説明

燃料ポンプ

【課題】プランジャ往復動式の燃料ポンプについて、燃料加圧室からカム室に液相の燃料が流入することを防止して良好なポンプ性能を確保できるようにする。
【解決手段】シリンダ34内周側に形成した漏れ燃料貯留室33Aとこれを燃料タンク2に接続する漏れ燃料回収路7とを備えてシリンダ34とプランジャ35の隙間を通過した漏れ燃料を燃料タンク2に戻す燃料ポンプにおいて、漏れ燃料貯留室33Aが連通路38,39でカム室31に接続されて途中に気液分離室37が設けられ、気液分離室37の気相部に開口したカム室31に至る連通路39をフロート37aの上下動で開閉するバルブ37bが配設されて、気液分離室37の漏れ燃料の嵩が所定レベル未満でバルブ37bは開弁状態を維持し漏れ燃料貯留室33Aとカム室31の圧力を均衡させ、嵩が所定レベル以上でバルブ37bが閉弁し液相の漏れ燃料が連通路38,39を通りカム室31に流入するのを回避するものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料供給システムに配置される燃料ポンプに関し、殊に、所定の駆動手段でカム軸を回動させてプランジャの直線往復動作に変換し、燃料を圧送するプランジャ往復動式の燃料ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
プランジャ往復動式の燃料ポンプでは、プランジャ先端側の燃料加圧室内で加圧された燃料がシリンダとプランジャの隙間からプランジャ基端側のカム室に漏れて液溜まりを形成することがあり、このカム室に侵入した液相の漏れ燃料でカムに装着した転がり軸受やカム軸の軸受に充填されたグリース等の潤滑剤が洗い流されて軸受の潤滑性を著しく劣化させ、ポンプ性能を損なうことが知られている。
【0003】
このシリンダとプランジャの隙間を介したカム室への燃料漏れの問題を回避するためにロッドシールを用いることが一般に行われており、また、特開平10−318123号公報や特開2008−157233号公報に記載され図2に示す燃料ポンプ1Bのように、シリンダ34内周面の中途位置に溝を環状に形成してなる漏れ燃料貯留室33Bを設けて、貯留した漏れ燃料がこれから延設した漏れ燃料回収路7を通り燃料タンク2に回収するものも周知である。
【0004】
しかし、このようにシリンダ34とプランジャ35との間にシール36や漏れ燃料貯留室33Bを設けたものであっても、燃料加圧室30側または漏れ燃料貯留室33B側とカム室31側との圧力差が大きくなる高圧の燃料ポンプにおいては、圧力差によりこれらを通過してカム室31まで燃料が到達する。この場合、漏れ燃料が気相である場合にはカム室31の潤滑剤(グリース等)に影響を与えにくいが、漏れ燃料が液相である場合には潤滑材を洗い流してしまうため、軸受311,312等の潤滑性を損なってポンプ性能を著しく悪化させてしまう。
【特許文献1】特開平10−318123号公報
【特許文献2】特開2008−157233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、プランジャ往復動式の燃料ポンプについて、燃料加圧室からカム室に液相の燃料が流入することを防止して良好なポンプ性能を確保できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、軸受及びカム軸を内装したカム室と、基端側をカム室内に突出してカム外周面に当接しながら先端側を燃料加圧室内に突出するプランジャと、このプランジャを往復摺動可能に挿通したシリンダと、前記シリンダ内周所定位置のプランジャ周りで溝を環状に形成してなる漏れ燃料貯留室と、前記漏れ燃料貯留室から延設されて燃料タンクに接続する漏れ燃料回収路とを備え、駆動手段により回動するカム外周面の変位動作でプランジャが往復摺動して燃料加圧室内に導入した燃料を圧送するとともに、シリンダとプランジャの隙間を通過した漏れ燃料を漏れ燃料回収路で燃料タンクに戻す燃料ポンプにおいて、前記漏れ燃料貯留室が連通路で前記カム室に接続されているとともに前記連通路の途中にフロートを有した気液分離室が設けられ、前記気液分離室上部の気相部を構成する部分に開口した前記カム室に至る前記連通路を前記フロートの上下動に連動して開閉するバルブが配設されており、前記気液分離室内に導入した液相の漏れ燃料の嵩が所定レベ
ル未満の状態で前記バルブが開弁状態を維持して前記漏れ燃料貯留室と前記カム室の圧力を均衡させ、前記嵩が所定レベル以上になったときに前記バルブが閉弁して液相の漏れ燃料の前記連通路を通過する前記カム室内への流入を回避することを特徴とする。
【0007】
漏れ燃料貯留室とカム室を連通路で接続することで漏れ燃料貯留室側とカム室側との圧力差を縮小して、シリンダとプランジャの隙間を介し液相の燃料がカム室内に流入することを回避しやすくなるが、この連通路を介して液相の漏れ燃料がカム室内に流入する畏れもある。そこで、この連通路の途中に気液分離手段としてのフロート作動式のバルブを備えた気液分離室を設けて、液相の漏れ燃料の嵩が所定レベル未満まではバルブが開弁状態を維持して漏れ燃料貯留室とカム室の圧力を均衡させ、嵩が所定レベル以上になると開弁してカム室に至る連通路を閉鎖して液相の漏れ燃料がカム室に流入することを確実に回避する。
【0008】
また、上述した燃料ポンプにおいて、その気液分離室の気相部を構成する部分とカム室とを連通するように圧力逃がし路が設けられており、この圧力逃がし路は、カム室側から気液分離室側に向かう流れのみを許容する逆止弁を有して、カム室の圧力が気液分離室の圧力よりも所定レベル以上高くなった場合に開弁してカム室の圧力を低下させることを特徴としたものとすれば、長時間の運転によりカム室内の温度が上昇する等してカム室内の圧力が過剰に上昇した場合でも、これを大気側に逃がすことなく解消することができる。
【発明の効果】
【0009】
漏れ燃料貯留室とカム室とを接続した連通路の途中に気液分離室を備えた本発明によると、燃料加圧室からカム室に液相の燃料が流入することを確実に防止して良好なポンプ性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態を示す配置図。
【図2】従来例を示す配置図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態である燃料ポンプ1Aを備えた燃料供給装置の配置図を示している。その燃料ポンプ1Aは、図示しない電動モータやエンジンのクランク軸等による駆動手段でカム軸310を回動されて駆動するものであって、車両用エンジン等における燃料供給装置の一部を構成しており、燃料タンク2に貯留したガソリン等の燃料を、燃料導入路6を介して燃料加圧室30に導入し、所定圧力に加圧して燃料送出路8を介し図示しないエンジンのインジェクタ等に送出するものである。
【0013】
この燃料ポンプ1Aは、燃料導入路6が接続して入口側と出口側に各々逆止弁を備えた燃料加圧室30と、カム310aを有したカム軸310及びこれを支持するボールベアリング式の軸受311,312を内装してなるカム室31と、シール36を介してカム室31内に基端側を突出しながらカム310a外周面に当接し、先端側を燃料加圧室30内に突出するプランジャ35と、プランジャ35をその中心軸方向所定範囲で摺動可能に挿通したシリンダ34を備えている。
【0014】
また、このシリンダ34内周側の長さ方向所定位置において、プランジャ35の周りで溝を環状に形成してなる漏れ燃料貯留室33Aが形成されており、この漏れ燃料貯留室33Aから延設されて燃料タンク2に接続する漏れ燃料回収路7を有している。そして、所定の駆動手段により回動されるカム310a外周面の変位動作により、プランジャ35が
往復摺動して燃料加圧室30内に導入した燃料を圧送するとともに、シリンダ34とプランジャ35の隙間を通過した漏れ燃料が漏れ燃料回収路7を通って燃料タンク2に戻される。
【0015】
以上のような燃料ポンプ1Aの構成は、図2に示した従来例とほぼ共通した周知のものであるが、漏れ燃料貯留室33Aは、連通路38,39でカム室31に接続されており、これにより燃料加圧室30側又は漏れ燃料貯留室33A側とカム室側31との圧力差を縮小させることができ、シリンダ34とプランジャ35の隙間を介して液相の燃料のカム室31内への直接流入を回避することができる。
【0016】
しかしながら、このように漏れ燃料貯留室33Aとカム室31を連通路38,39で接続したことにより、この連通路38,39を介して液相の漏れ燃料がカム室31内に流入することも考えられる。そこで、連通路38,39の途中に、フロート37a及びバルブ37bを内装した気液分離手段としての気液分離室37をカム室31の併設し、この気液分離室37上部の気相部を構成する部分に開口したカム室31に至る連通路39を、気液分離室37内に導入した液相の漏れ燃料の嵩の変動で上下に浮動するフロート37aの上端に設けたバルブ37bにより開閉するものとした。
【0017】
即ち、気液分離室37内に導入した液相の漏れ燃料の嵩が所定レベル未満の状態では、バルブ37bは開弁状態を維持し気相の燃料が流通しながら漏れ燃料貯留室33A内とカム室31内との圧力を均衡させるため、漏れ燃料貯留室33Aからカム室31に液相の漏れ燃料が直接流入することを回避することができる。一方、液相の漏れ燃料の嵩が所定レベル以上に溜まった状態では、フロート37aの浮力によりバルブ37bが閉弁して連通路39を閉鎖するため、液相の漏れ燃料が連通路8,9を介してカム室31内に流入することを確実に回避することができる。
【0018】
また、この燃料ポンプ1Aでは、漏れ燃料貯留室33Aから気液分離室37に至る連通路38が、上下方向に長い気液分離室37下部の液相部を構成する部分に開口しており、バルブ37bを閉弁するまで溜まった漏れ燃料の嵩の高さにより、漏れ燃料回収路7を介した漏れ燃料の回収がスムースに行われるようになっているが、これに加え、連通路38の気液分離室37における開口部分が図のように燃料タンク2の高さよりも高くなる位置に配置することにより、漏れ燃料の回収及び気液分離室37における嵩の下降が一層スムースに進みやすくなり、カム室への液浸入の可能性をより一層防止できることが期待できる。
【0019】
さらに、本実施の形態の燃料ポンプ1Aでは、気液分離室37の気相部を構成する部分とカム室31とを連通させて圧力を逃がすための圧力逃がし路37cが設けられており、且つ、この圧力逃がし路37cにはカム室31側から気液分離室37側に向かう気体の流れのみを許容する逆止弁370が配設されている。
【0020】
これにより、カム室31内の圧力が気液分離室37の圧力よりも所定レベル以上に高くなった場合に逆止弁370が開弁して、カム室31内で過剰に上昇した圧力を逃がすようになっている。例えば、長時間の運転によりカム室内の温度が上昇してカム室内の圧力が過剰に上昇した場合でも、逆止弁370を介しこれを大気側に放出することなく気液分離室37側に逃がし、圧力を適度なレベルまで低下させることが可能である。
【0021】
以上、述べたように、プランジャ往復動式の燃料ポンプについて、本発明により、燃料加圧室からカム室に液相の燃料が流入することを防止して良好なポンプ性能を確保できるようになった。
【符号の説明】
【0022】
1A 燃料ポンプ、2 燃料タンク、6 燃料導入路、7 漏れ燃料回収路、8 燃料送出路、30 燃料加圧室、31 カム室、33A 漏れ燃料貯留室、34 シリンダ、35 プランジャ、37 気液分離室、37a フロート、37b バルブ、37c 圧力逃がし路、38,39 連通路、310 カム軸、310a カム、311,312 軸受、370 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受及びカム軸を内装したカム室と、基端側を前記カム室内に突出しカム外周面に当接しながら先端側を燃料加圧室内に突出するプランジャと、前記プランジャを往復摺動可能に挿通したシリンダと、前記シリンダ内周側所定位置の前記プランジャ周りで溝を環状に形成してなる漏れ燃料貯留室と、前記漏れ燃料貯留室から延設されて燃料タンクに接続する漏れ燃料回収路とを備え、駆動手段により回動する前記カム外周面の変位動作で前記プランジャが往復摺動して前記燃料加圧室内に導入した燃料を圧送するとともに、前記シリンダと前記プランジャの隙間を通過した漏れ燃料を前記漏れ燃料回収路で前記燃料タンクに戻す燃料ポンプにおいて、前記漏れ燃料貯留室が連通路で前記カム室に接続されているとともに前記連通路の途中にフロートを有した気液分離室が設けられ、前記気液分離室上部の気相部を構成する部分に開口した前記カム室に至る前記連通路を前記フロートの上下動に連動して開閉するバルブが配設されており、前記気液分離室内に導入した液相の漏れ燃料の嵩が所定レベル未満の状態で前記バルブが開弁状態を維持して前記漏れ燃料貯留室と前記カム室の圧力を均衡させ、前記嵩が所定レベル以上になったときに前記バルブが閉弁して液相の漏れ燃料の前記連通路を通過する前記カム室内への流入を回避することを特徴とする燃料ポンプ。
【請求項2】
前記気液分離室の気相部を構成する部分と前記カム室とを連通するように圧力逃がし路が設けられており、前記圧力逃がし路は前記カム室側から前記気液分離室側に向かう流れのみを許容する逆止弁を有して、前記カム室の圧力が前記気液分離室の圧力よりも所定レベル以上高くなった場合に開弁して前記カム室の圧力を低下させることを特徴とする請求項1に記載した燃料ポンプ。

【図1】
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【図2】
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