説明

燃料噴射弁

【課題】閉弁時および開弁時の燃料の圧力および圧力変動のニードルへの影響を抑制し、燃料を安定して噴射可能な燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】ニードル30、インナピストン60およびアウタピストン70は、Sin=Sndl−Ssh、Sout=Sshの関係を満たすよう形成されている。アウタピストン70は、ニードル30が閉弁状態のとき、可動コア40側の端面71が固定コア50のコア段差面53に当接することで閉弁方向への移動が規制されるとともにピストン段差面63とは離間している。アウタピストン70は、ニードル30が閉弁状態から開弁状態に移行するとき、端面71がインナピストン60のピストン段差面63に当接し押されることで開弁方向に移動する。アウタピストン70は、ニードル30が開弁状態から閉弁状態に移行するとき、端面71が固定コア50のコア段差面53に当接することで閉弁方向への移動が規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以下、「エンジン」という。)に燃料を噴射供給する燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソレノイドによりニードルを駆動することで噴孔を開閉し、高圧の燃料をエンジンの燃焼室に直接噴射する電磁駆動式の直噴型燃料噴射弁が知られている。このような燃料噴射弁では、高圧の燃料を噴射するため、高い燃料圧力や圧力変動によりニードルに作用する力が変化し、燃料噴射弁が誤って開弁したり、逆に開弁しない等の誤作動を起こすという問題があった。
【0003】
一方、特許文献1には、ピエゾ素子および変位拡大機構を用いてニードルを駆動し噴孔を開閉する燃料噴射弁が開示されている。この燃料噴射弁では、変位拡大ニードルの変位拡大部の面積と、変位拡大ニードル上端面とバランスピストン下部との間に形成された部分の面積とを同じにすることで、高圧燃料および作動油の圧力が変化しても各々発生する油圧力(燃料圧力と燃料圧力が作用する面の面積との積)をキャンセルすることにより、上述の問題を解決しようとしている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の燃料噴射弁では、開弁時にニードルに作用する力はキャンセルされるものの、閉弁時にニードルに作用する力はキャンセルされない。そのため、ニードルの開弁が遅れる、あるいは、ニードルが開弁しないといった事態を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−168157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、閉弁時および開弁時のいずれにおいても燃料の圧力および圧力変動のニードルへの影響を抑制し、燃料を安定して噴射可能な燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の燃料噴射弁は、ハウジングとニードルと可動コアと固定コアと付勢部材とソレノイドとインナピストンとアウタピストンとを備えている。ハウジングは、筒状に形成され、燃料が噴射される噴孔、当該噴孔に連通する燃料通路、および、噴孔を囲むよう燃料通路に形成される弁座を有している。ニードルは、略円柱状に形成され、一方の端部に、弁座に当接可能なシート部を有している。ニードルは、燃料通路内で軸方向に往復移動可能に設けられ、シート部が弁座から離座または弁座に着座することで噴孔を開閉する。可動コアは、燃料通路内においてニードルのシート部とは反対側に、ニードルと一体に設けられている。固定コアは、略円筒状に形成され、軸方向の一方側に大径内壁面、軸方向の他方側に大径内壁面より径の小さい小径内壁面、および、大径内壁面と小径内壁面との間にコア段差面を有している。固定コアは、軸方向の他方側の端面が可動コアのニードルとは反対側の端面に対向するよう燃料通路内においてハウジングに固定されている。付勢部材は、可動コアと固定コアとの間に設けられ、可動コアおよびニードルを閉弁方向に付勢している。ソレノイドは、固定コアの径方向外側に設けられ、電力が供給されると磁力を生じ、可動コアを固定コアに吸引することでニードルを開弁方向に移動させる。インナピストンは、略円柱状に形成され、軸方向の一方側に大径部、軸方向の他方側に大径部より径の小さい小径部、および、大径部と小径部との間にピストン段差面を有している。インナピストンは、軸方向の他方側の端部が固定コアの内側に挿通され、軸方向の一方側の端部が可動コアに接続されることで可動コアと一体に設けられている。アウタピストンは、略円筒状に形成され、固定コアの大径内壁面とインナピストンの小径部との間で軸方向に往復移動可能に設けられ、内壁がインナピストンの小径部の外壁と摺動可能である。
【0008】
ここで、ニードルの断面積をSndl、ニードルのシート部の断面積の最大値をSsh、インナピストンの小径部の断面積をSin、アウタピストンの断面積をSoutとすると、ニードル、インナピストンおよびアウタピストンは、Sin=Sndl−Ssh、Sout=Sshの関係を満たすよう形成されている。また、燃料通路は、可動コアを往復移動可能に収容する収容空間を含んでいる。また、インナピストンおよびアウタピストンは、可動コアとは反対側の端面に燃料通路内の燃料の圧力が作用することでニードルの閉弁方向に付勢される。アウタピストンは、ニードルが閉弁状態のとき、可動コア側の端面が固定コアのコア段差面に当接することで閉弁方向への移動が規制されるとともにピストン段差面とは離間している。また、アウタピストンは、ニードルが閉弁状態から開弁状態に移行するとき、可動コア側の端面がインナピストンのピストン段差面に当接し押されることで開弁方向に移動する。さらに、アウタピストンは、ニードルが開弁状態から閉弁状態に移行するとき、可動コア側の端面が固定コアのコア段差面に当接することで閉弁方向への移動が規制される。
【0009】
上記構成において、ニードルが閉弁した状態では、アウタピストンの可動コア側の端面とインナピストンのピストン段差面とは離間している。ここで、インナピストンおよびアウタピストンの可動コアとは反対側の端面、ならびに、ニードルの噴孔側の端面に作用する燃料の圧力をPfuelとすると、ニードルに対し閉弁方向に作用する油圧力は、インナピストンの可動コアとは反対側の端面に作用する油圧力のみとなるため、Sin×Pfuel=(Sndl−Ssh)×Pfuelである。また、このとき、ニードルに対し開弁方向に作用する油圧力は、ニードルの噴孔側の端面のうちシート部を除いた部分に作用する油圧力となるため、(Sndl−Ssh)×Pfuelである。よって、ニードルが閉弁状態のとき、ニードルに対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とは同じ大きさになり、互いに打ち消し合うことでキャンセルされる。
【0010】
一方、ニードルが開弁した状態では、アウタピストンの可動コア側の端面とインナピストンのピストン段差面とは当接している。そのため、このときニードルに対し閉弁方向に作用する油圧力は、インナピストンおよびアウタピストンの可動コアとは反対側の端面に作用する油圧力となるため、(Sin+Sout)×Pfuel=(Sndl−Ssh+Ssh)×Pfuel=Sndl×Pfuelである。また、このとき、ニードルに対し開弁方向に作用する油圧力は、ニードルの噴孔側の端面に作用する油圧力となるため、Sndl×Pfuelである。よって、ニードルが開弁状態のとき、ニードルに対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とは同じ大きさになり、互いに打ち消し合うことでキャンセルされる。
【0011】
このように、本発明では、ニードルが閉弁状態(閉弁時)または開弁状態(開弁時)のいずれの状態であっても、ニードルに対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とがキャンセルされる。そのため、燃料通路内の燃料の圧力および圧力変動のニードルへの影響を抑制することができる。したがって、ニードルの開弁および閉弁に関する誤作動が低減し、燃料を安定して噴射することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、ニードルが閉弁状態のときニードルの一方の端面のうちシート部を除く部分、および、インナピストンの可動コアとは反対側の端面に作用する燃料の圧力をPfuel、ニードルが閉弁状態から「アウタピストンの可動コア側の端面とピストン段差面とが当接する状態」となるまでの間にシート部に作用する燃料の圧力をP’fuelとすると、ニードルが閉弁状態のときのアウタピストンの可動コア側の端面とピストン段差面との距離は、P’fuel≧0.95×Pfuelの関係を満たすよう設定されている。この構成では、ニードルが閉弁状態から「アウタピストンの可動コア側の端面とピストン段差面とが当接する状態」となるまでの間、ニードルに対し開弁方向のアシスト力が生じる。したがって、ニードルの開弁初期において、ニードルのリフト速度を向上することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、ニードルが閉弁状態のときニードルの一方の端面のうちシート部を除く部分、および、インナピストンの可動コアとは反対側の端面に作用する燃料の圧力をPfuel、ニードルが閉弁状態から「アウタピストンの可動コア側の端面とピストン段差面とが当接する状態」となるまでの間にシート部に作用する燃料の圧力をP’fuelとすると、ニードルが閉弁状態のときのアウタピストンの可動コア側の端面とピストン段差面との距離は、P’fuel≦0.50×Pfuelの関係を満たすよう設定されている。この構成では、アウタピストンの可動コア側の端面とピストン段差面とが当接するときのニードルのリフト速度を遅くすることができる。これにより、インナピストンとアウタピストンとの当接時のバウンスを抑制することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、ハウジングは、収容空間とハウジングの外部とを接続する排出通路を有する。これにより、可動コアを収容する収容空間の圧力を、燃料通路のうち収容空間の外側の燃料の圧力よりも低い状態に維持することができる。そのため、可動コアは、収容空間において円滑に往復移動可能となる。これにより、ニードルの応答性を高めることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、燃料通路のうち収容空間の内側と外側とを液密に維持可能なシール部材をさらに備える。ここで、シール部材の配置箇所としては、例えば、ニードルの外壁とハウジングの内壁との間、ならびに、インナピストンの小径部の外壁とアウタピストンの内壁との間およびアウタピストンの外壁と固定コアの大径内壁面との間、または、インナピストンの大径部の外壁と固定コアの小径内壁面との間等が考えられる。これにより、可動コアを収容する収容空間の圧力を、燃料通路のうち収容空間の外側の燃料の圧力よりも低い状態に維持することができる。そのため、可動コアは、収容空間において円滑に往復移動可能となる。これにより、ニードルの応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁を示す断面図。
【図2】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の一部を示す断面図であって、(A)は閉弁時のアウタピストン近傍を示す図、(B)は閉弁時の噴孔近傍を示す図、(C)は開弁時のニードル近傍を示す図。
【図3】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の一部を示す断面図であって、(A)は閉弁時のアウタピストン近傍を示す図、(B)は開弁時のアウタピストン近傍を示す図。
【図4】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の噴孔近傍を示す断面図であって、開弁途中の状態を示す図。
【図5】(A)は本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の作動に関するタイミングチャート、(B)は比較例による燃料噴射弁の作動に関するタイミングチャート。
【図6】本発明の第2実施形態による燃料噴射弁の作動に関するタイミングチャート。
【図7】本発明の第3実施形態による燃料噴射弁を示す断面図。
【図8】本発明の第4実施形態による燃料噴射弁を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の複数の実施形態による燃料噴射弁を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による燃料噴射弁を図1に示す。燃料噴射弁1は、図示しないガソリンエンジンの燃料噴射装置に用いられ、燃料をエンジンに噴射供給する。なお、燃料噴射弁1は、高圧の燃料をエンジンの燃焼室に直接噴射する電磁駆動式の直噴型燃料噴射弁である。
【0018】
燃料噴射弁1は、ハウジング20、ニードル30、可動コア40、固定コア50、付勢部材としてのスプリング11、ソレノイド12、インナピストン60およびアウタピストン70等を備えている。
ハウジング20は、金属により略円筒状に形成されている。ハウジング20の一方の端部には、複数の噴孔21が形成されている。また、ハウジング20の他方の端部には、燃料入口22が形成されている。燃料入口22と噴孔21とは、燃料通路23により連通している。これにより、燃料入口22から流入した燃料は、噴孔21に到達可能である。
【0019】
燃料通路23は、第1燃料室231、収容室232、第2燃料室233、および、接続通路234を含んでいる。第1燃料室231と収容室232と第2燃料室233とは、この順番で同軸に配置され、互いに接続している。また、接続通路234は、第1燃料室231と第2燃料室233とを接続している。また、燃料入口22と第1燃料室231とが連通し、第2燃料室233と噴孔21とが連通している。
ハウジング20の内壁、すなわち燃料通路23(第2燃料室233)の噴孔21近傍には、噴孔21を囲むようにして円環テーパ状の弁座24が形成されている。
【0020】
ニードル30は、金属により略円柱状に形成されている。ニードル30は、一方の端部が第2燃料室233に収容されるようにして、ハウジング20内に設けられている。ニードル30の一方の端部は、略円錐状に形成されている。この端部の円錐状の面の一部(中央部)は、弁座24に当接可能である。すなわち、ニードル30は、一方の端部に、弁座24に当接可能な略円錐状のシート部31を有している。
【0021】
ニードル30の他方の端部は、収容室232内に位置する。ニードル30の他方の端部近傍は、ハウジング20の内壁と摺動し、ハウジング20の内壁により軸方向に往復移動可能に支持されている。すなわち、ニードル30は、第2燃料室233と収容室232との接続部分で支持されている。ニードル30は、シート部31が弁座24から離座(離間)することで噴孔21を開き(開弁し)、シート部31が弁座24に着座(当接)することで噴孔21を閉じる(閉弁する)。以下、ニードル30が開弁するときに移動する方向を「開弁方向」といい、閉弁するときに移動する方向を「閉弁方向」という。
【0022】
可動コア40は、金属により有底筒状に形成されている。可動コア40は、底部がニードル30のシート部31とは反対側の端部に接続することで、ニードル30と一体に設けられている。つまり、可動コア40は、収容室232に収容されており、ニードル30とともに往復移動可能である。
【0023】
固定コア50は、金属により略円筒状に形成されている。固定コア50は、軸方向の一方側に大径内壁面51、軸方向の他方側に大径内壁面51より径の小さい小径内壁面52、および、大径内壁面51と小径内壁面52との間にコア段差面53を有している。固定コア50は、燃料通路23のうち収容室232に収容されている。固定コア50は、軸方向の他方(小径内壁面52)側の端面54が可動コア40のニードル30とは反対側の端面41に対向するようハウジング20に固定されている。また、固定コア50の端面54には、凹部55が形成されている。
【0024】
スプリング11は、可動コア40の底部と固定コア50の凹部55との間に設けられている。スプリング11は、軸方向に伸びる力を有している。これにより、スプリング11は、可動コア40およびニードル30を閉弁方向に付勢している。
【0025】
略円筒状のソレノイド12は、固定コア50の径方向外側に設けられ、ハウジング20に固定されている。ソレノイド12は、固定コア50と同様、燃料通路23のうち収容室232に収容されている。ソレノイド12には、図示しない電子制御ユニット(以下、「ECU」という。)が接続されている。ECUは、ソレノイド12に供給する電力を調節することにより燃料噴射弁1の作動を制御する。ソレノイド12には、ECUの指令に基づき、図示しないバッテリから電力が供給される。ソレノイド12に電力が供給されると、ソレノイド12には磁力が生じる。これにより、固定コア50および可動コア40に磁気回路が形成され、可動コア40は、固定コア50側、すなわち開弁方向に吸引される。これにより、ニードル30のシート部31が弁座24から離座し開弁する。このとき、可動コア40は、端面41が固定コア50の端面54に当接することで開弁方向への移動が規制される。また、ソレノイド12への電力の供給が絶たれると、可動コア40は、スプリング11の付勢力により閉弁方向に移動する。これにより、ニードル30のシート部31が弁座24に着座し閉弁する。
【0026】
インナピストン60は、金属により略円柱状に形成されている。インナピストン60は、軸方向の一方側に大径部61、軸方向の他方側に大径部61より径の小さい小径部62、および、大径部61と小径部62との間にピストン段差面63を有している。インナピストン60は、軸方向の他方(小径部62)側の端部が固定コア50の内側に挿通され、軸方向の一方(大径部61)側の端部が可動コア40の底部に接続されることで可動コア40と一体に設けられている。なお、ここで、スプリング11は、インナピストン60の径方向外側に位置している。
【0027】
アウタピストン70は、金属により略円筒状に形成されている。アウタピストン70は、固定コア50の大径内壁面51とインナピストン60の小径部62との間で軸方向に往復移動可能に設けられている。本実施形態では、アウタピストン70の内径は、小径部62の外径とほぼ同じかやや大きく形成されている。そのため、アウタピストン70の内壁は、小径部62の外壁と摺動可能である。なお、アウタピストン70の外径は、固定コア50の大径内壁面51の径よりも小さく形成されている。そのため、アウタピストン70の外壁と固定コア50の大径内壁面51との間には略円筒状の隙間が形成され、アウタピストン70の外壁は、固定コア50の大径内壁面51とは摺動しない。
【0028】
ここで、各部材の断面積について説明する。図2(B)に示すようにニードル30の断面積をSndl、シート部31の断面積の最大値(ニードル30のうちシート部31とそれ以外の部分との境界の断面積)をSsh、図2(A)に示すようにインナピストン60の小径部62の断面積をSin、アウタピストン70の断面積をSoutとすると、ニードル30、インナピストン60およびアウタピストン70は、下記式1および2の関係を満たすよう形成されている。
in=Sndl−Ssh ・・・式1
out=Ssh ・・・式2
【0029】
図2(A)に示すように、アウタピストン70の外径は、固定コア50の小径内壁面52の径よりも大きく形成されている。そのため、アウタピストン70の可動コア40側の端面71は、固定コア50のコア段差面53に当接可能である。
【0030】
また、インナピストン60の大径部61の外径は、固定コア50の小径内壁面52の径よりも小さく形成されている。そのため、インナピストン60の大径部61の外壁と固定コア50の小径内壁面52との間には略円筒状の隙間が形成され、インナピストン60の大径部61は、固定コア50の小径内壁面52とは摺動しない。
【0031】
図1に示すように、ニードル30のシート部31が弁座24に着座(閉弁)し、かつ、アウタピストン70の端面71がコア段差面53に当接した状態では、収容室232に、ハウジング20の内壁、ソレノイド12、固定コア50、および、アウタピストン70に囲まれた収容空間235が形成される。また、この状態のとき、インナピストン60のピストン段差面63とアウタピストン70の端面71との距離をh1、可動コア40の端面41と固定コア50の端面54との距離をh2とすると、h1<h2となるよう設定されている。ここで、可動コア40は、収容空間235において距離h2の範囲内で往復移動可能である。つまり、可動コア40は、往復移動可能に収容空間235に収容されている。また、h2は、ニードル30の最大リフト量に等しい。
【0032】
また、上記構成により、可動コア40の端面41と固定コア50の端面54とが当接した状態、すなわち、ニードル30が開弁し最大リフト量(h2)分移動した状態では、インナピストン60のピストン段差面63とアウタピストン70の端面71とは当接するとともに固定コア50のコア段差面53とアウタピストン70の端面71とは離間した状態となる。
【0033】
燃料噴射弁1の作動時、図示しない燃料レールから燃料入口22を経由して燃料噴射弁1に燃料が供給される。これにより、燃料通路23の第1燃料室231、接続通路234、および、第2燃料室233は、燃料で満たされる。本実施形態の燃料噴射弁1は、直噴型の燃料噴射弁のため、燃料噴射弁1には、比較的高圧の燃料が供給される。そのため、燃料噴射弁1の作動時、第1燃料室231、接続通路234、および、第2燃料室233は、比較的高圧となる。
【0034】
また、第1燃料室231、接続通路234、および、第2燃料室233が燃料で満たされると、燃料は、アウタピストン70と固定コア50およびインナピストン60との間、ならびに、ニードル30とニードル30を摺動可能に支持するハウジング20の内壁との間等を経由して収容空間235に少しずつ流入する。これにより、収容空間235も燃料で満たされた状態となる。
【0035】
本実施形態では、ニードル30が開弁または閉弁するとき、インナピストン60の小径部62の可動コア40とは反対側の端面64、および、アウタピストン70の端面71とは反対側の端面72は、第1燃料室231と収容室232との接続部分近傍に位置する。そのため、燃料噴射弁1の作動時、インナピストン60およびアウタピストン70は、端面64および端面72に第1燃料室231の燃料の圧力が作用することで、ニードル30の閉弁方向に付勢されている(図3(A)および(B)参照)。
【0036】
次に、ニードル30に作用する油圧力について説明する。
図3(A)に示すように、ニードル30のシート部31が弁座24に着座した状態(閉弁時)、すなわちニードル30のリフト量が0の状態において、インナピストン60の端面64およびアウタピストン70の端面72には、第1燃料室231の燃料の圧力が作用している。ここで、第1燃料室231および第2燃料室233の燃料の圧力をPfuelとする。このとき、アウタピストン70の端面71は、コア段差面53に当接することで閉弁方向への移動が規制されるとともにピストン段差面63とは離間している。そのため、このときニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力は、インナピストン60の端面64に作用する油圧力のみとなるため(図2(A)参照)、Sin×Pfuelである。ここで、Sin=Sndl−Ssh(式1)より、Sin×Pfuel=(Sndl−Ssh)×Pfuelとなる。また、このとき(閉弁時)、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は、ニードル30の噴孔21側の端面のうちシート部31を除いた部分に作用する油圧力となるため(図2(B)参照)、(Sndl−Ssh)×Pfuelである。よって、ニードル30が閉弁状態のとき、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とは同じ大きさになり、互いに打ち消し合うことでキャンセルされている。
【0037】
一方、図3(B)に示すように、ニードル30のシート部31が弁座24から完全に離座した状態(開弁時)、すなわちニードル30のリフト量がh2の状態において、インナピストン60の端面64およびアウタピストン70の端面72には、閉弁時と同様、第1燃料室231の燃料の圧力が作用している。このとき、アウタピストン70の端面71とインナピストン60のピストン段差面63とは当接している。そのため、このときニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力は、インナピストン60の端面64およびアウタピストン70の端面72に作用する油圧力となるため、(Sin+Sout)×Pfuelである。ここで、Sin=Sndl−Ssh(式1)およびSout=Ssh(式2)より、(Sin+Sout)×Pfuel=(Sndl−Ssh+Ssh)×Pfuel=Sndl×Pfuelとなる。また、このとき(開弁時)、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は、ニードル30の噴孔21側の端面に作用する油圧力となるため(図2(C)参照)、Sndl×Pfuelである。よって、ニードル30が開弁状態のとき、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とは同じ大きさになり、互いに打ち消し合うことでキャンセルされている。
【0038】
図4に示すように、ニードル30のリフト量が0からh1となるまでの間、すなわち「ニードル30のシート部31が弁座24に着座(閉弁)した状態」からニードル30がリフトし「アウタピストン70の端面71とインナピストン60のピストン段差面63とが当接した状態」となるまでの間は、絞り効果により、シート部31とハウジング20の内壁との間の燃料の圧力(噴射前燃料圧力:P’fuel)は、ニードル30の外壁のうちシート部31を除く部分とハウジング20の内壁との間(第2燃料室233)の燃料の圧力(Pfuel)よりも低くなる。よって、開弁初期の微小リフト領域(0<h<h1:hはニードルリフト量)においては、P’fuel(h)<Pfuelである。
【0039】
本実施形態では、h1は、下記式3の関係を満たすよう設定されている。
P’fuel(h)=0.95×Pfuel ・・・式3
微小リフト領域(0<h<h1)において、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力は、Sin×Pfuelである。一方、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は、(Sndl−Ssh)×Pfuel+Sin×P’fuel(h)である。よって、微小リフト領域(0<h<h1)において、ニードル30に対し作用する油圧力は、開弁方向に作用する油圧力を正とすると、(Sndl−Ssh)×Pfuel+Ssh×P’fuel(h)−Sin×Pfuelとなる。ここで、P’fuel(h)=0.95×Pfuel(式3)およびSin=Sndl−Ssh(式1)より、(Sndl−Ssh)×Pfuel+Ssh×P’fuel(h)−Sin×Pfuel=(Sndl−Ssh)×Pfuel+0.95×Ssh×Pfuel−(Sndl−Ssh)×Pfuel=0.95×Ssh×Pfuel>0となる。つまり、微小リフト領域(0<h<h1)においては、ニードル30に対し開弁方向のアシスト力(0.95×Ssh×Pfuel)が生じる。
【0040】
次に、本実施形態による燃料噴射弁1の作動について、図5(A)に示すタイミングチャートに基づき説明する。
図5(A)に示すように、時刻t0では、ソレノイド12に対するECUの指令値はOFFに対応する値である。そのため、このとき、ソレノイド12には電力は供給されていない。よって、ニードル30は着座した状態であり、ニードルリフト量は0である。また、このときニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とはキャンセルされているため、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は0である。
【0041】
時刻t1でソレノイド12に対するECUの指令値がONに対応する値になると、ソレノイド12に電力が供給される。これにより、可動コア40が固定コア50に吸引されることでニードル30が開弁方向へ移動し、シート部31が弁座24から離座する。これにより、噴孔21からの燃料の噴射が開始される。
【0042】
時刻t2では、アウタピストン70の端面71とインナピストン60のピストン段差面63とが当接する。
時刻t2でアウタピストン70の端面71とインナピストン60のピストン段差面63とが当接すると、時刻t2以降、アウタピストン70は、端面71がピストン段差面63に押されることで開弁方向に移動する。
【0043】
時刻t3では、可動コア40の端面41が固定コア50の端面54に当接する。これにより、ニードル30のシート部31が弁座24から完全に離座した状態(開弁した状態)、すなわちニードル30のリフト量がh2の状態となる。
【0044】
時刻t3以降、ソレノイド12に対するECUの指令値がOFFに対応する値になりソレノイド12への電力の供給が絶たれると、スプリング11の付勢力により、可動コア40は、閉弁方向へ移動し固定コア50から離間する。このとき、アウタピストン70は、インナピストン60とともに閉弁方向へ移動し、端面71が固定コア50のコア段差面53に当接する。これにより、アウタピストン70は、閉弁方向への移動が規制される。その後、ニードル30のシート部31が弁座24に着座(閉弁)すると、噴孔21からの燃料の噴射が停止する。
【0045】
図5(A)に示すように、時刻t1より前の期間T1では、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とはキャンセルされるため、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は0である。
時刻t1(閉弁状態)から時刻t2までの期間は、ニードル30に対し開弁方向のアシスト力(0.95×Ssh×Pfuel)が生じる。
【0046】
なお、時刻t2より前の期間では、アウタピストン70は端面71が固定コア50のコア段差面53に当接した状態であり、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力はインナピストン60の端面64のみに作用する油圧力となる。
時刻t2以降の期間T2では、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とはキャンセルされるため、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は0である。
【0047】
なお、時刻t2以降では、アウタピストン70は端面71がインナピストン60のピストン段差面63に当接した状態であり、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力はインナピストン60の端面64およびアウタピストン70の端面72に作用する油圧力となる。
【0048】
図5(B)に、比較例による燃料噴射弁の作動に関するタイミングチャートを示す。ここで、比較例による燃料噴射弁としては、本実施形態の燃料噴射弁1の構成と基本的な構成は同じであるが、インナピストン60とアウタピストン70とが一体に形成されるとともに、固定コア50が小径内壁面52およびコア段差面53を有しない構成の燃料噴射弁を想定している。
【0049】
比較例の場合、時刻t1より前の期間(閉弁時)では、ニードル30の噴孔21側の端面のうちシート部31に作用する油圧力分がキャンセルされないため、ニードル30に対し閉弁方向に大きさSsh×Pfuelの油圧力が作用している。一方、時刻t2以降の期間T2では、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とはキャンセルされるため、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は0である。
【0050】
このように、比較例の場合、ニードル30が閉弁状態のとき(閉弁時)、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力は完全にはキャンセルされない。一方、本実施形態の場合、ニードル30が閉弁状態(閉弁時:期間T1)または開弁状態(開弁時:期間T2)のいずれの状態であっても、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とがキャンセルされる。
また、本実施形態の場合、時刻t1から期間t2までの期間、ニードル30に対し開弁方向のアシスト力(0.95×Ssh×Pfuel)が生じるため、比較例と比べ、ニードル30のリフト速度を向上することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態では、ニードル30、インナピストン60およびアウタピストン70は、Sin=Sndl−Ssh、Sout=Sshの関係を満たすよう形成されている。また、アウタピストン70は、ニードル30が閉弁状態のとき、可動コア40側の端面71が固定コア50のコア段差面53に当接することで閉弁方向への移動が規制されるとともにピストン段差面63とは離間している。また、アウタピストン70は、ニードル30が閉弁状態から開弁状態に移行するとき、端面71がインナピストン60のピストン段差面63に当接し押されることで開弁方向に移動する。さらに、アウタピストン70は、ニードル30が開弁状態から閉弁状態に移行するとき、端面71が固定コア50のコア段差面53に当接することで閉弁方向への移動が規制される。この構成により、本実施形態では、ニードル30が閉弁状態(閉弁時)または開弁状態(開弁時)のいずれの状態であっても、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とがキャンセルされる。そのため、燃料通路23内の燃料の圧力および圧力変動のニードル30への影響を抑制することができる。したがって、ニードル30の開弁および閉弁に関する誤作動が低減し、燃料を安定して噴射することができる。
【0052】
また、本実施形態では、ニードル30が閉弁状態のときのアウタピストン70の可動コア40側の端面71とピストン段差面63との距離h1は、P’fuel=0.95×Pfuelの関係を満たすよう設定されている。この構成では、ニードル30が閉弁状態から「アウタピストン70の端面71とピストン段差面63とが当接する状態」となるまでの間、ニードル30に対し開弁方向のアシスト力(0.95×Ssh×Pfuel)が生じる。したがって、ニードル30の開弁初期において、ニードル30のリフト速度を向上することができる。なお、距離h1がP’fuel≧0.95×Pfuelの関係を満たすよう設定されていれば、「ニードル30の開弁初期において、ニードル30のリフト速度を向上する」効果を奏することができる。
【0053】
また、本実施形態では、上述のように、ニードル30はハウジング20の内壁と摺動可能に設けられ、アウタピストン70は内壁がインナピストン60の小径部62の外壁と摺動可能かつ端面71が固定コア50のコア段差面53に当接可能に設けられている。そのため、第1燃料室231および第2燃料室233から収容空間235への燃料の流入量は、極めて少量である。よって、燃料噴射弁1の作動時、第1燃料室231および第2燃料室233が高圧となっても、収容空間235は大気圧に維持される。その結果、可動コア40は、収容空間235において円滑に往復移動可能となる。
【0054】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による燃料噴射弁の作動に関するタイミングチャートを図6に示す。第2実施形態による燃料噴射弁は、物理的な構成は第1実施形態とほぼ同じであるが、ニードル30が閉弁した状態におけるインナピストン60のピストン段差面63とアウタピストン70の端面71との距離h1が、第1実施形態と異なる。
【0055】
第2実施形態では、ニードル30のシート部31が弁座24に着座(閉弁)し、かつ、アウタピストン70の端面71がコア段差面53に当接した状態おける、インナピストン60のピストン段差面63とアウタピストン70の端面71との距離h1は、下記式4の関係を満たすよう設定されている。
P’fuel(h)=0.50×Pfuel ・・・式4
つまり、第2実施形態では、距離h1は、第1実施形態での距離h1と比べ、小さく設定されている。
【0056】
次に、本実施形態による燃料噴射弁の作動について、図6に示すタイミングチャートに基づき説明する。
図6に示すように、時刻t0では、ソレノイド12に対するECUの指令値はOFFに対応する値である。そのため、このとき、ソレノイド12には電力は供給されていない。よって、ニードル30は着座した状態であり、ニードルリフト量は0である。また、このときニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とはキャンセルされているため、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は0である。
【0057】
時刻t1でソレノイド12に対するECUの指令値がONに対応する値になると、ソレノイド12に電力が供給される。これにより、可動コア40が固定コア50に吸引されることでニードル30が開弁方向へ移動し、シート部31が弁座24から離座する。これにより、噴孔21からの燃料の噴射が開始される。
【0058】
時刻t2では、アウタピストン70の端面71とインナピストン60のピストン段差面63とが当接する。
時刻t2でアウタピストン70の端面71とインナピストン60のピストン段差面63とが当接すると、時刻t2以降、アウタピストン70は、端面71がピストン段差面63に押されることで開弁方向に移動する。
【0059】
時刻t4では、可動コア40の端面41が固定コア50の端面54に当接する。これにより、ニードル30のシート部31が弁座24から完全に離座した状態(開弁した状態)、すなわちニードル30のリフト量がh2の状態となる。
【0060】
時刻t4以降、ソレノイド12に対するECUの指令値がOFFに対応する値になりソレノイド12への電力の供給が絶たれると、スプリング11の付勢力により、可動コア40は、閉弁方向へ移動し固定コア50から離間する。このとき、アウタピストン70は、インナピストン60とともに閉弁方向へ移動し、端面71が固定コア50のコア段差面53に当接する。これにより、アウタピストン70は、閉弁方向への移動が規制される。その後、ニードル30のシート部31が弁座24に着座(閉弁)すると、噴孔21からの燃料の噴射が停止する。
【0061】
図6に示すように、時刻t1より前の期間T3では、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とはキャンセルされるため、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は0である。
時刻t1(閉弁状態)から時刻t2までの期間は、ニードル30に対し開弁方向のアシスト力(0.50×Ssh×Pfuel)が生じる。
【0062】
本実施形態では、時刻t1から時刻t2までの期間が、第1実施形態の場合と比べで短いため、時刻t2でアウタピストン70の端面71とインナピストン60のピストン段差面63とが当接するときのニードル30のリフト速度は第1実施形態の場合より遅い。そのため、時刻t2の直後、ニードル30に対し閉弁方向の油圧力が作用する。よって、インナピストン60とアウタピストン70との当接時のバウンスが抑制される。
【0063】
なお、時刻t2より前の期間では、アウタピストン70は端面71が固定コア50のコア段差面53に当接した状態であり、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力はインナピストン60の端面64のみに作用する油圧力となる。
時刻t3では、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力と開弁方向に作用する油圧力とはキャンセルされるため、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は0となる。よって、時刻t3以降の期間T4では、ニードル30に対し開弁方向に作用する油圧力は0である。
【0064】
なお、時刻t2以降では、アウタピストン70は端面71がインナピストン60のピストン段差面63に当接した状態であり、ニードル30に対し閉弁方向に作用する油圧力はインナピストン60の端面64およびアウタピストン70の端面72に作用する油圧力となる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態では、ニードル30が閉弁状態のときのアウタピストン70の可動コア40側の端面71とピストン段差面63との距離h1は、P’fuel=0.50×Pfuelの関係を満たすよう設定されている。この構成では、アウタピストン70の可動コア40側の端面71とピストン段差面63とが当接するときのニードル30のリフト速度を遅くすることができる。これにより、インナピストン60とアウタピストン70との当接時のバウンスを抑制することができる。なお、距離h1がP’fuel≦0.50×Pfuelの関係を満たすよう設定されていれば、「インナピストン60とアウタピストン70との当接時のバウンスを抑制する」効果を奏することができる。
【0066】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による燃料噴射弁を図7に示す。第3実施形態は、第1実施形態の変形例である。
【0067】
第3実施形態では、ハウジング20の噴孔21とは反対側の端部に燃料排出口25が形成されている。また、ハウジング20は、収容空間235と燃料排出口25とを接続する排出通路26を有している。つまり、排出通路26は、収容空間235とハウジング20の外部とを接続している。本実施形態の燃料噴射弁は、燃料排出口25が図示しない燃料レールまたは燃料タンクに連通するよう設けられる。これにより、燃料噴射弁の作動時、収容空間235内の燃料は、排出通路26および燃料排出口25を経由して、燃料レールまたは燃料タンクへ排出される。
【0068】
上記構成により、本実施形態では、燃料噴射弁の作動時、可動コア40を収容する収容空間235の圧力を大気圧に維持することができる。そのため、可動コア40は、収容空間235において円滑に往復移動可能となる。これにより、ニードル30の応答性をより高めることができる。
【0069】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態による燃料噴射弁を図8に示す。第4実施形態は、第1実施形態の変形例である。
【0070】
第4実施形態では、複数のシール部材13を備えている。シール部材13は、例えばゴムまたは樹脂により略円環状に形成されている。本実施形態では、シール部材13は、ニードル30の外壁とハウジング20の内壁(ニードル30を摺動可能に支持する内壁)との間、インナピストン60の小径部62の外壁とアウタピストン70の内壁との間、および、アウタピストン70の内壁と固定コア50の大径内壁面51との間に設けられている。これにより、収容空間235と第1燃料室231および第2燃料室との間を液密に維持することができる。
【0071】
このように、本実施形態では、複数のシール部材13により、燃料通路23のうち収容空間235の内側と外側とを液密に維持可能である。これにより、燃料噴射弁の作動時、可動コア40を収容する収容空間235の圧力を大気圧に維持することができる。そのため、可動コア40は、収容空間235において円滑に往復移動可能となる。これにより、ニードル30の応答性をより高めることができる。
【0072】
(他の実施形態)
本発明の他の実施形態では、ニードルが閉弁した状態におけるインナピストンのピストン段差面とアウタピストンの可動コア側の端面との距離(h1)は、可動コアの固定コア側の端面と固定コアの可動コア側の端面との距離(h2)より小さければ、どのような値に設定されていてもよい。
【0073】
上述の第4実施形態では、シール部材を、ニードル30の外壁とハウジング20の内壁(ニードル30を摺動可能に支持する内壁)との間、インナピストン60の小径部62の外壁とアウタピストン70の内壁との間、および、アウタピストン70の内壁と固定コア50の大径内壁面51との間に設ける例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、シール部材を、ニードル30の外壁とハウジング20の内壁(ニードル30を摺動可能に支持する内壁)との間、および、インナピストン60の大径部61の外壁と固定コア50の小径内壁面52との間に設けることとしてもよい。
【0074】
本発明の燃料噴射弁は、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジンに適用することもできる。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 ・・・・・燃料噴射弁
11 ・・・・スプリング(付勢部材)
12 ・・・・ソレノイド
20 ・・・・ハウジング
21 ・・・・噴孔
23 ・・・・燃料通路
24 ・・・・弁座
30 ・・・・ニードル
31 ・・・・シート部
40 ・・・・可動コア
50 ・・・・固定コア
51 ・・・・大径内壁面
52 ・・・・小径内壁面
53 ・・・・コア段差面
60 ・・・・インナピストン
61 ・・・・大径部
62 ・・・・小径部
63 ・・・・ピストン段差面
70 ・・・・アウタピストン
235 ・・・収容空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が噴射される噴孔、当該噴孔に連通する燃料通路、および、前記噴孔を囲むよう前記燃料通路に形成される弁座を有する筒状のハウジングと、
略円柱状に形成され、一方の端部に前記弁座に当接可能なシート部を有し、前記燃料通路内で軸方向に往復移動可能に設けられ、前記シート部が前記弁座から離座または前記弁座に着座することで前記噴孔を開閉するニードルと、
前記燃料通路内において前記ニードルの前記シート部とは反対側に、前記ニードルと一体に設けられる可動コアと、
略円筒状に形成され、軸方向の一方側に大径内壁面、軸方向の他方側に前記大径内壁面より径の小さい小径内壁面、および、前記大径内壁面と前記小径内壁面との間にコア段差面を有し、軸方向の他方側の端面が前記可動コアの前記ニードルとは反対側の端面に対向するよう前記燃料通路内において前記ハウジングに固定される固定コアと、
前記可動コアと前記固定コアとの間に設けられ、前記可動コアおよび前記ニードルを閉弁方向に付勢する付勢部材と、
前記固定コアの径方向外側に設けられ、電力が供給されると磁力を生じ、前記可動コアを前記固定コアに吸引することで前記ニードルを開弁方向に移動させるソレノイドと、
略円柱状に形成され、軸方向の一方側に大径部、軸方向の他方側に前記大径部より径の小さい小径部、および、前記大径部と前記小径部との間にピストン段差面を有し、軸方向の他方側の端部が前記固定コアの内側に挿通され、軸方向の一方側の端部が前記可動コアに接続されることで前記可動コアと一体に設けられるインナピストンと、
略円筒状に形成され、前記大径内壁面と前記小径部との間で軸方向に往復移動可能に設けられ、内壁が前記小径部の外壁と摺動可能なアウタピストンと、を備え、
前記ニードルの断面積をSndl、前記シート部の断面積の最大値をSsh、前記インナピストンの前記小径部の断面積をSin、前記アウタピストンの断面積をSoutとすると、
前記ニードル、前記インナピストンおよび前記アウタピストンは、Sin=Sndl−Ssh、Sout=Sshの関係を満たすよう形成され、
前記燃料通路は、前記可動コアを往復移動可能に収容する収容空間を含み、
前記インナピストンおよび前記アウタピストンは、前記可動コアとは反対側の端面に前記燃料通路内の燃料の圧力が作用することで前記ニードルの閉弁方向に付勢され、
前記アウタピストンは、
前記ニードルが閉弁状態のとき、前記可動コア側の端面が前記コア段差面に当接することで閉弁方向への移動が規制されるとともに前記ピストン段差面とは離間しており、
前記ニードルが閉弁状態から開弁状態に移行するとき、前記可動コア側の端面が前記ピストン段差面に当接し押されることで開弁方向に移動し、
前記ニードルが開弁状態から閉弁状態に移行するとき、前記可動コア側の端面が前記コア段差面に当接することで閉弁方向への移動が規制されることを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
前記ニードルが閉弁状態のとき前記ニードルの一方の端面のうち前記シート部を除く部分、および、前記インナピストンの前記可動コアとは反対側の端面に作用する燃料の圧力をPfuel、前記ニードルが閉弁状態から「前記アウタピストンの前記可動コア側の端面と前記ピストン段差面とが当接する状態」となるまでの間に前記シート部に作用する燃料の圧力をP’fuelとすると、
前記ニードルが閉弁状態のときの前記アウタピストンの前記可動コア側の端面と前記ピストン段差面との距離は、P’fuel≧0.95×Pfuelの関係を満たすよう設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記ニードルが閉弁状態のとき前記ニードルの一方の端面のうち前記シート部を除く部分、および、前記インナピストンの前記可動コアとは反対側の端面に作用する燃料の圧力をPfuel、前記ニードルが閉弁状態から「前記アウタピストンの前記可動コア側の端面と前記ピストン段差面とが当接する状態」となるまでの間に前記シート部に作用する燃料の圧力をP’fuelとすると、
前記ニードルが閉弁状態のときの前記アウタピストンの前記可動コア側の端面と前記ピストン段差面との距離は、P’fuel≦0.50×Pfuelの関係を満たすよう設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記収容空間と前記ハウジングの外部とを接続する排出通路を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
前記燃料通路のうち前記収容空間の内側と外側とを液密に維持可能なシール部材をさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−117493(P2012−117493A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270232(P2010−270232)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】