説明

燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法

【課題】従来に比べてより簡便に燃料電池の内部に滞留する液水を排出する。
【解決手段】燃料電池システム100Aであって、燃料電池10と、前記燃料電池の発電に用いられるガスを供給するガス供給部40,50と、蓄電池20と、負荷装置110に対する電力の供給源を燃料電池10から蓄電池20の少なくとも一方に切り替える切替器30と、前記燃料電池システムの動作を制御する制御部70とを、備え、前記制御部は、負荷装置に対する電力の供給源を前記燃料電池から前記蓄電池に切り替えて前記燃料電池の発電を停止する場合において、燃料電池の発電に用いられるガスのうちの少なくとも一つのガスの供給を継続させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷装置への電力の供給源として燃料電池と蓄電池とを有する燃料電池システムにおいて、燃料電池からの排水処理を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガスとしての水素(H2)と酸化ガスとしての酸素(O2)との電気化学反応によって発電する装置である。この燃料電池は、通常、燃料電池セル(単に「セル」とも呼ぶ)を複数積層したスタック構造として構成される。燃料電池セルは、通常、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)の両側に、それぞれガス拡散層およびガス流路部が配置され、セパレータにより挟持された構造を有している。膜電極接合体は、プロトン(H+)伝導性を有する電解質膜の両面に、それぞれ触媒電極層が接合された構造を有している。なお、ガス流路部は、セパレータの一部として構成される場合もある。
【0003】
このような燃料電池では、発電動作の結果として燃料ガスとしての水素(H2)と酸化ガスとしての酸素(O2)との電気化学反応により水(H2O)が生成される。この生成水が液体の水(「液水」とも呼ぶ)としてセル内の触媒電極層やガス拡散層等に滞留する場合がある。また、上記電解質膜は、通常、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を有するため、燃料電池に供給されるガスとして、乾燥したガスではなく加湿制御されたガスが用いられる場合もある。このため、ガス中に含まれる水蒸気が液水となってセル内に滞留する場合もある。セル内に滞留する液水(「滞留水」とも呼ぶ)は、ガス供給の阻害要因となり、また、触媒反応および電気化学反応の阻害要因となって、燃料電池の発電性能(「出力性能」とも呼ぶ)を低下させる原因となる。
【0004】
特許文献1には、燃料電池の発電動作中に、セル電圧が基準電圧より低い場合に、燃料電池と負荷との接続を遮断して燃料電池の発電を停止し、滞留水を排出する技術が開示されている。この例の場合、燃料電池の発電を停止した際に、燃料電池からのガスの出口側のバルブを閉じて燃料電池内のガスの圧力を高めてからバルブを開放して、圧力が高められたガスの放出により滞留水を排出する。
【0005】
特許文献2には、ポンプの回転数を上昇させてガスの供給量を増加させることにより、滞留水を排出する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記いずれの滞留水の排出技術においても、ガス供給の制御として、通常の発電動作のための制御とは異なる、滞留水の排出のための制御が必要である。このため、より簡便に滞留水を排出する技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−087568号公報
【特許文献2】特開2002−305017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、燃料電池システムにおいて、従来に比べてより簡便に燃料電池の内部に滞留する液水を排出することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]
負荷装置に対して電力を供給する燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池の発電に用いられる2種類のガスを供給するガス供給部と、
蓄電池と、
前記負荷装置に対する電力の供給源を前記燃料電池と前記蓄電池との少なくとも一方に切り替える切替器と、
前記ガス供給部および前記切替器の動作を制御し、前記燃料電池システムの動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記負荷装置に対する電力の供給源を前記燃料電池から前記蓄電池に切り替えて前記燃料電池の発電を停止する場合において、前記燃料電池の発電に用いられるガスのうちの少なくとも一つのガスの供給を継続させる
ことを特徴とする燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、燃料電池の発電を停止して、蓄電池から負荷装置に電力を供給している間において、燃料電池に供給するガスのうちの少なくとも一つのガスの供給を継続させている。この場合、供給を継続させたガスについては、発電停止前に消費されていたガスの消費がなくなることにより、実質的にガス流量を増加させることができるので、滞留する液水の排出が可能となる。すなわち、従来技術のような液水の排出のための余分な制御を必要とせず、従来技術に比べてより簡便に燃料電池の内部から液水を排出することができる。
【0011】
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池の出力を監視し、前記燃料電池の出力性能の低下を監視する監視部を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の出力性能の低下が検出されたときに、前記少なくとも一つのガスの供給を継続させて前記燃料電池の発電を停止する
燃料電池システム。
この場合には、液水の滞留により燃料電池の出力性能の低下が発生したときに、液水の排出を効率的に行って、燃料電池の出力性能の低下を改善することが可能となる。
【0012】
[適用例3]
適用例2に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池の出力性能の低下は、監視されている出力電圧の値が監視されている出力電流に対応する許容下限値よりも低くなった場合に検出される
燃料電池システム。
この場合には、容易に燃料電池の出力性能の低下を検出することが可能である。
【0013】
[適用例4]
適用例1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記電力の供給源として前記燃料電池が選択されてからの経過時間を前記燃料電池の動作時間として監視するとともに、前記燃料電池の動作時間が前記燃料電池の動作の継続によって前記燃料電池の出力性能の低下が推定される継続時間を示す基準時間を経過することを監視する監視部を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の動作時間の前記基準時間の経過が検出されたときに、前記少なくとも一つのガスの供給を継続させて前記燃料電池の発電を停止する
燃料電池システム。
この場合には、簡易的に燃料電池の出力性能の低下を検出し、液水の排出を行って、燃料電池の出力性能の低下を改善することができる。
【0014】
[適用例5]
適用例1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記電力の供給源として前記燃料電池が選択されている時間の積算時間を前記燃料電池の動作時間として監視するとともに、前記燃料電池の動作時間が前記燃料電池の動作の継続によって前記燃料電池の出力性能の低下が推定される継続時間を示す基準時間を経過することを監視する監視部を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の動作時間の前記基準時間の経過が検出されたときに、前記少なくとも一つのガスの供給を継続させて前記燃料電池の発電を停止する
燃料電池システム。
この場合には、燃料電池の出力性能の低下をより精度よく簡易的に検出し、液水の排出を行って、燃料電池の出力性能の低下を改善することができる。
【0015】
[適用例6]
燃料電池と蓄電部とを有し、負荷装置に対して電力を供給する燃料電池システムの制御方法であって、
前記負荷装置に対する電力の供給源を前記燃料電池から前記蓄電池に切り替えて前記燃料電池の発電を停止する場合において、前記燃料電池の発電に用いられるガスの供給のうちの少なくとも一つのガスの供給を継続させる
ことを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
この燃料電池システムの制御方法によれば、燃料電池の発電を停止して、蓄電池から負荷装置に電力を供給している間において、燃料電池に供給するガスのうちの少なくとも一つのガスの供給を継続させている。この場合、供給を継続させたガスについては、発電停止前に消費されていたガスの消費がなくなることにより、実質的にガス流量を増加させることができるので、滞留する液水の排出が可能となる。すなわち、従来技術のような液水の排出のための余分な制御を必要とせず、従来技術に比べてより簡便に燃料電池の内部から液水を排出することができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システムや燃料電池システムの制御方法などの種々の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施例における燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施例における排水処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】第2実施例における燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
【図4】第2実施例における排水処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】第3実施例における燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
【図6】第3実施例における排水処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施例を以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.変形例:
【0019】
A.第1実施例:
図1は、第1実施例における燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。この燃料電池システム100Aは、燃料電池を搭載した自動車で用いられる燃料電池システムを例として説明する。この燃料電池システム100Aは、負荷装置(以下、単に「負荷」とも呼ぶ)110への電力の供給源としての燃料電池10および蓄電池20と、負荷110への電力の供給源を燃料電池10および蓄電池20の少なくとも一方に切り替える切替器30と、を備えている。また、燃料電池システム100Aは、燃料電池10のアノードに燃料ガス(例えば、水素)であるアノードガスを供給するアノードガス供給部40と、酸化ガス(例えば、酸素)を含むカソードガス(例えば、空気)を供給するカソードガス供給部50と、を備えている。さらにまた、燃料電池システム100Aは、蓄電池運転制御部80、充電制御部60、および、切替器30と蓄電池運転制御部80と充電制御部60とアノードガス供給部40とカソードガス供給部50の動作を制御して燃料電池システムの動作を制御する燃料電池システム運転制御部70、を備えている。
【0020】
燃料電池10は、後述するアノードガス供給部40から供給されるアノードガスである燃料ガス(水素)と、後述するカソードガス供給部50から供給されるカソードガス(空気)に含まれる酸化ガス(酸素)との電気化学反応により電力を発生する。この燃料電池10としては、固体高分子電解質膜等の種々の電解質膜を用いた燃料電池セルで構成される燃料電池が対象となる。本例の燃料電池は、従来例でも説明したように、固体高分子電解質膜を用いた燃料電池セルを複数積層したスタック構造で構成された燃料電池とする。また、燃料電池セルは、解質膜の両面に、それぞれ触媒電極層を接合した膜電極接合体(MEA)を有しており、膜電極接合体の両側に、それぞれガス拡散層およびガス流路部を配置し、セパレータにより挟持した構造として構成される。触媒電極層は、触媒、例えば、白金(Pt)を担持したカーボン層で構成される。ガス拡散層はカーボンペーパーやカーボンクロス等で構成されている。ガス流路部は、多孔質体を用いた多孔質体流路、あるいは、セパレータ面上に形成された溝流路で構成される。
【0021】
アノードガス供給部40は、アノードガスの供給配管48を介して、燃料(水素)タンク43から供給バルブ44の開度に応じた量のアノードガスとしての燃料ガスを燃料電池10へ供給する。また、燃料電池10から排出されるアノードオフガスとしての燃料オフガスを、アノードオフガスの環流配管49中に設けられた気液分離器46および環流ポンプ(図は単に「ポンプ」と略して示す)45を介して供給配管48に戻して、アノードガスとして再利用する。環流ポンプ45は、燃料電池10から排出されたアノードオフガスを供給配管48へ戻す機能を有している。気液分離器46は、アノードオフガスの湿度に応じてアノードオフガス中の水蒸気を分離除去し、また、アノードオフガスとともに排出される液水を排出する機能を有している。
【0022】
なお、燃料タンク43からの燃料ガスの供給は、供給量が発電に必要な条件を満たすように、循環するアノードガスとしての燃料ガス量の減少度合いに応じて実行される。環流ポンプ45による環流量も、循環するアノードガス量に応じて調整される。アノードオフガスとしての燃料オフガスの排気は、排出バルブ47の開閉を燃料オフガス中の不純物濃度に応じて行うことにより実行される。
【0023】
また、アノードガスの供給配管48の燃料電池10の入口側にはアノード入口側バルブ41が設けられ、アノードオフガスの環流配管49の燃料電池10の出口側にはアノード出口側バルブ42が設けられている。これらのバルブ41,42は、燃料電池システム100Aの停止時に燃料電池10に対してアノードガスの流入および流出を遮断するためのバルブであり、通常動作中には開放状態となっている。
【0024】
カソードガス供給部50は、カソードガスとしての空気を吸気ポンプ(図は単に「ポンプ」と略して示す)55によって吸い込んでカソードガスの供給配管58を介して燃料電池10へ供給する。また、燃料電池10から排出されるカソードオフガスとしての酸化オフガスをカソードガスの排出配管59を介して排出(排気)するともに、液水を排出(排水)する。なお、吸気ポンプ55によって吸い込んで燃料電池10へ供給するカソードガスとしての空気の供給量は、発電に必要な条件を満たすように調整される。
【0025】
また、カソードガスの供給配管58の燃料電池10の入口側にはカソード入口側バルブ51が設けられ、カソードオフガスの排出配管59の燃料電池10の出口側にはカソード出口側バルブ52が設けられている。これらのバルブ51,52は、燃料電池システム100Aの停止時に燃料電池10に対してカソードガスの流入および流出を遮断するためのバルブであり、通常動作中には開放状態となっている。
【0026】
なお、アノードガス供給部40およびカソードガス供給部50は、後述する燃料電池システム運転制御部70によって動作が制御される。
【0027】
燃料電池10の電力出力端子(+出力端子,−出力端子)は、切替器30の一方の切り替え端子に接続されており、蓄電池20の電力出力端子(+出力端子,−出力端子)は、切替器30の他方の切り替え端子に接続されている。切替器30は、負荷110に対して、電力の供給源としての燃料電池10の電力出力端子と、電力の供給源としての蓄電池20の電力出力端子と、の少なくとも一方を接続するように切り替える。すなわち、燃料電池10と蓄電池20のどちらか一方を供給源とする場合、燃料電池10および蓄電池20の両方を供給源とする場合、供給源として何も選択されていない場合が実現される。なお、この切り替えは、燃料電池システム運転制御部70によって制御される。
【0028】
充電制御部60は、燃料電池10で発電された電力の一部を、蓄電池20の電力入力端子(+入力端子,−入力端子)へ供給して充電を実行する。なお、充電制御部60による充電動作は、蓄電池運転制御部80によって制御される。蓄電池運転制御部80は、燃料電池システム運転制御部70からの指示、および、監視している蓄電池20の充電状態に従って、充電制御部60の動作を制御する。
【0029】
燃料電池システム運転制御部70は、切替器30、アノードガス供給部40、カソードガス供給部50、蓄電池運転制御部80、および、充電制御部60の動作を制御することにより、燃料電池10を供給源とする負荷110への電力の供給および蓄電池20への充電動作を制御する。また、燃料電池10の発電停止時に、蓄電池20を供給源とする負荷110への電力の供給を制御する。さらにまた、燃料電池システム運転制御部70は、後述するように、本発明の特徴である燃料電池10の排水動作を制御する。
【0030】
なお、燃料電池システムには、上記構成以外に、燃料電池10を冷却するための冷却部や、各バルブやポンプの動作量、燃料電池出力、蓄電池出力、燃料電池の温度、アノードガスおよびカソードガスの温度や圧力、流量、等の種々の情報を監視するセンサーや監視部等(不図示)、を備えている。
【0031】
以上のように、本実施例の燃料電池システム100Aは、燃料電池10または蓄電池20を供給源として負荷110への電力供給を実行する。また、この燃料電池システム100Aは、以下で説明するように、燃料電池システム運転制御部70によって燃料電池10から液水の排出(排水)処理(排水運転)が実行される。
【0032】
図2は、第1実施例における排水処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、あらかじめ定めた任意のタイミングで開始される。そして燃料電池システム運転制御部70は、この排水処理の開始タイミングで切替器30、蓄電池運転制御部80、充電制御部60、アノードガス供給部40、および、カソードガス供給部50の動作を制御して、図2に示した処理を実行することにより排水処理を実行する。
【0033】
この処理が開始されると、まず、燃料電池システム運転制御部70によって切替器30が制御されて、負荷110への電力の供給源が燃料電池10から蓄電池20へ切り替えられ、燃料電池10の発電が停止状態とされる(ステップS110)。ただし、アノードガスおよびカソードガスの供給状態が発電停止前の状態のまま維持されるように、アノードガス供給部40およびカソードガス供給部50の動作状態は発電停止前の動作状態と同じ条件で制御される。そして、燃料電池システム運転制御部70によって、あらかじめ定められた一定時間の間ステップS110で設定した状態が保持される(ステップS120)。そして、この後、切替器30が制御されて、負荷110への電力の供給源が蓄電池20から燃料電池10へ戻される(ステップS130)。これにより、負荷110に応じた燃料電池10の発電が再開され、一連の処理が終了される。
【0034】
上記した本実施例の処理では、負荷への電力の供給を燃料電池から蓄電池に切り替えて一定時間燃料電池の発電を停止した場合において、供給するガスの状態を発電停止前の状態のまま継続させている。この場合、発電停止により燃料電池におけるガスの消費はなくなるので、発電停止後に供給されて燃料電池から流れ出るガスの流量としては、実質的に、発電停止前の発電状態において消費されていたガス量分だけ増加することになる。この実質的なガス流量の増加によって、燃料電池内に滞留する液水を効率的に押し出して排出することが可能となる。従って、本実施例においては、通常の発電動作に必要な構成や制御ではない排水処理のための構成や制御を設ける必要がなく、通常の発電動作において実行される、負荷への電力の供給源を燃料電池から蓄電池に切り替えて燃料電池の発電を停止する制御において、発電停止前のガスの供給状態をそのまま継続して一定時間燃料電池の発電を停止させることによって、燃料電池からの排水を効率的に行うことができる。
【0035】
なお、停止前の燃料電池の発電量(出力電流)が大きいほど消費するガス量は増加するので、発電停止前の燃料電池の発電量が大きいほど、発電停止時におけるガス流量の実質的な増加を大きくすることができ、排水効果を高くすることが可能である。従って、上記処理を実行するタイミングとしては、運転状態として燃料電池の発電量がより大きい状態の場合に設定されることが好ましい。
【0036】
また、上記した状態を保持する一定時間としては、実質的に増加したガス流量による排水のために要する時間を考慮して数秒〜数十秒に適宜設定される。
【0037】
B.第2実施例:
図3は、第2実施例における燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。この燃料電池システム100Bは、第1実施例の燃料電池システム100Aに燃料電池監視部90を加えた構成である。この燃料電池監視部90は、燃料電池の出力を監視し、燃料電池の出力性能の低下を検出した場合に、燃料電池システム運転制御部70に通知する。その他の構成は、上記したように第1実施例の燃料電池システム100Aと同じであるので、説明を省略する。
【0038】
図4は、第2実施例における排水処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、燃料電池システムの運転を開始した後停止するまで、燃料電池監視部90および燃料電池システム運転制御部70によって実行される。
【0039】
この処理が開始されると、燃料電池10の発電動作中において燃料電池監視部90によって、燃料電池の出力(出力電圧および出力電流)が監視され(ステップS210)、出力性能の低下の検出が行われる(ステップS220)。出力性能の低下は、監視している出力電圧が、監視している出力電流に対応する出力電圧の許容下限値よりも低くなった場合に検出される。なお、出力電流と出力電圧の許容下限値との関係データは、あらかじめ求められて燃料電池監視部90に設定されている。また、この許容下限値は、燃料電池の発電動作による液水の滞留によって出力性能が低下し、排水処理による出力性能の改善が必要と推定される値である。
【0040】
出力性能の低下が検出された場合には(ステップS220:YES)、燃料電池システム運転制御部70によって切替器30が制御されて、負荷110への電力の供給源が燃料電池10から蓄電池20へ切り替えられ、燃料電池10の発電が停止状態とされる(ステップS230)。ただし、第1実施例の図2に示した処理の場合と同様に、アノードガスおよびカソードガスの供給状態が発電停止前の状態のまま維持されるように、アノードガス供給部40およびカソードガス供給部50の動作状態は発電停止前の動作状態と同じ条件で制御される。そして、燃料電池システム運転制御部70によって、あらかじめ定めた一定時間(数秒〜数十秒)の間、ステップS230で設定した状態が保持され(ステップS240)、この後、切替器30が制御されて、負荷110への電力の供給源が蓄電池20から燃料電池10へ戻される(ステップS250)。これにより、負荷110に応じた燃料電池10の発電が再開され、燃料電池の出力の監視(ステップS210)が再開される。
【0041】
上記した本実施例の処理では、燃料電池内の液水の滞留が推定される出力性能の低下が検出されたときに、ガスの供給状態がそのまま継続された状態で、負荷への電力の供給源が燃料電池から蓄電池に切り替えられて、燃料電池の発電が一定時間停止される。これにより、実質的なガス流量が増加されて燃料電池からの排水を効率的に行うことができ、液水の滞留による燃料電池の出力性能を改善することができる。なお、燃料電池出力を監視して出力性能の低下を検出する制御は、燃料電池システムによる負荷への電力の供給を安定に行うために、通常実施されている制御である。従って、本実施例においても、通常の発電動作に必要な構成や制御ではない排水処理のための構成や制御を設ける必要がない。そして、通常の発電動作時において燃料電池内の液水の滞留が推定される出力性能の低下の検出が行われたときに、負荷への電力の供給源を燃料電池から蓄電池に切り替えることによる燃料電池の発電の停止を、発電停止前のガスの供給状態をそのまま継続して一定時間行うことによって、燃料電池からの排水を効率的に行うことができる。
【0042】
C.第3実施例:
図5は、第3実施例における燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。この燃料電池システム100Cは、第2実施例の燃料電池システム100Bの燃料電池監視部90を燃料電池監視部90Cとした構成である。この燃料電池監視部90は、燃料電池10が負荷110への電力の供給源として選択された時点からの時間を発電動作時間として計時し、あらかじめ定めた基準時間の経過を検出した場合に、燃料電池システム運転制御部70に通知する。その他の構成は、第1実施例の燃料電池システム100Aおよび第2実施例の燃料電池システム100Bと同じであるので、説明を省略する。
【0043】
図6は、第3実施例における排水処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、第2実施例の図4に示した排水処理と同様に、燃料電池システムの運転を開始した後停止するまで、燃料電池監視部90Cおよび燃料電池システム運転制御部70によって実行される。
【0044】
この処理が開始されると、燃料電池監視部90Cによって、負荷110への電力の供給源として燃料電池10が選択されてからの時間が計時されて燃料電池10の発電動作時間として監視され(ステップS210c)、あらかじめ設定されている基準時間の経過の検出が行われる(ステップS220c)。基準時間は、燃料電池の発電動作によって発生した液水の滞留によって出力性能が低下し、排水処理による出力性能の改善が必要とされるまでの動作時間を、あらかじめ実験やシミュレーション等によって求め、求めた結果に基づいて決定した排水処理を行うべき動作時間であり、燃料電池の出力性能の低下が推定される燃料電池の動作時間とも言う。
【0045】
基準時間の経過が検出された場合には(ステップS220c:YES)、第2実施例の図4に示した処理と同様に、燃料電池システム運転制御部70によって、負荷110への電力の供給源の燃料電池10から蓄電池20への切り替え(ステップS230)、燃料電池10の発電停止常置アの一定時間の保持(ステップS240)、負荷110への電力の供給源の蓄電池20から燃料電池10への復帰(ステップS250)、が実行される。
【0046】
上記した本実施例の処理では、燃料電池の動作時間が基準時間を経過したことが検出されたときに、ガスの供給状態がそのまま継続された状態で、負荷への電力の供給源が燃料電池から蓄電池に切り替えられて、燃料電池の発電が一定時間停止される。これにより、実質的なガス流量が増加されて燃料電池からの排水を効率的に行うことができ、液水の滞留による燃料電池の出力性能を改善することができる。なお、本実施例は、第2実施例のように、実際に燃料電池の出力性能を監視するのではなく、燃料電池の動作時間として監視される燃料電池が選択されてからの時間が、燃料電池の発電動作による液水の滞留によって出力性能が低下し、排水処理による出力性能の改善が必要とされる動作時間に対応する時間として設定された基準時間を経過することを検出することで、簡易的に出力性能の低下を検出して排水処理を実行することができる点に特徴を有している。
【0047】
D.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立請求項で請求項された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略や組み合わせが可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0048】
第1実施例の排水処理の開始タイミングは、あらかじめ任意のタイミングに設定されるとして説明したが、一定の時間間隔や、一定の時間経過時、一定の時刻、走行の一時停止による燃料電池の発電の停止時、アクセル開度に対応する負荷に供給すべき電力の上昇時、等の定期あるいは不定期の種々のタイミングを、あらかじめ排水処理の開始タイミングとして設定することができる。また、一つのタイミングのみを開始タイミングとする必要はなく、複数のタイミングを開始タイミングとするようにしてもよい。
【0049】
第2実施例では、出力電圧が、燃料電池の発電動作によって発生した液水の滞留によって低下し、排水によって改善が必要と推定される許容下限値より低くなった場合を検出しているが、これに限定されるものではない。例えば、出力インピーダンスが、排水によって改善が必要と推定される許容上限値よりも高くなった場合を、出力性能の低下として検出するようにしてもよい。すなわち、燃料電池の発電動作によって発生した液水の滞留によって発生する出力性能の低下を検出することができれば、どのようなパラメータを利用してもよい。
【0050】
第3実施例では、負荷への電力の供給源として燃料電池が選択された時点からの時間を燃料電池の動作時間として計時し、液水の滞留による燃料電池の性能低下の改善が必要とされる動作時間を示す基準時間の経過を検出する場合を例に説明している。しかしながら、実際の燃料電池の動作としては、基準時間よりも短い時間で、燃料電池と蓄電池との切り替えが繰り返される場合がある。このような場合には、燃料電池の動作時間の積算値が基準時間を経過した場合を検出するようにしてもよい。このようにすれば、燃料電池の性能低下の検出をより精度よく簡易的に実行し、排水を効率的に行って燃料電池の出力低下を改善することが可能である。
【0051】
上記各実施例では、それぞれの排水処理を実行する場合を説明しているが、複数の排水処理を組み合わせて実施するようにしてもよい。
【0052】
また、上記各実施例では、排水処理のために、あらかじめ設定した一定時間の間燃料電池の発電を停止しているが、実質的に増加するガス流量に対応する発電停止前のガスの供給量に応じて、発電を停止する時間を変更するようにしてもよい。具体的には、例えば、発電停止前のガスの供給量が多くなればこれに応じて比較的時間を短く設定し、ガスの供給量が少なくなればこれに応じて比較的時間を長く設定する。
【0053】
また、上記各実施例では、アノードガスおよびカソードガスの供給状態を発電停止前のまま継続する場合を例に説明しているが、これに限定するものではなく、少なくとも一方のガスの供給を継続させるようにすればよい。また、この継続させるガスの供給としては、発電停止前のガスの流量に比べて発電停止後の実質的なガスの流量を増加させて効率的に排水が可能な状態であればよい。
【0054】
また、上記各実施例では、切替器30が負荷110への電力の供給源を燃料電池10と蓄電池20の少なくとも一方に切り替える構成としているが、いずれか一方に切り替える構成であってもよい。
【0055】
また、上記各実施例では、蓄電池として、充電制御部60の制御および切替器30による切り替えによって、充電と放電(出力)が切り替えられる構成の蓄電池を例に説明しているが、外部からの制御に応じて、充電可能モードと出力(放電)可能モードとに切り替えられ機能を有する構成の蓄電池を用いてよい。この場合には、蓄電池運転制御部80がその切り替え制御を実行すればよい。蓄電池として、充電端子と出力端子とが分離されている構成の蓄電池を例に説明しているが、充電端子と出力端子とが共通の構成の蓄電池を用いてもよい。この場合には、充電制御部60の出力を蓄電池の出力端子に接続すればよい。
【符号の説明】
【0056】
100A…燃料電池システム
100B…燃料電池システム
100C…燃料電池システム
110…負荷
10…燃料電池
20…蓄電池
30…切替器
40…アノードガス供給部
41…アノード入口側バルブ
42…アノード出口側バルブ
43…燃料タンク
44…供給バルブ
45…環流ポンプ
46…気液分離器
47…排出バルブ
48…供給配管
49…環流配管
50…カソードガス供給部
51…カソード入口側バルブ
52…カソード出口側バルブ
55…吸気ポンプ
58…供給配管
59…排出配管
60…充電制御部
70…燃料電池システム運転制御部
80…蓄電池運転制御部
90…燃料電池監視部
90C…燃料電池監視部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷装置に対して電力を供給する燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池の発電に用いられるガスを供給するガス供給部と、
蓄電池と、
前記負荷装置に対する電力の供給源を前記燃料電池と前記蓄電池との少なくとも一方に切り替える切替器と、
前記ガス供給部および前記切替器の動作を制御し、前記燃料電池システムの動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記負荷装置に対する電力の供給源を前記燃料電池から前記蓄電池に切り替えて前記燃料電池の発電を停止する場合において、前記燃料電池の発電に用いられるガスのうちの少なくとも一つのガスの供給を継続させる
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池の出力を監視し、前記燃料電池の出力性能の低下を監視する監視部を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の出力性能の低下が検出されたときに、前記少なくとも一つのガスの供給を継続させて前記燃料電池の発電を停止する
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池の出力性能の低下は、監視されている出力電圧の値が監視されている出力電流に対応する許容下限値よりも低くなった場合に検出される
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記電力の供給源として前記燃料電池が選択されてからの経過時間を前記燃料電池の動作時間として監視するとともに、前記燃料電池の動作時間が前記燃料電池の動作の継続によって前記燃料電池の出力性能の低下が推定される継続時間を示す基準時間を経過することを監視する監視部を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の動作時間の前記基準時間の経過が検出されたときに、前記少なくとも一つのガスの供給を継続させて前記燃料電池の発電を停止する
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記電力の供給源として前記燃料電池が選択されている時間の積算時間を前記燃料電池の動作時間として監視するとともに、前記燃料電池の動作時間が前記燃料電池の動作の継続によって前記燃料電池の出力性能の低下が推定される継続時間を示す基準時間を経過することを監視する監視部を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の動作時間の前記基準時間の経過が検出されたときに、前記少なくとも一つのガスの供給を継続させて前記燃料電池の発電を停止する
燃料電池システム。
【請求項6】
燃料電池と蓄電部とを有し、負荷装置に対して電力を供給する燃料電池システムの制御方法であって、
前記負荷装置に対する電力の供給源を前記燃料電池から前記蓄電池に切り替えて前記燃料電池の発電を停止する場合において、前記燃料電池の発電に用いられるガスの供給のうちの少なくとも一つのガスの供給を継続させる
ことを特徴とする燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−8497(P2013−8497A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139242(P2011−139242)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】