説明

燃料電池のセル及びスタック

【課題】消費動力の軽減及びスタックの小型化を実現可能にする。
【解決手段】本発明の燃料電池のスタックは、複数の膜電極接合体1と、複数のセパレータ2とを備えている。各膜電極接合体1は、電解質膜3と、電解質膜3の一面に接合されて空気が供給されるカソード極4と、電解質膜3の他面に接合されて燃料が供給されるアノード極5とを有する。各セパレータ2は、各膜電極接合体1を間に挟んで積層され、個々が各カソード極4側に空気室6を形成するとともに、各アノード極5側に燃料室7を形成する。各膜電極接合体1及び各セパレータ2は各々の平板材が二次元又は三次元で屈曲され、各空気室6は各燃料室7よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のセル及びスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の燃料電池の膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)及びセルが開示され、特許文献2には他の従来の燃料電池の膜電極接合体、セル及びスタックが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示の燃料電池の膜電極接合体は、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupon社製))等の固体高分子膜からなる電解質膜と、この電解質膜の一面に接合されて空気が供給されるカソード極と、電解質膜の他面に接合されて燃料が供給されるアノード極とを有している。カソード極は及びアノード極は白金(Pt)等の触媒を担持したカーボン粒子等からなる。
【0004】
この膜電極接合体の特徴的な構成として、電解質膜、カソード極及びアノード極は、凹凸形状に成形されており、金属製等の網によってその形状が保持されている。この膜電極接合体を一対の平板状のセパレータで挟むことにより最小発電単位である燃料電池のセルが構成され、このセルが多数積層されてスタックが構成される。
【0005】
この燃料電池のスタックにおいては、セパレータと膜電極接合体とにより空気室及び燃料室が形成され、カソード極に空気が供給されるとともにアノード極に燃料が供給される。この間、膜電極接合体では、アノード極における電気化学的反応により、燃料から水素イオン(H+;プロトン)と電子とが生成される。そして、プロトンは水分子を伴ったH3+の形で電解質膜内をカソード極に向かって移動する。また、電子は、スタックに接続された負荷を通り、カソード極に流れる。一方、カソード極においては、空気中に含まれる酸素とプロトンと電子とから水が生成される。このような電気化学的反応が連続して起こることにより、スタックは起電力を連続して発生することができる。
【0006】
特許文献2に開示の膜電極接合体も特許文献1に開示の膜電極接合体と同様の膜電極接合体を開示している。また、特許文献2のセルやスタックは各セパレータの空気室及び燃料室に形状保持のための多孔体を充填している。
【0007】
特許文献1、2に開示の膜電極接合体は、電解質膜、カソード極及びアノード極が凹凸形状に屈曲されていることから、カソード極及びアノード極の投影面積当たりの表面積がともに大きくなっている。このため、この種の膜電極接合体を用いたスタックは、単位体積当たり、大きな面積で電気化学反応を生じ、発電能力が高くなる。
【0008】
【特許文献1】特開平11−224677号公報
【特許文献2】特開2002−184426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記従来のセルは、カソード極及びアノード極を屈曲した膜電極接合体を採用しつつ、平板状の一対のセパレータを採用していることから、空気室と燃料室とが常に等しくされる。このため、この種のセルを用いたスタックでは、アノード極側での燃料の消費体積の増加に従ってカソード極側で空気の圧力損失が増大してしまう。
【0010】
このため、そのスタックでは、空気の供給に必要な動力が増加してしまう。また、スタックにおける空気室の断面積をむやみに大きくして空気の圧力損失を小さく保とうとすれば、スタックの大型化を生じてしまう。
【0011】
特許文献2開示のセルやスタックにおいても、セパレータの空気室及び燃料室に充填された多孔体によって空気及び燃料の圧力損失を生じ、やはり消費動力の増大及びスタックの大型化を生じてしまう。
【0012】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、消費動力の軽減及びスタックの小型化を実現可能にすることを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の燃料電池のセルは、電解質膜と、該電解質膜の一面に接合されて空気が供給されるカソード極と、該電解質膜の他面に接合されて燃料が供給されるアノード極とを有する膜電極接合体と、
【0014】
該カソード極側に空気室を形成するとともに、該アノード極側に燃料室を形成するように該膜電極接合体を挟持する対をなすセパレータとを備えた燃料電池のセルにおいて、
【0015】
前記膜電極接合体及び各該セパレータは、前記空気室が前記燃料室よりも大きくなるように、各々の平板材が二次元又は三次元で屈曲されていることを特徴とする。
【0016】
本発明のセルでは、平板材が二次元又は三次元で屈曲された膜電極接合体を採用していることから、カソード極及びアノード極の投影面積当たりの表面積がともに大きくなっている。このため、このセルを用いたスタックは、単位体積当たり、大きな面積で電気化学反応を生じ、発電能力が高くなる。
【0017】
また、このセルでは、平板材が二次元又は三次元で屈曲された各セパレータを採用し、空気室が燃料室よりも大きくなるようにしている。このため、このセルを用いたスタックでは、アノード極側での燃料の消費体積の増加に従ってカソード極側で空気の圧力損失を生じ難い。
【0018】
したがって、本発明のセルによれば、スタックの消費動力を軽減できる。また、スタックにおける空気室の断面積を燃料室に応じて大きくすることで比較的小さくできることから、スタックの小型化も実現できる。
【0019】
また、本発明のセルは、平板材を二次元又は三次元で屈曲させた各セパレータを採用していることから、特開平4−154047号公報に開示された各セパレータに比べ、各セパレータの製造が容易であり、製造コストの低廉化を実現することもできる。
【0020】
各々の平板材が二次元又は三次元で屈曲された膜電極接合体及びセパレータを採用し、空気室が燃料室よりも大きくなるようにするためには、膜電極接合体の山と谷とを同一のピッチで形成しつつ、セパレータの山と谷との幅を変えることが可能である。また、膜電極接合体又はセパレータの山と谷とのピッチを変えることも可能である。
【0021】
なお、空気室を燃料室よりもどの程度大きくするかは、2H2+O2→2H2Oのモル数、燃料の供給圧力、空気の供給圧力及び空気中の酸素分圧によって設定することができる。
【0022】
本発明に係る膜電極接合体及びセパレータは、各々の平板材が二次元又は三次元で屈曲されている。つまり、膜電極接合体の平板材を屈曲することにより本発明に係る膜電極接合体が得られ、セパレータの平板材を屈曲することにより本発明に係るセパレータが得られる。平板材の屈曲は、二次元(つまり、山及び谷が一方向に連続した波板形状)でもよく、三次元(つまり、山及び谷が連続せずに独立して形成された形状)でもよい。平板材の屈曲は、屈曲点又は屈曲線が緩やかな湾曲を含む。
【0023】
本発明のセルでは、膜電極接合体は、形状を保持する形状保持部材を有することが好ましい。この場合、形状保持部材によって膜電極接合体の屈曲した形状が保持され、長期に亘って本発明の作用効果が維持される。また、膜電極接合体が形状保持部材を有すれば、膜電極接合体自体が屈曲した形状を保持するため、別に用意したセパレータと容易に位置合わせを行い、製造コストの低廉化を実現することができる。
【0024】
形状保持部材は、膜電極接合体の特性を損なわなければ、種々の材質、形状のものを採用することができる。材質としては、例えば金属、樹脂、セラミック、ガラス等を採用し得る。
【0025】
電解質膜、カソード極及びアノード極の少なくとも一つが形状保持部材を含み得る。
【0026】
形状保持部材は金属製の網又は多孔板からなることが好ましい。形状保持部材が金属製であれば、高い剛性により形状保持機能が長期に亘って作用する。また、形状保持部材が網又は多孔板であることにより、燃料、プロトン又は空気を好適に伝導させることができる。なお、ここで、多孔板とは、気孔が厚さ方向に連続し、厚さ方向両側で外部に気孔が開くものをいう。
【0027】
セパレータが導電性のものであり、カソード極及びアノード極の少なくとも一つが電解質側とは逆側に形成されて空気又は燃料を拡散する拡散層を有する場合、拡散層に導電性の形状保持部材が一部を露出させて含まれていることが好ましい。この場合、形状保持部材が導電性のあるセパレータと当接すれば、形状保持機能とともに集電機能も発揮し、別に集電材を設ける必要がなくなることから、スタックのより一層の小型化を実現できる。
【0028】
また、本発明のセルでは、各セパレータが膜電極接合体の形状を保持するように形成されていることもできる。この場合、セパレータによって膜電極接合体の屈曲した形状が保持され、長期に亘って本発明の作用効果が維持される。また、セパレータが膜電極接合体の形状を保持すれば、別に形状保持体を設ける必要がなく、製造コストの低廉化を実現することができる。この場合、セパレータは、剛性を有し、セパレータの特性を損なわなければ、種々の材質、形状のものを採用することができる。材質としては、例えば金属、樹脂、セラミック、ガラス等を採用し得る。導電性の金属によってセパレータを構成すれば、セパレータが形状保持機能とともに集電機能も発揮し、別に集電材を設ける必要がなくなることから、スタックのより一層の小型化を実現できる。
【0029】
本発明の燃料電池のスタックは、上記セルを多数積層してなることを特徴とする。
【0030】
本発明のスタックは、上記セルを採用していることから、消費動力を軽減できるとともに、小型化され得る。また、本発明のスタックは、上記セルの各セパレータを採用していることから、各セパレータの製造が容易であり、製造コストの低廉化を実現することもできる。
【0031】
また、本発明の燃料電池のスタックは、電解質膜と、該電解質膜の一面に接合されて空気が供給されるカソード極と、該電解質膜の他面に接合されて燃料が供給されるアノード極とを有する複数の膜電極接合体と、
【0032】
各該膜電極接合体を間に挟んで積層され、個々が各該カソード極側に空気室を形成するとともに、各該アノード極側に燃料室を形成する複数のセパレータとを備えた燃料電池のスタックにおいて、
【0033】
各前記膜電極接合体及び各前記セパレータは各々の平板材が二次元又は三次元で屈曲され、前記各空気室は前記各燃料室よりも大きいことを特徴とする。
【0034】
本発明のスタックは、消費動力を軽減できるとともに、小型化され得る。また、本発明のスタックは、平板材を二次元又は三次元で屈曲させた各セパレータを採用していることから、各セパレータの製造が容易であり、製造コストの低廉化を実現することもできる。
【0035】
本発明のスタックは、1枚の膜電極接合体及び1枚のセパレータを1ユニットとすると、1ユニットの膜電極接合体側の谷の裏面が隣のユニットのセパレータ側の山の表面に当接してもよく、1ユニットの膜電極接合体側の谷の裏面が隣のユニットのセパレータ側の谷の表面に当接してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を具体化した実施例1〜6を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0037】
実施例1のスタックの詳細を図1に示す。このスタックは、セル10が多数積層されて構成されている。セル10は、膜電極接合体1と、膜電極接合体1を挟持する対をなすセパレータ2とからなる。隣り合う各セル10は各々セパレータ2を共有している。
【0038】
膜電極接合体1は、図2に示すように、電解質膜3と、この電解質膜3の一面に接合されたカソード極4と、電解質膜3の他面に接合されたアノード極5とからなる。この膜電極接合体1は、屈曲前の平板材が二次元で、つまり緩やかな山1a及び谷1bが一方向に連続した波板形状に屈曲されている。膜電極接合体1は山1aと谷1bとが同一のピッチで形成されている。
【0039】
電解質膜3はナフィオン(登録商標、Nafion(Dupon社製))等の固体高分子膜からなる。
【0040】
カソード極4は、図3に示すように、形状保持部材としての網4aと、この網4aの電解質膜3側に形成されたカソード触媒層4bと、非電解質側で網4aの目によって形成されたカソード拡散層4cとからなる。網4aはステンレスに耐食性のコーティング(例えば、金メッキ)が施されたものである。また、網4aはカソード拡散層4cから一部が露出している。カソード触媒層4bは、カーボン粒子に白金(Pt)等の触媒を担持したカーボン粒子と電解質とを混合したものであり、カソード拡散層4cは、カーボン粒子とPTFEとの混合物からなる。
【0041】
また、アノード極5も、形状保持部材としての上記網5aと、この網5aの電解質膜3側に形成されたアノード触媒層5bと、非電解質側で網5aの目によって形成されたアノード拡散層5cとからなる。網5aはアノード拡散層5cから一部が露出している。アノード触媒層5bも、カーボン粒子に白金(Pt)等の触媒を担持したカーボン粒子と電解質とを混合したものであり、アノード拡散層5cも、カーボン粒子とPTFEとの混合物からなる。
【0042】
膜電極接合体1は、以下のように製造され得る。まず、図4(A)に示すように、平板状に成形された担体粒子からなる拡散層シート11aと、平板状に成形された網11bとを用意する。そして、拡散層シート11aと網11bとを所定の圧力でプレスする。こうして、図5に示すように、平板状に成形された電極シート11が得られる。図5は連続式屈曲装置を示す。
【0043】
一方、平板状に成形された電解質膜12も用意する。そして、連続式屈曲装置において、対をなすローラ13〜15で電解質膜12の両面に電極シート11を位置させながらこれらを搬送し、対をなすローラ16によって電解質膜12と両電極シート11とを所定の圧力でプレスする。これにより平板状に成形された膜電極接合体17が得られる。
【0044】
触媒層の形成方法は、拡散層シートと網とをプレスした後に触媒を塗布して電極シートを形成する手法と、電解質膜の両面にカソード触媒層及びアノード触媒層をそれぞれ予め形成する手法とを採用することもできる。
【0045】
この膜電極接合体17は、続いて対をなす変形ローラ18間に搬送される。両変形ローラ18は膜電極接合体17を波板形状屈曲可能に形成されている。こうして、図6に示すように、波板形状の膜電極接合体1が得られる。
【0046】
また、図4(B)に示すように、平板状に成形された網11bを用意し、スキージ19によって担体粒子のスラリー11cをこの網11bに含浸させてもよい。こうして得られた平板状に成形された電極シート11を用い、上記と同様に波板形状の膜電極接合体1を得ることもできる。
【0047】
さらに、平板状に成形された電極シート11及び電解質膜12を図5に示す連続式屈曲装置によってそれぞれ波板形状に屈曲し、図7に示すように、それぞれ波板形状の電極シート22及び電解質膜21とすることもできる。これら電極シート22及び電解質膜21は、図8に示すように、電解質膜21の両面に電極シート22を位置させた状態でプレス型23によってホットプレスされ得る。プレス型23の上型23a及び下型23bは、電極シート22及び電解質膜21の波板形状と整合する成形面を有している。こうして、図6に示す波板形状の膜電極接合体1が得られる。
【0048】
また、平板状に成形された電極シート11及び電解質膜12を図8に示すプレス型23によってホットプレスし、上記と同様に波板形状の膜電極接合体1を得ることもできる。
【0049】
図1及び図2に示す各セパレータ2は、ステンレスに耐食性のコーティング(例えば、金メッキ)が施されたものである。これらのセパレータ2も、屈曲前の平板材が二次元、つまり山2a及び谷2bが一方向に連続した波板形状に屈曲されている。セパレータ2は山2aの方が谷2bよりも幅広に形成されている。
【0050】
そして、対をなすセパレータ2によって膜電極接合体1を挟持して各セル10を構成する。そして、セル10を多数積層する。この際、隣り合う各セル10が各々セパレータ2を共有するようにする。
【0051】
この際、各膜電極接合体1の各山1aと各セパレータ2の各山2aとが整合し、各膜電極接合体1の各谷1bと各セパレータ2の各谷2bとが整合するようにする。1枚の膜電極接合体1及び1枚のセパレータ2を1ユニットとすると、このユニットは、膜電極接合体1の山1aの表面がセパレータ2の山2aの裏面と当接し、膜電極接合体1の谷1bの表面はセパレータ2の谷2bの裏面と間隙を有している。そして、各膜電極接合体1の各谷1bのカソード極4側である裏面が各セパレータ2の各山2aの表面と当接するようにする。
【0052】
また、カソード拡散層4cから露出した網4a及びアノード拡散層5cから露出した網5aがセパレータ2と当接するようにする。こうして、スタックが得られる。
【0053】
得られたスタックでは、セパレータ2は、膜電極接合体2のカソード極4側に空気室6を形成するとともに、アノード極5側に燃料室7を形成することとなる。つまり、スタックは、複数の膜電極接合体1と、各膜電極接合体1を間に挟んで積層され、個々が各カソード極4側に空気室6を形成するとともに、各アノード極5側に燃料室7を形成する複数のセパレータ2とを備えている。
【0054】
以上のように構成されたスタックは、平板材が二次元で屈曲された膜電極接合体1を採用していることから、カソード極4及びアノード極5の投影面積当たりの表面積がともに大きくなっている。このため、このスタックは、単位体積当たり、大きな面積で電気化学反応を生じ、発電能力が高くなる。
【0055】
また、このスタックでは、平板材が二次元で屈曲された各セパレータ2を採用し、空気室6が燃料室7よりも大きくなるようにしている。このため、このスタックでは、アノード極5側での燃料の消費体積の増加に従ってカソード極4側で空気の圧力損失を生じ難い。
【0056】
したがって、このスタックであれば、消費動力を軽減できる。また、スタックにおける空気室6の断面積を燃料室7に応じて大きくすることで比較的小さくできることから、小型化も実現できる。
【0057】
また、このスタックは、平板材を二次元で屈曲させた各セパレータ2を採用していることから、各セパレータ2の製造が容易であり、製造コストの低廉化を実現することもできる。
【0058】
さらに、このスタックでは、各膜電極接合体1が網4a、5aを有し、各セパレータ2に挟持されている。このため、網4a、5a及びセパレータ2によって膜電極接合体1の屈曲した形状が保持され、長期に亘って上記作用効果が維持される。特に、網4a、5a及びセパレータ2がステンレス製であり、かつ耐食性のコーティングを有するものであるため、高い剛性により形状保持機能が長期に亘って作用するとともに、電解質膜3の酸に対する優れた耐食性も発揮する。なお、網4a、5aが目を有することから、燃料、プロトン又は空気を好適に伝導させることは維持されている。
【0059】
また、このスタックでは、膜電極接合体1が網4a、5aを有することにより、膜電極接合体1自体が屈曲した形状を保持するため、セパレータ2と容易に位置合わせを行い、製造コストの低廉化を実現することができる。
【0060】
さらに、このスタックでは、網4a、5aがセパレータ2と当接して集電機能も発揮することができ、一層の小型化を実現している。
【実施例2】
【0061】
実施例2のスタックは、図9に示す膜電極接合体30を採用している。この膜電極接合体30は、図10に分解断面図を示すように、電解質膜3と、この電解質膜3の一面に接合されたカソード極31と、カソード極31の非電解質側に接合された金属製の網32と、電解質膜3の他面に接合されたアノード極33と、アノード極33の非電解質側に接合された金属製の網34とからなる。
【0062】
カソード極31は、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等のガス透過性のある基材と、この基材の電解質膜3側に形成され、白金(Pt)等の触媒が担持されたカソード触媒層とからなる。カソード極31におけるカソード触媒層以外の部分は基材によって構成されており、ここは非電解質側でカソード触媒層に空気を拡散するカソード拡散層とされている。
【0063】
また、アノード極33も、上記基材と、この基材の電解質膜3側に形成され、触媒が担持されたアノード触媒層とからなる。アノード極33におけるアノード触媒層以外の部分も基材によって構成されており、ここは非電解質側でアノード触媒層に空気を拡散するアノード拡散層とされている。
【0064】
電解質膜3、カソード極31及びアノード極33によって公知の膜電極接合体35が形成されている。形状保持部材としての網32、34は、この公知の膜電極接合体35に後付で接合されている。他の構成は実施例1と同様である。
【0065】
このスタックは、網32、34が公知の膜電極接合体35に後付で接合されることから、公知の膜電極接合体35を有効利用することができる。他の作用効果は実施例1と同様である。
【実施例3】
【0066】
実施例3のスタックは、図11及び図12に示すように、実施例1のセパレータ2とは形状が異なるセパレータ40を採用している。
【0067】
このスタックでは、1枚の膜電極接合体1及び1枚のセパレータ40からなるユニットは、膜電極接合体1の山1aの表面がセパレータ40の山40aの裏面及び両側面と当接し、膜電極接合体1の谷1bの表面はセパレータ40の谷40bの裏面と間隙を有している。そして、各膜電極接合体1の各谷1bのカソード極4側である裏面は各セパレータ40の各山40aの側壁の表面と当接されている。
【0068】
こうして、このスタックでは、カソード極4側に空気室6a、6bが形成され、アノード極5側に燃料室7a、7bが形成されている。空気室6a、6bの合計の断面積は燃料室7a、7bの合計の断面積よりも大きくなっている。他の構成は実施例1と同様である。
【0069】
このスタックにおいても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。なお、膜電極接合体1の代わりに実施例2の膜電極接合体30を採用することもできる。
【実施例4】
【0070】
実施例4のスタックは、図13及び図14に示すように、実施例1の膜電極接合体1及びセパレータ2とは形状が異なる膜電極接合体50及びセパレータ51を採用している。
【0071】
膜電極接合体50は、図15及び図16に示すように、実施例2で説明した公知の膜電極接合体35を異なる形状に屈曲したものである。この膜電極接合体50は、等脚台形状の山50a及び谷50bが一方向に連続した波板形状に屈曲されている。
【0072】
セパレータ51も、等脚台形状の山51a及び二等辺三角形形状の谷51bが一方向に連続した波板形状に屈曲されている。他の構成は実施例1と同様である。
【0073】
このスタックにおいては、膜電極接合体50の山50a及び谷50b並びにセパレータ51の山51aが等脚台形状であることから、高い剛性を有している。このため、スタックを図示しないハウジングとともにボルトによって締結する際、膜電極接合体50及びセパレータ51に座屈を生じにくい。他の作用効果は実施例1と同様である。なお、膜電極接合体50の代わりに実施例1〜3の膜電極接合体1、30を採用することもできる。
【実施例5】
【0074】
実施例5のスタックは、図17及び図18に示すように、実施例4の膜電極接合体50及びセパレータ51が異なる形状で組み付けられている。
【0075】
このスタックでは、1枚の膜電極接合体50及び1枚のセパレータ51からなるユニットは、膜電極接合体50の山50aの表面がセパレータ51の山50aの裏面と当接し、膜電極接合体50の谷50bの表面はセパレータ51の谷51bを跨いでいる。そして、各膜電極接合体50の各谷50bのカソード極4側である裏面は各セパレータ51の各山51aの表面と当接されている。
【0076】
こうして、このスタックでは、カソード極4側に空気室6a、6bが形成され、アノード極5側に燃料室7が形成されている。空気室6a、6bの合計の断面積は燃料室7の断面積よりも大きくなっている。他の構成は実施例1、4と同様である。
【0077】
このスタックにおいても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例6】
【0078】
実施例6のスタックは、図19に示す膜電極接合体55を採用している。この膜電極接合体55は、図20に分解断面図を示すように、実施例1の膜電極接合体1を異なる形状に屈曲させたものであり、実施例4の膜電極接合体50と同様、等脚台形状の山55a及び谷55bが一方向に連続した波板形状に屈曲されている。他の構成は実施例1、4と同様である。
【0079】
このスタックにおいても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0080】
以上において、本発明を実施例1〜6に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜6に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0081】
例えば、網の代わりに多孔板を用いることができる。また、各セパレータによって各膜電極接合体の形状を保持し、膜電極接合体を網等の形状保持部材によって保持することをやめることも可能である。さらに膜電極接合体やセパレータは、二次元に屈曲されたものに限定されず、三次元に屈曲されたものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、車両等に用いる燃料電池システムに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施例1のスタック及びセルに係り、スタックの拡大断面図である。
【図2】実施例1のスタック及びセルに係り、スタックのより拡大した断面図である。
【図3】実施例1のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の拡大した断面図である。
【図4】実施例1のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の製造方法を示す断面図である。図(A)は一方法を示し、図(B)は他の方法を示している。
【図5】実施例1のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の製造方法を示す断面図である。
【図6】実施例1のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の断面図である。
【図7】実施例1のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の分解断面図である。
【図8】実施例1のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の他の製造方法を示す断面図である。
【図9】実施例2のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の断面図である。
【図10】実施例2のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の分解断面図である。
【図11】実施例3のスタック及びセルに係り、スタックの拡大断面図である。
【図12】実施例3のスタック及びセルに係り、スタックのより拡大した断面図である。
【図13】実施例4のスタック及びセルに係り、スタックの拡大断面図である。
【図14】実施例4のスタック及びセルに係り、スタックのより拡大した断面図である。
【図15】実施例4のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の断面図である。
【図16】実施例4のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の分解断面図である。
【図17】実施例5のスタック及びセルに係り、スタックの拡大断面図である。
【図18】実施例5のスタック及びセルに係り、スタックのより拡大した断面図である。
【図19】実施例6のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の断面図である。
【図20】実施例6のスタック及びセルに係り、膜電極接合体の分解断面図である。
【符号の説明】
【0084】
3、12、21…電解質膜
4、31…カソード極
5、33…アノード極
1、17、30、35、50、55…膜電極接合体
6、6a、6b…空気室
7、7a、7b…燃料室
2、40、51…セパレータ
10…セル
4a、4b、11b、32、34…網(形状保持部材)
4c…カソード拡散層
5c…アノード拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、該電解質膜の一面に接合されて空気が供給されるカソード極と、該電解質膜の他面に接合されて燃料が供給されるアノード極とを有する膜電極接合体と、
該カソード極側に空気室を形成するとともに、該アノード極側に燃料室を形成するように該膜電極接合体を挟持する対をなすセパレータとを備えた燃料電池のセルにおいて、
前記膜電極接合体及び各該セパレータは、前記空気室が前記燃料室よりも大きくなるように、各々の平板材が二次元又は三次元で屈曲されていることを特徴とする燃料電池のセル。
【請求項2】
前記膜電極接合体は、形状を保持する形状保持部材を有する請求項1記載の燃料電池のセル。
【請求項3】
前記電解質膜、前記カソード極及び前記アノード極の少なくとも一つが前記形状保持部材を含む請求項2記載の燃料電池のセル。
【請求項4】
前記形状保持部材は金属製の網又は多孔板からなる請求項2又は3記載の燃料電池のセル。
【請求項5】
前記セパレータは導電性のものであり、
前記カソード極及び前記アノード極の少なくとも一つは、前記電解質側とは逆側に形成されて前記空気又は前記燃料を拡散する拡散層を有し、該拡散層に導電性の前記形状保持部材が一部を露出させて含まれている請求項4記載の燃料電池のセル。
【請求項6】
前記各セパレータが前記膜電極接合体の形状を保持するように形成されている請求項1記載の燃料電池のセル。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のセルを多数積層してなることを特徴とする燃料電池のスタック。
【請求項8】
電解質膜と、該電解質膜の一面に接合されて空気が供給されるカソード極と、該電解質膜の他面に接合されて燃料が供給されるアノード極とを有する複数の膜電極接合体と、
各該膜電極接合体を間に挟んで積層され、個々が各該カソード極側に空気室を形成するとともに、各該アノード極側に燃料室を形成する複数のセパレータとを備えた燃料電池のスタックにおいて、
各前記膜電極接合体及び各前記セパレータは各々の平板材が二次元又は三次元で屈曲され、前記各空気室は前記各燃料室よりも大きいことを特徴とする燃料電池のスタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−87860(P2007−87860A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277606(P2005−277606)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】