説明

燃料チューブ

【課題】耐燃料透過性に優れた燃料チューブ、特にガソリンにアルコールを混合させた燃料に対して優れた耐燃料透過性を有する燃料チューブを提供する。
【解決手段】燃料チューブ1は、燃料に直接接触する内層2が半芳香族ポリアミド系樹脂層であり、当該内層2に直接積層された外層3が含フッ素エチレン性重合体層である。両層はアミン官能基によって化学的に結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を通す燃料チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、車の燃料として従来のガソリンに替わり、バイオマス由来のアルコールを混合したガソリンが用いられるようになってきている。
【0003】
ガソリン用の燃料チューブの材料としては、ポリアミド11やポリアミド12が従来より用いられており、これらは強度、靭性、耐ガソリン透過性、柔軟性に優れている。しかしながら、これらの樹脂はアルコール混合ガソリンに対しては透過防止性が十分ではない。また、単独の樹脂でアルコール混合ガソリンに対して上記の全ての特性を満足させるものはなく、複数の樹脂を組み合わせた多層の燃料チューブが提案されてきた。
【0004】
そのような燃料チューブの層の材料の一つとして、高い耐燃料透過性を得るためにETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)が採用されてきた。ただし、このETFEは、燃料チューブのコストを高くし、また、その肉厚が薄くなると、耐燃料透過性が十分に発揮されないという問題があるので、ETFE層と各種バリア材層とを内外に重ねた積層チューブが開発されている。その一つは、ETFE層と半芳香族ポリアミド樹脂層とを積層したものである(特許文献1参照)。この積層チューブでは、ETFE層と半芳香族ポリアミド樹脂層とが接着剤層を介して積層されている。
【特許文献1】特許第3194053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、上記燃料移送用チューブは、アルコール、ガソリンおよびこれらの混合燃料のいずれにも使用できると記載されている。しかしながら、この燃料移送用チューブは内層であるETFE層と中間層である部分芳香族ポリアミド層とを接着剤層を介して積層しているので、長時間燃料を流していると内層と中間層との間の接着力が著しく低下してしまい、燃料がチューブ端面から外へと透過してきてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐燃料透過性に優れた燃料チューブ、特にガソリンにアルコールを混合させた燃料に対して優れた耐燃料透過性を有する燃料チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は含フッ素エチレン性重合体層を半芳香族ポリアミド系樹脂層の外側に直接積層させるようにした。
【0008】
すなわち、本発明の第1の燃料チューブは、内外に積層された複数の層を有する燃料チューブであって、前記複数の層は、半芳香族ポリアミド系樹脂層と、含フッ素エチレン性重合体層とを有しており、前記含フッ素エチレン性重合体層は、前記半芳香族ポリアミド系樹脂層の外側に直接積層されて該半芳香族ポリアミド系樹脂層とアミン官能基によって化学的に結合されている構成を有している。ここでアミン官能基は主として半芳香族ポリアミド系樹脂の末端アミノ基のことである。
【0009】
また、本発明の第2の燃料チューブは、内外に積層された複数の層を有する燃料チューブであって、前記複数の層は、半芳香族ポリアミド系樹脂層と、含フッ素エチレン性重合体層とを有しており、前記含フッ素エチレン性重合体層は、変性含フッ素エチレン性重合体を含んでいるとともに、前記半芳香族ポリアミド系樹脂層の外側に直接積層されている構成を有している。
【0010】
上記の構成により、含フッ素エチレン性重合体層と半芳香族ポリアミド系樹脂層との間の接着力が高くなり、当該燃料チューブに燃料を通した状態が長時間続いても、その両層間の接着力の低下が少なくなる。
【0011】
上記含フッ素エチレン性重合体は、少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体から誘導される繰り返し単位を有するホモポリマー鎖又はコポリマー鎖を有するものであり、含フッ素エチレン性単量体のみを重合してなるか、又は、含フッ素エチレン性単量体とフッ素原子を有さないエチレン性単量体を重合してなるポリマー鎖であってよい。また、変性含フッ素エチレン性重合体とは、含フッ素エチレン性重合体のポリマー鎖に種々の官能基が置換によって導入されたものである。
【0012】
上記含フッ素エチレン性単量体は、フッ素原子を有するオレフィン性不飽和単量体であり、具体的には、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテン、式CH=CX(CF(式中、XはH又はF、XはH、F又はCl、nは1〜10の整数である。)で示される単量体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類などである。
【0013】
上記フッ素原子を有さないエチレン性単量体は、耐熱性や耐薬品性などを低下させないためにも炭素数5以下のエチレン性単量体から選ばれることが好ましい。具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどがあげられる。
【0014】
上記半芳香族ポリアミド系樹脂としては、全ジカルボン酸成分の60〜100モル%がテレフタル酸であるジカルボン酸成分と、全ジアミン成分の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから選ばれるジアミン成分とからなるポリアミド樹脂である(以下PA9Tと略記する場合がある)ことが好ましい。前記ジアミンは炭素数9の脂肪族ジアミンである。この構成により、当該燃料チューブの耐熱性、成形性、耐ガソリン透過性、耐薬品性、低吸水性、軽量性、機械的特性、成形加工性を高める上で有利になる。
【0015】
PA9Tのジカルボン酸成分としてはテレフタル酸が好ましく用いられる。その使用量は、ジカルボン酸成分全体に対して、60モル%以上であり、好ましくは75モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。テレフタル酸成分が60モル%未満の場合には、得られる積層構造体の耐熱性、耐薬品性などの諸物性が低下するため好ましくない。
【0016】
テレフタル酸成分以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、あるいはこれらの任意の混合物を挙げることができる。これらのうち芳香族ジカルボン酸が好ましく使用される。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。
【0017】
PA9Tのジアミン成分としては、1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから選ばれるジアミンが好ましく用いられる。その使用量は、ジアミン成分全体に対して、60モル%以上であり、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上である。ジアミン成分として、上記の量の1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから選ばれるジアミンを使用することにより、耐熱性、成形性、耐薬品性、低吸水性、軽量性、力学特性、成形加工性のいずれにも優れる積層型燃料チューブが得られる。1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比は、好ましくは30:70〜95:5、より好ましくは40:60〜90:10である。
【0018】
他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テルなどの芳香族ジアミン、あるいはこれらの任意の混合物を挙げることができる。
【0019】
上記芳香族ポリアミド系樹脂層の内側にポリアミド12からなる層が積層されていてもよい。ここでポリアミド12とは、ラウリルラクタムを開環重合させたポリアミドである。
【0020】
さらに、前記ポリアミド12からなる層は燃料と接触する層であってもよい。またこのとき、前記ポリアミド12からなる層のうち、少なくとも燃料と接触している部分に導電性材料が含有されていてもよい。
【0021】
上記半芳香族ポリアミド系樹脂層は、燃料と接触する内層を形成していることが好ましい。
【0022】
上記の構成により、耐燃料透過性を高めるうえで有利になる。
【0023】
また、半芳香族ポリアミド系樹脂層のうち、少なくとも燃料と接触している部分に導電性材料が含有されていることが好ましい。
【0024】
上記の構成により、当該燃料チューブ内の燃料の内部摩擦あるいはチューブ壁との摩擦によって発生した静電気が蓄積して燃料が帯電することを防止する上で有利になる。
【0025】
導電材料としては、カ−ボンブラック、グラファイト等の粒状フィラーが好適に使用できる。アルミフレ−ク、ニッケルフレ−ク、ニッケルコ−トマイカ等のフレ−ク状フィラ−や、炭素繊維、炭素被覆セラミック繊維、カ−ボンウィスカ−、アルミ繊維や銅繊維や黄銅繊維やステンレス繊維といった金属繊維も好適に使用できる。これらの中では、カ−ボンブラック、特にケッチェンブラックが最も好適である。導電性材料は半芳香族ポリアミド系樹脂層の全てに含有されていても構わない。
【0026】
上記含フッ素エチレン性重合体は、接着性を付与する官能基を有する変性含フッ素エチレン性重合体であることが好ましい。接着性を有する官能基は、反応性や極性を有する基で、例えばカルボキシル基、1分子中の2つのカルボキシル基が脱水縮合した残基(以下、カルボン酸無水物残基という。)、エポキシ基、水酸基、イソシアネート基、エステル基、アミド基、アルデヒド基、アミノ基、加水分解性シリル基、シアノ基、炭素−炭素二重結合、スルホン酸基及びエーテル基等が好ましいものとして挙げられる。なかでも、カルボキシル基、カルボン酸無水物残基、エポキシ基、加水分解性シリル基及び炭素−炭素二重結合が好ましく、エポキシ基、無水マレイン酸基、カルボニル基が特に好ましい。このような官能基は、含フッ素エチレン性単量体1分子中に異なる種類のものが2種類以上存在していても良く、また1分子中に2個以上存在していても良い。
【0027】
上記の構成により、含フッ素エチレン性重合体層と半芳香族ポリアミド系樹脂層との層間接着力を高める上で有利となる。
【0028】
前記半芳香族ポリアミド系樹脂の分子末端のアミノ基Aとカルボニル基Bとの比率A/Bが51/49以上99/1以下であることが好ましい。
【0029】
上記の構成により、上記層間接着力を高める上で有利となる。
【0030】
含フッ素エチレン性重合体層の外側にポリアミド11またはポリアミド12からなる層が積層されていることが好ましい。
【0031】
上記の構成により、耐燃料透過性を高いレベルで実現しながら、良好な機械的特性、耐候性、耐外傷性、難燃性などを高める上で有利になる。
【0032】
半芳香族ポリアミド系樹脂層と含フッ素エチレン性重合体層との間の接着力が20N/cm以上であることが好ましい。
【0033】
トルエンとイソオクタンとエタノールとが45:45:10の体積比率で混合された液を当該燃料チューブに封入して60℃の温度に20日間保持した後の前記半芳香族ポリアミド系樹脂層と前記含フッ素エチレン性重合体層との間の接着力が20N/cm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
以上のように本発明によれば、含フッ素エチレン性重合体層が半芳香族ポリアミド系樹脂層の外側に直接積層されて該半芳香族ポリアミド系樹脂層とアミン官能基によって化学的に結合されているため、高い耐燃料透過性と良好な機械特性を有する耐久性の高い燃料チューブを低コストで提供することができる。また、含フッ素エチレン性重合体層は、変性含フッ素エチレン性重合体を含んでいるとともに、半芳香族ポリアミド系樹脂層の外側に直接積層されているので、同様に、高い耐燃料透過性と良好な機械特性を有する耐久性の高い燃料チューブを低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
実施形態を説明するのに先だって、本発明に至った経緯について述べる。
【0036】
特許文献1に記載の燃料移送用チューブは、最内層をETFE層とし、その外側に接着剤層を介して半芳香族ポリアミド樹脂層を積層している。本願発明者は、この燃料移送用チューブにアルコール混合ガソリンを流す実験を行っているときに以下のことに気づいた。
【0037】
ETFE層は、耐アルコール透過性は優れているが耐ガソリン透過性はやや劣っている。そのため、アルコール含有量が大きい現状のアルコール混合ガソリンを特許文献1に記載の燃料移送用チューブに入れると、アルコール混合ガソリンにETFE層が接触しているため、ガソリンがETFE層を通過し、耐ガソリン透過性が高い半芳香族ポリアミド樹脂層との間にガソリンが溜まってしまい、接着剤層の接着力を低下させ、2つの層の間をガソリンが通ってチューブ断面からガソリン蒸気が揮散してしまう。この現象を基にして鋭意検討した結果、本願発明を想到するに至った。
【0038】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
【0039】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係る2層構造の燃料チューブ1を示す。該燃料チューブ1において、2は燃料が通る内層、3は内層2を全周にわたって覆う外層である。図2は本発明の別の実施形態に係る3層構造の燃料チューブ4を示す。すなわち、この燃料チューブ4は、燃料が通る内層2と、該内層2を全周にわたって覆う中間層5と、該中間層5を全周にわたって覆う外層6とを備えている。
【0040】
本実施形態は、上記燃料チューブ1,4の内層として半芳香族ポリアミド系樹脂を採用し、2層構造の場合の外層3に、3層構造の場合の中間層5に、変性含フッ素エチレン性重合体を採用している。この変性含フッ素エチレン性重合体に導入されている官能基はポリアミドの末端アミンと結合する官能基である。また、3層構造の場合の外層6にはポリアミド11又はポリアミド12を採用することが好ましい。
【0041】
図1において、内層2と外層3とは少なくともアミン官能基によって直接化学的に結合して積層されている。また、図2において、内層2と中間層5とは少なくともアミン官能基によって直接化学的に結合して積層されている。そうして、上述の如く各層間を直接化学的に結合させるために、共押出チューブ成形法によって、各層を構成する材料を溶融させた状態又は半溶融させた状態で積層させている。
<実施例及び比較例>
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
図2に示す3層構造の燃料チューブであり、内層を構成する半芳香族ポリアミド系樹脂としてPA9Tを採用し、中間層を構成する含フッ素エチレン性重合体としてカルボニル基変性ETFEを採用し、外層はポリアミド12からなる層とした。PA9Tの分子末端のアミノ基Aとカルボニル基Bとの比率A/Bは60/40であり、ジアミン成分比率(1,9−ノナンジアミンXと2−メチル−1,8−オクタンジアミンYとの比率)X/Yは60/40である。また外層のポリアミド12の末端アミノ基とカルボニル基の比率を60:40である。
【0043】
[実施例2]
PA9Tの上記末端官能基比率A/Bを70/30とし、他は実施例1と同様に構成した。
【0044】
[実施例3]
PA9Tの上記ジアミン成分比率X/Yを55/45とし、他は実施例1と同様に構成した。
【0045】
[実施例4]
含フッ素エチレン性重合体として無水マレイン酸変性ETFEを採用し、他は実施例1と同様に構成した。
【0046】
[実施例5]
外層のポリアミド12の末端アミノ基とカルボニル基の比率を70:30とし、含フッ素エチレン性重合体としてエポキシ変性ETFEを採用し、他は実施例1と同様に構成した。
【0047】
[実施例6]
外層を構成する樹脂をPA9Tとし、他は実施例1と同様に構成した。なお、外層のPA9Tの末端アミノ基/カルボニル基の比率は、60/40である。
【0048】
[実施例7]
内層を構成する樹脂としてPA9Tにカーボンブラックを練り込んで導電性を持たせた導電性PA9Tを採用し、他は実施例1と同様に構成した。なお、導電性PA9Tの分子末端のアミノ基Aとカルボニル基Bとの比率A/Bおよびジアミン成分比率X/Yは実施例1と同じである。
【0049】
[実施例8]
内層を構成するPA9Tのうち、チューブ内面から1/3の厚み分の部分にのみカーボンブラックを練り込んで導電性を持たせた以外は実施例1と同様に構成した。
【0050】
[実施例9]
PA9Tの上記アミノ基Aとカルボニル基Bとの比率A/Bを20/80とし、他は実施例7と同様に構成した。
【0051】
[実施例10]
PA9Tの上記をジアミン成分比率X/Yを20/80とし、他は実施例7と同様に構成した。
【0052】
[実施例11]
外層のポリアミド12の末端アミノ基とカルボニル基の比率を40:60とし、他は実施例7と同様に構成した。
【0053】
[実施例12]
実施例8の最内層を導電性PA9T層の代わりに導電性PA12層とした以外は実施家例8と同じ構成とした。なお、最内層のPA12は、ダイセル・デグサ社のVESTAMID(登録商標)LX−9102を用いた。
【0054】
[比較例1]
内層を構成する樹脂をカーボンブラックを練り込んだカルボニル基変性ETFEとし、外層を構成する樹脂をポリアミド12として、2層構造の燃料チューブとした。
【0055】
[比較例2]
内層を構成する樹脂をETFEとし、中間層を構成する樹脂をPA9Tとし、外層を構成する樹脂をポリアミド12として、3層構造の燃料チューブとした。PA9Tの分子末端のアミノ基Aとカルボニル基Bとの比率A/Bは60/40であり、ジアミン成分比率(1,9−ノナンジアミンXと2−メチル−1,8−オクタンジアミンYとの比率)X/Yは60/40である。また外層のポリアミド12の末端アミノ基とカルボニル基の比率を60:40である。
【0056】
[比較例3]
内層を構成する樹脂をカーボンブラックを練り込んだカルボニル基変性ETFEとし、且つ中間層のPA9Tの上記末端官能基比率A/Bを40/60とし、他は比較例2と同様に構成した。
【0057】
[比較例4]
内層を構成する樹脂を導電性ポリフェニレンサルファイド(PPS)とし、中間層を構成する樹脂をオレフィン系熱可塑性エラストマとし、外層を構成する樹脂をポリアミド12として、3層構造の燃料チューブとした。
【0058】
<層厚さについて>
各実施例および比較例では、内層の厚さを0.15mm、中間層(比較例1では中間層はなし)の厚さを0.15mm、外層の厚さを0.70mmにした。実施例4においては、内層のうちカーボンブラックを練り込んだチューブ内面側部分の厚みを0.05mm、カーボンブラックを練り込んでいない部分の厚みを0.10mmとした。
【0059】
<性能評価>
上記実施例及び比較例について以下に述べる各項目について評価した。結果は表1から表3に示されている。
【0060】
(初期接着力)
初期接着力は、比較例1を除く他の例では、内層と中間層との間の接着力および中間層と外層との間の接着力のうち大きい方をいうが、比較例1では、内層と外層との間の接着力をいう。測定にあたっては、テストチュ−ブを半割りにし、テンシロン万能試験機を用い、30mm/minの引張速度にて180°剥離試験を実施して剥離強度を読み取り、剥離断面長さ(幅)で除した値を初期層間接着力とした。20N/cmよりも大きいことが好ましく、30N/cmよりも大きいとより好ましい。
【0061】
(チューブ柔軟性)
テストチューブを曲げたときに曲げ易いか否かによって評価した。表1から表3の×は硬くて曲げ加工時に扁平が大きく問題有り、△は柔軟性にやや劣り加工時に扁平しやすくやや硬くて曲げ加工性に劣る、○は柔軟性があり曲げ加工性に問題なし、をそれぞれ表す。
【0062】
(燃料封入20日後の接着力)
燃料封入20日後の接着力は、初期接着力と同じく、比較例1を除く他の例では、内層と中間層との間の接着力および中間層と外層との間の接着力のうち大きい方をいうが、比較例1では、内層と外層との間の接着力をいう。測定にあたっては、テストチューブ内部に、FuelC(イソオクタン:トルエン=50:50体積比)とエタノ−ルとを90:10の体積比で混合したアルコ−ル/ガソリンを封入して60℃の温度に20日間保持した後、上記初期接着力試験と同じ方法で接着力を求めた。初期接着力と同様に、20N/cmよりも大きいことが好ましく、30N/cmよりも大きいとより好ましい。
【0063】
(燃料透過速度)
テストチュ−ブ(内径6mm,肉厚1mm)に上記アルコ−ル/ガソリンを封入して全体の重量を測定し、次いで60℃のオ−ブンに入れ、一日毎に重量変化(a)を測定した。一方、上記アルコ−ル/ガソリンを封入していないテストチューブの重量変化(b)についても同様に測定した。この測定を20日間続けて、(a)−(b)により、一日あたりの燃料の重量変化を求め、チュ−ブ内表面積で除して燃料透過速度(g/m/day)とした。1g/m/day以下が目安であるが、2g/m/day以下であれば実用となる。
【0064】
(表面抵抗率)
テストチューブに電極を差し込み、定電流を流したときのテストチューブの表面抵抗率を測定した。2×10Ω以下であることが好ましい。なお、−が表示されているものは、最内層が導電性を有していないため、測定をしていないものである。
【0065】
(コスト)
最内層に導電性を有するETFEを用いたチューブとの比較である。△はほぼ同等のコストを表し、○は安価であることを示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
層間の接着力に関し、実施例は全て初期、燃料封入20日後ともに30N/cm以上であり優れた接着力であることを示している。実施例1,4,5と比較例2との比較から、ETFEにカルボニル基やエポキシ基などの官能基が導入されていないと、接着力が低いことがわかる。これは上記官能基とPA9Tの末端アミノ基とが共押出されることによって直接化学的に結合するためと考えられる。このことは、実施例1と実施例2との比較で、PA9Tのアミノ基Aとカルボニル基Bとの比率A/Bを大きくする方が層間接着力が高くなることからもわかる。接着力の観点から、比率A/Bを1よりも大に、すなわち、51/49以上にすることが好ましい。アミノ基リッチにより、PA9Tと変性ETFEとの直接接着が実用レベルで可能になり、品質安定性が高くなるからである。比較例4をみると、PPSとオレフィン系熱可塑性エラストマとの間の接着力は低く、特に燃料を封入することで接着力は大きく低下する。一方実施例5では、ETFEの変性基をエポキシ基にし、外層のポリアミド12の末端アミノ基の比率を大きくすることで接着力が大きくなっている。また、比較例3では後述の燃料透過速度が大きいため、燃料封入20日後の接着力が大きく低下している。
【0070】
チューブの柔軟性に関しては、実施例1と実施例6との比較から、外層もPA9T層とすると、チューブがやや硬くなり、曲げ加工性が低下することがわかる。従って、チューブの柔軟にして曲げ加工性を高めるには、外層はポリアミド12あるいはポリアミド11とすることが好ましい。また、実施例12は特に柔軟である。
【0071】
燃料透過速度をみると、実施例1−9,11,12と比較例1−3との比較から、内層にPA9T中間層にETFEとする方がその逆の構成よりも明らかに低くなっている。このことは、比較例においてはガソリンの耐透過性が比較的劣るETFEが燃料と接触しているためだと考えられる。なお、実施例1と実施例3、10との比較から、内層を構成するPA9Tの1,9−ノナンジアミンCと2−メチル−1,8−オクタンジアミンDとの比率C/Dを大きくする方が高い燃料バリア性を得る上で有利になることがわかる。前記の比較から、当該C/Dは30/70以上とすることが好ましく、50/50以上とすることがより好ましいということができる。PA9Tは特にガソリンバリア性に、ETFEは特にアルコールバリア性にそれぞれ効果を発揮する。
【0072】
コストに関しては、ETFEに導電性を有するようにさせる処理を施すよりもPA9Tに導電性を有するようにさせる処理を施す方が低コストであり、安価に製造できる。
【0073】
(その他の実施形態)
上記の実施形態は本発明の例であって、本発明はこれらの例に限定されない。含フッ素エチレン性重合体層は含フッ素エチレン性重合体に変性含フッ素エチレン性重合体を混合したものからなっていても構わない。例えばETFEにカルボニル基変性ETFEを重量比で20〜80%混合したものを用いることが挙げられる。
【0074】
燃料チューブは4層以上の構成であっても構わない。例えば、導電性PA9T/カルボニル基変性ETFE/ETFE/PA12という構成や導電性PA9T/PA9T/エポキシ変性ETFE/ETFE/PA12という構成などを挙げることができる。また、実施例には示していないが図1に示す2層構造のチューブでも構わない。
【0075】
外層を構成する樹脂はポリアミド12に限定されず、ポリアミド11も同様の性能を発揮する。
【0076】
また、燃料の種類によっては実施例12において燃料と接触する最内層のPA12の層は導電性を有していなくても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように、本発明に係る燃料チューブは、高い耐燃料透過性と良好な機械特性を有し、アルコール混合燃料やガソリンなどの移送用等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】2層構造の燃料チューブを示す一部断面にした斜視図である。
【図2】3層構造の燃料チューブを示す一部断面にした斜視図である。
【符号の説明】
【0079】
1,4 燃料チューブ
2 内層(半芳香族ポリアミド系樹脂層)
3 外層(含フッ素エチレン性重合体層)
5 中間層(含フッ素エチレン性重合体層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外に積層された複数の層を有する燃料チューブであって、
前記複数の層は、半芳香族ポリアミド系樹脂層と、含フッ素エチレン性重合体層とを有しており、
前記含フッ素エチレン性重合体層は、前記半芳香族ポリアミド系樹脂層の外側に直接積層されて該半芳香族ポリアミド系樹脂層とアミン官能基によって化学的に結合されていることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項2】
内外に積層された複数の層を有する燃料チューブであって、
前記複数の層は、半芳香族ポリアミド系樹脂層と、含フッ素エチレン性重合体層とを有しており、
前記含フッ素エチレン性重合体層は、変性含フッ素エチレン性重合体を含んでいるとともに、前記半芳香族ポリアミド系樹脂層の外側に直接積層されていることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記半芳香族ポリアミド系樹脂層は、テレフタル酸と炭素数9の脂肪族ジアミンとが重合したポリアミドからなることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項4】
請求項3において、
前記脂肪族ジアミンは、1,9−ノナンジアミンおよび2−メチル−1,8−オクタンジアミンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つにおいて、
前記含フッ素エチレン性重合体は、変性エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つにおいて、
前記芳香族ポリアミド系樹脂層の内側にポリアミド12からなる層が積層されていることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項7】
請求項6において、
前記ポリアミド12からなる層は燃料と接触する層であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項8】
請求項7において、
前記ポリアミド12からなる層のうち、少なくとも燃料と接触している部分に導電性材料が含有されていることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一つにおいて、
前記半芳香族ポリアミド系樹脂層は、燃料と接触する内層を形成していることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項10】
請求項9において、
前記半芳香族ポリアミド系樹脂層のうち、少なくとも燃料と接触している部分に導電性材料が含有されていることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一つにおいて、
前記含フッ素エチレン性重合体層は、エポキシ基、無水マレイン酸基およびカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする燃料チューブ。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一つにおいて、
前記半芳香族ポリアミド系樹脂の分子末端のアミノ基Aとカルボニル基Bとの比率A/Bが51/49以上99/1以下であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一つにおいて、
前記含フッ素エチレン性重合体層の外側にポリアミド11またはポリアミド12からなる層が積層されていることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一つにおいて、
前記半芳香族ポリアミド系樹脂層と前記含フッ素エチレン性重合体層との間の接着力が20N/cm以上であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一つにおいて、
トルエンとイソオクタンとエタノールとが45:45:10の体積比率で混合された液を当該燃料チューブに封入して60℃の温度に20日間保持した後の前記半芳香族ポリアミド系樹脂層と前記含フッ素エチレン性重合体層との間の接着力が20N/cm以上であることを特徴とする燃料チューブ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−100503(P2008−100503A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119590(P2007−119590)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】