説明

燃料噴射制御装置およびそれを用いた燃料噴射システム

【課題】インターバル時間の使用範囲全域において多段噴射のインターバル時間のずれを少ない学習量で高精度に学習する燃料噴射制御装置およびそれを用いた燃料噴射システムを提供する。
【解決手段】前段噴射と前段噴射に続いて噴射する後段噴射とのインターバル時間の使用範囲の全域におけるインターバル時間に対する基準噴射特性300は、ROMまたはEEPROM等に記憶されている。基準噴射特性300の特徴点である極大点310、極小点312、あるいはインターバル時間に対して補正噴射量が0の補正0点314に対応する実噴射特性の特徴点である極大点320、極小点322、補正0点324付近のデータを取得し、極大点320、極小点322、補正0点324の少なくとも一点を検出する。検出した実噴射特性の特徴点と基準噴射特性の特徴点との位相差から、基準噴射特性と実噴射特性とのインターバル時間のずれである位相差を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1燃焼サイクル中に多段噴射を実施する燃料噴射弁の噴射量を制御する燃料噴射制御装置およびそれを用いた燃料噴射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コモンレール式の燃料噴射システムにおいては、燃焼音の低減または排気フィルタの再生等を目的として、主なトルクを発生するメイン噴射の前後にパイロット噴射およびポスト噴射等を実施する多段噴射が実施されている。
【0003】
このように1燃焼サイクル中に燃料を複数回噴射する多段噴射式の燃料噴射弁においては、各段において燃料噴射弁を閉弁し噴射を終了するときに水撃作用により圧力脈動が発生する。圧力脈動の大きさは各段の噴射が終了してからの経過時間により変化するので、多段噴射において前段の噴射により圧力脈動が生じると、前段噴射に続いて噴射する後段の噴射量が、前段噴射終了から後段噴射開始までのインターバル時間に依存してばらつく。
【0004】
そこで、出荷時等において予めインターバル時間と圧力脈動との特性を測定し、インターバル時間に対して噴射量を補正する基準補正マップを設定することが考えられる。
しかしながら、燃料噴射弁の噴射特性は燃料噴射弁毎の機差または経時変化によりばらつくので、基準補正マップにおいて設定している目標インターバル時間と実インターバル時間との間にずれが生じる。その結果、基準補正マップに基づいて目標インターバル時間における後段噴射の噴射量を補正しても、後段の噴射量が目標噴射量からずれることになる。
【0005】
また、特許文献1では、前噴射と前噴射から所定の噴射間隔をおいたメイン噴射とを組み合わせた多段噴射を実施するときに、エンジン回転数、エンジン負荷等のエンジン運転条件に対応して、エンジン運転条件に適した噴射間隔を含む噴射パターンを採用する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−264810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、噴射間隔を変えてエンジン振動、騒音の周波数を変化させることにより、騒音フィーリングの良化および低騒音化を実現しようとしている。したがって、特許文献1における噴射間隔の変更では、機差または経時変化による多段噴射のインターバル時間のずれを補正することはできない。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、インターバル時間の使用範囲全域において多段噴射のインターバル時間のずれを少ない学習量で高精度に学習する燃料噴射制御装置およびそれを用いた燃料噴射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、図8の(A)に示すように、80mm3/st、40mm3/st、10mm3/st、2mm3/stと指令噴射量が異なり噴射中の噴射率および燃料噴射弁(INJ)の内部圧力が異なっても、噴射終了後の燃料噴射弁の内部圧力の変化、つまり圧力脈動の特性は、噴射終了からの経過時間に対してほぼ同一であることを見いだした。
【0009】
そして、本発明者は、図8の(B)に示すように、多段噴射において前段噴射の終了時に発生する圧力脈動のために変化する後段(2段目)噴射の噴射量の特性は、前段噴射の噴射量が異なっても、前段噴射の噴射終了時期および後段噴射の指令噴射量が同じであれば、前段噴射と後段噴射とのインターバル時間に対してほぼ同一であることを見いだした。図8の(B)では、前段噴射の噴射量を例えば50mm3/st、10mm3/st、2mm3/stと変化させ、後段噴射の指令噴射量を2mm3/stに設定した場合のインターバル時間に対する後段噴射の噴射量の特性を示している。つまり、機差または経時変化によるインターバル時間に対する噴射特性のばらつきは、燃料噴射弁の開閉弁遅れ時間のばらつきによるインターバル時間のばらつきのみに起因する。よって、インターバル時間に対する後段噴射の噴射特性は、オフセット方向、周期、振幅などのずれではなく、基準となる噴射特性の位相がずれたものになるだけである。
【0010】
そこで、請求項1から7に記載の発明では、前段噴射と後段噴射とのインターバル時間の使用範囲全域におけるインターバル時間に対する基準噴射特性を記憶しておき、インターバル時間に対する実噴射特性の取得データから、基準噴射特性の特徴点に対応する実噴射特性の特徴点を検出する。そして、基準噴射特性の特徴点と実噴射特性の特徴点とから基準噴射特性と実噴射特性との位相差を算出する。ここで、特徴点とは、噴射特性上において局所的な特徴を有し、噴射特性の他の点に比べて識別が容易な点を表している。
【0011】
これにより、機差または経時変化により燃料噴射弁の噴射特性がばらついても、インターバル時間の使用範囲全域において基準噴射特性と実噴射特性とのインターバル時間のずれを高精度に学習できる。
【0012】
また、前述したように噴射特性の特徴点は噴射特性の他の点に比べて識別が容易であるから、特徴点の誤検出および検出誤差を低減できる。
さらに、特徴点は噴射特性上において局所的な特徴を有するので、インターバル時間の使用範囲の全域ではなく一部の範囲の実噴射特性のデータから特徴点を検出できる。これにより、少ないデータ数で実噴射特性の特徴点を検出できるので、インターバル時間のずれを少ない学習量で学習できる。
【0013】
請求項2に記載の発明によると、基準噴射特性を基準噴射特性と実噴射特性との位相差分ずらして補正し、補正された基準噴射特性に基づき後段噴射の噴射量を補正する。
これにより、インターバル時間のずれを高精度に補正された基準噴射特性に基づいて後段噴射の噴射量を高精度に補正できる。
【0014】
請求項3に記載の発明によると、特徴点は基準噴射特性および実噴射特性の極大点および極小点の少なくともいずれか一方である。
実噴射特性の極大点および極小点は実噴射特性の波形上のピークを表す特徴点であるから、少ないデータ数で実噴射特性の特徴点を検出できる。これにより、少ない学習量でインターバル時間のずれを学習できる。
【0015】
さらに、実噴射特性の極大点および極小点は実噴射特性の波形上のピークを表しているので、特徴点の誤検出および検出誤差を低減できる。また、実噴射特性が測定誤差等によりオフセット方向にずれても、実噴射特性のピークである極大点または極小点を容易に検出できる。
【0016】
請求項4および5に記載の発明によると、特徴点は、基準噴射特性および実噴射特性において、指令噴射量と実噴射量とが一致する点である。
指令噴射量と実噴射量とが一致する点は、噴射特性上において局所的な特徴を有する点であるから、少ないデータ数で実噴射特性の特徴点を検出できる。これにより、少ない学習量でインターバル時間のずれを学習できる。
【0017】
さらに、指令噴射量と実噴射量とが一致する点は、他の点に対して顕著な特徴を有しているので、特徴点の誤検出および検出誤差を低減できる。
また、インターバル時間に対する実噴射特性の変化量が小さい場合にも、指令噴射量と実噴射量とが一致する点を特徴点とすると、指令噴射量と実噴射量との比較により特徴点を容易に検出できる。
【0018】
また、指令噴射量に対して実噴射量が多くなる実噴射特性のピーク側に比べ、指令噴射量と実噴射量とが一致する点における噴射量は少ない。これにより、請求項4および5に記載の発明によると、実噴射特性の特徴点を検出するために燃料噴射弁から噴射したときの燃焼騒音を低減できる。
【0019】
ところで、基準噴射特性と実噴射特性との位相差を1箇所の特徴点同士の位相差から算出する場合、実噴射特性の特徴点を誤って検出したり検出誤差が大きいことにより実噴射特性の特徴点の位相が正しい特徴点の位相からずれると、検出した実噴射特性の特徴点の位相のずれが、そのまま基準噴射特性と実噴射特性との位相差に反映されて算出される。
【0020】
そこで、請求項6に記載の発明によると、位相差算出手段は、基準噴射特性の複数の特徴点と実噴射特性の複数の特徴点とから基準噴射特性と実噴射特性との位相差を算出する。
【0021】
基準噴射特性および実噴射特性の複数の特徴点から基準噴射特性と実噴射特性との位相差を算出するので、実噴射特性の1箇所の特徴点を誤検出したり検出誤差が大きい場合にも、正常に検出した実噴射特性の他の特徴点に基づき特徴点の位相のずれを低減して基準噴射特性と実噴射特性との位相差を算出できる。例えば、基準噴射特性の複数の特徴点とそれぞれ対応する実噴射特性の複数の特徴点との位相差を算出し、算出した位相差を平均することにより、検出した特徴点の位相のずれを低減して基準噴射特性と実噴射特性との位相差を算出できる。
【0022】
尚、本発明に備わる複数の手段の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の手段の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
本発明の一実施形態による燃料噴射システムを図1に示す。
(燃料噴射システム10)
本発明の一実施形態による燃料噴射システム10を図1に示す。
【0024】
蓄圧式の燃料噴射システム10は、フィードポンプ14、高圧ポンプ16、コモンレール20、燃料噴射弁30、電子制御装置(Electronic Control Unit;ECU)40等から構成されており、4気筒のディーゼルエンジン60の各気筒に燃料を噴射する。
【0025】
フィードポンプ14は燃料タンク12から燃料を吸入し燃料供給ポンプである高圧ポンプ16に供給する。高圧ポンプ16は、クランクシャフト66の回転に連動する駆動シャフトによりプランジャが往復移動し、加圧室に吸入した燃料を加圧する公知のポンプである。ECU40が高圧ポンプ16の調量弁18に供給する電流値を制御することにより、高圧ポンプ16が吸入行程で吸入する燃料吸入量が調量される。そして、燃料吸入量が調量されることにより、高圧ポンプ16の燃料吐出量が調量される。
【0026】
コモンレール20は、高圧ポンプ16が圧送する燃料を蓄圧しエンジン運転状態に応じた所定の高圧に燃料圧力を保持する。圧力センサ22は、コモンレール20の内部の燃料圧力を検出しECU40に出力する。
【0027】
燃料噴射弁30は、4気筒のディーゼルエンジン60の各気筒に設置され、コモンレール20が蓄圧している燃料を気筒内に噴射する。燃料噴射弁30は、ディーゼルエンジンの1燃焼サイクルにおいて、主なトルクを発生するメイン噴射の前後にパイロット噴射、プレ噴射、アフター噴射、ポスト噴射等を含む多段噴射を実施する。
【0028】
図2に示すように、燃料噴射弁30は、ノズルニードル32に閉弁方向に燃料圧力を加える制御室100の圧力を制御することにより燃料噴射量を制御する公知の電磁駆動式の弁である。コモンレール20から燃料噴射弁30の噴孔34周囲および制御室100に高圧燃料が供給されている。
【0029】
制御弁36が制御室100と低圧側との連通を遮断している図2に示す状態では、制御室100からノズルニードル32に加わる燃料圧力により、ノズルニードル32は噴孔34を閉塞している。
【0030】
制御弁36が制御室100と低圧側とを連通させると、制御室100から低圧側に流出する燃料量がコモンレール20から制御室100に流入する燃料量より多くなるので、制御室100の圧力が低下する。これにより、ノズルニードル32はリフトし噴孔34から燃料が噴射される。
【0031】
図1に示すように、燃料噴射制御装置としてのECU40に搭載されているマイクロコンピュータ50は、CPU52、ROM54、RAM56、EEPROM58等の書換可能な不揮発性メモリ、各種入出力ポート等から構成されている。ECU40を実噴射特性取得手段、特徴点検出手段、位相差算出手段、位相補正手段および噴射補正手段として機能させる制御プログラム、ならびにインターバル時間に対する基準噴射特性は、ROM54またはEEPROM58等の記憶手段としての記憶装置に記憶されている。
【0032】
基準噴射特性は、多段噴射において前段噴射と前段噴射に続いて実施される後段噴射とのインターバル時間の使用範囲全域において設定されている。基準噴射特性は、マップとして記憶されていてもよいし、近似式等の数式として記憶されていてもよい。マップの場合には基準噴射特性を短時間で取得できる。数式の場合には、基準噴射特性を記憶する記憶容量が小さくなる。基準噴射特性は、マップの場合はコモンレール圧の所定の圧力範囲毎に設定され、数式の場合はコモンレール圧を変数として設定されている。
【0033】
ECU40は、アクセルペダルの開度(ACC)を検出するアクセルセンサ、温度センサ、圧力センサ22、エンジン回転数(NE)を検出するNEセンサ等の各種センサの検出信号からディーゼルエンジン60の運転状態を取得する。ECU40は、ディーゼルエンジン60を最適な運転状態に制御するために、取得したエンジン運転状態に基づいて調量弁18および燃料噴射弁30等への通電を制御する。
【0034】
ECU40は、圧力センサ22を含む各種センサから得たエンジン運転状態に応じ、多段噴射を実施する燃料噴射弁30の各段の噴射時期および噴射量を制御する。ECU40は、燃料噴射弁30の噴射時期および噴射量を制御する噴射指令信号としてパルス信号を出力する。
【0035】
ディーゼルエンジン60のシリンダ62内に往復移動自在に収容されているピストン64は、燃料噴射弁30から燃焼室110に噴射された燃料が燃焼し膨張することにより往復駆動される。ピストン64はコンロッド65を介してクランクシャフト66に連結されている。ピストン64が往復移動することによりクランクシャフト66は回転する。
【0036】
燃焼室110への吸気の流入は吸気弁70の開閉により制御され、燃焼室110から排出される排気は排気弁74の開閉により制御される。吸気弁70および排気弁74は、カムシャフト72、76に設けられたカムの回転により開閉駆動される。
【0037】
(圧力脈動による噴射量の変化)
図3に示すように、多段噴射において燃料噴射弁30が閉弁し前段噴射が終了すると、水撃作用により燃料噴射弁30内の燃料に圧力脈動が発生する。この圧力脈動はコモンレール20内にも伝わるので、後段噴射の噴射時期が圧力脈動の大きさにより変化する。その結果、後段噴射の噴射量が圧力脈動の大きさにより変化する。
【0038】
また、図4に示すように、噴射指令信号である駆動電流の立ち下がり時期に対して燃料噴射弁30の前段噴射の閉弁には閉弁遅れが発生し、駆動電流の立ち上がり時期に対して燃料噴射弁30の後段噴射の開弁には開弁遅れが発生する。そこで、駆動電流で指令される前段噴射と後段噴射との指令インターバル時間(指令INT)に対し、閉弁遅れ時間Tde1および開弁遅れ時間Tds1を考慮して目標インターバル時間(目標INT)を設定することが必要である。目標インターバル時間は次式(1)で表される。
【0039】
目標INT=指令INT−Tde1+Tds1 ・・・(1)
しかしながら、燃料噴射弁30の機差または経時変化により、初期設定した閉弁遅れ時間Tde1および開弁遅れ時間Tds1は符号210、212に示すようにTde2およびTds2となりばらつくので、目標インターバル時間と実インターバル時間との間に、(ΔINT1+ΔINT2)で示される時間のずれ、つまり位相差が発生する。その結果、機差および経時変化を考慮せずに目標インターバル時間のポイント220で後段噴射の噴射量を補正すると、後段噴射の噴射量を補正すべき実インターバル時間のポイント222とは異なるポイントで補正することになる。
【0040】
前述したように、前段噴射に対する指令噴射量が異なり噴射中の噴射率および燃料噴射弁30の内部圧力が異なっても、圧力脈動の特性は、前段噴射終了から後段噴射開始までの間のインターバル時間に対してほぼ同一である。
【0041】
そして、圧力脈動のために変化する後段噴射の噴射量の特性は、前段噴射の噴射量が異なっても、前段噴射の噴射終了時期および後段噴射の指令噴射量が同じであればインターバル時間に対してほぼ同一である。したがって、機差または経時変化によりインターバル時間がばらついても、インターバル時間に対する実噴射特性は基準噴射特性の位相がずれたものになるだけである。それ故、基準噴射特性と実際に測定した実噴射特性のデータとの位相差を算出し、位相差分ずらして補正した基準噴射特性により後段噴射の噴射量を補正すればよいと考えられる。
【0042】
また、実噴射特性データを取得するために測定する実噴射量に測定誤差があっても、実噴射特性データは基準噴射特性がオフセット方向にずれたものである。
(ECU40の各手段)
ECU40のROM54またはEEPROM58等は以下に説明する基準噴射特性を記憶する記憶手段として機能する。また、ECU40は、ROM54またはEEPROM58等の記憶手段に記憶されている制御プログラムにより以下の各手段として機能する。
【0043】
(1)記憶手段
1燃焼サイクルにおいて、前段噴射と前段噴射に続いて噴射される後段噴射とのインターバル時間の使用範囲全域において、インターバル時間の使用範囲全域に対する後段噴射の噴射量の補正値が、基準噴射特性としてROM54またはEEPROM58等に記憶されている。本実施形態では、後段噴射の噴射量の補正値は、後段噴射の噴射量を制御する駆動電流の噴射指令パルス幅の立ち下がり時期の補正値である。駆動電流の噴射指令パルス幅の立ち下がり時期が変化することにより噴射指令パルス幅の長さが変化するので、後段噴射の噴射量が変化する。基準噴射特性は、燃料噴射弁30の出荷時において初期設定されている。
【0044】
(2)実噴射特性取得手段
ECU40は、アクセルオフの無噴射減速運転中であれば学習条件が成立していると判断し、インターバル時間の使用範囲の一部において複数のインターバル時間のポイントで前段噴射と前段噴射に続いて後段噴射とを実施し、前段噴射および後段噴射の2段噴射による合計噴射量である実噴射量を測定する。
【0045】
2段噴射を実施するインターバル時間の使用範囲の一部は、基準噴射特性の特徴点に対応する実噴射特性の特徴点が存在すると推定される範囲である。基準噴射特性と実噴射特性との位相差は、経時変化により急激に変化するものではないので、これまでの位相差学習結果から、基準噴射特性の特徴点に対応する実噴射特性の特徴点が存在する範囲をある程度特定して推定することができる。
【0046】
ECU40は、2段噴射によるエンジン回転数の変化を検出し、エンジン回転数をエンジントルクに換算し、さらに噴射量に換算して実噴射量を測定する。ECU40は、インターバル時間のポイント毎に測定した実噴射量から、後段噴射の噴射量を制御する駆動電流の噴射指令パルス幅の立ち下がり時期の補正値を測定ポイント毎に算出し、図5の「×」に示すように実噴射特性のデータとして取得する。
【0047】
(3)特徴点検出手段
図5に示すように、噴射特性の特徴点としては、基準噴射特性300の極大点310、極小点312、補正0点314のいずれかが考えられる。補正0点は、指令噴射量と実噴射量とが一致し、後段噴射の噴射量を制御する駆動電流の噴射指令パルス幅の立ち下がり時期の補正値が0になる点である。
【0048】
噴射特性の極大点、極小点および補正0点は、噴射特性上において局所的に顕著な特徴を有している。したがって、実噴射特性の極大点、極小点および補正0点を検出するためにインターバル時間の使用範囲全域において実噴射特性のデータを取得する必要はない。例えば、図5においては、基準噴射特性300の極大点310、極小点312、補正0点314に対応する実噴射特性の極大点320、極小点322、補正0点324が存在すると推定される付近の実噴射量だけを測定すればよい。これにより、実噴射特性の少ないデータ数から特徴点を検出できる。
【0049】
(3−1)極大点、極小点
実噴射特性の極大点320または極小点322を特徴点とする場合、極大点320および極小点322は噴射特性の波形においてピークとなり局所的な特徴を有する点であるから、少ない実噴射特性のデータ数で極大点320および極小点322であると容易に検出できる。
【0050】
さらに、実噴射特性の極大点320および極小点322は実噴射特性の波形上のピークを表しているので、特徴点の誤検出および検出誤差を低減できる。また、極大点320および極小点322は実噴射特性の波形上において顕著な特徴を有するので、実噴射特性が測定誤差等によりオフセット方向にずれても、実噴射特性のピークである極大点320および極小点322を容易に検出できる。
【0051】
(3−2)補正0点
実噴射特性の補正0点324を特徴点とする場合、補正0点324は噴射特性上において指令噴射量と実噴射量とが一致する局所的な特徴を有する点であるから、指令噴射量と実噴射量との比較により少ない実噴射特性のデータ数で補正0点324であると容易に検出できる。
【0052】
さらに、指令噴射量と実噴射量とが一致する補正0点324は、噴射特性上において他の点に対して顕著な特徴を有しているので、特徴点の誤検出および検出誤差を低減できる。
【0053】
また、インターバル時間に対する実噴射特性の変化量が小さい場合にも、指令噴射量と実噴射量との比較により補正0点324を容易に検出できる。
また、指令噴射量に対して実噴射量が多くなる実噴射特性の極小点322側に比べ、指令噴射量と実噴射量とが一致する補正0点324における噴射量は少ない。これにより、補正0点324を特徴点とすると、極小点322を特徴点とする場合に比べ、実噴射特性の特徴点を検出するために燃料噴射弁30から噴射したときの燃焼騒音を低減できる。
【0054】
ここで、実噴射特性の特徴点を検出するために測定する実噴射量に測定誤差があり、図6に示すように実噴射特性が基準噴射特性に対してオフセット方向にずれている場合、図6の測定点326を補正0点324と誤検出するおそれがある。
【0055】
そこで、実噴射特性の極大点320、極小点322、ならびに極大点320と極小点322との間の複数のポイントで実噴射量を測定して噴射量の補正値を算出し、補正値の平均値330を補正0点324とすることが考えられる。
【0056】
(3−3)複数の特徴点
次に説明する位相差算出手段で基準噴射特性の特徴点と実噴射特性の特徴点との位相差を算出する場合、複数の特徴点から位相差を算出することが望ましい。この場合、実噴射特性取得手段において、基準噴射特性の複数の特徴点に対応する実噴射特性の複数の特徴点を含むデータを取得する。そして、特徴点検出手段において、実噴射特性の複数の特徴点を検出する。
【0057】
(4)位相差算出手段
ECU40は、基準噴射特性の特徴点と、特徴点検出手段で検出した実噴射特性の特徴点とから、基準噴射特性と実噴射特性との位相差を算出する。ECU40は、特徴点検出手段において少ない実噴射特性のデータ数から特徴点を検出しているので、少ない学習量で位相差を学習できる。
【0058】
ECU40は、基準噴射特性および実噴射特性のそれぞれ1箇所の特徴点の位相差を算出し基準噴射特性と実噴射特性との位相差としてもよいし、基準噴射特性および実噴射特性の複数箇所の特徴点同士の位相差を平均して基準噴射特性と実噴射特性との位相差としてよい。複数箇所の特徴点を測定する場合は、極大点、極小点または補正0点のいずれか、あるいはこれら特徴点を組み合わせた複数箇所を測定する。
【0059】
基準噴射特性および実噴射特性のそれぞれ複数箇所の特徴点の位相差を平均すると、実噴射特性の1箇所の特徴点を誤検出したり検出誤差が大きい場合に実噴射特性の特徴点と基準噴射特性の特徴点との位相差に誤差が生じても、正確に測定した実噴射特性の特徴点と基準噴射特性の特徴点との位相差と平均することにより、検出誤差を低減できる。
【0060】
(5)位相補正手段
ECU40は、位相差算出手段で算出された基準噴射特性と実噴射特性との位相差に応じて基準噴射特性を位相差分ずらして補正する。
【0061】
(6)噴射補正手段
ECU40は、高精度に位相を補正された基準噴射特性に基づいて、後段噴射の噴射量を高精度に補正する。
【0062】
(インターバル時間の位相差学習)
次に、インターバル時間に対する基準噴射特性と実噴射特性データとの位相差学習について図7の学習ルーチンに基づいて説明する。図7において「S」はステップを表している。図7に示す学習ルーチンは、ディーゼルエンジン60の運転中において常時実行される。
【0063】
S400においてECU40は、位相差の学習条件として、アクセルオフ時の無噴射減速運転中であるかを判定する。学習条件が成立していない場合、ECU40は本ルーチンを終了する。
【0064】
学習条件が成立している場合、S402においてECU40は、基準噴射特性300の特徴点として前述した極大点310、極小点312、補正0点314に対応する実噴射特性の特徴点が存在すると推定されるインターバル時間の一部の使用範囲において、ポイント毎に前段噴射に続いて後段噴射を実施し、前段および後段の合計噴射量を実噴射量として測定する。
【0065】
そして、ECU40は、インターバル時間のポイント毎に測定した実噴射量から、後段噴射の噴射量を制御する駆動電流の噴射指令パルス幅の立ち下がり時期の補正値を測定ポイント毎に算出し、実噴射特性データとして取得する。
【0066】
S404においてECU40は、取得した実噴射特性データから、基準噴射特性の特徴点に対応する実噴射特性の特徴点を検出する。
S406においてECU40は、基準噴射特性の特徴点と実噴射特性の特徴点とから基準噴射特性と実噴射特性との位相差を算出する。
【0067】
S408においてECU40は、算出した位相差分ずらして基準噴射特性の位相を補正し、本ルーチンを終了する。
ECU40は、図7の位相差学習ルーチンで位相差を補正した基準噴射特性に基づき、通常の多段噴射を実施するときの後段噴射の噴射量を補正する。
【0068】
以上説明したように、本実施形態では、機差または経時変化によりインターバル時間がばらついても、インターバル時間に対する基準噴射特性のずれは、オフセット方向、周期、振幅などのずれではなく位相方向だけであることに着目した。そして、インターバル時間の使用範囲全域におけるインターバル時間に対する基準噴射特性を実噴射特性との位相差分だけずらして後段噴射量を補正することにより、インターバル時間の使用範囲全域において、高精度に後段噴射の噴射量を補正できる。
【0069】
また、実噴射特性の特徴点は、インターバル時間の使用範囲の全域ではなく一部の実噴射特性のデータから検出できるので、インターバル時間の使用範囲全域においてインターバル時間のずれを少ない学習量で高精度に学習できる。
【0070】
[他の実施形態]
上記実施形態では、後段噴射に対する噴射指令信号の立ち下がり時期を補正して噴射パルス幅を補正することにより後段噴射の噴射量を補正した。これに対し後段噴射に対する噴射指令信号のパルス幅を変更せず、噴射時期だけを補正することにより後段噴射の噴射量を補正してもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、インターバル時間に対する後段噴射の噴射量の補正値を基準噴射特性および実噴射特性として採用した。これに対し、インターバル時間に対する前段噴射および後段噴射の合計噴射量を基準噴射特性および実噴射特性として採用してもよい。
【0072】
また、前段噴射および前段噴射に続いて噴射される後段噴射として多段噴射の各噴射をどのように組み合わせてもよい。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本実施形態による燃料噴射システムを示すブロック図。
【図2】燃料噴射弁の構成を示す模式的断面図。
【図3】圧力脈動の発生を説明する説明図。
【図4】インターバル時間のずれを説明するタイムチャート。
【図5】基準噴射特性の特徴点と実噴射特性の特徴点との対応を示す説明図。
【図6】基準噴射特性の特徴点と実噴射特性の特徴点との他の対応を示す説明図。
【図7】位相差学習ルーチンを示すフローチャート。
【図8】(A)は噴射終了後の経過時間と噴射率および燃料噴射弁内の圧力との関係を示し、(B)はインターバル時間と後段噴射の噴射量との関係を示すタイムチャート。
【符号の説明】
【0074】
10:燃料噴射システム、16:高圧ポンプ(燃料供給ポンプ)、20:コモンレール、30:燃料噴射弁、40:ECU(燃料噴射制御装置、記憶手段、実噴射特性取得手段、特徴点検出手段、位相差算出手段、位相補正手段、噴射補正手段)、54:ROM(記憶手段)、58:EEPROM(記憶手段)、60:ディーゼルエンジン(内燃機関)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1燃焼サイクル中に多段噴射を実施する燃料噴射弁の噴射量を制御する燃料噴射制御装置において、
前段噴射と前記前段噴射に続いて噴射する後段噴射とのインターバル時間の使用範囲の全域における前記インターバル時間に対する基準噴射特性を記憶している記憶手段と、
前記インターバル時間に対する実噴射特性のデータを取得する実噴射特性取得手段と、
前記実噴射特性のデータから、前記インターバル時間に対する前記基準噴射特性の特徴点に対応する前記実噴射特性の特徴点を検出する特徴点検出手段と、
前記基準噴射特性の前記特徴点と前記実噴射特性の前記特徴点とから前記基準噴射特性と前記実噴射特性との位相差を算出する位相差算出手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記基準噴射特性を前記位相差分ずらして補正する位相補正手段と、
補正された前記基準噴射特性に基づき前記後段噴射の噴射量を補正する噴射補正手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記特徴点は前記基準噴射特性および前記実噴射特性の極大点および極小点の少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記特徴点は、前記基準噴射特性および前記実噴射特性において指令噴射量と実噴射量とが一致する点であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記基準噴射特性および前記実噴射特性は、前記インターバル時間と前記後段噴射の噴射量の補正値との関係を表し、前記特徴点は前記補正値が0の点であることを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記位相差算出手段は、前記基準噴射特性の複数の前記特徴点と前記実噴射特性の複数の前記特徴点とから前記基準噴射特性と前記実噴射特性との位相差を算出することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
燃料を加圧し圧送する燃料供給ポンプと、
前記燃料供給ポンプが圧送する燃料を蓄圧するコモンレールと、
前記コモンレールが蓄圧している燃料を内燃機関の気筒に噴射する燃料噴射弁と、
請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置と、
を備えることを特徴とする燃料噴射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−103076(P2009−103076A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276558(P2007−276558)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】