説明

燃料油改質添加剤および燃料油改質方法

【課題】燃料油の着火性、燃焼性を改善して燃料消費量を低減し、排気ガスを浄化し、さらに燃焼室を浄化してトラブルを防ぎ、かつ副作用がなく、CO削減および環境浄化に寄与する燃料油改質添加剤および燃料油改質方法を提供する。
【解決手段】100mlあたり(a)コロイド状銀を銀換算で50〜125mg、(b)コロイド状貴金属として、コロイド状白金および/またはパラジウムを当該貴金属換算として1〜2.5mg、ならびに(c)親水性有機溶媒および水からなる分散媒を含有する、燃料油改質添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料油改質添加剤およびその改質方法に関する。さらに詳細には、本発明の添加剤を各燃料油に添加すると着火性、燃焼性が改善されて、燃料消費量が大幅に低減し、排気ガスが浄化され、さらに燃室が浄化されて、障害の発生を防止することができる燃料油改質添加剤および燃料油改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料油の添加剤として燃促進剤、酸化防止剤、清浄剤、金属不活性剤、煤煙防止剤あるいはセタン価向上剤など数多くの提案がされているが、いずれも化学薬品、界面活性剤、金属セッケンなどを主にするもので、その性能は一部の目的に限定されている。
また、燃料消費量の低減を目的とした燃料油添加剤としては、特許文献1(特開2007−56130号広報)に特定のジアミド化合物が燃料油添加物として提案されているが、その燃料消費量削減効果は顕著ではない。さらに、特許文献2(特開2007−186534号広報)にL−メントールとパラフィンの混合物を放射線で処理した炭化水素系燃料油添加剤が提案されているが、放射線処理に長い時間を要するという問題点がある上に、必要とされる添加量が多い。
【特許文献1】特開2007−56130号広報
【特許文献2】特開2007−186534号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、その目的は極微量の貴金属系添加剤により燃料油の着火性、燃焼性を改善して燃料消費量を低減し、排気ガスを浄化し、さらに燃焼室を浄化してトラブルを防ぎ、かつ副作用がなく、CO削減および環境浄化に寄与する燃料油改質添加剤および燃料油改質方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、100mlあたり、(a)コロイド状銀を50〜125mg(銀換算)、(b)コロイド状白金および/またはパラジウムを1〜2.5mg(当該貴金属換算)、ならびに(c)親水性有機溶媒および水からなる分散媒を含有する燃料油改質添加剤に関する。
次に、本発明は、上記燃料油用改質剤を、燃料油に対し0.04〜0.08重量%添加して混合する燃料油改質方法に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明の燃料油改質添加剤は、燃料油の細分子化および酸化の抑止により、霧化時(空気と混合する)の粒子がより微細になり、燃料の着火性および燃焼性が改善され、その結果、出力が向上し、大幅に燃料を節約できる。また、燃焼性の改善により、燃料の後燃え期間が短くなって排気温度が下がり、着火性と相俟って排気中のCO、HC(ハイドロカーボン)、PM(粒子状物質)等が減少し、さらに白金の触媒効果により排気中のNOも減少する。
本発明の燃料油改質添加剤を自動車用燃料に使用した場合は、燃料消費量が10〜30%と大幅に減少し、排ガス中のCO、HC、PM、NOも減少する。また、ボイラーに使用した場合は、二次空気量を5〜15%絞ることができるため、排気熱量が減少して10%以上の燃料消費量の節約になり、排ガスも浄化できる。
以上のように、本発明の燃料油改質剤を燃料油に添加すると、大きな省エネを実現し、さらに燃料消費量の減少は、すなわちCO削減につながり、経済効果および環境浄化をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(a)コロイド状銀
本発明の(a)コロイド状銀は、酸素と親和性があり、コロイド状銀に吸着した酸素は活性な分子状酸素になり、このエネルギーにより燃料分子のクラスターが分断されて小さくなり、また燃料の酸化進行を図るラジカルを消去してクラスターの拡大を防ぎ、霧化時の霧をより微細にして着火性、燃焼性を改善するものと考えられる。
【0007】
本発明の燃料油改質添加剤中の(a)コロイド状銀の含有量は、本発明の組成物100mlに対して50〜125mg(銀換算)、好ましくは70〜100mg(銀換算)である。50mg未満であると効果が低すぎ、一方、125mgを超えると添加量を増やしても効果は変わらず好ましくない。
【0008】
コロイド状銀の微粒子の粒径は特に限定されないが、20nm以下の平均粒径を有する微粒子を用いることができ、好ましくは5〜10nmであるが、さらに細かな微粒子を用いることも可能である。
【0009】
コロイド状銀を製造する方法としては酸化銀をタンニンにより還元する方法、酸化銀を水素ガスで還元する方法、あるいはCarey Lea法、ブンゼン灯の炎を当てて還元する方法などがあり、特にCarey Lea法(Am. J. Sci., 37,476. (1889))が広く知られている。
【0010】
Carey Lea法の概要は以下の通りである。
硝酸銀水溶液にクエン酸ナトリウム水溶液と硫酸鉄(II)水溶液の混合液を加え、激しく攪拌して、3時間前後静置することにより酸化銀の沈殿を得る。この上澄み液を除去した後に水を加えていくと、コロイド状銀分散液が容易に製造できる。なお、本発明に用いる(a)コロイド状銀分散液の濃度は、100mlあたり1〜2g(銀換算)であることが好ましい。コロイド状銀の含有率が高いものを用いると、コロイド状銀含有液の使用量が少なくなり、燃料油改質添加剤を調整する際に相対的に親水性有機溶媒を多く加えることができるため、結果として燃料中にコロイド状銀が分散しやすくなり、より好ましい。
【0011】
(b)コロイド状貴金属
本発明の燃料油改質添加剤の(b)コロイド状貴金属は、コロイド状白金および/またはコロイド状パラジウムである。
(b)コロイド状貴金属は、自体の体積の数百倍の水素および酸素を吸蔵して、これが原子状になって非常に活性に富んでおり、銀同様、燃料分子のクラスターを小さくし、酸化を防止するもので、銀との大きな電位差も関与して相乗効果が大きくなっている。さらに白金は、その触媒作用により排ガスの浄化、とくにNOの除去に大きく寄与するものと考えられる。
【0012】
(b)コロイド状貴金属を構成する微粒子は、2種の貴金属を含んでいてもよい。また、少なくとも1種の貴金属を含む合金の微粒子、あるいは1種または2種の貴金属の微粒子と貴金属以外の1種または2種の金属の微粒子を含む混合物を用いることもできる。これらのうち好ましいのは白金である。
(b)コロイド状貴金属の含有量は、本発明の燃料油改質添加剤100mlに対して1〜2.5mg(当該貴金属換算)、好ましくは1.5〜2mg(当該貴金属換算)である。1mg未満であると効果が低すぎ、一方、2.5mgを超えると添加量を増やしても効果は変わらず、コスト高になるため、好ましくない。
【0013】
また、(b)コロイド状貴金属の微粒子としては、比表面積が大きく、表面反応性に優れたコロイド状態を形成可能な微粒子が好ましい。微粒子の粒径は特に限定されないが、コロイド状白金であれば平均粒径が3〜10nm、コロイド状パラジウムであれば平均粒径10〜20nmであることが好ましいが、さらに細かな微粒子を用いることも可能である。
【0014】
コロイド状白金を製造する方法としては、ブンゼン灯の炎を当てて還元する方法、白金線を用いるブレディッヒ法、クエン酸ナトリウムを使用する方法などを用いることができるが、特にクエン酸ナトリウムを用いる方法が好ましい。
【0015】
以下に、クエン酸ナトリウム法を概説する。
煮沸して水中の溶存酸素を除いた純水に塩化白金酸水溶液を加え、再び煮沸し、クエン酸ナトリウム水溶液を加えてさらに煮沸すると、液色が黄淡色から褐色へと変化し、2〜3時間の煮沸の後には最終的に黒色になる。このコロイド状白金を濃縮することにより、所望の濃度のコロイド状白金分散液を作成することができる。本発明の材料として好適なコロイド状白金分散液は、分散液100ml中13〜20mg(白金換算)のコロイド状白金を含有する分散液である。
【0016】
コロイド状のパラジウムは、次の方法で製造することができる。
まず、プロタブリン酸ナトリウム水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を少し過剰に加え、これに無水の塩化パラジウム(PdCl)水溶液を徐々に加えると赤褐色の透明な溶液が得られる。これに水加ヒドラジン(NH・NH・HO)を少量加えると反応が起こって窒素の気泡により泡立ってくる。これを約3時間放置して反応を終結させてから、得られた黒色の水溶液を透析にかけて過剰の水酸化ナトリウム、ヒドラジンおよび生成した塩化ナトリウムを完全に除去すると安定なコロイド状パラジウムが得られる。このコロイド状パラジウムを濃縮することにより、所望の濃度のコロイド状パラジウム分散液を作成することができる。本発明の材料として好適なコロイド状パラジウム分散液は、分散液100ml中15〜20mg(パラジウム換算)のコロイド状パラジウムを含有する分散液である。
【0017】
(c)分散媒
本発明の燃料油改質添加剤の分散媒には、上記コロイド液由来の水以外に、コロイド状銀等のコロイド状粒子を燃料中に均一にかつ安定して分散させるための親水性有機溶媒が含まれる。親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノールを用いることができ、1種でも2種を併用することもできる。これらの親水性有機溶媒は、上記コロイド状銀等の調製後に、コロイド液の使用量に応じて添加量を調整することができる。(c)分散媒中の親水性有機溶媒の割合は76〜86重量%、水の割合は14〜24重量%であることが好ましい。また、本発明の燃料油改質添加剤中の最終的な分散媒の含有量は、(a)〜(c)成分の合計量が100重量部となる量である。
【0018】
なお、必要により、(d)その他の添加剤も添加することができる。(d)その他の添加剤としては、界面活性剤、金属石けんなどの公知の添加剤を必要に応じて用いることができる。また、(d)その他の添加剤は、本発明の目的を損なわない範囲で任意の量を添加することができる。
【0019】
本発明の燃料油改質添加剤を調製するには、以上のような(a)〜(c)成分、あるいは(a)〜(d)成分を混合するが、この場合の混合方法は、(a)〜(c)成分、あるいは(a)〜(d)成分を同時に混合することができる。
本発明の組成物は、高速撹拌機、その他の分散機により分散させ、均一な安定性の良い分散液とすることができる。
【0020】
本発明の燃料油改質添加剤は、ガソリン、灯油、軽油、A重油、B重油、C重油、ジェット燃料、アルコール及びこれらと植物油などの混合燃料など、あらゆる種類の燃料油に添加することができる。本発明の燃料油改質添加剤は、燃料油に対し0.04〜0.08重量%、好ましくは0.05〜0.06重量%添加することができる。燃料油改質添加剤の添加量が0.04重量%未満であると効果が低すぎ、一方、0.08重量%を超えると添加量を増やしても効果は変わらず、好ましくない。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、特許請求の範囲を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例中、部および%は、特に断らない限り重量基準である。
【0022】
なお、燃焼性試験については、Fueltech社製の燃料着火性試験機FIA−100を用いて、圧力2.0MPa、温度450℃で満たした定容燃焼室内に燃料を噴射し、下記の項目について測定を行った。なお、1サンプルにつき12回の測定を行い、はじめの2回分の測定値を棄却し、残りの10回分をデータとして採用した。
着火遅れ:
燃焼室内圧力が初圧から0.01IP(IP:燃焼最高圧力≒1.0MPa)上昇するまでの時間
主燃焼開始:
燃焼室内圧力が初圧から0.1IP上昇するまでの時間
着火〜主燃焼期間:
主燃焼開始から着火遅れを引いた数値
全燃焼期間:
燃料噴射開始から90%燃焼終わりまでの時間
主燃焼期間:
全燃焼期間から主燃焼開始を引いた数値
FIAセタン価:
着火遅れより算出
発熱量:
燃焼室内の圧力変化から算出された熱発生率から算出
最大圧力上昇点:
熱発生率が最高になる時点は最大発熱率時間MRT(Max ROH time)
後燃え期間:
熱発生率が最高になってから燃焼終わりまでの時間
【0023】
添加剤CI−Aの調製
本発明の燃料油改質添加剤の性能を調べるため、添加剤CI−Aを作成した。
まず、容器に予め作成したコロイド状銀の分散液50ml(銀換算:790mg)をいれ、これに作成したコロイド状白金の分散液150ml(白金換算:20mg)を加え、軽く攪拌した後、メタノールを800ml加え、再度軽く攪拌混合して、添加剤CI−A1,000mlを作成した。
【0024】
実施例1
CI−Aを軽油に0.06重量%添加したもの(「CI−200」とする)を作成し、無添加の軽油との着火性について比較実験を行った。



【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果から、「CI−200」は、着火に関して、セタン価が3.1と大きく向上している。最高熱発生率(燃焼速度)が増加し、全燃焼期間と後燃え期間が低減して良く燃焼している。これは高速ディーゼル期間のような高い燃焼速度が要求される機関では熱効率が向上し、排気ガスが清浄化され、排気ガス中のTHC(全炭化水素)、PM、COの排出量が低減することを表している。
【0027】
実施例2
次に、CI−AをA重油に0.07重量%添加したもの(「CI−300」とする)を作成し、Fueltech社製の燃料着火性試験機FIA−100を用いて無添加のA重油との比較実験を行った。この結果を図1に示す。
図1から、「CI−300」は、最高熱発生率(燃焼速度)の上昇が顕著であり、これをボイラー用に使用した場合には二次空気量を減少させることが可能になり(5〜15%)、これにより燃料消費量は10%前後減少する。また、排気ガスの浄化、それに伴う炉内の汚れの減少、排気ガス中のTHC、PM、CO排出量を低減することが可能になる。
【0028】
実施例3
CI−Aを、ガソリンに対し0.05重量%添加したもの(「CI−100」とする)を乗用車(ガソリン車)に用いて燃料消費量の実車テストを行った。さらに、軽油に対しCI−Aを0.065重量%添加したもの(「CI−400」とする)をディーゼルトラック(軽油車)に用いて同様のテストを行った。ガソリン車の結果を表2、軽油車の結果を表3に示す。
【0029】
【表2】



【0030】
【表3】

【0031】
ガソリン車については、燃料消費量はテストに用いた車種により開きがあるが、CI−A添加による燃料消費量の減少効果はすべての車種において認められ、その減少率は17〜31%と大きなものであった。また、ディーゼル車についても、すべての車種に置いて10%以上燃料消費量が減少した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、燃料油改質添加剤を燃料油に添加すると、該燃料油の細分子化および酸化の抑止により、霧化時(空気と混合する)の粒子がより微細になって燃料の着火性および燃焼性が改善され、その結果、燃料油から得られる熱量が増加し、燃料消費量の大幅な節約になる。また燃焼性の改善により、燃料の後燃え期間が短くなって排気温度が下がり、着火性と相俟って排気中のCO、HC(炭化水素)、PM(粒子状物質)等が減少し、さらに白金の触媒効果により排気中のNOも減少する。
本発明の燃料油改質添加剤を自動車用燃料に使用した場合は、燃料消費量が10〜30%と大幅に減少し、排ガス中のCO、HC、PM、NOも減少する。また、ボイラーに使用した場合は二次空気量を5〜15%絞ることができるため、排気熱量が減少して10%以上の燃料消費量の節約になり、排ガスも浄化できる。また、上記燃料油改質添加剤は、ディーゼル機関車、暖房器、ハウス暖房などの用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例2における、「無添加A重油」と「CI−300(CI−A添加A重油)」の熱発生曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100mlあたり、
(a)コロイド状銀を50〜125mg(銀換算)、
(b)貴金属が白金および/またはパラジウムであるコロイド状貴金属を1〜2.5mg(当該貴金属換算)、ならびに
(c)親水性有機溶媒および水からなる分散媒
を主成分とする、燃料油改質添加剤。
【請求項2】
請求項1記載の燃料油改質添加剤を燃料油に対し0.04〜0.08重量%添加して混合する燃料油改質方法。
【請求項3】
燃料油がガソリン、灯油、軽油、A重油、B重油、C重油、ジェット燃料、アルコールまたは混合燃料である請求項2記載の燃料油改質方法。

【図1】
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