説明

燃料電池の製造方法

【課題】溶出しやすいルテニウムをあらかじめ除去して、発電性能が高く、性能劣化が抑制された燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池の製造方法は、(i)アノード触媒を、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂の存在下で、酸を含む溶液に浸漬する工程を含む。前記酸を含む溶液のプロトン濃度は、0.1mol/L以上、2mol/L以下である。本発明において、アノード触媒は、白金とルテニウムとの合金、白金単体とルテニウム単体との混合物、または白金単体と白金ルテニウム合金とルテニウム酸化物との混合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の改良に関し、より詳しくは触媒層の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、使用する電解質の種類によって、燐酸型、アルカリ型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子型等に分類される。これらの中で、固体高分子型燃料電池は、低温動作が可能で、出力密度が高いため、車載用電源、家庭用コージェネレーションシステム等において実用化されつつある。
【0003】
燃料電池は、二次電池のように充電を必要とせず、燃料を補充するだけで発電することが可能である。このため、近年では、ノート型パソコン、携帯電話、PDAなどの携帯機器の利便性を向上させるために、燃料電池が将来的な電源として期待されている。このようなポータブル機器用の電源に用いられる燃料電池としては、動作温度の低い固体高分子型燃料電池(以下PEFCと記す)が注目されており、中でも、直接燃料酸化型燃料電池が、最も期待されている。直接燃料酸化型燃料電池は、常温で液体の燃料を、水素に改質することなく、電極において直接酸化して電気エネルギーを取り出すことができ、さらに、改質器を必要としないため、小型化が容易であるからである。
【0004】
直接燃料酸化型燃料電池の燃料として、低分子量のアルコールまたはエーテル類を用いることが検討されている。なかでも、エネルギー効率や出力を高められるため、メタノールが燃料として有望視されている。つまり、直接燃料酸化型燃料電池の中では、メタノールを燃料としたダイレクトメタノール型燃料電池(以下DMFCと記す)が最も有望視されている。
【0005】
DMFCを含むPEFCは、基本構成である単位セルを少なくとも1つ含む。単位セルは、電解質膜を介して一対の触媒層を対向させ、さらに触媒層の電解質膜と接している面とは反対側の面に、それぞれ、導電性撥水層、ガス拡散層およびセパレータを、順に積層することにより形成される。電解質膜と一対の触媒層からなる構成をCCM(Catalyst Coated Membrane)と称し、電解質膜、および電解質膜を挟み込むように配置されたアノードとカソードからなる構成をMEA(Membrane Electrode Assembly)と称する。アノードおよびカソードは、触媒層と導電性撥水層とガス拡散層からなる。なお、アノードには燃料が供給され、カソードには、酸素のような酸化剤が供給される。
【0006】
アノードにはアノードセパレータが接しており、カソードにはカソードセパレータが接している。アノードセパレータには、アノードに燃料を供給するための燃料流路が設けられ、カソードセパレータには、カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路が設けられている。
【0007】
DMFCのアノードおよびカソードでの反応は、それぞれ反応式(1)および(2)で表される。カソードに導入される酸素は、空気から取り入れることが一般的である。
CH3OH+H2O→CO2+6H++6e-・・・(1)
3/2O2+6H++6e-→3H2O ・・・(2)
【0008】
なお、燃料電池を構成する単位セルの発電電圧は1V以下であり、単位セルから発生する電圧で機器を駆動するのは困難であることから、複数の単位セルを直列に積層して、高い電圧を得ることが一般的である。このような単位セルの積層体はスタックと呼ばれる。
【0009】
アノードの触媒層にはアノード触媒が含まれ、カソードの触媒層にはカソード触媒が含まれる。DMFCにおいて、アノード触媒としては、白金とルテニウムの合金が用いられ、カソード触媒としては、白金が用いられるのが一般的である。さらには、触媒を微粒子化させて、その活性表面積を増加させることも行われている。この場合、触媒微粒子は、カーボンブラックのような担体に担持させることが多い。
なお、アノード触媒に関し、白金とルテニウムとの原子比が1:1付近の白金−ルテニウム合金が、最も活性が高く、性能が優れていることが知られている。
【0010】
しかし、従来から用いられている電極触媒は、DMFCの長期使用時、起動停止などの非定常動作、使用環境の変化等によって、性能が劣化することが知られている。そのメカニズムについて説明する。アノード触媒を構成する元素である白金は、アノードがさらされる0〜0.5V(水素標準電極基準)の電位範囲において、強酸性環境下であっても比較的安定である。一方、ルテニウムは、0.45V付近で溶解することが知られている。白金とルテニウムの合金化が進むほど、ルテニウムの溶解(溶出)が低減されることが知られているが、従来から用いられている触媒において、ルテニウムの溶解を完全に抑制することはできていない。ルテニウムの溶出は、アノード触媒における白金とルテニウムの原子比を変化させるため、アノード触媒の性能を低下させる。
さらには、溶出したルテニウムイオンが電解質膜を通過して、カソードに到達し、カソード触媒の酸素還元活性を低下させる。その結果、発電性能が低下する。このようなルテニウムのアノードからカソードへの移動現象をルテニウムクロスオーバーと呼び、カソード触媒にルテニウムが混入することによるカソード触媒の性能劣化現象をルテニウム被毒と呼んでいる。
【0011】
非特許文献1には、このようなルテニウムクロスオーバーを低減させるために、3つの方法が提案されている。第1の方法は、アノード触媒を酸で処理する方法である。第2の方法は、アノード触媒層を形成した電解質膜を酸で処理する方法である。第3の方法は、アノード触媒層を電解質膜へホットプレス法によって接合する際に、アノード触媒層を熱処理する方法である。第1の方法および第2の方法は、アノード触媒を酸に浸漬することで、溶解しやすいルテニウムをあらかじめ除去し、DMFCを組み立てた後のルテニウムの溶出量を低減させる試みである。
【非特許文献1】DOE HYDROGEN PROGRAM FY2005 PROGRESS REPORT
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1に、アノード触媒を酸で処理することによって、溶解しやすいルテニウムを除去することが提案されているが、具体的な処理方法および手順については開示されていない。また、一般的に、酸によって金属を溶解させようとする場合には、酸強度の高い、すなわちプロトン濃度の大きい酸を使用することが効率的である。しかし、酸強度の高い酸を使用することは、作業者の不安全リスクがあり、安全対策のために、製造コストが上昇することが懸念される。さらに、高濃度の酸を使用した場合は、プロトンのカウンターイオンであるアニオンが触媒表面または触媒層中に大量に存在する。このため、前記カウンターイオンを十分に除去するのは困難である。なお、前記カウンターイオンが十分に除去できない場合、不純物混入による触媒活性低下または電極の機能低下を招く可能性をある。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するものであり、発電性能が高く、性能劣化が抑制された燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、アノード触媒を含むアノード触媒層を備えるアノード、カソード触媒を含むカソード触媒層を備えるカソード、および前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜を具備する少なくとも1つの単位セルを有する燃料電池の製造方法であって、
(i)前記アノード触媒を、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂の存在下で、酸を含む溶液に浸漬する工程
を含み、前記酸を含む溶液のプロトン濃度が0.1mol/L以上、2mol/L以下である、燃料電池の製造方法に関する。前記アノード触媒は、白金とルテニウムとの合金、または白金単体とルテニウム単体との混合物であることが好ましい。
【0015】
本発明の好ましい一実施形態において、前記工程(i)は、
(i−A)前記アノード触媒および前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂を、前記酸を含む溶液と混合する工程、および
(i−B)前記工程(i−A)で得られた混合物から、固形物をろ別する工程
を含む。
【0016】
このとき、前記燃料電池の製造方法は、(ii)前記ろ別された固形物から、前記酸に由来するアニオンを除去する工程を含んでもよい。前記酸が硫酸である場合、前記酸に由来するアニオンを除去する工程(ii)は、水洗工程を含むことが好ましい。
【0017】
前記工程(i)または工程(ii)に供された後の前記アノード触媒を、前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂をアノード触媒1gあたり、0.1g以上含み、かつ工程(i)で用いた酸に由来するプロトンを0.1mol/L以上、2mol/L以下の濃度で含む混合物に浸漬したときに、前記アノード触媒からのルテニウムの1時間あたりの溶出量は、前記アノード触媒1mgあたり、1μg/h以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の別の好ましい実施形態において、前記工程(i)は、
(I−a)前記アノード触媒と前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂とを含む触媒インクを調製する工程、
(I−b)前記触媒インクを用いて、アノード触媒層を作製する工程、および
(I−c)前記アノード触媒層を、前記酸を含む溶液に浸漬する工程を含む。
【0019】
このとき、前記燃料電池の製造方法は、(ii)前記浸漬後のアノード触媒層から、前記酸に由来するアニオンを除去する工程を含んでもよい。前記酸が硫酸である場合、前記酸に由来するアニオンを除去する工程は、水洗工程を含むことが好ましい。
【0020】
前記工程(i)または工程(ii)に供された後の前記アノード触媒層を、前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂をアノード触媒1gあたり、0.1g以上含み、かつ工程(i)で用いた酸に由来するプロトンを0.1mol/L以上、2mol/L以下の濃度で含む混合物に浸漬したときに、前記アノード触媒層に含まれるアノード触媒からのルテニウムの1時間あたりの溶出量は、前記アノード触媒1mgあたり、1μg/h以下であることが好ましい。
【0021】
前記酸は、炭素数2個以下の有機酸であることが好ましい。前記炭素数2個以下の有機酸は、蟻酸であることがさらに好ましい。
【0022】
前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂は、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含むことが好ましい。
【0023】
なお、前記酸を含む溶液のプロトン濃度は、アノード触媒およびイオン交換樹脂が浸漬される前の前記酸を含む溶液のプロトン濃度のことをいう。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、溶出しやすいルテニウムを、アノード触媒から予め除去することができるため、燃料電池の組立後に、アノード触媒からのルテニウムの溶出を低減することができる。よって、本発明により、長期間にわたって優れた発電性能を発揮できる燃料電池を提供することができる。つまり、本発明により、発電性能が高く、性能劣化が抑制された燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1に、本発明により処理されたアノード触媒を含むダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)の構成の一例を示す。図1の燃料電池は、1つの単位セル10から構成されている。単位セル10は、アノード触媒を含むアノード触媒層を備えるアノード15、カソード触媒を含むカソード触媒層を備えるカソード19、およびアノード15とカソード19との間に配置された電解質膜11を具備する。具体的には、単位セル10において、アノード15は、電解質膜11に接するアノード触媒層12、アノード触媒層12の上に設けられたアノード導電性撥水層13、およびアノード導電性撥水層13の上に設けられたアノードガス拡散層14を備える。カソード19は、電解質膜11に接するカソード触媒層16、カソード触媒層16の上に設けられたカソード導電性撥水層17、およびカソード導電性撥水層17の上に設けられたカソードガス拡散層18を備える。
【0026】
電解質膜11、アノード15およびカソード19から構成されるMEAは、アノードセパレータ20およびカソードセパレータ21によって挟まれている。アノードセパレータ20のアノード15に接する面には、燃料をアノード15に供給するための燃料流路20aが設けられている。カソードセパレータ21のカソード19に接する面には、酸化剤をカソード19に供給するための酸化剤流路21aが設けられている。
【0027】
電解質膜11は、プロトン伝導性の電解質からなる膜であればよい。例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(例えば、Dupont社のNafion(商品名))からなる膜、無機物膜と有機物膜とを含む複合膜、複数の有機物膜を含む複合膜、およびフッ素を含まない炭化水素系ポリマーからなる膜などを用いることができる。電解質膜11は、燃料であるメタノールのクロスオーバーを低減する効果を有することが好ましい。
【0028】
アノード導電性撥水層13およびカソード導電性撥水層17は、例えば、以下のようにして作製することができる。カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラックなど)、黒鉛粉末、多孔質金属粉末などの導電性多孔質層を形成することができる材料と、撥水性材料(PTFEなどの樹脂)とを溶媒中で攪拌混合してインクを調製する。前記インクを、表面が平滑なシート(PTFEなど)の上に、例えばドクターブレードなどで塗布した、乾燥する。こうして、導電性撥水層を得ることができる。
【0029】
アノードガス拡散層14およびカソードガス拡散層18としては、一般的に、カーボン繊維からなるカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布が用いられる。
【0030】
なお、導電性撥水層は、ガス拡散層の上に直接形成してもよい。
【0031】
アノードセパレータ20は、黒鉛などのカーボン材料を含む板状材料に、燃料流路20aを切削加工などによって形成することにより得ることができる。あるいは、アノードセパレータ20は、射出成型、圧縮成型などを用いる金型加工によって得ることもできる。カソードセパレータ21も同様にして得ることができる。
【0032】
図1の単位セル10においては、アノードセパレータ20およびカソードセパレータ21の外側に、それぞれ端板22および23が配置されている。2枚の端板22および23をボルトおよびバネ(図示せず)を用いて締結することにより、MEAと2枚のセパレータ20および21とに締結圧を印加することができる。
MEAにおいて、各構成要素は例えばホットプレス等により接合されているため、各要素間の接合性は高い。一方、MEAとセパレータ20および21とは接触しているのみであるため、MEAとセパレータとの接合性はあまり高くない。そこで、MEAとセパレータ20および21とを、その積層方向に加圧締結することにより、MEAとセパレータ20および21との接触抵抗を低減させている。なお、複数の単位セルの積層体を締結する場合も、上記と同様である。
【0033】
単位セル10では、電解質膜11とアノード触媒層12とカソード触媒層16とから構成されるCCMが発電を担う。アノード導電性撥水層13およびアノードガス拡散層14が、アノード15における、供給された燃料の均一な分散、および生成物である二酸化炭素の円滑な排出を担う。同様に、カソード導電性撥水層17およびカソードガス拡散層18が、カソード19における、供給された酸化剤の均一な分散、および生成物である水の円滑な排出を担う。
【0034】
アノード触媒層12は、上記式(1)で表される電極反応を促進するためのアノード触媒と、アノード触媒層12のイオン伝導性を確保するための高分子電解質とを含む。同様に、カソード触媒層16は、上記式(2)で表される電極反応を促進するためのカソード触媒と、カソード触媒層16のイオン伝導性を確保するための高分子電解質とを含む。
【0035】
現在、主に開発されているDMFCの電解質膜11はプロトン伝導タイプである。よって、アノード触媒層12およびカソード触媒層16に使用される高分子電解質も、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂である。
【0036】
アノード触媒層12に含まれるアノード触媒には、上記のように、白金とルテニウムの合金が用いられることが一般的であり、白金とルテニウムとの原子比は1:1であることが好ましい。なお、実際には、白金とルテニウムとの合金化の度合いは様々であり、部分的には、白金とルテニウムの混合物である場合が多い。
または、アノード触媒は、白金単体とルテニウム単体との混合物であってもよい。
あるいは、白金単体と白金ルテニウム合金とルテニウム酸化物との混合物を、アノード触媒として用いることもできる。なお、前記白金単体と白金ルテニウム合金とルテニウム酸化物との混合物は、一部が酸化されてルテニウム酸化物となった白金単体と白金ルテニウム合金との混合物であってもよい。
【0037】
カソード触媒層16に含まれるカソード触媒には、白金単体、または白金と遷移金属との合金が用いられている、前記遷移金属には、コバルト、鉄などが用いられている。これらの触媒は、微粉末状で使用される場合もあれば、カーボンブラック粉末などの電子導電性物質に担持された状態で用いられる場合もある。
【0038】
触媒層は、当該分野で公知の方法を用いて作製することができる。具体的には、まず、触媒粉末と高分子電解質を所定の分散媒に分散させた分散液を、水、有機溶媒、または水と有機溶媒との混合溶媒中に、混合分散させて、インクを作製する。次に、そのインクを電解質膜に塗布し、乾燥することにより、触媒層を形成することができる。または、前記インクを樹脂シート上に塗布し乾燥して、触媒層を得、得られた触媒層を電解質膜の上に配置し、触媒層を、ホットプレスによって電解質膜に転写してもよい。
【0039】
前記インクを電解質膜または樹脂シートに塗布する方法としては、スプレー法、スクリーン印刷法が挙げられる。また、前記インクを、電解質膜または樹脂シートの上に、所定の間隔で塗布するスキージ法によっても、前記インクの塗布を行うことができる。
【0040】
上記のように、アノード触媒がルテニウムを含む場合、ルテニウムがアノード触媒から溶出することによるアノード触媒の劣化、さらには溶出したルテニウムがカソードに移動することによるカソード触媒の劣化が生じる。そこで、本発明は、アノード触媒を予め処理することにより、燃料電池の組立後に、アノード触媒からルテニウムが溶出することを抑制している。
【0041】
具体的には、本発明の燃料電池の製造方法は、(i)アノード触媒を、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂の存在下で、酸を含む溶液に浸漬する工程を含む。前記酸を含む溶液のプロトン濃度は、0.1mol/L以上、2mol/L以下である。つまり、本発明においては、アノード触媒を、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂の存在下で、プロトン濃度が0.1mol/L以上、2mol/L以下の酸溶液に浸漬することにより、アノード触媒を処理している。
前記工程(i)は、アノード触媒層を形成する前に行ってもよいし、アノード触媒層を形成した後に行ってもよい。
以下、本発明を具体的に説明する。
【0042】
(実施の形態1)
本実施形態においては、アノード触媒層を形成する前に、前記工程(i)を行う場合について説明する。
本実施形態において、前記工程(i)は、
(i−A)アノード触媒およびプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂を、酸を含む溶液と混合する工程、および
(i−B)工程(i−A)で得られた混合物から、固形物をろ別する工程
を含む。前記酸を含む溶液に含まれるプロトン濃度は、0.1mol/L以上、2mol/L以下である。
【0043】
前記工程(i−A)において、アノード触媒とプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂とを、前記酸を含む溶液と直接混合してもよい。または、アノード触媒とプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂を含むインクを、前記酸を含む溶液と混合してもよい。なお、いずれの場合においても、工程(i−B)で得られる固形物は、アノード触媒とイオン交換樹脂との混合物である。
【0044】
工程(i−A)において、アノード触媒とプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂を含むインクと、前記酸を含む溶液とが混合される場合、酸を含む溶液が、触媒インクよりも大過剰であることが好ましい。つまり、アノード触媒の量に比べて、前記酸を含む溶液の量を大過剰とすることが好ましい。
例えば、アノード触媒の種類および酸を含む溶液の種類にもよるが、前記インクの重量に対する前記酸を含む溶液の重量の比を16以上とすることが好ましい。具体的には、アノード触媒50mgあたり、プロトン濃度が2Mの溶液の量を8g以上とすることが好ましい。これにより、前記インクと前記酸を含む溶液と混合物におけるプロトン濃度が安定し、アノード触媒からのルテニウムの溶解が速やかに進むと考えられるからである。なお、この場合、前記インクと前記酸を含む溶液との混合物のプロトン濃度は、ほぼ0.1mol/L以上、2mol/L以下の範囲内にあると考えられる。
【0045】
本実施形態において、アノード触媒層は、ろ別された固形物を用いて作製される。上記のように、固形物を再び所定の分散媒に分散させて、インクを作製し、得られたインクを電解質膜に塗布し、乾燥することにより、アノード触媒層を作製することができる。または、得られたインクを樹脂シート上に塗布し、乾燥して、アノード触媒層を得、得られたアノード触媒層をホットプレスによって電解質膜に転写してもよい。
あるいは、得られた固形物を電解質膜上に均一に塗布し、固形物を電解質膜に直接ホットプレスすることによって、電解質膜上にアノード触媒層を形成してもよい。
【0046】
本発明においては、酸を含む溶液のプロトン濃度を0.1mol/L以上、2mol/L以下とすることにより、酸を含む溶液における酸強度をある程度確保することができる。さらに、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂が含まれることにより、アノード触媒の近傍に、プロトンが放出されやすくなる。このため、アノード触媒近傍において、酸強度が高くなる。その結果、アノード触媒に含まれるルテニウムを、アノード触媒から効率的に除去できると考えられる。
【0047】
酸を含む溶液のプロトン濃度が0.1mol/Lよりも小さいと、アノード触媒に含まれるルテニウムを、アノード触媒から効率的に除去することが困難になる可能性がある。プロトン濃度が2mol/Lより大きいと、作業安全性を確保するのが困難になることがある。
【0048】
アノード触媒と混合されるプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂の量は、アノード触媒の量に応じて、適宜調節される。なお、アノード触媒の量に比べて、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂の量が多いと、ろ別後の固形物中に存在するイオン交換樹脂の量が、発電特性から鑑みた最適量を上回り、適正な触媒とイオン交換樹脂との組成比が得られなくなるおそれがある。
例えば、前記イオン交換樹脂の量は、アノード触媒1gあたり0.1g以上とすることができる。イオン交換樹脂の量の上限値は、上記のように、アノード触媒の量に応じて、適宜調節される。
【0049】
ただし、前記工程(i)によって得られる固形物におけるアノード触媒とイオン交換樹脂との比率は、最も性能がよい電極が得られるときの組成比と必ずしも合致しないことがある。よって、必要に応じて、前記固形物または前記固形物を含む分散液に必要な量のイオン交換樹脂を追加し、得られた混合物を用いて、アノード触媒層を作製することが好ましい。
【0050】
アノード触媒を酸を含む溶液に浸しておく時間は、常温で、6時間以上であることが好ましい。6時間以上の浸漬時間であれば、アノード触媒の物性にもよるが、酸が、アノード触媒粒子の細孔内に十分に浸透し、ルテニウムを溶出させ、かつ前記ルテニウムの溶出を十分に収束させることができる。
ここで、常温とは、10〜50℃の範囲のことをいう。
【0051】
前記溶液に含まれる酸としては、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸、および炭素数2個以下の有機酸を用いることができる。前記炭素数2個以下の有機酸としては、蟻酸、酢酸などが挙げられる。
【0052】
本発明の製造方法は、工程(i−B)の後に、(ii)ろ別された固形物から、前記酸に由来するアニオンを除去する工程を含むことがさらに好ましい。
特に、前記酸として、硫酸、硝酸などの無機酸を用いる場合、前記工程(ii)の前記酸に由来するアニオンを除去する工程は、水洗工程を含むことが好ましい。
一般的に、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸を構成するアニオンは、アノード触媒の表面に吸着するなどして、アノード触媒の触媒活性を低下させるおそれがある。従って、ろ別された固形物から、アニオンを可能な限り除去することが好ましい。
具体的には、前記固形物を、イオン交換水に数時間浸漬し、次いで、ろ過する工程を複数回繰り返すことによって、前記アニオンを除去することができる。
【0053】
なお、前記酸として無機酸を用いる場合、硫酸を用いることが好ましい。硫酸は、塩酸などのハロゲン元素を含有する酸に比べると、アニオンが残留した場合の触媒活性の低下が小さく、かつ安価で入手が容易だからである。
また、硫酸は2価の酸であり、電離度がほぼ1である。このため、前記酸として硫酸を用いる場合、プロトン濃度が0.1mol/L以上2mol/L以下である、前記酸を含む溶液としては、濃度が0.05mol/L以上1mol/L以下の希硫酸水溶液を用いることができる。硫酸を用いる場合、前記酸を含む溶液として、希硫酸水溶液を用い、濃硫酸を用いる必要がないため、前記酸を含む溶液が人体に接触した場合の危険性を低減できる。さらには、除去すべきアニオンである硫酸イオンの残留量も低減できる。よって、前記水洗工程も、比較的簡略化できる。
【0054】
中でも、前記酸は、蟻酸、酢酸などのような炭素数2個以下の有機酸であることが好ましい。炭素数2個以下の有機酸は、炭素数2個以下の有機酸を含む溶液で処理された後の固形物を緩やかに乾燥させて、酸素に緩やかに接触させることにより、酸化して除去することができる。または、前記固形物を用いて、アノード触媒層を形成した後に、アノード触媒層に酸素を供給することで、炭素数2個以下の有機酸を触媒酸化させることもできる。このように、炭素数2個以下の有機酸を用いる場合、アニオンの残留という問題がほとんど生じないため、アニオンの除去工程を省略できる場合がある。
ただし、炭素数2個以下の有機酸を急に酸素に接触させると、酸化反応による急激な発熱により、イオン交換樹脂が熱的なダメージを受けることがある。
【0055】
炭素数2個以下の有機酸の中でも、電離度が高いため、蟻酸が特に好ましい。
【0056】
本発明において、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂をアノード触媒1gに対して、0.1g以上含み、かつ工程(i)で用いた酸に由来するプロトンを0.1mol/L以上、2mol/L以下の濃度で含む混合物に、前記工程(i)または工程(ii)に供された後のアノード触媒を浸漬したときに、前記アノード触媒からのルテニウムの1時間あたりの溶出量を、アノード触媒1mgあたり、1μg/h以下とすることができる。
つまり、前記工程(i)または工程(ii)に供された後のアノード触媒を、所定の混合物に浸したときに、アノード触媒からのルテニウムの1時間あたりの溶出量を、アノード触媒1mgあたり、1μg/h以下とすることができる。前記所定の混合物は、工程(i)で用いた酸を含む溶液と、工程(i)で用いたイオン交換樹脂とを含む。前記イオン交換樹脂の量は、アノード触媒1gあたり0.1g以上である。
【0057】
上記のように、アノード触媒と混合されるイオン交換樹脂の量(つまり、アノード触媒層に含まれるイオン交換樹脂の量)は、アノード触媒1gあたり0.1g以上であることが好ましい。このため、前記所定の混合物に含まれるイオン交換樹脂の量も、アノード触媒1gあたり0.1g以上であることが好ましい。
なお、アノード触媒インクまたはアノード触媒層に含まれるイオン交換樹脂の量の割合と、前記所定の混合物に含まれるイオン交換樹脂の量の割合とは、異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0058】
本発明においては、アノード触媒からのルテニウムの溶出量がアノード触媒1mgあたり、1μg/h以下であるアノード触媒を得ることができる。このようなアノード触媒を用いることにより、発電性能が高く、性能劣化が抑制された燃料電池を得ることができる。
【0059】
なお、本実施形態においては、
(iii)工程(i)または工程(ii)で得られた固形物を用いて、アノード触媒層を形成する工程、および
(iv)前記アノード触媒層を用いて、燃料電池を作製する工程
により、燃料電池を作製することができる。ここで、工程(iv)は、当該分野で公知の方法を含むことができる。
【0060】
(実施の形態2)
本実施形態においては、前記工程(i)がアノード触媒層を形成する工程を含む場合、つまり、アノード触媒層を形成した後に、前記工程(i)を行う場合について説明する。
【0061】
本実施形態においては、まず、アノード触媒層が形成される。アノード触媒層は、上記のようにして作製することができる。具体的には、アノード触媒層の作製方法は、
(I−a)アノード触媒とプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂とを含む触媒インクを調製する工程、および
(I−b)前記触媒インクを用いて、アノード触媒層を作製する工程を含む。
【0062】
本実施形態では、前記工程(i)が、上記のようにして作製したアノード触媒層を、酸を含む溶液に浸漬する工程(I−c)を含む。例えば、電解質膜と、その上に形成されたアノード触媒層およびカソード触媒層とからなるCCMを、酸を含む溶液に浸漬することにより、アノード触媒層を、酸を含む溶液に浸漬することができる。このとき、アノード触媒から溶出したルテニウムイオンがカソード触媒層中に取り込まれると、カソード触媒である白金上または近傍に析出し、カソード触媒の活性を低下させる可能性がある。よって、アノード触媒層のみが形成された電解質膜を、酸を含む溶液に浸漬することが好ましい。
または、CCMを、電解質膜のアノード触媒層が形成された面が酸を含む溶液に接するように、酸を含む溶液の表面に浮遊させて、アノード触媒層が、酸を含む溶液に浸漬されるようにしてもよい。
なお、電解質膜上へのアノード触媒層の形成は、上記のようにして行うことができる。
【0063】
本実施形態においても、酸を含む溶液のプロトン濃度は、0.1mol/L以下、2mol/L以上である。これは、実施の形態1と同様の理由による。
【0064】
本実施形態においても、アノード触媒層を、酸を含む溶液に浸す時間は、実施の形態1と同様に、常温で6時間以上であることが好ましい。
なお、アノード触媒層に含まれるプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂の量は、実施の形態1と同様に、アノード触媒の量に応じて適宜調節される。例えば、前記イオン交換樹脂の量は、アノード触媒1gあたり0.1g以上とすることが好ましい。
【0065】
実施の形態1と同様に、前記酸は、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸であってもよいし、炭素数2個以下の有機酸であってもよい。さらに、前記酸が無機酸である場合、前記酸は、硫酸であることが好ましい。
【0066】
本実施形態においても、前記工程(I−c)で処理されたアノード触媒層は、用いる酸が例えば無機酸である場合、前記酸に由来するアニオンを除去する工程(II)に供してもよい。本実施形態においても、前記酸が、硫酸等の無機酸である場合、前記酸に由来するアニオンを除去する工程は、水洗工程を含むことが好ましい。
具体的に、アノード触媒層に含まれる前記酸に由来するアニオンは、例えば、アノード触媒層をイオン交換水に数時間浸すことにより、除去することができる。なお、前記アノード触媒層をイオン交換水に浸す工程は、イオン交換水を交換して、複数回行うことが好ましい。
【0067】
本実施形態においても、前記酸としては、炭素数2個以下の有機酸であることが好ましい。さらに、実施の形態1と同様に、炭素数2個以下の有機酸としては、蟻酸が特に好ましい。
【0068】
本実施形態においても、実施の形態1と同様に、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂をアノード触媒1gに対して、0.1g以上含み、かつ工程(i)で用いた酸に由来するプロトンを0.1mol/L以上、2mol/L以下の濃度で含む混合物に、工程(I−c)または工程(II)に供された後のアノード触媒層を浸漬したときに、アノード触媒からのルテニウムの1時間あたりの溶出量を、アノード触媒1mgあたり、1μg/h以下とすることができる。
つまり、前記工程(I−c)または工程(II)に供された後のアノード触媒層を、所定の混合物に浸したときに、アノード触媒からのルテニウムの1時間あたりの溶出量を、アノード触媒1mgあたり、1μg/h以下とすることができる。前記所定の混合物は、工程(I−c)で用いた酸を含む溶液と、工程(I−c)で用いたイオン交換樹脂とを含む。前記イオン交換樹脂の量は、アノード触媒1gあたり0.1g以上である。
【0069】
本実施形態においては、
(III)工程(I−c)または工程(II)に供された後のアノード触媒層を用いて、燃料電池を作製する工程
により、燃料電池を作製することができる。ここで、工程(III)は、実施の形態1と同意に、当該分野で公知の方法を含むことができる。
【0070】
上記実施の形態1および2において、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂は、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含むことが好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーは、高いプロトン伝導性を有する。よって、アノード触媒層にパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーが含まれることにより、アノード触媒層のイオン伝導抵抗が低減され、その結果、高い発電性能を得ることができる。なお、カソード触媒層も、高分子電解質として、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含んでいてもよい。
【0071】
以下、本発明を、実施例を参照しながら説明する。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
アノード触媒として、原子比1:1の白金−ルテニウム合金を用いた。白金−ルテニウム合金は、平均一次粒子径30nmの導電性カーボン粒子に担持させておいた。白金−ルテニウム合金とカーボン粒子との合計量に占める白金−ルテニウム合金の量の割合は、50重量%とした。
【0073】
前記白金−ルテニウム合金を担持した導電性カーボン粒子10gと、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂であるデュポン社のNafion(商品名)を5%含むディスパージョン100gと、適量の水とを混合した。得られた混合物を脱泡して、第1アノード触媒インクを得た。アノード触媒の量は5gであり、イオン交換樹脂の量も5gであることから、第1アノード触媒インクは、アノード触媒1gあたり、1gのイオン交換樹脂を含んだ。
【0074】
この第1アノード触媒インクと1Mの硫酸水溶液とを、前記硫酸水溶液の量がアノード触媒50mgあたり8gとなるように混合した。得られた混合物を18時間放置した。なお、1M硫酸水溶液のプロトン濃度は、2mol/Lであると考えられる。前記硫酸水溶液のpHは、約−0.3となるはずであるが、市販のpHメーターでは、前記範囲は測定できず、前記硫酸水溶液のpHが0以下であることのみ確認された。
【0075】
放置後の混合物を、目開きが0.2μmのメンブレンフィルターと吸引ポンプとを使用して、ろ過した。
次に、得られた固形物を水洗した。具体的には、ろ過して得られた固形物をイオン交換水に浸漬し、4時間攪拌することにより、水洗した。水洗後、固形物を再びろ過した。この工程を3度繰り返した。
【0076】
この後、固形物をエタノール水溶液に分散させて、第2アノード触媒インクを調製した。得られた第2アノード触媒インクを、エアーブラシを使用して、電解質膜に吹付けた。このとき、電解質膜は60℃に保持しておいた。このため、アノード触媒インクは塗布中に漸次乾燥され、アノード触媒層が形成された。アノード触媒層の厚さは、30μmとした。電解質膜としては、Nafion117(商品名、厚み178μm)を使用した。
【0077】
カソード触媒としては、白金単体を用いた。カソード触媒は、平均一次粒子径30nmの導電性カーボン粒子に担持させておいた。カソード触媒と導電性カーボン粒子の合計量に占めるカソード触媒の量の割合は、50重量%とした。
【0078】
前記白金単体を担持した導電性カーボン粒子と、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂(デュポン社のNafion(商品名))を含むディスパージョンと、適量の水とを混合した。得られた混合物を脱泡して、カソード触媒インクを得た。前記イオン交換樹脂の量は、前記白金単体を担持した導電性カーボン粒子1gあたり、0.3gとした。
【0079】
得られたカソード触媒インクを、電解質膜のアノード触媒層が形成された面とは反対側の面にスプレー塗布し、カソード触媒層を形成した。こうして、CCMを得た。
【0080】
基材であるカーボンペーパーTGP−H−090(商品名、東レ(株)製)を、所望の濃度に希釈したPTFEディスパージョンD−1(商品名、ダイキン工業(株)製)に1分間浸漬した。この後、前記カーボンペーパーを、100℃の熱風乾燥機中で乾燥し、次いで270℃の電気炉中で2時間の焼成処理に供した。こうして、PTFEの含有量が10重量%のアノードガス拡散層を得た。
【0081】
基材であるAvcarb1071HCB(商品名、バラードマテリアルプロダクツ社製)を、ヘリウムガスにフッ素ガスを0.1mol%混合した混合ガスの中に、常温で、10分間放置した。こうして、基材のカーボン繊維の表面がフッ化されたカソードガス拡散層を得た。
【0082】
アノードガス拡散層の一方の表面に、以下のようにして、導電性撥水層を形成した。アセチレンブラック粉末と、PTFEディスパージョンD−1(商品名、ダイキン工業(株)製)とを、混合して、インクを得た。得られたインクにおいて、PTFE量は10重量%とした。
得られたインクを、アノードガス拡散層の一方の面にドクターブレード法により塗布し、100℃の恒温層で乾燥した。次いで、乾燥後のインクを、270℃の電気炉中で2時間焼成処理して、インクに含まれる界面活性剤を除去した。こうして、アノードガス拡散層の表面に導電性撥水層を形成した。
上記と同様にして、カソードガス拡散層の一方の面に、導電性撥水層を形成した。
【0083】
アノードガス拡散層の導電性撥水層をアノード触媒層と接するように配置し、カソードガス拡散層の導電性撥水層をカソード触媒層と接するように配置した。得られた積層体を、ホットプレス装置にて、ホットプレスして、触媒層とガス拡散層とを接合した。こうして、MEAを得た。ホットプレスは、温度125℃、圧力5MPaで、1分間行った。
【0084】
アノードセパレータおよびカソードセパレータとしては、それぞれ、厚み2mmの黒鉛板を用いた。前記黒鉛板の一方の面には、それぞれ、切削により、縦断面が1mm×1mmの寸法を有する燃料流路または酸化剤流路を設けた。燃料流路および酸化剤流路は、燃料電池を組み立てたときに、発電領域上を万遍なく蛇行するサーペンタイン型とした。
【0085】
アノードセパレータおよびカソードセパレータを、アノードセパレータの燃料流路が設けられた面がアノードガス拡散層に接し、カソードセパレータの酸化剤流路が設けられた面がカソードガス拡散層に接するように配置した。こうして、アノードセパレータとカソードセパレータとの間にMEAを挟みこんだ積層体を得た。
【0086】
前記積層体を、厚さ1cmのステンレス鋼板からなる2枚の端板でさらに挟み込んだ。2枚の端板は、それぞれ、アノードセパレータおよびカソードセパレータに接するように配置した。なお、一方の端板とアノードセパレータの間および他方の端板とカソードセパレータとの間には、それぞれ、表面に金メッキを施した厚さ2mmの銅板からなる集電板を配置した。前記集電板は、電子負荷装置に接続した。
2枚の端板を、ボルト、ナットおよびばねを用いて加圧締結して、単位セルからなるダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)を作製した。得られたDMFCをセルAとした。
【0087】
(実施例2)
アノード触媒とイオン交換樹脂の重量比率を1:0.5としたこと以外、実施例1と同様にして、第1アノード触媒インクを調製した。得られた第1アノード触媒インクは、アノード触媒1gあたり、0.5gのイオン交換樹脂を含んだ。
【0088】
前記第1アノード触媒インクを用い、実施例1と同様にして、電解質膜上にアノード触媒層を形成した。得られたアノード触媒層のみが形成された電解質膜を、1Mの硫酸水溶液中に18時間放置した。その後、前記電解質膜をイオン交換水ですすいだ。具体的には、前記電解質膜を、イオン交換水に4時間浸漬し、この後イオン交換水を交換する工程に3回供した。
【0089】
次いで、前記アノード触媒層のみが形成された電解質膜を常温乾燥し、乾燥後の前記電解質膜を用い、実施例1と同様にして、MEAを作製し、DMFCを作製した。得られたDMFCを、セルBとした。
【0090】
(実施例3)
実施例1で作製した第1アノード触媒インクと5Mの蟻酸水溶液とを、アノード触媒1gあたり蟻酸水溶液50gとなるように混合した。得られた混合物を18時間放置した。第1アノード触媒インクと、なお、5Mの蟻酸水溶液のpHは0.9であり、よって、前記蟻酸水溶液のプロトン濃度は約0.13mol/Lであった。
【0091】
この後、実施例1と同様にろ過を行った。ろ過は、蟻酸の酸化反応が急激に進行しないように、酸素濃度5%のグローブボックス内で行った。ろ別された固形物を、ろ過終了後12時間グローブボックス内に放置して、蟻酸を酸化除去した。得られた固形物は、水洗処理に供さず、そのまま用いて、実施例1と同様にして、第2アノード触媒インクを調製した。前記第2アノード触媒インクを用い、実施例1と同様にして、DMFCを作製した。得られたDMFCを、セルCとした。
【0092】
(比較例1)
実施例1で作製した第1アノード触媒インクをそのまま用いたこと以外、実施例1と同様にして、DMFCを作製した。得られたDMFCを、比較セルRとした。
【0093】
[評価]
以上のセルA〜Cおよび比較セルRについて、Ru溶出量測定、初期発電特性、および長時間連続発電特性の3つの評価を行った。
【0094】
(ルテニウムの溶出速度の測定)
本発明の製造方法により、セルA〜Cに含まれるアノード触媒は、既に溶出しやすいルテニウムが除去されていると考えられる。このため、セルA〜Cに含まれるアノード触媒からのルテニウムの溶出速度は、本発明の製造方法に供していないアノード触媒からのルテニウムの溶出速度と比べて著しく低減されていると考えられる。このことを確認するために、ルテニウムの溶出速度を、次の条件によって測定とした。
【0095】
まず、MEAからアノード触媒層部分を剥離させ、前記アノード触媒層部分を、所定量の水に分散させた。得られた分散液に、実施例1で用いたプロトン伝導性を有するイオン交換樹脂を、アノード触媒1gあたりの前記イオン交換樹脂の量が5gとなるように添加した。
なお、分散液に含まれるアノード触媒の量は、アノード触媒層中のアノード触媒とイオン交換樹脂との組成比、および剥離させたアノード触媒層の重量から求めた。
【0096】
次に、前記分散液と1Mの硫酸水溶液とを、前記硫酸水溶液の量がアノード触媒1mgあたり0.1g程度となるように混合した。得られた混合物を、12時間放置した。放置後の混合物をろ過し、ろ液を、ICP発光分析に供して、ろ液に含まれるルテニウムの含有量を測定した。得られた値から、アノード触媒1mgあたりのルテニウムの溶出速度(1時間あたり)を計算した。
【0097】
(発電特性評価)
(i)初期発電特性
燃料として2mol/Lのメタノール水溶液を用いた。酸化剤としては、無加湿の空気を用いた。
各セルの温度を、電熱線ヒータと温度コントローラを用いて60℃となるように制御した。各セルは、電子負荷装置PLZ164WA(菊水電子工業(株)製)に接続しておいた。
アノードに、燃料を、チューブ式ポンプを用いて、1cm3/minの流量で供給した。カソードに、無加湿の空気を、マスフローコントローラーにより制御しながら、200cm3/minの流量で供給した。定電流制御で電流密度が200mA/cm2となるように設定し、発電開始から1分間後の電圧を測定した。得られた値を、表1に、初期電圧として示す。
【0098】
(ii)長期連続運転後の発電特性
各セルを、初期発電特性を評価したときと同じ条件で1000時間、連続運転させた。各セルの発電開始から1000時間経過したときの電圧を測定した。得られた値を、表1に、長期連続運転後の電圧として示す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1からわかるように、セルA〜Cは、比較セルRに比べて、初期電圧が高く、さらに長時間運転後であっても、初期電圧を維持していた。つまり、セルA〜Cは、優れた発電性能を示した。
【0101】
ルテニウムの溶出速度は、セルA、セルB、セルC、比較セルRの順に増加していた。一方で、セルA〜Cに含まれるアノード触媒からのルテニウムの溶出速度は、比較セルRに含まれるアノード触媒からのルテニウムの溶出速度より、顕著に低い値を示した。つまり、本発明により、アノード触媒からルテニウムが予め除去されていることが確認された。
【0102】
セルAと、セルBおよびセルCとを比較すると、ルテニウムの溶出量は、セルAの方が小さかった。セルAにおいて、アノード触媒を、アノード触媒の量に対するイオン交換樹脂の量が多い状態で酸処理されている。このため、アノード触媒近傍の酸強度が増加し、溶出しやすいルテニウムが効率的に除去されたと考えられる。
【0103】
さらに、セルA〜Cの結果から、ルテニウムの溶出速度が、アノード触媒1mgあたり1.0μg/h以下である場合は、発電性能の低下はほとんど見られなかった。よって、ルテニウム溶出速度が、アノード触媒1mgあたり1.0μg/h以下であれば、本発明の効果が十分に得られることが確認された。
【0104】
以上のように、本発明の製造方法で作製された燃料電池は、従来の燃料電池に比べて、高い発電性能と高い連続発電性能とを得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の製造方法により、燃料電池の発電性能が高く、性能劣化の小さい燃料電池を提供することができる。よって、本発明の製造方法によって作製された燃料電池は、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ノートPC、ビデオカメラ等の携帯用小型電子機器用の電源として好適に用いることができる。また、前記燃料電池は、電動スクータ用電源等の用途にも好適に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明により処理されたアノード触媒を含むダイレクトメタノール型燃料電池の構成の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0107】
10 単位セル
11 電解質膜
12 アノード触媒層
13 アノード導電性撥水層
14 アノードガス拡散層
15 アノード
16 カソード触媒層
17 カソード導電性撥水層
18 カソードガス拡散層
19 カソード
20 アノードセパレータ
20a 燃料流路
21 カソードセパレータ
21a 酸化剤流路
22、23 端板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード触媒を含むアノード触媒層を備えるアノード、カソード触媒を含むカソード触媒層を備えるカソード、および前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜を具備する少なくとも1つの単位セルを有する燃料電池の製造方法であって、
(i)前記アノード触媒を、プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂の存在下で、酸を含む溶液に浸漬する工程
を含み、前記酸を含む溶液のプロトン濃度が0.1mol/L以上、2mol/L以下である、燃料電池の製造方法。
【請求項2】
前記アノード触媒が、白金とルテニウムとの合金、白金単体とルテニウム単体との混合物、または白金単体と白金ルテニウム合金とルテニウム酸化物との混合物である、請求項1記載の燃料電池の製造方法。
【請求項3】
前記工程(i)が、
(i−A)前記アノード触媒および前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂を、前記酸を含む溶液と混合する工程、および
(i−B)前記工程(i−A)で得られた混合物から、固形物をろ別する工程
を含む、請求項1または2記載の燃料電池の製造方法。
【請求項4】
前記工程(i)が、
(I−a)前記アノード触媒と前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂とを含む触媒インクを調製する工程、および
(I−b)前記触媒インクを用いて、アノード触媒層を作製する工程、および
(I−c)前記アノード触媒層を、前記酸を含む溶液に浸漬する工程を含む、請求項1または2記載の燃料電池の製造方法。
【請求項5】
さらに、(ii)前記ろ別された固形物から、前記酸に由来するアニオンを除去する工程を含む、請求項3記載の燃料電池の製造方法。
【請求項6】
さらに、(ii)前記浸漬後のアノード触媒層から、前記酸に由来するアニオンを除去する工程を含む、請求項4記載の燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記酸が、硫酸であり、前記酸に由来するアニオンを除去する工程が、水洗工程を含む、請求項5または6記載の燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂をアノード触媒1gあたり、0.1g以上含み、かつ工程(i)で用いた前記酸に由来するプロトンを0.1mol/L以上、2mol/L以下の濃度で含む混合物に、前記工程(i)に供された後の前記アノード触媒を浸漬したときに、前記アノード触媒からのルテニウムの1時間あたりの溶出量が、前記アノード触媒1mgあたり、1μg/h以下である、請求項3または4記載の燃料電池の製造方法。
【請求項9】
前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂をアノード触媒1gあたり、0.1g以上含み、かつ工程(i)で用いた前記酸に由来するプロトンを0.1mol/L以上、2mol/L以下の濃度で含む混合物に、前記工程(ii)に供された後の前記アノード触媒を浸漬したときに、前記アノード触媒からのルテニウムの1時間あたりの溶出量が、前記アノード触媒1mgあたり、1μg/h以下である、請求項5または6記載の燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記酸が、炭素数2個以下の有機酸である、請求項1または2記載の燃料電池の製造方法。
【請求項11】
前記炭素数2個以下の有機酸が、蟻酸である、請求項10記載の燃料電池の製造方法。
【請求項12】
前記プロトン伝導性を有するイオン交換樹脂が、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む、請求項1〜11のいずれかに記載の燃料電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−146863(P2010−146863A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323188(P2008−323188)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】