説明

燃料噴射弁におけるシート部材のシール構造

【課題】液化石油ガスなどの高圧の燃料を主燃料とするエンジンにおいても、燃料の噴出孔が閉じている状態において燃料噴射孔への燃料の流出を確実に防止する。
【解決手段】ノズルボディ4の先端部41をシート部材1の外面17に沿って内側にかしめてノズルボディ4の屈曲させた先端部41とノズルボディの内周面42に形成した段付き周溝43に嵌装したシート部材1をノズルボディ4の先端に支持させるとともに、シート部材1における外面17においてかしめたノズルボディ4の先端部41が覆っている部分に弾性体が焼き付け加工されて形成されたシール面6が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁、特に、液化石油ガスなどの高圧の燃料を主燃料とするエンジンに適した燃料噴射弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ボディケース内に、電磁力で弁体に開き動作を行わせるための電磁駆動機構と非通電時に閉じ動作を弁体に行わせる戻しばね機構とを内蔵しておりエンジンの運転状態に応じて電子制御装置から電気信号の通電時に電磁力で弁体に開き動作を非通電時には戻しばねの付勢力により閉じ動作を弁体に行わせ、前記ボディケースの先方に前記弁体を囲んで延設されたノズルボディの先端に支持したシート部材に貫通形成した噴射ノズルを開閉することにより所要量の燃料をエンジンの吸気管に噴射する燃料噴射弁が知られている。
【0003】
図3(a)は従来から用いられているガソリン燃料用の燃料噴射弁の先端部を示すものであり、ほぼ中心位置に噴射ノズル11を貫通形成するとともに内面12に弁体2のシート面14を形成したシート部材1を、弁体2のガイド孔31を形成したガイド部材3とともに重ねてノズルボディ4の先端に支持した構成であり、シート部材1はノズルボディ4との間のシール性も完全にするために、シート部材1をノズルボディ4に溶接することにより密に接着している。
【0004】
ところが、シート部材1と弁体とのシールが充分でないとシート部の不良や劣化、エンジンからの発熱による燃料噴射弁内の燃料圧力上昇などにより燃料の流出が発生し、燃料の流れを遮断できない場合が生じ、燃料噴射孔より流出した燃料が多い場合には、エンジンの再始動時に始動不良が生じたり、燃焼異常が発生するなどの問題があり、特に、液化石油ガス(LPG)などを主燃料とする場合にはガソリン燃料に比べて高圧化されやすいので漏れやすく、燃料噴射孔より流出した燃料が多い場合には、エンジンの再始動時に始動不良が生じたり、燃焼異常が発生するなどの問題があった。
【0005】
そのため、シート部材1の弁体2と接する当たり面14などをゴムや樹脂などの弾性材により形成することにより、或いは被覆することにより、気密性の確保が行われているが、前記シート面を形成するゴムや樹脂などの弾性材は耐熱性の面で前記図3(a)に示したガソリン用のシート部材1のシール手段のように材料に高温を付与する溶接は用いることができない。
【0006】
そこで、図3(b)に示すように、シート部材1の外周面15に形成した環状溝16にOリング5を嵌装して弾性摩擦力により支持させるとともにシール性を得るようにしたものが例えば特開2005−83261号公報などに提示されている。
【0007】
しかしながら、前記Oリング5を嵌装して弾性摩擦力により支持させる構成のものは、別途にOリングを用意する必要があることから製造部品の増加による価格の上昇と品質を含めた管理上の手間が掛かること、更には、組立時にOリングを嵌め込む作業が必要であり、製造工程の増加による作業性の劣化と製品価格が上昇するという問題があり、また、Oリングの弾性摩擦力により支持させることから充分な支持力が得られないなどの問題もあった。
【0008】
【特許文献1】特開2005−83261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記のような問題点を解決することであり、液化石油ガスなどの高圧の燃料を主燃料とするエンジンにおいても、エンジンの停止時、即ち、燃料の噴出孔が閉じている状態において燃料噴射孔への燃料の流出を確実に防止することができるシート体のシール構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明は、ボディケースの先方に軸方向に往復動する弁体を囲んで延設されたノズルボディの先端に支持したシート部材の内面に形成した前記弁体のシート面に連続して貫通形成した噴射ノズルを、前記弁体により開閉することにより所要量の燃料を前記噴射ノズルの下流に配置したエンジンの吸気管に噴射する燃料噴射弁におけるシート部材のシール構造であって、前記ノズルボディの先端部をシート部材の外面に沿って内側にかしめてノズルボディの屈曲させた先端部とノズルボディの内周面に形成した段付き周溝に嵌装したシート部材をノズルボディの先端に支持させるとともに、前記シート部材における外面において前記かしめたノズルボディの先端部が覆っている部分に弾性体が焼き付け加工されて形成されたシール面が配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ノズルボディの先端部をシート部材の外面に沿って内側にかしめてノズルボディの屈曲させた先端部とノズルボディの内周面に形成した段付き周溝に嵌装したシート部材をノズルボディの先端に支持させることから、シート部材は所定の位置に且つ確実に配置されるので高圧の状態でも漏れることがなく、また、弾性体による焼き付け加工によりシール面が形成されているのでシールが確実で従来の弾性体としてOリングを用いたもののように嵌め込む手間も要しない。
【0012】
また、本発明において、シート部材が、その外面に形成されたシール面の焼き付け加工用の溝部と内面に形成した前記弁体のシート面に弾性体を焼き付け加工する溝部とが導通孔により連通形成されており、前記シート面における弾性体の焼き付け加工とシート部材外面に形成された焼き付け加工とを同時に行うことによりシール面とシート面とが一体的に形成されている場合には、弁体の当たり面とシール面との接合も漏れがないばかりか、一度の焼き付け加工でシール面とシート面の両方について焼き付けが可能であり、更に、製造並びに価格の点で有利である。
【0013】
更に、本発明において、焼き付け加工を行う弾性体としてフッ素ゴムを用いると耐性にも優れたものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は従来のシート体のシール構造に比べて部品点数も少なく製造も容易で安価で且つ確実にシールすることができるばかりか支持も強固であり、液化石油ガスなどの高圧燃料を主燃料とする場合にも充分に対応することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0016】
図1は本発明である燃料噴射弁のシート部材1の使用例を示すものであり、ボディケース(図示せず)の先方に軸方向に往復動する弁体2を囲んで延設されたノズルボディ4の先端部41をシート部材1の外面17に沿って内側にかしめてノズルボディ4の屈曲させた先端部41とノズルボディ4の内周面42に形成した段付き周溝43に弁体2のガイド孔31を形成したガイド部材3とともに重ねてノズルボディ4の先端に支持される。
【0017】
そして、シート部材1は、外面17において前記かしめたノズルボディ4の先端部41が覆っている部分に弾性体が焼き付け加工されて形成されたシール面6が配置されているとともに、ほぼ中心位置に前記弁体2の半球状の当たり面21が接触する円錐方の傾斜面を有するシート面14に連続して下流側(外面17)へ噴射ノズル11が貫通形成されている。
【0018】
また、この弾性体が焼き付け加工されて形成されたシール面6およびシート面の内側には図2に示すように弾性体を焼き付け加工するための溝部81および溝部82とが系制せされているとともに、これらの溝部81および溝部82とは導通孔83により連通形成されている。
【0019】
従って、図2に示すように本実施形態であるシート部材1を金型91,92により内包して注入孔93から例えばフッ素ゴムのような弾性体の流動体を注入すると、流動体は溝部81および溝部82を連通する導通孔83により一度に溝部81および溝部82に流れ、図1(b)に示したようにシール面6およびシート面14を焼き付け加工したシート部材1が得られる。
【0020】
このように本実施形態では、シール面6およびシート面14のそれぞれにおいて高い密着性を発揮させることができるが、少なくともシート面14に弾性体による焼き付け加工を施すことにより優れた密着性を発揮すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、図1(a)は使用状態を示す縦断面部分図、図1(b)は図1(a)に示した実施形態におけるシール部材の縦断面図。
【図2】図1(b)に示した本発明におけるシール部材の製造工程の一部を示す縦断面図。
【図3】従来例を示す説明図であり、図3(a)はガソリン燃料に適した従来例を、図3(b)は気体燃料に適した従来例を示す。
【符号の説明】
【0022】
1 シート部材、2 弁体、4 ノズルボディ、6 シート面、11 噴射ノズル、12 内面、14 シール面、16 段付き周溝、17 外面、21 当たり面、41 先端部、81 溝部、82 溝部、83 導通孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディケースの先方に軸方向に往復動する弁体を囲んで延設されたノズルボディの先端に支持したシート部材の内面に形成した前記弁体のシート面に連続して貫通形成した噴射ノズルを、前記弁体により開閉することにより所要量の燃料を前記噴射ノズルの下流に配置したエンジンの吸気管に噴射する燃料噴射弁におけるシート部材のシール構造であって、前記ノズルボディの先端部をシート部材の外面に沿って内側にかしめてノズルボディの屈曲させた先端部とノズルボディの内周面に形成した段付き周溝に嵌装したシート部材をノズルボディの先端に支持させるとともに、前記シート部材における外面において前記かしめたノズルボディの先端部が覆っている部分に弾性体が焼き付け加工されて形成されたシール面が配置されていることを特徴とする燃料噴射弁におけるシート部材のシール構造。
【請求項2】
前記シート部材が、その外面に形成されたシール面の焼き付け加工用の溝部と内面に形成した前記弁体のシート面に弾性体を焼き付け加工する溝部とが導通孔により連通形成されており、前記シート面における弾性体の焼き付け加工とシート部材外面に形成された焼き付け加工とを同時に行うことによりシール面とシート面とが一体的に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射弁におけるシート部材のシール構造。
【請求項3】
前記焼き付け加工を行う弾性体がフッ素ゴムである請求項1または2に記載の燃料噴射弁におけるシート部材のシール構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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