説明

燃料電池システムの運転方法

【課題】簡単な工程で、電解質膜の劣化を可及的に抑制することを可能にする。
【解決手段】燃料電池システム10は、複数の燃料電池30が積層された燃料電池スタック12と、バッテリ20とを備える。燃料電池システム10の運転方法は、固体高分子電解質膜32の保有水分量を検出する工程と、前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、前記保有水分量が所定範囲外であると判断された際、燃料電池スタック12から取り出される電力とバッテリ20から取り出される電力との割合を調整することにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持する工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、負荷に電力を供給する燃料電池を備える燃料電池システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード電極及びカソード電極を設けた電解質膜・電極構造体(MEA)を、一対のセパレータによって挟持している。一方のセパレータと電解質膜・電極構造体との間には、アノード電極に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路が形成されるとともに、他方のセパレータと前記電解質膜・電極構造体との間には、カソード電極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0003】
燃料電池は、通常、複数積層されて燃料電池スタックを構成するとともに、定置用の他、車載用として燃料電池車両に組み込まれることにより、車載用燃料電池システムとして使用されている。
【0004】
電解質膜は、十分な含水量を有している時に高いプロトン導電性を有するとともに、化学的に安定しているが、前記電解質膜の含水量が減少すると(膜の乾燥時)、生成した過酸化水素やラジカルが濃縮されて前記電解質膜が劣化し易くなり、燃料電池の発電性能が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池システムの運転方法が知られている。この運転方法は、燃料電池の発電生成水量を示す生成水量指標値を検出する工程と、予め定められた期間当たりの発電生成水量が予め定められた値以上か否かを判断する工程と、前記発電生成水量が前記予め定められた値未満の場合に、その後の前記燃料電池の発電電流量の最低値を設定する工程とを備えている。従って、この運転方法では、発電生成水により電解質膜を十分に湿潤させることができ、前記電解質膜の劣化を抑制することが可能になる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−44908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1では、電解質膜の乾燥を防止するために、前記電解質膜を湿潤させているため、該電解質膜の水分量が過多になるおそれがある。これにより、電解質膜のガス透過量が増加してしまい、前記電解質膜に劣化が発生するという問題がある。
【0008】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な工程で、電解質膜の劣化を可及的に抑制することが可能な燃料電池システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、負荷に電力を供給する燃料電池と、前記負荷に電力を供給する蓄電装置とを備える燃料電池システムの運転方法に関するものである。
【0010】
この運転方法は、電解質膜の保有水分量を検出する工程と、前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、前記保有水分量が所定範囲外であると判断された際、燃料電池から取り出される電力と蓄電装置から取り出される電力との割合を調整することにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持する工程とを有している。
【0011】
また、この運転方法では、燃料電池の運転を停止する際、ガス流路内に掃気ガスを供給して残留水を除去する掃気処理を行うか否かを判断する工程と、前記掃気処理を行うと判断された際、保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、前記保有水分量が所定範囲外であると判断された際、前記掃気ガスの供給量及び掃気時間を調整することにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持する工程とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、発電中に増減する電解質膜の保有水分量を検出(予測)し、前記保有水分量が所定範囲内に維持されるように、燃料電池から取り出される電力と蓄電装置から取り出される電力との割合が調整されている。このため、電解質膜は、保有水分量が少なくて乾燥されたり、前記保有水分量が過多になったりすることがない。これにより、簡単な工程で、電解質膜の劣化を可及的に抑制することができ、燃料電池の発電性能が低下することを抑止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る運転方法が実施される燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】前記燃料電池システムを構成する回路説明図である。
【図3】前記運転方法を説明するフローチャートである。
【図4】前記燃料電池システムの運転時における負荷、膜水分量及び燃料電池スタックとバッテリとの出力割合の説明図である。
【図5】水分量増加運転を説明するフローチャートである。
【図6】水分量減少運転を説明するフローチャートである。
【図7】前記燃料電池システムの掃気処理を説明するフローチャートである。
【図8】前記掃気処理時の水分量減少掃気を説明するフローチャートである。
【図9】膜劣化量と生成水量との関係説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る運転方法が実施される燃料電池システム10は、燃料電池スタック12と、前記燃料電池スタック12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、前記燃料電池スタック12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、前記燃料電池スタック12に冷却媒体を供給するための冷却媒体供給装置18と、蓄電装置、例えば、バッテリ20と、前記燃料電池システム10全体の制御を行うコントローラ22とを備える。燃料電池スタック12及びバッテリ20は、走行モータ24を含む負荷に電力を供給することができる。
【0015】
燃料電池システム10は、燃料電池自動車等の燃料電池車両(図示せず)に搭載される。バッテリ20は、燃料電池車両を通常走行可能であり、例えば、20A、〜500V程度である。なお、蓄電装置としては、バッテリ20の他、キャパシタ等を採用してもよい。
【0016】
燃料電池スタック12は、複数の燃料電池30を積層して構成される。各燃料電池30は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜32をカソード電極34とアノード電極36とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)38を備える。
【0017】
カソード電極34及びアノード電極36は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜32の両面に形成される。
【0018】
電解質膜・電極構造体38は、カソード側セパレータ40及びアノード側セパレータ42で挟持される。カソード側セパレータ40及びアノード側セパレータ42は、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータで構成される。
【0019】
カソード側セパレータ40と電解質膜・電極構造体38との間には、酸化剤ガス流路44が設けられるとともに、アノード側セパレータ42と前記電解質膜・電極構造体38との間には、燃料ガス流路46が設けられる。カソード側セパレータ40とアノード側セパレータ42との間には、冷却媒体流路48が設けられる。
【0020】
燃料電池スタック12には、各燃料電池30の積層方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガス(以下、空気ともいう)を供給する酸化剤ガス入口連通孔50a、燃料ガス、例えば、水素含有ガス(以下、水素ガスともいう)を供給する燃料ガス入口連通孔52a、冷却媒体を供給する冷却媒体入口連通孔54a、前記酸化剤ガスを排出する酸化剤ガス出口連通孔50b、前記燃料ガスを排出する燃料ガス出口連通孔52b、及び前記冷却媒体を排出する冷却媒体出口連通孔54bが設けられる。
【0021】
酸化剤ガス供給装置14は、大気からの空気を圧縮して供給するエアポンプ56を備え、前記エアポンプ56が空気供給流路58に配設される。空気供給流路58には、供給ガスと排出ガスとの間で水分と熱を交換する加湿器60が配設されるとともに、前記空気供給流路58は、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔50aに連通する。空気供給流路58には、加湿器60をバイパスするバイパス流路62が設けられ、前記バイパス流路62に開度調整バルブ64が配設される。
【0022】
酸化剤ガス供給装置14は、酸化剤ガス出口連通孔50bに連通する空気排出流路66を備える。空気排出流路66は、加湿器60の加湿媒体通路(図示せず)に連通するとともに、この空気排出流路66には、エアポンプ56から空気供給流路58を通って燃料電池スタック12に供給される空気の圧力を調整するための開度調整可能な背圧制御弁68が設けられる。背圧制御弁68は、ノーマルクローズ型(通電されない時に閉塞される)背圧弁により構成されることが好ましい。
【0023】
燃料ガス供給装置16は、高圧水素を貯留する水素タンク70を備え、この水素タンク70は、水素供給流路72を介して燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔52aに連通する。この水素供給流路72には、遮断弁74及びエゼクタ76が設けられる。エゼクタ76は、水素タンク70から供給される水素ガスを、水素供給流路72を通って燃料電池スタック12に供給するとともに、燃料電池スタック12で使用されなかった未使用の水素ガスを含む排ガスを、水素循環路78から吸引して、再度、前記燃料電池スタック12に燃料ガスとして供給する。
【0024】
燃料ガス出口連通孔52bには、オフガス流路80が連通する。オフガス流路80の途上には、水素循環路78が連通するとともに、前記オフガス流路80には、パージ弁82が接続される。
【0025】
冷却媒体供給装置18は、燃料電池スタック12に設けられる冷却媒体入口連通孔54a及び冷却媒体出口連通孔54bに連通し、冷却媒体を前記燃料電池スタック12に循環させる冷却媒体循環路84を備える。冷却媒体循環路84には、冷却媒体の温度に基づいて切り換え制御される調整弁、例えば、サーモバルブ(サーモスタット)86と、前記冷却媒体循環路84に前記冷却媒体を循環させる冷媒ポンプ88と、前記冷却媒体の流量を制御する流量コントロールバルブ90とが設けられる。
【0026】
冷却媒体循環路84には、分岐流路92の一端が接続されるとともに、前記分岐流路92の他端は、ラジエータ94の入口に接続される。ラジエータ94の出口には、戻し流路96の一端が接続され、前記戻し流路96の他端がサーモバルブ86に接続される。サーモバルブ86は、電磁バルブにより構成され、冷間時に冷却媒体がラジエータ94をバイパスして燃料電池スタック12の温度を上昇させる一方、暖機後に前記冷却媒体を前記ラジエータ94に流通させて前記燃料電池スタック12の冷却を行わせる。
【0027】
図2に示すように、燃料電池スタック12には、バスライン100の一端が接続されるとともに、前記バスライン100の他端がインバータ102に接続される。直流を三相の交流に変換するインバータ102には、三相の車両走行用の走行モータ24が接続される。
【0028】
バスライン100には、FCコンタクタ104が配設されるとともに、エアポンプ56及び冷媒ポンプ88等が接続される。バスライン100には、電力線106の一端が接続され、前記電力線106には、DC/DCコンバータ108及びバッテリコンダクタ110を介装してバッテリ20が接続される。DC/DCコンバータ108は、バッテリ20の電圧を昇圧するとともに、バスライン電圧を降圧する。
【0029】
このように構成される燃料電池システム10の動作について、本実施形態に係る運転方法との関連で、図3以降に示すフローチャートに沿って説明する。
【0030】
先ず、図示しないイグニッションスイッチ等により燃料電池システム10が起動されると(ステップS1)、ステップS2に進んで、コントローラ22によって電解質膜・電極構造体38を構成する固体高分子電解質膜32の保有水分量が検出される。コントローラ22では、例えば、燃料電池スタック12の発電条件に基づいて、現在の固体高分子電解質膜32の水分量を検出(予測)し、又は、前記固体高分子電解質膜32に配設される水分センサ(図示せず)で、例えば、電解質膜・電極構造体38のインピーダンス測定により、該固体高分子電解質膜32の水分量を検出する。
【0031】
次に、ステップS3に進んで、検出された保有水分量が所定範囲内にあるか否かが判断される。所定範囲とは、固体高分子電解質膜32が良好なプロトン導電性能を有することができる以上の水分量であり、前記固体高分子電解質膜32の劣化が促進されない以下の水分量範囲である(図9参照)。なお、固体高分子電解質膜32の材質により、最適な範囲は異なる。
【0032】
検出された保有水分量が、所定範囲内にあると判断されると(ステップS3中、YES)、ステップS4に進んで、通常運転が行われる。
【0033】
通常運転時には、図1に示すように、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ56を介して、空気供給流路58に空気が送られる。この空気は、加湿器60を通って加湿された後、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔50aに供給される。この空気は、燃料電池スタック12内の各燃料電池30に設けられている酸化剤ガス流路44に沿って移動することにより、カソード電極34に供給される。
【0034】
使用済みの空気は、酸化剤ガス出口連通孔50bから空気排出流路66に排出され、加湿器60に送られることによって新たに供給される空気を加湿した後、背圧制御弁68を介して外部に排出される。
【0035】
一方、燃料ガス供給装置16では、遮断弁74が開放されることにより、水素タンク70から減圧弁(図示せず)により減圧された後、水素供給流路72に水素ガスが供給される。この水素ガスは、水素供給流路72を通って燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔52aに供給される。燃料電池スタック12内に供給された水素ガスは、各燃料電池30の燃料ガス流路46に沿って移動することにより、アノード電極36に供給される。
【0036】
使用済みの水素ガスは、燃料ガス出口連通孔52bから水素循環路78を介してエゼクタ76に吸引され、燃料ガスとして、再度、燃料電池スタック12に供給される。従って、カソード電極34に供給される空気とアノード電極36に供給される水素ガスとが電気化学的に反応して発電が行われる。
【0037】
一方、水素循環路78を循環する水素ガスには、不純物が混在し易い。このため、不純物を混在する水素ガスは、パージ弁82が開放されることによって排出される。
【0038】
また、冷却媒体供給装置18では、冷媒ポンプ88の作用下に、冷却媒体循環路84から冷却媒体入口連通孔54aを通って燃料電池スタック12内に冷却媒体が導入される。冷却媒体は、冷却媒体流路48に沿って移動することにより、燃料電池30を冷却した後、冷却媒体出口連通孔54bから冷却媒体循環路84に排出される。
【0039】
そして、燃料電池システム10の停止指令がなされると(ステップS5中、YES)、ステップS6に進んで、前記燃料電池システム10の運転が停止される。
【0040】
一方、ステップS3において、検出された保有水分量が、所定範囲内にないと判断されると(ステップS3中、NO)、ステップS7に進んで、検出された前記保有水分量が、所定範囲以下であるか否かが判断される。検出された保有水分量が、所定範囲以下であると判断されると(ステップS7中、YES)、ステップS8に進んで、水分量増加フラグが立ち、ステップS9に進む。
【0041】
ステップS9では、固体高分子電解質膜32の保有水分量(膜水分量)を増加させるための運転制御が行われる。燃料電池システム10の運転時における負荷、膜水分量及び燃料電池スタック12とバッテリ20との出力割合は(FC/バッテリ)、例えば、図4に示す関係を有している。
【0042】
その際、運転開始後に膜水分量が所定範囲以下であると、図5に示すように、膜水分量の必要増加量が設定される(ステップS21)。さらに、ステップS22に進んで、設定された必要増加量に基づいて、燃料電池スタック12から取り出される電力とバッテリ20から取り出される電力との割合が調整される(図4参照)。具体的には、燃料電池スタック12の発電量は、従来方式に比べて増加され(ステップS23)、生成水量が増加される。
【0043】
次いで、ステップS24では、膜水分量を増加させる制御が行われる。具体的には、図1に示すように、バイパス流路62に配設されている開度調整バルブ64を閉塞側に操作し、燃料電池スタック12に供給される空気の加湿量を増加させるとともに、エアポンプ56を制御して空気のストイキ比(供給空気量と実際に消費される空気量との比)を下げる。このため、固体高分子電解質膜32の水分量が増加される。
【0044】
また、発電条件では、通常運転時に対して燃料電池スタック12が高温高加湿運転になるように、反応ガス(燃料ガスや空気)の圧力や流量、冷却媒体の流量及びサーモバルブ86の開度等が制御される。これにより、固体高分子電解質膜32の保有水分量を増加させるための運転制御が遂行される。
【0045】
一方、ステップS7において、検出された保有水分量が、所定範囲以下でない(すなわち、所定範囲を超えている)と判断されると(ステップS7中、NO)、ステップS10に進んで、水分量減少フラグが立ち、ステップS11に進む。ステップS11では、固体高分子電解質膜32の保有水分量(膜水分量)を減少させるための運転制御が行われる。
【0046】
具体的には、図6に示すように、運転開始後に膜水分量が所定範囲を超えていると、膜水分量の必要減少量が設定される(ステップS31)。さらに、ステップS32に進んで、設定された必要減少量に基づいて、燃料電池スタック12から取り出される電力とバッテリ20から取り出される電力との割合が調整される(図4参照)。すなわち、燃料電池スタック12の発電量は、従来方式に比べて減少され(ステップS33)、生成水量が減少される。
【0047】
次いで、ステップS34では、膜水分量を減少させる制御が行われる。具体的には、図1に示すように、バイパス流路62に配設されている開度調整バルブ64を開放側に操作し、燃料電池スタック12に供給される空気の加湿量を減少させる。さらに、空気の流速を上げて、発電により生成した水分の排出量を増加させる。このため、固体高分子電解質膜32の水分量が減少される。
【0048】
また、発電条件では、燃料電池スタック12のフラッディングを抑制するために、反応ガスの圧力や流量、冷却媒体の流量及びサーモバルブ86の開度等が制御される。これにより、燃料電池スタック12は、通常運転時に対して低加湿運転となるように制御され、固体高分子電解質膜32の保有水分量を減少させるための運転制御が遂行される。
【0049】
次に、燃料電池スタック12の運転が停止されると、この燃料電池スタック12の掃気処理が行われる。図7に示すように、例えば、リアルタイムクロック(RTC)に基づいて掃気が必要であるか否かが判断される(ステップS41)。掃気が必要であると判断されると(ステップS41中、YES)、ステップS42に進んで、コントローラ22によって固体高分子電解質膜32の保有水分量が検出される。
【0050】
さらに、ステップS43では、検出された保有水分量が所定範囲内にあるか否かが判断される。検出された保有水分量が、所定範囲内にあると判断されると(ステップS43中、YES)、ステップS44に進んで、通常掃気が行われる。この通常掃気では、図4に示すように、燃料電池スタック12及びバッテリ20からの電力の取り出しが規制された状態で、前記燃料電池スタック12の酸化剤ガス流路44に掃気ガスとして空気が供給される。
【0051】
一方、ステップS43において、検出された保有水分量が、所定範囲内にないと判断されると(ステップS43中、NO)、ステップS45に進んで、検出された前記保有水分量が、所定範囲以下であるか否かが判断される。検出された保有水分量が、所定範囲以下であると判断されると(ステップS45中、YES)、ステップS46に進んで、掃気が中止される。
【0052】
また、ステップS45において、検出された保有水分量が、所定範囲以下でない(すなわち、所定範囲を超えている)と判断されると(ステップS45中、NO)、ステップS47に進む。このステップS47では、水分量減少フラグが立ち、且つ、固体高分子電解質膜32の必要最少水分量が設定され、ステップS48に進んで、水分量減少掃気が行われる。
【0053】
水分量減少掃気の処理は、図8に示すように、必要掃気量及び必要掃気時間が設定された後(ステップS51)、掃気処理が開始される(ステップS52)。そして、固体高分子電解質膜32の保有水分量が、所定値以下になるまで(ステップS53中、YES)、上記の処理が行われる。
【0054】
次いで、燃料電池スタック12の運転が再開される際、コントローラ22では、例えば、1ドライブサイクルの燃料電池スタック12の運転状況から、固体高分子電解質膜32の水分量を検出(予測)する。例えば、発電開始時に、前回の運転停止時の温度及び湿度、発電再開までの停止時間、停止中の掃気履歴、発電開始時の温度及び湿度から算出された固体高分子電解質膜32の水分量の減少量を履歴として検出する。
【0055】
そこで、燃料電池スタック12の発電による固体高分子電解質膜32の水分量が、履歴により検出された減少量を補うまでの間、前記燃料電池スタック12から取り出される電力とバッテリ20から取り出される電力との割合が調整される(図4参照)。すなわち、燃料電池スタック12の発電量は、従来方式に比べて増加され、生成水量を増加させる。起動時は、特に固体高分子電解質膜32の水分量が不足し易いからである。
【0056】
さらに、図1に示すように、バイパス流路62に配設されている開度調整バルブ64を閉塞側に操作し、燃料電池スタック12に供給される空気の加湿量を増加させるとともに、エアポンプ56を制御して空気のストイキ比を、例えば、1以上に維持しながら下げる。このため、固体高分子電解質膜32の水分量が増加される。
【0057】
また、発電条件では、通常運転時に対して燃料電池スタック12が高温高加湿運転になるように、反応ガスの圧力や流量、冷却媒体の流量及びサーモバルブ86の開度等が制御される。これにより、固体高分子電解質膜32の保有水分量を増加させることができる(図4参照)。
【0058】
この場合、本実施形態では、発電中に増減する固体高分子電解質膜32の保有水分量を検出(予測)し、前記保有水分量が所定範囲内に維持されるように、燃料電池スタック12から取り出される電力とバッテリ20から取り出される電力との割合が調整されている。このため、固体高分子電解質膜32は、保有水分量が少なくて乾燥されたり、前記保有含水量が過多になったりすることがない。
【0059】
ここで、固体高分子電解質膜32の劣化量(分子量低下率)と生成水量との関係が、図9に示されている。従って、固体高分子電解質膜32は、含水量が減少する際(膜の乾燥時)に劣化し易い一方、含水量が過多になる際にも劣化し易いという性質を有している。
【0060】
本実施形態では、上記のように、固体高分子電解質膜32の保有水分量を所定範囲内に維持することができる。これにより、簡単な工程で、固体高分子電解質膜32の劣化を可及的に抑制することが可能になり、燃料電池スタック12の発電性能が低下することを抑止することができるという効果が得られる。
【0061】
さらに、本実施形態では、掃気処理を行う際に、掃気ガスの供給量及び掃気時間を調整することにより、固体高分子電解質膜32の保有水分量が所定範囲内に維持されている。このため、図4に示すように、運転停止中に温度低下及び掃気により、保有水分量が急激に低下することを抑制することが可能になり、固体高分子電解質膜32の劣化を可及的に阻止することができるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0062】
10…燃料電池システム 12…燃料電池スタック
14…酸化剤ガス供給装置 16…燃料ガス供給装置
18…冷却媒体供給装置 20…バッテリ
22…コントローラ 24…走行モータ
30…燃料電池 32…固体高分子電解質膜
34…カソード電極 36…アノード電極
40…カソード側セパレータ 42…アノード側セパレータ
44…酸化剤ガス流路 46…燃料ガス流路
48…冷却媒体流路 56…エアポンプ
60…加湿器 62…バイパス流路
64…開度調整バルブ 68…背圧制御弁
70…水素タンク 76…エゼクタ
78…水素循環路 84…冷却媒体循環路
86…サーモバルブ 88…冷却ポンプ
94…ラジエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、負荷に電力を供給する燃料電池と、
前記負荷に電力を供給する蓄電装置と、
を備える燃料電池システムの運転方法であって、
前記電解質膜の保有水分量を検出する工程と、
前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、
前記保有水分量が所定範囲外であると判断された際、前記燃料電池から取り出される電力と前記蓄電装置から取り出される電力との割合を調整することにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項2】
請求項1記載の運転方法において、前記燃料電池の運転を停止する際、ガス流路内に掃気ガスを供給して残留水を除去する掃気処理を行うか否かを判断する工程と、
前記掃気処理を行うと判断された際、前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、
前記保有水分量が所定範囲外であると判断された際、前記掃気ガスの供給量及び掃気時間を調整することにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−129081(P2012−129081A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279977(P2010−279977)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】