説明

燃料電池と燃料電池用のエキスパンドメタル、およびその製造装置と製造方法

【課題】網目状の流路通過の際の圧力損失を抑制しつつ金型の小型化をもたらす新たなエキスパンドメタルを提供する。
【解決手段】ガスの流路を形成するガス流路形成部材40としてのエキスパンドメタルは、ガス流れ方向(Y方向)と交差するX方向に沿って凹部44と凸部46とが交互に繰り返し並んだ流路形成要素42をY方向に連設して備える。流路形成要素42は、凹部44と凸部46の交互繰り返しでX交差方向に沿った網目状の流路をガス流路域に亘って形成する。流路形成要素42は、Y方向に沿った3列で流路連設単位50を構成し、この流路連設単位50はY方向に繰り返し連設する。Y方向に沿って隣り合う流路形成要素42は、X+方向に沿って同じズレ量spを持って連設され、このズレ量spは、凹部44と凸部46の繰り返しピッチτを連設単位における流路形成要素42の列数3で除算したτ/3とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池における電解質膜の膜面に沿った網目状の流路を形成するエキスパンドメタルを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池は、電解質膜の各膜面に電極を接合した膜電極接合体を含む発電体層と、当該発電体層を間に挟んで配置されるセパレーターとを備え、発電体層とセパレーターとの間をガス流路とする。近年では、このガス流路を、金属製の薄板のプレス成形を経たエキスパンドメタルにて、網目状に形成することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−170984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エキスパンドメタルは、プレス成形という簡便な既存技術で網目状の流路(ガス流路)を形成できることから、コスト的に有利であるものの、更なる改善が要請されている。
【0005】
一般に、反応ガスは、燃料電池の一方の端部の側から供給されて、エキスパンドメタルの凹凸の交互繰り返しで形成された網目状の流路を通過し、この流路通過の間に電極面の各部位に到って消費される。そして、燃料電池の他方の端部からは、オフガスが排出される。上記の特許文献では、ガス供給側から排出側に向かうガスの流れ方向に交差して網目状の流路を並べる。そして、流路形成用の金型をその幅方向の一方方向にスライドさせつつ複数回プレスし、その後は逆方向に金型をスライドさせつつ複数回プレスすることで、図8に示すように、網目状の流路をガス供給側から排出側に掛けて繋ぎ、凹部同士或いは凸部同士が連続した流路(連続流路)については、これを屈曲させつつ繋いでいる。
【0006】
この図8に示す流路構成において、金型のスライド方向が切り替わるスライドターンまでのプレス回数(以下、ショット数とも称する)を多くすると、図9に示すように、連続流路の屈曲箇所を減らすことができる。こうすれば、流路屈曲によるガスの圧力損失を抑制できるので、電極面各部位へのガス供給の不均等を是正でき、発電性能向上の上から望ましい。しかしながら、ショット数を多くすると、スライドターンまでの金型のスライド量も増えるので、ショット数にスライド量を乗じた分だけ金型幅が広くなり、金型の大型化、延いてはプレス装置の大型化が避けられない。
【0007】
本発明は、上記した課題を踏まえ、網目状の流路通過の際の圧力損失を抑制しつつ金型の小型化をもたらす新たなエキスパンドメタルを提供して、発電性能の向上を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0009】
[適用1:燃料電池]
燃料電池であって、
電解質膜の各膜面に電極を接合した膜電極接合体を含む発電体層と、
前記発電体層を間に挟んで配置され、前記発電体層での発電反応に供される反応ガスの給排に関与する一対のセパレーターと、
前記発電体層と前記一対のセパレーターの少なくとも一方との間に配置され、前記セパレーターからの前記反応ガスを前記電解質膜の膜面に沿ったガス流れ方向に流す流路を形成する流路形成部材とを備え、
該流路形成部材は、
前記ガス流れ方向と交差する交差方向に沿って凹凸が交互に繰り返し並んだ凹凸の交互繰り返しを、前記交差方向に沿った前記網目状の流路をガス流路域に亘って形成する流路形成要素とし、該流路形成要素を前記ガスの流れ方向に沿って複数連設して備え、
前記ガスの流れ方向に沿ったn列(nは2以上の整数)の前記流路形成要素を、前記交差方向に沿った一方方向のズレを持って連設し、該一方方向のズレを持って連設されたn列の前記流路形成要素の連設単位を、前記ガスの流れ方向に繰り返し有し、
前記連設単位において前記ガスの流れ方向に沿って隣り合う前記流路形成要素は、前記一方方向に沿って同じズレ量spを持って連設され、該ズレ量spは、前記繰り返しピッチτを前記連設単位における前記流路形成要素の列数nで除算したτ/nとされている
ことを要旨とする。
【0010】
上記構成の燃料電池は、流路形成部材にて、セパレーターからの反応ガスの電解質膜の膜面に沿った網目状の流路を形成するに当たり、ガス流れ方向と交差する交差方向では、この交差方向に沿って凹凸が交互に繰り返し並んだ凹凸の交互繰り返しを流路形成要素とする。そして、この流路形成要素により、交差方向に沿った網目状の流路をガス流路域に亘って形成する。ガス流れ方向に沿った流路形成は、次のようになる。
【0011】
流路形成要素は、ガスの流れ方向に沿ってn列連設して連設単位を構成し、この連設単位においてガスの流れ方向に沿って隣り合う流路形成要素は、交差方向の一方方向に沿って同じズレ量sp(=τ/n)を持って連設している。よって、流路形成要素における凹凸の交互繰り返しのうちのある凹部或いは凸部に着目すると、その凹部は、連設単位においては交差方向に沿った一方方向のズレでガスの流れ方向に沿って連続することになる。凸部についても同様である。そして、このn列の流路形成要素が連設単位となって、この連設単位がガス流れ方向に沿って繰り返されるので、それぞれの連設単位において、凹部或いは凸部は交差方向に沿った一方方向のズレでガスの流れ方向に沿って連続する。
【0012】
ガスの流れ方向に繰り返されて隣り合う連設単位では、ガスの流れ方向上流側の連設単位の第n列の流路形成要素と下流側の連設単位の第1列の流路構成要素とが連設することになる。ガスの流れ方向下流側の連設単位の第1列の流路構成要素は、上流側の連設単位の第n列の流路形成要素から見れば、n+1列目の流路構成要素となり、この両流路構成要素を含むそれぞれの連設単位での流路構成要素の交差方向の一方方向に沿った同じズレ量sp(=τ/n)は同じである。このため、上流側の連設単位の第n列の流路形成要素と下流側の連設単位の第1列の流路構成要素における一方方向に沿ったズレ量は、各連設単位でのズレ量spと同じとなる。よって、ガスの流れ方向に沿って隣り合う上流側の連設単位の第n列の流路形成要素における凹凸の交互繰り返しのうちのある凹部或いは凸部は、その下流側の連設単位の第1列の流路構成要素における凹凸の交互繰り返しのいずれかの凹部或いは凸部と、交差方向に沿った一方方向のズレでガスの流れ方向に沿って連続することになる。つまり、上記構成の燃料電池は、連設単位における凹部或いは凸部を交差方向に沿った一方方向のズレを持ってガスの流れ方向に沿って連続させた上で、隣り合う連設単位においてもこれを連続させる。この結果、上記構成の燃料電池によれば、凹凸の交互繰り返しの凹部或いは凸部による網目状の流路を、ガスの流れ方向に沿ってその上流側から下流側に掛けてガス流路域において連続に形成できるので、流路屈曲による圧力損失を抑制できる。そして、上記構成の燃料電池によれば、圧力損失の抑制を通して、電極面各部位へのガス供給の不均等を是正して、発電性能の向上を図ることができる。
【0013】
また、上記構成の燃料電池では、金型を用いて凹凸の交互繰り返しによる網目状の流路を形成するが、既述した連設単位での流路形成要素の連設形成において、金型をn回のショット数でプレスしつつ各ショットごとに金型を交差方向に沿った一方方向に同じズレ量sp(=τ/n)でずらし、n回のショット後では金型が凹凸の繰り返しピッチτの(n−1)/nだけずれる。こうして形成済みの連設単位と隣り合う連設単位での流路形成要素の連設形成においては、金型を、一端、凹凸の繰り返しピッチτの(n−1)/nだけ元に戻し、改めて、金型をn回のショット数でプレスしつつ各ショットにおいて金型を交差方向に沿った一方方向に同じズレ量sp(=τ/n)でずらすことで、次の連設単位での流路形成要素の連設形成がなされる。このため、上記構成の燃料電池によれば、金型の金型幅をショット数にスライド量を乗じた幅とする必要がないので、金型の小型化、延いてはプレス装置の小型化を図ることができる。
【0014】
上記した燃料電池は、次のような態様とすることができる。例えば、前記流路形成要素の前記凹凸の交互繰り返しにおいて、一部の凹凸の交互並びのピッチを、残余の凹凸の交互繰り返しの前記繰り返しピッチτより大きくするようにできる。こうすれば、ピッチが大きくされた凹部或いは凸部(以下、大ピッチの凹部或いは凸部)、例えば、大ピッチの凹部は、ガスの流れ方向で隣り合う流路形成要素においてガスの流れ方向に沿って重なり、その重なり程度は、繰り返しピッチτの残余の凹部の重なりより大きくなる。大ピッチの凸部についても同様である。このため、ガスの流れ方向で隣り合う流路形成要素において大ピッチの凹部或いは凸部がガスの流れ方向に沿って重なった部位は、上流側から下流側に掛けてガスの流れ方向にほぼ真っ直ぐ沿うようになるので、当該部位による網目状の流路はガスの流れ方向にほぼ真っ直ぐ延びることになる。これが、ガスの流れ方向に連設された範囲で隣り合う流路形成要素において起きることから、上記態様の燃料電池によれば、網目状の流路がガスの流れ方向にほぼ真っ直ぐ延びる範囲においてガスによる水の持ち去りを高めて、排水性を向上させることができる。このため、大ピッチの凹部或いは凸部による網目状の流路がガスの流れ方向にほぼ真っ直ぐ延びる範囲を、燃料電池においてフラッディングが起きやすい部位、例えばガス流路域の幅方向端部部位とすれば、フラッディングの抑制の上から望ましい。これは、前記繰り返しピッチτより大きくされたピッチの前記凹凸の交互並びを、前記ガス流路域の端部とすることで、達成できる。
【0015】
そして、前記流路形成部材をエキスパンドメタルとすれば、簡便に流路形成部材を提供できる。
【0016】
[適用2:燃料電池用のエキスパンドメタル]
燃料電池用のエキスパンドメタルであって、
凹凸が交互に繰り返し並んだ凹凸の交互繰り返しを網目状の流路を形成する流路形成要素とし、該流路形成要素を前記凹凸が繰り返される方向と交差する交差方向に沿って複数連設して備え、
前記交差方向に沿ったn列(nは2以上の整数)の前記流路形成要素を、前記凹凸が繰り返される方向に沿った一方方向のズレを持って連設し、該一方方向のズレを持って連設されたn列の前記流路形成要素の連設単位を、前記交差方向に繰り返し有し、
前記連設単位において前記交差方向に沿って隣り合う前記流路形成要素は、前記一方方向に沿って同じズレ量spを持って連設され、該ズレ量spは、前記繰り返しピッチτを前記連設単位における前記流路形成要素の列数nで除算したτ/nとされている
ことを要旨とする。
【0017】
上記構成のエキスパンドメタルは、燃料電池における電解質膜の各膜面に電極を接合した膜電極接合体を含む発電体層と、反応ガスの給排に関与する一対のセパレーターの少なくとも一方との間に配置される。そして、こうして配置されることで、上記構成のエキスパンドメタルは、セパレーターからの反応ガスを電解質膜の膜面に沿ったガス流れ方向に流す網目状の流路を既述したように形成する。
【0018】
[適用3:燃料電池用のエキスパンドメタルの製造装置]
燃料電池用のエキスパンドメタルの製造装置であって、
金属製の板材を送り出す供給部と、
凸形状の刃部を金型幅方向に繰り返しピッチτで並べて有し、前記金型幅方向に沿った一方方向に原点位置からスライド可能に保持された金型と、
該金型を、前記供給部により送り出される前記金属製の板材に対してプレスするプレス動作を実行することで、前記板材の板幅において凹部と凸部が交互に前記繰り返しピッチτで連続した網目状の流路をプレス形成し、前記プレス動作を行うごとに、前記金型を前記一方方向のズレを持ってスライドさせるプレス部とを備え、
該プレス部は、
n回(nは2以上の整数)の前記プレス動作を繰り返す間の前記プレス動作ごとの前記金型のスライド量spを、前記繰り返しピッチτを前記連設単位における前記流路形成要素の列数nで除算したτ/nとし、前記n回の前記プレス動作を繰り返した後に前記金型を前記原点位置に復帰させ、前記プレス動作を新たに繰り返す
ことを要旨とする。
【0019】
[適用4:燃料電池用のエキスパンドメタルの製造方法]
燃料電池用のエキスパンドメタルの製造方法であって、
金属製の板材を送り出す送り出し工程と、
凸形状の刃部を金型幅方向に繰り返しピッチτで並べて有し、前記金型幅方向に沿った一方方向に原点位置からスライド可能に保持された金型を、前記送り出される前記金属製の板材に対してプレスすることで、前記流路幅において凹部と凸部が交互に前記繰り返しピッチτで連続した網目状の流路をプレス形成するプレス工程とを備え、
該プレス工程では、
前記送り出される前記金属製の板材に対して前記金型をプレスするプレス動作を実行するごとに、前記金型を前記一方方向にスライドさせ、
n回(nは2以上の整数)の前記プレス動作を繰り返す間の前記プレス動作ごとの前記金型のスライド量spを、前記繰り返しピッチτを前記連設単位における前記流路形成要素の列数nで除算したτ/nとし、
該n回の前記プレス動作の繰り返し後に前記金型を前記原点位置に復帰させて、前記プレス動作を新たに繰り返す
ことを要旨とする。
【0020】
上記した構成・手順を有する燃料電池用のエキスパンドメタルの製造装置と製造方法によれば、凹凸の交互繰り返しの凹部或いは凸部による網目状の流路を、ガスの流れ方向に沿ってその上流側から下流側に掛けてガス流路域において連続に形成できるエキスパンドメタルを、金属製の板材に対する金型のプレスという既存手法で、容易に製造できる。しかも、n回のプレス動作(ショット)ごとに凹凸の繰り返しピッチτを連設単位における流路形成要素の列数nで除算したτ/nのスライド量spずつ金型をずらし、n回のプレス動作の繰り返し後に金型を原点位置に復帰させて、プレス動作を新たに繰り返せば済むので、ショット数にスライド量を乗じた幅とする必要がなくなり、金型の小型化、延いてはプレス装置の小型化をもたらすことができる。この場合、n回のプレス動作の繰り返し後に金型を原点位置に復帰させることは、n+1回目のプレス動作は、原点位置に復帰した金型で行われることを意味する。
【0021】
上記した手順を有する燃料電池用のエキスパンドメタルの製造方法は、次のような態様とすることができる。例えば、金型を、繰り返し並んだ前記凸形状の刃部の一部の刃部が残余の刃部の前記繰り返しピッチτより大きいピッチで形成されたものとした上で、その金型を、前記プレス動作ごとに前記一方方向にスライドさせるようにできる。こうすれば、既述したように大ピッチの凹部或いは凸部による網目状の流路をガスの流れ方向にほぼ真っ直ぐ延びるようにしたエキスパンドメタルを容易に製造できる。そして、前記繰り返しピッチτより大きいピッチで形成された前記刃部を、前記金型幅方向の端部とすれば、燃料電池においてフラッディングが起きやすいガス流路域の幅方向端部部位に大ピッチの凹部或いは凸部による網目状の流路をガスの流れ方向にほぼ真っ直ぐ延ばしてフラッディングの抑制が可能なエキスパンドメタルを容易に製造できる。
【0022】
さらに、本発明は、種々の形態で実現可能であり、例えば、上記したエキスパンドメタルにて網目状のガス流路を形成する燃料電池の製造方法の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施例の燃料電池スタック100の概略構成を燃料電池20の概略構成と合わせて示す説明図である。
【図2】ガス流路形成部材40をガス上流側から俯瞰した概略構成とガス上流側から見た概略構成とを併せて示す説明図である。
【図3】ガス流路形成部材40のプレス形成に用いる刃型部300と基材Pと流路形成要素42との関係を示す説明図である。
【図4】上刃型310のスライドの様子と基材Pおよび供給系340との関係を示す説明図である。
【図5】図9に示した圧力損失の抑制が可能な既存エキスパンドメタルの製造に用いる金型の概要を示す説明図である。
【図6】変形例のガス流路形成部材40Aをガス上流側から俯瞰した概略構成とガス上流側から見た概略構成とを併せて示す説明図である。
【図7】変形例のガス流路形成部材40Aのプレス形成に用いる刃型部300Aと基材Pと流路形成要素42との関係を示す説明図である。
【図8】金型のスライド方向を切り替えるスライドターンの手法にて網目状の流路を連続流路として屈曲させつつ形成した既存のエキスパンドメタルを示す説明図である。
【図9】スライドターンの手法を用いつつ連続流路の屈曲箇所を減らすようにした既存のエキスパンドメタルを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本実施例の燃料電池スタック100の概略構成を燃料電池20の概略構成と合わせて示す説明図である。図示するように、燃料電池スタック100は、固体高分子形の燃料電池20を複数積層し、その両端にターミナルおよびインシュレータ(図示省略)を配置して、これをエンドプレート95,96で挟持して構成される。この燃料電池スタック100では、燃料ガスとしての水素ガスおよび酸化ガスとしての空気が水素供給マニホールド95a、空気供給マニホールド95bから燃料電池20に供給され、その排ガスが水素排出マニホールド95cおよび空気排出マニホールド95dから排出される。また、冷却水が冷却水供給マニホールド95eから燃料電池20に供給され、その排水が冷却水排出マニホールド95fから排出される。
【0025】
燃料電池20は、発電体層35の両面に、ガス流路形成部材40、60、セパレーター70、80を積層して構成される。発電体層35は、電解質膜・電極接合体としてのMEA(Membrane Electrode Assembly)34の両面にガス拡散層33a、33bを接合して構成される。MEA34は、電解質膜31の表面上に、カソード電極32aとアノード電極32bとを備える。電解質膜31は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子材料の薄膜である。本実施例では、電解質膜31には、ナフィオン(登録商標)を用いた。カソード電極32aおよびアノード電極32bは、導電性を有する担体上に触媒を担持させた電極であり、本実施例においては、白金触媒を担持したカーボン粒子と、電解質膜31を構成する高分子電解質と同質の電解質とを備えている。
【0026】
ガス拡散層33a,33bは、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロス、あるいは金属メッシュや発泡金属によって形成することができる。本実施例においては、ガス拡散層33a,33bは、カーボンペーパを用いた。ガス拡散層33a,33bは、酸化ガスまたは燃料ガスを拡散して、カソード電極32aまたはアノード電極32bの全面に供給する。ガス拡散層33a,33bは、後述するガス流路形成部材40、60と比べて小さい気孔率を有しており、ガス拡散機能の他に、集電機能や、MEA34の保護機能も担っている。なお、このガス拡散層33aおよび33bには、MEA34の水分量を調節する機能などを持たせてもよい。
【0027】
かかる発電体層35は、その外周に配されたシールガスケット36と一体形成される。シールガスケット36には、水素供給マニホールド30a、空気供給マニホールド30b、水素排出マニホールド30c、空気排出マニホールド30d、冷却水供給マニホールド30e、冷却水排出マニホールド30fを備えている。また、シールガスケット36には、厚み方向に、各マニホールドと発電体層35の外周部とをそれぞれ囲む凸状の部位が形成されており、当該部位は、シールガスケット36の両側に積層されるセパレーター70、80と当接し、マニホールド内や発電体層35内からの流体(燃料ガス、酸化ガス、冷却水)の漏れを抑制するシールとして機能する。
【0028】
ガス流路形成部材40、60は、発電体層35にガスを供給するガス流路を形成する。なお、図1ではこれら流路形成部材を波線で示すが、その構成については後述する。ガス流路形成部材40は、発電体層35のアノード電極32b側とセパレーター70との間(流路形成領域)に配設され、セパレーター70を介して供給された燃料ガス(ここでは水素ガス)を、MEA34の電極面の側方の一方の側から他方の側に向けた流れで流しつつ、燃料ガスを発電体層35のアノード電極32b側に供給する。同様に、ガス流路形成部材60は、酸化ガス(ここでは空気)を発電体層35のカソード電極32a側に供給する。かかるガス流路形成部材40、60は、耐食性と導電性とを有する金属、例えば、ステンレス鋼やチタン、チタン合金などによって形成されるが、本実施例では、ステンレス鋼を用いた。ガス流路形成部材40、60の詳細な構造については後述する。本実施例では、発電体層35の両面にガス流路形成部材40、60を備える構成としたが、発電体層35の片面のみに備える構成としてもよい。
【0029】
セパレーター70、80は、反応ガスの隔壁として機能する部材であり、同一の構成を有している。以下、セパレーター70について説明する。セパレーター70は、ガス不透過な導電性部材、例えば圧縮カーボンやステンレス鋼から成る部材によって形成される。本実施例では、ステンレス鋼を用いた。セパレーター70は、カソード電極32a側に設けられる平坦なカソード側セパレーター71と、アノード電極32b側に設けられる平坦なアノード側セパレーター73と、それらの間に配置される中間セパレーター72とが一体となって構成される。カソード側セパレーター71は、水素供給マニホールド71a、空気供給マニホールド71b、水素排出マニホールド71c、空気排出マニホールド71d、冷却水供給マニホールド71e、冷却水排出マニホールド71f、空気連通孔75,76を備えている。空気供給マニホールド71bに供給された空気は、中間セパレーター72の空気連通孔72bおよび空気連通孔75を介して、カソード側セパレーター71に面して設けられる他の燃料電池20(図示省略)のガス流路形成部材40に導かれる。また、その排ガスは、空気連通孔76および中間セパレーター72の連通孔(図示省略)を介して、空気排出マニホールド71dに排出される。
【0030】
同様に、水素供給マニホールド71aに供給された水素は、中間セパレーター72の水素連通孔72aおよびアノード側セパレーター73の連通孔(図示省略)を介して、ガス流路形成部材60に導かれ、ガス流路形成部材60を流れた後、中間セパレーター72およびアノード側セパレーター73の連通孔(図示せず)を介して、水素排出マニホールド71cに排出される。また、中間セパレーター72には、略長方形外形の長辺方向に沿って複数の切欠が形成され、その切欠の両端はそれぞれ、冷却水排出マニホールド71fおよび冷却水供給マニホールド71eと連通している。なお、セパレーター70は、上述した3層構造のものに限るものではない。例えば、カソード側セパレーター71とアノード側セパレーター73との2層構造とし、中間セパレーター72に形成される連通孔に相当する形状をカソード側セパレーター71および/またはアノード側セパレーター73の内側に形成してもよい。
【0031】
セパレーター70は、冷却水供給マニホールド71eから流入した冷却水を、冷却水排出マニホールド71fから排出するに当たり、カソード側セパレーター71と中間セパレーター72で挟まれた中間セパレーター72にて、冷却水流路を形成する。セパレーター80にあっても同様であり、発電体層35のカソード電極32aの側に位置するセパレーター80は、冷却水流路を図1に点線で示すように、形成し、当該流路を流れる冷却水にて、発電体層35を冷却する。この場合、セパレーター80の冷却水流路とガス流路形成部材40における空気流路とは、冷却水の流れ方向と空気の流れ方向とが交差するように形成されることになる。
【0032】
次に、ガス流路形成部材40、60について説明する。本実施例においては、ガス流路形成部材40とガス流路形成部材60とは同一の構造を有しているので、以下では、カソード電極32aの側のガス流路形成部材40の構造として説明する。図2はガス流路形成部材40をガス上流側から俯瞰した概略構成とガス上流側から見た概略構成とを併せて示す説明図である。
【0033】
図2に示すように、ガス流路形成部材40は、多列の流路形成要素42で構成される。この図2では、流路形成要素42に添え字1〜3(n)を付して示している。それぞれの流路形成要素42は、凹部44と凸部46とを図における左右方向(以下、この方向を便宜上X方向と称する)に交互に繰り返し並べてX方向に沿った網目状の流路をガス流路域に亘って形成する。この場合の、ガス流路域は、図1における発電体層35の電極面の電極幅に相当する。そして、ガス流路形成部材40は、この流路形成要素42を、X方向と直交するY方向、即ち図において上下方向で示されるガス(空気)の流れ方向に沿ってガス流路域に亘り複数連設したエキスパンドメタルとされている。この場合のガス流路域は、図1における発電体層35の電極面のガスの流れ方向の電極長さに相当する。また、X方向が、ガス流れ方向と交差する交差方向となる。以下、本実施例では、図2の下方側が空気のin側、上方側がout側となり、凹部44と凸部46とで形成された網目状の流路は、XY平面に対して凹部44および凸部46の形成壁が一定の勾配をもって連設された形状として構成される。図2に示すY方向の空気の流れ方向は、図1のガス流路形成部材40においては、図中実線で示された方向となる。
【0034】
流路形成要素42は、凹部44と凸部46とを交互に繰り返し並べるに当たり、これら凹凸を繰り返しピッチτで連続させ、Y方向において連設した3列の流路形成要素42で、流路連設単位50を構成する。この流路連設単位50は、本実施例では、空気の流れ方向(Y方向)に沿った各列の流路形成要素42を、X方向に沿った一方方向のズレ(本実施例ではX+方向のズレ)を持って連設し、ガス流路形成部材40は、この流路連設単位50をY方向に繰り返し備える。それぞれの流路連設単位50におけるY方向に沿って隣り合う流路形成要素42は、X方向に沿った一方方向(X+方向)に沿って同じズレ量spを持って連設され、このズレ量spは、繰り返しピッチτを流路連設単位50における流路形成要素42の列数3で除算したτ/3とされている。こうした流路形成要素42の形成の様子については、後述する。
【0035】
次に、ガス流路形成部材40、60の製造手法について説明する。図3はガス流路形成部材40のプレス形成に用いる刃型部300と基材Pと流路形成要素42との関係を示す説明図である。基材Pは、ステンレスの薄板鋼板であり、刃型部300による後述のプレスを受けて、図2に示すエキスパンドメタルのガス流路形成部材40となる。図示するように、刃型部300は、プレス金型であり、上刃型310と下刃型320とを備える。これら刃部を有する刃型部300は、図示する基材P、即ちガス流路形成部材40を既述したガス流路域に亘ってプレスするに足りる幅により後述の凸刃部312のピッチτだけ幅広の金型幅とされ、後述の供給系340の送り出す基材Pに対して上刃型310をプレスする。上刃型310は、その金型幅方向(X方向)に、凸形状の凸刃部312をピッチτで並べて有する。下刃型320は、その金型幅方向(X方向)に沿って伸びるエッジと、上刃型310の凸刃部312に対応した凹刃部322とを備え、降下する凸刃部312とで基材切断に関与する。この場合、凹刃部322に凸刃部312が入り込むことで、図2に示した凹部44と凸部46とを交互に繰り返し形成する。刃型部300は、上刃型310と下刃型320とを、金型幅方向に沿ってスライド可能に保持する。よって、上刃型310と下刃型320とは、供給系340が送り出す基材Pに対して、その基材幅方向、即ち金型幅方向にスライドする。
【0036】
図4は上刃型310のスライドの様子と基材Pおよび供給系340との関係を示す説明図である。図示するように、供給系340は、ローラを対向させたローラ対342により基材Pを刃型部300の上刃型310に対して送り出す。上刃型310は、単一の刃型であるものの、供給系340が送り出す基材Pに対してのプレスのための上下動とX方向に沿った一方方向(X+方向)に沿ったスライドを起こす。つまり、上刃型310と基材Pとは、相対的な移動を起こす関係にあるため、図4のように、X方向に沿った一方方向(X+方向)に沿ったスライドを起こす上複数の上刃型310が基材Pに対してプレス動作を起こすことになる。以下、この図4を用いて、図2に示したガス流路形成部材40の形成手順を説明する。
【0037】
まず、図4に示すように、上刃型310は、第1ショットに際して、つまり、図2の流路形成要素42_1の形成に際して、図示する原点位置にある。この原点位置での上刃型310の上下動作を経た第1ショットにより、基材Pは、上刃型310の凸刃部312によりプレスされて図中に示すプレス箇所Pdにて押し下げられる。これにより、凹部44と凸部46がX方向に交互に繰り返し並んだ流路形成要素42_1が形成される。次に、上刃型310は、X+方向にτ/3(この数値3は、流路連設単位50を構成する流路形成要素42の列数)だけスライドし、そのスライド位置で第2ショットを行い、流路形成要素42_2を形成する。この流路形成要素42_1と流路形成要素42_2は、Y方向に沿って隣り合い、X+方向にτ/3のズレを持って連設する。次いで、上刃型310は、更にX+方向にτ/3だけスライドし、そのスライド位置で第3ショットを行い、流路形成要素42_3を形成する。これにより、Y方向に沿った3列の流路形成要素42_1〜流路形成要素42_3で構成される流路連設単位50が形成される。
【0038】
こうして第1〜第3のショットのプレス動作が完了すると、上刃型310は、次のショット、即ち第4ショット(この数値4は、流路連設単位50を構成する流路形成要素42の列数3+1)を行うに当たり、まず、原点位置に復帰する。この際の戻り量は、2τ/3(この数値2は、流路連設単位50を構成する流路形成要素42の列数3−1)となる。こうして原点復帰した後に、上刃型310は、第4〜第6のショット(この数値6は、流路連設単位50を構成する流路形成要素42の列数3の倍数)を、各ショットごとにX+方向にτ/3だけスライドさせ、第1〜第3のショットと同様にプレス動作を行う。以下、上記のプレス動作を繰り返すことにより、Y方向に沿った3列の流路形成要素42_1〜流路形成要素42_3で構成される流路連設単位50が、Y方向に隣り合って繰り返し連続することになる(図2参照)。
【0039】
Y方向に繰り返されて隣り合う流路連設単位50では、図2に示すように、Y方向の最上流側の連設単位の第3列の流路形成要素42_3とその下流側の流路連設単位50の第1列の流路形成要素42_1とが連設することになる。Y方向下流側の流路連設単位50の第1列の流路構成要素42_1は、上流側の流路連設単位50の第3列の流路形成要素42_3から見れば、4列目(この数値4は、流路連設単位50を構成する流路形成要素42の列数3+1)の流路構成要素42となり、この流路形成要素42は凸刃部312の原点復帰後のショット(第4ショット)で形成される。しかも、第3列の流路形成要素42_3とその下流側の第1列の流路形成要素42_1の両流路構成要素42を含むそれぞれの流路連設単位50では、隣り合う流路構成要素42のX+方向に沿った同じズレ量sp(=τ/n)は同じである。このため、上流側の連設単位30の第3列の流路形成要素42_3と下流側の流路連設単位50の第1列の流路構成要素42_1における交差方向の一方方向に沿ったズレ量は、各流路連設単位50でのズレ量sp(=τ/n)と同じとなる。よって、Y方向に沿って隣り合う上流側の流路連設単位50の第3列の流路形成要素42_3における凹部44と凸部46の交互繰り返しのうちのある凹部44或いは凸部46は、その下流側の流路連設単位50の第1列の流路構成要素42_1における凹部44或いは凸部46、詳しくは、隣り合う凸刃部312により形成された凹部44或いは凸部46とX+方向に沿ったズレ量sp(=τ/n)でY方向に沿って連続することになる。つまり、本実施例の燃料電池20は、流路連設単位50における凹部44或いは凸部46をX+方向に沿ったズレ量sp(=τ/n)でY方向に沿って連続させた上で、隣り合う流路連設単位50においてもこれを連続させる。この結果、本実施例の燃料電池20によれば、図2に示すように、凹部44或いは凸部46による網目状の流路を、Y方向に沿ってその上流側から下流側に掛けてガス流路域において連続に形成できるので、流路屈曲による圧力損失を抑制できる。そして、上記構成の燃料電池によれば、圧力損失の抑制を通して、電極面各部位へのガス供給の不均等を是正して、発電性能の向上を図ることができる。
【0040】
また、本実施例の燃料電池20では、次の利点がある。図5は図9に示した圧力損失の抑制が可能な既存エキスパンドメタルの製造に用いる金型の概要を示す説明図である。図9に示すエキスパンドメタルでは、本実施例における流路形成要素42に相当する7列の要素が基材Pの送り方向(Y方向)に連設するため、上刃型については、基材Pの幅(ガス流路域)よりも金型幅をショット数と凸刃部のピッチを乗じた分だけ幅広とする必要がある。
【0041】
これに対して、本実施例の燃料電池20が採用したガス流路形成部材40のエキスパンドメタルでは、上刃型310と下刃型320の刃型部300を用いて凹部44と凸部46の交互繰り返しによる網目状の流路を形成するに当たり、3列の流路形成要素42がY方向に連設した流路連設単位50をY方向に繰り返し連設する。そして、流路連設単位50での3列の流路形成要素42の連設形成において、上刃型310を3回のショット数でプレスしつつ各ショットごとに上刃型310をX+方向に同じズレ量sp(=τ/n)でずらし、3回のショット後には上刃型310をτ(n−1)/nだけ元に戻して原点位置に復帰させる。その後は、この原点位置から改めて上刃型310を3回のショット数でプレスしつつ各ショットごとに上刃型310をX+方向に同じズレ量sp(=τ/n)でずらせばよい。この結果、図4に示すように、上刃型310の金型幅を凸刃部312の一ピッチτ分だけ付加させればよく、ショット数にスライド量を乗じた幅とする必要がないので、金型の小型化、延いてはプレス装置の小型化を図ることができる。
【0042】
また、本実施例によれば、小型の刃型部300にて、燃料電池20に用いるガス流路形成部材40としてのエキスパンドメタルを容易に製造できる。
【0043】
次に、変形例について説明する。図6は変形例のガス流路形成部材40Aをガス上流側から俯瞰した概略構成とガス上流側から見た概略構成とを併せて示す説明図である。図6に示すように、変形例のガス流路形成部材40Aは、Y方向に繰り返し連設する流路連設単位50のそれぞれの流路形成要素42の凹部44と凸部46の交互繰り返しにおいて、図における左端側、即ちガス流路域の幅方向の端部側の凹部44のピッチを、残余の凸部46と凹部44の交互繰り返しの繰り返しピッチτより大きくした。このため、端部側の凹部44とその隣の凹部44との間は、他の凸部46より幅広の凸部46Wとなる。本実施例では、端部側の凹部44の幅広ピッチを残余の凹部44の繰り返しピッチτの1.5倍以上とした。
【0044】
図7は変形例のガス流路形成部材40Aのプレス形成に用いる刃型部300Aと基材Pと流路形成要素42との関係を示す説明図である。図示するように、刃型部300Aにあっても、先に説明した刃型部300と同様、上刃型310Aと下刃型320Aとを備え、上下の刃型は金型幅方向に沿ってスライド可能とされている。上刃型310Aは、図における右端側から凸刃部312をピッチτで並べて備え、最左端の凸刃部312については、幅広ピッチτw(≧1.5xτ)とした。
【0045】
この図7に示す上刃型310Aを、図4で説明したように、原点位置にて第1ショットを行った後に、X+方向にτ/3だけスライドしつつ第2〜第3ショットを行い、3列の流路形成要素42がY方向に連設した流路連設単位50を形成する。そして、第4ショットについては、上刃型310Aを原点位置に復帰させてから実行し、その後の第5〜第6ショットのショットごとにX+方向にτ/3だけスライドさせ、第1〜第3のショットと同様にプレス動作を行う。このプレス動作を繰り返すことにより、Y方向に沿った3列の流路形成要素42_1〜流路形成要素42_3で構成される流路連設単位50が、Y方向に隣り合って繰り返し連続することになる(図6参照)。
【0046】
こうして得られた変形例のガス流路形成部材40Aでは、Y方向に連設した流路形成要素42の凹部44の交互繰り返しにおいて、端部の凹部44とその隣の凹部44とのピッチを幅広ピッチτwとし、これを、端部の凹部44以外の凹部44の繰り返しピッチτより大きく、具体的には、繰り返しピッチτの1.5倍以上とした。こうすることで、幅広ピッチτwで並んだ凹部44の間を、端部の凹部44以外の凹部44の間の凸部46より幅広の凸部46Wとできることから、この幅広の凸部46Wは、Y方向で隣り合う流路形成要素42においてY方向、即ちガスの流れ方向に沿って重なり、その重なり程度は、端部の凹部44以外の凹部44の間の凸部46の重なりより大きくなる。このため、変形例のガス流路形成部材40Aでは、ガスの流れ方向で隣り合う流路形成要素42において幅広の凸部46Wがガスの流れ方向に沿って重なった部位は、図6に示すように、上流側から下流側に掛けてガスの流れ方向にほぼ真っ直ぐ沿うようになる。よって、この幅広の凸部46Wがガスの流れ方向に沿って重なった部位による網目状の流路は、ガスの流れ方向にほぼ真っ直ぐ延びることになるので、変形例のガス流路形成部材40Aによれば、網目状の流路がガスの流れ方向にほぼ真っ直ぐ延びる範囲においてガスによる水の持ち去りを高めて、排水性を向上させることができる。しかも、この変形例のガス流路形成部材40Aでは、幅広の凸部46Wをガスの流れ方向に沿って重ねることでガスの流れ方向に網目状の流路がほぼ真っ直ぐ延びる範囲を、燃料電池20においてフラッディングが起きやすいガス流路域の幅方向端部部位とした。この結果、変形例のガス流路形成部材40Aによれば、フラッディングの抑制を図ることができる。
【0047】
また、上記した変形例では、上刃型310Aにおける凸刃部312のピッチを変えるという単純な処置で、ガスの流れ方向に網目状の流路がほぼ真っ直ぐ延びる範囲を有するエキスパンドメタルをガス流路形成部材40Aとして容易に製造できる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を実施例にて説明したが、本発明は上記した実施例や変形例の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、上記の変形例では、凸刃部312のピッチを広く変えることで幅広の凸部46Wを形成するようにしたが、凸刃部312の形状自体を幅広にして、一部の凹部44を幅広とすることもできる。
【0049】
また、上記の実施例では、流路連設単位50をY方向に3列連設した流路形成要素42で構成したが、4列以上の流路形成要素42にて流路連設単位50を構成するようにすることもできる。
【符号の説明】
【0050】
20…燃料電池
30…連設単位
30a…水素供給マニホールド
30b…空気供給マニホールド
30c…水素排出マニホールド
30d…空気排出マニホールド
30e…冷却水供給マニホールド
30f…冷却水排出マニホールド
31…電解質膜
32a…カソード電極
32b…アノード電極
33a…ガス拡散層
34…MEA
35…発電体層
36…シールガスケット
40…ガス流路形成部材
40A…ガス流路形成部材
42…流路構成要素
44…凹部
46…凸部
46W…幅広の凸部
50…流路連設単位
60…ガス流路形成部材
70…セパレーター
71…カソード側セパレーター
71a…水素供給マニホールド
71b…空気供給マニホールド
71c…水素排出マニホールド
71d…空気排出マニホールド
71e…冷却水供給マニホールド
71f…冷却水排出マニホールド
72…中間セパレーター
72a…水素連通孔
72b…空気連通孔
73…アノード側セパレーター
75…空気連通孔
76…空気連通孔
80…セパレーター
95…エンドプレート
95a…水素供給マニホールド
95b…空気供給マニホールド
95c…水素排出マニホールド
95d…空気排出マニホールド
95e…冷却水供給マニホールド
95f…冷却水排出マニホールド
100…燃料電池スタック
300…刃型部
300A…刃型部
310…上刃型
310A…上刃型
312…凸刃部
320…下刃型
320A…下刃型
322…凹刃部
340…供給系
342…ローラ対
Pd…プレス箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜の各膜面に電極を接合した膜電極接合体を含む発電体層と、
前記発電体層を間に挟んで配置され、前記発電体層での発電反応に供される反応ガスの給排に関与する一対のセパレーターと、
前記発電体層と前記一対のセパレーターの少なくとも一方との間に配置され、前記セパレーターからの前記反応ガスを前記電解質膜の膜面に沿ったガス流れ方向に流す流路を形成する流路形成部材とを備え、
該流路形成部材は、
前記ガス流れ方向と交差する交差方向に沿って凹凸が交互に繰り返し並んだ凹凸の交互繰り返しを、前記交差方向に沿った網目状の流路をガス流路域に亘って形成する流路形成要素とし、該流路形成要素を前記ガスの流れ方向に沿って複数連設して備え、
前記ガスの流れ方向に沿ったn列(nは2以上の整数)の前記流路形成要素を、前記交差方向に沿った一方方向のズレを持って連設し、該一方方向のズレを持って連設されたn列の前記流路形成要素の連設単位を、前記ガスの流れ方向に繰り返し有し、
前記連設単位において前記ガスの流れ方向に沿って隣り合う前記流路形成要素は、前記一方方向に沿って同じズレ量spを持って連設され、該ズレ量spは、前記繰り返しピッチτを前記連設単位における前記流路形成要素の列数nで除算したτ/nとされている
燃料電池。
【請求項2】
前記流路形成要素の前記凹凸の交互繰り返しにおいて、一部の凹凸の交互並びのピッチは、残余の凹凸の交互繰り返しの前記繰り返しピッチτより大きくされている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記繰り返しピッチτより大きくされたピッチの前記凹凸の交互並びは、前記ガス流路域の端部とされている請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記流路形成部材は、エキスパンドメタルにより形成されている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項5】
燃料電池用のエキスパンドメタルであって、
凹凸が交互に繰り返し並んだ凹凸の交互繰り返しを網目状の流路を形成する流路形成要素とし、該流路形成要素を前記凹凸が繰り返される方向と交差する交差方向に沿って複数連設して備え、
前記交差方向に沿ったn列(nは2以上の整数)の前記流路形成要素を、前記凹凸が繰り返される方向に沿った一方方向のズレを持って連設し、該一方方向のズレを持って連設されたn列の前記流路形成要素の連設単位を、前記交差方向に繰り返し有し、
前記連設単位において前記交差方向に沿って隣り合う前記流路形成要素は、前記一方方向に沿って同じズレ量spを持って連設され、該ズレ量spは、前記繰り返しピッチτを前記連設単位における前記流路形成要素の列数nで除算したτ/nとされている
燃料電池用のエキスパンドメタル。
【請求項6】
燃料電池用のエキスパンドメタルの製造装置であって、
金属製の板材を送り出す供給部と、
凸形状の刃部を金型幅方向に繰り返しピッチτで並べて有し、前記金型幅方向に沿った一方方向に原点位置からスライド可能に保持された金型と、
該金型を、前記供給部により送り出される前記金属製の板材に対してプレスするプレス動作を実行することで、前記板材の板幅において凹部と凸部が交互に前記繰り返しピッチτで連続した網目状の流路をプレス形成し、前記プレス動作を行うごとに、前記金型を前記一方方向のズレを持ってスライドさせるプレス部とを備え、
該プレス部は、
n回(nは2以上の整数)の前記プレス動作を繰り返す間の前記プレス動作ごとの前記金型のスライド量spを、前記繰り返しピッチτを前記連設単位における前記流路形成要素の列数nで除算したτ/nとし、前記n回の前記プレス動作を繰り返した後に前記金型を前記原点位置に復帰させ、前記プレス動作を新たに繰り返す
燃料電池用のエキスパンドメタルの製造装置。
【請求項7】
燃料電池用のエキスパンドメタルの製造方法であって、
金属製の板材を送り出す送り出し工程と、
凸形状の刃部を金型幅方向に繰り返しピッチτで並べて有し、前記金型幅方向に沿った一方方向に原点位置からスライド可能に保持された金型を、前記送り出される前記金属製の板材に対してプレスすることで、前記流路幅において凹部と凸部が交互に前記繰り返しピッチτで連続した網目状の流路をプレス形成するプレス工程とを備え、
該プレス工程では、
前記送り出される前記金属製の板材に対して前記金型をプレスするプレス動作を実行するごとに、前記金型を前記一方方向にスライドさせ、
n回(nは2以上の整数)の前記プレス動作を繰り返す間の前記プレス動作ごとの前記金型のスライド量spを、前記繰り返しピッチτを前記連設単位における前記流路形成要素の列数nで除算したτ/nとし、
該n回の前記プレス動作の繰り返し後に前記金型を前記原点位置に復帰させて、前記プレス動作を新たに繰り返す
燃料電池用のエキスパンドメタルの製造方法。
【請求項8】
前記プレス工程では、繰り返し並んだ前記凸形状の刃部の一部の刃部が残余の刃部の前記繰り返しピッチτより大きいピッチで形成された前記金型を、前記プレス動作ごとに前記一方方向にスライドさせる請求項7に記載の燃料電池用のエキスパンドメタルの製造方法。
【請求項9】
前記繰り返しピッチτより大きいピッチで形成された前記刃部は、前記金型幅方向の端部とされている請求項8に記載の燃料電池用のエキスパンドメタルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−243570(P2012−243570A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112466(P2011−112466)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】