説明

熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法

【課題】熱間スラブの幅プレス用金型に生ずる熱的損傷を低減することにより、金型の長寿命化を図るとともに、金型表層の欠け落ちによって発生する表面品質トラブルを防止することを可能とする、熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法を提供する。
【解決手段】先行スラブの幅プレス終了後から後行スラブの幅プレス開始までの待機時間tw内において、後行スラブの幅プレス開始直前の金型表層温度に対応する金型表層の降伏応力σに対して、金型を水冷しつつ、水冷中の金型表層で増加する熱応力が前記降伏応力σに到達する以前まで水冷し、その後、金型の水冷を停止して復熱させ、金型表層温度が直前の水冷開始温度Tsに到達する以前まで水冷を停止して、金型表層の熱応力を低減させ、前記待機時間twの間、前記金型表層降伏応力σ到達以前までの水冷と、直前の水冷開始温度Ts到達以前に復熱するまでの水冷停止とを、交互に繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間スラブの幅プレス用金型に生ずる熱的損傷を低減することにより、金型の長寿命化を図るとともに、金型表層の欠け落ちによって発生する熱延鋼板の表面品質トラブルを防止することを可能とする、熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間スラブの幅変更手段として、連続鋳造プロセスにて製造されたスラブを温度が低下しないうちに、あるいは一旦温度が低下した後に加熱炉に投入して所定の温度まで加熱して、該熱間スラブの板幅方向に相対峙して設置された1対の金型にて熱間スラブを板幅方向に間欠的に圧下する幅プレス装置が用いられている。本幅プレス装置では、通常、900〜2000mm程度の幅の熱間スラブに対して最大300〜350mm程度の幅圧下が行われており、連続鋳造にて同一幅に鋳造されたスラブとは異なる幅の鋼板製品の製造を可能としている。これにより、連続鋳造プロセスでの幅変更回数の低減、熱間圧延プロセスでのスケジュールフリー圧延の拡大、コイル単重の増大など、鋼板製造プロセスの生産性向上や合理化に大きく寄与しており、そのメリットは幅プレス装置による幅圧下能力が大きいほど拡大する。
【0003】
しかしながら、幅プレスによる幅圧下量を増大すると、各圧下パスでの金型と材料の接触時間が長くなって金型温度が上昇し、金型表層が軟質化して摩耗が増大したり焼付きが発生するなど、金型表層に大きなダメージが生ずる。このため、従来より幅プレス用金型の水冷が行われているが、冷却水によりスラブが冷やされてしまうことを防止するため、様々な技術が提案されている。たとえば、幅プレスによる圧下中は冷却水量をコントロールして金型を緩冷却し、先行スラブ幅プレス後と後行スラブ幅プレス前までの間の幅プレス待機時間中は金型を強制水冷する技術(特許文献1)の他、幅プレス待機時間中に金型の強冷却を実施するものの、幅圧下中は一切金型冷却を行なわないことが提案されている(特許文献2)。また、幅圧下によるプレスの金型の温度挙動を計算により予測し、スラブ間の待機時間中に金型温度が所定の温度領域まで冷却されるように冷却条件を決定する手法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−5837号公報
【特許文献2】特開平10−180301号公報
【特許文献3】特開2006−82128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記した幅プレスの金型冷却に関する従来技術には、各々以下のような問題点を有していた。
【0006】
特許文献1に開示される技術では、冷却水を絞った緩冷却ではあるものの幅プレスに金型水冷を実施することから、スラブに冷却水が飛散して温度が低下することが不可避であった。この結果、鋼種によってはスラブのエッジコーナー部が急激に温度低下してフェライト相への変態が生じて軟化することから、幅圧下にてスラブエッジに局所的な凸変形が発生し、その後の粗ミルによる水平圧延にてこの凸部が折れ込む結果、熱延後の鋼帯表面にシーム疵と呼ばれる線状欠陥を発生させる原因となっていた。また、特許文献2に開示される技術では、幅プレスによる幅圧下中は金型水冷を一切行わないことから、シーム疵の発生頻度は大幅に低減されるが、先行スラブの幅プレス後と後行スラブの幅プレス前までの間の幅プレス待機時間中の金型圧下面の強制水冷によって発生する熱応力により、金型圧下面の表層にはクラックが発生し金型寿命が短くなるという問題があった。この問題は特許文献3で開示される技術においても、先行スラブの幅プレス後と後行スラブの幅プレス前までの間の幅プレス待機時間中に積極的に金型圧下面の水冷を行う点で同様に問題となっていた。
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決すべく鋭意検討を重ねてなされたものであり、熱間スラブの幅プレス用金型に生ずる熱的損傷を低減することにより、金型の長寿命化を図るとともに、金型表層の欠け落ちによって発生する表面品質トラブルを防止することを可能とする、熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ね、金型圧下面に発生している亀裂などの損傷の発生メカニズムについて鋭意検討し、金型長寿命化のための金型冷却方法を考案した。本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、以下のような特徴を有する。
【0009】
[1]熱間圧延ラインにてスラブを幅方向に圧下する際、先行スラブの幅プレス終了後から後行スラブの幅プレス開始までの待機時間tw内において、
後行スラブの幅プレス開始直前の金型表層温度に対応する金型表層の降伏応力σに対して、
金型を水冷しつつ、水冷中の金型表層で増加する熱応力が前記降伏応力σに到達する以前まで水冷し、
その後、金型の水冷を停止して復熱させ、金型表層温度が直前の水冷開始温度Tsに到達する以前まで水冷を停止して、その間に金型表層の熱応力を低減させ、
前記待機時間twの間、前記金型表層降伏応力σ到達以前までの水冷と、直前の水冷開始温度Ts到達以前に復熱するまでの水冷停止とを、交互に繰り返すことを特徴とする熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法。
【0010】
[2]先行スラブの幅プレス終了後から後行スラブの幅プレス開始までの待機時間tw内において、
金型表層降伏応力σ到達以前までの水冷と、直前の水冷開始温度Ts到達以前に復熱するまでの水冷停止とを、前記待機時間tw未満で交互に繰り返した後、
さらに、後行スラブの幅プレス開始直前までとなる残りの待機時間を水冷することを特徴とする前記[1]に記載の熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法。
【0011】
[3]先行スラブの幅プレス終了後から後行スラブの幅プレス開始までの待機時間tw内において、
先行スラブ幅プレス終了直後から所定時間taを空冷することを特徴とする前記[1]または[2]に記載の熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱間スラブの幅プレス用金型に生ずる熱的損傷を低減することにより、金型の長寿命化を図るとともに、金型表層の欠け落ちによって発生する鋼板表面の品質トラブルを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による金型表層の間欠冷却方法の一例を用いた際の金型表層圧下面(図4のA点)の温度と熱応力の挙動例を示す図である。
【図2】本発明による金型表層の間欠冷却方法の他の例を用いた際の、金型表層圧下面(図4のA点)の温度と熱応力の挙動例を示す図である。
【図3】従来の金型表層の水冷方法を用いた際の金型表層圧下面(図4のA点)の温度と熱応力の挙動例を示す図である。
【図4】幅プレス用金型の損傷例を示す図である。
【図5】幅圧下量が小さい場合の、金型とスラブの接触状態を示す図である。
【図6】幅圧下量が大きい場合の、金型とスラブの接触状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図1〜図4にて説明する。
【0015】
図4は、新品の金型を幅プレス装置に組み入れて通常の運用周期(約1週間)にて数千本のスラブの幅圧下を実施した後、金型交換のために抜き出して圧下面の損傷状況を観察した例である。
【0016】
本金型は、圧延方向上流側に対向し金型間の距離が圧延方向に対して徐々に狭まる方向の傾斜を有する圧下面1と、圧延方向下流側に対向し金型間の距離が圧延方向に対して徐々に広がる方向の傾斜を有する圧下面3、これら傾斜面間に圧延方向に平行な圧下面2を有し、1〜3の各圧下面にはカリバーと呼ばれる台形溝4が付与されている。通常、幅プレスの金型は、図4に示すごとく圧下面1と圧下面2の交点周辺での熱損傷の程度がひどく、場合によっては伝播した亀裂が結合し、金型が部分的に欠け落ちてしまうことがある。このような金型の欠け落ちが発生した場合、欠け落ち部で圧下されたスラブ側面部に局所的な凸部が発生し、この凸部がその後の圧延により倒れこんでラップ状の欠陥となることがある。このような場合、このラップ状の欠陥は幅プレスでのスラブ送りピッチに相当して長手方向に一定ピッチで多数発生することになり、非常に重大な品質トラブルとなる。図5,図6は、幅プレスによる片側幅圧下量ΔWが小さい場合と大きい場合での状況を示す図であり、いずれも圧下下死点での状況を示している。いずれの場合でも、圧下面1と圧下面2の交点付近は高温のスラブ5と接触しており、その部分の金型温度が大きく上昇してしまうことが不可避である。通常、数十本のスラブから構成される1サイクルの間には、幅圧下量の大きい条件と小さい条件が混在しているが、どのような幅圧下量の条件でもスラブ5と接触することになる圧下面1と圧下面2の交点付近が熱的に一番厳しい条件となることから、熱的損傷が激しく欠け落ちが発生しやすい。このようなことから、通常、先行スラブ幅プレス後から後行スラブ幅プレス直前までの待機時間に、金型表層の圧下面の冷却が積極的に行われている。
【0017】
本発明者らは、幅プレス用金型表層の圧下面の熱的損傷を低減するため、金型表層の圧下面のクラック発生メカニズムについて鋭意検討を行った。図3は従来方法により、待機時間に金型表層を積極的に冷却し、図4のA点に相当する位置での温度推移と発生する熱応力(Mises応力)を有限要素法にて解析した例である。温度1200℃、厚み250mm×幅1200mm×長さ10000mmのスラブ全長に対し、材質SKD61の金型にて送りピッチ400mmの条件にて300mmの幅圧下を施し(圧下サイクル毎分50パス)、その後4秒の空冷の後に金型表層の圧下面に水冷[熱伝達係数11630W/(m・℃)]を行った結果である。幅プレス中は、金型がスラブと接触している短時間(0.3秒程度)の間に金型表層の圧下面の温度が急上昇し、スラブと離れる圧下パス間(0.9秒程度)に金型内部との温度差により金型表層の圧下面の温度は低下する。そして、1本のスラブの幅圧下が終了する25パス程度の間に緩やかに数百℃の温度上昇が生じている。また、金型とスラブが接触している短時間の間の金型圧下面での急激な温度上昇により金型表層に大きな熱膨張が生じ、温度の低い金型内部との熱膨張差によって金型表層に大きな熱応力が生じている。この熱応力は、スラブを幅プレスしている間では金型表層の圧下面と金型内部との温度差が急激に大きくなる幅プレス開始直後のパスにて一番大きく、幅プレスの繰り返しにより徐々に金型内部の温度が上昇して金型表層との熱膨張差が縮まり、発生する熱応力は低減する。金型表層の圧下面の急激な温度上昇によって発生する熱応力は圧縮方向であり、金型表層圧下面上のクラック発生の直接的な原因にはなっていないものの、熱疲労の観点からはクラック進展に影響しているものと考えられる。
【0018】
図3に示す従来の金型表層の冷却方法では、先行スラブと後行スラブとの幅プレス待機時間中に、先行スラブを幅プレスして4秒の空冷(ta=4sec)の後に、金型を後行スラブ幅プレス開始直前まで水冷した。
【0019】
その結果、水冷開始後まもなく、後行スラブの幅プレス開始直前の金型表層温度に対応する金型表層の降伏応力σを超える大きな熱応力が発生している。この時の熱応力は、金型表層圧下面温度の急激な低下による熱収縮によるものであり、金型表層に著しく大きな引張応力が発生することからクラックの発生要因となる。
【0020】
後行スラブ幅プレス開始直前の金型表層温度は、幅プレス待機時間中で最も低温または低温に近い値であり、この温度に対応する金型表層の降伏応力σは,待機時間中の金型表層の降伏応力として最も大きな値またはそれに近い値を示す。従って、この降伏応力σ以上となると、金型表層に確実にクラックが発生する。
【0021】
従って、幅プレス中の熱サイクルによる熱疲労の蓄積と、幅プレスの待機時間における水冷中のクラック発生の繰り返しにより、図4に示したように圧下面に無数の深い亀裂が発生し、クラックが大きく且つ深くなると金型表層の欠け落ちにいたる。
【0022】
なお、降伏応力σを採用した理由は、本来クラックは最大引張応力や破断限界応力に至ると発生するが、降伏応力はこれら最大引張応力や破限界応力より小さい値をとるため、この値を限界値とすれば、より安全代を見込んで限界値を設定できるためである。
【0023】
また、「金型降伏応力σに到達する以前」とは金型降伏応力σと等しい場合を含み、「直前の水冷開始温度Tsに到達する以前」とは水冷開始温度Tsと等しい場合を含む。
【0024】
以上より、本発明者らは先行スラブ幅プレス直後から後行スラブ幅プレス直前までの待機時間中の水冷による金型表層の圧下面の急激な温度低下を抑制できれば、金型表層に発生する熱応力を低減できて金型熱損傷の抑制、すなわちクラック防止による長寿命化に大きな効果を有することを知見した。すなわち、金型表層の圧下面を連続的に冷却するのではなく、間欠的に冷却することによって、金型内部との温度差を緩和しながら冷却すれば、金型表層に発生する熱応力を低減できるわけである。
【0025】
なお、上記の間欠冷却は、金型内部との温度差がある水準以下になるまで続ければよく、その後は冷却効率を高めるために従来通りの連続的な冷却を行っても熱応力の大きな増加は抑制可能である。
【0026】
図1は、本発明の請求項1に対応する金型冷却を実施した際の図4のA点位置での金型温度と熱応力をFEM解析で求めた結果である。1本のスラブの幅圧下を終了して数秒間の空冷(時間ta)の後、次スラブの圧下開始までの待機時間twの間に冷却水噴射(水冷)時間ton、冷却水停止(空冷)時間toffの間欠冷却を交互に繰り返した。
【0027】
すなわち、先行スラブの幅圧下終了後、ta時間空冷した後、金型の水冷を開始し、水冷中の金型表層の熱応力が増加するので、当然熱応力が後行スラブ幅プレス開始直前の降伏応力に到達する以前に、水冷を停止する。
【0028】
その後、水冷を停止した金型は、内部が高温であるため表層が復熱し、金型表層温度が増加すると同時に、金型表層の熱応力が低減する。
【0029】
その後、金型表層温度が直前の水冷開始温度Tsを超えて上昇すると、その後に続く水冷時の大きな熱応力の発生につながって良くないため、直前の水冷開始温度Ts以前までに水冷を停止して復熱させるようにした。
【0030】
その後、再び、前記と同様に水冷および水冷停止(復熱)を繰り返した。
【0031】
その結果、後行スラブ幅プレス直前の金型表層に発生した熱応力は、従来例である図3(約1300MPa)に比べて1/2以下であり(約600MPa)、金型表層のクラック発生の危険性を大幅に低減できる。
【0032】
なお、後行スラブ幅プレス直前の金型表層温度およびこれに対応する降伏応力σは、安予め、冷却水噴射(水冷)時間ton、冷却水停止(空冷)時間toffを変更してFEM解析を行い、冷却水噴射後の熱応力が降伏応力σを超えないように冷却水噴射(水冷)時間tonを選択すればよい。
【0033】
すなわち、金型表層温度は(直前の水冷開始温度Ts以前まで水冷を停止させて復熱させるため)冷却水噴射開始前が最も高くなることから、冷却水噴射1回目の熱応力が、降伏応力σを超えないように冷却水噴射(水冷)時間を設定し、その後は、この冷却水噴射(水冷)時間を繰り返すとよい。
【0034】
図2は、本発明の請求項2に対応する金型冷却を実施した際の図4のA点位置での金型温度と熱応力をFEM解析で求めた結果である。1本のスラブの幅圧下を終了して数秒間の空冷(時間ta)の後、冷却水噴射(水冷)時間ton、冷却水停止(空冷)時間toffの間欠冷却を図1に示す条件と同様に交互に繰り返し、その後は連続的に水冷を行った。後行スラブ幅プレス直前の金型表層に発生した熱応力は、従来例である図3(約1300MPa)に比べてほぼ半減(約700MPa)しており、金型表層のクラック発生の危険性を大幅に低減できる。
【0035】
なお、図1、図2の結果では,先行スラブを幅プレスし空冷した後、間欠冷却を行ったが、先行スラブを幅プレスした直後から間欠冷却を行ってもよい。
【0036】
また、冷却水噴射(水冷)時間ton、冷却水停止(空冷)時間toffとも、スラブ温度、スラブ寸法、金型温度、幅圧下量等の各種幅プレス条件に影響されるが、本発明者らの検討では各々1〜2秒程度とすることが好ましい。
【実施例1】
【0037】
以下、本発明について、実施例に基づいて説明する。
【0038】
新品の金型を幅プレス装置に装着し、図3に示す従来の金型冷却方法の例として、すなわちスラブの幅プレス後、先行スラブの幅プレス直後から後行スラブの幅プレス直前までの待機時間tw中に、4秒間空冷した後、金型表層圧下面に連続的な水冷を施す条件にて、スラブの総重量にして約7万トンの幅圧下を実施し、その後、金型を抜き出して圧下面に発生しているクラックを観察した。
【0039】
その結果を示したのが図4であり、圧下面1と圧下面2の交点付近を中心に無数のクラックが発生し、幅10mm程度、高さ20mm程度、深さ10mm程度で略楕円形状の欠け落ちが発生していた。
【0040】
これに対し、別の新品の金型を幅プレス装置に装着し、本発明による冷却方法の例として、すなわち各スラブの幅プレス後、先行スラブの幅プレス直後から後行スラブの幅プレス直前までの待機時間twに、4秒間空冷した後、後行スラブの幅プレス開始直前の金型表層温度に対応する金型降伏応力σに到達する以前となる2秒間金型表層圧下面に冷却水を噴射した後、金型表層温度が直前の水冷開始温度Tsに到達する以前となる2秒間水冷を停止し、これらを交互に繰り返して間欠的な水冷を行う場合(図1に相当)と、先行スラブの幅プレス直後から後行スラブの幅プレス直前までの待機時間twに、4秒間空冷した後、後行スラブの幅プレス開始直前の金型表層温度に対応する金型降伏応力σに到達する以前となる2秒間金型表層圧下面に冷却水を噴射し、金型表層温度が直前の水冷開始温度Tsに到達する以前となる2秒間水冷を停止し、これらを交互に繰り返して間欠的な水冷を行い、続いて、後行材の幅プレス開始直前まで連続的な水冷を施す場合(図2に相当)の2条件にて、スラブの総重量にして約7万トンの幅プレスを実施し、金型を抜き出して圧下面に発生しているクラックを観察した。
【0041】
その結果、本発明による金型表層の間欠冷却を実施したいずれの場合も、従来例の水冷に比べて金型表層のクラックの発生はわずかであって、かつ、金型の欠け落ち部も一切認められなかった。これにより、本発明による金型冷却方法を適用した幅プレスの金型の交換周期は従来の冷却方法を適用した場合のほぼ2倍と、著しく良好であった。
【符号の説明】
【0042】
1 金型上流側の傾斜圧下面
2 金型平行圧下面
3 金型下流側の傾斜圧下面
4 カリバー
5 スラブ
A 温度と熱応力の計算位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延ラインにてスラブを幅方向に圧下する際、先行スラブの幅プレス終了後から後行スラブの幅プレス開始までの待機時間tw内において、
後行スラブの幅プレス開始直前の金型表層温度に対応する金型表層の降伏応力σに対して、
金型を水冷しつつ、水冷中の金型表層で増加する熱応力が前記降伏応力σに到達する以前まで水冷し、
その後、金型の水冷を停止して復熱させ、金型表層温度が直前の水冷開始温度Tsに到達する以前まで水冷を停止して、その間に金型表層の熱応力を低減させ、
前記待機時間twの間、前記金型表層降伏応力σ到達以前までの水冷と、直前の水冷開始温度Ts到達以前に復熱するまでの水冷停止とを、交互に繰り返すことを特徴とする熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法。
【請求項2】
先行スラブの幅プレス終了後から後行スラブの幅プレス開始までの待機時間tw内において、
金型表層降伏応力σ到達以前までの水冷と、直前の水冷開始温度Ts到達以前に復熱するまでの水冷停止とを、前記待機時間tw未満で交互に繰り返した後、
さらに、後行スラブの幅プレス開始直前までとなる残りの待機時間を水冷することを特徴とする請求項1に記載の熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法。
【請求項3】
先行スラブの幅プレス終了後から後行スラブの幅プレス開始までの待機時間tw内において、
先行スラブ幅プレス終了直後から所定時間taを空冷することを特徴とする請求項1または2に記載の熱間スラブの幅プレス用金型の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−78789(P2013−78789A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220961(P2011−220961)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】