説明

熱電変換素子およびその製造方法

【課題】毒性などの問題がなく、面積当たりの発電量を大きくとることが可能で、かつ、絶縁材料を介してp型金属熱電変換材料とn型酸化物熱電変換材料とが接合された積層体を一体焼成することが可能な生産性に優れた熱電変換素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】p型金属熱電変換材料21と、n型酸化物熱電変換材料22の、互いに対向する一対の面全体が絶縁材料23を介して接合され、かつ、隣り合うp型金属熱電変換材料とn型酸化物熱電変換材料とが、端部に配設された電極材料により接合されてpn接合対20が形成されているとともに、複数のpn接合対が直列接続となるように構成された熱電変換素子30において、p型金属熱電変換材料に、n型酸化物熱電変換材料を含ませる。
p型金属熱電変換材料に含まれるn型酸化物熱電材料の割合を5〜50重量%の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とが、絶縁材料を介して接合され、かつ、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料が、その端部に配設された電極材料によりpn接合された構造を有する熱電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱を直接電気に変換することが可能な熱電変換素子が、有効な廃熱利用技術の一つとして着目されている。
【0003】
このような熱電変換素子としては、例えば、図3に示すように、断熱・絶縁材1でn型熱電半導体3とp型熱電半導体2を挟み込んで、p型熱電半導体2、断熱・絶縁材1、n型熱電半導体3、断熱・絶縁材1の順で、周期的に繰り返す積層構造体を形成するとともに、積層構造体の端部に、p型熱電半導体2とn型熱電半導体3を電気的に直列接続するとともに、外部との接続の機能を果たす接続電極4を設けた熱電素子5が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
そして、この特許文献1の実施例の欄には、p型熱電半導体2、n型熱電半導体3として、Bi、Te、SeおよびSb元素から少なくとも2種類以上の元素を含有する熱電半導体を用いることが記載されている。また、断熱・絶縁材1として、Al、C、Si、NおよびO元素から少なくとも2種以上の元素を含む材料を用いることが記載されている。そして、これらの材料を矩形状のシートとし、各シートを所定の順序で積層した後に、一体焼成することにより積層構造体を作製することが記載されている。
【0005】
また、従来の他の熱電変換素子として、図4に示すように、p型酸化物熱電変換材料11とn型酸化物熱電変換材料12との接合面の一部の領域においては、p型酸化物熱電変換材料11とn型酸化物熱電変換材料12とが直接接合し、接合面の他の領域では、p型酸化物熱電変換材料11とn型酸化物熱電変換材料12とが、絶縁材料13を介して接合した構造を有するとともに、電力取り出し用の第1および第2の電極14a,14bを備えた熱電変換素子20が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
この特許文献2の熱電変換素子においては、p型酸化物熱電変換材料11として、層状ペロブスカイト構造である組成式:A2BO4(ただし、Aは少なくともLaを含み、Bは少なくともCuを含む1種または複数種の元素)で表される物質を主成分とし、n型酸化物熱電変換材料12としては、層状ペロブスカイト構造である組成式:D2EO4(ただし、DはPr、Nd、Sm、Gdの少なくとも1種を含み、Eは少なくともCuを含む1種または複数種の元素)で表される物質を主成分とする材料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−121815号公報
【特許文献2】国際公開第2009/001691号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述の特許文献1の熱電変換素子の場合、n型熱電変換材料およびp型熱電変換材料が、断熱・絶縁材を介して接合しているので、機械的強度が高く、面積当たりの発電量も大きくなるが、n型熱電変換材料としてBiやTe、Seなどの重金属からなる化合物半導体を用いているので、耐熱性や耐酸化性に乏しく、毒性や環境負荷の面で問題があるのが実情である。
【0009】
また、上述の特許文献2の熱電変換素子の場合、p型熱電変換材料として、例えば、(LaSr)CuO4、n型熱電変換材料として、例えば、(PrCe)CuO4が用いられており、これらの材料は、酸化物材料であることから、耐熱性や耐酸化性に優れているが、その出力因子は必ずしも十分でなく、さらに高い起電力を得ることが可能な熱電変換材料、および熱電変換素子が求められている。また、特許文献2の熱電変換素子の場合、特許文献1の熱電変換素子の構造と比較すると、pn材料が直接接合した部分の温度差は、起電力に寄与せず、その分だけ起電力が低下するため、効率に問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、毒性などの問題がなく、かつ、面積当たりの発電量を大きくとることが可能で、しかも生産性に優れた熱電変換素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の熱電変換素子は、
金属を主成分とするp型金属熱電変換材料と、酸化物を主成分とするn型酸化物熱電変換材料の、互いに対向する一対の面全体が絶縁材料を介して接合されることにより積層体が形成されており、かつ、隣り合う前記p型金属熱電変換材料と前記n型酸化物熱電変換材料とが、前記積層体の積層方向に沿う端面に配設された電極材料により接合されて複数のpn接合対が形成されているとともに、前記pn接合対が直列接続となるように構成された熱電変換素子であって、
前記p型金属熱電変換材料が、前記n型酸化物熱電変換材料を構成する酸化物を含むものであること
を特徴としている。
【0012】
また、本発明の熱電変換素子においては、前記p型金属熱電変換材料に含まれる前記n型酸化物熱電変換材料を構成する酸化物の割合が、5〜50重量%であることが好ましい。
【0013】
また、前記n型酸化物熱電変換材料を構成する酸化物が、組成式ABO3で示されるペロブスカイト型酸化物であり、Aとして少なくともSrを含み、Bとして少なくともTiを含むものであることが好ましい。
【0014】
また、前記p型金属熱電変換材料および前記n型酸化物熱電変換材料と、前記絶縁材料の熱機械分析における収縮開始温度の差がそれぞれ50℃以内であることが好ましい。
【0015】
また、前記p型金属熱電変換材料、前記n型酸化物熱電変換材料、および前記絶縁材料が一体に共焼成されたものであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の熱電変換素子の製造方法は、
金属を主成分とするp型金属熱電変換材料と、酸化物を主成分とするn型酸化物熱電変換材料の、互いに対向する一対の面全体が絶縁材料を介して接合されることにより積層体が形成されており、かつ、隣り合う前記p型金属熱電変換材料と前記n型酸化物熱電変換材料とが、前記積層体の積層方向に沿う端面に配設された電極材料により接合されて複数のpn接合対が形成されているとともに、前記pn接合対が直列接続となるように構成された熱電変換素子の製造方法であって、
焼成後に、請求項1〜5のいずれかに記載されたp型金属熱電変換材料となるp型金属熱電変換材料シートを形成する工程と、
焼成後に、請求項1〜5のいずれかに記載されたn型酸化物熱電変換材料となるn型酸化物熱電変換材料シートを形成する工程と、
前記p型金属熱電変換材料シートと、前記n型酸化物熱電変換材料シートとを積層した場合に互いに対向する一対の面の、少なくとも一方の全面に絶縁体ペーストを付与して絶縁体ペースト層を形成する工程と、
前記p型金属熱電変換材料シートと、前記n型酸化物熱電変換材料シートとを、前記一対の面の間に前記絶縁体ペースト層が介在するような態様で積層して積層体を形成する工程と、
前記p型金属熱電変換材料シートと、前記n型酸化物熱電変換材料シートと、前記絶縁体ペースト層とを備えた積層体を一体に焼成する工程と
を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱電変換素子は、p型金属熱電変換材料と、n型酸化物熱電変換材料の互いに対向する一対の面全体が絶縁材料を介して接合されることにより積層体が形成されており、隣り合うp型金属熱電変換材料とn型酸化物熱電変換材料とが、積層体の積層方向に沿う端面に配設された電極材料により接合されて複数のpn接合対が形成されているとともに、pn接合対が直列接続となるように構成された熱電変換素子において、p型金属熱電変換材料として、n型酸化物熱電変換材料を構成する酸化物を含むものを用いるようにしているので、焼成時の収縮挙動を、通常は酸化物である絶縁材料に近づけることが可能になるとともに、絶縁材料との親和性を向上させることが可能になるため、歪みや内部応力が少なく、層間接合強度の大きい、信頼性の高い熱電変換素子を得ることが可能になる。
【0018】
また、本発明の熱電変換素子において、p型金属熱電変換材料に含まれるn型酸化物熱電材料を構成する酸化物の割合を5〜50重量%とすることにより、絶縁材料との物理的な接合が十分に確保され、上述の特許文献2の構造の熱電素子よりも、さらに高い起電力を得ることが可能になる。
【0019】
また、n型酸化物熱電変換材料を構成する酸化物が、組成式ABO3で示されるペロブスカイト型酸化物であり、Aとして少なくともSrを含み、Bとして少なくともTiを含むものを用いることにより、熱電変換効率を確保しつつ、p型金属熱電変換材料とn型酸化物熱電変換材料とを絶縁材料を介して確実に接合させることが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0020】
また、p型金属熱電変換材料およびn型酸化物熱電変換材料と、絶縁材料の熱機械分析における収縮開始温度の差を50℃以内とすることにより、各材料間の親和性を向上させ、加圧焼成のような特別な焼成方法を使用せずに、p型金属熱電変換材料、n型酸化物熱電変換材料、および絶縁材料の積層体を共焼成することが可能になり、生産性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明によれば、p型金属熱電変換材料と、n型酸化物熱電変換材料と、絶縁材料とが一体に共焼結された、信頼性が高く、生産性に優れた熱電変換素子を提供することができる。
【0022】
また、本発明の熱電変換素子の製造方法は、焼成後に、本発明の熱電変換素子におけるp型金属熱電変換材料となるp型金属熱電変換材料シートと、n型酸化物熱電変換材料となるn型酸化物熱電変換材料シートとを用意し、p型金属熱電変換材料シートとn型酸化物熱電変換材料シートとを積層した場合に互いに対向する一対の面の、少なくとも一方の全面に絶縁体ペーストを付与して絶縁体ペースト層を形成し、p型金属熱電変換材料シートと、n型酸化物熱電変換材料シートとを、上記一対の面の間に前記絶縁体ペースト層が介在するような態様で積層して積層体を形成し、この積層体を一体に焼成して、p型金属熱電変換材料とn型酸化物熱電変換材料と絶縁材料とを共焼結させるようにしているので、上述の本発明の熱電変換素子を効率よくしかも確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例にかかる熱電変換素子の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例にかかる熱電変換素子との比較のために作製した熱電変換素子(比較例)の構成を示す図である。
【図3】従来の熱電変換素子を示す図である。
【図4】従来の他の熱電変換素子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0025】
[1]n型酸化物熱電変換材料、p型金属熱電変換材料、および絶縁材料の作製
本発明の実施例にかかる熱電変換素子を作製するため、まず、以下の、n型酸化物熱電変換材料、p型金属熱電変換材料、および絶縁材料を作製した。
【0026】
(1)n型酸化物熱電変換材料
まず、n型酸化物熱電変換材料の出発原料として、La23粉末、SrCO3粉末、TiO2粉末を準備した。
【0027】
それから、表1に示す組成となるようにLa23粉末、SrCO3粉末、およびTiO2粉末を秤量した。
【0028】
秤量した粉末(出発原料粉末)を、純水(溶媒)、PSZメディアとともにボールミルに投入して、16時間ボールミル粉砕を行い、スラリー化した。
そして、得られたスラリーを乾燥させた後、大気中、1300℃で仮焼することにより、酸化物(仮焼粉末)、すなわち、本発明の熱電変換素子におけるn型酸化物熱電変換材料となる酸化物を得た。
【0029】
得られたn型酸化物熱電変換材料(仮焼粉末)を、5時間ボールミル粉砕を行い、得られた粉末にエタノール、バインダなどを添加してさらに16時間混合した。そして、得られたスラリーをドクターブレード法によりシート化し、焼成後の厚みが500μmとなるようなn型酸化物熱電変換材料シートを作製した。
【0030】
(2)p型金属熱電変換材料
次に、p型金属熱電変換材料の出発原料として、金属Ni粉末、金属Mo粉末を準備した。
【0031】
そして、表1に示すように、NiとMoのモル比(Ni:Mo)=9:1となるように、金属Ni粉末、金属Mo粉末を秤量し、さらに、上述のようにして作製したn型酸化物熱電変換材料(仮焼粉末)を、表1の組成となるように秤量した。そして、上記(1)でn型酸化物熱電変換材料を製造した場合と同様に、5時間ボールミル粉砕を行い、得られた粉末にエタノール、バインダなどを添加してさらに16時間混合した。
【0032】
それから、得られたスラリードをドクターブレード法によりシート化し、焼成後の厚みが500μmの厚みとなるようなp型金属熱電変換材料シートを作製した。
【0033】
なお、この実施例では、表1のp型金属熱電変換材料の欄の式:
Ni0.9Mo0.1(100-X) wt%+(Sr0.965La0.035)TiO3X wt%
におけるXの値を0,5,10,20,50と変化させて、組成の異なる5種類のp型金属熱電変換材料(シート)を作製した。
なお、Xの値が0のp型金属熱電変換材料(シート)は酸化物を含まない、本発明の要件を満たさないものである。
【0034】
【表1】

【0035】
(3)絶縁材料の形成に用いる絶縁体ペーストの作製
次に、絶縁体(複合酸化物絶縁材料)を形成するための材料として、Zr0.970.032粉末、ワニス、および溶剤を混合し、ロール機で混錬して絶縁体ペーストを作製した。
【0036】
[2]収縮開始温度の測定
上記のようにして作製したn型酸化物熱電変換材料シートを積層し、圧着した後、これを切り出すことにより、5mm×15mm×0.5mmの大きさのn型酸化物熱電変換材料成型体を収縮開始温度の測定用試料として作製した。
【0037】
また、上記のようにして作製した各p型金属熱電変換材料シートを積層し、圧着した後、これを切り出すことにより、5mm×15mm×0.5mmの大きさのp型金属熱電変換材料成型体を収縮開始温度の測定用試料として作製した。
【0038】
さらに、絶縁ペーストをポリエチレンテレフタラート(PET)フイルム上に印刷と乾燥を繰り返して、厚み0.5mmの塗膜を作製し、これを切り出すことにより、5mm×15mm×0.5mmの大きさの絶縁体材料成型体を収縮開始温度の測定用試料として作製した。
【0039】
それから、上述のようにして作製した各成型体を、大気中370℃で十分脱脂した後、酸素分圧10-10〜-15MPaの還元雰囲気中で、10℃/分の昇温速度で昇温し、その過程での寸法の変化を熱機械分析(TMA)法で測定し、収縮が始まる温度(収縮開始温度)を調べた。
その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
[3]熱電変換素子の作製
(1)上述のようにして作製したn型酸化物熱電変換材料シート、p型金属熱電変換材料シート、および絶縁体ペーストを用いて、図1に示すような構造を有する熱電変換素子30を作製した。
【0042】
なお、この熱電変換素子30においては、厚み500μmのp型金属熱電変換材料21と、同じく厚み500μmのn型酸化物熱電変換材料22の互いに対向する一対の面全体が絶縁材料23を介して接合されることにより積層体25が形成されており、かつ、隣り合うp型金属熱電変換材料21とn型酸化物熱電変換材料22とが、積層体25の積層方向に沿う端面に配設された電極材料24により接合されて複数のpn接合対20が形成されているとともに、pn接合対20が直列接続となるように構成されている。
【0043】
以下、この熱電変換素子30の製造方法について説明する。
まず、上述のようにして作製した、n型酸化物熱電変換材料シートおよびp型金属熱電変換材料シートの全面に、上述の絶縁体ペーストを厚み10μmで印刷した。
【0044】
そして、上述のようにして絶縁体ペーストを塗布したn型酸化物熱電変換材料シートおよびp型金属熱電変換材料シートを、pn接合対が5対となるように順次積層し、最後に絶縁体ペーストを印刷していないp型金属熱電変換材料シートを積層することにより、積層体ブロックを形成した。
【0045】
その後、作製した積層体ブロックを等方静水圧プレス法にて180MPaで圧着した後、ダイシングソーにより所定の大きさに切断することにより、未焼成の積層体(積層素子)を得た。
【0046】
それから、この積層体を、大気中、370℃で脱脂した後、酸素分圧10-10〜10-15MPaの還元雰囲気中、1200〜1300℃で焼成を行い、焼成済みの積層体25(図1)を得た。
【0047】
得られた積層体25を研磨した後、図1における上下の両端面、すなわち、積層体25の積層方向に沿う2つの端面に、接続電極(電極材料)形成用のNiペーストを印刷した。
それから、再度還元雰囲気中にて、1200℃で焼成することにより接続電極(電極材料)24を形成した。これにより、図1に示すような構造を有する熱電変換素子30(表3の試料番号1〜5の試料)を得た。
【0048】
なお、熱電変換素子30の各部の寸法は、以下の通りである。
幅W :5.5mm
長さL :6.0mm
高さH :2.7mm
p型金属熱電変換材料の厚み :500μm
n型酸化物熱電変換材料の厚み :500μm
絶縁材料の厚み :約10μm
【0049】
(2)比較用の熱電変換素子の作製
また、比較のため、以下の方法で、図2に示すように、p型金属熱電変換材料21とn型酸化物熱電変換材料22とが、互いに対向する対向面の一部においては直接接合され、他の部分においては絶縁材料23を介して接合された構造を有する熱電変換素子30aを作製した。
【0050】
すなわち、この比較例の熱電変換素子を作製するにあたっては、まず、表2のn型酸化物熱電変換材料1((Sr0.965La0.035)TiO3)からなるn型酸化物熱電変換材料シートと、表1のp型金属熱電変換材料4(80wt%Ni0.9Mo0.1+20wt%(Sr0.965La0.035)TiO3)からなるp型金属熱電変換材料シートとを準備した。
そして、図2に示すような構造を有する熱電変換素子30aが得られるように、上述のn型酸化物熱電変換材料シートと、p型金属熱電変換材料シートの一部の領域に絶縁体ペーストを印刷した。
【0051】
そして、n型酸化物熱電変換材料シートとp型金属熱電変換材料シートとを所定の順序で積層し、上述の実施例にかかる熱電変換素子の場合と同じ条件で焼成して、図2に示すように、p型金属熱電変換材料21とn型酸化物熱電変換材料22とが、互いに対向する対向面の一部においては直接接合され、他の部分においては絶縁材料23を介して接合された構造を有する熱電変換素子(表3の試料番号6の試料(比較例))を作製した。
【0052】
この比較例の熱電変換素子(表3の試料番号6の試料)の各部の寸法は、上記実施例の熱電変換素子と同じである。
ただし、p型金属熱電変換材料21とn型酸化物熱電変換材料22とが絶縁材料23を介さずに直接に接合している領域Rは、上端側および下端側から0.48mmまでの領域である。
なお、図2において、図1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示す。
【0053】
(3)評価
上述のようにして作製した試料番号1〜6の熱電変換素子それぞれ50個について、外観を目視観察することにより、p型金属熱電変換材料と絶縁材料との接合部(接合面)、およびn型酸化物熱電変換材料と絶縁体層の接合部(接合面)に、クラックや剥離などの欠陥が発生していないかどうかを調べた。
【0054】
また、試料番号1〜6の熱電変換素子それぞれ10個について、下端を20℃、上端を25℃に温度調整し、各熱電変換素子について得られる無負荷時の起電力をマイクロメーターで測定した。そして、得られた起電力の値を5で除して、pn接合対当たり(一対当たり)の起電力を求めた。
各評価結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
p型金属熱電変換材料が酸化物(n型酸化物熱電変換材料)を含まない試料である試料番号1の試料の場合、p型金属熱電変換材料の収縮開始温度が、絶縁材料やn型酸化物熱電変換材料の収縮開始温度よりも大幅に低いことから、p型金属熱電変換材料と絶縁材料との接合面に剥離やクラックが発生し、一体焼成を行うことは不可能であることが確認された。
【0057】
これに対し、p型金属熱電変換材料が、酸化物(n型酸化物熱電変換材料)を5〜50重量%含む試料番号2〜5の試料の場合、p型金属熱電変換材料の収縮開始温度が上昇して、酸化物である絶縁材料の収縮開始温度との温度差が50℃以内で、p型金属熱電変換材料と絶縁材料との接合部に欠陥が発生するようなことがなく、一体焼成により信頼性の高い熱電変換素子を効率よく製造できることが確認された。
【0058】
また、試料番号6の試料(比較例)は、p型金属熱電変換材料がn型酸化物熱電変換材料を20重量%含むことから、収縮挙動(収縮開始温度)が絶縁材料やn型酸化物熱電変換材料と近く、一体焼成は可能であるが、p型金属熱電変換材料とn型酸化物熱電変換材料とが直接接合した部分は発電に寄与しないので、試料番号2〜5の熱電変換素子に比べて、得られる起電力が小さいことが確認された。
【0059】
以上の結果から、本発明によれば、
(a)p型金属熱電変換材料とn型酸化物熱電変換材料が直接接合した、発電に寄与しない部分がないことから、素子の大きさを同じにした場合に、高い起電力を得ることが可能な熱電変換素子を提供することができる、
(b)例えばn型熱電変換材料には高い熱電特性を有する酸化物であるSrTiO3系の熱電材料を用い、例えばp型熱電変換材料には一般に高い熱電特性を示す金属熱電材料を用い、かつ、これら異種材料を、絶縁材料を介して一体焼成することが可能で、高特性の熱電変換素子を効率よく作製することができる
というような特有の作用効果が得られることが分かる。
【0060】
なお、上記実施例では、焼成済みの積層体に、接続電極形成用の導電ペースト(Niペースト)を印刷して、焼き付けることにより接続電極を形成するようにしたが、条件を調整することにより、積層体と接続電極の焼成を同時に行うようにすることも可能である。
【0061】
また、上記実施例では、絶縁体(複合酸化物絶縁材料)にZr0.970.032粉末を使用し、ガラス成分の添加は行っていないが、添加することも可能である。絶縁材料である酸化物とガラスの割合は、p型金属熱電変換材料、n型酸化物熱電変換材料、絶縁材料の共焼結に必要な条件によって適宜選択することが可能である。
【0062】
また、p型金属熱電変換材料、n型酸化物熱電変換材料、および縁材料の厚み、pn接合対の接続数(対数)などに関しても特に制約はなく、目標とする起電力や電流、使用する負荷の抵抗などを考慮して、適宜選択することができる。
【0063】
本発明は、さらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、p型金属熱電変換材料およびn型酸化物熱電変換材料の具体的な組成やその原料、製造工程での焼成条件などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0064】
20 pn接合対
21 p型金属熱電変換材料
22 n型酸化物熱電変換材料
23 複合酸化物絶縁材料
24 接続電極(電極材料)
25 積層体
30 熱電変換素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を主成分とするp型金属熱電変換材料と、酸化物を主成分とするn型酸化物熱電変換材料の、互いに対向する一対の面全体が絶縁材料を介して接合されることにより積層体が形成されており、かつ、隣り合う前記p型金属熱電変換材料と前記n型酸化物熱電変換材料とが、前記積層体の積層方向に沿う端面に配設された電極材料により接合されて複数のpn接合対が形成されているとともに、前記pn接合対が直列接続となるように構成された熱電変換素子であって、
前記p型金属熱電変換材料が、前記n型酸化物熱電変換材料を構成する酸化物を含むものであること
を特徴とする熱電変換素子。
【請求項2】
前記p型金属熱電変換材料に含まれる前記n型酸化物熱電材料を構成する酸化物の割合が、5〜50重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記n型酸化物熱電変換材料を構成する酸化物が、組成式ABO3で示されるペロブスカイト型酸化物であり、Aとして少なくともSrを含み、Bとして少なくともTiを含むものであることを特徴とする請求項1または2記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記p型金属熱電変換材料および前記n型酸化物熱電変換材料と、前記絶縁材料の熱機械分析における収縮開始温度の差がそれぞれ50℃以内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記p型金属熱電変換材料、前記n型酸化物熱電変換材料、および前記絶縁材料が一体に共焼成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項6】
金属を主成分とするp型金属熱電変換材料と、酸化物を主成分とするn型酸化物熱電変換材料の、互いに対向する一対の面全体が絶縁材料を介して接合されることにより積層体が形成されており、かつ、隣り合う前記p型金属熱電変換材料と前記n型酸化物熱電変換材料とが、前記積層体の積層方向に沿う端面に配設された電極材料により接合されて複数のpn接合対が形成されているとともに、前記pn接合対が直列接続となるように構成された熱電変換素子の製造方法であって、
焼成後に、請求項1〜5のいずれかに記載されたp型金属熱電変換材料となるp型金属熱電変換材料シートを形成する工程と、
焼成後に、請求項1〜5のいずれかに記載されたn型酸化物熱電変換材料となるn型酸化物熱電変換材料シートを形成する工程と、
前記p型金属熱電変換材料シートと、前記n型酸化物熱電変換材料シートとを積層した場合に互いに対向する一対の面の、少なくとも一方の全面に絶縁体ペーストを付与して絶縁体ペースト層を形成する工程と、
前記p型金属熱電変換材料シートと、前記n型酸化物熱電変換材料シートとを、前記一対の面の間に前記絶縁体ペースト層が介在するような態様で積層して積層体を形成する工程と、
前記p型金属熱電変換材料シートと、前記n型酸化物熱電変換材料シートと、前記絶縁体ペースト層とを備えた積層体を一体に焼成する工程と
を具備することを特徴とする熱電変換素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−248819(P2012−248819A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121980(P2011−121980)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】