説明

燃料電池システムおよびその制御方法

【課題】起動後の残水の再凍結に起因する触媒層の損傷を防止する。
【解決手段】燃料電池の発電を開始する燃料電池起動部61と、ポンプ36が配置され、冷媒用の電池側流路に冷媒を通過させるための冷媒流路32と、前記燃料電池の温度が所定値以下となる低温時における前記燃料電池起動部による前記発電の開始時から所定の期間、前記ポンプ36を停止し、前記所定の期間経過後、前記ポンプ36を運転開始するポンプ制御部62とを備え、前記ポンプ制御部62は、前記所定の期間経過後、前記ポンプ36の運転を制御することにより、前記電池側流路における前記冷媒の流れの向きを、経過時間に応じて順次反転させる冷媒反転部62aを備える、燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を備える燃料電池システム、および燃料電池システムの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池システムにおいて、氷点下の起動時に冷媒の循環を停止して、燃料電池を起動するものが知られている(特許文献1参照)。この構成により、起動時に、冷え切った冷媒が燃料電池の内部に送られ、燃料電池の内部温度が低下しすぎるのを防止することができる。この構成では、その後、燃料電池の内部温度が上昇してくると、冷媒の循環を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−36874号公報
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、冷媒の循環の開始で、燃料電池の冷媒の入口付近およびその周辺の温度が一時的に低下するため、起動前に燃料電池内に残っていた生成水(以下、「残水」と呼ぶ)が再凍結することがあった。残水が再凍結すると、燃料電池内の触媒層を損傷させる問題を発生した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたものであり、起動後の残水の再凍結に起因する触媒層の損傷を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 燃料電池と、前記燃料電池に並設される冷媒用の電池側流路とを備える燃料電池システムであって、前記燃料電池の発電を開始する燃料電池起動部と、ポンプが配置され、前記電池側流路に冷媒を通過させるための冷媒流路と、前記燃料電池の温度が所定値以下となる低温時における前記燃料電池起動部による前記発電の開始時から所定の期間、前記ポンプを停止し、前記所定の期間経過後、前記ポンプを運転開始するポンプ制御部とを備え、前記ポンプ制御部は、前記所定の期間経過後、前記ポンプの運転を制御することにより、前記電池側流路における前記冷媒の流れの向きを、経過時間に応じて順次反転させる冷媒反転部を備える、燃料電池システム。
【0008】
適用例1に記載の燃料電池システムによれば、低温起動時から所定の期間経過後に、ポンプの運転を開始して、燃料電池に併設される冷媒用の電池側流路へ冷媒を通過させる。このとき、冷媒反転部により、冷媒の流れの向きが経過時間に応じて順次反転されることから、前記電池側流路における前記燃料電池の面に沿った方向の温度が一様となる。このため、冷媒が流入されることで温度が最も低下し易い冷媒の入口付近、およびその周辺の温度低下を抑えることができることから、起動前に燃料電池システム内に残っていた残水が再凍結することがない。したがって、適用例1に記載の燃料電池によれば、残水の再凍結に起因する燃料電池内の触媒層の劣化を防止することができる。
【0009】
[適用例2] 適用例1に記載の燃料電池システムであって、前記冷媒反転部は、前記ポンプの運転制御として、前記ポンプの回転方向を切り換える構成である、燃料電池システム。
【0010】
適用例2に記載の燃料電池システムによれば、ポンプの回転方向を切り換えることで、電池側流路における冷媒の流れの向きの反転が行われる。したがって、ポンプの回転方向の切り換えという簡単な制御により、冷媒の流れの向きを切り換えることができる。
【0011】
[適用例3] 適用例1に記載の燃料電池システムであって、前記電池側流路は、前記燃料電池の面に沿って配置される2つの部位を含み、前記冷媒流路は、前記各部位に冷媒を通過させる2系統を備え、各系統に前記ポンプが配置された構成であり、前記冷媒反転部は、前記各ポンプの運転を制御することにより、前記2系統のうちの第1系統の冷媒の流れを停止するとともに前記2系統のうちの第2系統の冷媒を前記燃料電池の面に沿った第1の向きに流す第1の状態と、前記第1系統の冷媒を前記第1の向きに対向した第2の向きに流すとともに前記第2系統の冷媒の流れを停止する第2の状態との間で、経過時間に応じて順次切り換えを行う構成である、燃料電池システム。
【0012】
適用例3に記載の燃料電池システムによっても、電池側流路における冷媒の流れの向きを、経過時間に応じて順次反転させることを実現することができる。
【0013】
[適用例4] 適用例1ないし3のいずれかに記載の燃料電池システムであって、前記冷媒反転部は、第2の所定期間、前記反転を行う構成であり、前記ポンプ制御部は、前記第2の所定期間経過後、前記ポンプの運転を制御することにより、前記電池側流路における前記冷媒の流れの向きを、一方向として継続運転する継続運転部を備える、燃料電池システム。
【0014】
適用例4に記載の燃料電池システムによれば、冷媒反転部による冷媒の流れの反転制御がなされ、その後、冷媒の流れの向きを一方向とする運転に切り換えられる。このため、燃料電池の冷間起動後も好適に燃料電池を制御することができる。
【0015】
[適用例5] 適用例1ないし4のいずれかに記載の燃料電池システムであって、前記所定の期間は、前記燃料電池の内部温度が所定値を上回るまでの期間である、燃料電池システム。
【0016】
適用例5に記載の燃料電池システムによれば、燃料電池の内部温度が所定値を上回った場合に、燃料電池への冷媒の供給を開始することできる。
【0017】
[適用例6] 燃料電池と、前記燃料電池に並設される冷媒用の電池側流路とを備える燃料電池システムであって、前記燃料電池の発電を開始する燃料電池起動部と、ポンプが配置され、前記電池側流路に冷媒を通過させるための冷媒流路と、前記燃料電池起動部による前記発電の開始時に、前記ポンプの運転を開始するポンプ制御部とを備え、前記ポンプ制御部は、前記燃料電池の温度が所定値以下となる低温時に、前記冷媒流路への冷媒の流通が開始されてからの冷媒による積算吸熱量が、前記冷媒流路への冷媒の流通が開始されてからの前記燃料電池の積算発熱量に基づく判定基準熱量を上回るか否かを判定する判定部と、前記判定部により上回ると判定されたときに、前記ポンプの運転を停止する停止制御部とを備える、燃料電池システム。
【0018】
適用例6に記載の燃料電池システムによれば、冷媒からの吸熱量が大きい場合に、ポンプの運転が停止されることから、冷媒からの吸熱量を削減することができる。このため、残水の再凍結を抑制することができる。したがって、冷間起動時において、残水の再凍結に起因する触媒層の劣化を防止することができる。
【0019】
[適用例7] 燃料電池と、前記燃料電池に並設される冷媒用の電池側流路と、ポンプが配置され、前記電池側流路に冷媒を通過させるための冷媒流路とを備える燃料電池システムにおける制御方法であって、操作者からの始動要求に基づいて、前記燃料電池の発電を開始し、前記燃料電池の温度が所定値以下となる低温時においては、前記発電の開始時から所定の期間、前記ポンプを停止し、前記所定の期間経過後、前記ポンプを運転開始するにあたり、前記ポンプの運転を制御することにより、前記電池側流路における前記冷媒の流れの向きを、経過時間に応じて順次反転させる、燃料電池システムの制御方法。
【0020】
[適用例8] 燃料電池と、前記燃料電池に並設される冷媒用の電池側流路と、ポンプが配置され、前記電池側流路に冷媒を通過させるための冷媒流路とを備える燃料電池システムにおける制御方法であって、操作者からの始動要求に基づいて、前記燃料電池の発電を開始し、前記燃料電池の温度が所定値以下となる低温時に、前記冷媒流路への冷媒の流通が開始されてからの冷媒による積算吸熱量が、前記冷媒流路への冷媒の流通が開始されてからの前記燃料電池の積算発熱量に基づく判定基準熱量を上回るか否かを判定し、上回ると判定されたときに、前記ポンプの運転を停止する、燃料電池システムの制御方法。
【0021】
適用例7および適用例8に記載の燃料電池システムの制御方法によれば、適用例1に記載の燃料電池システムと同様に、残水の再凍結に起因する燃料電池内の触媒層の劣化を防止することができる。
【0022】
さらに、本発明は、前記適用例1ないし8以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、適用例7または8に記載の燃料電池システムの制御方法の各手順をコンピュータに実行させるためのプログラムなどの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池システム10の構成を示す説明図である。
【図2】燃料電池スタック20に含まれる冷媒用プレート80を説明するための斜視図である。
【図3】起動時制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】正転/反転モードにおけるセル間冷媒流路82における冷媒の流れの向きの変化を示す説明図である。
【図5】第1実施例の燃料電池システム10の奏する効果を従来例と比較して示すグラフである。
【図6】第2実施例における冷媒用プレート110と2系統の冷却システム130、140とを示す説明図である。
【図7】第2実施例におけるセル間冷媒流路の流れの向きの変化を示す説明図である。
【図8】第3実施例における起動時制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0025】
A.第1実施例:
A1.ハードウェア構成:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池システム10の構成を示す説明図である。この燃料電池システム10は、燃料電池により得られた電力を駆動用電力として用いる電気自動車に搭載されて用いられる。燃料電池システム10は、燃料電池スタック20、冷却システム30、および制御ユニット50等を備えている。
【0026】
燃料電池スタック20は、固体高分子電解質型の燃料電池であって、単セルを複数積層して直列に接続したスタック構造を有している。単セルは、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly )を、ガス拡散層で挟持し、これらMEAおよびガス拡散層をさらに両側からセパレータによって挟持することによって構成された周知のものである。
【0027】
燃料電池スタック20の各単セルには、電池反応に供される燃料ガスと酸化剤ガスとが供給される。簡単に説明すると、各単セルのアノード電極(水素極)には、高圧水素を貯蔵した水素タンク21から、配管22を介して燃料ガスとしての水素が供給される。水素タンク21の代わりに、アルコール、炭化水素などを原料とする改質反応によって水素を生成しても良い。配管22には、水素の供給を調整するため、シャットバルブ23および調圧バルブ24が配置されている。単セルのアノード電極から排出された水素は、配管25を介して配管22に戻され、再び燃料電池スタック20に循環される。配管25上には、循環のための水素ポンプ26が配置されている。
【0028】
各単セルのカソード電極(酸素極)には、エアポンプ27から、配管28を介して、酸化剤ガスとしての空気が供給される。各単セルのカソード電極から排出された空気は、配管29を介して大気中に放出される。
【0029】
燃料電池スタック20には、上述した燃料ガスおよび酸化剤ガスに加えて、冷却媒体(以下、単に「冷媒」とも呼ぶ)が供給され、発電に伴い昇温した各単セルが冷媒によって冷却される。本実施例では、冷媒として水にエチレングリコールなどを添加した不凍液を用いるものとするが、不凍液に換えて、純水等の任意の冷却水を利用することもできる。また、冷却水に換えて二酸化炭素などの気体を冷媒としてもよい。
【0030】
冷却システム30は、前記冷媒を循環する循環回路32を備え、この循環回路32に、前述した燃料電池スタック20と、ラジエータ34とが配置される。ラジエータ34の近傍には電動ファン35が配置されている。ラジエータ34は、循環回路32を介して燃料電池スタック20から送られてくる冷媒を、電動ファン35からの風により冷却し、冷媒の熱を車外へと放出する。
【0031】
循環回路32には、ウォータポンプ36が設けられている。ウォータポンプ36の吐出力を受けて、循環回路32を冷媒が循環する。ウォータポンプ36は、回転方向を正転と反転とで切り換え可能な構成であり、正転時には、図示する左回り(矢印方向)に冷媒を循環させることができ、反転時には、図示しない右回りに冷媒を循環させることができる。前記正転時の左回りの冷媒の流れを以下、「順流」と呼び、逆転時の右回りの冷媒の流れを以下、「逆流」と呼ぶ。
【0032】
循環回路32におけるラジエータ34とウォータポンプ36の間には、三方弁38が設けられ、この三方弁38の一つのポートに、ラジエータ34をバイパスするバイパス流路40が接続されている。バイパス流路40は、ラジエータ34に対して並列となるように設けられる。三方弁38を、ラジエータ34とウォータポンプ36の間が連通しバイパス流路40側は遮断した第1状態に切り換えることで、ラジエータ34で冷却された冷媒を燃料電池スタック20との間で循環させることができ、ウォータポンプ36とバイパス流路40との間が連通しラジエータ34側は遮断した第2状態に切り換えることで、ラジエータ34を介さないで冷媒を燃料電池スタック20との間で循環させることができる。第2状態に切り換えることで、燃料電池スタック20に流入する冷媒が、ラジエータ34で冷却されることを防ぐことができる。
【0033】
制御ユニット50は、CPU(Central Processing Unit)51と、メモリ52と、入出力回路53とを主に備えている。入出力回路53は、各種アクチュエータ、各種センサ、および各種スイッチ等を、制御用信号線(図示せず)を介して接続している。各種アクチュエータとしては、前述したシャットバルブ23、調圧バルブ24、水素ポンプ26、エアポンプ27、ウォータポンプ36、三方弁38、電動ファン35等がある。
【0034】
各種センサとしては、循環回路32の燃料電池スタック20への供給口(ウォータポンプ36の正転時における供給口)30a付近に設けられ、冷媒の温度を検出する第1温度センサ41、循環回路32の燃料電池スタック20からの受取口(ウォータポンプ36の正転時における受取口)30b付近に設けられ、冷媒の温度を検出する第2温度センサ42、および配管29に設けられ、空気の燃料電池スタック20からのオフガスの温度を検出する第3温度センサ44等がある。各種スイッチとしては、燃料電池システム10が搭載される電気自動車を始動する始動スイッチ46等がある。
【0035】
前記第3温度センサ44は、燃料電池システム10の内部温度を検出するためのもので、空気のオフガスが燃料電池システム10の内部温度を反映するものとして、配管29に設けられた温度センサを採用した。なお、第3温度センサは、燃料電池スタック内に直接に設けられたもの等、燃料電池システム10の内部温度を検出可能なセンサであれば、いずれの構成とすることもできる。
【0036】
メモリ52には、主として燃料電池システム10を制御するための図示しないコンピュータプログラムが格納されており、CPU51は、このコンピュータプログラム(例えば、後述する起動時制御ルーチンのコンピュータプログラム)を実行することにより、燃料電池起動部61およびポンプ制御部62として機能する。ポンプ制御部62は、冷媒反転部62aを備える。
【0037】
図2は、燃料電池スタック20に含まれる冷媒用プレート80を説明するための斜視図である。燃料電池スタック20は、前述したように、単セルを複数積層して直列に接続したスタック構造を有しているが、燃料電池スタック20には、複数の単セルを貫くように3対の孔が形成されている。これら3対のうちの1対の孔70a、70bが、冷媒用のものである。孔70aは上流側の冷媒の流路を形成し、孔70bは下流側の冷媒の流路を形成する。他の対の孔は水素ガス用、空気用のものであるが、詳しい説明は省略する。
【0038】
冷媒用プレート80は、単セルと単セルとの間に並ぶように配設されている。上流側の冷媒の流路を形成する孔70aは、冷媒用プレート80に形成されるセル間冷媒流路82に接続されることで、循環回路32の供給口30a(図1)から送られてきた冷媒を単セル間に設けられたセル間冷媒流路82に分配する冷媒の供給マニホールドとして機能する。下流側の流路を形成する孔70bは、セル間冷媒流路82の他方端(前記孔70aが接続されたと反対側の端部)に接続されることで、各セル間冷媒流路82から排出された冷媒を集合させて循環回路32の受取口30b(図1)へ導く流体の排出マニホールドとして機能する。
【0039】
ここで、セル間冷媒流路82は、冷媒用プレート80の面方向の中央における単セルの発電領域に対向(単セルの積層方向において対向)する範囲に形成される複数本の溝流路であり、単セルの片側の面(単セルの積層方向に垂直な面)に沿って配置されることになる。セル間冷媒流路82は、特許請求の範囲に記載された「電池側流路」に相当する。1枚の単セルは、特許請求の範囲に記載された「燃料電池」に相当する。なお、本実施例では、1枚の単セルに1枚の冷媒用プレート80が並設される構成としたが、これに換えて、複数枚の単セル毎に1枚の冷媒用プレート80が配置された構成としてもよい。
【0040】
A2.ソフトウェア構成:
A2−1.起動時制御ルーチン:
制御ユニット50のCPU51により実行される起動時制御ルーチンについて、次に説明する。図3は起動時制御ルーチンを示すフローチャートである。この起動時制御ルーチンは、電気自動車の起動前においては、暗電流にて実行される。図示するように、処理が開始されると、CPU51は、まず、始動スイッチ46がオン状態にあるか否かを判定する(ステップS110)。ここで、始動スイッチ46がオン状態でない、すなわちオフ状態であると判定されたときには、CPU51は、ステップS110の処理を繰り返して、始動スイッチ46が操作者により操作されてオン状態となるのを待つ。
【0041】
ステップS110で、始動スイッチ46がオン状態にあると判定された場合には、燃料電池スタック20を起動する(ステップS120)。詳しくは、CPU51は、シャットバルブ23、調圧バルブ24、水素ポンプ26、およびエアポンプ27を制御して、燃料電池スタック20に水素ガスおよび空気を供給することで、燃料電池スタック20の発電を開始する(すなわち、起動する)。
【0042】
続いて、CPU51は、第1温度センサ41の検出値T1が0[℃]以下であるか否かを判定する(ステップS130)。この判定は、燃料電池システム10の周囲の温度が氷点下以下であるか否かを、循環回路32中の冷媒の温度に基づいて行おうというものである。ここで、検出値T1が0[℃]以下であると判定された場合には、ステップS140に処理を進めて、低温起動時の一連の処理を行う。
【0043】
なお、ステップS120の閾値である0[℃]は、燃料電池の温度が低い低温時を判定するためのものであるが、この閾値は0[℃]に限る必要はなく、−2[℃]、−4[℃]等、他の0[℃]以下の温度とすることができる。また、ステップS120で判定を行う検出値を出力するセンサは、第1温度センサ41に限る必要はなく、燃料電池システム10の外側に設置した温度センサ等、燃料電池システム10の周囲の温度を反映するパラメータを検出することのできるセンサであれば、いずれの構成とすることもできる。
【0044】
ステップS140では、CPU51は、第3温度センサ44の検出値T3が所定温度TAを上回るか否かを判定する。所定温度TAは、例えば40[℃]である。すなわち、ステップS140では、空気オフガスの温度が40[℃]を上回るほど、燃料電池スタック20が暖機されたか否かを判定している。ステップS140で、第3温度センサ44の検出値T3が所定温度TA以下であると判定された場合には、ステップS140の処理を繰り返して、第3温度センサ44の検出値T3が所定温度TAを上回るのを待つ。
【0045】
なお、前記所定温度TAは40[℃]に限る必要はなく、45[℃]、50[℃]等、燃料電池スタック20が暖機されたと判断される温度であれば他の温度に換えることができる。また、ステップS140で判定を行う検出値を出力するセンサは、第1温度センサ41に限る必要はなく、燃料電池スタック20の内部に設置した温度センサ等、燃料電池の内部温度を反映するパラメータを検出することのできるセンサであれば、いずれの構成とすることもできる。
【0046】
ステップS140で、第3温度センサ44の検出値T3が所定温度TAを上回ると判定された場合には、ウォータポンプ36を正転/反転モードにて運転開始する(ステップS150)。正転/反転モードとは、ウォータポンプ36を正転と反転とを、経過時間に応じて順次切り換えて実行するもので、後ほど詳述する。このとき、循環回路32に設けられた三方弁38はバイパス流路40側に開いているものとする。バイパス流路40側に開いていない場合には、CPU51は、三方弁38を制御して、バイパス流路40側に開く。すなわち、この正転/反転モード時においては、ラジエータ34で冷媒を冷やすことなく、冷媒の循環を開始する。
【0047】
燃料電池スタック20は、ステップS120で起動後、温度が次第に上昇してくることから、ステップS150の実行後、ウォータポンプ36の正転時において、循環回路32の燃料電池スタック20への供給口に設けられた第1温度センサ41の検出値T1が0[℃]を上回ったか否かを判定する(ステップS160)。この判定は、循環回路32の温度が十分に上昇したかを判定するためのものであり、前記閾値である0[℃]は、この限りではなく、2[℃]、4[℃]等、他の温度とすることができる。なお、前記閾値は、0[℃]であることが好ましい。
【0048】
ステップS160では、冷媒の順流時における燃料電池スタック20への供給口30a付近に設けられた第1温度センサ41の検出値T1を判定していたが、これに換えて、冷媒の順流時における燃料電池スタック20からの受取口30b付近に設けられた第2温度センサ42の検出値T2を用いる構成とすることもできる。但し、この構成の場合には、閾値は0[℃]に換えて例えば80[℃]とする必要がある。また、冷媒の順流時における第1温度センサ41の検出値T1が80[℃]を上回ったかを判定する構成とすることもできる。
【0049】
ステップS160で、ウォータポンプ36の正転時の第1温度センサ41の検出値T1が0[℃]以下である場合には、ステップS160の処理を繰り返して、前記検出値T1が0[℃]を上回るのを待つ。ステップS160で、ウォータポンプ36の正転時の第1温度センサ41の検出値T1が0[℃]を上回ったと判定された場合には、ウォータポンプ36を正転モードにて運転開始する(ステップS170)。その後、この起動時制御ルーチンを終了する。
【0050】
一方、ステップS130で、第1温度センサ41の検出値T1が0[℃]を上回ると判定された場合、すなわち、燃料電池スタック20を起動時の循環回路32の冷媒の温度が0[℃]を上回ると判定された場合には、CPU51は、ステップS170に処理を進めて、ウォータポンプ36を正転モードにて運転開始する。
【0051】
以上のように構成された起動時制御ルーチンの完了後、燃料電池スタック20は運転を継続するとともに、ステップS170で運転開始した正転モードにて、ウォータポンプ36は運転を継続する。なお、ステップS110およびS120の処理が、CPU51で実行される機能としての燃料電池起動部61に対応する。ステップSS130ないしS170の処理が、CPU51で実行される機能としてのポンプ制御部62に対応する。ステップS150の処理が、冷媒反転部62aに対応する。
【0052】
A2−2.ウォータポンプの正転/反転モード:
ウォータポンプ36の正転/反転モードは、所定の期間毎に、ウォータポンプ36の回転方向を正転と反転とで切り換えていく運転モードである。ウォータポンプ36の回転方向を正転と反転とで切り換えることで、燃料電池スタック20内のセル間冷媒流路82における冷媒の流れの向きを反転することができる。
【0053】
図4は、正転/反転モードにおけるセル間冷媒流路82における冷媒の流れの向きの変化を示す説明図である。所定の期間経過毎に、図中の(a)→(b)→(c)→(d)と移行する。(a)〜(d)は、冷媒用プレート80の平面図であり、冷媒用プレート80に形成されるセル間冷媒流路82は、燃料電池スタック20の単セルの面に沿って冷媒を流す。
【0054】
ウォータポンプ36を正転で回転させたとき、循環回路32を冷媒は図1に示した順流で流れる。このとき、冷媒用プレート80においては、図中の(a)に示すように、孔70aが冷媒の入口(以下、「冷媒IN」と呼ぶ)として機能し、孔70aを流入した冷媒は、セル間冷媒流路82を図中の左下から右上に向いて進む。このとき、孔70aと対になる孔70bは、冷媒の出口(以下、「冷媒OUT」と呼ぶ)として機能し、セル間冷媒流路82を流れてきた冷媒は、孔70bから流出する。
【0055】
図4(a)の状態が所定期間継続する。ここで、「所定の期間」は、燃料電池スタック20内の冷媒を全て入れ替えるに要する流量(以下、「入れ替え流量VT」と呼ぶ)をウォータポンプ36が吐出する期間である。セル間冷媒流路82の容積をVC、冷媒用プレート80の数(すなわち、単セルの数)をNとすると、入れ替え流量VTはVC×Nで近似することができる。したがって、図4(a)の状態に切り換わってからのウォータポンプ36の積算流量を計算して、この積算流量が入れ替え流量VTとなったときに、ウォータポンプ36を正転から反転に切り換える。
【0056】
なお、入れ替え流量VTは、前記のVC×Nに換えて、VC×N+VPとして求めることもできる。ここで、VPは、セル間冷媒流路82に接続される孔70a(または孔70b)の全容積である。この構成によれば、VC×Nとするよりも、より高精度に、入れ替え流量VTを近似することができる。
【0057】
ウォータポンプ36を反転で回転させたとき、循環回路32を冷媒は逆流で流れる。このとき、冷媒用プレート80においては、図4(b)に示すように、孔70bが冷媒INとして機能し、孔70bを流入した冷媒は、セル間冷媒流路82を図中の右上から左下に向いて進む。このとき、孔70aは冷媒OUTとして機能し、セル間冷媒流路82を流れてきた冷媒は、孔70aから流出する。すなわち、図4(a)の状態と比べて、冷媒の流れの向きは反転する。
【0058】
図4(b)の状態が前述した所定期間だけ継続する。この結果、図4(a)の状態で孔70bから流出した入れ替え流量VT分の冷媒は、図4(b)の状態で、孔70bからセル間冷媒流路82内に戻される。前記所定期間継続後、ウォータポンプ36を反転から正転に切り換え、図4(c)の状態に移行する。図4(c)の状態の冷媒の流れ方向は、図4(a)の状態と同一である。図4(c)の状態を前記所定期間継続後、ウォータポンプ36を正転からから反転に切り換え、図4(d)の状態に移行する。図4(d)の状態の冷媒の流れ方向は、図4(b)の状態と同一である。図4(d)の状態以後も、セル間冷媒流路82における単セルの面に沿った冷媒の流れの向きを、前記所定期間毎に順次反転させる。
【0059】
従来、セル間冷媒流路には一方向に冷媒を流すだけであるが、セル間冷媒流路の面内(単セルに沿った面内)には、この流れの向きに温度が徐々に高くなる温度勾配が生じる。これに対して、前述した正転/反転モードで運転することで、冷媒の流れの向きが、経過時間に応じて順次反転されることから、前記温度勾配を均一化させることができる。さらに、本実施例では、切り換えの期間を、燃料電池スタック20内の冷媒を全て入れ替えるに要する流量をウォータポンプ36が吐出する期間としたことから、入れ替え流量VT分の同じ冷媒を、燃料電池スタック20内に繰り返し流入させることができることから、冷媒の温度を従来に比べて上昇させることができる。
【0060】
なお、この実施例では、図4(a)ないし(d)の各状態は、前述した所定期間だけ継続することから、各状態で送られる積算流量は一定であるが、これに換える変形例として、各状態の継続する時間は一定としながら、ウォータポンプ36の吐出量を増大することにより、各状態で送られる積算流量が暫時増大する構成としてもよい。この構成によれば、冷却効果を徐々に高めることができる。
【0061】
A3.実施例効果:
図5は、第1実施例の燃料電池システム10の奏する効果を、従来例と比較して示すグラフである。グラフは、横軸に始動スイッチ46をオンしてからの経過時間を、縦軸に燃料電池システム10の内部温度(以下、「FC内部温度」と呼ぶ)を示したものである。図中の実線が第1実施例のもので、2点鎖線は従来例のものである。図示するように、始動スイッチ46をオンしたときのFC内部温度は、氷点下以下であるとする。FC内部温度が氷点下以下である場合、起動時制御ルーチンにおけるS130の処理で、燃料電池スタック20が起動される。このとき、ウォータポンプ36は停止した状態であり、冷媒は燃料電池システム10内を循環しない。この状態では、FC内部温度は徐々に上昇し、時間t1で0[℃]を超え、さらに時間t2でステップS140の判定の閾値である所定温度TAを上回る。
【0062】
FC内部温度が所定温度TAを上回ると、空気オフガスも所定温度TAを上回り、ウォータポンプ36が正転/反転モードで運転開始される。ウォータポンプ36の運転開始により、冷媒が燃料電池システム10内に流入することになるが、これにより、FC内部温度は急低下する。従来例では、図中、2点鎖線に示すように、FC内部温度は氷点下まで戻る。このため、従来例では、起動前に燃料電池システム内の残水が多い場合、その残水が再凍結し、触媒層を損傷することがあった。これに対して、ウォータポンプ36が正転/反転モードで運転されることから、前述したように、セル間冷媒流路82の面内(単セルに沿った面内)の温度勾配を均一化することができること、および、冷媒の温度を従来に比べて上昇させることができることから、FC内部温度の低下を少なくすることができ、このため、FC内部温度は、図中、実線に示すように、氷点下まで戻ることがない。したがって、第1実施例の燃料電池システム10によれば、起動後の残水の再凍結に起因する触媒層の損傷を防止することができる。
【0063】
B.第2実施例:
本発明の第2実施例について、次に説明する。第2実施例としての燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム10と比較して、燃料電池スタックに含まれる冷媒用プレートの形状と、冷媒用プレートに冷媒を通す冷却システムとが相違する。その他のハードウェア構成は、第1実施例と同一である。第1実施例と同一の部品については、第1実施例と同じ符号を用いて以下の説明を行う。
【0064】
図6は、第2実施例における冷媒用プレート110と、冷媒用プレート110に冷媒を通す2系統の冷却システム130、140とを示す説明図である。図中、冷媒用プレート110は平面図によって示されている。図示するように、冷媒用プレート110には、複数の孔(貫通孔)が形成されている。各孔は、燃料電池スタックに組み込まれたときに、複数の単セルを貫くように設けられており、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷媒を燃料電池の積層方向に流通可能とする流路を形成する。すなわち、冷媒用プレート110に形成された孔112aは上流側の燃料ガスの流路を形成し、孔112bは下流側の燃料ガスの流路を形成する。孔114a、115a、116aは上流側の酸化剤ガスの流路を形成し、孔114b、115b、116bは下流側の酸化剤ガスの流路を形成する。孔118a、119aは上流側の冷媒の流路を形成し、孔118b、119bは下流側の冷媒の流路を形成する。
【0065】
冷媒用プレート110の中央における単セルの発電領域に対向(単セルの積層方向において対向)する範囲には、複数本の溝流路であるセル間冷媒流路が形成されている。このセル間冷媒流路は、実際は第1セル間冷媒流路182と第2セル間冷媒流路184とに区分けされている。第1セル間冷媒流路182の一方端に上流側の流路を形成する孔118aが接続され、第1セル間冷媒流路182の他方端(孔118aが接続されたと反対側の端部)に下流側の流路を形成する孔118bが接続される。第2セル間冷媒流路184の一方端に上流側の流路を形成する孔119aが接続され、第2セル間冷媒流路184の他方端(孔119aが接続されたと反対側の端部)に下流側の流路を形成する孔119bが接続される。
【0066】
2系統の冷却システム130、140のそれぞれは、第1実施例の冷却システム30と同様に、冷媒を循環する循環回路132、142を備え、この循環回路132、142に、ラジエータ134、144と、ウォータポンプ136、146と、三方弁138、148と、バイパス流路139、149とが設けられている。ラジエータ134、144の近傍には、電動ファン135、145が配置されている。各冷却システム130、140は、第1実施例の冷却システム30と同じ動作をする。
【0067】
第1の循環回路132の供給口132aは、上流側の冷媒の流路を形成する一方の孔118aに接続され、第1の循環回路132の受取口132bは、下流側の冷媒の流路を形成する一方の孔118bに接続される。第2の循環回路142の供給口142aは、上流側の冷媒の流路を形成する他方の孔119aに接続され第2の循環回路142の受取口142bは、下流側の冷媒の流路を形成する他方の孔119bに接続される。この結果、図中の上側に位置する第1セル間冷媒流路182においては、図中の右側から左側に冷媒は流れ、図中の下側に位置する第2セル間冷媒流路184においては、図中の左側から右側に冷媒は流れる。すなわち、第1セル間冷媒流路182と第2セル間冷媒流路184との冷媒の流れの向きは、反転している。換言すれば、冷媒用プレート110の冷媒の流れの向きは、全体として反転している。
【0068】
第2実施例としての燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム10と比較して、ソフトウェアの点では次の点が相違するだけである。CPU51は、第1実施例における起動時制御ルーチン(図3)と同様の起動時制御ルーチンを実行するが、この起動時制御ルーチンにおけるステップS150の処理が、第1実施例とは相違する。
【0069】
第1実施例のステップS150では、ウォータポンプ36を正転/反転モードとすることで、燃料電池スタック20内のセル間冷媒流路82における冷媒の流れの向きを、所定期間毎に反転していた。これに対して、第2実施例では、第1ウォータポンプ136と第2ウォータポンプ146とを、次のように制御することで、燃料電池スタック20内のセル間冷媒流路(第1および第2セル間冷媒流路182、184で構成される)における冷媒の流れの向きを、所定期間毎に反転している。
【0070】
図7は、第2実施例におけるセル間冷媒流路の流れの向きの変化を示す説明図である。図中の(a)、(b)は、冷媒用プレート110の平面図である。冷媒用プレート180に形成されたセル間冷媒流路としての第1セル間冷媒流路182および第2セル間冷媒流路184の流れが、所定の期間経過毎に、図中の(a)→(b)と移行する。
【0071】
最初は、第1ウォータポンプ136を停止し、第2ウォータポンプ146を運転する。なお、第2実施例におけるウォータポンプの運転とは、全て正転にて運転するものとする。この結果、図7(a)に示すように、冷媒用プレート110の図中の上側に位置する第1セル間冷媒流路182では、冷媒の流れが停止し、図中の下側に位置する第2セル間冷媒流路184では、図中、左から右に向いて冷媒が流れる。この状態が所定期間継続する。ここでいう所定の期間は、燃料電池スタック20に含まれる全ての第2セル間冷媒流路184の冷媒を全て入れ替えるに要する流量を、ウォータポンプ146が吐出する期間である。
【0072】
所定期間経過後、図7(b)の状態となる。この状態では、第1ウォータポンプ136を運転し、第2ウォータポンプ146を停止する。図7(b)に示すように、冷媒用プレート110の図中の上側に位置する第1セル間冷媒流路182では、図中、右から左に向いて冷媒が流れ、図中の下側に位置する第2セル間冷媒流路184では、冷媒の流れが停止する。この結果、第1セル間冷媒流路182と第2セル間冷媒流路184とから構成されるセル間冷媒流路においては、図7(a)の状態のときの冷媒の流れの向きと、図7(b)の状態のときの冷媒の流れの向きとは、反転した関係となっている。
【0073】
図7(b)の状態が前述した所定期間だけ継続する。その後、図7(a)の状態に切り換わる。このように、図7(b)の状態以後も、セル間冷媒流路における単セルの面に沿った冷媒の流れの向きが、前記所定期間毎に順次反転される。
【0074】
なお、本実施例における起動時制御ルーチン(図3)のステップS170では、第1ウォータポンプ136と第2ウォータポンプ146の双方を運転開始する。
【0075】
以上のように構成された第2実施例の燃料電池システムでは、第1実施例と同様に、冷間起動時にウォータポンプ136、146を始動する際の残水の再凍結に起因する触媒層の損傷を防止することができる。
【0076】
C.第3実施例:
本発明の第3実施例について、次に説明する。第3実施例としての燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム10と比較して、同一のハードウェア構成を備え、CPU51で実行される起動時制御ルーチンの点だけが相違する。なお、第1実施例と同一の部品については、第1実施例と同じ符号を用いて以下の説明を行う。
【0077】
図8は、第3実施例における起動時制御ルーチンを示すフローチャートである。この起動時制御ルーチンは、第1実施例における起動時制御ルーチン(図3)と比較して、ステップS110、S120、S130、S170が同一である。CPU51は、ステップS130で、第1温度センサ41の検出値T1が0[℃]以下であると判定された場合には、ステップS250に処理を進める。
【0078】
ステップS250では、ウォータポンプ36を正転モードにて運転開始する。ウォータポンプ36の運転が開始され、冷媒の循環が始まると、CPU51は、次いで、冷媒の積算吸熱量Qdが、判定基準熱量Qs以下であるか否かを判定する(ステップS252)。
【0079】
積算吸熱量Qdは、冷却システム30で冷媒の循環が開始されてからの冷媒の吸熱量の合計であり、以下に従って求める。まず、単位時間あたりの吸熱量Q1[kJ]は、次式(1)となる。
【0080】
Q1=(Tc−Tw)・C・A・B …(1)
ここで、
Tc:燃料電池スタック20の内部温度[K]
Tw:燃料電池スタック20に流入する冷媒の温度[K]
A:冷媒の比熱[kJ/(kg・K)]
B:燃料電池スタック20に流入する冷媒の流量[m/s]
C:燃料電池スタック20に流入する冷媒の密度[kg/m
【0081】
Tcは、第3温度センサ44の検出値を用いることができる。Twは、ウォータポンプ36の正転時においては第1温度センサ41の検出値を、ウォータポンプ36の反転時においては第2温度センサ42の検出値を用いることができる。A、B、Cは、予め計測もしくは予め定めた値(定数)を用いることができる。Aは冷媒の組成から、Bはポンプによる送量から、Cは組成と温度の関数から決まる。
【0082】
したがって、積算吸熱量Qd[kJ]は、次式(2)から求めることができる。
Qd=ΣQ1
=A・B・C・Σ(Tc−Tw) …(2)
【0083】
積算吸熱量Qdは、燃料電池スタック20の内部温度を低下させるように働くため、この積算吸熱量Qdが大きすぎる場合、単セル、特に冷媒の入口部付近で冷媒を凍らせる虞がある。この冷媒が凍る閾値が判定基準熱量Qsであり、次のように求める。
【0084】
判定基準熱量Qsは、燃料電池スタック20の温度が氷点まで低下するのに必要な吸熱量Q2と、冷却システム30で冷媒の循環が開始されてからの燃料電池スタック20の積算発熱量Q3との和である。前記吸熱量Q2[kJ]は、次式(3)から求めることができる。
【0085】
Q2=(Tst−0)・D …(3)
ここで、
Tst:冷媒の循環開始時の燃料電池スタック20の内部温度[K]
D:燃料電池スタック20の熱容量[kJ/K]
【0086】
積算発熱量Q3の求め方は、次のとおりである。水素の持つ化学エネルギーは241.82kJ/mol(LHV換算)である。単セルの変換効率ηは、セル電圧E(V)で決まり、ファラデー定数F(As/mol)と熱の仕事当量J(ジュール/セル)とを用い、次式(4)が与えられる。
η=(2F/J)・E・(1/ΔHH)=0.798・E …(4)
ここで、ΔHは燃料の持つエネルギーである。
【0087】
したがって、水素1molあたりの発熱量Qは、次式(5)から求めることができる。
Q(kJ/mol)=(1−η)×241.82
=(1−0.798×E)×241.82 …(5)
【0088】
単セルの水素の反応量HV[mol/s]は、電流I(A)を計測できれば算出でき、次式(6)から求めることができる。
HV=I/96485/2 …(6)
【0089】
燃料電池スタック20の発熱量Qstk[kJ]は、各単セルの発熱量の総和になるので、次式(7)から求めることができる。
Q7=Σ[{(1−0.798×Vi)×241.82}×Ii/(96485/2)] …(7)
【0090】
したがって、冷却システム30で冷媒の循環が開始されてからの燃料電池スタック20の積算発熱量Q3[kJ]は、次式(8)から求めることができる。
Q3=ΣQ7 …(8)
【0091】
図8のステップS252では、前述した式(2)から積算吸熱量Qdを求め、前述した式(3)から求めた吸熱量Q2と式(8)から求めた積算発熱量Q3とを加えることで判定基準熱量Qsを求め、前記積算吸熱量Qdが判定基準熱量Qs以下であるか否かを判定する。ここで、積算吸熱量Qdが判定基準熱量Qs以下であると判定されたときには、燃料電池スタック20内で冷媒が凍結する虞がないことから、ステップS260に処理を進める。
【0092】
一方、ステップS252で、積算吸熱量Qdが判定基準熱量Qsを上回ると判定された場合には、燃料電池スタック20内で冷媒が凍結する虞があることから、ステップS254に処理を進めて、ウォータポンプ36の運転を一旦停止する。ウォータポンプ36の停止後、あるいはステップS152で肯定判定されたとき、CPU51は、第3温度センサ44の検出値T3が所定温度TBを上回るか否かを判定する(ステップS260)。ここで、第3温度センサ44の検出値T3である空気オフガスの温度が所定温度TBを下回る場合には、ステップS252に処理を戻す。一方、空気オフガスの温度が所定温度TB以上という高温となったときには、ステップS170に処理を進める。
【0093】
以上のように構成された第3実施例の燃料電池システムでは、燃料電池の冷間起動時において、冷媒の循環が開始されてからの冷媒の積算吸熱量Qdが、判定基準熱量Qsを上回るような場合に、ウォータポンプ36の運転が一旦停止され、冷媒からの吸熱量が削減されることから、残水の再凍結をより抑制することができる。したがって、冷間起動時において、残水の再凍結に起因する触媒層の損傷を、より防止することができる。
【0094】
なお、この第3実施例の特徴部分、すなわち、ステップS252ないしS260の処理を、第1実施例や第2実施例の起動時制御ルーチンに付加することで、第1実施例、第2実施例の変形例とすることもできる。
【0095】
さらに、第1ないし第3実施例以外の実施例として、冷間起動時において、冷媒による吸熱量が燃料電池の発熱量を下回るように、冷媒用の電池側流路における冷媒の循環量を制御する構成としてもよい。マクロで見ると、燃料電池内部は、発熱量>放熱量で昇温し、発熱量<放熱量で降温する。冷媒の循環再開時の温度を維持できるように、冷媒による吸熱量(燃料電池から見たら放熱量)が燃料電池の発熱量を下回るように制御することで、冷媒の再凍結を防止することができる。
【0096】
D.変形例:
この発明は前記の実施例や各変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0097】
・変形例1:
前記各実施例および各変形例では、冷媒用の電池側流路としてのセル間冷媒流路82は、燃料電池の面方向に延びる溝流路により形成されていたが、これに限る必要はなく、複数の矩形のリブ片により形成された構成等、他の形状としてもよい。
【0098】
・変形例2:
前記各実施例および各変形例では、燃料電池スタック20の冷間起動時から、第3温度センサ44の検出値T3が所定温度TAを上回るまでの期間(適用例1の「所定の期間」に相当)、ウォータポンプを停止する構成であったが、この期間の終端は上記に限る必要はなく、例えば冷間起動時からの経過時間が所定時間を超えたときに換えることができる。また、前記各実施例および各変形例では、ウォータポンプの運転開始から、第1温度センサ41の検出値T1が0[℃]以上となるまでの期間、ウォータポンプの運転を制御して、冷媒用の電池側流路における冷媒の流れの向きを、経過時間に応じて順次反転させる構成であったが、この期間の終端は上記に限る必要はなく、例えばウォータポンプの運転開始からの経過時間が所定時間を超えたときに換えることができる。
【0099】
・変形例3:
また、前記実施例および変形例とは異なる種類の燃料電池に本発明を適用することとしてもよい。例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池に適用することができる。あるいは、固体高分子以外の電解質層を有する燃料電池であってもよく、本発明を適用することで同様の効果が得られる。
【0100】
なお、前述した各実施例および各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明はこれらの実施例および各変形例になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の態様での実施が可能である。
【符号の説明】
【0101】
10…燃料電池システム
20…燃料電池スタック
21…水素タンク
22…配管
23…シャットバルブ
24…調圧バルブ
25…配管
26…水素ポンプ
27…エアポンプ
28…配管
29…配管
30…冷却システム
30a…供給口
30b…受取口
32…循環回路
34…ラジエータ
35…電動ファン
36…ウォータポンプ
38…三方弁
40…バイパス流路
41…第1温度センサ
42…第2温度センサ
44…第3温度センサ
46…始動スイッチ
50…制御ユニット
51…CPU
52…メモリ
53…入出力回路
61…燃料電池起動部
62…ポンプ制御部
62a…冷媒反転部
70a…孔
70b…孔
80…冷媒用プレート
82…セル間冷媒流路
110…冷媒用プレート
112a…孔
112b…孔
114a…孔
114b…孔
118a…孔
118b…孔
119a…孔
119b…孔
130…冷却システム
132…第1の循環回路
132a…供給口
132b…受取口
134…ラジエータ
135…電動ファン
136…第1ウォータポンプ
138…三方弁
139…バイパス流路
142…第2の循環回路
142a…供給口
142b…受取口
144…ラジエータ
146…第2ウォータポンプ
180…冷媒用プレート
182…第1セル間冷媒流路
184…第2セル間冷媒流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、前記燃料電池に並設される冷媒用の電池側流路とを備える燃料電池システムであって、
前記燃料電池の発電を開始する燃料電池起動部と、
ポンプが配置され、前記電池側流路に冷媒を通過させるための冷媒流路と、
前記燃料電池の温度が所定値以下となる低温時における前記燃料電池起動部による前記発電の開始時から所定の期間、前記ポンプを停止し、前記所定の期間経過後、前記ポンプを運転開始するポンプ制御部と
を備え、
前記ポンプ制御部は、
前記所定の期間経過後、前記ポンプの運転を制御することにより、前記電池側流路における前記冷媒の流れの向きを、経過時間に応じて順次反転させる冷媒反転部を備える、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記冷媒反転部は、
前記ポンプの運転制御として、前記ポンプの回転方向を切り換える構成である、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記電池側流路は、前記燃料電池の面に沿って配置される2つの部位を含み、
前記冷媒流路は、前記各部位に冷媒を通過させる2系統を備え、各系統に前記ポンプが配置された構成であり、
前記冷媒反転部は、
前記各ポンプの運転を制御することにより、前記2系統のうちの第1系統の冷媒の流れを停止するとともに前記2系統のうちの第2系統の冷媒を前記燃料電池の面に沿った第1の向きに流す第1の状態と、前記第1系統の冷媒を前記第1の向きに対向した第2の向きに流すとともに前記第2系統の冷媒の流れを停止する第2の状態との間で、経過時間に応じて順次切り換えを行う構成である、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池システムであって、
前記冷媒反転部は、第2の所定期間、前記反転を行う構成であり、
前記ポンプ制御部は、
前記第2の所定期間経過後、前記ポンプの運転を制御することにより、前記電池側流路における前記冷媒の流れの向きを、一方向として継続運転する継続運転部を備える、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の燃料電池システムであって、
前記所定の期間は、前記燃料電池の内部温度が所定値を上回るまでの期間である、燃料電池システム。
【請求項6】
燃料電池と、前記燃料電池に並設される冷媒用の電池側流路とを備える燃料電池システムであって、
前記燃料電池の発電を開始する燃料電池起動部と、
ポンプが配置され、前記電池側流路に冷媒を通過させるための冷媒流路と、
前記燃料電池起動部による前記発電の開始時に、前記ポンプの運転を開始するポンプ制御部と
を備え、
前記ポンプ制御部は、
前記燃料電池の温度が所定値以下となる低温時に、前記冷媒流路への冷媒の流通が開始されてからの冷媒による積算吸熱量が、前記冷媒流路への冷媒の流通が開始されてからの前記燃料電池の積算発熱量に基づく判定基準熱量を上回るか否かを判定する判定部と、
前記判定部により上回ると判定されたときに、前記ポンプの運転を停止する停止制御部と
を備える、燃料電池システム。
【請求項7】
燃料電池と、前記燃料電池に並設される冷媒用の電池側流路と、ポンプが配置され、前記電池側流路に冷媒を通過させるための冷媒流路とを備える燃料電池システムにおける制御方法であって、
操作者からの始動要求に基づいて、前記燃料電池の発電を開始し、
前記燃料電池の温度が所定値以下となる低温時においては、前記発電の開始時から所定の期間、前記ポンプを停止し、
前記所定の期間経過後、前記ポンプを運転開始するにあたり、前記ポンプの運転を制御することにより、前記電池側流路における前記冷媒の流れの向きを、経過時間に応じて順次反転させる、燃料電池システムの制御方法。
【請求項8】
燃料電池と、前記燃料電池に並設される冷媒用の電池側流路と、ポンプが配置され、前記電池側流路に冷媒を通過させるための冷媒流路とを備える燃料電池システムにおける制御方法であって、
操作者からの始動要求に基づいて、前記燃料電池の発電を開始し、
前記燃料電池の温度が所定値以下となる低温時に、前記冷媒流路への冷媒の流通が開始されてからの冷媒による積算吸熱量が、前記冷媒流路への冷媒の流通が開始されてからの前記燃料電池の積算発熱量に基づく判定基準熱量を上回るか否かを判定し、上回ると判定されたときに、前記ポンプの運転を停止する、燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−94256(P2012−94256A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238177(P2010−238177)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】