説明

燃料インジェクタに用いられるばねスリーブ

本発明は、保持体(12)とノズルボディ(14)とを有する燃料インジェクタ(10)であって、保持体(12)とノズルボディ(14)とが、互いに接合さていて、カプラモジュール(18)を収容しており、該カプラモジュール(18)のカプラボディ(22)が、ばねスリーブ(26)により取り囲まれている形式ものに関する。ばねスリーブ(26)は、周方向(62)で開いている(58)。ばねスリーブ(26)の肉厚さ(84)が、長手方向(60)で変化しているか、またはばねスリーブ(26)の周壁面に設けられた少なくとも1つの切欠きジオメトリ(68,70)の幅(94)が、長手方向(60)で変化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持体とノズルボディとを有する燃料インジェクタであって、保持体とノズルボディとが、互いに接合されて、カプラモジュールを収容しており、該カプラモジュールのカプラボディが、ばねスリーブにより取り囲まれている形式ものに関する。
【0002】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19650865号明細書に基づき、噴射弁、たとえばコモンレール式高圧蓄圧器噴射システムの噴射弁の制御室内の燃料圧を制御するための電磁弁が公知である。制御室内の燃料圧を介して、弁ピストンの行程運動が制御され、この弁ピストンにより噴射弁の噴射開口が開閉させられる。この電磁弁は、電磁石と、可動のアーマチュアと、該アーマチュアと共に運動させられ、かつ弁閉鎖ばねによって閉鎖方向に負荷された弁部材とを有している。この弁部材は、電磁弁の弁座と協働し、こうして制御室からの燃料流出を制御する。
【0003】
従来使用されていた燃料インジェクタでは、袋ナットを用いたねじ結合が実現されている。この袋ナットは、ノズルボディと、該ノズルボディに載置された絞りプレートと、燃料インジェクタの弁プレートとを、燃料インジェクタの保持体に結合させる。この場合、燃料インジェクタがピエゾアクチュエータを用いて操作されるか、または電磁弁を用いて操作されるかは、さしあたり、あまり重要ではない。一般的に、有利にはPTFEから製造されるシールリングが使用され、これによって燃料インジェクタの低圧領域の、外部に対するシールが得られる。通常では、ノズルボディと、絞りプレートと、弁プレートとを収容しているノズル緊締ナットと、保持体とを結合するためには、ノズル緊締ナットの内面にねじ山が形成されている。このねじ山を介して、保持体と、ノズルボディと、それらの中に嵌め込まれた構成部分とから成る螺合ユニット(Schraubverband)に対するプリロード力が達成される。一方ではノズル緊締ナットの内面に、他方では保持体の外周面にねじ山を製作することは、手間がかかりかつ高価であり、さらには、ねじ山における望ましくない漏れや、ねじ山締付けトルクによって螺合ユニットに導入されたプリロード力の不均一に分配された作用が生じる恐れがある。
【0004】
燃料インジェクタにはカプラが使用される。このカプラは、一般にモジュール形に形成されていて、燃料インジェクタの切換弁と、電磁弁またはピエゾアクチュエータである操作エレメントとの間に延びている。燃料インジェクタにおいて従来使用されてきたカプラモジュールは、該カプラモジュールに内蔵された、開いたばねスリーブを有している。このばねスリーブは、運転時に高い動的負荷を受けるので、極めて頑丈でなければならない。
【0005】
カプラモジュール内に挿入されたばねスリーブの従来の実施形態は、環状に配置された複数の切欠きを有している。これらの切欠きは、交互に配置されて位置する孔パターンで延びている。ばねスリーブは、たとえば、開かれたばねスリーブとして設計され、互いに異なる2種のポンチジオメトリ(幾何学形状)を有している。これらのポンチジオメトリを介して、開いたばねスリーブは、軸方向の負荷時に横方向力なしの状態に維持されるようになる。
【0006】
インジェクタの運転時には、個々の差ストローク(Differenzwege)d〜dが生じる。これらの差ストロークd〜dは、動的負荷時には、静的負荷時と比べて、互いに異なっている。これらの差ストロークd〜dは、時間的な順序で変化する。静的負荷時には、差ストロークd〜dは等しい大きさであり、それぞればね長さの全長の数分の1に相当する。
【0007】
差ストロークおよびこれに関連する局所的な動的負荷は、たとえば開いて形成されたばねスリーブの縁領域では著しく高く、ばねスリーブの中央部に向かって減少する。通常は開いて形成されたばねスリーブの、最適化された形状により、頑丈性、つまり損傷なく実施される負荷サイクルの数を増大することができる。
【0008】
発明の開示
本発明によれば、燃料インジェクタの運転時の動的負荷に関してより高い頑丈性を有する、開いたばねスリーブが提案される。本発明により提案されたばねスリーブは、互いに異なる2種の切欠きジオメトリを有しており、これらの切欠きジオメトリは、軸方向負荷時に横方向力を有しないことを確保するために、中空円筒体として形成されているばねスリーブの周壁面に形成されている。
【0009】
インジェクタの運転中、本発明により提案されたばねスリーブの個々の差ストロークd〜dは、動的負荷時には、静的負荷時に比べて、時間的な順序でたとえばより高くなり、付加的には互いに変化する。本発明により提案された開いたばねスリーブの静的負荷時には、個々の差ストロークd〜dは等しい大きさであり、かつ本発明により提案された、開いて形成されたばねスリーブの全長dgesの1/7の長さにそれぞれ相当する。
【0010】
本発明により提案された、開いて形成されたばねスリーブの差ストローク、ひいては局所的な動的負荷は、縁領域でより高くなり、ばねスリーブの中央部に向かって減少する。これに相応して、開いたばねスリーブの、本発明により提案された最適化された形状により、ばねスリーブの頑丈性を増大させることができるので、このばねスリーブは、特に縁領域で、より高い局所的な負荷に耐える。これによって、燃料インジェクタの運転時に構成部分が損傷することなしに、>1.2×10負荷交番の応力サイクル数を実施することができる。
【0011】
本発明によれば、開いて形成されたばねスリーブの機械的な負荷を、長手方向でより均一に形成することが提案される。このためには、本発明により提案されたばねスリーブの肉厚さを長手方向で変化させることができるか、またはばねスリーブの周壁面に形成された切欠きの切欠きジオメトリを変化させることができる。
【0012】
本発明により提案された解決手段の第1の有利な実施形態によれば、開いて形成されたばねスリーブの材料の肉厚さの変化を行なうことができる。本発明により提案された、開いて形成されたばねスリーブの肉厚さの変化が、長手方向で行われると有利であり、この場合、開いたばねスリーブの内径、または開いて形成されたばねスリーブの外径が変化してよい。ばねスリーブの内径および外径を変化させることも可能である。肉厚さの変化は、開いて形成されたばねスリーブの材料の最小肉厚さと最大肉厚さとの間で約20%の差が生ぜしめられるように形成されると有利である。
【0013】
ばねスリーブの縁領域、つまりばねスリーブの上端部もしくは下端部において肉厚さがより高く形成されると共に、肉厚さの変化が凹状または凸状に延びていることにより、この場所、つまり開いて形成されたばねスリーブの上端面もしくは下端面のところでは、動的負荷時の局所的な変形が小さくなり、その結果生ぜしめられる応力が小さくなる。肉厚さの変化は、肉厚さが、平均すると、長手方向にわたって一定の肉厚さである場合の肉厚さに相当し、これによって、全体剛性、つまり本発明により提案された開いたばねスリーブのばね定数が変えられないように調節されると有利である。本発明により提案されたばねスリーブは、たとえば燃料インジェクタのカプラモジュールのカプラボディで使用され、ピエゾアクチュエータであれ電磁弁であれ燃料インジェクタの操作機構の通電の中断時に、カプラモジュールを戻すために役立つ。本発明により提案されたばねスリーブは、2つの機能を果たす。第1には、ばねスリーブはカプラモジュール、特にカプラピストンを戻すために働き、第2には、ばねスリーブはその静的プリロード(予荷重)に基づいて、ピエゾアクチュエータにプリロード力(押圧力)をかける。
【0014】
本発明により提案された解決手段の第2の有利な実施形態では、開いて形成されたばねスリーブの、長手方向に関連した肉厚さの変化の代わりに、開いて形成されたばねスリーブの周壁面に設けられた切欠きの構成の変更が行われ得る。本発明により提案された、開いて形成されたばねスリーブの互いに突き合わせられた端部は、分離合口部を形成しており、このばねスリーブでは、第1の切欠きジオメトリと第2の切欠きジオメトリとが交互の順序に形成される。第1の切欠きジオメトリならびに第2の切欠きジオメトリは、開いて形成されたばねスリーブの長手方向に関連して、その幅の点では、第1の切欠きジオメトリに関しては第1の幅S,minとS,maxとの間に形成され、第2の切欠きジオメトリに関しては、最小幅S,minと最大幅S,maxとの間に形成され得る。
【0015】
本発明により提案された、長手方向に関連した切欠きジオメトリの変化形によれば、第1の切欠きジオメトリの幅も、第2の切欠きジオメトリの幅も、本発明により提案された、開いて形成されたばねスリーブの縁領域では、中央部における切欠き幅の約80%であるにすぎない。
【0016】
本発明の第2の実施形態において行われる、長手方向に関連した切欠き幅の変化により、本発明により提案された、開いて形成されたばねスリーブの縁領域が補剛され、これにより、当該縁領域での局所的な変形は相応して小さくなる。
【0017】
その結果が、燃料インジェクタの運転中の動的負荷時における、開いて形成されたばねスリーブの一層均一な負荷である。全体剛性、つまり開いて形成されたばねスリーブのばね定数を変化させないようにするためには、平均切欠き幅もしくは第1の実施例による平均肉厚さが、第1の切欠きジオメトリでも第2の切欠きジオメトリでも、一定の切欠き幅の場合の切欠き幅の値にほぼ一致するように配慮される。
【0018】
以下に本発明の実施例を図面につき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】保持体が、公知先行技術によるばねスリーブを有するカプラモジュールを収容している、燃料インジェクタの断面図である。
【図2】本発明により提案されたばねスリーブの上側部分の斜視図である。
【図3】図2に部分的に示された、開いて形成されたばねスリーブの縦断面図である。
【図4.1】本発明により提案された、一定の内径および外径を有するばねスリーブの部分断面図である。
【図4.2】本発明により提案された、可変の内径を有するばねスリーブの部分断面図である。
【図4.3】本発明により提案された、可変の外径を有するばねスリーブの部分断面図である。
【図5】開かれたばねスリーブの周壁面に形成された第1の切欠きジオメトリおよび第2の切欠きジオメトリの長手方向で変化した幅を有する切欠きを有するばねスリーブの展開図である。
【0020】
実施形態
図1には、カプラモジュールを有する、公知先行技術による燃料インジェクタの断面が図示されている。
【0021】
図1には、保持体12と、ノズルボディ14とを有する燃料インジェクタ10が図示されている。保持体12とノズルボディ14とは、ノズル緊締ナット16を介して互いに結合されている。保持体12は、1つの中空室36を有しており、この中空室36内にはカプラモジュール18が収容されている。
【0022】
カプラモジュール18は、カプラピストン20ならびにカプラボディ22を有している。カプラボディ22は、カプラピストン20だけでなく、ピストン24をも取り囲んでいる。ピストン24にはカプラピストン20が作用する。カプラボディ22の周壁面28は、ばねスリーブ26により取り囲まれている。
【0023】
図1に示した断面図からは、保持体12とノズルボディ14とが、弁プレート34と絞りプレート40とを間にはさんで、螺合部30において互いに結合されていることが判る。保持体12をも、弁プレート34をも、絞りプレート40をも貫いて供給部32が延びている。この供給部32内にはシステム圧下にある燃料が存在していて、この燃料により燃料インジェクタ10が負荷されている。
【0024】
電磁弁であれピエゾアクチュエータであれ、燃料インジェクタ10に設けられた操作機構(図1には詳細に図示せず)は、カプラモジュール18を介して切換弁38に作用結合されている。カプラモジュール18を介して、ピエゾアクチュエータであれ電磁弁であれ操作機構により行われる行程運動が、切換弁38における切換運動に変換される。
【0025】
図1に示した断面図からは、さらに、弁38が、弁プレート34内に形成されていることが判る。この弁プレート34の下方には、符号「40」により示された絞りプレートが位置しており、この絞りプレート40の第1の端面は符号「42」、第2の端面は符号「44」により示されている。絞りプレート40の第2の端面44は、制御室46に面している。制御室46自体は、制御室スリーブ48を介して画定されている。制御室スリーブ48は、ばね部材を介して、絞りプレート40の第2の端面44に当て付けられている。符号「50」は、流入絞りを示している。この流入絞り50を介して、燃料インジェクタ10に設けられた制御室46は、保持体12と、弁プレート34と、絞りプレート40とを貫いて延びる供給部32を介して、システム圧下にある燃料により負荷されている。
【0026】
図2は、本発明により提案されたばねスリーブの上側領域の斜視図である。
【0027】
図2に示したばねスリーブ26は、図1に示したように、カプラボディ22の外周面に被せられている。燃料インジェクタ10を操作するために、つまり燃料インジェクタ10の制御室46を放圧するために操作機構の通電が中断されるやいなや、ばねスリーブ26は、カプラモジュール18のカプラピストン20とピストン24との互いに相対的な戻しを生ぜしめる。ばねスリーブ26は、高い機械的負荷にさらされていて、燃料インジェクタ10の運転時に、1.2x10のオーダの負荷サイクルを受ける。
【0028】
本発明により提案された、図2に部分的な斜視図で示したばねスリーブ26は、合口部(Fuge)58を有している。この合口部58に沿って、ばねスリーブ26の材料の互いに面している端部が、互いに接触することなしに、互いに向かい合って位置している。ばねスリーブ26の周壁における周方向は、符号「62」(x方向)により示されており、本発明により提案されたばねスリーブ26の周壁における長手方向は、符号「60」(y方向)により示されている。図2に示されたばねスリーブ26は、内径Dを有している(符号「64」を参照)。図1に示したばねスリーブ26の肉厚さは、符号「66」(寸法t)により示されている。
【0029】
図2に図示されたばねスリーブ26の上側領域の斜視図からは、材料、つまりばねスリーブ26の周壁面に、第1の切欠きジオメトリ68と、第2の切欠きジオメトリ70とが加工成形されていることが判る。第1の切欠きジオメトリ68の切欠きと、第2の切欠きジオメトリ70の切欠きとは、互いに対してずらされた配置72でばねスリーブ26の材料に形成されている。第1の切欠きジオメトリ68の切欠きは、第2の切欠きジオメトリ70の切欠きの幅Sよりも第1の切欠きジオメトリ68の切欠きの幅Sが大きく形成されている点で、第2の切欠きジオメトリ70に形成されている切欠きとは異なっている。本発明により提案された、長手方向60でy方向に延びる合口部58を有するばねスリーブ26の上面は、符号「74」により示されている。
【0030】
図3は、一定の内径ならびに一定の外径を有する、本発明により提案されたばねスリーブの1実施形態の断面を示している。
【0031】
図3から判るように、中心線56に対して対称的に形成された、分離合口部58を有するばねスリーブ26は、上面74と下面76とを有している。開いて形成された、つまり分離合口部58を有するばねスリーブ26の周壁面の一定の厚さは、符号「66」により示されており、寸法tに形成されている。
【0032】
燃料インジェクタの運転時、つまりカプラモジュール18の運転時(図1を参照)には、個々の差ストローク80が生じる。これらの差ストローク80は、図3ではd〜dで示されている。個々の差ストロークd〜dは、本発明により提案されたばねスリーブ26の動的負荷時には、その時間的な順序に関して不規則的であり、かつ付加的には互いに変化する。静的負荷時には、差ストロークd〜dは、(図3に示すように)等しい大きさとなり、それぞれ寸法78の1/7、つまり全ストロークdgesの1/7に相当する。図3から判るように、各差ストローク80d〜dは、それぞれ、第1の切欠きジオメトリ68に形成された切欠きの1つの列から、同じく第1の切欠きジオメトリ68に形成された切欠きの次の列にまで延びている。これらの間に位置する、第2の切欠きジオメトリ70に形成されている切欠きの列は飛び越えられる。
【0033】
差ストローク、ひいては局所的な動的負荷は、縁部領域、つまり、本発明により提案されたばねスリーブの26の、長手方向で見て最初の切欠き列および最後の切欠き列においてより高く、かつばねスリーブ26の真ん中に向かって減少する。
【0034】
図4.1、図4.2および図4.3の一連の図は、肉厚さが長手方向(y方向)に関連して変化する、本発明により提案された、開いて形成されたばねスリーブ26の実施形態が示されている。
【0035】
図4.1から判るように、図4.1に部分断面図で示されたばねスリーブ26は、第1の突合せ縁部96が第2の突合せ縁部98から分離合口部58によって分離されているばねスリーブである。図4.1の断面図から判るように、図4.1に示したばねスリーブ26の肉厚さ66は一定であり、つまりばねスリーブ26は、一定の内径64Dと、長手方向60(y方向)に関して一定に延びる一定の外径82Dとを有していることが判る。念のために付言しておくと、図4.1の断面図において、ばねスリーブ26の上面は符号「74」で示されており、ばねスリーブ26の下面は符号「76」で示されている。
【0036】
図4.2には、外径が一定に形成されており、内径が長手方向にわたって変化している、本発明により提案された、開かれたばねスリーブの実施形態が示されている。
【0037】
図4.2に示した断面図からは、図4.2に図示されたばねスリーブ26も同じように、突合せ縁部96,98が合口部58に沿って互いに接触することなく互いに向かい合って位置しているばねスリーブであることが判る。一連の図4.1、図4.2および図4.3では、切欠きパターン(図3に示した第1の切欠きジオメトリ68の切欠きおよび第2の切欠きジオメトリ70の切欠きを参照)は、図面を簡単にするという理由から図示されていない。
【0038】
さらに図4.2からは、ばねスリーブ26の肉厚さ66の変化84が、y方向60、つまり長手方向で行われることが判る。このことを明示するために、図4.2には基準線86が破線で描かれている。外径82(D)は一定であるので、内径Dの変化が、内側の半径R(符号88を参照)により実現されている。内側の半径「88,R」の曲率の経過により生ぜしめられて、図4.2に図示されたばねスリーブ26の変化する肉厚さ84は、中央部、つまり上面74および下面76に対して等距離である部位において、最小肉厚さt,minをとり、上面74もしくは下面76の領域で最大肉厚さt,maxをとる。この寸法t,minおよびt,maxは可変の内径Dに関連する。
【0039】
図4.2の図面と同様に、図4.3には、内径Dが一定に保持されていて、外径が長手方向で可変に形成されている、本発明により提案されたばねスリーブが示されている。
【0040】
図4.3に示した構成では、ばねスリーブ26の内径D(上面74と下面76の間の符号64を参照)が一定である。図4.3に図示されたばねスリーブ26は、同じく周壁面の突合せ縁部96,98が、合口部58の領域で互いに接触することなく互いに向かい合っているばねスリーブである。
【0041】
図4.3に示した実施形態では、肉厚さ84の変化が、外側半径90(Rを参照)により行われているので、変化する肉厚さ84は、ばねスリーブ26の中央部の領域で最低値t,minをとり、ばねスリーブ26のそれぞれ上面74もしくは下面76の領域では最大値t,maxをとる。図4.2および図4.3の両図に示された、本発明により提案されたばねスリーブ26の実施形態では、最小肉厚さt,minならびにt,minと、最大肉厚さt,maxならびにt,maxとの間で約20%の差が形成され得る。縁領域、つまりばねスリーブ26の長手方向60に関する上面74の領域および下面76の領域における、より高い肉厚さにより、これらの領域では、本発明により提案されたばねスリーブ26の動的負荷時の局所的な変形が著しく減じられ、その結果、生ぜしめられる応力が著しく小さくなる。肉厚さの前記変化84が行われるので、平均的には、肉厚さは、一定の肉厚さ66(寸法t)の場合の値にほぼ相当しており、これにより全体剛性、つまり本発明により提案された、開いて形成されたばねスリーブ26のばね定数は変化しない。
【0042】
図5には、本発明により提案された、最適化されて形成されたばねスリーブの別の実施形態が展開された形で図示されている。
【0043】
図5からは、ばねスリーブ26の展開された周壁面92が、ほぼ方形の外観を有していることが判る。図5に展開されて図示されたばねスリーブ26は、長手方向60(y方向)に、多数の切欠き列を有しており、これらの切欠き列は、第1の切欠きジオメトリ68と第2の切欠きジオメトリ70とに交互に形成されている。周方向62(x方向)では、第1の切欠きジオメトリ68の切欠きもしくは第2の切欠きジオメトリ70の切欠きが、周方向で見て相前後して位置している。
【0044】
図5からは、第2の突合せ縁部98の領域の第2の切欠きジオメトリ70の切欠きと、この切欠きに向かい合って位置する、ばねスリーブ26の周壁面の第1の突合せ縁部96の第2の切欠きジオメトリ70の切欠きとが、長手方向に関連している幅の経過94を有していることが判る。このことは、第1の突合せ縁部96および第2の突合せ縁部98の第2の切欠きジオメトリ70における切欠きの幅が、中央部に存在する最大幅S,maxを起点として、縁領域に向かう方向、つまり上面74および下面76に向かう方向で最小幅S,minにまで減じられることを意味している。
【0045】
同様のことは、第1の切欠きジオメトリ68で配置されている切欠きに対しても云える。第1の切欠きジオメトリ68の切欠きにおいても同じく、長手方向60(y方向)の関数として可変の幅経過94が設けられている。この幅経過94では、展開されたばねスリーブ92の中央部を起点として、切欠きの幅が、最大切欠き幅S,maxから、ばねスリーブ26の上面74および下面76の領域における最小切欠き幅S,minへ移行する。
【0046】
切欠きの長さ(幅)は、第1の切欠きジオメトリ68の切欠きであれ、第2の切欠きジオメトリ70の切欠きであれ、縁領域では、展開されたばねスリーブ92の中央部に位置する切欠きの幅に比べて約80%であるにすぎない。縁領域とは、端面、つまり上面74および下面76と、それぞれ最初の切欠き列および最後の切欠き列とを含んだ領域である。切欠きが形成されている領域においてしか、著しい変形が生じない。最初の切欠き列もしくは最後の切欠き列から端面までの領域では、長手方向で見て変形は比較的小さい。
【0047】
このことにより、本発明により提案されたばねスリーブ26の補剛は、縁領域、つまり上面74の領域および下面76の領域で行われる。それというのは、これらの領域では、切欠きの幅が、第1の切欠きジオメトリ68に形成されている切欠きであっても、第2の切欠きジオメトリ70に形成されている切欠きであっても、展開されたばねスリーブ92の中央部にある切欠きよりも小さく形成されているからである。展開されたばねスリーブ92の中央部には、両切欠きジオメトリ68,70の切欠きのそれぞれの最高値S,maxおよびS,maxが存在している。
【0048】
その結果、燃料インジェクタ10の運転時に動的負荷がかけられた場合の、本発明により提案されたばねスリーブ26の著しく均一な機械的な負荷が実現され得る。全体剛性、つまり図5に示された第2の実施例のばねスリーブ26のばね定数を維持するためには、平均の切欠き幅SもしくはSが、ばねスリーブ26の材料における第1の切欠きジオメトリおよび第2の切欠きジオメトリ70の切欠きの一定の切欠きの幅の場合の値に相当することが目標とされなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持体(12)とノズルボディ(14)とを有する燃料インジェクタ(10)であって、保持体(12)とノズルボディ(14)とが、互いに接合さていて、カプラモジュール(18)を収容しており、該カプラモジュール(18)のカプラボディ(22)が、ばねスリーブ(26)により取り囲まれている形式ものにおいて、ばねスリーブ(26)が、周方向(62)で開いており(58)、ばねスリーブ(26)の肉厚さ(84)が、長手方向(60)で変化しているか、またはばねスリーブ(26)の周壁面に設けられた少なくとも1つの切欠きジオメトリ(68,70)の幅(94)が、長手方向(60)で変化していることを特徴とする、燃料インジェクタ。
【請求項2】
ばねスリーブ(26)の第1の突合せ縁部(96)と、第2の突合せ縁部(98)とが、合口部(58)の領域で、互いに接触することなしに、互いに向かい合って位置している、請求項1記載の燃料インジェクタ。
【請求項3】
ばねスリーブ(26)に、ずらされた配置(72)で環状の形で、第1の切欠きジオメトリ(68)および第2の切欠きジオメトリ(70)の多数の切欠きが形成されている、請求項1記載の燃料インジェクタ。
【請求項4】
第1の切欠きジオメトリ(68)の切欠きと第2の切欠きジオメトリ(70)の切欠きとが、ほぼ骨形に形成されている、請求項3記載の燃料インジェクタ。
【請求項5】
ばねスリーブ(26)の肉厚さの変化(84)が、一定の外径(82)において、可変の内径変化として形成されている、請求項1記載の燃料インジェクタ。
【請求項6】
内径Dが、最小肉厚さt,min,t,minから、それぞればねスリーブの縁領域(74,76)に向かって、最大肉厚さの寸法t,max,t,maxにまで増大している、請求項5記載の燃料インジェクタ。
【請求項7】
最小肉厚さt,min,t,minと、最大肉厚さt,max,t,maxとの間に、肉厚さ(66)の約20%の差が存在している、請求項5または6記載の燃料インジェクタ。
【請求項8】
第1の切欠きジオメトリ(68)の切欠きと、第2の切欠きジオメトリ(70)の切欠きとが、ばねスリーブ(26)の長手方向(60)で見て、長手方向(60)に関連した幅経過(94)を有している、請求項1記載の燃料インジェクタ。
【請求項9】
第1の切欠きジオメトリ(68)の切欠きの幅Sと、第2の切欠きジオメトリ(70)の切欠きの幅Sとが、ばねスリーブ(26)の中央部を起点として、縁領域(74,76)に向かって減少している、請求項8記載の燃料インジェクタ。
【請求項10】
第1の切欠きジオメトリ(68)の切欠きの幅経過(94)が、長手方向で、上面(74)を起点として、最小幅S,minから、中央部の最大幅S,maxへ経過し、かつばねスリーブ(26)の下面(76)の方向に向かって最小幅S,minへ経過し、第2の切欠きジオメトリ(70)の切欠きの幅経過(94)が、上面(74)を起点として、最小幅S,minから、中央部に向かって最大幅S,maxへ経過し、かつばねスリーブ(26)の下面(76)の方向に向かって再び最小幅S,minへ減少しており、
第1の切欠きジオメトリ(68)の切欠きの幅ならびに第2の切欠きジオメトリ(70)の切欠きの幅が、縁領域において、中央部における第1の切欠ジオメトリ(68)および第2の切欠きジオメトリ(70)の切欠きの幅の約80%である、請求項8記載の燃料インジェクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4.1】
image rotate

【図4.2】
image rotate

【図4.3】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2010−520966(P2010−520966A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553090(P2009−553090)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/051124
【国際公開番号】WO2008/110409
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】