説明

燃料電池システム及び燃料電池システムの運転方法

【課題】燃料の組成を高精度に推定することが可能な燃料電池システム、及び燃料電池システムの運転方法を提供する。
【解決手段】燃料、水、及び空気が供給され、前記燃料を改質して改質ガスを生成する燃料改質器15aと、燃料電池のカソード流路に連通し、燃料が供給されて燃焼する起動燃焼バーナ24と、起動燃焼バーナ24の燃焼ガス中に含まれる酸素濃度を検出する酸素センサP1とを備える。そして、酸素センサP1で検出される酸素濃度に基づいて、燃料の組成を推定し、推定された燃料の組成に基づいて、燃料改質器15aにおける改質条件を適宜設定する。その結果、炭素析出せず、且つ高効率でシステムを運転させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン、軽油、灯油、エタノール、メタノール等の液体燃料や、メタン、エタン、プロパン、都市ガスなどの炭化水素ガスを燃料とする燃料電池システムに関し、詳しくは、これらの燃料を改質し、この改質した改質ガスと、空気などの酸化ガスにて発電する燃料電池とを備える燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料と水を改質器に供給して改質ガスを生成し、この改質ガス、及び空気ブロワより送出される空気を燃料電池に供給して発電電力を得る。このような燃料電池システムは、運転効率を向上させるために、より高効率で運転することが可能となる改質温度、アノード排出ガスの循環流量等の各種の運転条件を設定する。この際、運転条件は、燃料の組成により変化することになり、燃料の組成を考慮することが重要となる。
【0003】
即ち、一般的に燃料は、油田から採掘された原油を蒸留して精製される。具体的な例を挙げると、ガソリンの場合は、原油から蒸留したLPガス、軽質ナフサ、重質ナフサ、重油、軽油、メタノール等を更に分解、分留、改質等の処理により、数種のガソリン基材を精製し、混合して製品となる。そのため、原油の産出場所、精製場所、時期等により、ガソリン組成にばらつきが発生する。例えば、日本国内のレギュラーガソリンの場合は、水素原子に対する炭素原子の含有量は数%程度のばらつきがあることが知られている。
【0004】
従って、燃料電池システムに用いる燃料組成がばらつくため、改質に必要な原料(燃料、水、空気)の流量を、最も効率が高くなる運転条件に対して、炭素析出せずに、より確実に改質が実行できるように、水、或いは空気を余剰に導入する必要があり、若干低い効率で運転せざるを得ない。
【0005】
また、特開2006−140103号公報(特許文献1)には、燃料電池のアノード導入部に酸素センサを設け、アノードに供給される改質ガス中の酸素濃度を測定し、測定した酸素濃度から酸素分圧を求めて、原燃料の組成を推定する燃料電池について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−140103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された従来例は、燃料電池のアノードに供給する改質ガスの酸素分圧を測定して燃料の組成を予測するものであり、改質ガスを生成するための改質条件を設定する前に燃料の組成を予測することができないという問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、改質条件を設定する前に燃料の組成を推定することが可能な燃料電池システム、及び燃料電池システムの運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願発明は、燃料を改質して改質ガスを生成する改質手段と、アノード、及びカソードを有し、前記アノードに前記改質ガスが供給され、前記カソードに空気が供給されて電力を発生する燃料電池と、前記燃料電池のカソード流路に連通し、燃料が供給されて燃焼する燃焼手段と、前記燃焼手段の、燃焼ガス排出経路上に設けられ、該燃焼ガス中に含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段と、前記酸素濃度検出手段で検出される酸素濃度に基づいて、前記燃料の組成を推定する組成推定手段と、前記推定された組成に基づいて、前記改質手段における改質条件を設定する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る燃料電池システム及び運転方法では、燃焼手段の燃焼ガス排出経路上に設けられる酸素濃度検出手段により、排出ガス中の酸素濃度を測定し、更に、測定した酸素濃度に基づき、組成推定手段により燃料の組成を推定する。この場合、燃焼による反応式に基づいて燃料の組成を推定できるので、従来の方式と対比して改質条件を設定する前に燃料組成の推定が可能となる。そして、推定した組成に基づいて、改質手段における改質条件などを制御することにより、システム全体の運転効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態で用いる、各燃料毎の燃料流量と酸素分圧との関係を示すマップ図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムの、処理動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第3実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る燃料電池システムの、処理動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の変形例で用いる、各燃料毎の燃料流量と酸素分圧との関係を示すマップ図である。
【図8】本発明の実施形態に係る燃料電池システムで用いる、S/C、O2/C、及びシステム効率との関係を示すマップ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
[第1実施形態の説明]
図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システム100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、該燃料電池システム100は、カソード11a及びアノード11bを備えた燃料電池11と、燃料改質器(改質手段)15aと該燃料改質器15aを加熱する改質器燃焼バーナ15b、及び熱交換器15cを備えた改質装置15と、を備えている。そして、燃料改質器15aより出力される改質ガスは、燃料電池11のアノード11bに供給される。また、カソード11aの排出ガスは改質器燃焼バーナ15bに供給される。
【0014】
更に、燃料電池11のカソード11aに空気を供給する第1空気ブロワ12と、該第1空気ブロワ12より送出される空気を加熱する空気加熱熱交換器13と、第1空気ブロワ12と空気加熱熱交換器13との間に設けられる空気分岐弁23と、アノード11bの出口側に設置され、アノード排出ガスを燃料改質器15aに循環させる循環ブロワ16と、該循環ブロワ16の出口側に設置される分岐弁25と、を備えている。
【0015】
分岐弁25は、循環ブロワ16より送出されるアノード排出ガスを分岐するものであり、アノード排出ガスの一部を改質器燃焼バーナ15bに供給し、残りのアノード排気ガスを燃料改質器15a側に送出する。
【0016】
また、この燃料電池システム100は、改質装置15の燃料改質器15aに空気を供給する第2空気ブロワ17と、燃料改質器15aに燃料を供給する第1燃料ポンプ18と、該第1燃料ポンプ18より送出される液体燃料を蒸発させる燃料蒸発器14と、改質器燃焼バーナ15bに空気を供給する第3空気ブロワ20と、該改質器燃焼バーナ15bに燃料を供給する第2燃料ポンプ27と、を備えている。従って、第2空気ブロワ17より送出される空気、燃料蒸発器14で気化された燃料ガス、及び分岐弁25を介して送出されるアノード排気ガスは、混合ガスとして燃料改質器15aに供給される。
【0017】
また、カソード11aの排出ガス、分岐弁25から分岐したアノード排気ガス、第2燃料ポンプ27より供給される燃料、及び第3空気ブロワ20より送出される空気が混合されて改質器燃焼バーナ15bに供給される。更に、改質器燃焼バーナ15bより排出される排気ガスは、空気加熱熱交換器13で熱交換され、その後、燃料蒸発器14に供給されて、燃料蒸発用の熱源として用いられる。
【0018】
また、カソード11aの入口側には、燃料電池11を始動させる際に該燃料電池11を所定の温度まで上昇させるための、起動燃焼バーナ(燃焼手段)24が設けられている。該起動燃焼バーナ24の入口側には、第3燃料ポンプ21、及び燃料蒸発器22が設けられ、且つ空気分岐弁23の出口に接続されている。そして、起動燃焼バーナ24は、第3燃料ポンプ21より供給され、且つ燃料蒸発器22で気化された燃料を、空気分岐弁23より供給される空気と混合して燃焼させ、この燃焼ガスをカソード11aに供給する。これにより、燃料電池11の始動時においてカソード11aを加熱することができる。
【0019】
燃料電池11は、例えば、固体酸化物型燃料電池(SOFC;Solid Oxide Fuel Cell)であり、アノード11bに供給される改質ガスと、カソード11aに供給される空気を反応させて電力を発生させ、モータ等の電力需要設備に供給する。
【0020】
改質装置15は、例えば熱交換器型改質器であり、改質器燃焼バーナ15bより供給される熱により加熱される。即ち、燃料改質器15aでの改質反応は、基本的に吸熱反応となるように運転するので、アノード排出ガスを燃焼させ、この燃焼により発生した熱を燃料改質器15aに伝熱させる機構を有している。そして、燃料改質器15aの動作温度に対して改質器燃焼バーナ15bにて生成されるガス温度は高くなるように運転する。また、第1燃料ポンプ18より供給される燃料と第2空気ブロワ17より送出される空気とアノード排気ガスとの混合ガスとを、触媒反応を用いて改質し、改質後の燃料(水素ガスを含む改質ガス)を燃料電池11のアノード11bに供給する。
【0021】
更に、この燃料電池システム100は、制御部31と、記憶部33と、起動燃焼バーナ24の出力側の経路(カソード流路)に設けられ、該起動燃焼バーナ24より送出される燃焼ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサP1(酸素濃度検出手段、第1酸素濃度検出手段)と、を備えている。そして、酸素センサP1により検出信号は、制御部31に出力される。
【0022】
制御部31は、例えば、CPU、RAM、ROM、及び各種の操作子等からなるマイコンにより構成することが可能であり、第1空気ブロワ12、第2空気ブロワ17、第3空気ブロワ20、第1燃料ポンプ18、第2燃料ポンプ27、第3燃料ポンプ21の各機器に接続され(接続用の配線は図示を省略している)、これらの各機器に制御信号を出力して、燃料電池システム100を総括的に制御する。特に、本実施形態において該制御部31は、酸素センサP1で検出される酸素濃度に基づいて、後述する手法により燃料の組成を推定し、推定した組成に基づいて、燃料改質器15aに供給する空気量、燃料量、及び改質器燃焼バーナ15bに供給する燃料量などを調整して、システム全体が高効率で運転するように制御する。
【0023】
即ち、制御部31は、酸素濃度検出手段で検出される酸素濃度に基づいて、燃料の組成を推定する組成推定手段としての機能を備え、更に、推定された組成に基づいて、改質手段における改質条件(燃料の流量、改質温度等)を設定する制御手段としての機能を備えている。
【0024】
記憶部33は、燃料流量と酸素分圧との関係を、燃料の種類毎に設定したマップを記憶している。例えば、後述する図2,図7に示す如くの特性曲線を記憶している。特性曲線の詳細については後述する。
【0025】
次に、本実施形態に係る燃料電池システムの作用について説明する。本実施形態では、酸素センサP1により検出した起動燃焼バーナ24の燃焼ガス中に含まれる酸素濃度に基づいて、燃料の組成を推定する。以下、詳細に説明する。
【0026】
一般式「CαHβOγ」(但し、α、β、γはそれぞれ、炭素、水素、酸素の分子量)で示される燃料が燃焼した場合の反応式は、下記の(1)式で示すことができる。
【0027】
xCαHβOγ+yO2→
aH2+bCH4+cCO+dCO2+eH2O+fO2 …(1)
(1)式において、a,b,c,d,e,fは、それぞれ、H2、CH4、CO、CO2、H2O、O2の流量[mol/sec]を示す。また、xは燃料、yは酸素の流量[mol/sec]である。
【0028】
ここで、(1)式に示すxは燃料の流量から、yは空気の流量から推定することができる。燃料が液体の場合は、気化後の燃料の温度と流量を検知することでxを予測することができる。
【0029】
また、(1)式において、質量保存の法則が成立することから、次の(2)式に示す3条件が成立する。
【0030】
炭素Cについて、αx=b+c+d
水素Hについて、βx=2a+4b+2e
酸素Oについて、γx+2y=c+2d+e+2f …(2)
更に、次の(3)〜(5)式に示す平衡条件が成立する。
【0031】
即ち、CO+1/2O2←→CO2より、(3)式が成立する。
【0032】
(平衡定数K1)=[CO2]/([CO]*[O2]0.5) …(3)
また、CH4+2O2←→CO2+2H2Oより、(4)式が成立する。
【0033】
(平衡定数K2)=[CO2]*[H2O]/([CH4]*[O2]) …(4)
更に、H2+1/2O2←→H2Oより、(5)式が成立する。
【0034】
(平衡定数K3)=[H2O]/([H2]*[O2]0.5) …(5)
なお、K1〜K3は既知の数値である。
【0035】
そして、上記(2)式に示した3つの条件、及び(3)〜(5)式に示した等式に基づいて、6個の未知数a〜fを決定する。この際、α、β、γは、予測される燃料の種類に基づいて、適宜設定する。更に、空気中の窒素(N2)が未反応で燃焼ガス中に存在しており、N2の流量は79y/21[mol/sec]で示すことができるので、酸素分圧PO2を次の(6)式で求めることができる。なお、空気中の窒素N2は79%、酸素O2は21%であると仮定している。
【0036】
PO2=f*P0/(a+b+c+d+e+f+78*y/21) …(6)
但し、P0は全圧[atm]である。
【0037】
そして、酸素濃度「f」は、酸素センサP1により測定されており、更に、予め設定されている燃料流量[mol/sec]と酸素分圧との関係を示す特性曲線を用いて、燃料を推定する。例えば、記憶部33には、図2に示すように、セタン(C16H34)の特性曲線S1、イソオク(C8H18)の特性曲線S2、及び混合ガソリン(C7.12H13)の特性曲線S3が記憶されている。そして、燃料流量xを測定し、この燃料流量xと上述した(6)式で求められる酸素分圧PO2[atm]により、燃料の種類を推定することができる。なお、図2では、簡略化のため3種類の燃料のみを記載したが、実際には多数種類の燃料についての特性が設定されている。
【0038】
図2において例えば、燃料流量xがx=3.8×10−4であり、酸素センサP1により測定された酸素分圧が0.16[atm]である場合には、この交点は図2の符号q1となるので、この燃料は混合ガソリン(曲線S3)であると推定できる。また、燃料流量xがx=3.8×10−4であり、酸素センサP1により測定された酸素分圧が0.14[atm]である場合には、この交点は符号q2となるので、この燃料はイソオク(曲線S2)であると推定でき、酸素センサP1により測定された酸素分圧が0.08[atm]である場合には、この交点は符号q3となるので、この燃料はセタン(曲線S1)であると推定できる。なお、上記では、酸素分圧を求める例について説明したが、酸素モル濃度を用いるようにしても良い。こうして、燃料の組成を推定することができるのである。なお、この場合は、第3燃料ポンプ21より供給される燃料を推定することになるが、第1燃料ポンプ18及び第2燃料ポンプ27より供給される燃料も、供給源が同一であることから同様の組成であるものとする。
【0039】
その後、上記の手法で推定した燃料の組成に基づいて、燃料改質器15aに供給する空気流量、燃料流量、アノード排出ガスの流量等の、改質条件、改質温度を適宜設定して、運転効率を高くすることが可能となる。即ち、図8に示すように、S/CとO2/Cとの関係と、システムの運転効率との関係を示すマップが記憶部33に記憶されており、このマップを参照して、最も高い効率となる運転条件でシステム全体を運転することが可能となる。具体的な運転条件の設定については、周知の技術を用いることができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0040】
このようにして、第1実施形態に係る燃料電池システム100では、起動燃焼バーナ24より出力される燃焼ガスの酸素濃度を測定し、測定した酸素濃度からカソード流路中の酸素分圧を算出する。そして、この酸素分圧と、燃料の供給量に基づき、予め設定されているマップ(図2参照)を用いることにより、燃料の組成を求める。従って、燃料の組成を高精度に推定することができることとなる。更に、推定した組成に基づいて、システム全体を炭素析出を回避し、且つ、高効率で運転することが可能となる。
【0041】
即ち、燃料の組成を推定することにより、燃料流量に対する水、空気の流量を適切に導入することが可能となり、たとえ燃料組成がばらついていたとしても、最も効率が高くなる改質条件にて燃料電池システムを運転させることが可能となる。
【0042】
[第2実施形態の説明]
次に、本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムについて説明する。図3は、第2実施形態に係る燃料電池システム101の構成を示すブロック図である。図示のように、第2実施形態では、図1に示した燃料電池システム100と対比して、分岐弁25を備えない点、即ち、アノード排出ガスが全て改質器燃焼バーナ(燃焼手段)15bに供給されている点、改質器燃焼バーナ15bの出口側に酸素センサP2が設けられている点、燃料電池11に電流センサJ1、温度センサT1が設けられている点、及び酸素センサP1を取り除いた点で相違する。それ以外の構成は、図1と同様であるので、同一符号を付して構成説明を省略する。
【0043】
そして、第2実施形態では、改質器燃焼バーナ15bの出口における酸素濃度を検出し、この酸素濃度に基づいて、燃料の組成を検出する。以下、燃料の組成を推定する手順について、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0044】
初めに図4のステップS11において、制御部31は、発電電流量、及び燃料電池11のプロセスガス温度を検出する。発電電流量、及びプロセスガス温度は、燃料電池11に設けられる電流センサJ1、及び温度センサT1により測定することができる。
【0045】
ステップS12において、制御部31は、燃料電池11の排出空気、及び排出燃料(カソード11aより排出される空気及び燃料)により、改質器燃焼バーナ15bを燃焼させ、更に、酸素センサP2により燃焼により発生する燃焼ガス中の酸素分圧を測定する。
【0046】
ステップS13において、制御部31は、アノード11bに導入する燃料流量、カソード11aに導入する空気流量、及び上記の発電電流量に基づいて改質器燃焼バーナ15bに導入される未利用燃料流量と未利用酸素流量を予測し、これらを燃焼したときのカソード排気ガスの平衡組成時の酸素分圧から、燃料の組成を推定する。詳細については、後述する。
【0047】
ステップS14において、制御部31は、推定された燃料の組成に基づいて、改質装置15における改質運転条件を決定し、この条件でシステム全体を運転する。
【0048】
次に、図5のステップS13に示した処理を詳細に説明する。時刻tでのアノード11b、カソード11aのガス導入流量を検知し、アノード側の燃料流量をX(t)[mol/sec]、空気流量をZa(t)[mol/sec]とする。即ち、第1燃料ポンプ18より供給される燃料流量をX(t)とし、第2空気ブロワ17より導入される空気流量をZa(t)とする。また、カソード側の空気流量をZc(t)[mol/sec]とする。即ち、第1空気ブロワ12より導入される空気量をZc(t)とする。
【0049】
更に、改質器燃焼バーナ15bに新規に導入する燃料と空気流量を検知し、燃料流量をXb(t)[mol/sec]とし、空気流量をZb(t)[mol/sec]とする。即ち、第2燃料ポンプ27より導入される燃料流量をXb(t)とし、第3空気ブロワ20より導入される空気流量をZa(t)とする。
【0050】
また、燃料電池11における発生電流I(t)を電流センサJ1により検知する。この検知結果により、燃料電池11内のカソード流路からアノード流路へ、電解質を介して通過した酸化物イオン「O2−」の量を求めることができ、この酸化物イオン「O2−」の量により、発生電流に起因する酸素相当流量IO2(t)[mol/sec]を見出すことができる。即ち、下記の(7)式が成立する。
【0051】
IO2(t)=I(t)/4F …(7)
但し、F=96485[C/mol](ファラデー定数)である。
【0052】
また、アノード流路中のガスと、カソード流路中のガスが改質器燃焼バーナ15bまで到達する時間には差が発生するため、その時間分を考慮する必要がある。即ち、配管径と配管長さ、改質器と燃料電池流路を含めた総流路体積、更に、ガス流量と温度に応じて、アノード流路、カソード流路へ到達する時間が変化する。
【0053】
このため、まず、燃料電池11のプロセス温度を測定し、想定している燃料組成から、アノードガスの体積流量と、カソードガスの体積流量を想定する。これらと総流路体積から、燃料導入口或いは空気導入口から燃料電池11の出口までのアノードガス流通時間Tfaと燃料電池11の出口から改質器燃焼バーナ15bまでのアノードガス流通時間Tbaを予測し、同様に、空気導入口から燃料電池11の出口までのカソードガス流通時間Tfcと、燃料電池11の出口から改質器燃焼バーナ15bまでのカソードガス流通時間Tbcを予測する。
【0054】
そして、各予測時間Tba、Tfc、Tbcを用いて、時刻Tでの改質器燃焼バーナ15bに導入されるガス導入条件を予測すると、以下のようになる。
【0055】
即ち、アノード11b側において、燃料流量は、X(T−Tfa−Tba)[mol/sec]で示され、空気流量は、Za(T−Tfa−Tba)[mol/sec]で示され、酸素相当流量は、IO2(T−Tba)[mol/sec]で示される。
【0056】
また、カソード11a側において、空気流量は、Zc(T−Tfc−Tbc)[mol/sec]で示され、酸素相当流量は、−IO2(T−Tbc)[mol/sec]で示される。
【0057】
更に、新規原料として、燃料流量は、Xb(T)[mol/sec]で示され、空気流量はZb(T)[mol/s]で示される。
【0058】
よって、空気中に含まれる酸素濃度がモル分率で21%であるとすると、改質器燃焼バーナ15bに導入される燃料流量、及び酸素流量は、次の(8)、(9)式で求めることができる。
【0059】
燃料流量=X(T−Tfa−Tba)+Xb(T)[mol/sec] …(8)
酸素流量=0.21*{Za(T−Tfa−Tba)+Zc(T−Tfc−Tbc)
+Zb(T)}+IO2(T−Tba)−IO2(T−Tbc) …(9)
そして、上記の(8)、(9)式と、改質器燃焼バーナ15b出口の酸素分圧計測結果PO2[atm]に基づき、前述した第1実施形態と同様の方法を採用して燃料の組成を推定することが可能となる。
【0060】
このようにして、第2実施形態に係る燃料電池システム101では、改質器燃焼バーナ15bの排出口の酸素濃度を酸素センサP2により測定し、この酸素濃度に基づいて、改質器燃焼バーナ15bに供給される燃料、及び酸素の平衡式により燃料の組成を推定する。従って、燃料の組成を高精度に推定することが可能となる。
【0061】
また、前述した第1実施形態では、起動燃焼バーナ24が作動している場合に燃料の組成を推定するので、システムが始動開始してから所定時間が経過して起動燃焼バーナ24が停止した場合には、燃料の組成を推定することができなかったが、第2実施形態に係る燃料電池システム101では、システムの運転中においても燃料組成を推定することが可能となる。このため、リアルタイムで燃料組成が変化する場合であっても、これに対応して高効率となる運転条件でシステムを運転することが可能となる。
【0062】
[第3実施形態の説明]
次に、本発明の第3実施形態に係る燃料電池システムについて説明する。図5は、第3実施形態に係る燃料電池システム102の構成を示すブロック図である。図示のように、第3実施形態では、図1に示した燃料電池システム100と対比して、改質器燃焼バーナ15bの出口側に酸素センサP2が設けられている点、及び燃料電池11に電流センサJ1、及び温度センサT1が設けられている点で相違する。それ以外の構成は、図1と同様であるので、同一符号を付して構成説明を省略する。
【0063】
そして、第3実施形態では、起動燃焼バーナ24の出口における酸素濃度を酸素センサP1(第1酸素濃度検出手段)で測定し、改質器燃焼バーナ15bの出口における酸素濃度を酸素センサP2(第2酸素濃度検出手段)で測定し、燃料電池11の運転状況に応じて各センサP1,P2うちの少なくとも一方で検出される酸素濃度に基づいて、燃料の組成を検出する。以下、燃料の組成を推定する手順について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0064】
初めに、ステップS31において、制御部31は、事前の準備として発電停止時において発電開始までの時間を認識する。
【0065】
ステップS32において、燃料補給のタイミングを検出する。本実施形態では、移動体に搭載する燃料電池システムを想定しており、燃料は液体燃料であり、燃料補給のタイミングは移動体に備えた燃料タンク中の残燃料の変化を検出することにより認識することができる。なお、残燃料の変化は、図示省略の燃料センサにより検出することができる。
【0066】
ステップS33において、制御部31は、燃料電池システムが停止中であるか否かを判断する。そして、停止中であれば(ステップS33でYES)、ステップS35に処理を進め、動作中であれば(ステップS33でNO)、ステップS34に処理を進める。
【0067】
ステップS34において、制御部31は、改質器燃焼バーナ15bに新規で燃料を導入し、燃料電池の排出空気及び排出燃料と共に燃焼させて、酸素センサP2により酸素濃度を検出する。
【0068】
ステップS35において、制御部31は、システムが停止していた時間から燃料電池11、及び燃料改質器15aの温度を予測し、この予測温度が規定温度以下であるか否かを判断する。そして、規定温度以下でない場合には(ステップS35でNO)、ステップS36に処理を進め、規定温度以下である場合には(ステップS35でYES)、ステップS37に処理を進める。
【0069】
ステップS34の処理が終了した場合、及びステップS35の処理でNOと判定された場合には、ステップS36において、制御部31は、改質器燃焼バーナ15bに新規の燃料を導入し、カソード11aより排出される燃料、及び空気と混合して燃焼させ、このときの燃料流量、空気流量、及び発生電流量から燃焼ガス中の酸素濃度を測定する。即ち、前述した第2実施形態に示した手法により、燃焼ガス中の酸素濃度を測定する。その後、ステップS38に処理を進める。
【0070】
ステップS37において、制御部31は、起動燃焼バーナ24に燃料、及び空気を所定流量で導入して燃焼させる。そして、酸素センサP1により燃焼ガス中の酸素濃度を測定する。即ち、前述した第1実施形態に示した手法により、燃焼ガス中の酸素濃度を測定する。その後、ステップS38に処理を進める。
【0071】
ステップS38において、制御部31は、ステップS36の処理で求められた酸素濃度、或いはステップS37の処理で求められた酸素濃度に基づいて、燃料の組成を推定する。即ち、改質器燃焼バーナ15bの酸素濃度を用いた場合には、第2実施形態に示した手法で燃料の組成を推定し、起動燃焼バーナ24の酸素濃度を用いた場合には、第1実施形態に示した手法で燃料の組成を推定する。
【0072】
ステップS39において、制御部31はステップS38の処理で推定された燃料の組成に基づいて、改質運転の条件を決定する。
【0073】
ステップS40において、制御部31は、発電中の燃料組成推定モードとする。即ち、システムが運転中において、前述した第2実施形態に示した手法により、燃料の組成を推定し、運転効率が高くなるように、改質運転条件を決定する処理を実行する。その後、本処理を終了する。
【0074】
このようにして、第3実施形態に係る燃料電池システム102では、起動燃焼バーナ24の出口、及び改質器燃焼バーナ15bの出口にそれぞれ酸素センサP1,P2を設け、ホットスタートモードである場合(起動燃焼バーナ24を作動させない場合)には、改質器燃焼バーナ15bに設けられた酸素センサP2を用いた燃料組成の推定を行い、ホットスタートモードでない場合には、起動燃焼バーナ24に設けられた酸素センサP1を用いた燃料組成の推定を行う。
【0075】
従って、運転開始時には、起動燃焼バーナ24の燃焼ガスに基づく燃料組成の推定を行うので、推定精度を向上させることができ、他方、運転中のように、起動燃焼バーナ24が停止している場合には、改質器燃焼バーナ15bの燃焼ガスに基づく燃料組成の推定を行うので、起動燃焼バーナ24が停止している場合でも、高精度に燃料組成の推定を行うことができる。その結果、システムの運転状況に関わらず、燃料電池システム102を常に高い効率で運転させることができる。
【0076】
また、例えば車両の場合には、燃料の補給時において、燃料タンク中に存在する残燃料と補給時に追加された新規燃料が徐々に混合されるため、発電時に用いる燃料組成は時間的に変動する可能性が高い。この補給時のタイミングに合わせて、燃料組成を推定するので、より高効率な運転が可能となる。
【0077】
[変形例の説明]
前述した第1〜第3実施形態では、酸素分圧を推定し、且つ燃料流量に基づき、図2に示す特性曲線を参照して燃料の組成を推定する方式を採用した。ところが、例えば、図2の曲線S3に示すガソリン(C7.13H13)と、曲線S2に示すイソオク(C8H18)のように、曲線の特性が極めて類似している場合には、測定結果に誤差が生じる場合があり得る。
【0078】
変形例に係る燃料電池システムでは、導入する燃料流量の計測に誤差が発生することを想定し、燃料流量を流量計測の測定において有意な変化させることで、2点以上の酸素濃度を測定し、その変化(傾き)から、ガソリンとイソオクの分離精度を向上させる。即ち、例えば、図2に示す燃料流量x=3.8×10−4の場合と、x=5.8×10−4の場合の2つの点でそれぞれ酸素分圧をそれぞれ測定し、この2点を結ぶ直線の傾きと、ガソリン、及びイソオクの特性から得られる傾きとの一致、不一致を見ることにより、燃料の組成を高精度に推定することが可能となる。具体的には、曲線S2とS3の傾きの相違から、ガソリンであるかイソオクであるかを高精度に区別することが可能となる。
【0079】
また、他の例として、図7に示すように、エタノール(C2H6O)とエチレン(C2H4)を燃焼させた場合においても同様に誤差が生じる可能性がある。
【0080】
エタノールは、下記(10)の化学反応式により発電し、エチレンは、下記(11)の化学反応式により発電する。
【0081】
C2H6O+3O2 → 2CO2+3H2O …(10)
C2H4+3O2 → 2CO2+2H2O …(11)
エタノールの場合には、1モルの燃料に対して空気中の酸素を3モル使用するので、燃料が少ないような希釈燃焼での酸素分圧は元々の空気中の酸素分圧に対して変化が小さいため、酸素分圧の測定精度や流量制御器の精度内に入ってしまい、エタノールかエチレンかを分類することが困難になる。
【0082】
このため、燃料流量、或いは空気流量のうちの少なくとも一方を異なる条件における燃焼ガス中の酸素分圧を2点以上調べ、その変化(2点の場合は傾き)も含めて、燃料組成を分類することにより、燃料組成の予測精度を向上させる。こうすることにより、より高精度に燃料の組成を推定することができる。
【0083】
以上、本発明の燃料電池システム及びその運転方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、燃料電池システムの効率を向上させることに利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
11 燃料電池
11a カソード
11b アノード
12 第1空気ブロワ
13 空気加熱熱交換器
14 燃料蒸発器
15 改質装置
15a 燃料改質器
15b 改質器燃焼バーナ
15c 熱交換器
16 循環ブロワ
17 第2空気ブロワ
18 第1燃料ポンプ
20 第3空気ブロワ
21 第3燃料ポンプ
22 燃料蒸発器
23 空気分岐弁
24 起動燃焼バーナ
25 分岐弁
27 第2燃料ポンプ
31 制御部
33 記憶部
100,101,102燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を改質して改質ガスを生成する改質手段と、
アノード、及びカソードを有し、前記アノードに前記改質ガスが供給され、前記カソードに空気が供給されて電力を発生する燃料電池と、
前記燃料電池のカソード流路に連通し、燃料が供給されて燃焼する燃焼手段と、
前記燃焼手段の、燃焼ガス排出経路上に設けられ、該燃焼ガス中に含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段と、
前記酸素濃度検出手段で検出される酸素濃度に基づいて、前記燃料の組成を推定する組成推定手段と、
前記推定された組成に基づいて、前記改質手段における改質条件を設定する制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃焼手段は、前記カソードの入口側に設置されて前記燃料電池の起動時に前記カソードに加熱ガスを供給する起動燃焼バーナであり、前記酸素濃度検出手段は、前記起動燃焼バーナの排出口に設けられることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃焼手段は、前記カソードの排気ガス及び燃料が供給されて燃焼し、燃焼熱を前記改質手段に伝達する改質器燃焼バーナであり、前記酸素濃度検出手段は、前記燃焼バーナの排出口に設けられることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃焼手段として、前記カソードの入口側に設置されて前記燃料電池の起動時に前記カソードに加熱ガスを供給する起動燃焼バーナと、前記カソードの排気ガス及び燃料が供給されて燃焼し、燃焼熱を前記改質手段に伝達する改質器燃焼バーナと、を備え、
前記起動燃焼バーナの排出口に第1酸素濃度検出手段を設け、前記改質器燃焼バーナの排出口に第2酸素濃度検出手段を設け、
前記組成推定手段は、燃料電池システムの運転状況に応じて、前記第1酸素濃度検出手段及び前記第2酸素濃度検出手段のうちの少なくとも一方で検出される酸素濃度に基づいて、前記燃料の組成を推定することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記改質器に供給する燃料流量を検出する燃料検出手段を更に備え、
前記組成推定手段は、
前記燃料検出手段により燃料の補給が検出されているときに、前記燃料電池が停止している場合には、その後、前記燃料電池の運転開始時に、前記第1酸素濃度検出手段または前記第2酸素検出手段のうちの少なくとも一方で検出される酸素濃度に基づいて、前記燃料の組成を推定し、
前記燃料検出手段により燃料の補給が検出されているときに、前記燃料電池が運転中の場合には、前記第2酸素濃度検出手段で検出される酸素濃度に基づいて、前記燃料組成を推定することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記組成推定手段は、燃料の組成と、この燃料を燃焼させた際の燃焼ガスの成分との関係を示す計算式より得られる、質量保存則及び平衡条件式に基づき、
更に、前記酸素濃度検出手段にて検出される酸素濃度を用いて、前記燃焼ガスの酸素分圧を求め、該酸素分圧に基づいて、前記燃料の組成を推定することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記組成推定手段手段は、前記燃焼手段に導入する燃料流量と空気流量の少なくとも一方の流量を変更し、前記流量の変化前と変化後の酸素濃度の変化に基づいて前記燃料の組成を推定することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
燃料を改質して改質ガスを生成するステップと、
アノードに前記改質ガスが供給され、カソードに空気が供給されて電力を発生する燃料電池の、前記カソード流路に連通して設けられた燃焼手段に燃料を供給して燃焼させるステップと、
前記燃焼手段の燃焼ガス中に含まれる酸素濃度を検出するステップと、
前記燃焼ガス中に含まれる酸素濃度に基づいて、前記燃料の組成を推定するステップと、
前記推定された組成に基づいて、前記改質手段における改質条件を設定するステップと、
を備えることを特徴とする燃料電池システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−20705(P2013−20705A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150628(P2011−150628)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】