説明

燃料電池の起動制御装置及び起動制御方法

【課題】長時間を要することなく起動可能であるとともに、セルの劣化を抑制できる燃料電池の起動制御装置及び起動制御方法を提供する。
【解決手段】停止中の燃料電池の温度を検出する温度検出手段(S1)と、検出温度が零下である時間を計測する零下時間計測手段(S2)と、零下時間に基づいて燃料電池の起動時の出力負荷を制御する負荷制御手段(S6)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の起動を制御する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
零下環境で燃料電池を起動する場合に、出力負荷(負荷電流)を大きくするとスタック電圧が大きく落ち込んでしまう。そこでたとえば特許文献1の燃料電池システムでは、零下起動時に流した電流によって発生する各セルの電圧の標準偏差を算出する。そして標準偏差が閾値よりも小さくなるまで電流を所定値以下に制限する。このようにしてスタック電圧が大きく落ち込んでしまうことを防止していた。
【特許文献1】特開2006−100095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように特許文献1の方法では、零下起動時に初期の負荷電流値を検出して各セルの電圧変動をフィードバックして電流値の上限を制限している。
【0004】
しかしながら、セル電圧の変動に基づいてフィードバック制御しても、セル電圧の遅れ要素による転極現象によってセルの劣化が生じる可能性がある。そのため特許文献1のような方法で制御するには安全をみて初期負荷電流を極めて小さく設定し、ゆっくりと負荷電流を増大しなければならない。そのため起動時間が長くなってしまう、という問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、長時間を要することなく起動可能であるとともに、セルの劣化を抑制できる燃料電池の起動制御装置及び起動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0007】
本発明は、停止中の燃料電池(1)の温度を検出する温度検出手段(S1)と、前記検出温度が零下である時間を計測する零下時間計測手段(S22)と、前記零下時間に基づいて燃料電池の起動時の出力負荷を制御する負荷制御手段(S61)と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、停止中の燃料電池の温度を検出して、その温度が零下である時間に基づいて燃料電池の起動時の出力負荷を制御するようにしたので、起動負荷を適切に制御することができ、セルの劣化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下では図面等を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(第1実施形態)
はじめに図1を参照して、本発明による燃料電池の運転制御装置を適用する燃料電池システムの一例について説明する。
【0010】
燃料電池システムは、燃料電池スタック1と、空気供給コンプレッサ2と、水素タンク3と、冷却水ポンプ4と、ラジエータ5と、温度センサ6と、温度記録部7と、負荷コントローラ8と、を備える。
【0011】
燃料電池スタック1は、カソードガス及びアノードガスが供給されて電力を発生する。空気供給コンプレッサ2は、燃料電池スタック1にカソードガス(空気)を供給する。水素タンク3は、アノードガス(水素)を収容する密閉容器であり、そのアノードガス(水素)を燃料電池スタック1に供給する。冷却水ポンプ4は、燃料電池スタック1に供給する冷却水を循環する。ラジエータ5は、冷却水ポンプ4によって循環される冷却水の熱を逃がし、冷却水の過熱を防止する。温度センサ6は、冷却水温を検出する。温度記録部7は温度センサ6によって検出された冷却水温を記録する。負荷コントローラ8はシステム要求電力に基づいて燃料電池の出力負荷を設定し燃料電池の運転を制御する。
【0012】
図2は、燃料電池を構成する単セルの拡大図である。図2(A)は構成を示す分解斜視図、図2(B)は側断面図である。
【0013】
燃料電池セルは、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下「MEA」という)10の表裏両面にカソードセパレータ13a及びアノードセパレータ13bが配置された構成である。
【0014】
MEA10は、電解質膜11と、カソード電極12aと、アノード電極12bと、を含む。
【0015】
電解質膜11は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜11は、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。そのため、電解質膜11の性能を引き出して発電効率を向上させるには、電解質膜11の水分状態を最適に保つ必要がある。そこで燃料電池セルに導入する反応ガス(カソードガス及びアノードガス)を加湿している。なお電解質膜11の水分状態を最適に保つための水には純水を用いるとよい。これは不純物が混入した水を燃料電池セルに供給しては、電解質膜11に不純物が蓄積し発電効率が低下するからである。
【0016】
カソード電極12aは電解質膜11の片面(図2(B)の左側)に設けられ、アノード電極12bは反対面(図2(B)の右側)に設けられる。カソード電極12a及びアノード電極12bは、触媒層121と、ガス拡散層(Gas Diffusion Layer;GDL)122と、で構成される。触媒層121は、たとえば白金が担持されたカーボンブラック粒子で形成される。ガス拡散層122は、充分なガス拡散性及び導電性を有する部材、たとえばカーボン繊維で形成される。
【0017】
カソードセパレータ13aは、カソード電極12aの外側に重なる。カソードセパレータ13aの片面(カソード電極12aへの対向面)には、リブ131が凸設され、リブ131の間に反応ガス流路132が形成される。図2では、4列の反応ガス流路132が形成される。カソードセパレータ13aは、たとえばカーボン製又は金属製である。
【0018】
アノードセパレータ13bは、アノード電極12bの外側に重なる。アノードセパレータ13bの片面(アノード電極12bへの対向面)には、リブ131が凸設され、リブ131の間に反応ガス流路132が形成される。図2では、4列の反応ガス流路132が形成される。アノードセパレータ13bは、たとえばカーボン製又は金属製である。
【0019】
以上のような構成の燃料電池セルが数百セル積層されて所定の面圧で保持されたものが燃料電池スタック1である。
【0020】
続いて本発明の理解を容易にするために、本件発明者らの知見について説明する。
【0021】
従来手法のように、セル電圧の変動に基づいてフィードバック制御しても、セル電圧の遅れ要素による転極現象によってセルの劣化が生じる可能性がある。ここで転極現象について説明しておく。
【0022】
通常、カソード電極側のガス流路(以下「カソード流路」という)にはカソードガスが流れ、アノード電極側のガス流路(以下「アノード流路」という)にはアノードガスが流れる。そしてアノード極及びカソード極において以下の触媒電極反応が進行する。
【0023】
【化1】

【0024】
なおカソード極での生成水は、電解質膜を透過してアノード極にも浸透してくる。そして零下環境では、この水分が凍結してアノード流路が狭まりアノードガスが流れにくくなることがある。するとこの部分の下流側ではアノードガス圧が、電解質膜を挟んで対向するカソードガス圧に比べて低くなる。このような場合に電解質膜の湿潤度が低下していると、カソードガスが電解質膜を介してアノード流路に浸透し、カソードガスとアノードガスとが反応して水が生成される。この状態で負荷電流を過剰に要求すると、触媒中で白金を担持するカーボンブラック粒子によって以下の反応が生じることがある。
【0025】
【化2】

【0026】
零下環境で過剰な負荷電力を要求すると、このようなメカニズムによって触媒中のカーボンが消費されて劣化してしまうのである。これは特に零下始動時の電圧が落ち込んでいるときに(すなわち負荷電流を大きくできないときに)、本来可能な負荷電流よりも大きな負荷電流を要求するときに生じやすい。
【0027】
そこで本願は、零下環境での電解質膜の湿潤度合に応じて負荷電流を制御するようにしたのである。すなわち燃料電池運転中においては、生成水はガス流れ方向下流側に流れるので、電解質膜は下流側で湿潤度が高く、上流側では湿潤度が低い。零下環境で燃料電池が運転を停止すると、水分は電解質膜内部よりも電解質膜表面で凍結しやすく、まず電解質膜表面の水が凍結する。気温が零度を少し下回る程度(たとえば零下5℃程度)の零下環境では、電解質膜表面の水が凍結するものの、電解質膜内部の水は凍結しない。燃料電池運転中にガス流れ方向下流側に多かった水は、この状態では、零下環境に放置される時間が長くなるほど徐々に電解質膜内部全体に拡散するようになる。そして電解質膜の湿潤度が均一化される。電解質膜の湿潤度が均一化されるほど、大きな起動負荷を取り出しやすい。
【0028】
しかしながら、このようにして電解質膜の湿潤度が均一化された後、さらに気温が下がると、電解質膜内で水分が凍結してしまう。このような状態では、電解質膜が全体的に凍結してしまってプロトンが移動できないので、大きな起動負荷を取り出すことができない。
【0029】
一方、極低温(たとえば零下20℃程度)の零下環境で燃料電池が運転を停止すると、ガス流れ方向下流に多かった水分が、電解質膜表面でも電解質膜内部でも凍結する。ガス流れ方向上流側ではそもそも湿潤度合が低く乾燥気味であるので、電解質膜が凍結しにくい。したがってこの場合のほうが、上述の状態、すなわち電解質膜が全体的に凍結してしまってプロトン移動できない状態よりも、大きな起動負荷を取り出すことが可能になるのである。
【0030】
このように、電解質膜の各部の湿潤状態を直接測定できれば、最適な起動負荷を決定できるが、電解質膜の各部の湿潤状態を直接測定するのは困難である。そこで本件発明者らは、燃料電池を放置中の温度変化を観測しておくことで、電解質膜の各部の湿潤状態を推定し、この推定に基づいて起動負荷を決定するようにしたのである。
【0031】
本件発明者らは、以上のような技術思想に想到することで本発明を完成するに至った。以下では、このような技術思想を実現する燃料電池の起動制御装置について説明する。
【0032】
図3は、本発明による燃料電池の起動制御装置の制御ロジックのメインフローチャートである。
【0033】
この制御は特に、最低気温が、電解質膜表面の水が凍結するものの電解質膜内部の水は凍結しない程度の温度(たとえば零下5℃程度)である地域で好適である。なおこのような地域であるか否かはたとえばナビゲーション情報から判断できる。コントローラは燃料電池の運転停止指令を受けたら以下の処理を一定時間ごとに繰り返し実行する。
【0034】
ステップS1においてコントローラは、燃料電池の温度tを検出する。
【0035】
ステップS2においてコントローラは、カウンタ処理する。具体的な内容は後述する。
【0036】
ステップS3においてコントローラは、燃料電池の起動指令があったか否かを判定する。起動指令があるまでは一旦処理を抜け、起動指令があったらステップS4へ処理を移行する。
【0037】
ステップS4においてコントローラは、燃料電池の温度tが零度よりも大きいか否かを判定する。大きければステップS5へ処理を移行し、零下であればステップS7へ処理を移行する。
【0038】
ステップS5においてコントローラは、通常起動する。
【0039】
ステップS6においてコントローラは、零下起動する。具体的な内容は後述する。
【0040】
図4は、カウンタ処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0041】
ステップS21においてコントローラは、燃料電池の温度tが零度よりも大きいか否かを判定する。大きいあいだは一旦処理を抜け、零下になったらステップS22へ処理を移行する。
【0042】
ステップS22においてコントローラは、カウンタNをインクリメントする。
【0043】
図5は、零下起動処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0044】
ステップS61においてコントローラは、あらかじめROMに格納された図6(A)に示すような特性のマップにカウンタNを適用して起動時負荷を設定する。なお図6(B)に示すような特性のマップにカウンタNを適用して負荷上昇速度を設定してもよい。
【0045】
ステップS62においてコントローラは、ステップS61の設定に基づいて燃料電池を起動する。
【0046】
本実施形態によれば、燃料電池の零下環境での放置時間が長いほど、大きな負荷電流で起動するようにした。上述のように、燃料電池運転中においては、生成水はガス流れ方向下流側に流れるので、電解質膜は下流側で湿潤度が高く、上流側では湿潤度が低い。
【0047】
零下環境で燃料電池が運転を停止すると、水分は電解質膜内部よりも電解質膜表面で凍結しやすく、まず電解質膜表面の水が凍結する。気温が零度を少し下回る程度(たとえば零下5℃程度)の零下環境では、電解質膜表面の水が凍結するものの、電解質膜内部の水は凍結しない。燃料電池運転中にガス流れ方向下流側に多かった水は、この状態では、零下環境に放置される時間が長くなるほど徐々に電解質膜内部全体に拡散し、電解質膜の湿潤度が均一化され、大きな起動負荷を取り出しやすくなる。そこで本実施形態のように制御することで、より適切に燃料電池の起動を制御でき、短時間で燃料電池を起動できるのである。
【0048】
(第2実施形態)
図7は、本発明による燃料電池の運転制御装置の第2実施形態におけるカウンタ処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0049】
この制御は特に、最低気温が、電解質膜内部の水も凍結する程度の温度(たとえば零下20℃程度)である地域で好適である。なおこのような地域であるか否かはたとえばナビゲーション情報から判断できる。コントローラは燃料電池の運転停止指令を受けたら以下の処理を一定時間ごとに繰り返し実行する。
【0050】
なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0051】
ステップS21においてコントローラは、燃料電池の温度tが零度よりも大きいか否かを判定する。大きいあいだは一旦処理を抜け、零下になったらステップS211へ処理を移行する。
【0052】
ステップS211においてコントローラは、燃料電池の温度tが零下5℃よりも大きいか否かを判定する。大きければステップS221へ処理を移行して第1カウンタN1をインクリメントし、そうでなければステップS212へ処理を移行する。
【0053】
ステップS212においてコントローラは、燃料電池の温度tが零下10℃よりも大きいか否かを判定する。大きければステップS222へ処理を移行して第2カウンタN2をインクリメントし、そうでなければステップS213へ処理を移行する。
【0054】
ステップS213においてコントローラは、燃料電池の温度tが零下15℃よりも大きいか否かを判定する。大きければステップS223へ処理を移行して第3カウンタN3をインクリメントし、そうでなければステップS214へ処理を移行する。
【0055】
ステップS214においてコントローラは、燃料電池の温度tが零下20℃よりも大きいか否かを判定する。大きければステップS224へ処理を移行して第4カウンタN4をインクリメントし、そうでなければステップS215へ処理を移行する。
【0056】
ステップS215においてコントローラは、燃料電池の温度tが零下25℃よりも大きいか否かを判定する。大きければステップS225へ処理を移行して第5カウンタN5をインクリメントし、そうでなければステップS226へ処理を移行して第6カウンタN6をインクリメントする。
【0057】
図8は、本発明による燃料電池の運転制御装置の第2実施形態における零下起動処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0058】
ステップS601においてコントローラは、カウンタN1〜N6に基づいて零下度合ポイントPを算出する。具体的には、あらかじめROMに格納された図9(A)に示すような特性のマップに基づいてカウンタN1〜N6に対する重みW1〜W6を求め、次式(1)によって零下度合ポイントPを算出する。
【0059】
【数1】

【0060】
ステップS611においてコントローラは、零下度合ポイントPに基づいて負荷電流を設定する。具体的には、あらかじめROMに格納された図9(B)に示すような特性のマップに零下度合ポイントPを適用して起動時負荷を設定する。なお図9(C)に示すような特性のマップに零下度合ポイントPを適用して負荷上昇速度を設定してもよい。
【0061】
本実施形態によれば、燃料電池の零下環境での零下度合が大きいほど、大きな負荷電流で起動するようにした。上述のように、燃料電池運転中においては、生成水はガス流れ方向下流側に流れるので、電解質膜は下流側で湿潤度が高く、上流側では湿潤度が低い。気温が零度を少し下回る程度(たとえば零下5℃程度)の零下環境では、電解質膜表面の水が凍結するものの、電解質膜内部の水は凍結しない。燃料電池運転中にガス流れ方向下流側に多かった水は、この状態では、零下環境に放置される時間が長くなるほど徐々に電解質膜内部全体に拡散するようになる。そして電解質膜の湿潤度が均一化される。このようにして電解質膜の湿潤度が均一化された後、さらに気温が下がると、電解質膜内で水分が凍結してしまう。このような状態では、電解質膜が全体的に凍結してしまってプロトンが移動できないので、大きな起動負荷を取り出すことができない。
【0062】
しかしながら極低温(たとえば零下20℃程度)の零下環境で燃料電池が運転を停止すると、ガス流れ方向下流に多かった水分が、電解質膜表面でも電解質膜内部でも凍結する。ガス流れ方向上流側ではそもそも湿潤度合が低く乾燥気味であるので、電解質膜が凍結しにくい。したがってこの場合のほうが、上述の状態、すなわち電解質膜が全体的に凍結してしまってプロトン移動できない状態よりも、大きな起動負荷を取り出すことが可能になるのである。そこで本実施形態のように制御することで、極低温の零下環境においても、より適切に燃料電池の起動を制御でき、短時間で燃料電池を起動できるのである。
【0063】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【0064】
たとえば、第2実施形態において零下度合ポイントPを算出する際に使用する重みW1〜W6を、図9(A)に示すような特性のマップに基づいて求めたが、さらに残留水量をも考慮した図10(A)に示すような特性のマップに基づいて求めてもよい。すなわち残留水量が多いほど電解質膜が全体的に凍結しやすく、残留水量が少ないほど電解質膜が全体的に凍結しにくい。そこで残留水量が少ないほど大きな負荷を取り出すように、零下度合ポイントPを大きく算出するのである。このようにすればさらに精緻に制御できる。
【0065】
また図10(B)に示すように燃料電池の運転停止時の温度をも考慮した特性のマップに基づいて求めてもよい。すなわち、燃料電池運転中にガス流れ方向下流側に多かった水は、停止時温度が低ければこの状態で凍結しやすく電解質膜全体には拡散しにくいと推定される。そこで停止時温度が低いほど大きな負荷を取り出すように、零下度合ポイントPを大きく算出するのである。このようにしてもさらに精緻に制御できる。
【0066】
また図10(C)に示すように燃料電池の運転起動時の温度をも考慮した特性のマップに基づいて求めてもよい。すなわち、起動時温度が低ければ極寒地であると推定でき、電解質中の水分が凍結しやすく電解質膜全体には拡散しにくいと推定される。そこで起動時温度が低いほど大きな負荷を取り出すように、零下度合ポイントPを大きく算出するのである。このようにしてもさらに精緻に制御できる。
【0067】
さらに図11に示すように、タイマ9を設け、所定時間毎(たとえば1時間毎)に、温度センサ6及び温度記録部7を起動して温度を記録するようにしてもよい。このようにすれば消費電力を低減できる。
【0068】
また第2実施形態では、温度帯幅を5℃にして、その温度帯毎に検出温度を分類したが、この温度帯幅は一例に過ぎない。また温度帯毎に検出温度を分類することなく、検出温度に重み付け係数を乗じて零下度合ポイントPを算出するようにしてもよい。このようにしてもさらに精緻に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明による燃料電池の運転制御装置を適用する燃料電池システムの一例について説明する図である。
【図2】燃料電池を構成する単セルの拡大図である。
【図3】本発明による燃料電池の起動制御装置の制御ロジックのメインフローチャートである。
【図4】カウンタ処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】零下起動処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】カウンタNから負荷を設定するための特性マップの一例を示す図である。
【図7】本発明による燃料電池の運転制御装置の第2実施形態におけるカウンタ処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】本発明による燃料電池の運転制御装置の第2実施形態における零下起動処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図9】第2実施形態において負荷を設定するための特性マップの一例を示す図である。
【図10】負荷を設定するための特性マップの他の例を示す図である。
【図11】本発明による燃料電池の運転制御装置を適用する燃料電池システムの他の例について説明する図である。
【符号の説明】
【0070】
1 燃料電池スタック
8 負荷コントローラ
S1 温度検出手段/温度検出工程
S22 零下時間計測手段/零下時間計測工程
S61 負荷制御手段/負荷制御工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
停止中の燃料電池の温度を検出する温度検出手段と、
前記検出温度が零下である時間を計測する零下時間計測手段と、
前記零下時間に基づいて燃料電池の起動時の出力負荷を制御する負荷制御手段と、
を備える燃料電池の起動制御装置。
【請求項2】
前記負荷制御手段は、前記零下時間が長いほど、出力負荷を大きくする、
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の起動制御装置。
【請求項3】
前記負荷制御手段は、前記零下時間が長いほど、負荷電流値の上昇速度を速くする、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池の起動制御装置。
【請求項4】
停止中の燃料電池の温度を検出する温度検出手段と、
前記検出温度が零下である時間を、その検出温度ごとに計測する零下時間計測手段と、
前記検出温度ごとの計測時間を、その検出温度に応じて重み付けして零下度合を設定する零下度合設定手段と、
前記零下度合に基づいて燃料電池の起動時の出力負荷を制御する負荷制御手段と、
を備える燃料電池の起動制御装置。
【請求項5】
停止中の燃料電池の温度を検出する温度検出手段と、
前記検出温度が零下の温度帯に属する時間を、その温度帯ごとに計測する零下時間計測手段と、
前記温度帯ごとの計測時間を、その温度帯に応じて重み付けして零下度合を設定する零下度合設定手段と、
前記零下度合に基づいて燃料電池の起動時の出力負荷を制御する負荷制御手段と、
を備える燃料電池の起動制御装置。
【請求項6】
前記負荷制御手段は、前記零下度合が大きいほど、出力負荷を大きくする、
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の燃料電池の起動制御装置。
【請求項7】
前記負荷制御手段は、前記零下度合が大きいほど、負荷電流値の上昇速度を速くする、
ことを特徴とする請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載の燃料電池の起動制御装置。
【請求項8】
前記零下度合設定手段は、燃料電池が停止中に含有している水分量に応じて重み付け度合を変更する、
ことを特徴とする請求項4から請求項7までのいずれか1項に記載の燃料電池の起動制御装置。
【請求項9】
前記零下度合設定手段は、燃料電池が運転を終了して停止したときの温度に応じて重み付け度合を変更する、
ことを特徴とする請求項4から請求項8までのいずれか1項に記載の燃料電池の起動制御装置。
【請求項10】
前記零下度合設定手段は、燃料電池が起動するときの温度に応じて重み付け度合を変更する、
ことを特徴とする請求項4から請求項9までのいずれか1項に記載の燃料電池の起動制御装置。
【請求項11】
停止中の燃料電池の温度を検出する温度検出工程と、
前記検出温度が零下である時間を計測する零下時間計測工程と、
前記零下時間に基づいて燃料電池の起動時の出力負荷を制御する負荷制御工程と、
を備える燃料電池の起動制御方法。
【請求項12】
停止中の燃料電池の温度を検出する温度検出工程と、
前記検出温度が零下である時間を、その検出温度ごとに計測する零下時間計測工程と、
前記検出温度ごとの計測時間を、その検出温度に応じて重み付けして零下度合を設定する零下度合設定工程と、
前記零下度合に基づいて燃料電池の起動時の出力負荷を制御する負荷制御工程と、
を備える燃料電池の起動制御方法。
【請求項13】
停止中の燃料電池の温度を検出する温度検出工程と、
前記検出温度が零下の温度帯に属する時間を、その温度帯ごとに計測する零下時間計測工程と、
前記温度帯ごとの計測時間を、その温度帯に応じて重み付けして零下度合を設定する零下度合設定工程と、
前記零下度合に基づいて燃料電池の起動時の出力負荷を制御する負荷制御工程と、
を備える燃料電池の起動制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−224261(P2009−224261A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69689(P2008−69689)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】