熱電性複合材料及びその作製方法
複合材料を作製するためのプロセス及び熱電特性を有する複合材料。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2009年7月10日に中華人民共和国で出願された、中国特許出願第200910054622.1号の優先権の恩典を主張する。この特許出願の明細書の内容は本明細書に参照として含まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は複合材料を作製するためのプロセス及び、そのプロセスで作製された、熱電特性を有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0003】
数10年来、新規なエネルギー変換材料の開発への要求が世界的に高まるとともに、熱電性(TE)材料に、そのクリーンで再生可能なエネルギーを変換する特性のため、持続的な関心が寄せられてきた。ゼーベック効果が廃熱を電気エネルギーに変換するために用いられ、ペルティエ効果が固体冷却素子に用いられる。TE材料は、廃エネルギー回収、航海、宇宙飛行、兵器及び家電品における発電に広く用いられる。TE用途のための材料の効率は、ZT=(S2σ/κ)Tと定義される無次元の示性数で決定される。ここで、S,σ,κ及びTはそれぞれ、ゼーベック係数、電気伝導度、熱伝導度及び絶対温度である。ZT値が高くなるほど、熱エネルギーの電気への変換効率が高くなる。
【0004】
不純物を除去し、キャリア濃度を調節することで、TE材料特性を高めることができる。しかし、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金及びクラスレート化合物のような、広く研究されたTE材料についてはそれぞれのZT値をさらに高めることは困難である。半径が小さい原子、すなわちアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属をスクッテルダイトに特有の二十面体ケージに入れて、ラットリング効果を生じさせることができるであろう。充填原子と隣接原子の間の弱い結合により摂動が発生ことで、低周波数フォノンはラットリング効果によって強く散乱される。低周波数フォノンは格子熱伝導の主キャリアである。この結果、充填スクッテルダイトの格子熱伝導度は大きく低下する。別のアプローチは、欠陥散乱効果を与えるため、またキャリア濃度を調節するためにも、TE材料のいくつかの格子点を適切な元素で置換することである。
【0005】
熱キャリアとして用いられるフォノンは広い範囲の周波数分布を有する。低周波数領域において、点欠陥及びラットリング原子は通常、周波数が比較的高いフォノンを散乱するために導入される。しかし、波長が長いフォノンは効果的な影響を受けない。一般に、電子(正孔)の平均自由工程はフォノンの平均自由工程よりかなり短いと考えられる。キャリアエネルギーが波として転送され、粒径が波長と等価であるかまたは波長より小さい粒子と波が衝突する場合に、散乱効果は強くなる。この散乱効果に基づけば、粒径がフォノンの平均自由工程よりは小さいが電子(正孔)の平均自由工程よりは大きいナノ粒子を母材に導入して、電気伝導度をほとんど変えずに、格子熱伝導度をさらに低めることができる。
【0006】
理想的な熱電性複合材料においては、第2の相のナノ径粒子が母材内に一様に分散される。ナノ径粒子が集合するかまたは凝集すると、散乱効果が弱められる結果になるであろう。言い換えれば、ナノ径粒子の分散は格子熱伝導度の低下に影響する。
【0007】
ナノ径粒子の導入にはいくつかの方法を適用することができる。ナノ粉末を機械的混合、すなわち高エネルギーボールミル混合によって母材粉末と混合することができる。しかし、ナノ粉末は、その高い表面活性のため、ボールミルで解凝集させることは困難であり得る。この結果、ナノ粒子はTE母材内に一様に分散されないであろう。さらに、ボールミルにより、鉄、アルミニウム及び酸素のような不純物が極めて容易に母材に取り込まれ、材料の電気輸送特性を劣化させるであろう。
【0008】
ナノ径相は母材を元にするその場方法で、例えば充填スクッテルダイトからSbを、またPbTeからPbを、形成することができる。その場生成の顕著な利点は、第2の相のナノ径粒子の一様分散である。しかし、この手法では小数の金属しか用いることができない。例えば、過剰なCoはスクッテルダイト内に第2の金属相CoSb2の形成をおこさせるであろう。Pb及びSbの低い融点(それぞれ〜323℃及び〜631℃)も複合材料の信頼性を低下させるであろう。さらにまた、第2の相の粒径及びモルフォロジーは制御が困難であり得る。
【0009】
母材の一成分を酸化することによってナノ酸化物を形成することもできる。温度、酸素分圧及びその他の技術パラメータの調節による母材の酸化の正確な制御は困難であり得る。選択酸化も、成分元素の反応性のため、達成は容易ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ナノ酸化物粒子が一様に分散された熱電性複合材料を作製するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、
液媒内に懸濁させた固体熱電性材料を含む懸濁配合液を提供する工程であって、熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金、クラスレート化合物、及びその他の熱電性の規則合金または不規則合金、及び熱電性金属間化合物から選ばれるものである工程、
懸濁配合液を溶媒に溶解された金属酸化物前駆体の溶液と接触させて、反応混合液を形成する工程、
水の存在の下で金属酸化物前駆体を加水分解して、金属酸化物を形成する工程、及び
熱電性材料と金属酸化物の複合材料を液媒及び溶媒から分離する工程、
を含む、複合材料を形成するためのプロセスを含む。
【0012】
複合材料は、例えば、式:TE/z体積%Mを有することができる。ここで、TEは熱電性材料を表し、Mは熱電性材母材と反応しない1つまたは複数の酸化物を表し、0.1≦z≦10である。候補となる酸化物は、TiO2,ZnO,ZrO2,WO3,NiO,Al2O3,CeO2,Yb2O3,Eu2O3,MgO及びNb2O3の内の少なくとも1つの酸化物とすることができる。複合材料は2つの相(TE及びM)を含み、必要に応じて、別の相を含む。TEには、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金及びクラスレート化合物を、ただしこれらには限定されずに、含めることができるであろう。
【0013】
複合材料はナノ複合材料の形態にある、すなわちナノ粒子の形態にあるMを含む、ことができる。一実施形態において、複合材料はTE母材内に一様に分散された酸化物ナノ粒子を含む。粒径が1nm〜100nmの範囲にある粒子のような、ナノ粒子は上で論じたゾル−ゲルプロセスによってTE母材に導入することができる。
【0014】
本プロセスによって得られた複合材料粉末は、必要に応じて、加圧焼結法、例えば、スパークプラズマ焼結またはホットプレス焼結によって固めて、緻密バルク材料にすることができる。複合材料は、改善されたゼーベック係数、低下した格子熱伝導度及びほとんど変わらない電気伝導度により、高められた熱電示性数を示す。本明細書に開示されるプロセスは、大量生産及び製造応用に有望な、簡単で容易に制御できるプロセスを用いるナノ複合材料の作製という利点を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料粉末及びBa0.22Co4Sb12のXRD(X線回折)パターンである。
【図2】図2は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料粉末に対するTEM(透過電子顕微鏡)像である。
【図3】図3は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料の試料に対するTEM像である。
【図4】図4は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する電気伝導度対温度のグラフである。
【図5】図5は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対するゼーベック係数(S)対温度のグラフである。
【図6】図6は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する格子熱伝導度対温度のグラフである。
【図7】図7は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する示性数(ZT)対温度のグラフである。
【図8】図8は実施例2及び3のBa0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)複合材料の試料に対する電気伝導度対温度のグラフである。
【図9】図9は実施例2及び3のBa0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)複合材料の試料に対するゼーベック係数(S)対温度のグラフである。
【図10】図10は実施例2及び3のBa0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)複合材料の試料に対する格子熱伝導度対温度のグラフである。
【図11】図11は実施例2及び3のBa0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)複合材料の試料に対する示性数(ZT)対温度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面は本発明のさらに深い理解を提供するために含められ、本明細書に組み込まれて本明細書の一部をなす。図面は特許請求されるような本発明の限定を目的とはしておらず、本発明の実施形態を示し、記述とともに、本発明の原理の説明に役立つ。
【0017】
上述の全般的説明及び以下の詳細な説明がいずれも例示及び説明に過ぎず、特許請求されるような本発明の限定ではないことは当然である。当業者には、本発明の他の実施形態が本明細書の考察から、また本明細書に開示される本発明の実施から、明らかであろう。詳細な説明及び実施例は単に例示と見なされるべきであり、本発明の真の範囲及び精神は特許請求の範囲に示されている。
【0018】
本発明の実施形態は熱電性ナノ複合材料及びその作製方法を提供する。ナノ複合材料は熱電性(TE)材料粉末を母材または支持材として含み、ナノ粒子を第2の相として含む。ナノ粒子はTE材料内に一様に分散させることができる。
【0019】
したがって、本発明の一実施形態は、
液媒内に懸濁させた固体熱電性材料を含む懸濁配合液を提供する工程であって、熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金、クラスレート化合物、及びその他の熱電性の規則合金または不規則合金、及び熱電性金属間化合物から選ばれるものである工程、
懸濁配合液を溶媒に溶解された金属酸化物前駆体の溶液と接触させて、反応混合液を形成する工程、
水の存在の下で金属酸化物前駆体を加水分解して、金属酸化物を形成する工程、及び
熱電性材料と金属酸化物の複合材料を液媒及び溶媒から分離する工程、
を含む、複合材料を形成するためのプロセスを含む。
【0020】
本プロセスは、式がTE/z体積%Mの、ナノ複合材料のような、複合材料を作製するために用いられる。ここで、TEは、例えば充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金及びクラスレート化合物とすることができる、熱電性材料であり、zは0.1≦z≦10の範囲にある数であって、Mは、例えば熱電性材母材と反応しない、1つまたは複数の酸化物である。候補酸化物は少なくとも、TiO2,ZnO,ZrO2,WO3,NiO,Al2O3,CeO2,Yb2O3,Eu2O3,MgO及びNb2O3から選ぶことができる。散乱効果に寄与するナノ径酸化物粒子の第2の相をTE母材内に一様に分散させることができる。第2の相のナノ粒子は量、径及び形状に関して制御可能とすることができる。例えば、第2の相の金属酸化物の粒径は、1〜40nmのような、1〜500nmまたは1〜100nmの範囲で制御することができる。
【0021】
本発明は、利用できる複合材料作製法の1つ以上の欠点を克服し、ゾル−ゲル法による熱電性複合材料作製のための新規な手段を提出する。例えば、本発明のプロセスは、ナノ包含物を除き、熱電性母材への不純物の混入を回避することができる。適切な熱処理により、コロイドはナノ径純酸化物に分解することができる。対照的に、従来の機械的混合法では、鉄、アルミニウム及び酸素のような、いくつかの不純物が極めて容易に母材内に取り込まれる。
【0022】
さらに、ナノ径の第2の相の使用によって、ナノ複合材料の示性数(ZT)を少なくとも10%高めることができる。本発明によって作製された複合材料は、低い格子熱伝導度、大きいゼーベック係数及びもとのままの電気伝導度も有することができる。
【0023】
本発明のプロセスにおける一工程は液媒内に懸濁された固体熱電性材料を含む懸濁配合液を提供する工程を含み、熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金、クラスレート化合物、及びその他の熱電性の規則合金または不規則合金、及び熱電性金属間化合物から選ばれる。いくつかの実施形態において、熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金またはクラスレート化合物である、粉末として提供される。TE材料は、懸濁液を形成するため、例えば超音波分散により液体内に分散させることができる。超音波分散時間は、例えば0.1〜5時間の範囲とすることができる。
【0024】
液媒は有機媒または無機媒とすることができるであろう。無機媒には、例えば脱イオン水を含めることができる。有機媒には、例えば、エタノール、アセトンまたはn-ヘキサンのような、アルコール、ケトンまたは炭化水素を含めることができる。液媒の体積濃度は、例えば5〜90%の範囲とすることができる。
【0025】
本発明のプロセスの別の工程は、反応混合液を形成するために懸濁配合液を溶媒に溶解された金属酸化物前駆体の溶液と接触させる工程を含む。金属酸化物前駆体の例には、アンモニウム塩、塩素塩、酢酸塩、シュウ酸塩または、チタン、亜鉛、ジルコニウム、タングステン、ニッケル、アルミニウム、セリウム、イッテルビウム、ユーロピウム、マグネシウム及びニオブのような、金属のアルコール塩がある。金属酸化物前駆体は金属酸化物前駆体を溶液を形成するいずれか適切な溶媒内に溶解させることができる。溶媒の例には、例えば、脱イオン水、無水エタノール、n-ブチルアルコール及びアンモニアがある。
【0026】
本発明のプロセスの別の工程は、金属酸化物を形成するために、水の存在の下で金属酸化物前駆体を加水分解する工程を含む。水は液媒また溶媒に存在することができ、あるいは反応混合液に別途に加えることができる。金属酸化物前駆体の溶液は、加水分解された金属酸化物が熱電性母材をコーティングするまで、撹拌されたTE材料懸濁液内に時間をかけて滴下することができる。懸濁液は加水分解中継続的に撹拌することができる。撹拌速度は10〜180rpmの範囲とすることができる。前駆体を含有する溶液の滴下速度は加水分解を制御するために調節することができた。滴下速度は0.01〜10mL/分の範囲とすることができる。懸濁液のpH値は、金属酸化物の前駆体塩の加水分解速度を制御するため、酸またはアンモニアを加えることで調節することができた。コロイド懸濁液の形成は加熱及び撹拌によって補助することができる。加熱温度は60〜100℃とすることができ、撹拌時間は20〜100分の範囲とすることができる。
【0027】
本発明のプロセスの別の工程は、熱電性材料と金属酸化物の複合材料を液媒及び溶媒から分離する工程を含む。分離方法は、濾過、遠心力または蒸発のような方法の内の1つとすることができる。複合材料は次いで、例えば50〜150℃の範囲の温度で乾燥させることができる。
【0028】
分離された材料は次いで、例えば200〜600℃で0.5〜24時間か焼することができる。SPS(スパークプラズマ焼結)及びHP(ホットプレス)のような加圧焼結法によって緻密バルクTE材料を合成することができる。焼結温度は450〜800℃の範囲、時間は2〜60分の範囲、圧力は10〜100MPaの範囲にある。
【0029】
上記にしたがえば、第2の相の金属酸化物の体積濃度は0.1〜10%の範囲にある。第2の相はTE材料に対して化学的に安定であるように選ばれるべきである。第2の相の粒径は1〜100nmの範囲にあり得る。第2の相のナノ粒子はTE母材の結晶粒界に、または母材結晶粒内に、分散させることができる。
【0030】
上述したTE材料は、第2の相がないTE材料に比較すると、(a)低い格子熱伝導度、(b)大きいゼーベック係数及び(c)基本的にもとのままの電気伝導度という特性を有することができる。したがって、本発明のTE複合材料の特性は劇的に向上して、従来の材料に優ることができる。
【0031】
別途に示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲に用いられる数字は全て、全ての場合において、記載の有無に関わらず、「約」で修飾されていると理解されるべきである。本明細書及び特許請求の範囲に用いられる精確な数値が本発明の別の実施形態をなすことも当然である。実施例に開示される数値の確度を保証するために努力した。しかし、いかなる測定値もそれぞれの測定法に見られる標準偏差から生じる誤差を本質的に含む。
【0032】
本明細書に用いられるように、‘the’,‘a’または‘an’の使用は「少なくとも1つ」を意味し、明白に示されていない限り、逆の意味の、「ただ1つ」に限定されるべきではない。
【0033】
本発明の他の実施形態は、当業者には、本明細書の考察及び本明細書に開示される本発明の実施から明らかになるであろう。本明細書に開示される詳細な説明及び実施例は単に例示と見なされるべきであり、本発明の品の範囲及び精神は特許請求の範囲によって示されている。
【実施例】
【0034】
以下の実施例では、特許請求されるような本発明の限定は目的とされていない。
【0035】
実施例I:Ba0.22Co4Sb12(実組成)の微細粉末2.0gを超音波の下でアルコール(85体積%)25mLに30分かけて分散させた。引き続いて、最終のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2組成のため、アルコールで希釈されたチタン酸テトラブチル(Ti(OC4H9)4)溶液(1体積%のTi(OC4H9)4溶液)1.9mLを撹拌されているBa0.22Co4Sb12懸濁液に時間をかけて滴下した。加水分解の完了後、真空濾過器で懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中120℃で2時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、Ar-7体積%H2雰囲気内470℃で2時間熱処理した。60MPaの圧力の下で590℃10分間のスパークプラズマ焼結(SPS)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。
【0036】
得られた材料の相分析の結果、構造及び熱電特性を図1〜7に示す。図1はBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料粉末のXRD(X線回折)パターンである。充填スクッテルダイト母材には、TiO2との複合化後も、相の変化または新しい相の追加は見られない。図2はBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料粉末に対するTEM(透過電子顕微鏡)像である。ナノ径TiO2粒子はサブミクロン径Ba0.22Co4Sb12母材に一様に分散している。図3はBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料の試料に対するTEM像である。粒径が10〜15nmのTiO2粒子が母材に分散されている。
【0037】
図4は本実施例の、Ba0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する電気伝導度対温度のグラフである。ナノTiO2の導入後も電気伝導度は変化していない。図5は本実施例の、Ba0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対するゼーベック係数(S)対温度のグラフである。結晶粒界にあるバリアが結晶粒ポテンシャルを高め、これがゼーベック係数を大きくしているのであろう。図6は本実施例の、Ba0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する格子熱伝導度対温度のグラフである。ナノ包含物が短波長フォノンを有効に散乱させ、この結果格子熱伝導度が低下している。図7は本実施例の、Ba0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する示性数(ZT)対温度のグラフである。ナノ包含物の導入によって、ZT値を向上させることができる。
【0038】
実施例II:Ba0.22Co4Sb12(実組成)の微細粉末2.0gを超音波条件の下でアルコール(95体積%)30mLに50分かけて分散させた。続いて、最終のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2組成のため、アルコールで希釈されたチタン酸テトラブチル(Ti(OC4H9)4)溶液(1.5体積%のTi(OC4H9)4溶液)2.5mLを撹拌されているBa0.22Co4Sb12懸濁液に時間をかけて滴下した。加水分解完了後、真空濾過器で懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中110℃で4時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、Ar雰囲気内490℃で1.5時間熱処理した。50MPaの圧力の下で605℃8分間のスパークプラズマ焼結(SPS)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。このBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2の試料に対して、850Kで1.02のZT値を達成した。
【0039】
実施例III:Ba0.22Co4Sb12(実組成)の微細粉末2.0gを超音波の下で脱イオン水35mLに20分かけて分散させた。続いて、最終のBa0.22Co4Sb12/1.8体積%TiO2組成のため、アルコールで希釈されたチタン酸テトラブチル(Ti(OC4H9)4)溶液(2体積%のTi(OC4H9)4溶液)4.3mLを撹拌されているBa0.22Co4Sb12懸濁液に時間をかけて滴下した。加水分解完了後、真空濾過器で懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中130℃で1時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、N2雰囲気内450℃で6時間熱処理した。80MPaの圧力の下で585℃40分間のホットプレス(HP)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。ゼーベック係数は300Kで−119μVK−1まで向上し、13%というかなりの向上が得られた。
【0040】
図8は実施例2及び3の、Ba0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)組成の試料に対する電気伝導度対温度のグラフである。図9は実施例2及び3の試料に対するゼーベック係数(S)対温度のグラフである。図10は実施例2及び3の試料に対する格子熱伝導度対温度のグラフである。図11は実施例2及び3の試料に対する示性数(ZT)対温度のグラフである。
【0041】
実施例IV:Ba8Ga16Ge30(公称組成)の微細粉末2.5gを超音波下でアルコール(95体積%)30mLに40分かけて分散させた。続いて、最終のBa8Ga16Ge30/1.4体積%ZrO2組成のため、アルコールで希釈されたいくらかの量の(二)塩化ジルコニル(ZrOCl2・8H2O)溶液(3体積%のZrOCl2溶液)を撹拌されているBa8Ga16Ge30懸濁液に時間をかけて滴下し,同時に水酸化アンモニウム(NH3・H2O)を滴下した。加水分解完了後、真空濾過器で懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中150℃で1.5時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、Ar雰囲気内450℃で3時間熱処理した。50MPaの圧力の下で550℃15分間のスパークプラズマ焼結(SPS)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。ゼーベック係数は850Kにおいて−186.1μVK−1から−195μVK−1に向上し、850Kにおいて15%のZT向上(ZT=0.75)が得られた。
【0042】
実施例V:Ti0.7Zr0.3CoSb(公称組成)の微細粉末2.0gを超音波下でアルコール(90体積%)25mLに30分かけて分散させた。続いて、最終のTi0.7Zr0.3CoSb/2.0体積%TiO2組成のため、アルコールで希釈されたいくらかの量のチタン酸テトラブチル(Ti(OC4H9)4)溶液(3体積%のTi(OC4H9)4溶液)を撹拌されているTi0.7Zr0.3CoSb懸濁液に時間をかけて滴下した。加水分解完了後、懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中150℃で3時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、Ar雰囲気内500℃で1時間熱処理した。50MPaの圧力の下で650℃10分間のスパークプラズマ焼結(SPS)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。格子熱伝導度は室温(300K)において5.67Wm−1K−1から4.43Wm−1K−1に低下し、850Kにおいて、18%の向上になる、0.45のZT値が得られた。
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2009年7月10日に中華人民共和国で出願された、中国特許出願第200910054622.1号の優先権の恩典を主張する。この特許出願の明細書の内容は本明細書に参照として含まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は複合材料を作製するためのプロセス及び、そのプロセスで作製された、熱電特性を有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0003】
数10年来、新規なエネルギー変換材料の開発への要求が世界的に高まるとともに、熱電性(TE)材料に、そのクリーンで再生可能なエネルギーを変換する特性のため、持続的な関心が寄せられてきた。ゼーベック効果が廃熱を電気エネルギーに変換するために用いられ、ペルティエ効果が固体冷却素子に用いられる。TE材料は、廃エネルギー回収、航海、宇宙飛行、兵器及び家電品における発電に広く用いられる。TE用途のための材料の効率は、ZT=(S2σ/κ)Tと定義される無次元の示性数で決定される。ここで、S,σ,κ及びTはそれぞれ、ゼーベック係数、電気伝導度、熱伝導度及び絶対温度である。ZT値が高くなるほど、熱エネルギーの電気への変換効率が高くなる。
【0004】
不純物を除去し、キャリア濃度を調節することで、TE材料特性を高めることができる。しかし、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金及びクラスレート化合物のような、広く研究されたTE材料についてはそれぞれのZT値をさらに高めることは困難である。半径が小さい原子、すなわちアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属をスクッテルダイトに特有の二十面体ケージに入れて、ラットリング効果を生じさせることができるであろう。充填原子と隣接原子の間の弱い結合により摂動が発生ことで、低周波数フォノンはラットリング効果によって強く散乱される。低周波数フォノンは格子熱伝導の主キャリアである。この結果、充填スクッテルダイトの格子熱伝導度は大きく低下する。別のアプローチは、欠陥散乱効果を与えるため、またキャリア濃度を調節するためにも、TE材料のいくつかの格子点を適切な元素で置換することである。
【0005】
熱キャリアとして用いられるフォノンは広い範囲の周波数分布を有する。低周波数領域において、点欠陥及びラットリング原子は通常、周波数が比較的高いフォノンを散乱するために導入される。しかし、波長が長いフォノンは効果的な影響を受けない。一般に、電子(正孔)の平均自由工程はフォノンの平均自由工程よりかなり短いと考えられる。キャリアエネルギーが波として転送され、粒径が波長と等価であるかまたは波長より小さい粒子と波が衝突する場合に、散乱効果は強くなる。この散乱効果に基づけば、粒径がフォノンの平均自由工程よりは小さいが電子(正孔)の平均自由工程よりは大きいナノ粒子を母材に導入して、電気伝導度をほとんど変えずに、格子熱伝導度をさらに低めることができる。
【0006】
理想的な熱電性複合材料においては、第2の相のナノ径粒子が母材内に一様に分散される。ナノ径粒子が集合するかまたは凝集すると、散乱効果が弱められる結果になるであろう。言い換えれば、ナノ径粒子の分散は格子熱伝導度の低下に影響する。
【0007】
ナノ径粒子の導入にはいくつかの方法を適用することができる。ナノ粉末を機械的混合、すなわち高エネルギーボールミル混合によって母材粉末と混合することができる。しかし、ナノ粉末は、その高い表面活性のため、ボールミルで解凝集させることは困難であり得る。この結果、ナノ粒子はTE母材内に一様に分散されないであろう。さらに、ボールミルにより、鉄、アルミニウム及び酸素のような不純物が極めて容易に母材に取り込まれ、材料の電気輸送特性を劣化させるであろう。
【0008】
ナノ径相は母材を元にするその場方法で、例えば充填スクッテルダイトからSbを、またPbTeからPbを、形成することができる。その場生成の顕著な利点は、第2の相のナノ径粒子の一様分散である。しかし、この手法では小数の金属しか用いることができない。例えば、過剰なCoはスクッテルダイト内に第2の金属相CoSb2の形成をおこさせるであろう。Pb及びSbの低い融点(それぞれ〜323℃及び〜631℃)も複合材料の信頼性を低下させるであろう。さらにまた、第2の相の粒径及びモルフォロジーは制御が困難であり得る。
【0009】
母材の一成分を酸化することによってナノ酸化物を形成することもできる。温度、酸素分圧及びその他の技術パラメータの調節による母材の酸化の正確な制御は困難であり得る。選択酸化も、成分元素の反応性のため、達成は容易ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ナノ酸化物粒子が一様に分散された熱電性複合材料を作製するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、
液媒内に懸濁させた固体熱電性材料を含む懸濁配合液を提供する工程であって、熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金、クラスレート化合物、及びその他の熱電性の規則合金または不規則合金、及び熱電性金属間化合物から選ばれるものである工程、
懸濁配合液を溶媒に溶解された金属酸化物前駆体の溶液と接触させて、反応混合液を形成する工程、
水の存在の下で金属酸化物前駆体を加水分解して、金属酸化物を形成する工程、及び
熱電性材料と金属酸化物の複合材料を液媒及び溶媒から分離する工程、
を含む、複合材料を形成するためのプロセスを含む。
【0012】
複合材料は、例えば、式:TE/z体積%Mを有することができる。ここで、TEは熱電性材料を表し、Mは熱電性材母材と反応しない1つまたは複数の酸化物を表し、0.1≦z≦10である。候補となる酸化物は、TiO2,ZnO,ZrO2,WO3,NiO,Al2O3,CeO2,Yb2O3,Eu2O3,MgO及びNb2O3の内の少なくとも1つの酸化物とすることができる。複合材料は2つの相(TE及びM)を含み、必要に応じて、別の相を含む。TEには、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金及びクラスレート化合物を、ただしこれらには限定されずに、含めることができるであろう。
【0013】
複合材料はナノ複合材料の形態にある、すなわちナノ粒子の形態にあるMを含む、ことができる。一実施形態において、複合材料はTE母材内に一様に分散された酸化物ナノ粒子を含む。粒径が1nm〜100nmの範囲にある粒子のような、ナノ粒子は上で論じたゾル−ゲルプロセスによってTE母材に導入することができる。
【0014】
本プロセスによって得られた複合材料粉末は、必要に応じて、加圧焼結法、例えば、スパークプラズマ焼結またはホットプレス焼結によって固めて、緻密バルク材料にすることができる。複合材料は、改善されたゼーベック係数、低下した格子熱伝導度及びほとんど変わらない電気伝導度により、高められた熱電示性数を示す。本明細書に開示されるプロセスは、大量生産及び製造応用に有望な、簡単で容易に制御できるプロセスを用いるナノ複合材料の作製という利点を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料粉末及びBa0.22Co4Sb12のXRD(X線回折)パターンである。
【図2】図2は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料粉末に対するTEM(透過電子顕微鏡)像である。
【図3】図3は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料の試料に対するTEM像である。
【図4】図4は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する電気伝導度対温度のグラフである。
【図5】図5は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対するゼーベック係数(S)対温度のグラフである。
【図6】図6は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する格子熱伝導度対温度のグラフである。
【図7】図7は実施例1のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する示性数(ZT)対温度のグラフである。
【図8】図8は実施例2及び3のBa0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)複合材料の試料に対する電気伝導度対温度のグラフである。
【図9】図9は実施例2及び3のBa0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)複合材料の試料に対するゼーベック係数(S)対温度のグラフである。
【図10】図10は実施例2及び3のBa0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)複合材料の試料に対する格子熱伝導度対温度のグラフである。
【図11】図11は実施例2及び3のBa0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)複合材料の試料に対する示性数(ZT)対温度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面は本発明のさらに深い理解を提供するために含められ、本明細書に組み込まれて本明細書の一部をなす。図面は特許請求されるような本発明の限定を目的とはしておらず、本発明の実施形態を示し、記述とともに、本発明の原理の説明に役立つ。
【0017】
上述の全般的説明及び以下の詳細な説明がいずれも例示及び説明に過ぎず、特許請求されるような本発明の限定ではないことは当然である。当業者には、本発明の他の実施形態が本明細書の考察から、また本明細書に開示される本発明の実施から、明らかであろう。詳細な説明及び実施例は単に例示と見なされるべきであり、本発明の真の範囲及び精神は特許請求の範囲に示されている。
【0018】
本発明の実施形態は熱電性ナノ複合材料及びその作製方法を提供する。ナノ複合材料は熱電性(TE)材料粉末を母材または支持材として含み、ナノ粒子を第2の相として含む。ナノ粒子はTE材料内に一様に分散させることができる。
【0019】
したがって、本発明の一実施形態は、
液媒内に懸濁させた固体熱電性材料を含む懸濁配合液を提供する工程であって、熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金、クラスレート化合物、及びその他の熱電性の規則合金または不規則合金、及び熱電性金属間化合物から選ばれるものである工程、
懸濁配合液を溶媒に溶解された金属酸化物前駆体の溶液と接触させて、反応混合液を形成する工程、
水の存在の下で金属酸化物前駆体を加水分解して、金属酸化物を形成する工程、及び
熱電性材料と金属酸化物の複合材料を液媒及び溶媒から分離する工程、
を含む、複合材料を形成するためのプロセスを含む。
【0020】
本プロセスは、式がTE/z体積%Mの、ナノ複合材料のような、複合材料を作製するために用いられる。ここで、TEは、例えば充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金及びクラスレート化合物とすることができる、熱電性材料であり、zは0.1≦z≦10の範囲にある数であって、Mは、例えば熱電性材母材と反応しない、1つまたは複数の酸化物である。候補酸化物は少なくとも、TiO2,ZnO,ZrO2,WO3,NiO,Al2O3,CeO2,Yb2O3,Eu2O3,MgO及びNb2O3から選ぶことができる。散乱効果に寄与するナノ径酸化物粒子の第2の相をTE母材内に一様に分散させることができる。第2の相のナノ粒子は量、径及び形状に関して制御可能とすることができる。例えば、第2の相の金属酸化物の粒径は、1〜40nmのような、1〜500nmまたは1〜100nmの範囲で制御することができる。
【0021】
本発明は、利用できる複合材料作製法の1つ以上の欠点を克服し、ゾル−ゲル法による熱電性複合材料作製のための新規な手段を提出する。例えば、本発明のプロセスは、ナノ包含物を除き、熱電性母材への不純物の混入を回避することができる。適切な熱処理により、コロイドはナノ径純酸化物に分解することができる。対照的に、従来の機械的混合法では、鉄、アルミニウム及び酸素のような、いくつかの不純物が極めて容易に母材内に取り込まれる。
【0022】
さらに、ナノ径の第2の相の使用によって、ナノ複合材料の示性数(ZT)を少なくとも10%高めることができる。本発明によって作製された複合材料は、低い格子熱伝導度、大きいゼーベック係数及びもとのままの電気伝導度も有することができる。
【0023】
本発明のプロセスにおける一工程は液媒内に懸濁された固体熱電性材料を含む懸濁配合液を提供する工程を含み、熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金、クラスレート化合物、及びその他の熱電性の規則合金または不規則合金、及び熱電性金属間化合物から選ばれる。いくつかの実施形態において、熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金またはクラスレート化合物である、粉末として提供される。TE材料は、懸濁液を形成するため、例えば超音波分散により液体内に分散させることができる。超音波分散時間は、例えば0.1〜5時間の範囲とすることができる。
【0024】
液媒は有機媒または無機媒とすることができるであろう。無機媒には、例えば脱イオン水を含めることができる。有機媒には、例えば、エタノール、アセトンまたはn-ヘキサンのような、アルコール、ケトンまたは炭化水素を含めることができる。液媒の体積濃度は、例えば5〜90%の範囲とすることができる。
【0025】
本発明のプロセスの別の工程は、反応混合液を形成するために懸濁配合液を溶媒に溶解された金属酸化物前駆体の溶液と接触させる工程を含む。金属酸化物前駆体の例には、アンモニウム塩、塩素塩、酢酸塩、シュウ酸塩または、チタン、亜鉛、ジルコニウム、タングステン、ニッケル、アルミニウム、セリウム、イッテルビウム、ユーロピウム、マグネシウム及びニオブのような、金属のアルコール塩がある。金属酸化物前駆体は金属酸化物前駆体を溶液を形成するいずれか適切な溶媒内に溶解させることができる。溶媒の例には、例えば、脱イオン水、無水エタノール、n-ブチルアルコール及びアンモニアがある。
【0026】
本発明のプロセスの別の工程は、金属酸化物を形成するために、水の存在の下で金属酸化物前駆体を加水分解する工程を含む。水は液媒また溶媒に存在することができ、あるいは反応混合液に別途に加えることができる。金属酸化物前駆体の溶液は、加水分解された金属酸化物が熱電性母材をコーティングするまで、撹拌されたTE材料懸濁液内に時間をかけて滴下することができる。懸濁液は加水分解中継続的に撹拌することができる。撹拌速度は10〜180rpmの範囲とすることができる。前駆体を含有する溶液の滴下速度は加水分解を制御するために調節することができた。滴下速度は0.01〜10mL/分の範囲とすることができる。懸濁液のpH値は、金属酸化物の前駆体塩の加水分解速度を制御するため、酸またはアンモニアを加えることで調節することができた。コロイド懸濁液の形成は加熱及び撹拌によって補助することができる。加熱温度は60〜100℃とすることができ、撹拌時間は20〜100分の範囲とすることができる。
【0027】
本発明のプロセスの別の工程は、熱電性材料と金属酸化物の複合材料を液媒及び溶媒から分離する工程を含む。分離方法は、濾過、遠心力または蒸発のような方法の内の1つとすることができる。複合材料は次いで、例えば50〜150℃の範囲の温度で乾燥させることができる。
【0028】
分離された材料は次いで、例えば200〜600℃で0.5〜24時間か焼することができる。SPS(スパークプラズマ焼結)及びHP(ホットプレス)のような加圧焼結法によって緻密バルクTE材料を合成することができる。焼結温度は450〜800℃の範囲、時間は2〜60分の範囲、圧力は10〜100MPaの範囲にある。
【0029】
上記にしたがえば、第2の相の金属酸化物の体積濃度は0.1〜10%の範囲にある。第2の相はTE材料に対して化学的に安定であるように選ばれるべきである。第2の相の粒径は1〜100nmの範囲にあり得る。第2の相のナノ粒子はTE母材の結晶粒界に、または母材結晶粒内に、分散させることができる。
【0030】
上述したTE材料は、第2の相がないTE材料に比較すると、(a)低い格子熱伝導度、(b)大きいゼーベック係数及び(c)基本的にもとのままの電気伝導度という特性を有することができる。したがって、本発明のTE複合材料の特性は劇的に向上して、従来の材料に優ることができる。
【0031】
別途に示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲に用いられる数字は全て、全ての場合において、記載の有無に関わらず、「約」で修飾されていると理解されるべきである。本明細書及び特許請求の範囲に用いられる精確な数値が本発明の別の実施形態をなすことも当然である。実施例に開示される数値の確度を保証するために努力した。しかし、いかなる測定値もそれぞれの測定法に見られる標準偏差から生じる誤差を本質的に含む。
【0032】
本明細書に用いられるように、‘the’,‘a’または‘an’の使用は「少なくとも1つ」を意味し、明白に示されていない限り、逆の意味の、「ただ1つ」に限定されるべきではない。
【0033】
本発明の他の実施形態は、当業者には、本明細書の考察及び本明細書に開示される本発明の実施から明らかになるであろう。本明細書に開示される詳細な説明及び実施例は単に例示と見なされるべきであり、本発明の品の範囲及び精神は特許請求の範囲によって示されている。
【実施例】
【0034】
以下の実施例では、特許請求されるような本発明の限定は目的とされていない。
【0035】
実施例I:Ba0.22Co4Sb12(実組成)の微細粉末2.0gを超音波の下でアルコール(85体積%)25mLに30分かけて分散させた。引き続いて、最終のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2組成のため、アルコールで希釈されたチタン酸テトラブチル(Ti(OC4H9)4)溶液(1体積%のTi(OC4H9)4溶液)1.9mLを撹拌されているBa0.22Co4Sb12懸濁液に時間をかけて滴下した。加水分解の完了後、真空濾過器で懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中120℃で2時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、Ar-7体積%H2雰囲気内470℃で2時間熱処理した。60MPaの圧力の下で590℃10分間のスパークプラズマ焼結(SPS)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。
【0036】
得られた材料の相分析の結果、構造及び熱電特性を図1〜7に示す。図1はBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料粉末のXRD(X線回折)パターンである。充填スクッテルダイト母材には、TiO2との複合化後も、相の変化または新しい相の追加は見られない。図2はBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料粉末に対するTEM(透過電子顕微鏡)像である。ナノ径TiO2粒子はサブミクロン径Ba0.22Co4Sb12母材に一様に分散している。図3はBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料の試料に対するTEM像である。粒径が10〜15nmのTiO2粒子が母材に分散されている。
【0037】
図4は本実施例の、Ba0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する電気伝導度対温度のグラフである。ナノTiO2の導入後も電気伝導度は変化していない。図5は本実施例の、Ba0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対するゼーベック係数(S)対温度のグラフである。結晶粒界にあるバリアが結晶粒ポテンシャルを高め、これがゼーベック係数を大きくしているのであろう。図6は本実施例の、Ba0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する格子熱伝導度対温度のグラフである。ナノ包含物が短波長フォノンを有効に散乱させ、この結果格子熱伝導度が低下している。図7は本実施例の、Ba0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2複合材料及びBa0.22Co4Sb12の試料に対する示性数(ZT)対温度のグラフである。ナノ包含物の導入によって、ZT値を向上させることができる。
【0038】
実施例II:Ba0.22Co4Sb12(実組成)の微細粉末2.0gを超音波条件の下でアルコール(95体積%)30mLに50分かけて分散させた。続いて、最終のBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2組成のため、アルコールで希釈されたチタン酸テトラブチル(Ti(OC4H9)4)溶液(1.5体積%のTi(OC4H9)4溶液)2.5mLを撹拌されているBa0.22Co4Sb12懸濁液に時間をかけて滴下した。加水分解完了後、真空濾過器で懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中110℃で4時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、Ar雰囲気内490℃で1.5時間熱処理した。50MPaの圧力の下で605℃8分間のスパークプラズマ焼結(SPS)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。このBa0.22Co4Sb12/0.4体積%TiO2の試料に対して、850Kで1.02のZT値を達成した。
【0039】
実施例III:Ba0.22Co4Sb12(実組成)の微細粉末2.0gを超音波の下で脱イオン水35mLに20分かけて分散させた。続いて、最終のBa0.22Co4Sb12/1.8体積%TiO2組成のため、アルコールで希釈されたチタン酸テトラブチル(Ti(OC4H9)4)溶液(2体積%のTi(OC4H9)4溶液)4.3mLを撹拌されているBa0.22Co4Sb12懸濁液に時間をかけて滴下した。加水分解完了後、真空濾過器で懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中130℃で1時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、N2雰囲気内450℃で6時間熱処理した。80MPaの圧力の下で585℃40分間のホットプレス(HP)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。ゼーベック係数は300Kで−119μVK−1まで向上し、13%というかなりの向上が得られた。
【0040】
図8は実施例2及び3の、Ba0.22Co4Sb12/x体積%TiO2(x=0.0,0.8,1.8)組成の試料に対する電気伝導度対温度のグラフである。図9は実施例2及び3の試料に対するゼーベック係数(S)対温度のグラフである。図10は実施例2及び3の試料に対する格子熱伝導度対温度のグラフである。図11は実施例2及び3の試料に対する示性数(ZT)対温度のグラフである。
【0041】
実施例IV:Ba8Ga16Ge30(公称組成)の微細粉末2.5gを超音波下でアルコール(95体積%)30mLに40分かけて分散させた。続いて、最終のBa8Ga16Ge30/1.4体積%ZrO2組成のため、アルコールで希釈されたいくらかの量の(二)塩化ジルコニル(ZrOCl2・8H2O)溶液(3体積%のZrOCl2溶液)を撹拌されているBa8Ga16Ge30懸濁液に時間をかけて滴下し,同時に水酸化アンモニウム(NH3・H2O)を滴下した。加水分解完了後、真空濾過器で懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中150℃で1.5時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、Ar雰囲気内450℃で3時間熱処理した。50MPaの圧力の下で550℃15分間のスパークプラズマ焼結(SPS)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。ゼーベック係数は850Kにおいて−186.1μVK−1から−195μVK−1に向上し、850Kにおいて15%のZT向上(ZT=0.75)が得られた。
【0042】
実施例V:Ti0.7Zr0.3CoSb(公称組成)の微細粉末2.0gを超音波下でアルコール(90体積%)25mLに30分かけて分散させた。続いて、最終のTi0.7Zr0.3CoSb/2.0体積%TiO2組成のため、アルコールで希釈されたいくらかの量のチタン酸テトラブチル(Ti(OC4H9)4)溶液(3体積%のTi(OC4H9)4溶液)を撹拌されているTi0.7Zr0.3CoSb懸濁液に時間をかけて滴下した。加水分解完了後、懸濁液を濾過した。得られた粉末を真空中150℃で3時間乾燥し、次いで石英るつぼに入れて、Ar雰囲気内500℃で1時間熱処理した。50MPaの圧力の下で650℃10分間のスパークプラズマ焼結(SPS)により複合材料粉末を固めて、緻密なペレットを得た。格子熱伝導度は室温(300K)において5.67Wm−1K−1から4.43Wm−1K−1に低下し、850Kにおいて、18%の向上になる、0.45のZT値が得られた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料を形成するためのプロセスにおいて、
液媒内に懸濁させた固体熱電性材料を含む懸濁配合液を提供する工程であって、前記熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金、クラスレート化合物、及びその他の熱電性の規則合金または不規則合金、及び熱電性金属間化合物から選ばれるものである工程、
前記懸濁配合液を溶媒に溶解された金属酸化物前駆体の溶液と接触させて、反応混合液を形成する工程、
水の存在の下で前記金属酸化物前駆体を加水分解して、金属酸化物を形成する工程、及び
前記熱電性材料と前記金属酸化物の複合材料を前記液媒及び前記溶媒から分離する工程、
を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記分離された複合材料を焼結する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
複合材料において、請求項2に記載のプロセスによって作製されることを特徴とする複合材料。
【請求項4】
粒径が1nm〜500nmの酸化物ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
前記金属酸化物を0.1〜10%の体積百分率で含むことを特徴とする請求項3に記載の複合材料。
【請求項1】
複合材料を形成するためのプロセスにおいて、
液媒内に懸濁させた固体熱電性材料を含む懸濁配合液を提供する工程であって、前記熱電性材料は、充填及び/またはドープトスクッテルダイト、ハーフホイスラー合金、クラスレート化合物、及びその他の熱電性の規則合金または不規則合金、及び熱電性金属間化合物から選ばれるものである工程、
前記懸濁配合液を溶媒に溶解された金属酸化物前駆体の溶液と接触させて、反応混合液を形成する工程、
水の存在の下で前記金属酸化物前駆体を加水分解して、金属酸化物を形成する工程、及び
前記熱電性材料と前記金属酸化物の複合材料を前記液媒及び前記溶媒から分離する工程、
を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記分離された複合材料を焼結する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
複合材料において、請求項2に記載のプロセスによって作製されることを特徴とする複合材料。
【請求項4】
粒径が1nm〜500nmの酸化物ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
前記金属酸化物を0.1〜10%の体積百分率で含むことを特徴とする請求項3に記載の複合材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−533177(P2012−533177A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519750(P2012−519750)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/041470
【国際公開番号】WO2011/006034
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【出願人】(511112319)シャンハイ インスティテュート オブ セラミクス チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ (6)
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI INSTITUTE OF CERAMICS, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/041470
【国際公開番号】WO2011/006034
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【出願人】(511112319)シャンハイ インスティテュート オブ セラミクス チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ (6)
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI INSTITUTE OF CERAMICS, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【Fターム(参考)】
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