説明

燃料電池システム、および、燃料電池システムの制御方法

【課題】燃料電池の運転停止時に掃気処理をおこなう燃料電池システムにおいて、運転停止動作による燃料電池システム全体の効率(燃費)の低下や、電解質膜等の劣化等の不具合の発生を抑制する技術を提供する。
【解決手段】燃料電池システム10は、燃料電池100と、燃料電池の電気的特性を測定する測定部530,540と、燃料電池を制御する制御部600と、を備え、制御部は、燃料電池の運転を停止させるための信号を受信すると、燃料電池の内部に存在する水分を燃料電池の外部に排出させるための掃気処理をおこない、掃気処理の後に、燃料電池の電圧を降下させて、電圧の降下時における電気的特性を測定し、その測定結果を用いて燃料電池の内部に存在する液水の量を示す含水量を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム、および、燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、運転停止後の電池内部に生成水などの水がある程度以上存在していると、氷点下での再始動時(氷点下始動時)の始動性が低下することが知られている。そのため、燃料電池の運転停止後に電池内部の水を排出するための掃気処理を実行する燃料電池システムが知られている。また、掃気処理を実行するにあたって、電池内部に存在する水の量(含水量)を推定し、推定された含水量に応じて掃気時間や掃気ガスの流量等の掃気内容を変更する燃料電池システムが知られている。
【0003】
燃料電池の含水量を推定する方法については、従来から、燃料電池のインピーダンスから推定する方法が知られている(特許文献1)。また、燃料電池の運転時に、燃料電池に供給されるガスや、燃料電池から排出されるガスの流量、圧力、温度等から推定する方法が知られている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−135341号公報
【特許文献2】特開2007−052936号公報
【特許文献3】特開2007−052937号公報
【特許文献4】特開2005−085537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、燃料電池のインピーダンスによって含水量を推定するためには、燃料電池の内部を十分に乾燥させる必要があるため、乾燥に時間がかかる問題や、乾燥に要する消費電力が大きいために、燃料電池システム全体の効率(燃費)が低下する問題があるほか、過度の乾燥によって電解質膜等を劣化させる問題があった。また、燃料電池の運転時に、燃料電池に供給されるガスや、燃料電池から排出されるガスの流量、圧力、温度等から含水量を推定する燃料電池システムでは、推定された含水量と実際の含水量との間に誤差が発生しやすい問題があった。推定された含水量と実際の含水量との間に誤差が生じると、掃気を必要以上におこなうことによって消費電力が増大する問題や、電解質膜等が劣化する問題があるほか、掃気が足りないことによって氷点下始動性が低下する問題等があった。このように、燃料電池の運転停止時に掃気処理をおこなう燃料電池システムにおいて、燃料電池の運転を停止させるときに実行される動作(運転停止動作)については、なお、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池の運転停止時に掃気処理をおこなう燃料電池システムにおいて、運転停止動作による燃料電池システム全体の効率(燃費)の低下や、電解質膜等の劣化等の不具合の発生を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本願発明は、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池の電気的特性を測定する測定部と、
前記燃料電池を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の運転を停止させるための信号を受信すると、前記燃料電池の内部に存在する水分を燃料電池の外部に排出させるための掃気処理をおこない、前記掃気処理の後に、前記燃料電池の電圧を降下させて、前記電圧の降下時における前記電気的特性を測定し、その測定結果を用いて前記燃料電池の内部に存在する液水の量を示す含水量を推定する、燃料電池システム。
【0009】
この構成によれば、燃料電池システムは、掃気処理をおこなった後に、燃料電池の電圧を降下させることによって燃料電池の含水量を推定するため、運転停止動作による不具合の発生を抑制することができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記含水量が許容値を超えている場合には、さらに掃気処理をおこない、
前記含水量が許容値以下なら掃気処理をおこなわずに停止する、燃料電池システム。
【0011】
この構成によれば、燃料電池システムは、推定した含水量に応じて掃気処理をおこなうため、運転停止動作による不具合の発生を抑制することができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
(i)前記燃料電池の電圧を降下させたときに発生する電流を測定し、測定した電流の積算値から電気量を算出する第1の処理と、
(ii)前記電気量に基づいて、前記電圧の降下の直前において前記燃料電池の内部に存在する反応ガスの物質量を算出する第2の処理と、
(iii)前記反応ガスの物質量から前記燃料電池の内部に存在するガスの体積を算出する第3の処理と、
(iv)前記ガスの体積から前記燃料電池の内部に存在する液水の体積を算出することによって、前記含水量を推定する第4の処理と、を実行する、燃料電池システム。
【0013】
この構成によれば、燃料電池システムは、掃気処理をおこなった後に、燃料電池の電圧を降下させたときに発生する電流を積算して燃料電池の含水量を推定するため、運転停止動作による不具合の発生を抑制することができる。
【0014】
[適用例4]
適用例3に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記燃料電池から発生する電流および前記燃料電池へのガス流入量を含む前記燃料電池の運転状態に関する情報を取得して、前記情報に応じて、前記燃料電池の内部に存在する空気の組成比の補正をおこない、
前記第3の処理において、補正された前記組成比を用いて、前記反応ガスの物質量から前記燃料電池の内部に存在するガスの体積を算出する、燃料電池システム。
【0015】
この構成によれば、燃料電池システムは、含水量の推定をおこなう前の燃料電池の運転状態に応じて、含水量の推定に用いられる空気の組成比を補正するため、含水量の推定精度の低下を抑制することができる。
【0016】
[適用例5]
適用例3または適用例4に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記第1〜第4の処理を用いた第1の方法によって推定された前記含水量と、前記第1の方法とは異なる第2の方法によって推定された前記含水量との差異に応じて、前記燃料電池に含まれる触媒の還元によって生じる電気量の補正をおこない、
前記第2の処理において、補正された前記電気量を用いて、前記燃料電池の内部に存在する反応ガスの物質量を算出する、燃料電池システム。
【0017】
この構成によれば、燃料電池システムは、異なる推定方法によって推定された2つの含水量の差異に応じて、含水量の推定に用いられる電気量を補正するため、含水量の推定精度の低下を抑制することができる。
【0018】
[適用例6]
適用例5に記載の燃料電池システムにおいて、
前記第2の方法とは、電解質を含む前記燃料電池の構成部材の抵抗によって、前記含水量を推定する方法である、燃料電池システム。
【0019】
この構成によれば、燃料電池システムは、電解質を含む燃料電池の構成部材の抵抗によって、含水量を推定するため、触媒の還元によって生じる電気量の補正精度の向上を図ることができる。
【0020】
[適用例7]
適用例3ないし適用例6のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記燃料電池の内部に設けられたガス流路の圧損に応じて、前記ガス流路の体積の補正をおこない、
前記第3の処理において、補正された前記ガス流路の体積を用いて、前記反応ガスの物質量から前記燃料電池の内部に存在するガスの体積を算出する、燃料電池システム。
【0021】
この構成によれば、燃料電池システムは、ガス流路の圧損に応じて、含水量の推定に用いられるガス流路体積を補正するため、含水量の推定精度の低下を抑制することができる。
【0022】
[適用例8]
適用例1ないし適用例7のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、前記燃料電池の温度および前記燃料電池へのガス流入量を含む前記燃料電池の運転状態に関する情報を取得して、前記情報から掃気処理前における前記含水量を推定し、前記掃気処理をおこなうときに、掃気処理前に推定された前記含水量に応じて、掃気の内容を変更する、燃料電池システム。
【0023】
この構成によれば、燃料電池システムは、掃気処理をおこなう前に、燃料電池の電圧を降下させることによって燃料電池の含水量を推定する方法以外の方法によって、燃料電池の含水量を推定するため、運転停止動作による不具合の発生を抑制することができる。
【0024】
[適用例9]
適用例1ないし適用例7のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、前記掃気処理をおこなうときに、電解質を含む前記燃料電池の構成部材の抵抗に応じて、掃気の内容を変更する、燃料電池システム。
【0025】
この構成によれば、燃料電池システムは、掃気処理をおこなう前に、燃料電池の電圧を降下させることによって燃料電池の含水量を推定する方法以外の方法によって、燃料電池の含水量を推定するため、運転停止動作による不具合の発生を抑制することができる。
【0026】
[適用例10]
適用例9に記載の電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記抵抗が所定値以下の場合に、前記掃気処理をおこない、前記掃気処理の後に、前記含水量を推定し、
前記抵抗が所定値を超える場合には、前記掃気処理をおこなわない、燃料電池システム。
【0027】
この構成によれば、燃料電池システムは、電解質を含む燃料電池の構成部材の抵抗が所定値を超える場合は、燃料電池の内部に存在する水分を燃料電池の外部に排出させるための掃気処理をおこなわないため、運転停止動作による不具合の発生を抑制することができる。
【0028】
[適用例11]
適用例1ないし適用例10のいずれかに記載の電池システムにおいて、
前記燃料電池の運転停止時に、前記燃料電池の内部において燃料ガスが電解質膜を透過することによって生じる電圧降下の速度を第1の電圧降下速度としたときに、
前記制御部は、前記燃料電池の電圧を降下させるときの速度である第2の電圧降下速度を、前記第1の電圧降下速度の2倍以上の速さにする、燃料電池システム。
【0029】
この構成によれば、燃料電池システムは、含水量を推定するときの電圧降下速度が、燃料電池の運転停止時のクロスオーバーによって生じる電圧降下速度の2倍以上となっているため、含水量の推定精度の向上を図ることができる。
【0030】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システムを備える車両、燃料電池を制御する制御装置、燃料電池システムの制御方法などの形態で実現することができる。また、本発明に係る燃料電池システム等は、適宜、他の部材と組み合わせて適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】本実施例で用いられる電圧降下時の含水量の推定方法を説明するための説明図である。
【図3】含水量推定処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図4】運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図5】本実施例の効果の一例を説明するための説明図である。
【図6】従来例における運動停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図7】第2実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図8】第2実施例における運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図9】第2実施例の変形例における運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図10】第3実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図11】第3実施例における運転停止動作を含む燃料電池システムの運転動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図12】第4実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図13】OCV回避運転を説明するための説明図である。
【図14】第4実施例における運転停止動作を含む燃料電池システムの運転動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図15】第5実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図16】第5実施例における運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図17】触媒の比表面積の低下要因と低下率との関係を説明するための説明図である。
【図18】第5実施例の変形例における補正処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図19】第6実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図20】カソードガス流路の体積の減少を説明するための説明図である。
【図21】燃料電池に供給される空気の流量とカソードガス流路の圧損との関係を説明するための説明図である。
【図22】カソードガス流路の断面積とカソードガス流路の圧損との関係を説明するための説明図である。
【図23】第6実施例における運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図24】変形例1に係る含水量の推定方法を説明するための説明図である。
【図25】電圧降下処理における電圧降下速度を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
A.第1実施例:
A−1.燃料電池システムの構成:
図1は、第1実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。燃料電池システム10は、駆動用電源を供給するためのシステムとして、燃料電池自動車や電気自動車等に搭載されて使用される。燃料電池システム10は、燃料電池100と、燃料ガス供給排出系200と、酸化ガス供給排出系300と、燃料電池循環冷却系400と、電力充放電系500と、制御装置600とを備えている。
【0033】
燃料電池100は、複数の燃料電池セル110を積層したスタック構造を有している。燃料電池セル110は、電解質膜を挟んで設けられるアノード側触媒電極層に供給される燃料ガス(水素)と、カソード側触媒電極層に供給される酸化ガス(空気に含まれる酸素)との電気化学反応により電力を発生する。燃料電池100は、固体高分子電解質膜等の種々の電解質膜を用いた燃料電池セルにより構成することができる。なお、本例では、固体高分子電解質膜を用いた燃料電池を用いている。また、触媒電極層は、触媒、例えば、白金(Pt)を担持したカーボン粒子や電解質を含んで構成される。燃料電池100は、積層された燃料電池セル110の両端に、総合電極としての2つのターミナルプレート111が配置されている。
【0034】
燃料ガス供給排出系200は、水素タンク210と、流量調整部220と、循環コンプレッサ240と、気液分離部250と、切換弁260と、を備えている。燃料ガス供給排出系200は、燃料電池100を構成する各燃料電池セル110のアノード側触媒電極層(以後、単に「アノード」とも呼ぶ)に、水素タンク210から、流量調整部220、燃料ガス供給流路231を介して、燃料ガスである水素を供給する。この際、流量調整部220は、制御装置600からの指示に従った流量および圧力で水素を燃料電池100のアノードへ供給する。
【0035】
また、燃料ガス供給排出系200は、切換弁260を開くことにより、燃料電池100のアノードで使用されなかった水素を燃料ガス排出流路232、気液分離部250、および、切換弁260を介して燃料電池システム10の外部に排出する。また、燃料ガス供給排出系200は、切換弁260を閉じることにより、燃料電池100のアノードで使用されなかった水素を燃料ガス排出流路232、気液分離部250、循環流路233、循環コンプレッサ240を介して燃料ガス供給流路231に戻し、再び燃料ガスとして利用する。循環コンプレッサ240は、制御装置600からの指示に従って、水素の循環量および圧力を調整する。
【0036】
酸化ガス供給排出系300は、エアクリーナ310と、コンプレッサ320と、封止弁340と、圧力センサ350と、を備えている。この酸化ガス供給排出系300は、燃料電池100を構成する各燃料電池セル110のカソード側触媒電極層(以後、単に「カソード」とも呼ぶ)に、エアクリーナ310、コンプレッサ320、および、酸化ガス供給流路331を介して、酸化ガス(酸素)を含む空気を供給する。この際、コンプレッサ320は、エアクリーナ310から取り込む空気を制御装置600からの指示に従った圧力で燃料電池100に向けて送り出す。
【0037】
また、酸化ガス供給排出系300は、燃料電池100から排出された排気ガスを、酸化ガス排出流路332、および、封止弁340を介して燃料電池システム10の外部に排出する。酸化ガス供給排出系300は、制御装置600からの指示によって、コンプレッサ320を停止状態とし、封止弁340を閉状態とすることにより、コンプレッサ320から封止弁340までの間のカソードガス流路を封止状態とすることができる。ここでの「カソードガス流路」とは、コンプレッサ320と燃料電池100との間の酸化ガス供給流路331、燃料電池100内部の酸化ガス供給マニホールド、単セル内部のガス流路、酸化ガス排出マニホールド、および、燃料電池100と封止弁340との間の酸化ガス排出流路332を含んで構成される流路をいう。「単セル内部のガス流路」とは、単セルの内部において酸化ガスが流通可能な空間部をいい、セパレータとカソード側触媒電極層との間の空間と、カソード側触媒電極層の内部の空隙を含んで構成される。
【0038】
圧力センサ350は、酸化ガス排出流路332の燃料電池100との接続部付近に設けられ、酸化ガス排出流路332の内部の圧力Pc[Pa]を測定する。本実施例では、封止状態のカソードガス流路の内部の圧力を測定するため等に使用する。圧力センサ350は、制御装置600と電気的に接続され、測定結果を制御装置600に出力する。後述する各種センサについても、圧力センサ350と同様に測定結果を制御装置600に出力する。
【0039】
燃料電池循環冷却系400は、ラジエータ410と、冷媒温度センサ420と、冷媒循環ポンプ430と、を備えている。ラジエータ410は、冷媒供給流路441を介して冷却媒体を燃料電池100に供給し、冷媒排出流路442を介して、冷却に供された後の冷却媒体を燃料電池100から受け取ることにより、冷却媒体を循環させて、燃料電池100の冷却を実行する。冷却媒体としては、水、空気等を用いることができる。冷媒温度センサ420は、冷媒排出流路442の燃料電池100との接続部付近に設けられ、燃料電池100から流出する冷媒温度Tf[℃]を測定する。本実施例では、冷媒温度Tfをカソードガス流路の内部の温度Tcとして使用する。
【0040】
電力充放電系500は、負荷装置510と、インバータ520と、電流センサ530と、電圧センサ540と、バッテリー550と、DC−DCコンバータ560と、を備えている。負荷装置510は、車両駆動用モータや各種捕機類等であり、燃料電池100の正極側および負極側のターミナルプレート111にそれぞれ接続されている。インバータ520は、燃料電池100及びバッテリー550と並列に接続され、燃料電池100又はバッテリー550から供給される直流電流を、交流電流に変換して負荷装置510に供給する。電流センサ530は、燃料電池100と直列に接続され、燃料電池100を流れる電流If[A]を測定する。電圧センサ540は、燃料電池100と並列に接続され、燃料電池100の電圧Ef[V]を測定する。
【0041】
バッテリー550は、DC−DCコンバータ560を介して負荷装置510及び燃料電池100と並列に接続されている。DC−DCコンバータ560は、バッテリー550の出力電圧を昇圧してインバータ520に供給し、また、燃料電池100の余剰発電力を蓄電するために、出力電圧を降圧してバッテリー550に供給する。
【0042】
制御装置600は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とを備えるマイクロコンピュータを含んで構成されている。制御装置600は、燃料電池システム10の各構成要素と電気的に接続され、各構成要素から受け取る情報に基づいて、各構成要素の動作を制御する。また、制御装置600は、ROMに燃料電池システム10を制御するための図示しない制御プログラムが格納されている。CPUは、RAMを利用しながら制御プログラムを実行することにより、運転制御部610、含水量推定部620、として機能する。また、ROMには、後述する含水量推定処理などに用いられる各種マップが格納されている。
【0043】
上記構成の燃料電池システム10は、運転制御部610によって、燃料電池100の電圧Efを降下させるための処理である電圧降下処理がおこなわれる。また、含水量推定部620によって、燃料電池100のカソードガス流路に存在する水分の量Wc(以後「含水量Wc」とも呼ぶ)を推定するための処理である含水量推定処理がおこなわれる。
【0044】
運転制御部610は、電圧降下処理を実行するときには、例えば、DC−DCコンバータ560やインバータ520を制御することによって、燃料電池100の電圧Efを降下させることができる。また、運転制御部610は、電圧降下処理の実行時に、コンプレッサ320を制御して、燃料電池100への空気の供給を停止させ、封止弁340を制御して、カソードガス流路を封止状態にする。
【0045】
含水量推定部620は、運転制御部610によって電圧降下処理が実行されているときに、含水量推定処理を実行する。すなわち、含水量推定部620は、電圧降下処理によって燃料電池100の電圧Efが降下しているとき(電圧降下時)の電流If、圧力Pc、温度Tfを用いて、含水量Wcを推定する。推定方法の詳細と、含水量推定処理の詳細については後述する。
【0046】
図2は、本実施例で用いられる電圧降下時の含水量の推定方法を説明するための説明図である。燃料電池100のアノードに燃料ガスを供給し、カソードガス流路は封止状態とした燃料電池に対して、電圧を降下させるための電圧降下処理をおこなったときに生じる電流Ifには、以下の2つの電流が含まれていると考えられる。
(i)触媒に形成される酸化被膜の還元によって生じる電流Ir[A](以後「還元電流Ir」とも呼ぶ)
(ii)封止されたカソードガス流路に存在する酸素の消費によって生じる電流Io[A](以後「消費電流Io」とも呼ぶ)
【0047】
還元電流Irとは、カソード側触媒電極層に含まれる触媒(Pt)に形成された酸化被膜が還元するときに発生する電流である。触媒の還元反応は、以下の式(1)や式(2)で表される。
【0048】
【数1】

【数2】

【0049】
消費電流Ioとは、カソードガス流路の封止前にカソードガス流路に供給され、封止後のカソードガス流路の内部に存在する空気に含まれる酸素(O2)と、アノードの水素(H2)との電気化学反応によって生じる電流である。このときのカソードでの反応は式(3)で表され、アノードでの反応は式(4)で表される。
【0050】
【数3】

【数4】

【0051】
電圧降下時の電流Ifは、この還元電流Irと消費電流Ioとの和(If=Ir+Io)であると考えることができる(図2)。また、電圧降下時の電流Ifを時間t[s]で積分して算出される電気量Cf[A・s]は、還元電流Irを時間で積分した電気量Cr[A・s]と、消費電流Ioを時間で積分した電気量Co[A・s]との和(Cf=Cr+Co)として考えることができる。なお、電気量Cfを算出するために積分される時間t[s]の長さは、任意に設定することができる。例えば、電圧降下開始時から1〜3秒の間の任意の時間としてもよい。
【0052】
電気量Crは、触媒(Pt)の表面積に比例するため、触媒が劣化するなどして表面積が変化していなければ、燃料電池100において一定と考えることができる。この電気量Crは、公知の方法によって予め算出することができる。例えば、式(1)から、カソード側触媒電極層に含まれるPtOの量Mpto〔mol〕を算出すれば、その2倍のモル量の電荷が発生することがわかる。PtOの量Mptoは、Ptの酸化被膜被覆率CRと、Pt有効サイト数Ns〔mol/cm2〕とPtの比表面積As〔cm2〕から算出することができる。
【0053】
電流Ifから電気量Cfを算出した後、この電気量Cfから既知の電気量Crを差し引くことによって電気量Coを算出することができる(Co=Cf−Cr)。上記の式(3)とファラデー定数を用いて、電気量Coから、封止後のカソードガス流路に存在していた酸素の物質量nO2[mol]を算出することができる。また、空気(外気)の組成比Roは既知のため(O2:N2=21:79)、封止されたカソードガス流路の内部に存在していた酸素の物質量nO2から、封止されたカソードガス流路の内部に存在する窒素の物質量nO2[mol]を算出することができる。
【0054】
カソードガス流路の内部は、上述した空気と水蒸気からなるガスと、発電などによって生じた生成水を含む液水のみが存在すると考えられるため、カソードガス流路の体積Vcは、カソードガス流路の内部に存在するガスの体積であるガス体積Vcgと、カソードガス流路の内部に存在する液水の体積である液水体積Vclの和(Vc=Vcg+Vcl)として考えることができる。ガス体積Vcgは、下記の式(5)に示す状態方程式から算出することができる。
【0055】
【数5】

ここで、Pcは、カソードガス流路の内部の圧力であり、nH2Oは、カソードガス流路の内部に存在する水蒸気の物質量である。また、Rは、気体定数であり、Tcは、カソードガス流路の内部の温度である。水蒸気の物質量nH2Oは、温度Tcにおける飽和水蒸気量Aから算出することができる。
【0056】
カソードガス流路の体積Vcは既知であるため、ガス体積Vcgから液水体積Vclを算出することができる(Vcl=Vc−Vcg)。また、液水体積Vclに密度をかけることによって含水量Wcを算出することができる。
【0057】
A−2.含水量推定処理:
図3は、含水量推定処理の流れを説明するためのフローチャートである。まず、運転制御部610によって電圧降下処理がおこなわれる。ここでの電圧降下速度は、任意の速さとすることができる。燃料電池100の電圧Efが降下すると、含水量推定部620によって、電圧センサ540、電流センサ530、冷媒温度センサ420、圧力センサ350から、電圧Ef、電流If、圧力Pc、および、温度Tfが取得される(ステップS110)。このとき、含水量推定部620は、電圧降下時間として予め設定された時間(例えば1秒)の間、継続して電流Ifを取得する。
【0058】
その後、含水量推定部620によって、電気量Cfが算出される(ステップS120)。上述したように、含水量推定部620は、電流Ifを時間で積算することによって電気量Cfを算出する。また、電気量Cfから電気量Cr(設定値)を差し引くことによって電気量Coを算出する。なお、含水量推定部620は、電気量Cfと電気量Coとの関係を示すマップを用いて、電気量Cfから電気量Coを算出してもよい。マップは、実験的に又はシミュレーションにより事前に得ることができる。
【0059】
続いて、含水量推定部620によって、封止後のカソードガス流路に存在していた酸素の物質量nO2が算出される(ステップS130)。上述したように、含水量推定部620は、電気量Coから酸素の物質量nO2を算出する。また、封止されたカソードガス流路の内部に存在する窒素の物質量nO2を算出する。
【0060】
その後、含水量推定部620によって、ガス体積Vcgが算出される(ステップS140)。含水量推定部620は、圧力Pcと冷媒温度Tfを用いて、上記式(5)の状態方程式から、ガス体積Vcgを算出する。このとき、含水量推定部620は、冷媒温度Tfを燃料電池100の内部の温度Tcとして使用する。なお、含水量推定部620は、カソードガス流路内部の酸素の物質量nO2と、ガス体積Vcgとの関係を示すマップを用いて、ガス体積Vcgを算出してもよい。マップは、実験的に又はシミュレーションにより事前に得ることができる。
【0061】
その後、含水量推定部620によって、含水量Wcが算出される(ステップS150)。含水量推定部620は、既知のカソードガス流路の体積Vcから、算出したガス体積Vcgを差し引くことによって、カソードガス流路の内部の液水の体積である液水体積Vclを算出する。算出した液水体積Vclに密度をかけることによって、含水量Wcを算出する。以上が、含水量推定処理の内容である。
【0062】
A−3.運転停止動作:
以下では、燃料電池システム10において、燃料電池100の運転(発電)を停止するときの動作(運転停止動作)について説明する。この運転停止動作は、例えば、燃料電池システム10を搭載した車両(FC車両)が停車するとき等に実行される。ここでの「停車」とは、車両のイグニッションスイッチをオフ(イグニッションオフ)にした状態をいい、車両のイグニッションスイッチがオン(イグニッションオン)であり、車両が一時的に停車している状態を「一時停車」と呼ぶ。燃料電池システム10は、車両が停車すると、燃料電池100の内部の掃気をおこなった後に、電圧降下処理と含水量推定処理をおこなう。
【0063】
図4は、運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。イグニッションオフによって車両が一時停車状態から停車状態になったときに、燃料電池システム10は、運転停止動作を開始する。まず、運転制御部610によって、イグニッションオフの信号が受信され、掃気処理がおこなわれる(ステップS210)。掃気処理とは、燃料電池100に酸化ガスや燃料ガスなどのガスを送り込むことによって、燃料電池100の内部の水分を燃料電池100の外部に排出させる処理である。運転制御部610は、酸化ガス供給排出系300において、封止弁340を制御して開弁状態とし、コンプレッサ320を制御して、空気を燃料電池100のカソードに供給する。これによって、カソードガス流路の内部に存在する水分を封止弁340から排出させる。また、燃料ガス供給排出系200において、切換弁260を制御して開弁状態とし、流量調整部220を制御して燃料ガスを燃料電池100のアノードに供給する。これによって、アノードガス流路の内部に存在する水分を切換弁260から排出させる。
【0064】
本実施例では、運転制御部610は、予め設定された掃気内容(掃気時間や掃気ガス流量等)となるようにコンプレッサ320や流量調整部220を制御する。なお、掃気内容は、任意に設定することができる。また、運転制御部610は、掃気処理を実行する直前の含水量Wcを推定し、推定した含水量Wcに応じて、掃気内容を変更するようにコンプレッサ320や流量調整部220を制御してもよい。掃気処理を実行する直前の含水量Wcを推定する方法としては、上述した電圧降下による含水量推定方法以外の方法であれば、任意の方法によって推定をおこなってよい。この構成については、第2、3実施例で例示する。
【0065】
掃気処理の後、運転制御部610によって、電圧降下処理がおこなわれ、含水量推定部620によって、含水量推定処理がおこなわれる(ステップS220)。具体的には、運転制御部610は、DC−DCコンバータ560とインバータ520を制御して、電圧Efを降下させる。また、コンプレッサ320を制御して、燃料電池100への空気の供給を停止させ、封止弁340を制御して、カソードガス流路を封止状態にする。含水量推定部620は、電圧降下時に含水量推定処理を実行し、電圧Ef、電流If、圧力Pc、温度Tfから含水量Wcを推定する。
【0066】
含水量推定部620によって含水量Wcが推定されると、運転制御部610によって、含水量Wcが閾値Th1以下か否かの判定がおこなわれる(ステップS230)。閾値Th1は、制御装置600に予め記憶されており、任意の値に設定することができる。含水量Wcが閾値Th1以下の場合には(ステップS230:YES)、燃料電池システム10は、運転停止動作を終了する。ステップS210の掃気処理によって、燃料電池100の内部は、ほぼ水分がない状態と考えられるためである。
【0067】
一方、含水量Wcが閾値Th1より高い場合には(ステップS230:YES)、運転制御部610によって、再度、掃気処理がおこなわれる(ステップS240)。ステップS210の(1回目の)掃気処理後においても、燃料電池100の内部にまだ水分が残っていると考えられるためである。なお、ステップS230の(2回目の)掃気処理は、1回目の掃気処理と掃気内容(掃気時間や掃気ガス流量等)が同じであってもよいし、異なっていてもよい。2回目の掃気処理の後、運転制御部610によって、電圧降下処理がおこなわれる(ステップS250)。掃気処理によって上昇した電圧Efを再度低下させるためである。その後、燃料電池システム10は、運転停止動作を終了する。以上が、運転停止動作の内容である。
【0068】
図5は、本実施例の効果の一例を説明するための説明図である。図5の上段は、燃料電池の含水量〔g/セル〕と、氷点下−20℃における燃料電池の始動時間〔s〕との関係を示している。図5の下段は、燃料電池の含水量〔g/セル〕と、燃料電池のインピーダンスとの関係を示している。燃料電池は、内部の含水量が多いと、氷点下始動性が低下する(図5、含水量X4〜)。そのため、従来から、燃料電池の運転停止後の含水量を氷点下始動が容易な範囲(図5、含水量X1〜X4、以後「目標範囲」とも呼ぶ)にするために掃気処理を実行する燃料電池システムが知られている。
【0069】
掃気処理後の燃料電池の含水量が目標範囲にまで低下したか否かを確認するための方法として、従来から、掃気処理後の燃料電池のインピーダンスから含水量を推定する方法が知られている。しかし、図5の下段に示すように、インピーダンスによって推定可能な含水量の範囲は、目標範囲のうちのより乾燥側(含水量X1〜X2)に限られ、目標範囲の湿潤側(含水量X3〜X4)では、含水量を推定することは困難であった。そのため、インピーダンスによって含水量が目標範囲に入っているか否かを確認する場合には、燃料電池の内部を十分に乾燥させる必要があり、乾燥に時間がかかる問題や、乾燥に要する消費電力が大きいために、燃料電池システム全体の効率(燃費)が低下する問題があるほか、乾燥によって電解質膜等を劣化させる問題があった。
【0070】
本実施例の燃料電池システム10によれば、電圧降下によって含水量Wcを推定するため、目標範囲のうちの湿潤側(含水量X3〜X4)において、含水量Wcを検出することができる。そのため、氷点下始動性を確保しつつ、乾燥(掃気処理)に要する時間や消費電力を抑制することができる、また、乾燥による電解質膜等の劣化を抑制することができる。
【0071】
図6は、従来例における運動停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。電圧降下処理や含水量推定処理をおこなう燃料電池システムでは、運動停止動作を開始すると、掃気内容を決定するために、まず、電圧降下処理と含水量推定処理をおこない、含水量を推定する(ステップS310)。その後、推定された含水量に応じて掃気処理を実行する(ステップS320)。掃気処理を実行した後、含水量が目標範囲にあるか否かを確認するために、再度、電圧降下処理と含水量推定処理をおこない、含水量を推定する(ステップS330)。このように、電圧降下処理と含水量推定処理を複数回おこなうことが一般的であった。
【0072】
電圧降下時の含水量推定は、目標範囲のうちの湿潤側(含水量X3〜X4)において、含水量Wcを検出することができる(図5)という利点を有している反面、燃料電池の電圧降下を伴うため、燃料電池に含まれる触媒(Pt)の劣化が生じやすいという問題を有している。よって、本実施例の燃料電池システム10のように、掃気前には電圧降下による含水量推定をおこなわず、掃気後にのみ電圧降下による含水量推定をおこなえば、電圧降下処理の回数を減らすことができる。これにより、電圧降下による触媒の劣化の発生を抑制することができる。
【0073】
燃料電池は、運転停止時に負荷装置との接続が切断されて電圧が開回路電圧(OCV)に近い値まで上昇すると、酸化によって触媒が劣化することから、運転停止時に電圧降下処理がおこなわれるのが一般的である。すなわち、従来の燃料電池システムは、燃料電池の運転停止時に、電圧降下処理がおこなわれる。本実施例の燃料電池システム10は、この電圧降下処理を利用して含水量の推定をおこなうため、含水量の推定のためにあらためて電圧降下処理をおこなう必要がない。よって、電圧降下処理による触媒の劣化の発生を抑制することができる。
【0074】
B.第2実施例:
B−1.燃料電池システムの構成:
図7は、第2実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。第2実施例では、交流インピーダンス法によって、掃気処理を実行する直前の含水量Wcを推定し、推定した含水量Wcに応じて、掃気内容(掃気時間や掃気ガス流量等)を変化させる燃料電池システム12について説明する。
【0075】
第2実施例の燃料電池システム12は、第1実施例の燃料電池システム10と比較すると、電力充放電系502にインピーダンス測定部545を備えている点と、制御装置602にIMP含水量推定部630の機能が付加されている点が異なる。インピーダンス測定部545は、第1実施例の電圧センサ540(図1)と同様に、燃料電池100の電圧Efを測定する機能を有するほかに、燃料電池100に交流電流を重畳させることで、燃料電池100の内部インピーダンス(以後、単に「インピーダンス」とも呼ぶ)を測定することができる。IMP含水量推定部630は、燃料電池100のインピーダンスから、含水量Wcを推定する。
【0076】
燃料電池100のインピーダンスは、電解質の湿潤状態によって変化することが知られている。一般的に、燃料電池は、電解質膜やセパレータなどの電気抵抗であるセル抵抗Rcと、電気化学反応が生じるために要する反応抵抗Rrと、静電容量である電気二重層容量Cdによる等価回路で表すことができる。電解質の湿潤状態は、セル抵抗Rcと相関関係があり、電解質が乾燥状態となるほど、セル抵抗Rcが高くなる。そのため、燃料電池100のインピーダンス(具体的には、セル抵抗Rc)と含水量Wcとの間には相関性があり、実験やシミュレーションによって、インピーダンスと含水量Wcとの関係を示すマップを作成することができる。制御装置602のROMには、このインピーダンスと含水量Wcとの関係を示したマップが格納されている。
【0077】
B−2.運転停止動作:
図8は、第2実施例における運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。燃料電池システム12の運転停止動作が開始されると、まず、IMP含水量推定部630によって、含水量Wcの推定がおこなわれる(ステップS400)。具体的には、IMP含水量推定部630は、インピーダンス測定部545を制御して、燃料電池100のインピーダンスを測定する。その後、IMP含水量推定部630は、測定されたインピーダンスと含水量Wcとの関係を示したマップを参照して、インピーダンスから含水量Wcを推定する。マップは、実験的に又はシミュレーションにより事前に得ることができ、制御装置600に格納されている。
【0078】
含水量Wcが推定された後、運転制御部610によって、掃気処理がおこなわれる(ステップS410)。このとき、運転制御部610は、インピーダンスから推定された含水量Wcに応じた掃気内容となるようにコンプレッサ320を制御する。本実施例の制御装置600は、含水量Wcとコンプレッサ320の制御内容との関係を示すデータを格納しており、このデータを参照することによって、コンプレッサ320を制御する。以降のステップS420〜S450までの処理は、第1実施例の運転停止動作(図4)のステップS220〜S250と同様であるため、説明を省略する。なお、燃料電池システム12は、インピーダンスと掃気内容との関係が示されたマップを制御装置600に格納している場合には、測定したインピーダンスから含水量Wcを推定せずに、直接、掃気内容を決定してもよい。
【0079】
以上説明した、第2実施例の燃料電池システム12によれば、含水量Wcに応じて掃気内容を変更することができるため、必要以上に掃気をおこなう等の不具合の発生を抑制することができる。また、掃気内容を決定するための含水量Wcの推定時に電圧降下処理を実行していないため、運転停止動作全体において電圧降下処理の回数を減らすことができる。一方、掃気処理後の含水量Wcを電圧降下によって推定しているため、図5を用いて説明したように、氷点下始動性を確保しつつ、掃気処理に要する時間や消費電力を抑制することができる。また、乾燥による電解質膜等の劣化を抑制することができる。
【0080】
B−3.第2実施例の変形例:
図9は、第2実施例の変形例における運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。ここでは、インピーダンスから推定された含水量Wcから燃料電池100が乾燥状態か否かを判定し、乾燥状態である場合には、掃気処理をおこなわずに運転停止動作を終了する構成について説明する。
【0081】
燃料電池システム12の運転停止動作が開始されると、まず、IMP含水量推定部630によって、燃料電池100のインピーダンスの測定がおこなわれる(ステップS401)。このとき、本実施例のIMP含水量推定部630は、推定されたインピーダンスから含水量Wcの推定をおこなうが、含水量Wcの推定をおこなわなくてもよい。
【0082】
その後、運転制御部610によって、燃料電池100の内部が乾燥状態か否かの判定がおこなわれる(ステップS402)。図5の下段で示したように、燃料電池100の内部の湿潤状態とインピーダンスとの間には相関関係があるため、測定されたインピーダンスが予め設定された閾値Th2を超えるか否かによって燃料電池の内部が乾燥状態か否かを判定することができる。なお、ステップS401において、IMP含水量推定部630が含水量Wcの推定をおこなっている場合には、含水量Wcから燃料電池100の内部が乾燥状態か否かを判定してもよい。
【0083】
燃料電池100の内部が乾燥状態である場合には(ステップS402:YES)、運転制御部610によって、所定の掃気がおこなわれる(ステップS403)。所定の掃気とは、流路内のゴミなどを掃き出すための掃気であり、予め掃気内容が設定されている。燃料電池100の内部は、乾燥状態であるため、内部を乾燥させるための掃気処理はおこなわれない。なお、このステップS403は、省略することができる。すなわち、燃料電池100の内部が乾燥状態であると判定された後には、掃気処理がおこなわれない構成としてもよい。その後、運転制御部610によって、電圧降下処理がおこなわれ(ステップS404)、燃料電池システム12は、運転停止動作を終了する。
【0084】
一方、燃料電池100の内部が乾燥状態ではない場合には(ステップS402:NO)、運転制御部610によって、掃気処理がおこなわれる(ステップS410)。燃料電池100の内部を乾燥させるためである。掃気処理の後のステップS420〜S450の処理は、上述した第2実施例のステップS420〜S450と同様であるため説明を省略する。
【0085】
以上説明した、第2実施例の変形例に係る燃料電池システム12によれば、燃料電池100の内部が乾燥状態である場合には、内部を乾燥させるための掃気処理がおこなわれないため、運転停止動作の短縮を図ることができるほか、運転停止動作に要する消費電力を抑制することができる。また、乾燥による電解質膜等の劣化を抑制することができる。
【0086】
なお、本実施例では、交流インピーダンス法によって、燃料電池100のインピーダンスを測定するものとして説明したが、電解質の湿潤状態によって変化するセル抵抗Rcの変化を検出可能な構成であれば、燃料電池100のインピーダンスを測定する構成は必須ではない。例えば、燃料電池システム12は、電流遮断法などによってセル抵抗Rcの変化を検出する構成としてもよい。
【0087】
C.第3実施例:
C−1.燃料電池システムの構成:
図10は、第3実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。第3実施例では、燃料電池100の運転中に燃料電池100の内部の水の収支をモニタリングすることによって含水量Wcを推定し、推定した含水量Wcに応じて、掃気内容(掃気時間や掃気ガス流量等)を変化させる燃料電池システム13について説明する。
【0088】
第3実施例の燃料電池システム13は、第1実施例の燃料電池システム10と比較すると、酸化ガス供給排出系303に、流量センサ361、湿度センサ362、圧力センサ363、温度センサ364、を備えている点と、制御装置602にRTM含水量推定部640の機能が付加されている点が異なる。流量センサ361、湿度センサ362、圧力センサ363は、それぞれ、酸化ガス供給流路331に設けられ、燃料電池100に供給される空気の流量Fci[l/min]、湿度Hci[g/l]、圧力Pci[Pa]を測定する。温度センサ364は、酸化ガス排出流路332に設けられ、燃料電池100から排出される空気の温度Tco[℃]を測定する。圧力センサ350は、燃料電池100から排出される空気の圧力Pco[Pa]を測定する。RTM含水量推定部640は、燃料電池100の運転中に、燃料電池100の内部の水の収支(流入量、流出量、発生量等)をモニタリングし、水の収支から含水量Wcを推定する。
【0089】
RTM含水量推定部640による燃料電池100の内部の水の収支のモニタリング方法を説明する。含水量Wcの単位時間当たりの変化量ΔWcは、下記式(6)によって算出することができる。
【0090】
【数6】

ここで、ΔWcvは、水蒸気としてカソードガス流路に流入し、または、水蒸気としてカソードガス流路から流出した水の総和量である。ΔWcgは、発電によって生成された水の量である。ΔWcaは、カソード側からアノード側へ移動した水の量である。ΔWclは、液水としてカソードガス流路から排出された水の量である。
【0091】
ΔWcvは、カソードガス流路に流入する水蒸気の単位時間当たりの流入量ΔWcviからカソードガス流路から流出する水蒸気の単位時間当たりの流出量ΔWcvoを差し引く(ΔWcv=ΔWcvi−ΔWcvo)ことによって算出することができる。流入量ΔWcviは、カソードガス流路に流入する空気の流入流量Fciと、流入圧力Pciと、流入湿度Hciから算出することができる。
【0092】
流出量ΔWcvoは、カソードガス流路から排出される空気の排出流量Fcoと、排出圧力Pcoと、排出される空気の排出温度Tcoにおける飽和水蒸気量Aから算出することができる。排出流量Fcoは、カソードガス流路に流入するの空気の流入流量Fciから、発電によって消費された空気(酸素)の消費流量Fcrを差し引く(Fco=Fci−Fcr)ことによって算出することができる。空気の消費流量Fcrは、発電電流である電流Ifと、空気に含まれる酸素の比率(O2:N2=21:79)から算出することができる。電気化学反応によって生じる電流Ifと、電気化学反応によって消費された酸素の量とは、式(3)に示すような相関関係があるためである。
【0093】
ΔWcgは、電流Ifから算出することができる。電気化学反応によって生成する水の量と電気化学反応によって生じる電流Ifとの間には相関関係があるためである。ΔWcaは、カソードで生じた生成水のうち、電解質膜を通してアノード側へ拡散した水の量であり、ΔWcgに、カソード側からアノード側への生成水の拡散率(移行率)と、経過時間から算出することができる。拡散率は、予め実験などによって求めることができる。
【0094】
ΔWclは、電流IfとΔWclとの関係を示すマップや、空気の排出流量FcoとΔWclとの関係を示すマップ等によって算出することができる。これらのマップは、実験などによって得ることができる。なお、ΔWclは、カソードガス流路の内部において、水蒸気が飽和状態となっている場合にのみ適用し、飽和状態となっていない場合には、0とすることが好ましい。すなわち、式(6)において、ΔWclを0としたときの変化量ΔWcがプラスの場合にのみΔWclを適用することが好ましい。
【0095】
C−2.運転動作:
図11は、第3実施例における運転停止動作を含む燃料電池システムの運転動作の流れを説明するためのフローチャートである。図11において、スタートからステップS502までが燃料電池100の運転中の動作であり、ステップS510以降が運転停止動作である。燃料電池システム13は、燃料電池100の運転中に、RTM含水量推定部640によって、含水量Wcのモニタリングをおこなう(ステップS501)。具体的には、RTM含水量推定部640は、流量センサ361、湿度センサ362、圧力センサ363、温度センサ364、圧力センサ350、電流センサ530から、流入流量Fci、流入圧力Pci、流入湿度Hci、電流If、排出圧力Pco、排出温度Tcoを取得し、ΔWcv、ΔWcg、ΔWca、ΔWclを随時算出する。RTM含水量推定部640は、ΔWcv、ΔWcg、ΔWca、ΔWclに式(5)を適用することによって変化量ΔWcを算出し、随時含水量Wcを更新する。
【0096】
運転制御部610によって、イグニッションオフが検出されると(ステップS502:YES)、掃気処理がおこなわれる(ステップS510)。このとき、運転制御部610は、RTM含水量推定部640によって推定された含水量Wcに応じた掃気内容となるようにコンプレッサ320を制御する。制御装置600は、含水量Wcとコンプレッサ320の制御内容との関係を示すデータを参照することによって、コンプレッサ320を制御する。以降のステップS520〜S550までの処理は、第1実施例の運転停止動作(図4)のステップS220〜S250と同様であるため、説明を省略する。
【0097】
以上説明した、第3実施例の燃料電池システム13によれば、第2実施例と同様に、含水量Wcに応じて掃気内容を変更することができるため、必要以上に掃気をおこなう等の不具合の発生を抑制することができる。また、掃気内容を決定するための含水量Wcの推定時に電圧降下処理を実行していないため、運転停止動作全体において電圧降下処理の回数を減らすことができる。一方、掃気処理後の含水量Wcを電圧降下によって推定しているため、水の収支をモニタリングして含水量を推定する場合に比べて、実際の含水量との間の誤差の発生を抑制することができる。
【0098】
D.第4実施例:
D−1.燃料電池システムの構成:
図12は、第4実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。第4実施例では、燃料電池と負荷装置との接続が切断されているときにOCV回避運転をおこなう燃料電池システム14について説明する。第4実施例の燃料電池システム14は、第1実施例の燃料電池システム10と比較すると、酸化ガス供給排出系304に、流量センサ361を備えている点が異なる。流量センサ361は、酸化ガス供給流路331に設けられ、燃料電池100に供給される空気の流量Fci[l/min]を測定する。
【0099】
図13は、OCV回避運転を説明するための説明図である。OCV回避運転とは、燃料電池システム14において、燃料電池100と負荷装置510との接続が切断されているときに、燃料電池100の電圧Efが開回路電圧(OCV)とならないようにするための運転である。
【0100】
燃料電池システム14を搭載した車両(FC車両)は、一時停車時や停車時に、燃料電池100と負荷装置510(特に、車両駆動用モータ)との接続を切断するため、電圧Efが上昇する。電圧Efの上昇によって電圧Efが開回路電圧(OCV)に近い値(Ef≒OCV)となると、燃料電池100に含まれる触媒が劣化する等の問題がある。そのため、一時停車時や停車時に、燃料電池100と負荷装置510との接続を切断するかわりに、燃料電池100の電力をバッテリー550の充電等に用いることによって、燃料電池100から電流Ifを引き(If>0)、電圧EfをOCVより低い状態(Ef<OCV)で維持する運転をおこなう。なお、燃料電池100から電流Ifを引くための方法は、バッテリーへの充電に限定されず、車両駆動用モータ以外の補機に電力を供給する構成としてもよい。OCV回避運転は、運転制御部610がDC−DCコンバータ560やインバータ520を制御することによっておこなわれる。
【0101】
D−2.運転動作:
図14は、第4実施例における運転停止動作を含む燃料電池システムの運転動作の流れを説明するためのフローチャートである。図14において、ステップS603までが燃料電池100の運転中の動作であり、ステップS610以降が運転停止動作である。燃料電池システム14を搭載したFC車両が一時停車すると(ステップS601:YES)、運転制御部610によって、OCV回避運転が開始される(ステップS602)。その後、運転制御部610によって、イグニッションオフが検出されると(ステップS603:YES)、OCV回避運転を継続しつつ、掃気処理がおこなわれる(ステップS610)。
【0102】
掃気処理の後、運転制御部610によって、電圧降下処理がおこなわれ、含水量推定部620によって、含水量推定処理がおこなわれる(ステップS620)。本実施例では、含水量推定処理の前にOCV回避運転がおこなわれているため、含水量推定処理実行時に、カソードガス流路内部の空気の組成比Rm(O2:N2)が、外気の組成比Ro(O2:N2=21:79)から変化している。そのため、含水量推定処理は、含水量測定時におけるカソードガス流路内部の空気の組成比Rmの算出をおこなう。
【0103】
OCV回避運転によって消費された空気中の酸素の量は、式(3)に示すように、OCV回避運転時の電流If(図13)から算出することができる。そのため、OCV回避運転中にカソードガス流路に流入した空気(外気、組成比Ro)の流入流量Fciと、消費された酸素の量から、OCV回避運転後におけるカソードガス流路内部の空気の組成比Rmを算出することができる。含水量推定部620は、組成比Rmを用いて、含水量Wcを算出する。以降のステップS630〜S650までの処理は、第1実施例の運転停止動作(図4)のステップS230〜S250と同様であるため説明を省略する。以上説明した第4実施例の燃料電池システム14によれば、電圧降下による含水量推定をおこなう前にOCV回避運転をおこなった場合であっても、含水量Wcの推定精度の低下を抑制することができる。
【0104】
E.第5実施例:
E−1.燃料電池システムの構成:
図15は、第5実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。第5実施例では、含水量推定時に用いられる電気量Crの設定値を運転停止後に補正する燃料電池システム15について説明する。電気量Crは、触媒(Pt)に形成される酸化被膜の還元によって生じる電気量である。第5実施例の燃料電池システム15は、第1実施例の燃料電池システム10と比較すると、電力充放電系505にインピーダンス測定部545を備えている点と、制御装置605に補正処理部650の機能が付加されている点が異なる。インピーダンス測定部545は、第2実施例のインピーダンス測定部545と同じである。補正処理部650は、後述する方法によって、制御装置600に格納されている電気量Crの設定値の補正をおこなう。
【0105】
電気量Crは、触媒(Pt)の表面積に比例するため、触媒が劣化するなどして表面積が変化していなければ、燃料電池100において一定と考えることができる。しかし、燃料電池100の運転によって、次第に触媒が劣化すると、比表面積の低下によって、電気量Crの設定値と、実際の電気量Crとの間に差異が生じる。具体的には、実際の電気量Crが設定値よりも小さくなる。この差異が大きくなると、推定される含水量Wcと実際の含水量Wcとの間に誤差が生じる。すなわち、推定される含水量Wcが実際の含水量Wcよりも大きくなる。そこで、本実施例の燃料電池システム15では、カソードガス流路の内部が乾燥状態、すなわち、含水量Wcがほぼ0(Wc≒0)と考えられるときに、電圧降下による含水量Wcの推定をおこない、生じた含水量Wcを実際との誤差とすることで電気量Cr(設定値)の補正をおこなう。
【0106】
E−2.運転停止動作:
図16は、第5実施例における運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。燃料電池システム15の運転停止動作が開始されると、まず、補正処理部650によって、燃料電池100のインピーダンスの測定がおこなわれる(ステップS701)。その後、運転制御部610によって、燃料電池100の内部が乾燥状態か否かの判定がおこなわれる(ステップS702)。
【0107】
燃料電池100の内部が乾燥状態である場合には(ステップS702:YES)、運転制御部610によって、所定の掃気がおこなわれる(ステップS703)。ここでの掃気は、流路内のゴミなどを掃き出すための掃気であり、内部を乾燥させるための掃気ではない。なお、このステップS703は、省略することができる。その後、運転制御部610によって、電圧降下処理がおこなわれ、含水量推定部620によって、含水量推定処理がおこなわれる(ステップS704)。これにより、電気量Cr(設定値)を用いた含水量Wcが推定される。
【0108】
その後、補正処理部650によって、推定された含水量Wcが閾値Th3より小さいか否かの判定がおこなわれる(ステップS705)。ここでの閾値Th3は、燃料電池100が乾燥状態の時の含水量Wcとして予め設定された値であり、ほぼ0に近い値(Th3≒0)である。推定された含水量Wcが閾値Th3以下の場合には(ステップS705:YES)、燃料電池システム15は、運転停止動作を終了する。電気量Cr(設定値)を用いて推定された含水量Wcと実際の含水量Wcとの間に誤差が生じていないか、生じていても問題ない範囲であると考えられるためである。
【0109】
一方、推定された含水量Wcが閾値Th3より大きい場合には(ステップS705:NO)、補正処理部650によって、電気量Cr(設定値)の補正処理がおこなわれる(ステップS706)。補正処理部650は、第1実施例で説明した含水量Wcの推定方法において、含水量Wcが0となるときの電気量Crを逆算することによって、電気量Crの新たな設定値を算出することができる。
【0110】
具体的には、補正処理部650は、第1実施例の含水量Wcの推定方法において、液水体積Vclを0(Vcl≒0)として、ガス体積Vcgを算出し(Vcg=Vc−Vcl)する。その後、式(5)を用いて、算出したガス体積Vcgからカソードガス流路内部の酸素の物質量nO2を算出する。その後、補正処理部650は、式(3)を用いて、算出した酸素の物質量nO2から酸素の消費によって生じた電気量Coを算出する。そして、電気量Coから電気量Crを算出する(Co=Cf−Cr)。補正処理部650は、算出した電気量Crを新たな設定値として制御装置600に格納する。補正処理の後、燃料電池システム15は、運転停止動作を終了する。
【0111】
ステップS701において、燃料電池100の内部が乾燥状態ではない場合には(ステップS702:YES)、ステップS710〜S750の処理がおこなわれる。これらの処理は、第1実施例のステップS210〜S250と同様であるため説明を省略する。以上説明した第5実施例の燃料電池システム15によれば、燃料電池100の運転によって触媒が劣化した場合であっても、含水量Wcの推定精度の低下を抑制することができる。
【0112】
E−3.第5実施例の変形例:
ここでは、電気量Crの算出に用いられる触媒(Pt)の比表面積Asを補正する燃料電池システム15について説明する。具体的には、燃料電池の運転中もしくは運転停止後に触媒の比表面積Asを低下させる低下要因を測定し、測定結果に応じて比表面積Asを補正する燃料電池システム15について説明する。
【0113】
図17は、触媒の比表面積の低下要因と低下率との関係を説明するための説明図である。図17(a)の横軸は、燃料電池100における電圧Efの変動幅(電位変動幅)ΔEfを示し、縦軸は、触媒(Pt)の比表面積Asの低下率RAsを示している。図17(a)では、燃料電池100の温度Tfごとに、電位変動幅ΔEfと比表面積低下率RAsとの関係が示されている。図17(b)の横軸は、時間(経過時間)tを示し、縦軸は、触媒(Pt)の比表面積低下率RAsを示している。図17(b)では、燃料電池100の電圧Efごとに、時間tと比表面積低下率RAsとの関係が示されている。
【0114】
触媒(Pt)は、燃料電池100の運転時や停止時における電圧Efの変動幅(電位変動幅)ΔEfが大きいほど劣化する。すなわち、電位変動幅ΔEfが大きいほど比表面積Asが低下する。これは、電位変動幅ΔEfが大きいと、触媒が酸化・還元される電位をまたぎ、Ptが変形(凝縮)しやすい状態となるためである。また、電圧Efの変動による比表面積Asの低下は、燃料電池100の温度Tcが高いほど顕著になる。これらのことから、図17(a)に示すように、比表面積Asの低下率RAsは、電位変動幅ΔEfが大きいほど、また、温度Tcが高くなるほど大きくなる。
【0115】
また、触媒(Pt)は、高電位に長期間さらされるほど劣化する。すなわち、電圧Efが高いほど、また、時間が長いほど比表面積Asが低下する。これは、触媒が高電位にさらされるほど、Ptの酸化が進行するためである。このことから、図17(b)に示すように、比表面積Asの低下率は、電圧Efが高いほど、また、経過時間が長くなるほど大きくなる。本実施例の燃料電池システム15は、図17(a)(b)で示される2つのマップを制御装置600に格納している。
【0116】
図18は、第5実施例の変形例における補正処理の流れを説明するためのフローチャートである。本実施例の燃料電池システム15は、燃料電池100の運転時および停止時において、図18に示す補正処理をおこなう。まず、補正処理部650によって、電圧Efのモニタリングがおこなわれる(ステップS801)。補正処理部650は、随時測定される電圧Efから電位変動幅ΔEfを算出する。電位変動幅ΔEfは、任意のタイミング、期間における電圧Efの変化量とすることができる。例えば、電圧降下処理時における電圧降下量であってもよいし、燃料電池100の運転時において、予め設定された期間における電圧Efの最大値と最小値との差分であってもよい。
【0117】
電位変動幅ΔEfを算出すると、補正処理部650は、電位変動幅ΔEfが閾値Th4より大きいか否かを判定する(ステップS802)。閾値Th4は任意に設定することができる。閾値Th4は、触媒の酸化が発生しはじめると考えられる変動幅とすることが好ましい。電位変動幅ΔEfが閾値Th4より大きいとき(ステップS802:YES)、補正処理部650は、冷媒温度センサ420を制御して温度Tcを測定した後、比表面積Asの補正おこなう(ステップS804)。ここでは、図17(a)で表されるマップに温度Tcと電位変動幅ΔEfをあてはめることによって、比表面積低下率RAsを算出する。補正処理部650は、比表面積Asの設定値に比表面積低下率RAsをかけることによって比表面積Asの設定値を補正する。補正処理部650は、比表面積Asの補正とあわせて電気量Crの補正をおこなってもよい。一方、ステップS802において、電位変動幅ΔEfが閾値Th4以下のときには(ステップS802:NO)、補正処理部650は、上述したステップS803、S804をスキップする。
【0118】
補正処理部650は、また、モニタリングしている電圧Efが閾値Th5を超えたか否かを判定する(ステップS805)。閾値Th5についても任意に設定することができる。閾値Th5は、触媒の酸化が発生しはじめると考えられる電圧値とすることが好ましい。補正処理部650は、電圧Efが閾値Th5を超えると(ステップS805:YES)、超えている時間tの測定をおこなう(ステップS806)。その後、補正処理部650は、比表面積Asの補正おこなう(ステップS807)。ここでは、図17(b)で表されるマップに電圧Rfと時間tをあてはめることによって、比表面積低下率RAsを算出する。補正処理部650は、比表面積低下率RAsを用いて比表面積Asの設定値を補正する。あわせて電気量Crの補正をおこなってもよい。以上説明した、第5実施例の変形例に係る燃料電池システム15によれば、システムの停止後でなくても、電気量Crの補正をおこなうことができる。
【0119】
F.第6実施例:
F−1.燃料電池システムの構成:
図19は、第6実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。第6実施例では、含水量推定時に用いられるカソードガス流路の体積Vcの設定値を運転停止後に補正する燃料電池システム16について説明する。第6実施例の燃料電池システム16は、第1実施例の燃料電池システム10と比較すると、電力充放電系506にインピーダンス測定部545を備えている点と、酸化ガス供給排出系306に、流量センサ361、圧力センサ363、を備えている点と、制御装置606に補正処理部660の機能が付加されている点が異なる。インピーダンス測定部545は、第2実施例のインピーダンス測定部545と同じである。流量センサ361、圧力センサ363は、それぞれ、酸化ガス供給流路331に設けられ、燃料電池100に供給される空気の流量Fci[l/min]、圧力Pci[Pa]を測定する。圧力センサ350は、燃料電池100から排出される空気の圧力Pco[Pa]を測定する。補正処理部650は、後述する方法によって、制御装置600に格納されているカソードガス流路の体積Vcの設定値の補正をおこなう。
【0120】
図20は、カソードガス流路の体積の減少を説明するための説明図である。カソードガス流路は、時間変化によってガス拡散層(GDL)が、ガス流路側に食い込むなどして、ガス流路の断面積(流路断面積)Scが減少することがある。そうすると、実際のカソードガス流路の体積Vcが、体積Vcの設定値よりも小さくなるため、推定される含水量Wcと実際の含水量Wcとの間に誤差が生じる。すなわち、推定される含水量Wcが実際の含水量Wcよりも大きくなる。そこで、本実施例の燃料電池システム16では、カソードガス流路の内部が乾燥状態、すなわち、含水量Wcがほぼ0(Wc≒0)と考えられるときに、カソードガス流路内部の圧損ΔPcを測定し、その測定値から、カソードガス流路の体積Vc(設定値)の補正をおこなう。
【0121】
図21は、燃料電池に供給される空気の流量とカソードガス流路の圧損との関係を説明するための説明図である。図21の横軸は、燃料電池100に供給される空気の流量Fciを示し、縦軸は、カソードガス流路の圧損ΔPcを示している。図21では、カソードガス流路内部に液水が存在する場合と存在しない場合の2つにおいて、流量Fciと圧損ΔPcとの関係が示されている。図21からわかるように、カソードガス流路の圧損ΔPcは、流路内部の液水の有無によって、圧損ΔPcと流量Fciとの関係が異なる。そのため、圧損ΔPcから流路断面積Scを算出するためには、含水量Wcを一定とする必要がある。以下では、含水量Wcがほぼ0(Wc≒0)と考えられるときの圧損ΔPcと流路断面積Scとの関係について説明する。
【0122】
図22は、カソードガス流路の断面積とカソードガス流路の圧損との関係を説明するための説明図である。図22の横軸は、流路断面積Scを示し、縦軸は、圧損ΔPcを示している。図22からわかるように、含水量が一定(ここでは、Wc≒0)のとき、流路断面積が大きくなるほど圧損ΔPcは小さくなる。本実施例の燃料電池システム16は、図22で示されるマップを制御装置600に格納している。
【0123】
F−2.運転停止動作:
図23は、第6実施例における運転停止動作の流れを説明するためのフローチャートである。燃料電池システム16の運転停止動作が開始されると、まず、補正処理部660によって、燃料電池100のインピーダンスの測定がおこなわれる(ステップS901)。その後、運転制御部610によって、燃料電池100の内部が乾燥状態か否かの判定がおこなわれる(ステップS902)。
【0124】
燃料電池100の内部が乾燥状態である場合には(ステップS902:YES)、運転制御部610によって、流路内のゴミなどを掃き出すための所定の掃気がおこなわれる(ステップS903)。このステップS903は、省略することができる。その後、運転制御部610によって、圧損ΔPcの測定がおこなわれる(ステップS904)。具体的には、運転制御部610は、圧力センサ363と圧力センサ350を制御して、燃料電池100に流入する空気の圧力Pciと、燃料電池100から排出される空気の圧力Pcoを測定する。その後、運転制御部610は、圧力Pciと圧力Pcoの差分を圧損ΔPcの測定値とする。
【0125】
補正処理部660は、測定された圧損ΔPcが閾値Th6より小さいか否かを判定する(ステップS905)。ここでの閾値Th6は、制御装置600に格納されている体積Vcの設定値と、図22で表されるマップと、を用いて予め算出される。具体的には、カソードガス流路の長さは既知であるため、体積Vcの設定値から流路断面積Scの設定値を算出することができる。この流路断面積Scの設定値とマップから、圧損ΔPcの設定値を算出することができる。補正処理部660は、この圧損ΔPcの設定値をTh6としている。
【0126】
ステップS904において測定された圧損ΔPcが閾値Th6以下の場合には(ステップS905:YES)、燃料電池システム16は、運転停止動作を終了する。カソードガス流路の断面積Scの減少が生じていないか、生じていても問題ない範囲であると考えられるためである。
【0127】
一方、推定された測定された圧損ΔPcが閾値Th6より大きい場合には(ステップS905:NO)、補正処理部660によって、体積Vc(設定値)の補正処理がおこなわれる(ステップS906)。補正処理部660は、図22のマップを用いて、実測された圧損ΔPcから流路断面積Scを算出し、既知のカソードガス流路の長さをかけることによって、体積Vcの新たな設定値を算出することができる。補正処理部660は、算出したVcを新たな設定値として制御装置600に格納する。補正処理の後、燃料電池システム16は、運転停止動作を終了する。
【0128】
ステップS901において、燃料電池100の内部が乾燥状態ではない場合には(ステップS902:NO)、ステップS910〜S950の処理がおこなわれる。これらの処理は、第1実施例のステップS210〜S250と同様であるため説明を省略する。以上説明した第6実施例の燃料電池システム16によれば、時間的変化などによってカソードガス流路の体積Vcが変化した場合であっても、含水量Wcの推定精度の低下を抑制することができる。
【0129】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0130】
E1.変形例1:
図24は、変形例1に係る含水量の推定方法を説明するための説明図である。図24(a)の横軸は、燃料電池100の電流Ifを示し、縦軸は、電圧Efを示している。図24(b)の横軸は、燃料電池100の電圧降下時の単位電圧降下量(0.1V)あたりの電流変化量(増加量)ΔIfを示し、縦軸は、MEAの含水量Wmを示している。電圧降下による含水量Wcの推定方法は、第1実施例で説明した方法に限定されず、それ以外の方法であってもよい。例えば、他の第1の方法として、圧降下時の単位電圧降下量(例えば、0.1V)あたりの電流変化量ΔIfからカソードガス流路の含水量Wcを推定してもよい。
【0131】
具体的には、図24(a)に示すように、燃料電池100は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)の含水量Wmが多いと、高負荷時にフラッディングによって電圧Efが低下することが知られている。よって、図24(b)に示すように、燃料電池100の電圧Efを降下させたときの単位降下量あたりの電流Ifの変化量(増加量)ΔIfからMEAの含水量Wmを推定することができる。MEAの含水量Wmとカソードガス流路の含水量Wcとは相関関係があるため、含水量Wmと含水量Wcとの関係を示すマップを予め用意しておけば、MEAの含水量Wmから、カソードガス流路の含水量Wcを算出することができる。この方法を用いれば、カソードガス流路への空気の供給を停止させる必要がないため、運転停止動作以外のときであっても使用することができる。
【0132】
他の第2の方法として、カソードガス流路を封止した状態で燃料電池100を放置したときの開回路電圧(OCV)が0になるまでの時間Teと、クロスオーバー速度Xによって、カソードガス流路の含水量Wcを推定してもよい。燃料電池100は、カソードガス流路を封止した状態で放置すると、当初はOCVが高い状態となるが、アノード側からカソード側に水素(H2)が移動し、封止されたカソードガス流路に存在する残留酸素(O2)と反応することによって、OCVが次第に低下する。残留酸素が全部消費されると、OCVは、ほぼ0になる。よって、アノード側からカソード側への水素の移動速度(クロスオーバー速度)Xと、OCVがほぼ0になるまでの時間Teがわかれば、残留酸素の物質量nO2を推定することができる。
【0133】
具体的には、クロスオーバー速度をX〔mol/sec〕とすると、カソードの残留酸素は、1/2X〔mol/sec〕の速さで消費される。カソードガス流路を封止した状態で燃料電池100を放置してから開回路電圧(OCV)が0になるまでの時間をTe〔sec〕とすると、残留酸素の物質量nO2〔mol〕は、1/2X/Teとなる。残留酸素の物質量がわかれば、第1実施例と同様の方法によって、含水量Wcを推定することができる。
【0134】
E2.変形例2:
図25は、電圧降下処理における電圧降下速度を説明するための説明図である。図25(a)(b)の横軸は、時間tを示し、縦軸は、電圧Efを示している。変形例1で説明したように、カソードガス流路を封止した状態の燃料電池100は、クロスオーバーによって、電圧Efが徐々に低下する。そのため、電圧降下処理時の電圧降下量は、電圧降下処理による電圧降下量とクロスオーバーによる電圧降下量との和になる。クロスオーバーによって消費される酸素の量は、電流Ifに現れないため、含水量の推定時に、カソードガス流路内部に残留する酸素の量が実際よりも少なく計算され、含水量Wcに誤差が生じるおそれがある。含水量Wcの誤差は、図25(a)に示すように、電圧降下処理による電圧降下速度が、クロスオーバーによる電圧降下速度に近いほど大きくなる。よって、電圧降下処理による電圧降下速度を、クロスオーバーによる電圧降下速度よりも十分に速くすることによって、クロスオーバーによる電圧降下の影響を抑制することができる。ここでの十分に速い速度とは、電圧降下処理による電圧降下速度を、クロスオーバーによる電圧降下速度の2倍以上とすることをいう。なお、5倍以上とすることがより好ましい。
【0135】
E3.変形例3:
第1〜6実施例では、カソードガス流路の含水量Wcを算出する燃料電池システムについて説明したが、上述した第1〜6実施例は、アノードガス流路の含水量Waの推定にも適用することができる。このとき、燃料電池システム10は、燃料ガス排出流路232の燃料電池100との接続部付近に圧力センサを備えていることが好ましい。また、運転制御部610は、電圧降下処理の実行時に、流量調整部220を制御して、燃料電池100への水素の供給を停止させ、切換弁260を制御して、アノード流路を封止状態にすることが好ましい。
【0136】
E4.変形例4:
第1〜6実施例では、燃料電池100全体の電圧Efと電流Ifを用いて含水量Wcの推定処理をおこなっているが、単セルごとの電圧Ecと電流Icから各単セルの含水量Wccを推定してもよい。また、単セルの含水量Wccから燃料電池100全体の含水量Wcを推定してもよい。
【0137】
E5.変形例5:
第1〜6実施例の内容と変形例1〜4の内容は適宜組み合わせて実現することができる。例えば、第2、3実施例の掃気処理をおこなう燃料電池システムが、第5、6実施例の補正処理をおこなってもよいし、第2、3、5、6実施例の燃料電池システムが、第4実施例の方法によって含水量を推定してもよい。
【符号の説明】
【0138】
10、12〜16…燃料電池システム
100…燃料電池
110…燃料電池セル
111…ターミナルプレート
200…燃料ガス供給排出系
210…水素タンク
220…流量調整部
231…燃料ガス供給流路
232…燃料ガス排出流路
233…循環流路
240…循環コンプレッサ
250…気液分離部
260…切換弁
300、303、304、306…酸化ガス供給排出系
310…エアクリーナ
320…コンプレッサ
331…酸化ガス供給流路
332…酸化ガス排出流路
340…封止弁
350…圧力センサ
361…流量センサ
362…湿度センサ
363…圧力センサ
364…温度センサ
400…燃料電池循環冷却系
410…ラジエータ
420…冷媒温度センサ
430…冷媒循環ポンプ
441…冷媒供給流路
442…冷媒排出流路
500、502、505、506…電力充放電系
510…負荷装置
520…インバータ
530…電流センサ
540…電圧センサ
545…インピーダンス測定部
550…バッテリー
600、602、605、606…制御装置
610…運転制御部
620…含水量推定部
650、660…補正処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池の電気的特性を測定する測定部と、
前記燃料電池を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の運転を停止させるための信号を受信すると、前記燃料電池の内部に存在する水分を燃料電池の外部に排出させるための掃気処理をおこない、前記掃気処理の後に、前記燃料電池の電圧を降下させて、前記電圧の降下時における前記電気的特性を測定し、その測定結果を用いて前記燃料電池の内部に存在する液水の量を示す含水量を推定する、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記含水量が許容値を超えている場合には、さらに掃気処理をおこない、
前記含水量が許容値以下なら掃気処理をおこなわずに停止する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
(i)前記燃料電池の電圧を降下させたときに発生する電流を測定し、測定した電流の積算値から電気量を算出する第1の処理と、
(ii)前記電気量に基づいて、前記電圧の降下の直前において前記燃料電池の内部に存在する反応ガスの物質量を算出する第2の処理と、
(iii)前記反応ガスの物質量から前記燃料電池の内部に存在するガスの体積を算出する第3の処理と、
(iv)前記ガスの体積から前記燃料電池の内部に存在する液水の体積を算出することによって、前記含水量を推定する第4の処理と、を実行する、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記燃料電池から発生する電流および前記燃料電池へのガス流入量を含む前記燃料電池の運転状態に関する情報を取得して、前記情報に応じて、前記燃料電池の内部に存在する空気の組成比の補正をおこない、
前記第3の処理において、補正された前記組成比を用いて、前記反応ガスの物質量から前記燃料電池の内部に存在するガスの体積を算出する、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記第1〜第4の処理を用いた第1の方法によって推定された前記含水量と、前記第1の方法とは異なる第2の方法によって推定された前記含水量との差異に応じて、前記燃料電池に含まれる触媒の還元によって生じる電気量の補正をおこない、
前記第2の処理において、補正された前記電気量を用いて、前記燃料電池の内部に存在する反応ガスの物質量を算出する、燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池システムにおいて、
前記第2の方法とは、電解質を含む前記燃料電池の構成部材の抵抗によって、前記含水量を推定する方法である、燃料電池システム。
【請求項7】
請求項3ないし請求項6のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記燃料電池の内部に設けられたガス流路の圧損に応じて、前記ガス流路の体積の補正をおこない、
前記第3の処理において、補正された前記ガス流路の体積を用いて、前記反応ガスの物質量から前記燃料電池の内部に存在するガスの体積を算出する、燃料電池システム。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、前記燃料電池の温度および前記燃料電池へのガス流入量を含む前記燃料電池の運転状態に関する情報を取得して、前記情報から掃気処理前における前記含水量を推定し、前記掃気処理をおこなうときに、掃気処理前に推定された前記含水量に応じて、掃気の内容を変更する、燃料電池システム。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、前記掃気処理をおこなうときに、電解質を含む前記燃料電池の構成部材の抵抗に応じて、掃気の内容を変更する、燃料電池システム。
【請求項10】
請求項9に記載の電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記抵抗が所定値以下の場合に、前記掃気処理をおこない、前記掃気処理の後に、前記含水量を推定し、
前記抵抗が所定値を超える場合には、前記掃気処理をおこなわない、燃料電池システム。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の電池システムにおいて、
前記燃料電池の運転停止時に、前記燃料電池の内部において燃料ガスが電解質膜を透過することによって生じる電圧降下の速度を第1の電圧降下速度としたときに、
前記制御部は、前記燃料電池の電圧を降下させるときの速度である第2の電圧降下速度を、前記第1の電圧降下速度の2倍以上の速さにする、燃料電池システム。
【請求項12】
燃料電池システムの制御方法であって、
燃料電池の運転を停止させるための信号を受信すると、前記燃料電池の内部に存在する水分を燃料電池の外部に排出させるための掃気処理をおこなう工程と、
前記掃気処理の後に、前記燃料電池の電圧を降下させて、前記電圧の降下時における前記燃料電池の電気的特性を測定し、その測定結果を用いて前記燃料電池の内部に存在する液水の量を示す含水量を推定する工程と、を備える制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−110019(P2013−110019A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255220(P2011−255220)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】