説明

燃料電池システム、燃料電池の水分含有量推定装置、及び、燃料電池の水分含有量推定方法

【課題】電解質膜が乾燥している場合でも、燃料電池の膜-電極接合体の水分含有量を推定する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】電解質膜112と電解質膜112を挟む一対の電極114・116とからなる膜-電極接合体118と、膜-電極接合体118の一方の面に位置し発熱する発熱手段124と、膜-電極接合体118の他方の面に位置し温度を計測する計測手段126と、発熱板124と計測板126とにより膜-電極接合体118の熱特性を測り、膜-電極接合体118の水分含有量を推定する推定部と、を備える燃料電池の水分含有量推定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、膜-電極接合体の水分含有量を推定する燃料電池システム、燃料電池の水分含有量推定装置、及び、燃料電池の水分含有量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】

水素と酸素との化学反応によって発電する燃料電池が、エネルギ源として注目されている。燃料電池は、イオン導電性の電解質膜と、電解質膜の一方の面にアノード電極と他方の面にカソード電極とを接合した膜-電極接合体と、この膜-電極接合体の両面をセパレータ120・122で挟んだ構造の燃料電池(以下、単位電池)から構成され、単位電池を複数枚積層した燃料電池スタックの構成で使用されるのが一般的である。
【0003】
燃料電池の発電効率は、膜-電極接合体の水分含有量に依存することが知られている。例えば、膜-電極接合体を構成する電解質膜の水分量が減少して乾燥した場合、電解質膜の内部抵抗が大きくなり燃料電池の出力電圧が低下する。また、膜-電極接合体を構成する電極において水分量が過剰となった場合、電極が水分で覆われてしまい、反応物質である酸素・水素の拡散が阻害され、出力電圧が低下する。そのため、膜-電極接合体の水分量を適切に維持するために、膜-電極接合体の水分含有量を把握することが必要である。
【0004】
固体高分子型燃料電池を構成する膜-電極接合体の水分含有量を推定する方法として、従来から交流インピーダンス法が知られている。膜-電極接合体の水分含有量と相関があるインピーダンスを、交流インピーダンス法により計測して、膜-電極接合体の水分含有量を推定するものである。
【特許文献1】特開2003-86220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来技術では、電解質膜である固体高分子膜が乾燥している場合などインピーダンスを計測することが出来ない場合があった。この場合において、固体高分子膜が乾燥していることは推定できるものの、電極部分における水分含有量を推定することができなかった。その結果、膜-電極接合体における水分含有量を推定することができないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、電解質膜が乾燥している場合でも、燃料電池の膜-電極接合体の水分含有量を推定する燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、イオン導電性の電解質膜と電解質膜を挟む一対の電極とからなる膜-電極接合体と、膜-電極接合体の一方の面に位置し発熱する発熱手段と、膜-電極接合体の他方の面に位置し発熱手段からの発熱による温度を計測する計測手段と、計測手段により計測された温度により膜-電極接合体の熱特性を測り、膜-電極接合体の水分含有量を推定する推定部と、を備える燃料電池システムである。
また、推定部が測る熱特性は膜-電極接合体の熱容量であって、熱容量が大きくなった場合に膜-電極接合体の水分含有量が増加したと推定する推定部であることも好適である。
【0008】
また、推定部は、発熱手段の発熱が計測手段の温度に及ぼす変化の割合が小さくなった場合に膜-電極接合体の水分含有量が増加したと推定する推定部であることも好適である。
【0009】
また、推定部が測る熱特性は膜-電極接合体の熱伝導度であって、熱伝導度が小さくなった場合に膜-電極接合体の水分含有量が増加したと推定する推定部であることも好適である。
【0010】
また、推定部は発熱手段の発熱が計測手段の温度として計測されるまでの時間が長くなった場合に、膜-電極接合体の水分含有量を増加したと推定する推定部であることも好適である。
【0011】
また、発熱手段は、所定温度を中心に振幅するよう温度変化する発熱手段であることも好適である。
【0012】
また、計測手段は膜-電極接合体の面方向に熱的に独立となるように分割された計測手段であることも好適である。
【0013】
また、計測手段の熱伝導動度は発熱手段の熱伝導度に対して大きいことも好適である。
【0014】
本発明は、イオン導電性の電解質膜と電解質膜を挟む一対の電極とからなる膜-電極接合体の一方の面で発熱させ他方の面で発熱の温度を計測することにより、膜-電極接合体の熱特性を測り、膜-電極接合体の水分含有量を推定する燃料電池の水分含有量推定装置である。
【0015】
本発明は、イオン導電性の電解質膜と電解質膜を挟む一対の電極とからなる膜-電極接合体の一方の面に位置する発熱手段が発熱するステップと、イオン導電性の電解質膜と電解質膜を挟む一対の電極とからなる膜-電極接合体の他方の面に位置する計測手段が温度を計測するステップと、計測された温度により膜-電極の熱特性を測るステップと、熱特性に基づき膜-電極接合体の水分含有量を推定するステップと、を有する燃料電池の水分含有量推定方法である。
【発明の効果】
【0016】
上記構成により、発熱板の発熱による温度変化を計測板により計測することにより、電解質膜が乾燥している場合でも燃料電池の膜-電極接合体の水分含有量を推定することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態について、実施例に基づき説明する。なお、以下の実施例は、燃料電池システムを自動車に適用した例である。以下の実施形態は、本発明の適用形態の単なる例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。例えば、家屋などに用いられる定置用の燃料電池システムに適用するのも好適である。
【0018】
図1は、燃料電池システム10を示したものである。燃料電池システム10は、燃料電池スタック100と、燃料電池に燃料ガスとしての水素を供給する水素系200、燃料電池に酸化剤ガスとしての酸素を供給する酸素系300、燃料電池を冷却するための冷却系400、燃料電池の電気的エネルギを利用する負荷系500、および、燃料電池システム10を制御する制御系600から構成される。
【0019】
燃料電池スタック100は、固体高分子型の単位電池102を複数枚積層した状態で用いる。単位電池102には、燃料ガスとして水素を、酸化剤ガスとして酸素を含んだ空気を供給して発電を行う。また、発電時における燃料電池スタック100の電流値を検出する電流センサ106と、燃料電池スタック100の端子間電圧を検出する電圧センサ108と、及び、燃料電池スタック100の温度を測定する温度センサ110とを、燃料電池スタック100は備えている。ここで、本実施形態の燃料電池は、通常70度で通常運転するように制御されている。検出されたそれぞれの値は、後述のECU602に入力される。
【0020】
図1に示した燃料電池スタック100の基本的な構成を、図2・図3を用いて説明する。
図2は、単位電池102の構成を示している。単位電池102は、水素イオン導電性の電解質膜としての固体高分子膜112と、固体高分子膜112の一の面に水素の化学反応が行われる電極としてのアノード極114と固体高分子膜112の他の面に酸素の化学反応が行われる電極としてのカソード極116とから構成される膜-電極接合体118(MEA:Membrane Electrode Assemblyとも言う)と、膜-電極接合体118を単位電池の積層方向に挟む一対のセパレータ120・122と、から構成されている。ここで、それぞれの電極は、反応ガスを電極に多孔性の拡散層(不図示)を備えている。
【0021】
本実施形態では、膜-電極接合体118の一方の面には発熱手段としての発熱板124がセパレータ120として、他方の面には計測手段としての計測板126がセパレータ122として、それぞれ設けられている。発熱板124は、後述のECU602に制御され、膜-電極接合体118に熱を加える。計測板126は、発熱板124により加えられた熱による計測板126における温度変化を計測する。本実施形態では、発熱板124と計測板126とがそれぞれセパレータ120・122と一体に備えられているが、別構成としてもよい。また、本実施形態では、セパレータは金属板よりなるメタルセパレータを用いている。
【0022】
発熱板124は、発熱板に発熱源としてのPTC(Positive Temperature Coefficient)素子を有している。PTC素子128は、一定の温度(キュリー点)に達すると抵抗値の増大を示す正温度特性をもった抵抗素子である。従って、電圧を加えて自己発熱させたPTC素子128は、温度が下がると電流が増加しほぼ一定の温度で安定する。すなわち、一定の温度に達していない場合に、PTC素子128は発熱体として作用する。本実施形態のPTC素子128のキュリー点は、例えば80度である。PTC素子128は、後述のECU602により制御される。また、発熱板124は、PTC素子128による発熱板の温度変化を検出するための温度センサ130を備えている。
【0023】
PTC素子128は、直線部134と折返し部136とを交互に配置され構成で設けられている。この構成により、発熱板124の全面を均等に過熱することが出来る。なお、本実施形態では一連のPTC素子を一つ用いているが、複数のPTC素子を用いて発熱する構成も好適である。また、PTC素子の代わりに、熱交換器などその他の発熱源を備えることも好適である。
【0024】
計測板126は、PTC素子128の発熱による計測板126における温度変化を検出する温度センサ138を一つ備えている。本実施形態における計測板126の面方向の熱伝導度は、発熱板124の面方向の熱伝導度に対して高くなるように構成されている。これにより、一つの温度センサ138により計測板126における温度変化を高感度で検出できるようになる。計測板126における温度変化は、発熱板124と計測板126との間に配置された膜-電極接合体118の状態、特に膜-電極接合体118の水分含有量に、依存する。そのため、それぞれの温度センサ130・138で検出された温度は、膜-電極接合体118の水分含有量を推定する推定部としてのECU602に入力される。
【0025】
図3は、燃料電池スタック100の分解斜視図である。図3において、矢印X方向が鉛直方向上向き、Y方向が鉛直方向下向きである。本実施形態の燃料電池スタック100は、図2に示した発熱板124と計測板126とを備えた単位電池102を一つと、PTC素子128と温度センサ130・138とを有さないセパレータで膜-電極接合体を挟んだ単位電池を複数備える構成である。なお、図3では簡略化のため、発熱板124・計測板126のPTC素子、温度センサなどの表記は省略してある。
【0026】
膜-電極接合体118は、アノード極114に対向する面に水素を供給する水素流路140が構成されたセパレータ120と、カソード極116に対向する面に酸素を供給する酸素流路142が構成されたセパレータ122によって挟まれる。本実施形態の水素流路140と酸素流路142は直線状の流路から構成されているが、直線部と少なくとも一つの折り返し部となるターン部を有するサーペンタイン型の流路構造から構成されていても良い。
【0027】
セパレータ120・122の膜-電極接合体118と接する面の裏面には、冷却液を供給して燃料電池スタック100を冷却するための冷却流路144が形成されている。
【0028】
セパレータ120・122は、後述の水素タンク202から水素流路140に水素を供給・排出するために、積層された複数の単位電池102を積層方向に水素供給マニホールド146と水素排出マニホールド148を備えている。
【0029】
同様に、セパレータ120・122は酸素流路142に酸素を供給するために酸素供給マニホールド150と、酸素流路142から酸素を排出する酸素排出マニホールド152を備えている。また、冷却流路144に冷却液を供給する冷却液供給マニホールド154と、冷却流路144から冷却液を排出する冷却液排出マニホールド154とを備えている。本実施形態では、積層した単位電池102を貫通するようにマニホールドが設けられている。
【0030】
燃料電池システム10の燃料電池スタック以外の構成について、図1を用いて説明する。燃料電池スタック100に燃料ガスを供給する水素系200は、燃料ガスとしての水素を有する水素タンク202から燃料電池100へと供給される水素ガスの経路を含む系である。水素タンク202から供給される水素ガスは、水素の水素タンクへの逆流を防止する逆止弁204、水素ガスを所定圧力に減圧する減圧弁206、水素ガスの圧力を測定する圧力センサ208を備える水素供給路210を通過した後に、燃料電池100のアノード側の水素ガス流路に供給される。検出された水素ガスの圧力値は制御部600に入力され、制御部600が水素ガスの圧力値が所定値になるように減圧弁206を制御する。
【0031】
水素ガスは、燃料電池100の発電に用いられるが、供給される水素ガスの全量が消費されるわけではなく、未反応の水素ガスは、燃料電池スタック100から排出される。なお、排出水素ガスは通常燃料電池内での反応生成物である水の含有量が増加している。排出された水素ガスは、水素ガスを駆動する水素ポンプ212を備える水素ガス循環路214を通過して、水素供給路210を流れる水素ガスと合流する。水素ガスの循環の駆動力として、本実施形態では水素ポンプ212を示しているがエゼクタであってもよい。
【0032】
燃料電池に酸化剤ガスとしての酸素を供給する酸素系300は、大気中の空気を燃料電池に供給、及び、排出するための酸化剤ガスの経路である。吸入口302から吸入される空気は、空気を加圧するエアポンプ304、エアポンプ304により供給される酸素の圧力を検出する圧力センサ306と、燃料電池100のカソード側のガス流路142に供給される。空気は、燃料電池スタック100の発電に用いられた後、調圧弁308を介して外部に放出される。なお、燃料電池スタックへ空気を供給する酸素系には空気を加湿するための加湿器を備えていてもよい。
【0033】
燃料電池スタック100を冷却するための冷却系400は、燃料電池スタック100の発電に伴う発熱を冷却するための冷却媒体の経路である。本実施形態では、冷却媒体として冷却液を用いている。燃料電池スタック100から排出される冷却媒体は、冷却媒体を冷却するラジエータ402、冷却媒体の循環を駆動する冷却媒体ポンプ404、を順に備える冷却媒体循環路406を流れて、再び燃料電池スタック100に供給される。冷却媒体ポンプ404により循環される冷却媒体の循環量は、制御部600により制御される。
【0034】
燃料電池の電気的エネルギを利用する負荷系500は、直流電流を交流電流に変換するインバータ502と、自動車を駆動する駆動モータ504とが接続されている。インバータ502は、例えば6個のトランジスタから構成される3相ブリッジ回路を備えており、トランジスタのスイッチング作用により直流電流を交流電流に変換している。インバータ502はECU602の要求に応じて、交流電流を制御して、駆動モータ504の出力トルク及び回転数を制御する。負荷系500は、更に、燃料電池が発電する余剰の電力を蓄電し、不足する電力を供給するために二次電池を備えていることも好適である。
【0035】
燃料電池システム10を制御する制御系600は、各センサにより計測された値が入力されポンプ206・306404やインバータ502などの動作を制御する機能と、膜-電極接合体118の水分含有量を推定する機能とを備えるECU602を含む。以下より、膜-電極接合体118の水分含有量を推定する機能について、図4を用いて説明する。
【0036】
発熱板124のPTC素子128は、不図示のECU602により、図4(A)に示すように一定周期でON−OFF制御される。PTC素子128のキュリー温度である80度は、燃料電池の通常運転温度である70度に対して高い。そのため、PTC素子128がECU602によりON制御されている場合は、PTC素子128に電流が流れ発熱する。その結果、温度センサ130により計測される発熱板124の温度は上昇する。一方、PTC素子128がOFF制御されている場合は、PTC素子128に電流は流れないため温度を一定に保つことが出来ず、温度センサ130により計測される発熱板124の温度は減少する。
【0037】
図4(B)に示すように、PTC素子128のON-OFF制御により、PTC素子128のキュリー温度(80度)と燃料電池の通常運転温度(70度)の中間である75度を所定温度として、所定温度に対して振幅するように温度が周期的に変化する。本実施形態では、発熱板124の温度をPTC素子128のキュリー温度まで増加させるようにECU602で制御したが、キュリー温度より低い温度(例えば75度)まで発熱板124の温度を上昇させるように制御しても良い。この場合、72.5度を所定温度として、周期的に温度が振幅するように変化する。なお、この温度変化は燃料電池の運転に影響を与えない温度変化の範囲に設定することが好適である。また、隣接する単位電池の温度や燃料電池スタックを冷却する冷却媒体の温度を考慮して温度を振幅させることも好適である。。
【0038】
所定温度を中心に振幅するように温度変化するとは、発熱板124の温度が所定温度よりも高い期間と、発熱板124の温度が所定温度よりも低い期間を、それぞれ交互にとることを意味する。本実施形態では、一定周期で発熱板124の温度が所定温度より高い期間・低い期間が交互にくるよう正弦波の形状で温度が振幅しているが、その他の実施態様もよい。例えば、発熱板の温度が所定温度より高い期間・低い期間の合計の時間が一定でなく可変に制御されても良いし、正弦波の温度変化ではなく矩形波・三角波・のこぎり状の波であってもよい。
【0039】
発熱板124の温度変化は、膜-電極接合体118を介して測定板に伝達され、測定板の温度センサ138によって計測される。図4(C)に示すように、測定板の温度変化は、発熱板124の温度変化に対して、膜-電極接合体118の熱特性に依存して、その振幅・位相がずれる。以下に、膜-電極接合体118の水分含有量と膜-電極接合体118の水分含有量の関係と、計測板126で計測される温度変化の振幅・位相がずれる理由を説明する。
【0040】
図5に、膜-電極接合体118の水分含有量と熱特性の一つである熱容量との関係について示す。膜-電極接合体118に含有される水分量がW1からW2に増加すると、膜-電極接合体118の熱容量がQ1からQ2に増加する。この関係から、膜-電極接合体118の熱容量を求めて、膜-電極接合体118の水分含有量を推定する。この場合、熱容量が大きくなった場合に、水分含有量が多くなったと推定する。
【0041】
また、膜-電極接合体118の熱容量と計測板126における温度変化の振幅の割合との関係で水分含有量を推定するのも好適である。熱容量が大きくなった場合は、計測板において計測される温度変化の振幅の割合が小さくなる関係を有しているからである。そのため、水分量がW2の時の計測板126における温度変化の振幅の割合は、水分量がW1の時に対して減少する。この発熱板124の温度変化を温度センサ130で計測し、計測板126における温度変化を温度センサ138で計測し、温度変化の振幅の割合をECU602にて解析することにより、膜-電極接合体118に含まれる水分量を推定する。なお、図4(B)(C)では発熱板124・計測板126の温度変化の最大値と最小値との差を示している。
【0042】
図6に、膜-電極接合体118の水分含有量と熱伝導度の関係を示す。膜-電極接合体118に含有される水分量がW3からW4に増加すると、膜-電極接合体118の熱伝導度がλ3からλ4に減少する。この関係から、膜-電極接合体118の熱伝導度を求めて、膜-電極接合体118の水分含有量を推定する。この場合、熱伝導度が小さくなった場合に、水分含有量が多くなったと推定する。
【0043】
また、膜-電極接合体118の熱伝導度と計測板126における発熱板124の温度変化が計測されるまでの時間との関係で膜-電極接合体118の水分含有量を推定するのも好適である。本実施形態では、所定温度を中心に周期的に振動するように発熱板124が発熱しているため、その周期の位相差に注目して膜-電極接合体の水分含有量を推定する。発熱板124の温度変化が計測板126の温度変化として計測されるまでの時間である温度変化の位相差が、水分量がW4の時は水分量がW3の時に対して増加する。すなわち、計測板で計測されるまでの時間が長くなる。この発熱板124の温度変化を温度センサ130で計測し、発熱板124の温度変化と計測板126の温度変化との位相差を水分量推定部としてのECU602にて解析することにより、膜-電極接合体118に含まれる水分量を推定するである。
【0044】
固体高分子膜112が乾燥してインピーダンスを計測することが出来ない場合でも、熱は固体高分子膜112を介して発熱板124から計測板126に移動する移動することができる。膜-電極接合体118の水分含有量と膜-電極接合体118を通過する熱とを関連付けることにより、従来技術に示した交流インピーダンス法の課題である発電停止中などの電流を引けない場合でも、水分含有量を推定することが可能である。これにより、膜-電極接合体の水分含有量が極端に低下した時や、氷点下始動時などにおいても、水分含有量を推定できる。
【0045】
また、本実施形態では、燃料電池スタックに交流電流を流す必要がない。そのため、燃料電池スタックを制御するシステム・燃料電池スタックに接続されているインバータなどに、交流電流による影響を与えない構成である。
【0046】
図7を用いて、本実施形態を実施するフローチャートについて説明する。なお、以下のフローチャートは、所定時間毎に逐次実施される。最初に、ECU602により発熱板124が発熱させられる(ステップ100)。発熱板124の発熱による膜-電極接合体118を介した温度変化を計測板で計測させる(ステップ102)。発熱板124での発熱と計測板126で計測された温度変化との関係より、膜-電極接合体の熱特性を測る(ステップ104)。ステップ104で求められた膜-電極接合体118の熱特性に基づき、膜-電極接合体118の水分含有量を推定する(ステップ106)。
【0047】
上述の実施形態の変更例として、図8に示すように、計測板126を熱的に独立の複数の分割計測板127を計測板126の面方向に供えることも好適である。分割系側板はそれぞれの計測板毎に温度センサ138を備えている。この構成により、分割系側板は独立に対応する膜-接合体の水分含有量を推定するので、膜-電極接合体118の水分含有量の面内分布を推定することができる。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の他の実施形態を採用することが出来る。複数の膜-電極接合体における温度変化を計測するために、複数の単位電池(例えば、5個の単位電池)の積層方向両端に発熱板と計測板とを設ける構成も好適である。
【0049】
発熱板・計測板を備える単位電池を複数個備える燃料電池スタックも好適である。しかし、発熱板と計測板とを備える単位電池に隣接するように設けた場合、膜-電極接合体を挟まず隣り合う発熱板と計測板とが熱的に影響を及ぼす恐れがある。そこで、発熱板と計測板とを備える単位電池を複数配置する場合は、熱的に影響を及ぼさないように離間して配置することが好適である。
【0050】
発熱板の発熱は、所定温度を中心に周期的に振動する態様以外でも良い。例えば、燃料電池の通常運転温度(70度)からPTC素子のキュリー温度(80度)まで、温度を1回上昇させるような態様でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態の燃料電池システムの構成図である。
【図2】本実施形態の単位電池の斜視図である。
【図3】本実施形態の燃料電池スタックの分解斜視図である。
【図4】本実施形態の(A)PTC素子のON-OFF制御、(B)発熱板の温度変化、(C)計測板の温度変化を示す図である。
【図5】膜-電極接合体の水分含有量と熱容量との関係を示す図である。
【図6】膜-電極接合体の水分含有量と熱伝導度との関係を示す図である。
【図7】本実施形態を実施するフローチャートである。
【図8】計測板の他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10 燃料電池システム、
100 燃料電池スタック、102 単位電池、106 電流センサ、108 電圧センサ、110 温度センサ、112 固体高分子膜、114 アノード極、116 カソード極、118 膜-電極接合体、120・122 セパレータ、 124 発熱板、126 計測板、127 分割計測板、128 PTC素子、130 温度センサ、134 PTC素子の直線部、136 PTC素子の折返し部、138 温度センサ、140 水素流路、142 酸素流路、144 冷却流路、146 水素供給マニホールド、148 水素排出マニホールド、150 酸素供給マニホールド、152 酸素排出マニホールド、154 冷却液供給マニホールド、156 冷却液排出マニホールド、
200 水素系、202 水素タンク、204 逆止弁、206 減圧弁、208 圧力センサ、210 水素供給路、212 水素ポンプ、214 水素ガス循環路
300 酸素系、302 吸入口、304 エアポンプ、306 圧力センサ、308 調圧弁
400 冷却系、402 ラジエータ、404 冷却媒体ポンプ、406 冷却媒体循環路
500 負荷系、502 インバータ、504 駆動モータ
600 制御系、602 ECU




【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン導電性の電解質膜と前記電解質膜を挟む一対の電極とからなる膜-電極接合体と、
前記膜-電極接合体の一方の面に位置し発熱する発熱手段と、
前記膜-電極接合体の他方の面に位置し前記発熱手段からの発熱による温度を計測する計測手段と、
前記計測手段により計測された温度により前記膜-電極接合体の熱特性を測り、前記膜-電極接合体の水分含有量を推定する推定部と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記推定部が測る熱特性は前記膜-電極接合体の熱容量であって、該熱容量が大きくなった場合に前記膜-電極接合体の水分含有量が増加したと推定する推定部である燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記推定部は、前記発熱手段の発熱が前記計測手段の温度に及ぼす変化の割合が小さくなった場合に前記膜-電極接合体の水分含有量が増加したと推定する推定部である燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の燃料電池システムにおいて、
前記推定部が測る熱特性は前記膜-電極接合体の熱伝導度であって、該熱伝導度が小さくなった場合に前記膜-電極接合体の水分含有量が増加したと推定する推定部である燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の燃料電池システムにおいて、
前記推定部は、前記発熱手段の発熱が前記計測手段の温度として計測されるまでの時間が長くなった場合に、前記膜-電極接合体の水分含有量を増加したと推定する推定部である燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の燃料電池システムにおいて、
前記発熱手段は、所定温度を中心に振幅するよう温度変化する発熱手段である燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の燃料電池システムにおいて、
前記計測手段は前記膜-電極接合体の面方向に熱的に独立となるように分割された計測手段である燃料電池システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一つに記載の燃料電池システムにおいて、
前記計測手段の熱伝導度は前記発熱手段の熱伝導度に対して大きい燃料電池システム。
【請求項9】
イオン導電性の電解質膜と前記電解質膜を挟む一対の電極とからなる膜-電極接合体の一方の面で発熱させ他方の面で該発熱の温度を計測することにより、膜-電極接合体の熱特性を測り、該膜-電極接合体の水分含有量を推定する燃料電池の水分含有量推定装置。
【請求項10】
イオン導電性の電解質膜と前記電解質膜を挟む一対の電極とからなる膜-電極接合体の一方の面に位置する発熱手段が発熱するステップと、
イオン導電性の電解質膜と前記電解質膜を挟む一対の電極とからなる膜-電極接合体の他方の面に位置する計測手段が温度を計測するステップと、
計測された温度により前記膜-電極の熱特性を測るステップと、
熱特性に基づき膜-電極接合体の水分含有量を推定するステップと、
を有する燃料電池の水分含有量推定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−212053(P2009−212053A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56662(P2008−56662)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】