説明

燃料電池の製造方法

【課題】 発電時における水素分離膜と電解質膜との界面剥離を抑制することができる燃料電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る燃料電池の製造方法は、水素をプロトンおよび/または水素原子の状態で透過する水素分離膜(12)上にプロトン伝導性を有する電解質膜(14)が設けられた水素分離膜−電解質膜接合体(10)に対し、水素分離膜−電解質膜接合体の発電前に、水素処理を施す水素処理工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池の製造方法によれば、発電前に水素分離膜と電解質膜との間の応力が緩和されていることから、発電時または発電後における水素分離膜と電解質膜との剥離が抑制される。それにより、燃料電池の発電性能低下が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素および酸素を燃料として電気エネルギを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れており、また高いエネルギ効率を実現できることから、今後のエネルギ供給システムとして広く開発が進められてきている。
【0003】
燃料電池のうち固体の電解質を用いたものには、固体高分子型燃料電池、固体酸化物型燃料電池、水素分離膜電池等がある。ここで、水素分離膜電池とは、緻密な水素分離膜を備えた燃料電池である。緻密な水素分離膜は、水素をプロトンおよび/または水素原子の状態で透過する水素透過性金属によって形成される膜である。緻密な水素分離膜は、電解質膜の支持基板としての機能を有するとともに、発電時にはアノードとしての機能も有する。
【0004】
特許文献1には、水素透過時における水素分離金属層の膨張に伴う水素分離金属層と電解質層との層間剥離を抑制するための技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】WO2004−084333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、燃料電池を発電雰囲気にさらした場合に、水素分離金属層と電解質層との間に剥離が発生するおそれがある。
【0007】
本発明は、発電時における水素分離膜と電解質膜との界面剥離を抑制することができる燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る燃料電池の製造方法は、水素をプロトンおよび/または水素原子の状態で透過する水素分離膜上にプロトン伝導性を有する電解質膜が設けられた水素分離膜−電解質膜接合体に対し、水素分離膜−電解質膜接合体の発電前に、水素処理を施す水素処理工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池の製造方法によれば、発電前に水素分離膜と電解質膜との間の応力が緩和されていることから、発電時または発電後における水素分離膜と電解質膜との剥離が抑制される。それにより、燃料電池の発電性能低下が抑制される。
【0009】
上記製造方法において、水素処理とは、水素含有雰囲気において水素分離膜−電解質膜接合体に熱処理を行う処理であってもよい。上記製造方法において、水素処理工程前に、電解質膜の水素分離膜と反対側にカソードを形成する工程をさらに含んでいてもよい。この製造方法によれば、カソードの形成時に水素分離膜−電解質膜接合体に応力がかかっていたとしても、水素処理によってその応力が緩和される。したがって、カソードの形成後に水素処理を行うことによって、水素分離膜と電解質膜との間の応力がより緩和される。
【0010】
上記製造方法において、水素分離膜は、パラジウムからなってもよい。上記製造方法において、電解質膜は、SrZn(1−X)Inからなってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発電時における水素分離膜と電解質膜との界面剥離を抑制することができる燃料電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池の製造方法について説明する。図1(a)〜図1(c)は、第1の実施の形態に係る燃料電池の製造方法を示すフロー図である。まず、図1(a)に示すように、水素分離膜−電解質膜接合体10を準備する。水素分離膜−電解質膜接合体10は、水素をプロトンおよび/または水素原子の状態で透過する水素透過性金属からなる水素分離膜12上にプロトン伝導性を有する電解質膜14が設けられたものである。
【0014】
水素分離膜12を構成する水素透過性金属として、例えば、Pd(パラジウム)、V(バナジウム)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)等の金属、またはこれらの合金等を用いることができる。また、これらの水素透過性金属層の2面のうち電解質膜14が設けられる側の面上に、水素解離能を有するPd、Pd合金等の膜が形成されたものを水素分離膜12として用いてもよい。水素分離膜12の膜厚は、特に限定されないが、例えば5μm〜100μm程度である。水素分離膜12は、自立膜であってもよく、多孔質状の卑金属板によって支持されていてもよい。
【0015】
電解質膜14として、プロトン伝導性電解質が用いられる。例えば、ペロブスカイト型電解質(SrZn(1−X)In等)、パイロクロア型電解質(LnZr(Ln:La(ランタン)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)等))、モナザイト型希土類オルトリン酸塩電解質(LnPO(Ln:La、Pr(プラセオジム)、Nd、Sm等))、ゼニタイプ型希土類オルトリン酸塩電解質(LnPO(Ln:La、Pr、Nd、Sm等))、希土類メタリン酸塩電解質(LnP(Ln:La、Pr、Nd、Sm等))、希土類オキシリン酸塩電解質(Ln18(Ln:La、Pr、Nd、Sm等))等を電解質膜14に用いることができる。電解質膜14の膜厚は、特に限定されないが、例えば1μm程度である。
【0016】
次いで、図1(b)に示すように、図1(a)で準備された水素分離膜−電解質膜接合体10に水素処理を施す。水素処理とは、水素含有雰囲気において水素分離膜−電解質膜接合体10に熱処理を行う処理のことをいう。この場合の水素含有雰囲気は、特に限定されるものではないが、例えば50kPa〜120kPa程度の水素分圧を有する。熱処理時の水素分離膜−電解質膜接合体10の温度は、特に限定されるものではないが、燃料電池として発電する場合の温度(例えば400℃程度)を含む所定温度範囲内であってもよい。一例として、水素分離膜−電解質膜接合体10の温度を350℃〜500℃程度に維持してもよい。なお、水素処理時間は、特に限定されるものではないが、0.2hr〜2.0hr程度であってもよい。
【0017】
水素処理が実行されると、水素雰囲気が作用して電解質膜14に応力がかかる。一方、水素雰囲気中においては、時間経過とともに、水素分離膜12の水素透過性金属が動きやすくなる。それにより、水素分離膜12と電解質膜14との間の応力が緩和される。
【0018】
続いて、図1(c)に示すように、水素分離膜−電解質膜接合体10の電解質膜14上にカソード20を形成する。カソード20として、例えば、La0.6Sr0.4CoO、La0.5Sr0.5MnO、La0.5Sr0.5FeO等のセラミックスを用いることができる。カソード20は、例えば、PVD等により形成することができる。
【0019】
以上の方法で、燃料電池30は製造される。なお、燃料電池30において、水素分離膜12は、電解質膜14を支持および補強する支持体として機能するとともに、アノードとしても機能する。また、複数の燃料電池30を積層して、燃料電池スタックを構成してもよい。
【0020】
燃料電池30は、以下の作用によって発電を行う。まず、水素を含む燃料ガスが水素分離膜12に供給される。燃料ガス中の水素はプロトンおよび/または水素原子の状態で水素分離膜12を透過して電解質膜14に到達する。電解質膜14に到達した水素原子は、プロトンおよび電子に解離する。プロトンは、電解質膜14を伝導してカソード20に到達する。電子は、水素分離膜12を伝導して、水素分離膜12とモータ、補機等の負荷(図示せず)とカソード20とを電気的に接続する外部回路(図示せず)を通って、カソード20側へ供給される。
【0021】
一方、酸素を含む酸化剤ガスは、カソード20に供給される。カソード20においては、酸化剤ガス中の酸素と電解質膜14を伝導してきたプロトンと外部回路を通って供給された電子とから、水が発生する。以上の作用により、燃料電池30による発電が行われる。なお、発電時において燃料電池30は、反応熱によって発熱する。その結果、燃料電池30は、400℃程度の温度になる。
【0022】
本実施の形態に係る燃料電池の製造方法によれば、発電前に水素分離膜12と電解質膜14との間の応力が緩和されていることから、発電時または発電後における水素分離膜12と電解質膜14との剥離が抑制される。それにより、燃料電池30の発電性能低下が抑制される。
【0023】
なお、発電時にも水素分離膜−電解質膜接合体10に水素雰囲気が作用する。したがって、あらかじめ水素処理を行わなくても、発電時に水素分離膜12と電解質膜14との間の応力を緩和させることも考えられる。しかしながら、発電時には、水素に加えて酸素が供給されることから、電解質膜14に応力がかかった場合に水素分離膜12と電解質膜14との間に酸素が入り込むおそれがある。この場合、水素と酸素との燃焼により、水素分離膜12と電解質膜14との剥離を誘発するおそれがある。
【0024】
これに比較して、本実施の形態に係る製造方法においては、カソード20にエアが供給されない状態で水素処理が行われる。したがって、水素と酸素との燃焼の影響を受けずに済む。その結果、水素分離膜12と電解質膜14との剥離を抑制することができる。
【0025】
なお、電解質膜14を成膜する前の水素分離膜12に、水素透過処理をあらかじめ実施しておいてもよい。この場合、水素分離膜12をあらかじめ変形させた後に電解質膜14を成膜することができる。この場合、燃料電池30の発電時または発電後における水素分離膜12と電解質膜14との剥離がより抑制される。
【0026】
ここで、水素分離膜−電解質膜接合体10に水素処理を行わなくても、電解質膜14の成膜前の水素分離膜12に水素透過処理を行うだけで水素分離膜12と電解質膜14との剥離が十分に抑制されるとも考えられる。しかしながら、電解質膜14の成膜時には雰囲気、温度等の影響により水素分離膜12中の水素が除去されてしまうことから、水素分離膜−電解質膜接合体10を水素雰囲気にさらすと、再び水素分離膜12が変形するおそれがある。この場合、水素分離膜12と電解質膜14とが剥離するおそれがある。したがって、本実施の形態のように、水素分離膜−電解質膜接合体10に水素処理を実施することによって、水素分離膜12と電解質膜14との剥離をより抑制することができる。
【0027】
(第2の実施の形態)
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池の製造方法について説明する。図2(a)および図2(b)は、第2の実施の形態に係る燃料電池の製造方法を示すフロー図である。まず、図2(a)に示すように、燃料電池30aを準備する。燃料電池30aは、水素分離膜−電解質膜接合体10の電解質膜14上にカソード20が形成された水素分離膜電池である。
【0028】
次いで、図2(b)に示すように、燃料電池30aに水素処理が実行される。水素処理は、図1(b)で説明した水素処理と同様の方法で実行される。
【0029】
本実施の形態に係る燃料電池の製造方法においても、水素分離膜12と電解質膜14との間の応力が緩和される。それにより、燃料電池30aの発電時または発電後における水素分離膜12と電解質膜14との剥離が抑制される。また、本実施の形態においては、カソード20の成膜時に水素分離膜−電解質膜接合体10に応力がかかっていたとしても、水素処理によってその応力が緩和される。したがって、カソード20の成膜後に水素処理を行うことによって、水素分離膜12と電解質膜14との間の応力がより緩和される。
【実施例】
【0030】
以下、上記実施の形態に係る製造方法で製造された燃料電池の特性を調べた。
【0031】
(実施例1)
実施例1においては、第2の実施の形態に係る製造方法に従って、燃料電池30aを作製した。水素分離膜12として、パラジウムを用いた。電解質膜14として、SrZn(1−X)Inを用いた。カソード20として、La0.6Sr0.4CoOを用いた。まず、燃料電池30aをエア雰囲気で400℃まで昇温させ、50kPa〜120kPaの水素雰囲気で0.5時間水素処理した。その後、水素分離膜12を水素雰囲気にさらし、カソード20をエアにさらした。
【0032】
(比較例1)
比較例1においては、燃料電池30aに対して水素処理を実施しなかった。その他は、実施例1と同様である。
【0033】
(分析)
図3(a)は実施例1に係る燃料電池を水素分離膜側からみた写真である。図3(b)は、比較例1に係る燃料電池を水素分離膜側からみた写真である。図3(b)に示すように、比較例1に係る燃料電池においては、剥離が多数発生した。これに対して、実施例1に係る燃料電池においては、剥離が少なかった。したがって、燃料電池を発電雰囲気にさらす前に水素処理を施すことによって、剥離が抑制されることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1(a)〜図1(c)は、第1の実施の形態に係る燃料電池の製造方法を示すフロー図である。
【図2】図2(a)および図2(b)は、第2の実施の形態に係る燃料電池の製造方法を示すフロー図である。
【図3】図3(a)は実施例1に係る燃料電池を水素分離膜側からみた写真である。図3(b)は、比較例1に係る燃料電池を水素分離膜側からみた写真である。
【符号の説明】
【0035】
10 水素分離膜−電解質膜接合体
12 水素分離膜
14 電解質膜
20 カソード
30 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素をプロトンおよび/または水素原子の状態で透過する水素分離膜上にプロトン伝導性を有する電解質膜が設けられた水素分離膜−電解質膜接合体に対し、前記水素分離膜−電解質膜接合体の発電前に、水素処理を施す水素処理工程を含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項2】
前記水素処理とは、水素含有雰囲気において前記水素分離膜−電解質膜接合体に熱処理を行う処理であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池の製造方法。
【請求項3】
前記水素処理工程前に、前記電解質膜の前記水素分離膜と反対側にカソードを形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池の製造方法。
【請求項4】
前記水素分離膜は、パラジウムからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池の製造方法。
【請求項5】
前記電解質膜は、SrZn(1−X)Inからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−231104(P2009−231104A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76100(P2008−76100)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】