説明

熱硬化性樹脂組成物および熱硬化性樹脂成形材料

【課題】 硬化速度が極めて速い熱硬化性樹脂組成物および熱硬化性樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】 ノボラック型フェノール樹脂(a)、ポリアセタール樹脂(b)、および、スメクタイト(c)を必須成分とする熱硬化性樹脂組成物。前記スメクタイトは、予め、その層状構造中の層間に存在するカチオンを、触媒能力を有するカチオンの1種以上でイオン交換したものである。前記熱硬化性樹脂組成物と充填材とを含んでなる熱硬化性樹脂成形材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物および熱硬化性樹脂成形材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は耐熱性、機械的強度および電気特性などの優れた特性を有しており、フェノール樹脂組成物として、成形材料、積層板および接着剤等の用途に使用されている。
【0003】
反面、従来のフェノール樹脂組成物は、硬化速度が遅いという問題がある。その為、成形品や積層板の生産に時間がかかることから、硬化速度が速く、生産時間が短縮できる熱硬化性樹脂組成物が強く望まれている。
【0004】
これまで、フェノール樹脂組成物の硬化速度を速くする方法として、高分子量のノボラック型フェノール樹脂を用いたり(例えば、特許文献1参照。)、ハイオルソノボラック型フェノール樹脂を用いたり(例えば、特許文献2参照。)しているが、いずれもその効果が不充分である。
【0005】
また、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤として用いられているヘキサメチレンテトラミンの分解促進剤として、有機酸を添加する方法も提案されているが、これもその効果が不充分である。
【0006】
【特許文献1】特開2001−40177号公報(第2−4頁)
【特許文献2】特開平8−302158号公報(第2−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硬化速度が極めて速い熱硬化性樹脂組成物およびそれを用いた熱硬化性樹脂成形材料を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記第(1)〜第(5)項の本発明により達成される。
(1) ノボラック型フェノール樹脂(a)、ポリアセタール樹脂(b)、および、スメクタイト(c)を含む熱硬化性樹脂組成物。
(2) 前記スメクタイトは、予め、その層状構造中の層間に存在するカチオンを、アルミニウム、スカンジウム、錫、クロム、鉄、銅、チタンおよび水素から選ばれる元素より構成されるカチオンの1種以上でイオン交換したものである第(1)項記載の熱硬化性樹脂組成物。
(3) 前記スメクタイトは、モンモリロナイトである第(1)項または第(2)記載の熱硬化性樹脂組成物。
(4) ノボラック型フェノール樹脂(a)100重量部に対して、スメクタイト(c)が0.01重量部以上30重量部以下の割合で、配合してなる第(1)項〜第(3)項のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
(5) 第(1)項〜第(5)項のいずれかに記載された熱硬化性樹脂組成物と充填材とを含んでなる熱硬化性樹脂成形材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明よれば、硬化速度が極めて速い熱硬化性樹脂組成物、並びに熱硬化性樹脂成形材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ノボラック型フェノール樹脂(a)、ポリアセタール樹脂(b)、および、スメクタイト(c)を含む熱硬化性樹脂組成物であり、このような成分とすることにより、加熱時にポリアセタール樹脂(b)を、スメクタイト(c)が触媒として作用し分解して、ホルムアルデヒドを発生させることにより、従来の硬化剤であるヘキサメチレンテトラミンを用いることなくノボラック型フェノール樹脂を硬化し、硬化速度が極めて速い熱硬化性樹脂組成物が得られるものである。
【0011】
本発明に用いるノボラック型フェノール樹脂(a)としては、フェノール類とアルデヒド類とを無触媒または触媒存在下で反応させて得られる、フェノール樹脂、クレゾール樹脂、キシレノール樹脂およびナフトール樹脂などが挙げられ、ランダムノボラック型でもハイオルソノボラック型でも用いることができる。前記フェノール類として、フェノール、クレゾール、キシレノールおよびナフトールなどが挙げられ、アルデヒド類として、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドおよびポリアセタールなどが挙げられるが、最も硬化速度を速くするにはフェノールとホルムアルデヒドを用いて反応させて得られるノボラック型フェノール・ホルムアルデヒド樹脂が好ましい。
【0012】
また、ノボラック型フェノール樹脂中のイオン性不純物は、少ない方が好ましく、抽出水電気伝導度の測定値で表す場合には、50μS/cm以下のノボラック型フェノール樹脂が好ましい。抽出水電気伝導度の測定値が、50μS/cmを越えるノボラック型フェノール樹脂を用いた場合、ポリアセタール樹脂との溶融混合の際に、ノボラック型フェノール樹脂中のイオン性不純物が、ポリアセタール樹脂の分解触媒として作用して、ノボラック型フェノール樹脂とポリアセタール樹脂との硬化反応が起こることがある。本発明における抽出水電気伝導度の測定値は、ノボラック型フェノール樹脂6.0gと蒸留水40mlを、耐圧容器に入れて密閉し、125℃の乾燥機中で20時間熱処理後に放冷して、上澄み水を電気伝導度計で測定することにより得られる。
【0013】
本発明に用いるポリアセタール樹脂(b)としては、オキシメチレン基を主たる構成単位とする高分子化合物であり、ホモポリマー型ポリアセタール樹脂でも、オキシメチレン基以外に、オキシエチレンなどの他の構成単位を、50重量%未満含有するコポリマー型ポリアセタール樹脂でもよいが、ノボラック型フェノール樹脂(a)とポリアセタール樹脂(b)とを溶融混合する時の熱安定性の点では、コポリマー型ポリアセタール樹脂が好ましい。ポリアセタール樹脂は、離型剤、酸化防止剤などを含有しているものでもよく、前記ホモポリマー型ポリアセタール樹脂としては、デュポン社製デルリン500NC010や、旭化成製テナック4010などが使用できる。前記コポリマー型ポリアセタール樹脂としては、ポリプラスチックス製ジュラコンM90S、三菱エンジニアリングプラスチックス製F30−01、旭化成製テナックC7520などが使用できる。
【0014】
本発明に用いられるスメクタイト(c)は、その層構造中において層間に、ナトリウムやカルシウム等を含むカチオンが含まれているものであれば、そのまま使用することができ、その具体例としては、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ヘクトライトおよびスチィブンサイトなどを挙げることができ、これらの中でも、モンモリロナイトが好ましい。また、スメクタイトは、その層状構造中の層間に有するカチオンにおいて、ナトリウムやカルシウムなどのカチオンにおいて触媒能力が低い場合、これらを、より触媒能力のあるカチオンにイオン交換することが好ましく、例えば、予め、アルミニウム、スカンジウム、錫、クロム、鉄、銅、チタンおよび水素から選ばれる元素より構成されるカチオンの1種以上でイオン交換してから用いることが、より好ましい。
【0015】
前記スメクタイト層構造中の層間に存在するカチオンを触媒能力のあるカチオンにイオン交換する方法としては、通常のイオン交換方法を用いればよく、通常、水などの溶媒を用いた液相で行われるものであることが好ましい。前記液相には、前記イオン交換を行うカチオンの供給源を溶解させて行うことができるが、前記カチオンの供給源としては、上記イオン交換される元素より構成されるカチオンを含む化合物が挙げられ、例えば、硫酸、塩酸および硝酸などの無機酸や、上記イオン交換される金属元素を含む、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物およびカルボン酸塩などの化合物が挙げられる。また、前記カルボン酸塩としては、ギ酸塩、酢酸塩およびプロピオン酸塩などの脂肪族カルボン酸塩や、安息香酸塩などの芳香族カルボン酸塩などを使用することができる。
【0016】
本発明に用いる充填材としては、有機充填材および無機充填材などの充填材を用いることができるが、有機充填材としては、木粉、合板粉、熱硬化性樹脂硬化物粉末および粉砕布などが挙げられ、無機充填材としては、ガラスビーズ、ガラスパウダー、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム、クレーおよびマイカなどの粉末状充填材や、ガラス繊維およびカーボン繊維などの繊維状充填材などが挙げられ、これらの1種以上が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明におけるポリアセタール樹脂(b)の配合量としては、ノボラック型フェノール樹脂(a)100重量部に対して、好ましい下限値が1重量部で、好ましい上限値が30重量部である。より好ましくは下限値が5重量部、上限値が20重量部である。前記下限値以上では、充分な硬化速度を得ることができ、前記上限値以下では、硬化時のガス発生量が少なく硬化物の外観がより良好なものとなるので好ましい。
【0018】
本発明におけるスメクタイト(c)の配合量としては、ノボラック型フェノール樹脂(a)100重量部に対して、好ましい下限値が0.01重量部で、好ましい上限値が30重量部である。前記下限値以上では、充分な硬化速度を得ることができ、前記上限値以下では、ノボラック型フェノール樹脂固有の特性である耐熱性、耐薬性および機械強度などの特性を発現させることができる。
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂成形材料における充填材の配合量としては、熱硬化性樹脂組成物100重量部に対して、好ましい下限値が30重量部で、好ましい上限値が400重量部である。前記下限値以上では、前記成形材料の硬化物である成形品の機械的強度が充分であり、前記上限値以下では、成形時の流動性が良好で、成形時に金型内の充填性がより良好なものとなる。
【0020】
本発明において、上記成分以外に、必要に応じて、シランカップリング剤、着色剤、難燃剤および離型剤など、公知の熱硬化性樹脂および熱硬化性樹脂成形材料に用いられる各種添加剤を配合することができる。
【0021】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、製造方法は特に制限されることはなく、ノボラック型フェノール樹脂(a)、ポリアセタール樹脂(b)、およびスメクタイト(c)、必要に応じて、各種添加剤を、公知のミキサーで混合することにより得ることができ、また、これらを溶融混合しても良い。熱硬化性成形材料においても、製造方法は特に制限されず、前記熱硬化性樹脂組成物および充填材、必要に応じて、添加剤を混合し、例えば、加熱ロールなどにより溶融混合して得ることができる。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂とスメクタイトからなる硬化系のため、ヘキサメチレンテトラミン用いず、かつ、硬化速度も速いため、成形材料、積層板および接着剤などの種々の用途に好適に使用される。
このようにして得られる本発明の熱硬化性組成物は、例えば、成形材料として、圧縮成形、移送成形または射出成形などの方法により、加熱することにより成形して成形品とすることができ、また、溶媒に溶解してワニスとして基材上に塗布して塗膜を形成し、上記加熱温度により硬化させて樹脂層やフィルムとすることもできる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制約されるものではない。
【0024】
(合成例1)
フェノール100重量部、37%ホルマリン63重量部、蓚酸0.5重量部の混合物を、100℃で3時間反応後、メタノール10重量部と蒸留水20重量部を添加して混合し、2時間静置した。反応混合物の上澄み液を除去した後、反応混合物の温度が140℃になるまで、常圧蒸留で脱水し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が230℃になるまで、減圧蒸留して、未反応フェノールを除去して、数平均分子量が920、軟化点が80℃、抽出水電気伝導度が8μS/cmのノボラック型フェノール・ホルムアルデヒド樹脂90重量部を得た。
【0025】
(合成例2)
高純度ソジウムモンモリロナイト(クニミネ工業製クニピアF)を100メッシュの篩を通過する程度の粒径に粉砕したもの12gを800mlの水/アセトン(1/1)の混合溶媒中に入れ、室温で一晩攪拌した。50℃まで昇温させた。Al(NO33・9H2O45g(0.12mol)を1200mlの水に溶かし、上記の混合物に加えた。50℃で24時間攪拌した。遠心分離によるデカンテーションをし、水で洗浄した。この洗浄を、さらに5回繰り返した。その後、80℃で24時間乾燥した。得られたややクリーム色の固体を粉砕し、120℃で一晩乾燥させて、8.95gのアルミニウム置換モンモリロナイト(Al−mont)が得られた。
同様にして、上記においてAl(NO33・9H2O45g(0.12mol)の代わりに、同モル数のFe(NO33・9H2Oと、Sc(OTf)3を用いて、それぞれ、鉄置換モンモリロナイト(Fe−mont)8.72gと、スカンジウム置換モンモリロナイト(Sc−mont)9.01gを得た。
【0026】
(実施例1)
合成例1で得た樹脂を100g、ホモポリマー型ポリアセタール樹脂(旭化成製、商品名テナック7010)を10g、合成例2で得られたアルミニウム置換モンモリロナイトを5g採取し、乳鉢を用い粉砕混合し、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0027】
(実施例2、3)
実施例1と同様にして、表1に示す割合で配合し、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0028】
(比較例1)
表1に示す割合で配合した原料を、乳鉢で粉砕混合して、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0029】
上記で得られた熱硬化性樹脂組成物を用いて、硬化速度の指標であるゲルタイムの評価を行った。ゲルタイムは、150℃に保った熱板上に0.5gの試料をのせ、スパチュラで、常時、かき混ぜながら、スパチュラを持ち上げても樹脂組成物が糸を引かなくなるまでの時間を測定した。この時間が短いほど硬化速度が速いことを示す。得られた結果を、表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
(実施例4,5及び比較例2)
表2に示す割合で配合した原料を、加熱ロールで混練し、更に冷却、粉砕して成形材料を得た。
【0032】
得られた成形材料を用いて、硬化速度の指標であるバコール硬度の測定を行った。バコール硬度は、175℃に設定した移送成形用金型に、圧力20MPaで注入して50mmφ*3mm厚みの成形品を成形し、成形品のバコール硬度(No.035)が40以上になった時の硬化時間で表す。この時間が短いほど、硬化速度が速いことを示す。得られた結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
上記の表1、2の結果からも明らかな様に、本発明の熱硬化性樹脂組成物および熱硬化性樹脂成形材料は、ヘキサメチレンテトラミンを使用せずに、それ以上の硬化性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明よれば、硬化速度が極めて速い熱硬化性樹脂組成物が得られ、成形材料、積層板、接着剤等の従来よりフェノール樹脂組成物が用いられてきた用途に好適に用いられる。また、自動車用部品、機構部品、電機・電子部品等の用途にも好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂(a)、ポリアセタール樹脂(b)、および、スメクタイト(c)を含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記スメクタイトは、予め、その層状構造中の層間に存在するカチオンを、アルミニウム、スカンジウム、錫、クロム、鉄、銅、チタンおよび水素から選ばれる元素より構成されるカチオンの1種以上でイオン交換したものである請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記スメクタイトは、モンモリロナイトである請求項1または2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
ノボラック型フェノール樹脂(a)100重量部に対して、スメクタイト(c)が0.01重量部以上30重量部以下の割合で、配合してなる請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された熱硬化性樹脂組成物と充填材とを含んでなる熱硬化性樹脂成形材料。

【公開番号】特開2007−70549(P2007−70549A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261319(P2005−261319)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】