説明

熱線遮蔽ポリエステルフィルムおよび熱線遮蔽ポリエステルフィルム積層体

【課題】優れた可視光線透過性を維持すると同時に、高い熱線遮蔽性を発揮でき、且つ紫外線による色調変化を抑制できること。
【解決手段】熱線遮蔽機能を有する微粒子が分散された熱線遮蔽ポリエステルフィルムであって、前記熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式WOで示されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MWOで示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であり、前記微粒子の平均分散粒子径が1nm以上、200nm以下であり、前記微粒子の含有量が0.1wt%以上、10wt%以下であり、前記ポリエステルフィルムの厚さが10μm以上、300μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物または車両の窓などの開口部に利用され、可視光透過性が良好で且つ熱線遮蔽性に優れた熱線遮蔽ポリエステルフィルム、および該熱線遮蔽ポリエステルフィルムを他の透明基材に積層した熱線遮蔽ポリエステルフィルム積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種建築物や車両の窓などのいわゆる開口部は、太陽光線を取り入れるために透明なガラス板や樹脂板で構成されている。しかし、太陽光線には可視光線の他に紫外線や赤外線が含まれ、特に赤外線のうち波長800〜2500nmの近赤外線は熱線と呼ばれ、開口部分から進入することにより室内の温度を上昇させる原因となる。
【0003】
そこで、近年では、各種建築物や車両の窓材などとして、可視光線を十分に取り入れながら熱線を遮蔽して、明るさを維持しつつ同時に室内の温度上昇を抑制する熱線遮蔽材が検討され、そのための各種手段が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、透明樹脂フィルムに金属を蒸着してなる熱線反射フィルムを、ガラス板、アクリル板、ポリカーボネート板などの透明基材に接着した熱線遮蔽板が提案されている。また、透明基材表面に金属や金属酸化物を直接蒸着して熱線遮蔽膜を施した熱線遮蔽板も数多く提案されている。
【0005】
熱線遮蔽の手段として、上述の透明基材上に熱線反射フィルムや熱線遮蔽膜を施す方法以外にも、例えば特許文献2や特許文献3に記載のように、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などの透明な樹脂に、熱線反射粒子として酸化チタンで被覆したマイカを練り込で形成した熱線遮蔽板が提案されている。
【0006】
一方、本出願人は、特許文献4において、熱線遮蔽効果を有する成分として自由電子を多量に保有する六ホウ化物微粒子に着目し、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂中に、六ホウ化物微粒子が分散され、若しくは六ホウ化物微粒子とITO微粒子及び/又はATO微粒子が分散されている熱線遮蔽樹脂シート材を既に提案している。
【0007】
六ホウ化物微粒子単独、若しくは六ホウ化物微粒子とITO微粒子および/またはATO微粒子が適用された熱線遮蔽樹脂シート材の光学特性は、可視光領域に可視光透過率の極大を有すると共に、近赤外線領域に強い吸収を発現して日射透過率の極小を有することから、可視光透過率が70%以上で日射透過率が50%台まで改善されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−277437号公報
【特許文献2】特開平5−78544号公報
【特許文献3】特開平2−173060号公報
【特許文献4】特開2003−327717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1に記載されている、透明基板に熱線反射フィルムを接着した熱線遮蔽板は、熱線反射フィルム自体が非常に高価であるばかりでなく、接着工程等の煩雑な工程を要するため、非常に高コストになる欠点があった。また、透明基材と熱線反射フィ
ルムの接着性が良くないので、経時変化により熱線反射フィルムが剥離するといった問題を有していた。
【0010】
また、透明基材に熱線遮蔽膜を蒸着して施した熱線遮蔽板では、高真空や精度の高い雰囲気制御が必要な蒸着装置を使用しなければならないため、量産性が悪く、汎用性に乏しいうえ、熱線遮蔽板が非常に高価になるという問題があった。
【0011】
特許文献2、3に記載の熱線遮蔽板では、熱線遮蔽性能を高めるために熱線反射粒子を多量に添加する必要がある。しかし、熱線反射粒子の添加量を増大すると、今度は可視光線透過性が低下してしまうという問題があった。逆に、熱線反射粒子の添加量を少なくすると、可視光線透過性は高まるものの熱線遮蔽性が低下するため、熱線遮蔽性と可視光線透過性を同時に満足させることは困難であった。更に、熱線反射粒子を多量に配合すると、基材である透明樹脂の物性、殊に耐衝撃性や靭性が低下するという強度面の欠点も有していた。
【0012】
特許文献4に記載の熱線遮蔽シート材においては、可視光透過率の低い領域では十分な日射遮蔽効果が得られるが、可視光透過率の高い領域では日射透過率が十分とは言えず、未だ改善の余地を残していた。
【0013】
本発明の目的は、上述の事情に鑑みなされたものであり、煩雑な製法や高コストの物理成膜法を用いずに簡便な方法で製造することができ、優れた可視光線透過性を維持すると同時に高い熱線遮蔽性を発揮することができる熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽フィルム積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意研究を継続した結果、熱線遮蔽機能を有する微粒子として、一般式WO(2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または一般式MWO(0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を適用することにより、上記課題が達成されることを見出した。
【0015】
さらに、本発明者等は、上述した熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽フィルム積層体のフィルム材料として、高い透明性と機械特性を併せ持っているとの理由により、自動車、建物の窓用貼り付けフィルム材料としても用いられているポリエステルが適していることにも想到した。
【0016】
すなわち、上述の課題を解決するための第1の構成は、
熱線遮蔽機能を有する微粒子が分散された熱線遮蔽ポリエステルフィルムであって、
前記熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MWO(但し、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記微粒子の平均分散粒子径が1nm以上、200nm以下であり、前記微粒子の含有量が0.1wt%以上、10wt%以下であり、前記ポリエステルフィルムの厚さが10μm以上、300μm以下であることを特徴とする熱線遮蔽ポリエステルフィルムである。
【0017】
第2の構成は、
前記複合タングステン酸化物微粒子に含まれるMが、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuのうちの1種類以上の元素であることを
特徴とする第1の構成に記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルムである。
【0018】
ここで、本発明者らの検討によると、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物や複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた熱線遮蔽ポリエステルフィルムは、長期間にわたって紫外線を受けると、色調が変化し、透過率が低下する可能性があることを見出した。
【0019】
そして、本発明者らが研究を行った結果、上記タングステン酸化物や複合タングステン酸化物微粒子とともに、着色防止剤を含有させる構成に想到した。具体的には、リン系着色防止剤、アミド系着色防止剤、アミン系着色防止剤、ヒンダードアミン系着色防止剤、ヒンダードフェノール系着色防止剤、硫黄系着色防止剤から選ばれる1種類以上の着色防止剤を、ポリエステルフィルム中に含有させ、分散させることで、紫外線による色調変化が抑制された熱線遮蔽ポリエステルフィルムが得られ、上記色調変化が解消されることを見出した。
すなわち、上述の課題を解決するための第3の構成は、
前記ポリエステルフィルム中に、着色防止剤が含有されていることを特徴とする第1または第2の構成に記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルムである。
【0020】
第4の構成は、
前記着色防止剤の含有量が、0.1wt%以上、20wt%以下であることを特徴とする第3の構成に記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルムである。
【0021】
第5の構成は、
前記着色防止剤が、リン系着色防止剤、アミド系着色防止剤、アミン系着色防止剤、ヒンダードアミン系着色防止剤、ヒンダードフェノール系着色防止剤、硫黄系着色防止剤から選ばれる1種類以上の着色防止剤であることを特徴とする第3または第4の構成に記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルムである。
【0022】
第6の構成は、
前記着色防止剤がリン系着色防止剤であって、且つ、ホスホン酸基、リン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン基の内いずれか1種以上の基を含有するものであることを特徴とする第3乃至第5の構成のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルムである。
【0023】
第7の構成は、
第3乃至第6の構成のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルムであって、
当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムの可視光透過率を60%以上70%以下とし、
前記着色防止剤を含有しない他は、当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムと同組成を有する熱線遮蔽ポリエステルフィルムへ、強度が100mW/cmの紫外線を2時間照射した後の可視光透過率の低下率を100%と規格化したとき、
当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムへ、同強度の紫外線を同時間照射した後の可視光透過率の低下率が70%以下であることを特徴とする熱線遮蔽ポリエステルフィルムである。
【0024】
第8の構成は、
第1乃至第7の構成のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルムを、他の透明基材に積層することにより得られることを特徴とする熱線遮蔽ポリエステルフィルム積層体である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱線遮蔽ポリエステルフィルムは、透明なポリエステルフィルム中に熱線遮蔽
機能を有する微粒子を含む熱線遮蔽ポリエステルフィルムであって、前記熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式WO(2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MWO(0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子から構成され、前記酸化物微粒子の直径が1nm以上200nm以下であり、該酸化物微粒子の含有量が、0.1wt%〜10wt%であり、前記ポリエステルフィルムの厚さが、10μm〜300μmである。したがって、優れた可視光線透過性を維持すると同時に、高い熱線遮蔽性を発揮することができる熱線遮蔽ポリエステルフィルム、および該熱線遮蔽ポリエステルフィルムを他の樹脂基材に積層した熱線遮蔽ポリエステルフィルム積層体が得られ、車両用、建築用、航空機用の窓材等に用いられて日射を効率よく遮蔽できるとともに、安価な材料として好適に利用でき有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
1.熱線遮蔽機能を有する微粒子
本実施の形態に適用される熱線遮蔽機能を有する微粒子は、一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または一般式MWO(但し、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子である。上記タングステン酸化物微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子を用いることによって、熱線遮蔽ポリエステルフィルムとして所望の光学特性を得ることができる。
【0027】
上記一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子としては、例えばW1849、W2058、W11などを挙げることができる。xの値が2.45以上であれば、当該赤外線遮蔽材料中に目的外であるWOの結晶相が現れるのを完全に回避することが出来ると共に、材料の化学的安定性を得ることが出来る。一方、xの値が2.999以下であれば、十分な量の自由電子が生成され効率よい赤外線遮蔽材料となるが、2.95以下であれば赤外線遮蔽材料として更に好ましい。
xの範囲が2.45≦x≦2.999であるようなWO化合物は、いわゆるマグネリ相と呼ばれる化合物に含まれる。
【0028】
上記一般式MWO(但し、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子としては、例えばMが、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuのうちの1種類以上の元素を含むような複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。添加元素Mの添加量yは、0.1以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33付近が好ましい。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。
【0029】
また、zの範囲については、2.2≦z≦3.0が好ましい。これは、MWOで表記される複合タングステン酸化物材料においても、上述したWOで表記されるタングステン酸化物材料と同様の機構が働くのに加え、z≦3.0においても、上述した元素Mの添加による自由電子の供給があるためである。尤も、光学特性の観点から、より好ましくは、2.2≦z≦2.99、さらに好ましくは、2.45≦z≦2.99である。
ここで、当該複合タングステン酸化物材料の典型的な例としては、Cs0.33WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WOなどを挙げることができるが、y、zが上記の範囲に収まるものであれば、有用な熱線遮蔽特性を得ることができる。
【0030】
本実施の形態の上記熱線遮蔽機能を発揮する微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Al
の一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性向上の観点から好ましい。
また、所望とする熱線遮蔽ポリエステルフィルムを得るには、前記タングステン酸化物の微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子の粉体色が、国際照明委員会(CIE)が推奨しているL*a*b*表色系(JIS Z 8729)における粉体色に
おいて、L*が25〜80、a*が−10〜10、b*が−15〜15である条件を満たす
ことが望ましい。
【0031】
本実施の形態に係るタングステン酸化物微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料は近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調はブルー系の色調となるものが多い。また、当該赤外線遮蔽材料の粒子径は、その使用目的によって適宜選定することができる。まず、透明性を保持した応用に使用する場合は、200nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。200nmよりも小さい分散粒子径は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0032】
この粒子による散乱の低減を重視するときには、分散粒子径は200nm以下がよい。その理由は、粒子の分散粒子径が小さければ幾何学散乱もしくはミー散乱による波長400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになって、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。
即ち、粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに、分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。
【0033】
熱線遮蔽性能は、熱線遮蔽機能を有する微粒子の含有量とポリエステルフィルムの厚さで決まってくる。つまり、当該熱線遮蔽機能を有する微粒子は、その含有量が0.1重量%あれば、上記フィルムの厚さを、例えば300μmまで厚くすることにより熱線遮蔽特性を確保することが出来る。従って、実用的な熱線遮蔽特性を発揮する含有量としては、0.1重量%以上であることが好ましい。また、この熱線遮蔽機能を有する微粒子の含有量は10重量%以下であればポリエステルフィルムの摩耗強度や耐衝撃性が低下しない。一方、上記フィルムの厚さを薄くした場合、実用的な熱線遮蔽特性を発揮するために、必要な含有量が多くなる。例えば、当該フィルムを10μmまで薄くした場合、必要な含有量が10重量%となる。従って、ポリエステルフィルムの厚さについては、後述の「4.熱線遮蔽ポリエステルフィルムの製造方法、熱線遮蔽ポリエステルフィルム」の項で詳説するが、10〜300μmの範囲にあることが好ましい。
【0034】
2.着色防止剤
タングステン酸化物微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子とともに、リン系着色防止剤、アミド系着色防止剤、アミン系着色防止剤、ヒンダードアミン系着色防止剤、ヒンダードフェノール系着色防止剤、硫黄系着色防止剤から選ばれる1種類以上の着色防止剤を、ポリエステルフィルム中に含有し分散することで、紫外線による色調変化が抑制された熱線遮蔽ポリエステルフィルムが得られる。
【0035】
本実施の形態で用いられる「着色防止剤」とは、連鎖開始阻害機能、連鎖禁止機能、過酸化物分解機能の各機能のうち、いずれか1つ以上の機能を備えている化合物をいう。
ここで、連鎖開始阻害機能とは、有害な過酸化物ラジカルを発生させる触媒となる金属イオンを不活性化し、当該過酸化物ラジカルによる連鎖反応の開始を阻害する機能のことである。
また、連鎖禁止機能とは、発生した過酸化物ラジカルを不活性化させ、過酸化物ラジカルの作用による新たな過酸化物ラジカルの発生という連鎖反応を抑制する機能のことである。
さらに、過酸化物分解機能とは、過酸化物を不活性な化合物に分解し、過酸化物が分解してラジカル化する反応を阻害する機能のことである。
本実施の形態の着色防止剤は、上記タングステン酸化物微粒子、または/および、複合タングステン酸化物微粒子中のタングステン原子を還元する有害な過酸化物ラジカルの発生や増加を、上述の機能により阻害するものである。
【0036】
本実施の形態で使用する着色防止剤の種類について説明する。
本実施の形態において、(a)リン系着色防止剤、(b)アミド系着色防止剤、(c)アミン系着色防止剤、(d)ヒンダードアミン系着色防止剤(e)ヒンダードフェノール系着色防止剤、(f)硫黄系着色防止剤、のいずれの系統の着色防止剤も使用可能である。なかでも、(a)リン系着色防止剤が望ましく、特に、分子内にホスホン酸基、リン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン基の内いずれか1種以上の基を含有するリン系着色防止剤が、紫外線照射時の着色抑制効果が高いため望ましい。
尚、上記着色防止剤は、単独で用いても良いが、2種以上を組み合わせて用いても良い。使用する分散媒体によっては、主に連鎖開始阻害機能を有する着色防止剤と、主に連鎖禁止機能を有する着色防止剤と、主に過酸化物分解機能を有する着色防止剤とを併用することで、高い着色抑制効果を得られる場合がある。
【0037】
本実施の形態の熱線遮蔽ポリエステルフィルム中における当該着色防止剤の最適含有量は、使用する着色防止剤や分散媒体の種類により異なる。しかし、一般に、熱線遮蔽ポリエステルフィルム中に0.01wt%以上、20wt%以下、さらに好ましくは0.1wt%以上、15wt%以下が良い。
熱線遮蔽ポリエステルフィルム中の着色防止剤の含有量が0.01wt%以上であれば、紫外線によって発生したラジカルを十分に補足でき、有害ラジカルが連鎖的に発生するのを抑制するので5価のタングステンの生成を抑制することができ、紫外線による着色を抑制する効果が得られる。一方、分散媒体中における含有量が20wt%以下であれば、たとえ分散媒体としてUV硬化樹脂を用いた場合であっても、上記着色防止剤が樹脂高分子のラジカル重合を殆ど阻害しないため、熱線遮蔽ポリエステルフィルムの透明性や強度を保つことが出来好ましい。尤も、分散媒体として、熱硬化性樹脂、または/および、熱可塑性樹脂を用いる場合は、当該分散媒体中に20wt%以上含有させても良い。
【0038】
各種の着色防止剤について、具体例と一般的な機能について以下説明する。
(a)リン系着色防止剤
着色防止剤の第1の具体例は、リンを含有するリン系着色防止剤である。さらには、リンを含むリン系官能基を備えた化合物が好ましい。
ここで、リン系官能基には、3価のリンを含むものと、5価のリンを含むものとがあるが、本実施の形態における「リン系官能基」はいずれであっても良い。
次の(化1)の式で3価のリンを含むリン系官能基を備えたリン系着色防止剤、(化2)の式で5価のリンを含むリン系官能基を備えたリン系着色防止剤の一般式を示す。
【0039】
【化1】

【0040】
【化2】

【0041】
尚、(化1)の式および(化2)の式において、x、y、zは、0または1の値をとる。また、R、RおよびRは、一般式Cで表される直鎖、環状、もしくは分岐構造のある炭化水素基、または、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、または、水素原子である。さらに、yまたはzが1の場合には、RまたはRは金属原子でもよい。
【0042】
また、本実施の形態において「リン系官能基」とは、(化1)(化2)の式において、Rを除いた部分(すなわち、一般式:−O−P(O)(O)、または、一般式:−O−P(O)(O)(O)で表されるもの)をいう。リン系官能基の例としては、具体的には、ホスホン酸基(−P(O)(OH))、リン酸基(−O−P(O)(OH))、ホスホン酸エステル基(−P(O)(OR)(OR))、リン酸エステル基(−O−P(O)(OR)(OR))、ホスフィン基(−P(R)(R))等が挙げられる。
【0043】
これらのリン系官能基のうち、ホスホン酸基、リン酸基、ホスホン酸エステル基およびリン酸エステル基等の5価のリンを含有する官能基は、主として連鎖開始阻害機能(すなわち、隣接するリン系官能基によって金属イオンをキレート的に捕捉する機能)を有していると考えられている。
一方、ホスフィン基等の3価のリンを含有するリン系官能基は、主として過酸化物分解機能(すなわち、P原子が自ら酸化することによって過酸化物を安定な化合物に分解する機能)を有していると考えられている。
これらのリン系官能基の中でも、ホスホン酸基を備えたホスホン酸系着色防止剤は、金属イオンを効率よく捕捉でき、耐加水分解性などの安定性に優れるので、着色防止剤として特に好適である。
【0044】
低分子型のリン系着色防止剤の好適な例として、具体的には、リン酸(HPO)、トリフェニルフォスファイト((CO)P)、トリオクタデシルフォスファイト((C1827O)P)、トリデシルフォスファイト((C1021O)P)、トリラウリルトリチオフォスファイト([CH(CH11S]P)等が挙げられる。
【0045】
また、高分子型のリン系着色防止剤の好適な例として、具体的には、ポリビニルホスホ
ン酸、ポリスチレンホスホン酸、ビニル系リン酸(例えば、アクリルリン酸エステル(CH=CHCOOPO(OH))、ビニルアルキルリン酸エステル(CH=CHR−O−PO(OH)、Rは、−(CH−)などの重合体)、ホスホン酸基を導入したポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルエーテルケトン樹脂、直鎖型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、直鎖型ポリスチレン樹脂、架橋型ポリスチレン樹脂、直鎖型ポリ(トリフルオロスチレン)樹脂、架橋型(トリフルオロスチレン)樹脂、ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、ポリ(アリルエーテルケトン)樹脂、ポリ(アリレンエーテルスルホン)樹脂、ポリ(フェニルキノサンリン)樹脂、ポリ(ベンジルシラン)樹脂、ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン樹脂、ポリスチレン−グラフト−ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスチレン−グラフト−テトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。
【0046】
さらに、本実施の形態のタングステン酸化物微粒子、または/および、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料に曇りのない優れた透明性を付与し、かつ、タングステン酸化物微粒子、または/および、複合タングステン酸化物微粒子の紫外線による着色を効果的に抑制するために、分散媒体の種類によっては、高分子型のリン系着色防止剤が好ましい場合がある。さらに加えて、当該高分子型のリン系着色防止剤に架橋構造を導入した高分子型のリン系着色防止剤が好ましい場合もある。
【0047】
(b)アミド系着色防止剤
着色防止剤の第2の具体例は、分子内にアミド結合(−CO−NH−)を有する化合物(本実施の形態において「アミド系着色防止剤」という場合がある。)からなる着色防止剤である。アミド系着色防止剤は、主として連鎖開始阻害機能(すなわち、アミド結合のO原子とN原子によって金属イオンがキレート的に捕捉される機能)を有していると考えられる。
【0048】
低分子型のアミド系着色防止剤の好適な例として、N−サリシロイル−N’−アルデヒドヒドラジン(C(OH)−CONHNHCHO)、N−サリシロイル−N’−アセチルヒドラジン(C(OH)−CONHNHCOCH)、N,N’−ジフェニル−オキサミド(C−NHCOCONH−C)、N,N’−ジ(2−ヒドロキシフェニル)オキサミド(C(OH)−NHCOCONH−C(OH))等が挙げられる。
【0049】
また、高分子型のアミド系着色防止剤の好適な例として、上記低分子型のアミド系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記低分子型のアミド系着色防止剤が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、リン系着色防止剤の場合と同様である。
【0050】
(c)アミン系着色防止剤
着色防止剤の第3の具体例は、分子内にベンゼン核と、当該ベンゼン核に結合するアミノ基(−NH)またはイミノ結合(−NH−)を有する化合物(本実施の形態において「アミン系着色防止剤」という場合がある。)からなる着色防止剤である。
当該アミン系着色防止剤は、主として連鎖禁止機能(すなわち、ベンゼン核に結合したアミノ基またはイミノ結合がラジカルを捕捉することで、ラジカルによる連鎖反応を抑制する機能)を有していると考えられている。
【0051】
低分子型のアミン系着色防止剤の好適な例としては、フェニル−β−ナフリルアミン(C−NH−C10)、α−ナフチルアミン(C10NH)、N,N’−
ジ−第2ブチル−p−フェニレンジアミン((CHCNH−C−NHC(CH)、フェノチアジン(CSNHC)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(C−NH−C−NH−C)等が挙げられる。
【0052】
また、高分子型のアミン系着色防止剤の好適な例としては、上記アミン系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記アミン系着色防止剤の構造が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、リン系着色防止剤の場合と同様である。
【0053】
(d)ヒンダードアミン系着色防止剤
着色防止剤の第4の具体例は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン誘導体または1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジン誘導体(本実施の形態において「ヒンダードアミン系着色防止剤」という場合がある。)である。
ヒンダードアミン系着色防止剤は、主として連鎖禁止機能(すなわち、ラジカルを捕捉して、ラジカルによる連鎖反応を抑制する機能)を有していると考えられる。
【0054】
低分子型のヒンダードアミン系着色防止剤の例としては、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクトキシピペリジニル)セバケート、4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−ブチル−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4.5]デカン−2,4−ジオン、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル・トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル・トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ジトリデシル・ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ジトリデシル・ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルオキシカルボニル)ブチルカルボニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルオキシカルボニル)ブチルカルボニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)−エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]ヘネイコサン−21−オン、2,4,6−トリス{N−シクロヘキシル−N−(2−オキソ−3,3,5,5−テトラメチルピペラジノ)エチル}−1,3,5−トリアジン等がある。
【0055】
好ましくは、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクチルオキシ−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−ブチル−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4.5]デカン−2,4−ジオン、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)−エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]ヘネイコサン−21−オン、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル・トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンであり、より好ましくは、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクチルオキシ−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−ブチル−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4.5]デカン−2,4−ジオン、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)−エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]ヘネイコサン−21−オン、トリデシル・トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンがある。
【0056】
また、高分子型のヒンダードアミン系着色防止剤の好適な例としては、上記ヒンダードアミン系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記ヒンダードアミン系着色防止剤の構造が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、リン系着色防止剤の場合と同様である。
【0057】
(e)ヒンダードフェノール系着色防止剤
着色防止剤の第5の具体例は、フェノール性OH基のo−位に第三ブチル基等の大きな基が導入された化合物(本実施の形態において、「ヒンダードフェノール系着色防止剤」という場合がある。)である。ヒンダードフェノール系着色防止剤は、上記ヒンダードアミン系着色防止剤と同様、主として連鎖禁止機能(すなわち、フェノール性OH基がラジカルを捕捉して、ラジカルによる連鎖反応を抑制する機能)を有していると考えられる。
【0058】
低分子型のヒンダードフェノール系着色防止剤の好適な例として、2,6−第三ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−第三ブチル−フェノール、2,4−ジ−メチル−6−第3ブチル−フェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−第三ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−第三ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0059】
また、高分子型のヒンダードフェノール系着色防止剤の好適な例としては、上記ヒンダードフェノール系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記ヒンダードフェノール系着色防止剤の構造が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、リン系着色防止剤の場合と同様である。
【0060】
但し、上記各種の着色防止剤の有害ラジカル補足過程は、未解明な点も多く、上記以外の作用が働いている可能性もあり、上記作用に限定されるわけではない。
【0061】
(f)硫黄系着色防止剤
着色防止剤の第6の具体例は、分子内に2価の硫黄を有する化合物(本実施の形態において「硫黄系着色防止剤」という場合がある。)である。硫黄系着色防止剤は、主として過酸化物分解機能(すなわち、S原子が自ら酸化することによって過酸化物を安定な化合物に分解する機能)を有していると考えられる。
低分子型の硫黄系着色防止剤の好適な例としては、ジラウリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1225)、ジステアリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1837)、ラウリルステアリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1837)(CHCHCOOC1225))、ジミリスチルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1429)、ジステアリルβ、β’−チオジブチレート(S(CH(CH)CHCOOC1839)、2−メルカプトベンゾイミダゾール(CNHNCSH)、ジラウリルサルファイド(S(C1225)等が挙げられる。
【0062】
また、高分子型の硫黄系着色防止剤の好適な例としては、上記硫黄系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記硫黄系着色防止剤の構造が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良いことは、リン系着色防止剤の場合と同様である。
【0063】
3.タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の紫外線による着色機構と、当該着色機構に対する着色防止剤の作用機構
まず、本実施の形態のタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の紫外線による着色機構について説明する。
【0064】
本実施の形態の熱線遮蔽ポリエステルフィルムを構成する樹脂に紫外線が照射された際、当該紫外線のエネルギーによって当該媒体樹脂の高分子鎖が切断され分解する過程の反応において、有害なラジカルであるプロトン、重金属イオン、水素脱離ラジカル、過酸化ラジカル、ヒドロキシラジカル等の二次的な物質が次々に発生する。すると、今度は当該二次的な物質である有害ラジカルが当該媒体樹脂の高分子鎖を切断するので、高分子の劣化と有害ラジカルの発生とが連鎖的に進む。すると、これら連鎖的に発生した有害ラジカルの何れかが、当該タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子中のタングステン原子に還元的に作用し、新たに5価のタングステンを生成する。この5価のタングステンは、濃青色を発色するため、熱線遮蔽ポリエステルフィルム中に当該5価のタングステンが増加するに伴って着色濃度が高くなると推定される。
【0065】
尤も、媒体樹脂中に発生したラジカルが、タングステン酸化物微粒子、複合タングステ
ン酸化物微粒子を着色させるメカニズムに関しては未解明な部分が多い。しかし、一つの仮説として、上述のような機構が推察される。さらに、媒体樹脂の高分子骨格のラジカル化が、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の着色に関与していると推察される。そこで、これらのラジカル生成反応や、ラジカル生成の連鎖反応を抑制することが、当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムの耐久性を向上させることにつながるとの結論に至った。すなわち、タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子を含有する熱線遮蔽ポリエステルフィルム中へ上記着色防止剤を存在させることで、この着色防止剤が紫外線により発生した有害ラジカルを捕捉する。この有害ラジカルの捕捉によって、タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子の着色(新たな5価のタングステンの生成)を防ぎ、当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムの紫外線による色調変化を抑制できることを見出したのである。
【0066】
本実施の形態の熱線遮蔽ポリエステルフィルムは、上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子と着色防止剤とを、媒体樹脂中に分散させる構成とした。当該構成をとることによって、紫外線照射に伴う5価のタングステンの生成が抑制され、着色変化が抑制されることを実現した。この結果、本実施の形態の赤外線遮蔽微粒子分散体へ紫外線を照射した後の、当該赤外線遮蔽微粒子分散体における可視光透過率の低下率を抑制することが可能となった。
【0067】
4.熱線遮蔽ポリエステルフィルムの製造方法、熱線遮蔽ポリエステルフィルム
熱線遮蔽ポリエステルフィルムの製造方法は、上記熱線遮蔽機能を有する微粒子を樹脂中に均一に分散できる方法であれば任意に選択できる。例えば、上記微粒子を樹脂に直接添加し、均一に溶融混合する方法を用いることができる。特に、有機溶剤中に分散剤とともに熱線遮蔽成分の微粒子を分散させた分散液を作製し、この分散液より有機溶剤を除去した粉末原料を作製し、樹脂又は樹脂原料と混合した成形用組成物を用いて熱線遮蔽ポリエステルフィルムを成形する方法が簡単であり好ましい。
【0068】
熱線遮蔽機能を有する樹脂への分散方法は、微粒子を均一に樹脂に分散できる方法であれば特に限定されないが、上述の如く微粒子を分散剤とともに任意の溶剤に分散した分散液より、有機溶剤を除去した粉末原料を用いる方法が好ましい。
具体的には、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用い、上記微粒子を分散剤とともに任意の溶剤に分散して分散液とする。該分散液より減圧乾燥などの方法を用いて溶剤を除去して粉末原料とする。
【0069】
上記分散液に用いる分散溶剤としては、特に限定されるものではなく、微粒子の分散性、分散剤の溶解性などに合わせて選択可能であり、一般的な有機溶剤が使用可能である。また、必要に応じて酸やアルカリを添加してpHを調整しても良い。
【0070】
上記粉末原料を用いて熱線遮蔽ポリエステルフィルムを製造するには、一般的には、該粉末原料をポリエステル樹脂に添加し、リボンブレンダーで混合し、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサーなどの混合機、及びバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、一軸押出機、二軸押出機などの混練機で均一に溶融混合する方法を用いて、ポリエステル樹脂中に微粒子が均一に分散した混合物を調製する。
【0071】
本実施の形態の熱線遮蔽ポリエステルフィルムは、上記のごとくポリエステル樹脂に微粒子を均一に分散させた混合物を、カレンダー加工法などの公知の成形方法によって作製することができる。また、樹脂に微粒子を均一に分散した混合物を造粒装置により一旦ペレット化した後、同様の方法で熱線遮蔽ポリエステルフィルムを作製することもできる。
【0072】
熱線遮蔽ポリエステルフィルムの少なくとも一つのフィルム表面に、紫外線吸収剤を含む樹脂被膜を形成しても良い。例えば、上記熱線遮蔽樹脂シート材上に、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系の有機紫外線吸収剤、或いは酸化亜鉛、酸化セリウムなどの無機紫外線吸収剤を各種バインダーに溶解させた塗布液を塗布し、硬化させて紫外線吸収膜を形成することができる。この紫外線吸収膜の形成により、熱線遮蔽ポリエステルフィルムの耐侯性を向上させることが可能であり、当熱線遮蔽ポリエステルフィルムに紫外線遮蔽効果も持たせることもできる。
【0073】
本実施の形態で使用されるポリエステル樹脂としては、たとえば酸性分として、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカジオン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸を用い、アルコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの芳香族グリコールを用いたものである。これらのポリエステル系樹脂は、単独で用いてもよく、他の成分と共重合したものであってもよい。具体的には、コスト、特性からみて、ポリエチレンテレフタレート、あるいはポリエチレン−2,6−ナフタレートが好適である。
【0074】
このポリエステル樹脂には、必要に応じて各種添加物を添加してもよい。添加物としては、各種無機、有機粒子を用いることができ、その粒子形状も、真球状粒子、凝集状粒子、燐片状粒子、数珠状粒子など各種形状のものを使用できる。有機粒子として、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂、フッ素樹脂、イミド樹脂などの熱可塑性樹脂から成るものも使用できる。
【0075】
さらに、ポリエステルフィルムは、全ヘイズ(但し、フィルム厚:25μm換算)が2.5%以下であることが好ましい。ヘイズが2.5%以下であれば、窓貼り用途や各種機器のカバー用途などに使用するに足る透明性を確保できる。
【0076】
また、ポリエステルフィルムの厚さは10〜300μmの範囲にあることが好ましい。10μm以上のフィルムであれば、十分な耐候性能を得ることができ、300μmより薄いフィルムであれば、加工性、ハンドリング性に優れ、窓貼り用途や各種機器のカバー用途などに使用するのに好適である。
【0077】
また、本実施の形態においては、ポリエステルフィルム表面上に、水溶性または水分散性樹脂からなる易接着層を更に設けることもできる。
水溶性または水分散性樹脂層としては、特に限定されたものではない。たとえば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ビニル系樹脂、塩素系樹脂、スチレン系樹脂、各種グラフト系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂などを使用することができ、これらの樹脂の混合物を使用することもできる。
【0078】
このように、熱線遮蔽成分として近赤外線領域に強い吸収を持つタングステン酸化物微粒子及び/または複合タングステン酸化物を、上記ポリエステル樹脂に均一に分散させ、フィルム状に形成することで、高コストの物理成膜法や複雑な接着工程を用いずに、熱線遮蔽機能を有し、且つ可視光領域に高い透過性能を有し、更に紫外線による色調変化を抑制できる熱線遮蔽ポリエステルフィルムを提供することが可能である。
【0079】
上述のいずれかの熱線遮蔽ポリエステルフィルムを、用途に合わせて他の透明基材に積層することにより熱線遮蔽ポリエステルフィルム積層体とすることも好ましい構成である。熱線遮蔽ポリエステルフィルムを熱線遮蔽ポリエステルフィルム積層体とすることで、
多様な力学的特性を示す積層体を得ることができると伴に、当該積層体の全部または一部に熱線遮蔽ポリエステルフィルムを用いることで、所望の光学的特性を有する積層体を得ることができる。
【0080】
5.熱線遮蔽ポリエステルフィルムの特性評価
本実施の形態の熱線遮蔽ポリエステルフィルムにおいて、紫外線照射による着色変化の抑制効果の評価方法について説明する。
(1)本実施の形態の着色防止剤を含有しない熱線遮蔽ポリエステルフィルムを調製する。そして、当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムへ所定量の紫外線を照射し、当該紫外線照射による色調変化に起因する可視光透過率の低下量を測定する。
(2)本実施の形態の着色防止剤を含有する以外は、前記(1)と同様の熱線遮蔽ポリエステルフィルムを調製する。そして、当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムへ所定量の紫外線を照射し、当該照射による色調変化に起因する可視光透過率の低下量を測定する。
(3)前記(1)で得られた可視光透過率の低下量を100%と規格化したときの(2)で得られた可視光透過率の低下量を算定し、当該算定値から、本実施の形態の着色防止剤を含有する熱線遮蔽ポリエステルフィルムの耐紫外線変色抑制能を評価する。
【0081】
例えば、本実施の形態の着色防止剤を含有しない熱線遮蔽ポリエステルフィルムにおいて、紫外線照射前の可視光透過率が70%、紫外線照射後の可視光透過率が50%であり、本実施の形態の着色防止剤を含有する熱線遮蔽ポリエステルフィルムにおいて、紫外線照射後の可視光透過率が68%であったとする。
この場合、本実施の形態の着色防止剤を含有しない熱線遮蔽ポリエステルフィルムにおける可視光透過率の変化量△は、70%−50%=20%である。一方、本実施の形態の着色防止剤を含有する熱線遮蔽ポリエステルフィルムにおける可視光透過率の変化量△は70%−68%=2%である。
従って、本実施の形態の着色防止剤を含有しない熱線遮蔽ポリエステルフィルムの可視光透過率の変化量△を100%と規格化したとき、本実施の形態の着色防止剤を含有する熱線遮蔽ポリエステルフィルムの可視光透過率の変化量△は10%と算定される。
但し、上記所定量の紫外線とは、岩崎電気社製アイスーパーUVテスター(SUV−W131)を使用して、100mW/cmの強度で紫外線を2時間連続照射したものである(このとき、ブラックパネル温度は60℃とした。)。
【0082】
当該算定方法によれば、本実施の形態の熱線遮蔽ポリエステルフィルム中の着色防止剤の耐紫外線変色抑制能を客観的に評価することが出来る。
さらに、本発明者らの検討によれば、本実施の形態の着色防止剤を含有する熱線遮蔽ポリエステルフィルムの可視光透過率の変化量△が70%以下であれば、本実施の形態の着色防止剤の耐紫外線変色抑制能を十分に確認することが出来、実用上も太陽光線等に含まれる紫外線に起因する着色変化が抑制されている。
【実施例】
【0083】
以下に、本発明の実施例を、表1を参照しながら比較例とともに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、各実施例において、タングステン酸化物の微粒子や複合タングステン酸化物微粒子の粉体色(10°視野、光源D65)、および熱線遮蔽樹脂シート材の可視光透過率並びに日射透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。上記日射透過率は熱線遮蔽性能を示す指標である。また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製HR−200を用い、JIS K 7105に基づいて測定した。
【0084】
[実施例1]
WO50gを入れた石英ボートを石英管状炉にセットし、Nガスをキャリアー
とした5%Hガスを供給しながら加熱し、600℃の温度で1時間の還元処理を行った後、Nガス雰囲気下800℃で30分焼成して微粒子aを得た。この微粒子aの粉体色は、Lが36.9288、aが1.2573、bが−9.1526であり、粉末X線回折による結晶相の同定の結果、W1849の結晶相が観察された。
次に、該微粒子a5重量%、高分子系分散剤5重量%、メチルイソブチルケトン90重量%を秤量し、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーで6時間粉砕・
分散処理することによってタングステン酸化物微粒子分散液(A液)調製した。ここで、分散液(A液)内におけるタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子(株)粒度分布計ELS−800で測定したところ、86nmであった。
次に、得られた分散液(A液)を減圧蒸留により、メチルイソブチルケトンを除去し、粉末原料(A粉)を得た。粉末原料(A粉)をポリエステル樹脂に微粒子aの含有量が1.2重量%となるように添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混錬した後、Tダイを用いて厚さ50μmに成形し、熱線遮蔽微粒子が全体に均一に分散した実施例1に係る熱線遮蔽ポリエステルフィルム(試料1)を作製した。
得られた熱線遮蔽ポリエステルフィルム中の該酸化物微粒子の分散粒子径は、断面TEM観察の結果、88nmであった。
可視光透過率65.1%のときの日射透過率は47.5%で、ヘイズ値は1.5%であった。
【0085】
【表1】

【0086】
[実施例2]
粉末原料(A粉)をポリエステル樹脂に微粒子aの含有量が0.2重量%となるように添加し、厚さ300μmに成形した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る熱線遮蔽ポリエステルフィルム(試料2)を作製した。
得られた熱線遮蔽ポリエステルフィルム中の該酸化物微粒子の分散粒子径は、断面TEM観察の結果62nmであった。
可視光透過率64.3%のときの日射透過率は47.3%で、ヘイズ値は1.4%であった。
【0087】
[実施例3]
WO50gとCs(OH)17.0g(Cs/W=0.3相当)をメノウ乳鉢で十分混合した粉末を、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給しながら加熱し、600℃の温度で1時間の還元処理を行った後、Nガス雰囲気下で800℃で30分焼成して微粒子b(組成式はCs0.3WO、粉体色のLが35.2745、aが1.4918、bが−5.3118)を得た。
次に、該微粒子b5重量%、高分子系分散剤5重量%、メチルイソブチルケトン90重量%を秤量し、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーで6時間粉砕し
分散処理することによって、複合タングステン酸化物微粒子分散液(B液)調製した。ここで、分散液(B液)内における複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子(株)粒度分布計ELS−800で測定したところ、86nmであった。
次に、得られた分散液(B液)を減圧蒸留により、メチルイソブチルケトンを除去し、粉末原料(B粉)を得た。粉末原料(B粉)をポリエステル樹脂に微粒子bの含有量が1.2重量%となるように添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混錬した後、Tダイを用いて厚さ50μmに成形し、熱線遮蔽微粒子が全体に均一に分散した実施例3に係る熱線遮蔽ポリエステルフィルム(試料3)を作製した。
得られた熱線遮蔽ポリエステルフィルム中の該酸化物微粒子の分散粒子径は、断面TEM観察の結果62nmであった。
可視光透過率77.5%のときの日射透過率は48.3%で、ヘイズ値は1.4%であった。
【0088】
[実施例4]
粉末原料(B粉)をポリエステル樹脂に微粒子bの含有量が6重量%となるように添加し、厚さ10μmに成形した以外は実施例3と同様にして、実施例4に係る熱線遮蔽ポリエステルフィルム(試料4)を作製した。
得られた熱線遮蔽ポリエステルフィルム中の該酸化物微粒子の分散粒子径は、断面TEM観察の結果62nmであった。
可視光透過率77.5%のときの日射透過率は48.3%で、ヘイズ値は1.4%であった。
【0089】
[実施例5]
粉末原料(B粉)をポリエステル樹脂に微粒子bの含有量が0.2重量%となるように添加し、厚さ300μmに成形した以外は実施例3と同様にして、実施例5に係る熱線遮蔽ポリエステルフィルム(試料5)を作製した。
得られた熱線遮蔽樹脂シート材中の該酸化物微粒子の分散粒子径は、断面TEM観察の結果62nmであった。
可視光透過率78.1%のときの日射透過率は48.8%で、ヘイズ値は1.2%であった。
【0090】
[比較例1]
粉末原料(B粉)をポリエステル樹脂に微粒子bの含有量が0.09重量%となるように添加し、厚さ300μmに成形した以外は実施例3と同様にして、比較例1の熱線遮蔽ポリエステルフィルム(試料6)を作製した。可視光透過率87.1%のときの日射透過率は75.1%で、ヘイズ値は1.0%であった。
微粒子bの含有量が0.09重量%と少ないため、日射透過率が高く、実用的な熱線遮蔽特性が発揮されていない。
【0091】
[比較例2]
粉末原料(B粉)をポリエステル樹脂に微粒子bの含有量が10.1重量%となるように添加し、厚さ10μmに成形した以外は実施例3と同様にして、比較例2の熱線遮蔽ポリエステルフィルム(試料7)を作製した。可視光透過率70.1%のときの日射透過率は37.1%で、ヘイズ値は1.0%であった。
微粒子bの含有量が10.1重量%と多いため、熱線遮蔽ポリエステルフィルム表面の摩耗強度が著しく低下し、爪で擦ると簡単に傷がついてしまい、実用的でなかった。
【0092】
[実施例6]
粉末原料(A粉)をポリエステル樹脂に微粒子aの含有量が0.2重量%、リン系着色防止剤であるレゾルシノール−ビス(ジフェニル−ホスフェート)[味の素(株)製、商品名:レオフォスRDP]を0.4重量%となるように添加し、厚さ300μmに成形した以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る熱線遮蔽ポリエステルフィルム(試料8)を作製した。得られた熱線遮蔽ポリエステルフィルム中の該酸化物微粒子の分散粒子径は、断面TEM観察の結果64nmであった。可視光透過率65.4%のときの日射透過率は48.3%で、ヘイズ値は1.5%であった。
この熱線遮蔽ポリエステルフィルムに紫外線を2時間照射した後、光学特性を測定したところ、可視光透過率は64.0%、ヘイズ値は1.5%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は1.4%と小さく、色調変化も少ないことがわかった。また、当該紫外線照射後も、ヘイズ値は変化しておらず、透明性を保持していることがわかった。
一方、実施例1で得られた熱線遮蔽ポリエステルフィルムについて同様に紫外線を2時間照射し、可視光透過率の変化量△を算定したところ6.8%となり、着色防止剤を添加することで十分な耐紫外線変色抑制能を有していることが判明した。
尚、2時間の紫外線照射は、岩崎電気社製アイスーパーUVテスター(SUV−W131)を使用し、100mW/cmの強度で連続照射した(このとき、ブラックパネル温度は60℃とした)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱線遮蔽機能を有する微粒子が分散された熱線遮蔽ポリエステルフィルムであって、
前記熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MWO(但し、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記微粒子の平均分散粒子径が1nm以上、200nm以下であり、前記微粒子の含有量が0.1wt%以上、10wt%以下であり、前記ポリエステルフィルムの厚さが10μm以上、300μm以下であることを特徴とする熱線遮蔽ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記複合タングステン酸化物微粒子に含まれるMが、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuのうちの1種類以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルム中に、着色防止剤が含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記着色防止剤の含有量が、0.1wt%以上、20wt%以下であることを特徴とする請求項3に記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記着色防止剤が、リン系着色防止剤、アミド系着色防止剤、アミン系着色防止剤、ヒンダードアミン系着色防止剤、ヒンダードフェノール系着色防止剤、硫黄系着色防止剤から選ばれる1種類以上の着色防止剤であることを特徴とする請求項3または4に記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記着色防止剤がリン系着色防止剤であって、且つ、ホスホン酸基、リン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン基の内いずれか1種以上の基を含有するものであることを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルムであって、
当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムの可視光透過率を60%以上70%以下とし、
前記着色防止剤を含有しない他は、当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムと同組成を有する熱線遮蔽ポリエステルフィルムへ、強度が100mW/cmの紫外線を2時間照射した後の可視光透過率の低下率を100%と規格化したとき、
当該熱線遮蔽ポリエステルフィルムへ、同強度の紫外線を同時間照射した後の可視光透過率の低下率が70%以下であることを特徴とする熱線遮蔽ポリエステルフィルム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリエステルフィルムを、他の透明基材に積層することにより得られることを特徴とする熱線遮蔽ポリエステルフィルム積層体。

【公開番号】特開2008−274054(P2008−274054A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117594(P2007−117594)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】