブリッドカーや電気自動車等に搭載される駆動用モーターや発電機等に組み込まれて使用される。
【背景技術】
【0002】
従来、発電機、駆動用モーターのような稼働中に大きな振動を生じる回転する電気機器の絶縁には、ワニスやモールド用樹脂の硬化物が用いられ、それらの素材としては、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂が知られている。
近年、これら電気機器の高性能化が進み、従来以上に性能および信頼性の向上が要求されるようになり、特に運転時の放熱対策が重要になってきている。
従来、放熱対策としては樹脂中に無機充填材を混合して熱伝導率を向上させる方法が採用されてきた。特にモールド用樹脂においては、水酸化アルミニウムや酸化チタン等の無機充填材を多量に含む熱硬化性樹脂組成物で巻線をモールドする手法(例えば、特許文献1、2)がとられてきたが、これらの充填材は硬度が高いため、樹脂組成物の製造時や成形時に使用される機器の摩耗を引き起こすという問題がある。
一方、酸化マグネシウムは熱伝導率が高く、硬度も低いが、一般にエステル化触媒として用いられる化合物であり、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂中に混合すると樹脂が増粘して充填率を上げることができなかったり、安定性が低下するという欠点があった(例えば、特許文献3)。
これを改善するために、高熱処理を行なった不活性酸化マグネシウムを使用して不飽和ポリエステル樹脂および硬化剤からなる樹脂組成物の増粘を防止することが提案されている(例えば、特許文献4)。
しかしながら、酸化マグネシウムを高熱処理するとコスト高となるだけでなく、十分な流動性を有する樹脂組成物が得られにくい。
さらに、コスト高になるのを防ぐため特定の無機充填材を多量に含む不飽和ポリエステル樹脂組成物を含むワニスで巻線をモールドすることにより、コイルからの放熱性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献5)。
しかしながら、車載用のモーターや発電機等に組み込まれるコイルは高出力化が進み、高電圧下で使用されるため、巻数が多く、かつ、線積率が高くなるように設計されている。無機充填材を多量に含む上記提案のワニス(樹脂、無機充填材および溶剤および/または反応性希釈剤を主成分として含む)では巻線への含浸状態が悪くコイルの信頼性が低下しまうという問題がある。
このため、ワニスが適度な粘度およびゲル化時間を有し、かつ、硬化物が高い熱伝導性および高い信頼性のある絶縁層を形成することのできる樹脂組成物が求められている。
【特許文献1】特開平9−204828号公報
【特許文献2】特開平11−346450号公報
【特許文献3】特開平9−102409号公報
【特許文献4】特開2001−234050号公報
【特許文献5】特開2004−91515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような状況下で提案されたものであって、優れた放熱性を有する高熱伝導コイルに使用される、硬化性樹脂組成物が適度な粘度(流動性)および硬化性(ゲル化時間)を有し、かつ、硬化物が高い熱伝導性および高い信頼性(特に煮沸後の体積抵抗値があまり低下しない)のある絶縁層を形成することのできる熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(7)
(1)ビニルエステル樹脂および/または不飽和ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)および酸化マグネシウム(C)を含む高熱伝導樹脂組成物であって、樹脂(A)の酸価が10mgKOH/g以下で、ビニルエステル樹脂の原料として使用するエポキシ樹脂と不飽和酸の当量比(エポキシ基/カルボキシル基)が1.05/1〜1.50/1であり、不飽和ポリエステル樹脂の原料として使用するアルコール成分と酸成分の当量比(水酸基/カルボキシル基)が1.05/1〜1.50/1である熱硬化性樹脂組成物、
(2)前記樹脂(A)100質量部に対し、前記硬化剤(B)を0.5〜5質量部の割合で含む上記(1)に記載の熱硬化性樹脂組成物、
(3)前記樹脂(A)100質量部に対し、前記酸化マグネシウム(C)を15〜40質量部の割合で含む上記(1)または(2)に記載の熱硬化性樹脂組成物、
(4)前記樹脂(A)100質量部に対し、重合性モノマーを20〜350質量部の割合で含む上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物、
(6)熱伝導率が1.5W/mK以上である上記(5)に記載の硬化物および
(7)上記(5)または(6)に記載の硬化物からなる絶縁層を有する高熱伝導コイルを提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は適度な硬化性(ゲル化時間)を有し、その硬化物は熱伝導性が高く、この硬化物からなる絶縁層を有する本発明の高熱伝導コイルは優れた放熱性を有し、高い信頼性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の熱硬化性樹脂組成物、硬化物および高熱伝導コイルについて詳細に説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物における硬化性成分である成分(A)としては、ビニルエステル樹脂および/または不飽和ポリエステル樹脂が用いられる。
本発明においては、成分(A)として用いられるビニルエステル樹脂および不飽和ポリエステル樹脂は酸価が10mgKOH/g以下であることを要する。
通常のビニルエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂は酸価が8〜30mgKOH/gであるが、酸価が10mgKOH/gを超えると後述の成分(C)である酸化マグネシウムを混合する際、それが触媒として作用して樹脂組成物の粘度が上昇し、酸化マグネシウムや充填材を多量に充填することができなくなるという不都合が生じる。酸価の下限値は特に制限されないが、合成反応中に樹脂の分子量が増大し、やがてゲル化してしまうという理由から通常3mgKOH/g程度である。好ましい酸価は9mgKOH/g以下であり、8.5mgKOH/g以下がさらに好ましい。
まず、成分(A)の一つであるビニルエステル樹脂について述べる。
ビニルエステル樹脂は不飽和酸とエポキシ樹脂とから製造される。
使用し得る不飽和酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸、ヒドロキシエチルメタクリレート・モノフタレート、ヒドロキシエチルメタクリレート・モノマレート、ヒドロキシエチルアクリレート・モノマレート、ヒドロキシプロピルアクリレート・モノマレート、ジシクロペンタジエニル・モノマレート等の不飽和一塩基酸が挙げられる。さらに必要に応じて、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、ヒキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸等の不飽和二塩基酸を併用することができる。併用する不飽和二塩基酸の量は不飽和一塩基酸に対してモル比で2/1以下である。2/1以下とすることにより、(B)成分である硬化剤による硬化調整が可能となる。不飽和二塩基酸を併用することにより、硬化乾燥時の表面乾燥が早くなる。
【0007】
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものである限り、分子構造、分子量等に制限されることなく広く使用することができる。具体的にはビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型の芳香族基を有するエポキシ樹脂、ポリカルボン酸のグリシジルエステル、シクロヘキサン誘導体のエポキシ化により得られた脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独または2種以上を混合して使用することができる。さらに2個以上のエポキシ基を有する上記エポキシ樹脂のほかに必要に応じて液状のモノエポキシ化合物を併用することもできる。併用するモノエポキシ化合物の量は2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に対してモル比で0.5/1以下である。0.5/1以下とすることにより、合成されるビニルエステル樹脂の強度が確保される。モノエポキシ化合物を併用することにより、樹脂組成物の粘度を下げることができる。0.5/1より大きいと曲げ強度等の硬化物特性が低下する。
【0008】
不飽和酸とエポキシ樹脂とのモル比はエポキシ基/カルボキシル基の当量比が1.05/1〜1.50/1、好ましくは1.05/1〜1.20/1になるように調整する。
当量比を1.50/1以下とすることにより、系内におけるエポキシ基の残存量が必要以上に多くなる(相対的に不飽和およびカルボキシル基の量が少なくなる)ことを防止し、ラジカル重合による短時間硬化を可能とすることができる。
当量比を1.05/1以上とすることにより、未反応の不飽和酸が必要以上に残るのを防止し、樹脂の酸価が10mgKOH/gを越えないようにすることができる。
【0009】
エポキシ樹脂と不飽和酸とを反応させてビニルエステル樹脂を調製するためにはエステル化触媒を使用してもよい。
エステル化触媒としては、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミノフェノール類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等のリン化合物、N−ベンジルジメチルアミン、N−ベンジルジフェニルアミン、トリエチルアミン等の各種3級アミン、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、4級ピリジニウム塩等の各種第4級化合物、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化スズ等の金属塩化物、酸化マグネシウム等の金属酸化物、テトラブチルチタネート、リチウムメタクリレート等の有機金属化合物を使用することができる。これらは単独または2種類以上混合して用いることができる。
エステル化触媒の使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、通常0.05〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。0.1質量部以上とすることにより、エステル化反応をスムーズに進行させ、1質量部以下とすることにより、エステル化反応において副反応が生じるのを防ぐとともに熱硬化樹脂組成物の適切なポットライフを確保することができる。
【0010】
次に、もう一つの成分(A)である不飽和ポリエステル樹脂について述べる。
不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和二塩基酸を含む酸成分とアルコール成分とのエステル化反応によって製造することができる。
酸成分としては、二塩基酸および一塩基酸が用いられる。二塩基酸としては、アジピン酸等の脂肪族飽和二塩基酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の脂肪族不飽和二塩基酸またはそれらの無水物、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族二塩基酸またはそれらの無水物、テトラヒドロフタル酸や同無水物等の脂環式不飽和二塩基酸、ヘキサヒドロフタル酸や同無水物等の脂環式飽和二塩基酸が挙げられる。これらの二塩基酸の中で脂肪族不飽和二塩基酸または芳香族不飽和二塩基酸を必須成分として使用し、適宜、脂肪族飽和二塩基酸や脂環式二塩基酸が混合して使用される。
一塩基酸としては、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸等複数種の脂肪酸が混合したものが挙げられる。
酸成分は1種または2種以上混合して用いることもできる。
【0011】
アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,6−シクロへキサンジメタノール、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテルなどの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリス−2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールモノアリルエーテルなどの三価以上のアルコール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独又は2種類以上混合して使用することができる。
上記の二塩基酸とアルコールを水酸基/カルボキシル基のモル比が1.05/1〜1.50/1になるように仕込んでエステル化反応させることにより酸価が10mgKOH/g以下の飽和ポリエステル樹脂を得ることができる。エステル化反応には前記のようなエステル化触媒を使用してもよい。
上記のようにして得られたビニルエステル樹脂および不飽和ポリエステル樹脂は、本発明においては酸価が10mgKOH/g以下となる。
【0012】
成分(A)であるビニルエステル樹脂または不飽和ポリエステル樹脂の熱硬化性樹脂組成物中の配合量は後で述べる成分(B)や(C)および任意に配合されるその他の成分の配合量との関係で自ずから決まる。なお、成分(A)であるビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂は酸価が10mgKOH/g以下であれば適宜混合して用いてもよい。
【0013】
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物中の成分(B)である硬化剤について述べる。硬化剤としては、有機過酸化物、具体的には、ブチルパーオキシベンゾエート、ターシャリブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリブチルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシオクトエート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンパーオキサイド等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上混合して使用することができる。
【0014】
熱硬化性樹脂組成物中の硬化剤の配合量は、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは1〜3質量部である。0.5質量部以上とすることにより硬化性樹脂組成物の適度な硬化性が確保され、5質量部以下とすることにより硬化時間が早過ぎることなく適度なゲル化時間が確保され射出成形時のノズルのつまりを防止するとともに過剰に配合されることによる硬化物の機械的特性低下を防止することができる。
【0015】
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物中の成分(C)である酸化マグネシウムについて述べる。
酸化マグネシウムとしては、化学式MgOで示される物質であれば、その粒子径、比表面積等の物性は特に制限されることなく、市販されている純度95%程度の商品を使用することができる。
熱硬化性樹脂組成物中の酸化マグネシウムの配合量は前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは15〜60質量部、より好ましくは30〜50質量部である。15質量部以上とすることにより硬化物の適度な熱伝導性が確保され、40質量部以下とすることにより本発明の熱硬化性樹脂組成物の流動性が確保されるとともに、酸化マグネシウムが有する吸湿性による硬化物の電気特性(体積抵抗率)の低下が防止され、かつ、過剰に配合されることによる硬化物の機械的特性低下を防止することができる。
【0016】
前記成分(A)、(B)および(C)からなる本発明の硬化性樹脂組成物には本発明の目的に反しない限り、必要に応じて他の成分、例えば、重合性モノマー、硬化促進剤、重合性モノマーを使用する場合に添加することが好ましい重合禁止剤、低膨張樹脂(低収縮材)、充填材、離型剤、着色剤、消泡剤、レベリング剤等を適宜配合することができる。
【0017】
重合性モノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルピロリドン、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルイソシアヌレート等のエチレン重合性モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロルプロパントリ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、などの(メタ)アクリル系モノマー等、さらにはフェニルマレイミド等が挙げられ、これらは単独または2種以上混合して用いることができる。
重合性モノマーの配合量は、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは20〜350質量部である。20〜350質量部とすることにより本発明の熱硬化性樹脂組成物の流動性および硬化性を適度に保つことができる。
なお、後記する実施例においては、重合性モノマーに前記成分(A)を溶解した溶液をワニスと称する。
【0018】
硬化促進剤としては、ナフテン酸またはオクチル酸の金属(コバルト、亜鉛、ジルコニウ、マンガン、カルシウム、銅等)塩、有機チタネート等が挙げられ、これらは単独または2種以上混合して用いることができる。
硬化促進剤の配合量は、前記成分(B)100質量部に対して、好ましくは0.5〜25質量部であり、このような配合量とすることにより本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化性を任意に調整することができる。
【0019】
重合性モノマーを使用する場合に添加することが好ましい重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メトキノン、パラターシャリブチルカテコー、ピロガロール等のフェノール類が挙げられ、これらは単独または2種以上混合して用いることができる。重合禁止剤の配合量は、前記重合性モノマー100質量部に対して、好ましくは0.02〜0.8質量部であり、このような配合量とすることにより本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化性およびポットライフを調整することができる。
【0020】
低膨張樹脂(低収縮材)としては、ポリスチレンやポリエチレン、飽和ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、スチレン−ブタジエン系ゴム等の低収縮材として一般に使用されている熱可塑性ポリマーが挙げられ、これらは単独または2種混合して用いることができる。
低膨張樹脂(低収縮材)の配合量は、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは50〜200質量部であり、このような配合量とすることにより本発明の熱硬化性樹脂組成物を成形して硬化物を製造する際に生じる収縮を緩和することができる。
【0021】
充填材としては、結晶性シリカ、溶融シリカ、アルミナ、水和アルミナ、酸化チタン、ベンガラ、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、硫酸バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、三酸化アンチモン、炭化ケイ素、タルク、石膏、カオリンクレー、ドロマイト、マイカ、ガラス繊維等が挙げられ、これらは単独または2種混合して用いることができる。
充填材の配合量は、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは50〜200質量部であり、このような配合量とすることにより硬化物の機械的特性を調整することができる。
【0022】
離型剤としては、従来公知の離型剤、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪族金属石鹸が挙げられ、その配合量は、前記成分(A)100質量部に対して、に対して、0.1〜5質量部であることが好ましい。
【0023】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の調製は以下のように行なう。
すなわち、ビニルエステル樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)、酸化マグネシウム(C)の必須成分および必要に応じて添加される重合性モノマー、硬化促進剤、重合禁止剤、低膨張樹脂(低収縮材)、充填材、離型剤、着色剤、消泡剤、レベリング剤等の各成分を常法に従い、十分に混合した後、さらに、ディスパース、ニーダー、3本ロールミル等により混練処理を行い、その後減圧脱泡することで容易に製造することができる。このとき、各成分を効率よく混合するために補強材の混合を最後に行うことが好ましい。
【0024】
上記のようにして得られる熱硬化性樹脂組成物を成形および硬化させることにより、硬化物が得られる。この成形および硬化は、例えば加熱圧縮成形、トランスファー成形等により行うことができる。
硬化させるために行なう加熱は、生産性等を考慮すると金型の温度を100℃以上、200℃以下、より好ましくは130℃以上、160℃以下として行うことが好ましい。また、得られた硬化物の熱伝導率が1.5W/mK以上であることが好ましい。
【0025】
上記のようにして得られる本発明の熱硬化性樹脂組成物をコイルに含浸させた後、上記のような温度で硬化させ、熱伝導率が1.5W/mK以上の硬化物を絶縁層として有する高熱伝導コイルは優れた放熱性を有し、高い信頼性を有するものとなる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、下記例中の「部」および「%」は特に断らない限り「質量部」および「質量%」を意味する。
【0027】
<実施例1>
温度計、撹拌機、原料仕込みノズルを備えた反応容器中に2-ヒドロキシエチルメタクリレート100部とテトラヒドロ無水フタル酸100部を100℃で2時間反応させて得られたヒドロキシエチルメタクリレート・モノフタレート40部、エポキシ当量190のビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP4100、アデカ製)30部および2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール0.1部を仕込み、撹拌しながら100℃で12時間加熱して酸価が10mgKOH/g以下となるまで反応させた。これにスチレンを30部添加してワニスとした。
このワニス100部、低収縮材としてポリスチレン30部、硬化剤としてブチルパーオキシベンゾエート2部、酸化マグネシウム30部、充填材として結晶シリカ40部を混合して均一な熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0028】
表中の各特性は下記の方法で測定した。
《ワニス酸価》
ワニス[成分(A)および重合性モノマーの混合物、以下同じ]中の成分(A)の酸価をJIS2103に準拠して測定した。
《ワニス粘度》
B型粘度計(ビスメトロン、芝浦システム社製、以下同じ)を用いて25℃でワニスの粘度を測定した(単位はdPa・s)。
《酸化マグネシウム混合後のワニス粘度》
ワニスに酸化マグネシウムが20%になるように混合後、B型粘度計を用いて50℃で粘度を測定した(単位はdPa・sである)。
《酸化マグネシウム混合後のワニス粘度2倍増時間》
ワニスに酸化マグネシウムが20%になるように混合後、B型粘度計を用いて50℃での上記粘度の変化を連続して測定し、粘度が初期の2倍に到達するまでの時間を測定した。
《ゲル化時間》
表1に示した各例の配合組成(配合欄に記載の全ての成分)を有する熱硬化性樹脂組成物10gとガラス棒を試験管に入れて130℃のオイルバス中に放置後、所定の時間毎にガラス棒を引き上げガラス棒とともに試験管が持ち上げられるまでの時間を測定した(単位は時間)。
《円盤伸び》
ゲル化時間測定に用いたものと同じ熱硬化性樹脂組成物を5g秤量し165℃に熱した平滑な鉄板上に置き、同温度に熱した鉄板で挟み、上方から40kg/cm2荷重をかけ45秒後に取り出して楕円状に広がった樹脂の長径と短径の平均の長さを測定した(単位はmm)。
《成形収縮率》
ゲル化時間測定に用いたものと同じ熱硬化性樹脂組成物を165℃、1分、40kg/cm2という成形条件で成形して76mmφ、厚さ3mmのテストピースを作製してJISK6911に準拠して測定した。
《熱伝導率》
ゲル化時間測定に用いたものと同じ熱硬化性樹脂組成物を同じ条件で成形して厚さ約2mmの樹脂板を作製し、京都電子工業社製の熱伝導率測定器(QTM−500)を用いてホットワイヤ法(細線加熱法)により熱伝導率を測定した(単位はW/mK)。
《体積抵抗率・常態》
ゲル化時間測定に用いたものと同じ熱硬化性樹脂組成物を同じ条件で成形し、厚さ2mmの樹脂板を作製し超絶縁計(横川HP社製)を用いてJISK6911に準拠して測定した(単位はMΩ・m)。
《体積抵抗率・煮沸後》
体積抵抗率・常態測定後のテストピースを沸騰水に1時間浸漬後、同様に測定した(単位はMΩ・m)。
《曲げ強度》
ゲル化時間測定に用いたものと同じ硬化性樹脂組成物を同じ条件で成形し、10mm×4mm×100mmのテストピースを作製してJISK6911に準拠して測定した(単位はMPa)。
《曲げ弾性率》
曲げ強度の場合と同様に10mm×4mm×100mmのテストピースを作製してJISK6911に準拠して測定した(単位はGPa)。
《引張強さ》
JISK6911に準拠してダンベル状のテストピースを作製してJISK6911に準拠して測定した(単位はMPa)。
【0029】
<実施例2〜6および比較例1〜5>
表1に示す配合組成にした以外は実施例1と同様にしてワニス、熱硬化性樹脂組成物および同熱硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物について上記各特性を測定した。比較例1、3および5においては、100℃で加熱時間を変えてそれぞれの酸価が12.0、6.2および6.7になるように調整した。結果を併せて表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、本発明の熱硬化性樹脂組成物は適度な流動性および硬化性を有し、その硬化物は熱伝導性が高く、この硬化物からなる絶縁層を有する本発明の高熱伝導コイルは優れた放熱性を有し、高い信頼性(特に煮沸後の体積抵抗値があまり低下しない)を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は硬化性に優れたおり、同樹脂組成物を硬化してなる硬化物からなる絶縁層を有する高熱伝導コイルをハイブリッドカーや電気自動車等に搭載されるモーターや発電機等に組み込めば信頼性の高いコイルとして使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル樹脂および/または不飽和ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)および酸化マグネシウム(C)を含む高熱伝導樹脂組成物であって、樹脂(A)の酸価が10mgKOH/g以下で、ビニルエステル樹脂の原料として使用するエポキシ樹脂と不飽和酸の当量比(エポキシ基/カルボキシル基)が1.05/1〜1.50/1であり、不飽和ポリエステル樹脂の原料として使用するアルコール成分と酸成分の当量比(水酸基/カルボキシル基)が1.05/1〜1.50/1である熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂(A)100質量部に対し、前記硬化剤(B)を0.5〜5質量部の割合で含む請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂(A)100質量部に対し、前記酸化マグネシウム(C)を15〜40質量部の割合で含む請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂(A)100質量部に対し、重合性モノマーを20〜350質量部の割合で含む請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項6】
熱伝導率が1.5W/mK以上である請求項5に記載の硬化物。
【請求項7】
請求項5または6に記載の硬化物からなる絶縁層を有する高熱伝導コイル。

【公開番号】特開2009−102586(P2009−102586A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278051(P2007−278051)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】