説明

燃料電池アセンブリに使用するための膜のマイクロ波アニール

フィルムを製造する方法が、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質のコーティングを提供する工程と、マイクロ波放射線を用いてコーティングをアニールしてフィルムを形成する工程とを含む。燃料電池の膜電極アセンブリに使用するためのイオン含有膜を製造する方法が、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質の溶液をコートして膜電極アセンブリのキャスト膜を形成する工程と、マイクロ波放射線を用いてキャスト膜をアニールする工程とを含む。キャスト膜は、例えば、PEMを含んでもよく、それは燃料電池アセンブリに組み込まれてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質の溶液または懸濁液のコーティングをマイクロ波アニールすることに関し、さらに、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質の溶液または懸濁液のコーティングをマイクロ波アニールして膜電極アセンブリ(MEA)の膜を形成することに関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な燃料電池システムは、1つまたは複数の燃料電池が電力を発生する出力部を備える。燃料電池は、水素および酸素を水に変換し、そのプロセスにおいて電気および熱を生じるエネルギー変換装置である。各燃料電池ユニットは中心にプロトン交換膜(PEM)を備えてもよく、ガス拡散層がPEMの両側にある。アノードおよびカソード触媒層がそれぞれ、ガス拡散層の内側に配置される。このユニットは膜電極アセンブリ(MEA)と称される。セパレータプレートまたはフローフィールドプレートがそれぞれ、膜電極アセンブリのガス拡散層の外側に配置される。このタイプの燃料電池はしばしば、PEM燃料電池と称される。
【0003】
燃料電池内の単一MEAにおいての反応は典型的に、1ボルト未満を生じる。複数のMEAを積層し、直列に電気接続して所望の電圧を達成してもよい。電流を燃料電池積層体から集め、負荷を駆動するために用いる。燃料電池は、自動車からラップトップコンピュータまで、様々な用途のために電力を提供するために用いられてもよい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、マイクロ波アニールを実施されたイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質を含むコーティング、フィルム、および膜を製造するための方法および装置に関する。また、本発明は、マイクロ波アニールを実施されたイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質を含むコーティング、フィルム、および膜を用いて製造された物品に関する。
【0005】
本明細書において「マイクロ波アニール」は、材料のコーティングをマイクロ波放射線に曝すプロセスとして定義される。このプロセスの間、分散体中ではっきり識別することができると共にキャストまたはコートされた膜中ではっきり識別することができる状態のままであり、かつ融合して低減されたまたは好ましくは消失された境界を有する連続した固相を形成する、コーティングまたはポリマー粒子の液体成分の蒸発などの物理的変化が材料中に起こる場合がある。コーティングのポリマー成分中の結晶相のサイズおよび数の変化またはコーティングのイオン含有ポリマー成分のイオン性基の集合体の再配置などの他の変化が起こる場合がある。
【0006】
本明細書において「熱アニール」は、材料のコーティングを(例えば、炉内で)熱に曝すプロセスとして定義される。マイクロ波アニールまたは熱アニールのどちらも典型的にコーティングの物理的性質を改良する。
【0007】
本明細書において「コーティング」は、ポリマー成分を含む基材上の乾燥または液体含有層として定義される。用語「コーティング」は、用語「キャスチング」と同義である。
【0008】
本発明の実施態様によると、フィルムの製造方法は、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質のコーティングを提供する工程と、前記コーティングをマイクロ波アニールしてフィルムを形成する工程とを含む。前記コーティングをマイクロ波アニールする工程は、前記コーティングがフィルム形成温度に達するかまたはそれを超えるために十分な時間の間、前記コーティングをマイクロ波放射線に曝す工程を含む場合がある。また、前記コーティングをマイクロ波アニールする工程は、前記コーティングの溶剤を優先的に励起するかまたはコーティング中の水を優先的に励起するマイクロ波放射線に前記コーティングを曝す工程を含む場合がある。前記コーティングをマイクロ波アニールする工程は、前記コーティングのポリマー官能基を優先的に励起するマイクロ波放射線に前記コーティングを曝す工程を含む場合がある。
【0009】
本発明の方法は、コーティングをライナー上に提供する工程と、前記ライナー上にある間に前記コーティングをマイクロ波アニールしてフィルムを前記ライナー上に形成する工程とを含む場合がある。前記イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質は、例えば、芳香族ポリマー、フルオロポリマー、スルホネート官能基を有するフルオロポリマー、またはフルオロポリマーラテックスから誘導されたフルオロポリマーを含んでもよい。
【0010】
別の実施態様によると、燃料電池の膜電極アセンブリに使用するためのイオン含有膜を製造する方法は、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質の溶液をコートして前記膜電極アセンブリの膜を形成する工程と、前記膜をマイクロ波アニールする工程とを含む。膜は、例えば、PEMを含んでもよく、それは燃料電池アセンブリに組み込まれてもよい。
【0011】
さらに別の実施態様によると、燃料電池のMEAの製造に使用するためのサブアセンブリは、イオン含有ポリマーを含む膜と、前記膜と接触しているライナーとを備えてもよい。ライナーは、膜に対応するフィルム形成温度にほぼ等しいかそれより低い上限使用温度を有してもよい。膜はPEMを含んでもよい。ライナーは、例えば、ポリオレフィンを含んでもよい。さらに別の例として、ライナーは、ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、またはフルオロポリマーから形成されてもよい。ライナーの上限使用温度は典型的に約80℃〜約300℃の範囲である。
【0012】
本発明の上記の概要は、本発明の各々の実施態様または全ての実施について記載することを意図しない。本発明をより完全に理解することによって、利点および達成は明らかになり、添付した図面と併せて以下の詳細な説明および特許請求の範囲を参照することによって理解される。
【0013】
本発明は様々な改良および別の形態をとることが可能であるが、その詳細は図面において例示され、詳細に記載される。しかしながら、本発明を記載された特定の実施態様に限定するものではないことを理解されたい。反対に、添付された特許請求の範囲によって定義された本発明の範囲内にある全ての改良、等価物、および代替物を包含することが意図される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
具体的な実施態様の以下の説明において、その一部を成す、本発明を実施することができる様々な実施態様が実例として示される添付した図面が参照される。実施態様を利用してもよく、本発明の範囲から逸脱せずに構造の変更を行なってもよいことを理解されたい。
【0015】
本発明の態様は一般に、燃料電池アセンブリのための膜に関連して説明される。本発明による製造方法は燃料電池アセンブリのための膜製造の場合に特に有利であるが、本発明の原理は、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質のコーティング、フィルム、またはキャストが所望の性質を達成するためにマイクロ波アニールから利点を得ることができる多種多様な用途において実施されてもよいことは理解されよう。したがって、以下に説明された特定の実例となる実施態様は説明を意図するものであり、限定を意図するものではない。
【0016】
ポリマー電解質またはポリマー電解質前駆物質は最初に、懸濁液または溶液から適した形状に、好ましくは薄い層にキャスト、コートあるいは他の方法で形成される。バーコーティング、吹付けコーティング、スリットコーティング、ブラシコーティング、溶剤キャスチングまたは他の形成物、溶剤をライナーまたはキャリア上に押し出すことにより得られる形成物、噴霧あるいは他の方法で溶剤をライナーまたはキャリア上に堆積することにより得られる形成物などがあるがそれらに限定されないコーティングまたはキャスチングのいかなる適した方法を用いてもよい。
【0017】
膜電極アセンブリに使用するために製造された膜は、例えば、比較的高い温度において熱アニールを実施されてもよいことは公知である。膜製造のこのような方法の例は、本願と同一の所有者によって所有された米国特許第6,649,295号明細書に記載されている。熱アニール方法は優れた機械的性質を有する膜を製造するが、膜の熱アニールは複雑な方法であり、他の理由のなかでも、使用される高温のために規模を拡大するのが難しいことが確認されている。
【0018】
本発明の原理によるコートされた膜のマイクロ波アニールは、通常の熱アニール方法を用いて製造された膜と少なくとも同等である、優れた耐破壊性などの優れた機械的性質を有する膜を良好に製造することが示されている。本発明の原理によるコートされた膜のマイクロ波アニールは、例えば、熱アニールに比べたときに複雑さの低減された膜製造方法を提供する。さらに、本発明によるコートされた膜のマイクロ波アニールは、このような膜の大量生産を容易にすることができる。さらに、(特定の温度において大きな容積を加熱しなければならない)比較的非効率的な通常の熱アニール炉を高効率的マイクロ波放射線源と取り換えることによってかなりの省エネルギーが達成可能である。本発明の他の実施態様は、コーティングのマイクロ波および熱アニールならびに乾燥の組合せをさらに含んでもよい。
【0019】
図1に戻ると、本発明の実施態様によってフィルムの製造方法を説明する一般化された工程系統図が示される。図1に示された方法によるフィルムの製造方法は、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質のコーティングを提供する10工程を含む。コーティングは、マイクロ波放射線を用いてアニールを実施される12。イオン含有ポリマー前駆物質は、イオン性基に変換されうる基を含むポリマーを指すことが意図される。用語コーティングは、バーコーティング、吹付けコーティング、スリットコーティング、ブラシコーティング、溶剤キャスチングまたは他の形成物、溶剤をライナーまたはキャリア上に押し出すことにより得られる形成物、噴霧あるいは他の方法で溶剤をライナーまたはキャリア上に堆積することにより得られる形成物などを指すことが意図される。
【0020】
図1によるフィルムの製造方法は、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質を熱アニールする工程をさらに含んでもよい。また、図1によるフィルムの製造方法は、コーティングを乾燥させる工程をさらに有してもよい。
【0021】
図2は、本発明の実施態様によってフィルムの製造方法を説明する一般化された工程系統図である。図2に説明された方法によって、ライナーが提供され20、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質のコーティングがライナー上に提供される22。コーティングにマイクロ波アニールを実施して24ライナー上にフィルムを形成する。ライナー上のコーティングのマイクロ波アニールを使用するフィルム製造方法は、連続フィルム製造プロセスまたは、代わりに、バッチ製造プロセスの一部として実施可能である。
【0022】
本発明によってコーティング、フィルム、および膜を製造するためにマイクロ波アニールを実施してもよい適したイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質には、芳香族ポリマー、フルオロポリマー、スルホネート官能基を有するフルオロポリマー、ナフィオン(Nafion)(登録商標)(デラウェア州、ウィルミントンのデュポン・ケミカルズ(DuPont Chemicals,Wilmington,Del.))、およびフレミオン(Flemion)(登録商標)(日本、東京の旭硝子株式社)などがある。これらには、次式の側基:YOSO2−CF2−CF2−O−CF(CF3)CF2−O−[ポリマー主鎖](Yはカチオンである)、次式の側基:YOSO2−CF2−CF2−CF2−CF2−O−[ポリマー主鎖](Yはカチオンである)、または次式の側基:YOSO2−(CF2n−O−[ポリマー主鎖](各nが独立に2〜5である)を含んでもよいイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質がある。適したイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質はフルオロポリマーラテックスから誘導されたフルオロポリマーを含んでもよい。
【0023】
適したイオン含有ポリマー前駆物質は、スルホニルフルオリドまたはクロリド基を含んでもよい。スルホニルフルオリド基を含むこのようなイオン含有ポリマー前駆物質の特定の例は、FSO2−CF2−CF2−CF2−CF2−O−[ポリマー主鎖]である。適したイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質は、約1200より小さい当量および約80℃〜約155℃のガラス転移温度(Tg)を有するポリマーまたはポリマーのブレンドを含んでもよい。適したイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質は、約700〜約1200の当量を有してもよい。
【0024】
適したイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質の詳細およびさらなる説明は、本願と同一の所有者によって所有された米国特許第6,649,295号明細書および米国特許第6,624,328号明細書、米国特許出願公開第20040121210号明細書、2003年10月30日に出願された米国特許出願第10/697,768号明細書、および2003年10月30日に出願された米国特許出願第10/697,831号明細書に開示されている。
【0025】
本発明によるコートされた膜をマイクロ波アニールする著しい利点は、熱アニール方法に必要とされるもっと高価なライナーとは対照的に、比較的高価でないライナーの使用を含む。通常の熱アニール方法において用いられるライナーまたはキャリアは、比較的高価な高温材料から製造されなければならず、例えば、200℃までの炉温度に耐えなければならない。
【0026】
本発明のマイクロ波アニールと共に用いられたライナーまたはキャリアは、対照的に、ずっと低い上限使用温度を有するそれほど高価でない材料から形成することができる。例えば、ライナーは、膜に対応するフィルム形成温度にほぼ等しいかそれより低い上限使用温度を有してもよい。このようなライナーを熱アニール方法において使用することはできない。このようなフィルム形成温度(またはガラス転移温度)は約80℃程度であってもよく、典型的に約80℃〜200℃の範囲である。特定のプロセスにおいて、フィルム形成温度は約300℃の上限の範囲を有することができることが指摘される。適したライナーまたはキャリアには、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、およびフルオロポリマーなどがあるがそれらに限定されないポリマー材料から製造されたライナーまたはキャリアがある。
【0027】
図3に戻ると、本発明の実施態様によって燃料電池の膜電極アセンブリに使用するためのイオン含有膜を製造するための装置が示される。図3の簡略図は、膜電極アセンブリに使用するための膜を大量生産することができる連続膜製造プロセスを示す。装置50は、駆動装置58によって駆動される連続ロール製品ライナー52を備える。また、装置50は、バーコーター、吹付けコーター、スリットコーター、ブラシコーター、または他の溶液キャスチングデバイス56を備える。溶液または懸濁液をライナー52上に分配する前に剥離剤をライナー52に適用してもよい。溶液または懸濁液は、前に記載されたタイプのイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質を含む。膜54は、マイクロ波放射線源55下でライナー52のコントローラー移動によって輸送される。膜54は、マイクロ波放射線源55下で輸送され、マイクロ波アニールを実施される。マイクロ波放射線源は膜に対して他の方向付け(例えば、膜の下)でありうることは理解されるはずである。マイクロ波アニールされた膜54は、さらに別の取扱または加工のために次の位置(図示せず)に輸送される。
【0028】
膜54の効率的および有効なマイクロ波アニールを容易にする様々な方法においてマイクロ波放射線源55を調整してもよい。例えば、マイクロ波放射線源55を調整して、イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質を含む溶液または懸濁液の液体成分を優先的に励起してもよい。さらに別の例として、マイクロ波放射線源55を調整して、溶液または懸濁液中の水を優先的に励起してもよい。別の例において、マイクロ波放射線源55を調整して、溶液または懸濁液のポリマーの官能基を優先的に励起してもよい。さらに別の例において、マイクロ波放射線源55を調整して、キャスト膜54が上で輸送されるライナーまたはキャリアの或る特徴を励起してもよい。
【0029】
上に簡潔に示されたように、本発明の原理によるキャスト膜のマイクロ波アニールは、以下の実施例および図4に示されるように、通常の熱アニール方法を用いて製造された膜と少なくとも同等である、優れた耐破壊性などの優れた機械的性質を有する膜を良好に製造することが示されている。
【実施例】
【0030】
980の当量を有する、テトラフルオロエチレンおよびFSO2−(CF24−O−CF=CF2モノマー(MV−4S)から製造されたペルフルオロイオノマーコポリマーを用いて膜試料を作製した。MV−4Sモノマーの調製は、本願と同一の所有者によって所有されたおよび前に援用された米国特許第6,624,328号明細書に記載されている。ポリマーの調製は、本願と同一の所有者によって所有された米国特許出願公開第20040121210号明細書に記載されている。膜試料の調製は、本願と同一の所有者によって所有された米国特許出願公開第20040121210号明細書に記載されているように、コーター装置上でコーティングし、160℃において熱アニールすることを必要とした。
【0031】
(AGLデータポイントとして図4に示された)一組の膜試料を200℃の油加熱されたラミネーター上でライナーから熱アニールした。同じ膜の多数のパスは異なったアニール時間を生じた。別の組の膜試料を様々な時間、アマナ(Amana)モデル♯RFS9Bマイクロ波炉(アイオワ州、ニュートンのメイタグ・コーポレーションのアマナ事業部(Amana,division of Maytag Corporation,Newton,Iowa))内でライナーからマイクロ波アニールした。
【0032】
耐破壊性の値は、5ポンドのロードセルおよび10ミクロンの先端を用いて測定された。データを図4にプロットし、それは、ラミネーターで熱アニールされた膜(図4のALGデータ)とマイクロ波アニールされた膜(図4のマイクロ波データ)とについて時間の関数として耐破壊性を示す。図4のデータは、ラミネーター(すなわち、「ホットカン」)で熱アニールを実施された膜に比較してマイクロ波アニールを実施された膜の同様なまたは優れた耐破壊性を示す。
【0033】
本発明によってマイクロ波アニールを用いて製造された膜を様々なタイプ、構成、および技術の燃料電池アセンブリおよび積層体に組み込んでもよい。典型的な燃料電池が図5に示される。燃料電池は、水素燃料と空気からの酸素とを組み合わせて電気、熱、および水を生じる電気化学デバイスである。燃料電池は燃焼を利用せず、それ故に、燃料電池は危険な流出物をもしあるとしてもほとんど生じない。燃料電池は水素燃料および酸素を直接に電気に変換し、例えば内燃機関よりもずっと高い効率において作動されうる。
【0034】
図5に示された燃料電池110は、アノード114に隣接した第1の拡散体/集電体(DCC)112を備える。電解質膜116はアノード114に隣接している。カソード118は電解質膜116に隣接して配置され、第2の拡散体/集電体119はカソード118に隣接して配置される。作動時に、水素燃料が燃料電池110のアノード部分に導入され、第1の拡散体/集電体112を通過し、アノード114の上を通る。アノード114において、水素燃料は水素イオン(H+)と電子(e-)とに分離される。
【0035】
電解質膜116は、水素イオンまたはプロトンだけを電解質膜116を通過させ、燃料電池110のカソード部分に到達させる。電子は、電解質膜16を通過することができず、代わりに、電流の形で外部電気回路を通って流れる。この電流は電気モーターなどの電気負荷117に電力供給することができ、または再充電可能なバッテリーなどのエネルギー蓄積デバイスに誘導されてもよい。
【0036】
PEM燃料電池において用いられたPEMは典型的に、水素イオンがそれを通過することを可能にするが気体反応体を分離する薄い固体ポリマー電解質シートである。膜は典型的に、活性触媒である高分散された金属または金属合金粒子(例えば、白金または白金/ルテニウム)を両面にコートされる。PEMの膜は好ましくは、本発明の原理によってマイクロ波アニールを使用して製造されたイオン含有ポリマーから形成される。MEAは、水素燃料電池などのPEM燃料電池の中心要素である。上に記載したように、典型的なMEAは、固体電解質として作用する、ポリマー電解質膜(PEM)(イオン導電性膜(ICM)としても公知である)を含む。
【0037】
酸素は、第2の拡散体/集電体119経由で燃料電池110のカソード側に流入する。酸素がカソード118の上を通るとき、酸素、プロトン、および電子が組み合わさって水および熱を生じる。
【0038】
また、DCCはガス拡散層(GDL)と呼ばれてもよい。アノードおよびカソード電極層は、それらが完成MEAにおいてPEMとDCCとの間に配置される限り、製造する間にPEMにまたはDCCに適用されてもよい。有用なPEM厚さは約200μm〜約15μmの範囲である。PEMは好ましくは、上に記載されたタイプのイオン含有ポリマー膜を組み込む。
【0039】
いかなる適したDCCを本発明の実施において用いてもよい。典型的に、DCCは、炭素繊維を含むシート材料からなる。DCCは典型的に、織および不織炭素繊維構造物から選択された炭素繊維構造物である。本発明の実施において有用である場合がある炭素繊維構造物には、東レ(Toray)カーボン紙、スペクトラカーブ(SpectraCarb)カーボン紙、AFN不織炭素布、ゾルテック(Zoltek)炭素布等が挙げられる。炭素粒子コーティング、親水化処理、および疎水化処理、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)によるコーティングなど、様々な材料でDCCをコートまたは含浸してもよい。
【0040】
白金黒または微粉、(米国特許出願公開第20040107869号明細書に記載されているような)炭素担持触媒粒子を含有するインク、または(米国特許第6482763号明細書および米国特許第5879827号明細書に記載されているような)ナノ構造化薄フィルム触媒など、いかなる適した触媒を本発明の実施において用いてもよい。ハンドブラッシング、ノッチバーコーティング、流体支持ダイコーティング、ワイヤー捲回ロッドコーティング、流体支持コーティング、スロット供給ナイフコーティング、三本ロールコーティング、またはデカルコマニア転写など、手および機械による方法の両方を含めて、いかなる適した手段によって触媒をPEMまたはDCCに適用してもよい。コーティングは1回の適用においてまたは多数の適用において達成されてもよい。
【0041】
図5に示されるような個々の燃料電池をユニット化された燃料電池アセンブリとしてパッケージ化することができる。本明細書においてユニット化された電池アセンブリ(UCA)と称されるユニット化された燃料電池アセンブリを多数の他のUCAと組み合わせて燃料電池積層体を形成することができる。UCAは、積層体の全電圧を決定する積層体内のUCAの数と直列に電気接続されてもよく、電池の各々の活性表面積が全電流を決定する。所与の燃料電池積層体によって発生された全電力は、全積層体電圧を全電流で乗じることによって求められる。
【0042】
本発明のUCAパッケージング手順を用いてPEM燃料電池アセンブリを構成することができる。PEM燃料電池は、高電力密度を有し、それらの出力を急速に変化させて電力需要のシフトを達成することができ、自動車など、急速な始動が必要とされる用途に適している。
【0043】
図6を参照して、上に記載されたタイプのイオン含有ポリマー膜を組み込む、PEM燃料電池技術によって実施されたUCAの実施態様が示される。図6に示されるように、UCA120のMEA125は5つの構成層を備える。PEM層122はDCC層124と126、または例えばガス拡散層(GDL)との間に挟まれる。アノード触媒130は第1のDCC124とイオン含有ポリマー膜122との間に配置され、カソード触媒132は膜122と第2のDCC126との間に配置される。
【0044】
1つの構成において、PEM層122は、アノード触媒コーティング130を一方の表面上におよびカソード触媒コーティング132を他方の表面上に備えるように製造される。この構造体はしばしば、触媒被覆膜またはCCMと称される。別の構成によると、第1および第2のDCC124、126は、それぞれ、アノードおよびカソード触媒コーティング130、132を備えるように製造される。
【0045】
DCC124、126は典型的に、炭素繊維紙または不織材料または織布から製造される。製品の構造に応じて、DCC124、126は炭素粒子コーティングを一方の面に有することができる。DCC124、126は、上に記載したように、触媒コーティングを備えるかまたは取り除くように製造することができる。
【0046】
図6に示された特定の実施態様において、MEA125は第1のエッジシールシステム134と第2のエッジシールシステム136との間に挟まれて示される。エッジシールシステム134、136はUCAパッケージ内の必要なシーリングを提供して様々な流体(ガス/液体)輸送および反応領域を互いに汚染することからおよびUCA120を不適当に出ることから切り離し、フローフィールドプレート140、142の間の電気的絶縁およびハードストップ圧縮制御をさらに提供することができる。
【0047】
フローフィールドプレート140および142は、それぞれ、第1および第2のエッジシールシステム134および136に隣接して配置される。フローフィールドプレート140、142の各々は、ガスフローチャネル143のフィールドと水素および酸素供給燃料が通過する孔とを備える。フローフィールドプレート140、142はまた、冷却材チャネルおよび孔を組み込んでもよい。冷却材チャネルは、ガスフローチャネル143を組み込む表面の反対側のフローフィールドプレート140、142の表面上に組み込まれる。
【0048】
図6に示された構成において、フローフィールドプレート140、142は単極フローフィールドプレートとして構成され、そこで単一MEA125はその間に挟まれる。このおよび他の実施態様においてフローフィールドは、本願と同一の所有者によって所有された米国特許出願公開第20030059662号明細書に開示されているように低い横フラックスフローフィールドであってもよい。1つまたは複数の二極フローフィールドプレートを使用して多数のMEA125を組み込むようにUCAまたは多電池アセンブリ(MCA)を実施してもよいことは理解される。このようなUCAまたはMCAは、一体冷却チャネルを組み込む二極フローフィールドプレートを組み込んでもよい。
【0049】
図5および6に示された構成は、本発明によってマイクロ波アニールを用いて製造されたイオン含有ポリマー膜を組み込む燃料電池アセンブリに関して使用するために実施可能な2つの特定の配列を表す。これらの2つの配列はあくまで説明目的のために提供され、本発明の範囲内にある全ての可能な構成を示すことを意図しない。
【0050】
本発明の実施態様の前述の説明は例示および説明の目的のために示されている。それは完全であることまたは開示された正確な形態に本発明を限定することを意図しない。上述の教示を考慮に入れて多くの改良および変型が可能である。本発明の範囲はこの詳細な説明によってではなく、これに添付された特許請求の範囲によって限定されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施態様によってイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質のコーティングをマイクロ波アニールする工程を含むフィルムの製造方法を説明する工程系統図である。
【図2】本発明の実施態様によってイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質のコーティングをマイクロ波アニールする工程を含む、ライナー上にフィルムを製造する方法を説明する工程系統図である。
【図3】本発明の実施態様によってイオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質のキャスト溶液のマイクロ波アニールを使用してキャスト膜をライナー上に形成する、燃料電池の膜電極アセンブリに使用するためのイオン含有膜を製造するための装置を示す。
【図4】通常の熱アニール方法を用いて製造された膜の試験試料と本発明によってマイクロ波アニールを用いて製造された膜の試料とで行われた比較破壊試験データのグラフ図である。
【図5】本発明の実施態様によってマイクロ波アニールを用いて製造されたイオン含有膜を組み込んでもよい燃料電池およびその成分層の図である。
【図6】本発明の実施態様によってマイクロ波アニールを用いて製造されたイオン含有膜を組み込んでもよい単極フローフィールドプレートを有するユニット化された電池アセンブリを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質を含むコーティングを提供する工程と、
前記コーティングをマイクロ波アニールする工程とを含む、フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記コーティングをアニールする工程が、前記コーティングがフィルム形成温度に達するかまたはそれを超えるために十分な時間の間、前記コーティングをマイクロ波放射線に曝す工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティングをマイクロ波アニールする工程が、前記コーティングの液体成分を優先的に励起するマイクロ波放射線に前記コーティングを曝す工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングをマイクロ波アニールする工程が、前記コーティング中の水を優先的に励起するマイクロ波放射線に前記コーティングを曝す工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングをマイクロ波アニールする工程が、前記コーティングのポリマーの官能基を優先的に励起するマイクロ波放射線に前記コーティングを曝す工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記コーティングをライナー上に提供する工程と、前記コーティングをマイクロ波アニールしてフィルムを前記ライナー上に形成する工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質が芳香族ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質がフルオロポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質が、スルホネート官能基を有するフルオロポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質が、フルオロポリマーラテックスから誘導されたフルオロポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質を熱アニールする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記コーティングを乾燥させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
イオン含有ポリマーまたはイオン含有ポリマー前駆物質の溶液または懸濁液をコートして膜電極アセンブリの膜を形成する工程と、
前記膜をマイクロ波アニールする工程とを含む、燃料電池の膜電極アセンブリに使用するためのイオン含有膜を製造する方法。
【請求項14】
前記膜がプロトン交換膜を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記膜をマイクロ波アニールする工程が、前記コーティングがフィルム形成温度に達するかまたはそれを超えるために十分な時間の間、前記膜を前記マイクロ波放射線に曝す工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記膜をマイクロ波アニールする工程が、前記溶液の液体成分を優先的に励起するマイクロ波放射線に前記キャスト膜を曝す工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記キャスト膜をマイクロ波アニールする工程が、前記溶液中の水を優先的に励起するマイクロ波放射線に前記キャスト膜を曝す工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記キャスト膜をマイクロ波アニールする工程が、前記溶液の前記ポリマーの官能基を優先的に励起するマイクロ波放射線に前記キャスト膜を曝す工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記キャスト膜をマイクロ波アニールする工程が、連続製造方法によって前記キャスト膜をマイクロ波アニールする工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記溶液または懸濁液をコートする工程が、前記溶液をライナー上にコートする工程を含み、
前記キャスト膜をマイクロ波アニールする工程が、前記ライナー上にあるキャスト膜をマイクロ波アニールする工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
請求項13に記載の方法によって製造された膜を含む膜電極アセンブリ。
【請求項22】
膜が請求項13に記載の方法によって製造された膜電極アセンブリを含む燃料電池。
【請求項23】
イオン含有ポリマーを含む膜と、
前記膜と接触している、前記膜に対応するフィルム形成温度にほぼ等しいかそれより低い上限使用温度を有するライナーとを含む、燃料電池の膜電極アセンブリを製造するときに使用するためのサブアセンブリ。
【請求項24】
前記膜がプロトン交換膜を含む、請求項23に記載のサブアセンブリ。
【請求項25】
前記ライナーがポリオレフィンを含む、請求項23に記載のサブアセンブリ。
【請求項26】
前記ライナーが、ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、およびフルオロポリマーからなる群から選択された材料から形成される、請求項23に記載のサブアセンブリ。
【請求項27】
前記フィルム形成温度が約80℃〜約300℃の範囲である、請求項23に記載のサブアセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−525990(P2008−525990A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549447(P2007−549447)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/045759
【国際公開番号】WO2006/071589
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】