説明

燃料用付臭剤

【課題】 燃料への添加量が従来の付臭剤と同等以下で燃料の漏洩を十分に感知することが可能であり、優れた化学的安定性を有し、かつ、燃料電池の燃料ガスの改質触媒、一酸化炭素の選択酸化触媒及び電極担持触媒の被毒を抑制することが可能な燃料用付臭剤を提供する。
【解決手段】 本発明の付臭剤は、イソプレン及び/又はピペリレンとシクロペンタジエン及び/又はその炭化水素基置換体とのディールス・アルダー反応により得られる下記一般式(I)〜(IV)で表される反応生成物の少なくとも1種を必須成分とする。
【化1】


(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示す)
また、上記反応生成物と下記一般式 (V)〜(VIII)で表されるイソプレン二量体の少なくとも1種とを併用することもできる。
【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は常温でガスまたは液状の燃料に付臭剤を含有させた燃料用付臭剤に関する。より詳細には、本発明は、イソプレン又はピペリレンとシクロペンタジエン類とのディールスアルダー反応により得られる反応生成物を上記燃料中に微量含有させた燃料用付臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用又は工業用燃料には、天然ガス、都市ガス、工業用ガス、液化石油ガス等の燃料ガス、あるいはガソリン、ナフサ、灯油等の液体燃料が用いられている。これらの燃料は臭気が弱いので、これらの燃料の漏洩等による引火、爆発又は中毒等の万一の災害を未然に防止する必要である。
一方、燃料電池は発電効率が高く排ガスもクリーンであることから、特に内燃機関との組合せ又はこれに代わる燃料電池を動力源とする車輌の実用化が進展している。燃料電池は発電の際に発生する排熱をコージェネと組み合わせて利用することにより環境適合性があり、リン酸型燃料電池は既に実用化されている。また、固体高分子型燃料電池も実用化が間近である。燃料電池に用いる燃料には、水素ガスや、メタン,エタン,プロパン等の炭化水素系ガス燃料、ガソリン,ナフサ,灯油等の炭化水素系液体燃料、メタノール等のアルコール、ジメチルエーテルなどの含酸素燃料がある。これらの燃料に対しても、前述の燃料と同様に、引火、爆発または中毒等の災害を未然に防止するための方法を講じる必要がある。
かかる対策として、特有の臭気を有する付臭剤を燃料に添加することが従来から行われている。付臭剤としては、メルカプタン類、スルフィド類等の硫黄系化合物が使用されてきた。硫黄系化合物は、燃焼の際に亜硫酸ガス等の発生源となり問題がある。硫黄系付臭剤に代わるものとして、シクロヘキセン、ノルボルネン誘導体、アクリル酸エチル等の飽和又は不飽和脂肪酸エステルなどの非硫黄系付臭剤が検討されている。
【0003】
燃料電池用燃料に硫黄系付臭剤を添加すると、燃料電池、特にリン酸型や固体高分子型の場合、改質工程で使用される触媒や一酸化炭素の選択酸化触媒が被毒される。また、電池セルの電極(Pt触媒)に悪影響を及ぼす。そのため、燃料から水素リッチガスに改質する前段階で脱硫器を設け、脱硫触媒により燃料中の硫黄分を除去しているのが現状である。
固体酸化物型や溶融炭酸塩型等の大規模発電用燃料電池においては、燃料ガスとして天然ガスが主として用いられるが、漏洩感知のために付臭剤の添加が必要である。これらの燃料電池は、リン酸型や固体高分子型と比較して作動温度が高いため、使用される付臭剤の種類(含酸素化合物や窒素系化合物)の制限が緩やかである。しかし、環境対策の観点から、硫黄系付臭剤の使用は避けるべきである。
例えば、水素ガスを燃料する電池用の付臭剤に関する特許文献1は、固体高分子型燃料電池において、高分子電解質膜に及ぼす付臭剤の影響、電解質膜に被毒しない数多くの化合物を提案している。また、特許文献2は、燃料改質後の水素ガス中に付臭剤が添加され、燃料電池セル内の電極触媒を被毒せずかつ電解質膜に損傷を与えず、水に溶解して臭いがなくなる脂肪酸系の付臭剤、特に酢酸、酪酸を提案している。
【0004】
燃料電池の燃料用付臭剤に関する先行技術についてみれば、更に次のような特許文献3〜7が挙げられる。
特許文献3には、特に固体高分子型燃料電池の付臭剤として、炭素数4〜6の脂肪酸低級アルキルエステル及びジアルキルエーテル類が開示されている。例えば、吉草酸メチルは、比較的沸点が低く臭気の点で効果があるものの、コストが高いことや、燃料ガスを付臭した場合、水素リッチガスを生成する改質段階で一酸化炭素が生成するため、改質触媒及び選択酸化触媒に負荷をかけるという難点がある。
特許文献4では、特に水素を燃料とする燃料電池用の付臭剤として、3−ヒドロキシ−4,5−ジアルキル−2(5H)−フラノン(ラクトン誘導体)が提案されている。ラクトン誘導体は、高価であり、これを炭化水素系の燃料ガスに添加して改質する場合、含酸素化合物であるため、特許文献3と同様に改質触媒及び選択酸化触媒に負荷をかけることになる。また、ラクトン誘導体は燃料電池セル内で水素と酸素(空気)の反応の際に水に溶解しないので、生成水を利用する際、ラクトン誘導体が蓄積される欠点がある。
【0005】
このように、燃料ガスを改質し水素リッチガスを生成する燃料電池、特にリン酸型や固体高分子型燃料電池に要求される付臭剤は、炭化水素系の化合物であり、感知濃度の閾値の低い化合物である。
炭化水素系の付臭剤としては、シクロヘキセンが特許文献5に、5−エチリデン−2−ノルボルネンが特許文献6に、ブタジエン、イソプレン及びピペリレン(1,3−ペンタジエン)の共役ジエンの各二量体が特許文献7に開示されている。
そのうち、特許文献7の二量体は共役ジエンのディールス・アルダー反応により合成されるが、二量体の他にも、三量体、四量体等の多量体が反応生成物中に副生する。反応生成物の蒸留により分離される二量体は、臭気強度の点で物足りなさがある。この点に関して、特許文献7には、共役ジエンの二量体単独では臭気が弱く、公知の着臭物質と混合して使用すると効果があると記載されている。
【特許文献1】特開2003−155488号公報
【特許文献2】特開2003−201487号公報
【特許文献3】特開2002−60766号公報
【特許文献4】特開2003−138280号公報
【特許文献5】特開昭54−58701号公報
【特許文献6】特開昭55−56190号公報
【特許文献7】特開昭55−66991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のシクロヘキセン、ノルボルネン誘導体、アクリル酸エステル等の非硫黄系付臭剤は、臭気強度と化学的安定性が十分でない。従って、上記非硫黄系付臭剤と同等又はこれより少ない添加量で燃料の漏洩が感知され、化学的安定性に優れた付臭剤の開発が求められている。また、燃料電池の燃料用付臭剤については、触媒被毒の観点から、硫黄、窒素含有化合物は勿論のこと、エーテル類、エステル類等の酸素含有化合物を避けることが望ましく、低コストで炭化水素のみからなる付臭剤の開発が要請されている。
そこで、本発明の目的は、燃料への添加量が従来の付臭剤と同等以下で燃料の漏洩を十分に感知することが可能であり、優れた化学的安定性を有する燃料用付臭剤を提供することにある。本発明の別の目的は、燃料ガスの改質触媒及び一酸化炭素選択酸化触媒の被毒を抑制すると共に、白金等の電極担持触媒の被毒を抑制することが可能な固体高分子型燃料電池やリン酸型燃料電池等の燃料電池の燃料用付臭剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決すべく、本発明の燃料用付臭剤は、イソプレン及び/又はピペリレンとシクロペンタジエン及び/又は炭化水素基置換シクロペンタジエンとのディールス・アルダー反応により得られる下記一般式(I)〜(IV)で表される反応生成物の少なくとも1種を必須成分とするものである。
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示す)
【0008】
本発明の燃料用付臭剤は、上記反応生成物と下記一般式(V)〜(VIII)で表されるイソプレン二量体の少なくとも1種とを併用することもできる。
【化2】

【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料用付臭剤は、炭素数5の共役ジエンとシクロペンタジエン系炭化水素とのディールス・アルダー反応により得られる反応生成物を燃料に添加して用いられるものであり、燃料中の付臭剤が低濃度であっても十分な臭気強度が得られ、また化学的に安定である。
更に、本発明は、燃料ガスの改質触媒及び一酸化炭素の選択酸化触媒や、電極上の担持触媒の被毒を抑制することができ、固体高分子型燃料電池やリン酸型燃料電池等の燃料電池の燃料用付臭剤としても有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の付臭剤はガス燃料又は液体燃料に添加される。ガス燃料としては、水素ガス、天然ガス、都市ガス、メタン,エタン,プロパン,ブタン等の炭化水素ガスないしは工業用ガス、液化石油ガス、更に天然ガスを原料とした液体燃料GTLから得られるジメチルエーテル燃料などが挙げられる。また、液体燃料としては、ガソリン,ナフサ,灯油等の炭化水素系燃料、メタノール等のアルコール系燃料などが挙げられる。これらの燃料は、使用目的に応じて、単独であるいは2種以上混合して使用することが可能である。上記燃料のうち、燃料電池用燃料には非含酸素燃料が好ましく用いられる。
【0011】
本発明において、前記一般式(I)〜(IV)で表されるアルケニル基置換ビシクロ[2・2・1]-2-ヘプテン(以下、化合物(I)〜(IV)という)が、燃料に臭気を付与する付臭剤として用いられる。これらの付臭剤は、イソプレン又はピペリレンとシクロペンタジエン及び/又はその炭化水素基置換体とのディールス・アルダー反応により得られる。一方の反応原料である炭素数5の共役ジエンとしてイソプレン及びピペリレンの混合物を用いることができる。その場合、化合物(I)〜(IV)の混合物が反応生成物として得られる。
ここで、一般式(I)〜(IV)中のRは、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示す。勿論、置換基Rは他方のシクロペンタン環に置換していてもよい。炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、i−ペンチル、ネオペンチル、1,2,2−トリメチルプロピル、3,3−ジメチルブチル等のアルキル基;エテニル、プロペニル、n−ブテニル、i−ブテニル、ブタジエニル、n−ペンテニル、i−ペンテニル、i−ヘキセニル、2,3−ジメチル−3−ブテニル等のアルケニル基;エチニル、プロパルギル、ブチニル等のアルキニル基などが例示される。付臭剤は揮発性が高いものほど好適であることから、置換基Rは炭素数1又は2の炭化水素基が好ましく、炭素数が3以上の炭化水素基にあっては、炭素鎖ができるだけ分岐していることが好ましい。
【0012】
上記ディールス・アルダー反応は、触媒の非存在下の加熱条件下で反応が容易に進行する。イソプレン又はピペリレンとシクロペンタジエン又はその炭化水素基置換体とのモル比は、通常1:5〜5:1の範囲にあり、1:0.8〜1.1の範囲にあることが特に好ましい。反応温度は、通常50〜200℃、好ましくは80〜180℃である。反応時間は、通常30分〜20時間、好ましくは1〜10時間である。
一方の反応原料としてイソプレンを用いた場合は化合物(I)及び(II)の反応生成物が合成され、ピペリレンを用いた場合は 化合物(III)及び(IV)の反応生成物が合成される。これらの反応生成物は、蒸留により未反応化合物と分離することができる。ディールス・アルダー反応生成物を例えば76mmHgの減圧蒸留に付すと、沸点93〜96℃の留出物が化合物(I)及び(II)の混合物であり、沸点92〜95℃の留出物が化合物(III)及び(IV)の混合物である。
反応原料のモル比を上記1:0.8〜1.1とした場合、未反応化合物を分離することなくディールス・アルダー反応生成物をそのまま付臭剤として使用することができる。また、反応生成物を精密蒸留、多段蒸留することにより化合物(I)〜(IV)を単離することが可能である。しかし、精密蒸留に要するコスト等と、化合物(I)と(II) 又は化合物(III)と(IV)の臭気強度とを兼ね合いから、これらの化合物(I)〜(IV)を敢えて単離する必要はない。因みに、臭気強度に関しては、化合物(I)と(II)の間では化合物(I)の方が強く、化合物(III)と (IV)の間では化合物(IV)の方が強い。また、化合物(I)〜(IV)の中では化合物(I)の臭気が最も強い。
【0013】
本発明の燃料用付臭剤は、化合物(I)〜(IV)の少なくとも1種と前記一般式(V)〜(VIII)で表されるイソプレン二量体(以下、化合物(V)〜(VIII)という)とを併用することが好ましい。
化合物(V)〜(VIII)は、イソプレンのディールス・アルダー反応によりこれらの混合物として得られる。上記反応では、二量体の他にも、三量体等の多量体が副生するが、反応生成物の蒸留により二量体と多量体を容易に分離することができる。イソプレンのディールス・アルダー反応生成物を例えば76mmHgの減圧蒸留に付すと、沸点87〜88℃の留出物が化合物(V)〜(VIII)の混合物である。イソプレンの上記反応生成物は、未反応のイソプレンを分離することなくそのまま化合物(I)〜(IV)と併用することができる。また、イソプレンの反応生成物を精密蒸留することにより、化合物(V)〜(VIII)を互いに単離することは可能であるが、精密蒸留のコスト等と化合物(V)〜(VIII)の臭気強度との関係からみて、化合物(V)〜(VIII)を敢えて単離する必要はない。
【0014】
本発明の燃料用付臭剤の組合せは次の通りである。
(1)化合物(I)もしくは(II)又はこれらの混合物、
(2)化合物(III)もしくは(IV)又はこれらの混合物、
(3)化合物(I)及び(II)の1種又は2種と化合物(III)及び(IV)の1種又は2種の併用、
(4)上記(1)と化合物(V)〜(VIII))の少なくとも1種との併用、
(5)上記(2)と化合物(V)〜(VIII))の少なくとも1種との併用、
(6)上記(3)と化合物(V)〜(VIII))の少なくとも1種との併用。
上記(3)の併用において、化合物(I)及び/又は(II)と 化合物(III)及び/又は(IV)との割合は、重量比で90:10〜10:90の範囲にある。上記(4)〜(6)の併用では、化合物(I)〜(IV)の少なくとも1種と化合物(V)〜(VIII))の少なくとも1種との割合は、重量比で90:10〜10:90の範囲にある。
【0015】
本発明の付臭剤を燃料に添加する方法は、直接添加してもあるいは炭化水素溶媒に溶解させた付臭剤溶液を燃料に添加してもよい。後者の場合、炭化水素溶媒としては、付臭効果を阻害させないために、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンの炭素数5〜12の飽和炭化水素が好適である。気体燃料に添加するときは、炭素数5〜7の飽和炭化水素が特に好ましい。付臭剤と炭化水素溶媒との混合比は、重量比で10〜90:90〜10の範囲、好ましくは20〜80:80〜20である。
本発明においては、付臭剤及び上記炭化水素溶媒の他に、別の類似の炭化水素を含有させることができる。これらの炭化水素としては、例えば、シクロヘキサンや、メチル,エチル,プロピル,ブチル等のアルキル基置換シクロヘキサン等の脂環式炭化水素などが挙げられる。
燃料に対する付臭剤の添加割合は、付臭効果が発揮される範囲にあれば特に限定されるものではないが、経済性の観点からできるだけ低いことが望ましい。具体的には、付臭剤の濃度は20〜40mg/Nm3 の範囲にあることが好ましい。
【実施例】
【0016】
次に、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、付臭剤の感知濃度及び化学的安定性を下記の試験方法により評価した。
A.感知濃度
単位体積(Nm3)当たりの燃料に対する付臭剤の量を15,20・・・50,55mgと、付臭剤濃度を5mg/Nm3 刻みに調製した付臭剤含有溶液及び所定量の液化天然ガス(LNG)を温度20〜25℃の無臭空気で置換した15m3 の無臭室内に注入する。この時、LNGは無臭空気で1000倍希釈される(燃料濃度0.1vol%)。その後、室内を1分間程度攪拌して燃料濃度を均一化する。
希釈されたLNGの臭気を6名のパネラーにより評価させ、下記の表1に示す6段階臭気強度表示法による臭気強度が2になった時点の無臭室内の濃度を感知濃度とする。
【0017】
【表1】

【0018】
B.化学的安定性
ネスラー管に付臭剤溶液を30ml採取し、温度50℃で1週間加熱した後、加熱前後の付臭剤の組成変化の有無をガスクロマトグラフィーで調べた。
組成変化の有無の評価は、付臭剤の組成に変化が全くなければ安定又は良好と判断し、付臭剤が何らかの反応で別の化合物が生成してガスクロマトグラフィー上に新たなピークが検出されると、化学的安定性が劣ると判断した。
【0019】
実施例1
電磁誘導攪拌機を備えた1リッターステンレス製オートクレーブに、イソプレン70g(約1.03モル)とシクロペンタジエン61g(約0.924モル)を導入し、140℃で5時間加熱した。得られたディールス・アルダー反応の反応生成物を減圧蒸留に付して、化合物(I)及び(II)の混合物からなる沸点93〜96℃/76mmHgの留分を回収した。回収した反応生成物とn−ヘキサンを重量比で30:70の割合で攪拌混合した後、水分を除去して付臭剤溶液を調製した。この溶液をLNGに添加して、付臭剤濃度が15〜55mg/Nm3の範囲で5mg/Nm3の幅で異なるLNG試料を調製した。
各々のLNG試料について、前記試験方法Aにより1000倍希釈した時の感知濃度を評価した。その結果、試料の臭気強度が2となった時の付臭剤の濃度は 35mg/Nm3であった。また、前記試験方法Bにより付臭剤の化学的安定性を評価したところ、安定であった。
実施例2
イソプレンをピペリレンに代えた以外は、実施例1と同様にしてディールス・アルダー反応を行った。この反応生成物を減圧蒸留に付して、化合物(III) 及び(IV)の混合物からなる沸点92〜95℃/76mmHgの留分を回収した。回収した反応生成物を用いて、実施例1と同様にしてLNG試料を調製した。
各LNG試料について、試験方法Aにより感知濃度を評価したところ、感知濃度は35mg/Nm3 であった。また、試験方法Bにより付臭剤の化学的安定性を評価したところ、安定であった。
【0020】
実施例3
実施例1で得られた沸点93〜96℃/76mmHgの留分と実施例2で得られた沸点92〜95℃/76mmHgの留分とを1:1の重量比で混合した。このディールス・アルダー反応生成物の混合物とn−ヘキサンを重量比で30:70の割合で攪拌混合した後、水分を除去して付臭剤溶液を調製した。
以下実施例1と同様にして、付臭剤の感知濃度及び化学的安定性を評価したところ、感知濃度は35mg/Nm3 であり、化学的安定性も良好であった。
実施例4
実施例1及び実施例2で得られたディールス・アルダー反応生成物の留分を8:2の重量比で混合した以外は、実施例3と同様にしてLNG試料を調製した。
各LNG試料について、感知濃度を評価したところ35mg/Nm3 であった。また、付臭剤の化学的安定性は良好であった。
【0021】
実施例5
電磁誘導攪拌機を備えた1リッターステンレス製オートクレーブにイソプレン100g(約1.47モル)を導入し、140℃で5時間加熱した。得られたディールス・アルダー反応の反応生成物を減圧蒸留に付して、化合物(V)〜(VIII)の混合物からなる沸点87〜88℃/76mmHgのイソプレン二量体を回収した。回収したイソプレン二量体と実施例1で得られたディールス・アルダー反応生成物(沸点93〜96℃/76mmHg)とを1:1の重量比で混合した。この混合物とn−ヘキサンを重量比で30:70の割合で攪拌混合した後、水分を除去して付臭剤溶液を調製した。得られた溶液をLNGに添加して、付臭剤濃度が15〜55mg/Nm3の範囲で5mg/Nm3の幅で異なるLNG試料を調製した。
各々のLNG試料について、前記試験方法Aにより1000倍希釈した時の感知濃度を評価した。その結果、試料の臭気強度が2となった時の付臭剤の濃度は 30mg/Nm3であった。また、前記試験方法Bにより付臭剤の化学的安定性を評価したところ、安定であった。
実施例6
実施例5で得られたイソプレン二量体と実施例2で得られたディールス・アルダー反応生成物(沸点92〜95℃/76mmHg)とを1:1の重量比で混合した。この混合物とn−ヘキサンを重量比で30:70の割合で攪拌混合した後、水分を除去して付臭剤溶液を調製した。
以下実施例1と同様にして、付臭剤の感知濃度及び化学的安定性を評価したところ、感知濃度は30mg/Nm3 であり、化学的安定性も良好であった。
【0022】
実施例7
実施例5で得られたイソプレン二量体と実施例1及び2で得られた各ディールス・アルダー反応生成物とを1:1:1の重量比で混合した。この混合物とn−ヘキサンを重量比で30:70の割合で攪拌混合した後、水分を除去して付臭剤溶液を調製した。
以下実施例1と同様にして、付臭剤の感知濃度及び化学的安定性を評価したところ、感知濃度は30mg/Nm3 であり、化学的安定性も良好であった。
【0023】
実施例8
水素リッチに改質するために、実施例1で得られたディールス・アルダー反応生成物を5ppm含有する都市ガスをスチーム/C比3の条件で水蒸気改質した。その結果、出口温度700℃で1%の一酸化炭素を含有する水素リッチの混合ガスが70%得られた。更に、500時間の連続運転後でも、改質触媒の劣化はみられなかった。上記混合ガスから一酸化炭素を選択酸化触媒により除去し、CO含有量10ppmの水素リッチガスを燃料電池セルに導入した。水素ガスを燃料とする電池を長時間発電させても、電極電位は低下しなかった。なお、改質反応、選択的酸化反応で使用した各触媒及び燃料電池の電極担持触媒は、下記の通りであった。
改質触媒:アルミナ担持Ni触媒
選択酸化触媒:アルミナ担持Pt触媒
電極担持触媒:カーボン担持Pt触媒
実施例9
水素リッチに改質するために、実施例2で得られたディールス・アルダー反応生成物を5ppm含有するプロパンガスをスチーム/C比3の条件で水蒸気改質した。その結果、出口温度700℃で1%の一酸化炭素を含有する水素リッチの混合ガスが70%得られた。更に、500時間の連続運転後でも、改質触媒の劣化はみられなかった。上記混合ガスから一酸化炭素を選択酸化触媒により除去し、CO含有量10ppmの水素リッチガスを燃料電池セルに導入した。水素ガスを燃料とする電池を長時間発電させても、電極電位は低下しなかった。なお、以上の各触媒は実施例8と同じものを使用した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、水素ガス、天然ガス、都市ガス、工業用ガス、液化石油ガス、プロパン等の炭化水素ガスなどのガス燃料、又はガソリン、ナフサ、灯油等の液体燃料、あるいは、メタノール等のアルコール、ジメチルエーテルなどの含酸素燃料に臭気を付与する付臭剤として利用され、燃料の漏洩による引火、爆発又は中毒等を未然に防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン及び/又はピペリレンとシクロペンタジエン及び/又は炭化水素基置換シクロペンタジエンとのディールス・アルダー反応により得られる下記一般式(I)〜(IV)で表される反応生成物の少なくとも1種を必須成分とすることを特徴とする燃料用付臭剤。
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示す)
【請求項2】
下記一般式(V)〜(VIII)で表されるイソプレン二量体の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1記載の燃料用付臭剤。
【化2】


【公開番号】特開2006−291113(P2006−291113A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116480(P2005−116480)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(390015853)理研香料工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】