説明

熱硬化性溶液の製造方法および管状体の製造方法

【課題】保持時間の違いによる成形体の体積抵抗率の変動が抑制された熱硬化性溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】酸基を有する導電材を分散した溶液を調製する工程と、ポリイミド前駆体溶液を調製する工程と、導電材を分散した溶液とポリイミド前駆体溶液を混合し、内部に撹拌羽根が配置された撹拌槽であって、撹拌槽の内面と撹拌羽根との最小間隙が1mm以上15mm以下の撹拌槽を用いて、混合溶液を撹拌する工程と、を有する熱硬化性溶液の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性溶液の製造方法および管状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置等に用いられる管状体には、強度や寸法安定性が求められる場合がある。また、電子写真方式を用いた各種装置に適用するために、管状体に導電材を含んだ構成とすることが知られている。
【0003】
特許文献1には、ポリイミド系樹脂や導電性粉末を含有したシームレスベルトが提案されている。
特許文献2には、導電性金属酸化物を分散した熱硬化性ポリイミド樹脂から構成された中間転写ベルトが提案されている。
特許文献3には、ポリアミド酸とカーボンブラック粉体と、有機溶媒とを含有する半導電性ポリアミド酸溶液を、金属ドラムの内面に供給して加熱することで、ポリアミド酸無端管状フィルムを製造することが提案されている。
特許文献4には、導電材として酸化処理カーボンブラックとポリイミド系樹脂を含む層を有する無端状の半導電性ベルトが提案されている。
【0004】
特許文献5には、粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させてカーボンブラック分散液を調製し、この調製したカーボンブラック分散液と樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して半導電性塗料を調製し、この半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形することで、半導電性部材を製造することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−77252号公報
【特許文献2】特開平10−63115号公報
【特許文献3】特開2002−86465号公報
【特許文献4】特開2004−287383号公報
【特許文献5】特開2007−86492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、保持時間の違いによる成形体の体積抵抗率の変動が抑制される熱硬化性溶液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
酸基を有する導電材を分散した溶液を準備する工程と、
ポリイミド前駆体溶液を準備する工程と、
前記導電材を分散した溶液と前記ポリイミド前駆体溶液を混合し、内部に撹拌羽根が配置された撹拌槽であって、撹拌槽の内面と撹拌羽根との最小間隙が1mm以上15mm以下の撹拌槽を用いて、混合溶液を撹拌する工程と、
を有する熱硬化性溶液の製造方法。
【0008】
請求項2に係る発明は、
前記撹拌羽根が回転した軌跡で描かれる形状の外面のうち、前記撹拌槽の内面と対向する面の面積の3割以上が、前記撹拌槽の内面との間隙が1mm以上15mm以下の範囲内にある、請求項1に記載の熱硬化性溶液の製造方法。
【0009】
請求項3に係る発明は、
請求項1又は2に記載の熱硬化性溶液の製造方法により製造された熱硬化性溶液を塗布し、前記熱硬化性溶液による塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加熱硬化させて管状体とする工程と、
を有する管状体の製造方法。
【0010】
請求項4に係る発明は、
前記熱硬化性溶液の極限粘度が40ml/g以下である、請求項3に記載の管状体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、撹拌槽の内面と撹拌槽内に設置された撹拌羽根との最小間隙が上記範囲外である条件で製造した熱硬化性溶液を用いた場合に比べて、保持時間の違いによる成形体の体積抵抗率の変動が抑制される熱硬化性溶液が製造できるという効果を有する。
請求項2に係る発明によれば、撹拌羽根が回転した軌跡で描かれる形状の外面のうち、撹拌槽の内面と対向する面の面積の3割以上が、撹拌槽の内面との間隙が上記範囲外である条件で製造した熱硬化性溶液を用いた場合に比べて、保持時間の違いによる成形体の体積抵抗率の変動が抑制される熱硬化性溶液が製造できるという効果を有する。
請求項3に係る発明によれば、撹拌槽の内面と撹拌槽内に設置された撹拌羽根との最小間隙が上記範囲外である条件以外の条件で製造した熱硬化性溶液を用いた場合に比べて、体積抵抗率の変動が抑制される管状体を製造できるという効果を有する。
請求項4に係る発明によれば、極限粘度が上記範囲外の物性の熱硬化性溶液を用いて製造した場合に比べて、保持時間の違いによる体積抵抗率の変動が抑制される管状体が製造できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態に用いる撹拌装置の断面図である。
【図2】本実施の形態における管状体の製造方法に用いる成膜装置の一例を示す模式図である。
【図3】本実施の形態における管状体の製造方法に用いる成膜装置の一例を示す模式図である。
【図4】芯体上に塗膜または管状体が形成された状態を示す模式図である。
【図5】管状体の体積抵抗率を測定する体積抵抗率測定装置の一例を示す模式図であって、(B)は平面図であり、(A)は(B)のA−A’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施の形態の熱硬化性溶液の製造方法の一の実施形態を説明する。
【0014】
本実施の形態の熱硬化性溶液の製造方法は、(1)酸基を有する導電材を分散した溶液を準備する工程と、ポリイミド前駆体溶液を準備する工程と(以下導電材を分散した溶液及びポリイミド前駆体溶液を準備する工程をまとめて「準備工程」と称する)、(2)導電材を分散した溶液とポリイミド前駆体溶液を混合し、内部に撹拌羽根が配置された撹拌槽であって、撹拌槽の内面と撹拌羽根との最小間隙が1mm以上15mm以下の撹拌槽を用いて、撹拌する工程(以下「撹拌工程」と称する)を、有している。
【0015】
ここで、熱硬化性溶液を用いて成形される成形体の体積抵抗率は、製造による変動のないことが望ましいところ、上記の調製工程及び撹拌工程を有さない製造方法で製造した熱硬化性溶液を用いて成形する場合には、酸基を有する導電材の含有量及びポリイミド前駆体溶液の含有量が同じであっても、製造された成形体の体積抵抗率に変動が生じる。
【0016】
調製工程及び撹拌工程を有さない製造方法で製造した熱硬化性溶液を用いて成形する成形体の体積抵抗率に変動が生じるのは、下記現象によると考えられる。
すなわち、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の分子においては、解離反応と結合反応が生じているところ、撹拌工程において熱硬化性溶液にかかる機械的応力によって、解離反応の速度が異なり、熱硬化性溶液にかかる応力が弱い場合には解離反応が進行しにくく、保持時間中に解離反応が進行すると、ポリイミド前駆体における塩基と、酸基を有する導電材における酸基との相互作用(反応)によって、熱硬化性溶液中における酸基を有する導電材の分散状態が徐々に変化すると考えられる。
このため、撹拌工程において熱硬化性溶液にかかる機械的応力が弱い場合、熱硬化性溶液の保持時間によって、上記相互作用の進行度合いが異なり、製造される成形体の体積抵抗率に変動が生じると考えられる。
【0017】
また、撹拌工程における熱硬化性溶液にかかる機械的応力が異なることで、導電材の濡れの進行が変化すると考えられる。機械的応力が弱いときには、導電材の濡れの進行が生じにくく、保持期間中に熱硬化性溶液中のポリイミド前躯体の解離反応が進行するとともに、ポリイミド前駆体における塩基と、酸基を有する導電材における酸基との相互作用と導電材の濡れが進行し、分散状態が変化すると考えられる。
このため、撹拌工程での撹拌における機械的応力が弱い場合、熱硬化性溶液の保持時間によって、上記相互作用の進行度合いが異なり、製造される成形体の体積抵抗率に変動が生じると考えられる。
【0018】
そこで本実施の形態では、撹拌工程において、内部に撹拌羽根が配置された撹拌槽であって、撹拌槽の内面と撹拌羽根との最小間隙が1mm以上15mm以下の撹拌槽を用いて、強い機械的応力を加える。このようにすると、撹拌工程におけるポリイミド前駆体分子の解離反応が促進され、ポリイミド前駆体における塩基と、導電材の酸基との相互作用が促進されると考えられる。あるいは、酸基を有する導電材の濡れが促進され、ポリイミド前駆体における塩基と、導電材の酸基との相互作用が促進されると考えられる。このため、保持期間中のポリイミド前駆体の解離反応や導電材の濡れによる、ポリイミド前駆体における塩基と、酸基を有する導電材における酸基との相互作用量の保持期間中の変化が緩やかになると考えられる。
【0019】
この結果、本実施の形態に係る撹拌工程を経た熱硬化性溶液は、製造後の保持期間の違いによって生じる成形体の体積抵抗率の変動を抑制する。
【0020】
以下、本実施の形態の熱硬化性溶液及び成形体の製造方法、製造に用いる材料について、詳細に説明する。
【0021】
(準備工程)
導電材を分散した溶液は、例えば、酸基を有する導電材をN−メチルピロリドンなどの有機溶媒中に分散させて調整する。なお、導電材を分散する溶液にポリイミド前駆体を溶解させてもよく、ポリイミド前駆体が溶解している溶液中に導電材を分散させてもよい。その分散方法としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ジェットミル(対抗衝突型分散機)等が挙げられる。
何れの分散方法を用いた場合においても、分散性の向上の観点から、分散時の溶液(酸基を有する導電材とポリイミド前駆体溶液を含む溶液)の粘度は1Pa・s以上50Pa・s以下であることが望ましい。
【0022】
導電材を分散させた溶液にポリイミド前駆体を溶解させる場合に粘度を維持する方法としては、分散時の溶液の温度を調整する方法がある。具体的には、分散時においては、例えば溶液の温度が50℃以上となるように調整することが望ましい。
なお、分散時における溶液の加温は、例えば、分散時における機械的エネルギーにより発生する熱を利用してもよいし、分散時において用いる容器に熱を加えてもよい。
【0023】
分散時の導電材の濃度は、例えば、ポリイミド前駆体溶液に導電材を分散させる場合、溶液の固形分質量に対して、50質量%以上200質量%以下であるのが望ましい。これは、導電材が分散するのには時間がかかることがあるため、液量を少なくして導電材を高濃度で分散する方が効率的と考えられるからである。
【0024】
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とを、溶媒中で反応させて得られる。ポリイミド前駆体の種類としては、特に制限されないが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン成分とを反応させて得られる芳香族ポリイミド前駆体が、強度の点から望ましい。
【0025】
芳香族テトラカルボン酸の代表例としては、次のようなものが挙げられ、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、もしくはこれらのテトラカルボン酸エステル、又は上記各テトラカルボン酸類の混合物等が挙げられる。
一方、芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジメトキシベンチジン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、又は、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。
また、形成するポリイミド層と金属層との密着性を向上させるために、特開2003−136632号公報に記載の如く、ポリイミド(PI)にアルコキシシラン化合物を結合させたPI−シリカハイブリッド体を用いてもよい。
【0026】
導電材を分散した溶液中において、その粘度、及び濃度は、目的に応じて調整される。例えば、導電材を分散したポリイミド前駆体溶液の望ましい固形分濃度としては10質量%以上40質量%以下が挙げられる。また、導電材を分散したポリイミド前駆体溶液の望ましい粘度としては、例えば、1Pa・s以上50Pa・s以下が挙げられる。
【0027】
導電材としては、例えば、酸基を有する炭素系物質(カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト等)、酸基を有するウィスカー(酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、等の導電性金属酸化物;、チタン酸カリウム等)、が挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックを用いることが望ましい。
【0028】
導電材が有する酸基としては、例えば、カルボキシル基、キノン基、ラクトン基、及び水酸基等が挙げられる。導電材は、酸基を有することにより、溶液中における分散性が良好となると考えられ、また、分散安定性が得られると考えられる。
【0029】
酸基を有する導電材は、例えば、上記に挙げた導電材を酸化処理することによって得られる。この導電材の酸化処理方法としては、高温(例えば、800℃以上)下で空気と接触させて反応させる空気酸化法、例えば、常温(例えば、30℃)下で窒素酸化物やオゾンと反応させる方法、及び高温下で空気により酸化させた後に低温(例えば、20℃以下)下でオゾン酸化する方法、及びコンタクト法などが挙げられる。
【0030】
コンタクト法としては、例えば、チャネル法、ガスブラック法等が挙げられる。また、酸基を有する導電材は、例えば、ガスまたはオイルを原料とするファーネスブラック法により製造してもよい。さらに、必要に応じて、これらの処理を施した後に、硝酸などで液相酸化処理を行ってもよい。
【0031】
酸基を有する導電材のpH値は何れの値であってもよいが、例えば、pH5.0以下であることが望ましく、pH4.5以下であることがより望ましく、pH4.0以下であることが更に望ましい。
ポリイミド前駆体溶液に分散された、酸基を有する導電材のpHは、水性懸濁液を調整し、ガラス電極で測定することで得られる。また、この酸基を有する導電材のpHは、酸化処理工程での処理温度、及び処理時間等の条件によって調整される。
【0032】
酸基を有する導電材としては、具体的には、デグサ社製の「プリンテックス150T」(pH4.5、揮発分10.0%)、同「スペシャルブラック350」(pH3.5、揮発分2.2%)、同「スペシャルブラック100」(pH3.3、揮発分2.2%)、同「スペシャルブラック250」(pH3.1、揮発分2.0%)、同「スペシャルブラック5」(pH3.0、揮発分15.0%)、同「スペシャルブラック4」(pH3.0、揮発分14.0%)、同「スペシャルブラック4A」(pH3.0、揮発分14.0%)、同「スペシャルブラック550」(pH2.8、揮発分2.5%)、同「スペシャルブラック6」(pH2.5、揮発分18.0%)、同「カラーブラックFW200」(pH2.5、揮発分20.0%)、同「カラーブラックFW2」(pH2.5、揮発分16.5%)、同「カラーブラックFW2V」(pH2.5、揮発分16.5%)、キャボット社製「MONARCH1000」(pH2.5、揮発分9.5%)、キャボット社製「MONARCH1300」(pH2.5、揮発分9.5%)、キャボット社製「MONARCH1400」(pH2.5、揮発分9.0%)、同「MOGUL−L」(pH2.5、揮発分5.0%)、同「REGAL400R」(pH4.0、揮発分3.5%)等が挙げられる。
【0033】
導電材を分散した溶液に混合するためのポリイミド前駆体溶液は、上述したポリイミド前駆体を溶媒に溶解して調製する。なお、これに限られず、導電材を分散させた溶液中にポリイミド前駆体が溶解している場合、ポリイミド前駆体の種類、分子量、導電材の濃度がこれと異なるものであってもよい。
【0034】
(混合工程、撹拌工程)
導電材を分散させた溶液とポリイミド前駆体溶液を、混合する。これにより、混合工程では、例えば、導電材の濃度を調整したり、粘度の調整を行う。
【0035】
導電材の濃度調整を行う場合は、例えば、ポリイミド前駆体溶液として、導電材を分散させた溶液に対して導電材の濃度が少ないものを適用する。このとき、調整後の導電材の濃度は、ポリイミド前駆体溶液の固形分質量に対して、例えば、10質量%以上35質量%以下であるのが望ましい。
【0036】
また、粘度調整を行う場合は、例えば、ポリイミド前駆体溶液としては、導電材を分散させた溶液中にポリイミド前駆体が溶解している場合、このポリイミド前駆体に比べ高分子量のポリイミド前駆体溶液を適用する。ここで、導電材を分散させた溶液の粘度は、例えば、10Pa・s以上40Pa・s以下で、ポリイミド前駆体溶液の粘度は、例えば、10Pa・s以上100Pa・s以下が望ましい。また、ポリイミド前駆体溶液の極限粘度は、40ml/g以下であるのが望ましい。
【0037】
なお、混合する場合においては、目的に応じた量の導電材を分散させた溶液及びポリイミド前駆体溶液を、一度に加えて混合してもよいし、導電材を分散させた溶液が入った槽にポリイミド前駆体溶液を滴下してもよいし、逆に、ポリイミド前駆体溶液が入った槽に導電材を分散させた溶液を滴下してもよい。
また、本混合は、後述する撹拌工程で用いる撹拌槽内で行ってもよく、別途、混合してもよい。
【0038】
撹拌工程においては、上記の混合溶液を撹拌装置60で撹拌する。この撹拌により、混合溶液中の導電材の濃度むらの発生を抑制する。
【0039】
撹拌工程で用いる撹拌装置60は、例えば、図1に示すように、撹拌槽62と、その内部に設置された撹拌羽根64と、を備える。撹拌羽根64は軸芯66に連結されている。
【0040】
撹拌装置60において、撹拌羽根64は、撹拌槽62の内面との最小間隙が1mm以上15mm以下である。望ましくは、3mm以上12mm以下、より望ましくは5mm以上10mm以下である。
【0041】
なお、最小間隙が1mm未満であると、撹拌羽根64にかかる負荷が大きくなって撹拌が困難になるほか、撹拌槽62と撹拌羽根64が接触する虞がある。最小間隙が15mmを超える場合、溶液を撹拌しても応力は弱いものとなり、撹拌後の熱硬化性溶液の保持時間の違いによる成形体の体積抵抗率の変動が生じ易くなると考えられる。
【0042】
撹拌羽根64は、撹拌槽62の内面との最小間隙が上記範囲であればよいが、具体的には、例えば、撹拌羽根64が回転した軌跡で描かれる形状の外面のうち、撹拌槽62の内面と対向する面の面積の3割以上が、撹拌槽62の内面と対向する撹拌羽根64の形状の外面と撹拌槽62の内面との間隙が1mm以上15mm以下の範囲内であることがよい。望ましくは、3mm以上12mm以下、より望ましくは5mm以上10mm以下である。
これにより、混合溶液全体に、強い機械的応力が加わり易くなり、得られる熱硬化性溶液の保持時間の違いによる成形体の体積抵抗率の変動が抑制されると考えられる。
【0043】
ここで、撹拌羽根64と撹拌槽62の内面との最小間隙とは、軸芯66に連結した撹拌羽根64とその撹拌羽根64が設置された撹拌槽62の内面が、最も接近している箇所における撹拌羽根64と撹拌槽62の最短距離をいう。撹拌羽根64が連結した軸芯66が2以上ある撹拌槽や、軸芯66に2以上の撹拌羽根64が連結しているような、一の撹拌槽62に複数の撹拌羽根64があるような場合、各撹拌羽根64における前記の距離のうち、最も小さいものをいう。また、撹拌羽根64と撹拌槽62の内面との最小間隙は、例えば、撹拌羽根64の先端や角などの一部でもよい。
つまり、撹拌羽根64は、少なくともその一部が撹拌槽62の内面との間隙が上記範囲内となるように、その形状、大きさを選択して設置することがよい。
【0044】
撹拌羽根64が回転した軌跡で描かれる形状とは、撹拌羽根64が回転軸(軸芯66)を中心として回転したとき、又は、回転軸ごと移動したとき、撹拌羽根64の外形で描かれる軌跡のうち最も外側で描かれた軌跡により形作られる形状をいう。ここで、撹拌羽根64が回転した軌跡で描かれる形状の外面のうち撹拌槽62の内面と対向する面とは、上記形状の外面のうち撹拌槽62の内面と向かい合っている面をいい、面積の3割以上とは、上記向かい合っている面のなかで3割以上を占める領域のことをいう。
【0045】
上記撹拌条件を満たす撹拌装置としては、例えば、一軸型撹拌装置、二軸撹拌装置、三軸型装置等が挙げられる。撹拌装置ごとにさまざまな形状をした撹拌槽・撹拌羽根があるため、この条件を満たす撹拌装置であれば、どんな型の撹拌装置でもよい。
【0046】
撹拌工程での撹拌羽根64の回転速度(撹拌速度)は、例えば、10rpm以上100rpm以下程度の回転速度が望ましい。また、撹拌羽根64を回転軸ごと移動(回転)させる場合の、撹拌羽根64を回転軸(軸芯)ごと移動させる速度(以下公転速度と称する)は、例えば、10rpm以上50rpm以下、撹拌羽根64が回転する速度(以下自転速度と称する)は、例えば、50rpm以上200rpm以下であることが望ましい。
【0047】
その他、撹拌工程での撹拌条件を説明する。
【0048】
撹拌工程での混合溶液の温度は、例えば、5℃以上45℃以下であることが望ましい。撹拌によって混合溶液の温度が上昇する場合には、撹拌槽62を冷却することも有効と考えられる。
撹拌工程での撹拌時間は、例えば、10分以上150分以下がよい。
撹拌工程は、真空中(例えば、−80kPa以上−200kPa以下)で行うことが望ましい。
【0049】
以上の工程を経て、熱硬化性溶液は調製される。得られた熱硬化性溶液は、フィルムや、管状体等の、成形体(樹脂成形体)の製造に利用される。
【0050】
ここで、本実施の形態に係る熱硬化性溶液の製造方法により得られる熱硬化性溶液は、例えば、極限粘度が40ml/g以下がよい。極限粘度を40ml/g以下とすることで、酸基を有する導電材との相互作用時の立体障害が抑制され、ポリイミド樹脂前駆体における塩基と、導電材の酸基との相互作用の相対量変化が抑制されると考えられ、この結果、上記極限粘度の熱硬化性溶液を用いて形成される成形体は、熱硬化性溶液の保持時間の違いによる、成形体の体積抵抗率の変動が抑制されると考えられる。
【0051】
上述したように、熱硬化性溶液の極限粘度は40ml/g以下がよいが、5ml/g以上30ml/g以下であることがさらに望ましく、5ml/g以上20ml/g以下であることが特に望ましい。極限粘度が5ml/g以下の場合は液が流動する傾向があると考えられる。
【0052】
なお、極限粘度は、JIS規格(K−7367−1)に準じて、毛細管型粘度計であるウベローデ粘度計で測定した値である。Mark-Houwinkの式など極限粘度と分子量との間には正の相関があることが一般的に知られており、極性が高く平衡反応によって分子量が変化し易くGPC(ゲル浸透クロマトグラフ)などの手法で正確に分子量を測定し難いポリイミド前駆体の分子量代用測定法として用いられることが多い。
【0053】
(管状体の製造方法)
本実施形態に係る管状体の製造方法は、熱硬化性溶液により塗膜を形成する工程(以下「塗膜形成工程」)、塗膜を加熱硬化させる工程(以下「加熱硬化工程」)、を有する。本製造方法には、上記本実施形態に係る熱硬化性溶液を適用する。
以下、管状体を製造する各工程について記載する。
【0054】
<塗膜形成工程>
塗膜形成工程では、熱硬化性溶液を芯体に塗布し、熱硬化性溶液の塗膜を形成する。芯体の材質としては、例えば、金属(アルミニウム、ステンレス鋼等)、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、または、これらの樹脂で表面を被覆した金属が挙げられる。芯体材質として金属を使用する場合には、芯体上に形成される管状体を芯体から取り外しやすいように、例えば、予め表面にクロムやニッケルでメッキを施したり、離型剤を塗布してもよい。
【0055】
芯体の望ましい形状としては、例えば、円筒状や円柱状が挙げられる。
【0056】
芯体に熱硬化性溶液を塗布する方法は、特に制限されない。例えば、特開平6−23770号公報等に記載の外面塗布法、特開平3−180309号公報等に記載の浸漬塗布法、特開平9−85756号公報等に記載のらせん塗布法、等のほか、スピンコート法も挙げられ、芯体の形状や大きさに応じて選択される。
【0057】
以下、熱硬化性溶液を塗布する方法について、らせん塗布法を用いた場合を一例として説明する。
【0058】
図2及び図3に示すように、成膜装置40では、円筒状の芯体34を周方向に回転させながら、芯体34の外側の面に熱硬化性溶液20Aを塗布し、これを芯体34の外側の面に接して配置されたブレード29によってならしながら塗布する。
【0059】
成膜装置40では、貯留部20に貯留された熱硬化性溶液20Aを、ポンプ24によって供給管22及びノズル26を介して、矢印A方向に回転されている芯体34の外側の面に供給する。
【0060】
芯体34の外側の面に筋状に塗布された熱硬化性溶液20Aは、ブレード29によって平滑化される。このため、芯体34上には、熱硬化性溶液20Aによる螺旋状の筋が残ることを抑えつつ、塗膜10Aが形成される。この塗布時の芯体34の回転速度としては、例えば、20rpm以上300rpm以下が挙げられ、ノズル26と芯体34との相対移動速度は、例えば、0.1m/分以上2.0m/分以下が挙げられる。
【0061】
この成膜装置40と芯体34は、芯体34の長尺方向の一端側から他端側に向かって相対的に移動される(図2中、矢印B方向参照)。これによって、芯体34上には、熱硬化性溶液20Aによる塗膜10Aが形成される(図4参照)。
【0062】
この成膜装置40には、貯留部20に貯留されている熱硬化性溶液20Aや、供給管22、ポンプ24、及びノズル26内を流れる熱硬化性溶液20Aを、目的とする温度に保持する温度維持装置32が設けられている。この温度維持装置32は、貯留部20に貯留されている熱硬化性溶液20Aや、供給管22、ポンプ24、及びノズル26内を流れる熱硬化性溶液20Aを、目的とする温度に保持する構成であればよい。
【0063】
例えば、この温度維持装置32としては、保温部材28、温度調節装置30、温度測定装置36、及び制御部38を含んだ構成が挙げられる。
保温部材28は、保温機能を有する部材であり、貯留部20、供給管22、ポンプ24、及びノズル26の外側を覆うように設けられている。この保温部材28としては、保温機能を有する公知の部材を用いればよい。温度調節装置30は、保温部材28の内側(すなわち、貯留部20、供給管22、ポンプ24、及びノズル26内)の温度を目的とする温度に保持する装置である。この温度調節装置30としては、温度を調節する機能(加熱又は冷却機能)を有する公知の装置を用いればよい。温度調節装置30によって保温部材28の内側が冷却されることで、保温部材28の内側に存在する貯留部20、供給管22、ポンプ24、及びノズル26内の熱硬化性溶液20Aが、温度調節装置30によって目的とする温度に保持される。
【0064】
温度測定装置36は、貯留部20内(例えば、貯留部20の内側の底部)に設けられており、貯留部20内に貯留されている熱硬化性溶液20Aの温度を測定する。
制御部38は、温度測定装置36及び温度調節装置30に電気的に接続されており、温度測定装置36から受け付けた温度情報に基づいて、保温部材28の内側が目的とする温度を維持するように、温度調節装置30を制御する。
【0065】
<加熱硬化工程>
次に、上記の塗膜形成工程によって形成された塗膜10Aを加熱硬化させる(加熱硬化工程)が、この工程の前に、塗膜10Aを乾燥又は半硬化させることが望ましい。
ここで、「乾燥」とは、塗膜10Aを構成する熱硬化性溶液に含まれる溶剤を蒸発させるために加熱することをいい、実際には、例えば、100℃以上200℃以下程度で時間が設定される(例えば、30分以上60分以下)。また、「半硬化」とは、熱硬化性溶液に含まれるポリイミド樹脂前駆体のイミド化反応が進行しない程度で、一部がイミド化した状態をいう。実際的には、例えば、120℃以上250℃以下程度で目的に応じた時間を設定すると、塗膜10Aが半硬化状態となり、乾燥状態より強度が増す。
【0066】
これら、乾燥又は半硬化は、ポリイミド樹脂前駆体や溶剤種によって温度及び時間等を設定して行われるが、塗膜10Aから溶剤が完全に蒸発すると、塗膜10Aに割れが生じやすくなることがあるので、ある程度(例えば、当初の5質量%以上40質量%以下程度)の溶剤は残留させておくことが望ましい。
【0067】
なお、乾燥時間は、温度が高いほど短くてよい。また、乾燥時には、熱風を当てることも望ましい。温度は、段階的に上昇させてもよいし、一定速度で上昇させてもよい。
【0068】
乾燥は、塗膜10Aが垂れることを抑制するために、芯体34の軸方向を水平方向に沿わせて、且つ5rpm以上60rpm以下の回転速度で回転させながら行うことが望ましい。また、次の加熱硬化工程では、芯体34の軸方向を垂直方向に沿わせた状態で加熱硬化することが望ましい。
【0069】
加熱硬化工程では、上記のように乾燥又は半硬化させた塗膜10Aを加熱することで、塗膜10Aに含まれるポリイミド樹脂前駆体をイミド化させて、管状体10を形成する(図4参照)。
【0070】
イミド化は、例えば、250℃以上450℃以下(望ましくは、300℃以上400℃以下)に加熱することにより行われ、これによりポリイミド樹脂前駆体は硬化してポリイミド樹脂となる。この加熱時間としては、例えば、30分以上180分以下が挙げられる。
【0071】
なお、この加熱硬化工程では、加熱温度が高いほど時間は短いことがよい。また、加熱時には熱風を当てることや赤外線のエネルギーを照射することも望ましい。加熱温度は、段階的に上昇させてもよいし、一定速度で上昇させてもよい。
【0072】
これによって、芯体34上には、管状体10が形成される(図4参照)。そして、管状体10を芯体34から分離することで、管状体10が製造される。
【0073】
形成された管状体10の厚みとしては、例えば、30μm以上150μm以下の範囲が挙げられる。
【0074】
管状体10は、複写機やプリンタ等の電子写真方式を用いた画像形成装置の中間転写ベルト、用紙搬送ベルト、定着ベルト等に好適に用いられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において、「部」は「質量部」を表す。
【0076】
(実施例1)
以下の工程を経ることによって管状体10を製造した。
まず、ポリイミド前駆体溶液として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなるポリイミド前駆体溶液(商品名:Uイミド、ユニチカ製、固形分濃度18%、溶剤はN−メチルピロリドン、25℃での粘度50Pa・s)を用意した。
そして、このポリイミド前駆体溶液に、酸基を有する導電材として、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製、酸基としてヒドロキシル基、カルボキシル基を有する)を、固形分質量比で80%混合し、次いで対向衝突型分散機(株式会社ジーナス製、GeanusPY)により分散した。分散時には、冷却水の温度を調整することにより、溶液温度を50℃に維持し、衝突操作を5回繰り返して分散を行った。これにより、50℃での粘度が4Pa・s、25℃での粘度が20Pa・sの溶液を調製した。
【0077】
次に、上記分散液にカーボンブラックが20部となる量のポリイミド前駆体溶液(商品名:Uイミド、ユニチカ製、固形分濃度18%、有機溶媒はN−メチルピロリドン、25℃での粘度100Pa・s)を加え、プラネタリ型撹拌装置(株式会社愛工舎製作所製、容量90リットル)により混合及び撹拌した。このプラネタリ型撹拌装置は、撹拌羽根の撹拌槽の内面と撹拌羽根との最小間隙が6mmであった。また、本装置は、撹拌羽根が回転した軌跡で描かれる形状の外面のうち、撹拌槽の内面と対向する面の面積の6割が、前記撹拌槽の内面との間隙が1mm以上15mm以下であった。撹拌羽根の自転速度を98rpm、公転速度を26rpmとし、真空引きをしながら、2時間撹拌して熱硬化性溶液を調製した。撹拌時の溶液の温度は40℃であった。
なお、調製した熱硬化性溶液の極限粘度、10.2ml/gであった。
【0078】
管状体の作製のため、別途、外径366mm、肉厚6mm、長さ900mmのSUS304製の円筒状部材を用意し、球状アルミナ粒子によるブラスト処理により、表面をRa0.4μmに粗面化した。また、この円筒状部材を保持する保持板として、厚さ8mm、外径が該円筒状部材の開口に嵌まる径であり、且つ100mm径の通風孔が4つ設けられた円板を同じSUS材で作製し、上記円筒状部材の開口部(幅方向両端面)に嵌めて溶接した。円筒状部材の表面には、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布して、300℃で1時間、焼き付け処理を施した。これによって、熱硬化性溶液を塗布する芯体34を作製した。
【0079】
次に、この作製した芯体34上に、上記図2に示す成膜装置40を用いて熱硬化性溶液の塗布を行った。なお、本実施例で調製した熱硬化性溶液は、図2に示す成膜装置の貯留部20内に入れて、温度維持装置32によって 20 ℃で3日間保持した。
【0080】
なお、この成膜装置40は、本実施例で調製した熱硬化性溶液(図2中、20A参照)の入った貯留部20に、モノ−ポンプ24を連結し、ノズル26から毎分20mlの吐出を行い、上記調製した芯体34の一端部から40mmの位置から、他端部から40mmの位置まで行った(塗膜形成工程)。なお、上述のように、熱硬化性溶液20Aとしては、分散後から芯体34に塗布するまでの間(分散終了後から芯体に塗布されるまでの期間)は、この溶液を15℃で3日間保存した。ブレード29としては、厚さ0.2mmのステンレス板を幅20mm、長さ50mmに加工したものを用いた。
【0081】
そして、芯体34を回転方向Aに60rpmで回転させ、吐出された溶液20Aが芯体34に付着した後、その表面にブレード29を押し当て、芯体34の軸方向(図2中、矢印B参照)に210mm/分の速度で移動させた。これにより、塗膜10A表面のらせん筋は消失した。塗膜10Aの終端ではブレード29を50mm後退させて、芯体34表面に直に接触しないようにした。これにより膜厚が500μmの塗膜10Aが形成された(塗膜形成工程)。この厚さは、下記加熱硬化工程を経由した後の管状体10の膜厚80μmに相当する。その後、芯体34を10rpmで回転させながら170℃の乾燥装置に入れ、20分間で乾燥させた。これにより、残留溶剤量が40質量%となり、芯体34の回転をやめて縦にしても垂れることのない状態の塗膜10Aが得られた。その後、芯体34を回転台からおろして垂直(回転軸方向を垂直方向)にして加熱炉に入れ、200℃で30分、300℃で30分加熱反応させ、残る溶剤の乾燥とイミド化反応を同時に行った(加熱硬化工程)。室温(25℃)まで冷えた後、芯体34から加熱硬化した塗膜10A(管状体10)を抜き取った。さらに、この抜き取った、加熱硬化した塗膜10A(管状体10)の中央を切断し、さらに不要部分を両端から切断して、幅360mmの2本の管状体10を得た。管状体10の膜厚をダイヤルゲージで測定すると、80μmであった。
【0082】
同様にして、熱硬化性溶液の調製後から芯体34に塗布するまでの期間を20℃で10日間保存した以外は、上記と同じ条件及び同じ材料で、管状体10を作製した。さらに同様にして、熱硬化性溶液の調製後から芯体34に塗布するまでの期間を20℃で20日間保存した以外は、上記と同じ条件及び同じ材料で、管状体10を作製した。
【0083】
(実施例2)
実施例2では、プラネタリ型撹拌装置以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、3種類の管状体(熱硬化性溶液を20℃で3日間保持したもの、20℃で10日間保持したもの、20℃で20日間保持したもの)を作製した。
用いた撹拌装置(株式会社愛工舎製作所製、容量90L)は、撹拌羽根の撹拌槽の内面と撹拌羽根との最小間隙が12mmであった。また、本装置は、撹拌羽根が回転した軌跡で描かれる形状の外面のうち、撹拌槽の内面と対向する面の面積の3割が、前記撹拌槽の内面との間隙が1mm以上15mm以下であった。
なお、調製した熱硬化性溶液の極限粘度は、17.5ml/gであった。
【0084】
(実施例3)
実施例3では、プラネタリ型撹拌装置による撹拌工程において撹拌羽根の回転速度を自転速度60rpm、公転速度14rpmに設定した以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、3種類の管状体10(熱硬化性溶液を20℃で3日間保持したもの、20℃で10日間保持したものと、20℃で20日間保持したもの)を作製した。
なお、調製した熱硬化性溶液の極限粘度は、19.3ml/gであった。
【0085】
(実施例4)
実施例4では、撹拌時間を1時間とした以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、3種類の管状体10(熱硬化性溶液を20℃で3日間保持したもの、20℃で10日間保持したものと、20℃で20日間保持したもの)を作製した。
なお、調製した熱硬化性溶液の極限粘度は、18.1ml/gであった。
【0086】
(実施例5)
実施例5では、撹拌装置以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、3種類の管状体(熱硬化性溶液を20℃で3日間保持したもの、20℃で10日間保持したもの、20℃で20日間保持したもの)を作製した。
用いた撹拌装置(株式会社愛工舎製作所製、容量90リットル)は、撹拌羽根の撹拌槽の内面と撹拌羽根との最小間隙が6mmであった。また、本装置は、撹拌羽根が回転した軌跡で描かれる形状の外面のうち、撹拌槽の内面と対向する面の面積の1割が、前記撹拌槽の内面との間隙が1mm以上15mm以下であった。
なお、調製した熱硬化性溶液の極限粘度は、33.2ml/gであった。
【0087】
(比較例1)
比較例1では、プラネタリ型撹拌装置以外は、実施例1と同じ条件及び同じ材料で、3種類の管状体(熱硬化性溶液を20℃で3日間保持したもの、20℃で10日間保持したもの、20℃で20日間保持したもの)を作製した。
用いた撹拌装置(株式会社愛工舎製作所製、、容量90リットル)は、撹拌羽根の撹拌槽の内面と撹拌羽根との最小間隙が18mmであった。
なお、調製した熱硬化性溶液の極限粘度は、41.2ml/gであった。
【0088】
<溶液の保持時間の違いによる体積抵抗率の変動評価>
上記実施例及び比較例で作製した管状体について、熱硬化性溶液を3日間保存して作製した管状体の体積抵抗率と、熱硬化性溶液を10日間保存して作製した管状体の体積抵抗率と、熱硬化性溶液を20日間保存して作製した管状体の体積抵抗率、の各々を下記測定方法にて測定し、測定結果を表1に示した。溶液を3日間保存して作成した管状体の体積抵抗率と、熱硬化性溶液を20日間保存して作成した管状体の体積抵抗率の常用対数値の差を求め、体積抵抗率の変動を評価した。評価結果を表1に示した。
なお、評価基準は、以下の通りとした。
【0089】
―体積抵抗率の変動評価―
G1:溶液を3日間保存したときと、20日間保存したときと、作製された管状体の体積抵抗率の常用対数値の差が0.3 未満 である場合。
G2:溶液を3日間保存したときと、20日間保存したときと、作製された管状体の体積抵抗率の常用対数値の差が0.3以上0.8以下である場合。
G3:溶液を3日間保存したときと、20日間保存したときと、作製された管状体の体積抵抗率の常用対数値の差が0.8 より大きい 場合。
【0090】
管状体の体積抵抗率は、下記測定方法にて測定した。
【0091】
なお、体積抵抗率の測定時には、管状体10を幅方向に切り開いて平板状とし、この平板状とされた管状体10を円形電極52と対向電極54との間に挟み、両電極間に電圧を印加することで体積抵抗率を測定した。
【0092】
(体積抵抗率の測定)
管状体の体積抵抗率は、JIS K6911に準じて、図5に示す体積抵抗率測定装置50を用いて、測定した。詳細には、図5に示すように、体積抵抗率測定装置50は、円形電極52と、平板状の対向電極54と、を備えている。円形電極52は、円柱状電極部56と、該円柱状電極部56の外径より大きい内径を有し、且つ円柱状電極部56を一定の間隔をあけて囲む円筒状の円筒状電極部58と、を備えている。対向電極54は、測定対象の管状体10を介して円形電極52に向かい合うように配置される電極である。
【0093】
円形電極52としては、例えば、三菱アナリテック株式会社製ハイレスターUPのUR−100プローブ等が挙げられる。また、対向電極54としては、例えば、SUS304製の平板状の電極が挙げられる。また、電流の測定装置としては、例えば、R8340Aデジタル超高抵抗/微小電流計(株式会社 アドバンテスト社製)が挙げられる。
【0094】
本実施例における体積抵抗率測定装置50は、円形電極52として、二重リング電極構造のUR−100プローブ(三菱アナリテック社製)を用い、対向電極54として、ステンレス(SUS304)製で5mm厚の板状部材(80mm×500mm)を用いた。
【0095】
体積抵抗率の測定時には、円形電極52における円柱状電極部56と、対向電極54と、の間に管状体10を挟み、この円形電極52上に質量2.0kg±0.1kgの重りを載せて管状体10に一様な荷重がかかるようにした。そして、円形電極52に上記デジタル超高抵抗/微小電流計を電気的に接続し、測定条件を、チャージタイムを30sec、ディスチャージタイムを1sec、印加電圧を500Vとした。
【0096】
この時、測定対象の管状体10の体積抵抗率をρv、管状体10の厚さt(μm)、R8340A デジタル超高抵抗/微小電流計の読み値をR、円形電極52の体積抵抗率補正係数をRCF(V)とする。なお、円形電極52として、三菱アナリテック株式会社製ハイレスターUPのUR−100プローブを用いた場合には、ダイアインスツルメンツ社「抵抗率計シリーズ」カタログによれば、RCF(V)=19.635である。このため、管状体10の体積抵抗率は、下記式(1)により算出される。
式(1):ρv[Ω・cm]=R×RCF(V)×(10000/t)=R×19.635×(10000/t)となる。
【0097】
上記測定方法に従って、各実施例及び比較例で調製した、熱硬化性溶液を3日間保持して作製した管状体と、10日管保持して作製した管状体と、20日間保持して作製した管状体と、の各々について、22℃55%RHの条件下において500Vの電圧を印加したときの体積抵抗率を測定し、その測定結果を表1に示すと共に、その体積抵抗率の常用対数値(logΩ/□)の差を表1に示した。
なお、熱硬化性溶液を3日間保持して作製した管状体の体積抵抗率の常用対数値Aと、熱硬化性溶液を20日間保持して作製した管状体の体積抵抗率の常用対数値Bとの差の絶対値(表中、|A−B|と表記)を表1に示す。
【0098】
表1に示されるように、実施例で作製した管状体は、比較例で作製した管状体に比べて、熱硬化性溶液の保持時間の違いによる体積抵抗率の変動が抑制されていた。

【0099】
【表1】

【0100】
上記の結果から、本実施例では、比較例に比べ、熱硬化性溶液の保持時間の差による管状体の体積抵抗率の変動が抑制されていることがわかる。
【符号の説明】
【0101】
20 貯留部、20A 熱硬化性溶液、30 温度調節装置、34 芯体、40 成膜装置、60 撹拌装置、62 撹拌槽、64 撹拌羽根、66 軸芯、68 混合溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を有する導電材を分散した溶液を準備する工程と、
ポリイミド前駆体溶液を準備する工程と、
前記導電材を分散した溶液と前記ポリイミド前駆体溶液を混合し、内部に撹拌羽根が配置された撹拌槽であって、撹拌槽の内面と撹拌羽根との最小間隙が1mm以上15mm以下の撹拌槽を用いて、混合溶液を撹拌する工程と、
を有する熱硬化性溶液の製造方法。
【請求項2】
前記撹拌羽根が回転した軌跡で描かれる形状の外面のうち、前記撹拌槽の内面と対向する面の面積の3割以上が、前記撹拌槽の内面との間隙が1mm以上15mm以下の範囲内にある、請求項1に記載の熱硬化性溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱硬化性溶液の製造方法により製造された熱硬化性溶液を、芯体に塗布し、前記熱硬化性溶液による塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加熱硬化させて管状体とする工程と、
を有する管状体の製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化性溶液の極限粘度が40ml/g以下である、請求項3に記載の管状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−201876(P2012−201876A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70886(P2011−70886)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【特許番号】特許第4900519号(P4900519)
【特許公報発行日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】