説明

燃料計測システム

【課題】 静電容量式の燃料計測システムにおいて、残余燃料が臨界浸漬率を下回る段階に達した結果、コンペンセータが空気に暴露された場合であっても実測した誘電率を流用し誤差を最小限にする燃料計測システムを提供する。
【解決手段】 誘電率を計測するコンペンションユニットと、浸漬率を計測するタンクユニットと、このタンクユニットの出力に基づき臨界浸漬率を検出して判定信号を出力する判定部と、前記浸漬率及び前記誘電率に基づき被測定燃料の質量を演算する演算部と、を備えた燃料計測システムにおいて、前記浸漬率が前記臨界浸漬率と一致したことを示す一致信号を出力する一致検出部と、前記臨界浸漬率のときの前記誘電率を枯渇期誘電率として記憶する記憶部と、前記演算器に供給する前記誘電率を前記枯渇期誘電率に切換える選択部とを設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機等で用いる燃料計測システムの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量式の検出用センサとして、燃料体積検出用コンデンサ(タンクユニットと称し以下「TU」と記す)及び誘電率感知用コンデンサ(コンペンセータユニットと称し以下「CU」と記す)とを備えた静電容量式燃料計に係わる先行技術として例えば次の文献がある。
【0003】
【特許文献1】特許 第2705215号
【0004】
図4はこのような燃料タンク内に誘電率感知用コンデンサを実装して残燃料質量を計測する静電容量式の燃料計測システムの構成例を示している。
【0005】
静電容量式の燃料計測装置では、燃料タンク内で接液するコンデンサ作用をもつ構成要素として、タンクユニットTUとコンペンセータユニットCUとがある。静電容量の検出体であるTUとCUは、連結して燃料タンク内部空間の定位置に固定する。
【0006】
このときTUは燃料タンク内部の空きスペースに、長手方向を燃料タンクの高さ方向に一致させて配置する。またCUは、TUの先端部に燃料タンクの最も底面に近い位置で、かつ燃料タンク底面と接触しない位置へ固定する。
【0007】
このため図4の構成の燃料計測システムは、燃料タンク1の内部にTU2とCU3とを設置している。さらに燃料タンク1の外部には判定部4と選択部5、さらに演算部6を備えている。
【0008】
次に図4の燃料計測システムの作用について図5および図6を用いて説明する。
TU2とCU3からなる静電容量検出の作用に基づく、残余燃料の質量Mの測定について説明する。
【0009】
図5Aでは、燃料タンクが空の状態を示しておりTU2とCU3が共に全表面を空気に曝している。一方図5Bは、燃料タンク内に燃料が残存している状態で、TU2表面の一部分とCU3の全部が燃料に接液した状態を示している。
【0010】
図5Aのとき燃料タンクは、空状態すなわちドライ状態である。静電容量の検出体であるCU3は、その前表面が完全に空気と触れているときの誘電率を計測してCU3付属の演算器(図示していない)に乾燥静電容量Cdryとして最初に記憶される。
【0011】
このCdryは常数であり、燃料タンク1内燃料の誘電率Kを求める際の基準値となる。図5Aの状態でCU3によって静電容量を計測して、乾燥静電容量Cdryを得る作業を特にエンプティ調整と称している。
【0012】
一方のTU2は、燃料タンク1内部の縦方向空間の大半をカバーする、長手方向に多く寸法を有したCU3と同様の静電容量の検出体である。ただしTU2は、縦軸方向の燃料浸漬部分と空気接触部分の縦方向の長さの比率を、全表面積に対する静電容量の検出値で示す機能をもつ。
【0013】
すなわちTU2の縦軸方向に対して残余燃料の液面位置が最上位にある満タンのときを1、残余燃料が底を尽いて燃料タンク1が空のときを0にしている。
【0014】
このようなTU2における燃料の空気の長手方向の接触面積比を、燃料接触の範囲を基準にして浸漬率Xで表している。TU2では、燃料浸漬率Xのときの計測された静電容量値C(X)を演算部6へ提供している。
【0015】
対する図5Bは、燃料タンクの残存燃料がCU3全体を覆っている状態である。このときCU3が検出する静電容量値Cwetは、CU3全体が燃料に接液しているときの静電容量値であり、燃料タンク1内にある燃料の配合成分比や温度条件等によって変動する変数である。
【0016】
燃料タンク1内に残存する燃料の誘電率Kは、常数Cdryに対する変数Cwetの比で求められ、K=Cwet/Cdryで表される。このため誘電率Kは同一燃料の場合であっても、消費中の時間経過に伴い温度を変数として変動する。
【0017】
CU3はTU2と同様にコンデンサ作用をもつ静電容量の検出体であるが、エンプティ調整を行うこと、及び全体を接液した測定条件下で静電容量CwetとCdryとを随時比較してタンク内燃料の誘電率Kを決定する役割を担っている。
【0018】
図5Cでは、TU2の長手方向の一端を燃料タンク1内の残燃料に浸した状態を示している。この状態でTU2は、長手方向すなわち高さ方向について空気に触れている長さと燃料に接している部分の長さの比率を検出する。
【0019】
すなわち静電容量検出器であるTU2全体が検出する現行の静電容量値C(X)は、燃料接液箇所と空気に接する箇所との表面積比に比例する。
【0020】
図5Cでは、TU2が浸漬率X(X<1)の状態にあるときを示している。このときTU2が検出する静電容量値C(X)は、C(X)=X・Cwet+(1−X)Cdryで表される。
【0021】
CwetはK・Cdryに相当し、前述した様にKは接液している燃料の配合成分比や温度条件等で変動する常数であるから、Cwetの値も変動する成分を含んでいる。C(X)はKを用いて表してからXで括ると、C(X)=X・Cdry(K−1)+Cdryと変形できる。
【0022】
従って浸漬率Xは、X=(C(X)―Cdry)/(Cdry(K−1))から求めることができる。
【0023】
これにより演算部6では、CU3によって決定された乾燥静電容量Cdryを基準に、CU3による燃料の誘電率Kの現行測定値と、TU2によって検出された現行の静電容量検出値C(X)から、C(X)値に相当する浸漬率Xとを求めることができる。
【0024】
すなわち演算部6へは、時々刻々変化する最新のC(X)がTU2から、また最新の誘電率KがCU3から供給されている。静電容量検出値C(X)から浸漬率Xを求める演算は、演算器6内で実行している。
【0025】
演算部6では、CU3から提供された最新の誘電率Kを入力値Kiとして燃料タンク1内の現行の燃料密度Dについて演算する。ここで燃料密度Dは、MIL(Military Specifications and Standards)−G−26988Cの、多種燃料の密度と誘電率の式を用い、D=K−1/ 0.27(1+0.28953(K−1))から演算して求めている。Kは、選択部5の出力であるKiに相当し通常はCU3が提供する最新の誘電率Kが出力されている。
【0026】
演算器6は、こうして求めた燃料密度Dに対し浸漬率Xの値から一意に定まるタンク内残存燃料の体積を乗じることにより、タンク内燃料の質量Mを演算することができる。また、誘電率Kの変数には燃料温度を含むことから、CU3が計測した最新の誘電率Kを常に用いた演算結果であれば、燃料温度変化にも追随した正確な質量値を提供できる。
【0027】
静電容量式の燃料計測システムでは、以上説明した様にしてタンク内残存燃料の質量を計測している。すなわち演算器6は、燃料タンク1内に設置したCU2とTU3の2種の静電容量の検出体を活用して浸漬率Xと密度Dとをそれぞれ入手している。
【0028】
特にCU3における、初期のエンプティ調整とリアルタイムに静電容量を計測し現行の誘電率Kを決定して演算部6に提供する作業は、静電容量方式の燃料計測システムの測定系全体を通じ精度を決定付ける重要な要素となる。
【0029】
次に図6を用いて静電容量式の燃料計測システムにおける、浸漬率Xに対する誘電率Kの特性例を示す。図6の縦軸は、誘電率Kを示しCU3全体が燃料に接液しているときは常に測定される誘電率KはK=2以上を保っている。
【0030】
図6の横軸は浸漬率Xを示し原点のX=1すなわち燃料タンク1の満タン状態であり、右端のX=0は燃料タンク1の空状態、すなわちCU3全体を完全に空気に曝した状態を示している。
【0031】
誘電率Kの推移は、運行中を通じ例え同一燃料の消費過程であっても、燃料温度に伴いその値を変化させる。図6においては、それぞれ異なる一定温度ta、tb、tcを変数として異なるKの特性値を示している。
【0032】
図6では仮に燃料温度がta度、tb度またはtc度の何れか固定の場合について直線で示しているが、実際の誘電率Kは、燃料の温度変化に呼応して例えば破線の如くに変動する。
【0033】
このためCU3は、燃料タンク1の燃料を消費する過程を通じ、常に現行の静電容量Cwetを監視して外気温などに影響される燃料温度の僅かな変化にも追随し最新かつ正確な誘電率Kを演算器6に提供する必要がある。
【0034】
燃料消費に伴い浸漬率Xが臨界浸漬率Xcrを下回る状態になると、誘電率Kが低下し終にはK=1、すなわちCU3の全表面積を空気に曝して燃料タンクが空になった状態へと移行する。図6では、燃料タンク1の満タンから空に至るまでの過程の誘電率Kの特性曲線例を示している。
【0035】
臨界浸漬率Xcrを割り込んだ後の誘電率Kの減衰率は、表示の簡略のため一定燃費かつ一定温度で燃料消費した場合を例示してある。従来の燃料計測システムでは臨界浸漬率Xcrを過ぎた以降、然るべき段階でTUが実測する誘電率Kに替わり、予め用意してある所定の固定値Kcを使用して燃料タンク空に至るまでの残過程の演算を続行する。
【0036】
このとき用いられる固定値Kcは、一般には経験値または統計的手法で得た平均値などから決定している。
【0037】
図4に示す選択部5は、残燃料が臨界浸漬率Xcrを下回り演算部6へ供給する誘電率KについてCU3現行出力値を使用できなくなったとき、CU3の出力する誘電率Kの替わりに前述の固定値Kcに置き換える作用をもつ。
【0038】
このとき、選択部5による固定値Kcへの置き換え操作は、演算部6が演算した現行の浸漬率Xを監視している判定部4によって実行している。
【0039】
判定部4は現行の浸漬率Xが臨界浸漬率Xcrを下回った状態即ちX<Xcrと判定すると、判定信号を選択部5に出力する。選択部5では、判定信号を受信している間はCU3が提供する現行の誘電率Kに替わって、固定値Kcを選択し選択値Kiとして演算部6へ供給する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
ところが、上述した従来のTUおよびTUを組合せた静電容量式の燃料計測システムには以下のような問題があった。
【0041】
全体を燃料に浸かりながら静電容量Cwet値を監視していたCU3が、燃料消費に伴う燃料液面の低下により終には燃料外に露出して空気との接触を起こし、結果として正確なCwet値が提供できなくなる問題があった。
【0042】
この様な方式では臨界浸漬率Xcrを下回った以降で、燃料タンク空に至るまでの区間は、固定値Kcが真の誘電率Kから乖離して正確な残燃料の計測が出来ない。
【0043】
また他の従来例では、図4の従来例から判定部4と選択部5とを省略し、臨界浸漬率Xcrを下回った以降においても、固定値Kcへの切換えは行わずCU3実測値の誘電率Kを使用し続ける(図示しない)簡略構成もある。
【0044】
この様な図4の構成の簡略型としてTU2とCU3、及び演算部6のみから構成された従来例においては、TU2とCU3の各出力である静電容量検出値C(X)と誘電率Kとを演算部6へ直接供給する。
【0045】
ところが図6でも示す様に、臨界浸漬率Xcrを下回った以降に測定される誘電率Kの値は、CU3の燃料接液面積の減少率に比例して残燃料零のときのK=1まで減少する。これでは上述した浸漬率Xの式から明らかな様に、K=1のときの算出式は分母が零であるから演算値が発散してしまう。
【0046】
即ち誘電率の検出体であるCU3は、それ自体が空気に暴露され始める臨界浸漬率Xcrを割り込む段階になると、逆に質量演算の算出式における誤差要因となってしまう。CU3が検出する誘電率Kを、燃料零に至る最終段階まで使用し続ける簡略型の構成では、浸漬率減少に伴い増大する誘電率Kの測定誤差の影響が演算結果に直接波及する。
【0047】
このため残余燃料が臨界浸漬率Xcrを割り込んだ以降、残燃料零までの僅かな時間は静電容量を利用する燃料質量の計測値に、補正を伴う二次加工を施す場合や、他の方式の燃料計測システムと組み合わせるなどの対策が必要であった。
【0048】
以上に説明した図4の従来例及び図4の簡略型構成(図示しない)において、静電容量式の測定原理から明らかな様に、CU3が検出する誘電率Kについては演算部における密度Dと浸漬率Xの算定基準であるから、真値に対する乖離を極力抑制して残余燃料の測定精度を向上させることが求められていた。
【0049】
従って本発明が解決しようとする課題は、静電容量式の燃料計測システムにおいて残余燃料が臨界浸漬率を下回る段階に達してCUが空気に暴露された段階に達しても最小限の誤差で燃料計測を続行できるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0050】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
誘電率を計測するコンペンションユニットと、浸漬率を計測するタンクユニットと、
このタンクユニットの出力に基づき臨界浸漬率を検出して判定信号を出力する判定部と、前記浸漬率及び前記誘電率に基づき被測定燃料の質量を演算する演算部と、を備えた燃料計測システムにおいて、
前記浸漬率が前記臨界浸漬率と一致したことを示す一致信号を出力する一致検出部と、
前記臨界浸漬率のときの前記誘電率を枯渇期誘電率として記憶する記憶部と、
前記演算器に供給する前記誘電率を前記枯渇期誘電率に切換える選択部と、
を設けたことを特徴とする燃料計測システムである。
【0051】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の燃料計測システムであって、 前記一致検出部は、前記臨界浸漬率と前記浸漬率とを比較して前記一致信号を発行することを特徴とする。
【0052】
請求項3記載の発明は、請求項1に記載の燃料計測システムであって、前記一致検出部は、前記コンペンションユニットと前記タンクユニットとの高さ方向の寸法比率から前記臨界浸漬率を定めたことを特徴とする。
【0053】
請求項4記載の発明は、請求項1に記載の燃料計測システムであって、前記一致検出部は、前記判定部内に設けたことを特徴とする。
【0054】
請求項5記載の発明は、請求項1に記載の燃料計測システムであって、前記記憶部は、前記一致信号が発行されたときの前記誘電率を記録することを特徴とする。
【0055】
請求項6記載の発明は、請求項1に記載の燃料計測システムであって、前記選択部は、前記判定信号が発行されているとき、前記枯渇期誘電率を前記演算に供給することを特徴とする。
【0056】
請求項7記載の発明は、請求項1に記載の燃料計測システムであって、前記選択部は、前記判定信号の発行が解除されているとき、前記コンペンションユニットが計測する前記誘電率を前記演算部に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば次のような効果がある。
請求項1,2,3,4,5、6及び請求項7の発明によれば、残余燃料が臨界浸漬率を下回るときは判定信号を出力すると共に、臨界信号の発行開始時点でCUが計測した誘電率を枯渇器誘電率として記憶する。このため固定値Kcに替わりCU実測値の有効範囲内にある、最も新しい誘電率を演算に用いることが可能となる。
【0058】
すなわち枯渇器誘電率は、CUによる最終かつ最新の有効実測値に基づいており、残余燃料の現行温度を臨界浸漬率通過以降の演算に反映させることができる。
【0059】
このため、CUによるCwet計測値が無効となる燃料タンク空に至るまでの残余燃料の消費段階においても、直前のタンク温度を反映させた最適な誘電率を演算器に提供することで確度の高い質量計測値を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下に実施例を示す図面を用いて本発明を説明する。図1は本発明に係る燃料計測システムの実施例を示す構成ブロック図である。
【0061】
図1において燃料タンク1,TU2,CU3,判定部4、選択部5及び演算部6は図4と同一符号を付してあり、図4の従来例の各構成要素と同一機能を有している。ただし、図1の判定部4は、一致検出部41をその内部に含んでいる。
【0062】
一致検出部41は、演算部6が出力する浸漬率Xを監視して一致信号S2を出力する。記憶部7ではCU3の提供する誘電率Kを入力している他に、一致信号S2も接続している。
【0063】
選択部5は、従来例の図4では固定値Kcを選択していたのに対し、図1では記憶部7の提供する記録値Ksを提供している。
【0064】
次に、図1に示す実施例の作用について図2および図3を用いて説明する。
図2は、本発明の図1に示す実施例の燃料タンク1の燃料消費過程における臨界浸漬率Xcrの前後の状態を示している。
【0065】
図2Aの段階では、残燃料がCU3の周辺を完全に燃料で覆うのに充分な量であり、CU3が計測する誘電率Kの現行値が燃料質量の演算に際して実用上問題の無い精度を達成できている。
【0066】
ところが燃料消費が進むにつれて、図2Bの段階に差し掛かると燃料タンク1内の残余燃料の浸漬率Xが臨界浸漬率Xcr以下となる。
【0067】
このとき図1に示す一致検出部41では、演算器6の出力する現行の誘電率Kに対応する算出されたX値と臨界浸漬率Xcrとを比較した結果、一致を検出して一致信号S2を出力する。
【0068】
一致信号S2は、浸漬率Xが臨界浸漬率Xcrと等しくなった期間のみ、記録部7へと供給する。この結果、記録部7ではCU3が提供している現行の誘電率Kを記録値Ksとして内部に記録させる作用をもつ。
【0069】
更に時間が経過して燃料消費が進み図2Cの段階に入ると、CU3の接液面積が減少し結果としてCU3が提供する静電容量K値では正確な質量演算に使用できなくなる。このため、判定部4では、選択部5に対して判定信号S1を発行して選択部5が出力する演算部6への入力値KiをCU3が提供する誘電率Kから記録値Ksへ切換える。
【0070】
図3の特性図においては、図1および図2に相当する実施例の浸漬率Xに対する誘電率Kの特性を示している。図3(A)の状態は図2Aに、図3(B)の状態は図2Bに、図3(C)の状態は図3(C)にそれぞれ対応している。
【0071】
すなわち図2(B)または図3(B)の時点では、臨界浸漬率Xcrに達したときにCU3が計測した誘電率Kを記録値Ksとして、一致信号S2の出力に伴い記録部7へ記録させている。
【0072】
この記録値Ksは、図3(C)の期間に相当する判定信号S2の出力以降で残余燃料が臨界浸漬率Xcrを下回った段階において従来から用いていた固定値Kcに替わり、演算部6へ供給する入力値Kiとして使用される。
【0073】
このため本発明を実施した燃料計測システムでは、以下のような効果がある。
【0074】
図4に示す従来例の、図3(C)の期間は、固定値Kcを残燃料の質量演算に用いていた。ところが本発明では、臨界浸漬率Xcrに達した時点でCU3が実際にサンプリングした最新かつ最終の誘電率の実測値を記録値Ksとして最終段階の燃料質量演算に用いることができる。
【0075】
従って、燃料種別や測定回毎に異なる燃料タンク内の実際の温度傾向を反映させた確度の高い質量演算値を提供できる。
【0076】
例えば誘電率について従来の固定値Kcを用いる場合と、本発明の特徴である記録値Ksを用いる場合とを比較すれば、質量演算の基準となる誘電率Kに、その都度実際に測定して得た記録値Ksを利用できる本発明の優位性は明らかである。
【0077】
図3(C)期間の枯渇段階において、従来の実線部で示す固定値Kcに代わり、現在の温度特性を反映した破線部で示す記録値Ksを用いることで、誤差を最小限にした残余燃料質量が計測できる。
【0078】
この記録値Ksは、臨界浸漬率Xcrである図3(B)時点での最終実測値として直近の過去における最新かつ最終の有効値であるから、これを用いた演算値には最新の燃料温度傾向が織り込める。
【0079】
すなわち従来は、臨界浸漬率Xcrの図3(B)を境に固定値Kcへ切換えていたことから演算結果の残余燃料特性は線形性が保証できず、切換え以前と以降で不自然な消費率が計測されてしまうのに対し、本発明では現実に即した記録値Ksから高精度かつ連続性を維持した演算を続行できる。
【0080】
更に、燃料消費中の図3(C)の期間内で空中給油等を受けて温度が異なる燃料を追加された場合であっても、臨界浸漬率Xcrを上回る給油量である限りは、CU3が再度実測する誘電率Kに基づいて新たな記録値Ksを記録部7に上書きすることになる。
【0081】
このため本発明を実施した燃料計測システムによれば、臨界浸漬率Xcrを下回る期間について、直前に実測した誘電率を使用することで最新の温度状況を反映させた柔軟かつ適切な記録値Ksを演算部に提供でき、高精度な残燃料計測を実現できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の燃料計測システムの一実施例を示す構成ブロック図である。
【図2】図1に対応した本発明の臨界浸漬率の前後の動作を説明する説明図である。
【図3】図1および図2に対応した本発明の誘電率Kの対浸漬率X特性例を示す図である。
【図4】従来の燃料計測システムの一構成例を示すブロック図である。
【図5】図4の従来の燃料計測システムの構成例の作用と測定原理を示した説明図である。
【図6】図4に対応した従来の燃料計測システムの誘電率Kの対浸漬率X特性例を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
1 燃料タンク
2 TU(タンクユニット)
3 CU(コンペンセータユニット)
4 判定部
5 選択部
6 演算部
7 記録部
41 一致検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電率を計測するコンペンションユニットと、浸漬率を計測するタンクユニットと、このタンクユニットの出力に基づき臨界浸漬率を検出して判定信号を出力する判定部と、前記浸漬率及び前記誘電率に基づき被測定燃料の質量を演算する演算部とを備えた燃料計測システムにおいて、
前記浸漬率が前記臨界浸漬率と一致したことを示す一致信号を出力する一致検出部と、
前記臨界浸漬率のときの前記誘電率を枯渇期誘電率として記憶する記憶部と、
前記演算器に供給する前記誘電率を前記枯渇期誘電率に切換える選択部と、
を設けたことを特徴とする燃料計測システム。
【請求項2】
前記一致検出部は、前記臨界浸漬率と前記浸漬率とを比較して前記一致信号を発行することを特徴とする請求項1に記載の燃料計測システム。
【請求項3】
前記一致検出部は、前記コンペンションユニットと前記タンクユニットとの高さ方向の寸法比率から前記臨界浸漬率を定めたことを特徴とする請求項1に記載の燃料計測システム。
【請求項4】
前記一致検出部は、前記判定部内に設けたことを特徴とする請求項1に記載の燃料計測システム。
【請求項5】
前記記憶部は、前記一致信号が発行されたときの前記誘電率を記録することを特徴とする請求項1に記載の燃料計測システム。
【請求項6】
前記選択部は、前記判定信号が発行されているとき、前記枯渇期誘電率を前記演算に供給することを特徴とする請求項1に記載の燃料計測システム。
【請求項7】
前記選択部は、前記判定信号の発行が解除されているとき、前記コンペンションユニットが計測する前記誘電率を前記演算部に供給することを特徴とする請求項1に記載の燃料計測システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−29851(P2006−29851A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205728(P2004−205728)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】