説明

燃料電池システム

【課題】 冷却水の導電率低減手段の残存寿命を正確に算出することができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】 コンピュータ9は、導電率計6が検出した冷却水の導電率に基づいてイオン除去ユニット(導電率低減手段)3の使用量を算出する使用量算出手段と、冷却水温度と冷却水の通水時間に基づいてイオン除去ユニット3の温度劣化量を算出する温度劣化量算出手段と、前記使用量及び前記温度劣化量に基づいて、イオン除去ユニット3の残存寿命を算出する残存寿命算出手段とを兼ねている。算出された残存寿命が所定値未満となったときに、報知装置10により、ユーザへ報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに係り、特に冷却水の導電率を管理する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
イオンフィルタ前後の導電率の減少より、イオフィルタ内のイオン交換樹脂の使用率を算出する燃料電池システムは、特許文献1がある。
【0003】
この発明では、イオンフィルタ前後に導電率計を具備し、イオンフィルタを通過することで、冷却水導電率の減少率より、イオンフィルタ内のイオン交換樹脂の使用率を算出している。
【0004】
また、循環経路内を循環している冷却水の導電率を測定する導電率計を具備し、冷却水導電率の減少速度より、イオンフィルタ中のイオン交換樹脂の使用率を算出している。
【特許文献1】特開2003−346845号公報(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来技術においては、1つの導電率計でイオン交換樹脂の使用率を測定するために、冷却水導電率の減少速度より算出しているが、燃料電池システムからのイオン溶出は、各部品の温度および冷却水温度、冷却水流量、各部品に接触ときの冷却水の導電率などに依存し、燃料電池車の走行中等の非定常な状態の場合に、導電率の減少速度も非定常となり、正確なイオン交換樹脂の使用率を算出することができないという問題点があった。
【0006】
また、イオンフィルタ前後の導電率を測定すると、正確なイオン交換樹脂の使用率を算出することができるが、導電率計を2個備えなければならないという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明は、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給を受けて発電する燃料電池スタックと、該燃料電池スタックに冷却水を循環させて冷却する冷却手段と、前記冷却水の導電率を低減させる導電率低減手段と、前記導電率低減手段へ流入する冷却水の導電率を検出する導電率検出手段と、前記冷却水の温度を検出する温度検出手段と、前記導電率検出手段が検出した導電率に基づいて前記導電率低減手段の使用量を算出する使用量算出手段と、前記冷却水温度と前記冷却水の通水時間に基づいて前記導電率低減手段の温度劣化量を算出する温度劣化量算出手段と、前記使用量及び前記温度劣化量に基づいて、前記導電率低減手段の残存寿命を算出する残存寿命算出手段と、を備えたことを要旨とする燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷却水の導電率を低減する導電率低減手段の残存寿命を正確に算出し、その交換時期を正確に知ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る燃料電池システムの具体的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る燃料電池システムの構成例を示す概略構成図である。なお、図1においては、主に冷却水による冷却系の構成についてのみ図示してあり、他の構成については図示は省略しているが、例えば、水素供給系や空気供給系等については、この種の燃料電池システムにおいて公知の構成がいずれも採用可能である。
【0011】
本実施形態の燃料電池システムは、燃料ガス(例えば水素)と酸化剤ガス(例えば空気)の供給により発電を行う燃料電池スタック1の他、この燃料電池スタック1に冷却水を循環供給して冷却するための冷却手段を備えている。冷却手段は、燃料電池スタック1に冷却水を供給するポンプ2と、冷却水の熱を系外へ放出するラジエータ4と、冷却水ライン5とを備えている。
【0012】
また、冷却水に溶存しているイオンを除去する導電率低減手段であるイオン除去ユニット3を備え、冷却ポンプ2とイオン除去ユニット3、イオン除去ユニット3と燃料電池スタック1、燃料電池スタック1とラジエータ4、ラジエータ4とポンプ2とが、それぞれ冷却水ライン5によって接続されている。
【0013】
また、イオン除去ユニットに流入する冷却水の導電率を検出する導電率計6と、冷却水の温度を測定する温度センサ7と、ポンプ2回転数とのそれぞれの値を受信し、イオン除去ユニット3の使用量及び温度劣化量を算出し、これら使用量及び温度劣化量からイオン除去ユニット3の残存寿命を計算するするコンピュータ9が、信号ライン8によって接続されている。さらに、このコンピュータ9から、算出された残存寿命に基づいてイオン除去ユニットの交換時期をユーザに知らせる報知装置10を備えている。
【0014】
コンピュータ9は、導電率計6が検出した導電率に基づいてイオン除去ユニット(導電率低減手段)3の使用量を算出する使用量算出手段と、冷却水温度と冷却水の通水時間に基づいてイオン除去ユニット3の温度劣化量を算出する温度劣化量算出手段と、前記使用量及び前記温度劣化量に基づいて、イオン除去ユニット3の残存寿命を算出する残存寿命算出手段とを兼ねている。
【0015】
以上のように構成される本実施形態の燃料電池システムにおいて、冷却水導電率とイオン除去ユニット3への冷却水流量とに依存するイオン除去ユニット3内のイオン交換樹脂の使用量と、冷却水温度によるイオン交換樹脂の温度劣化量とを算出することにより、イオン除去ユニット3の残存寿命を算出する。以下、このような本実施形態の燃料電池システムにおける残存寿命算出について、具体的に説明する。
【0016】
イオン除去ユニット3は、イオン交換樹脂にて冷却水中のイオンを吸着する機能を有しており、その吸着量はイオン当量(単位:[eq])で表される。イオン当量とは、イオン数[mol] に、そのイオンの価数を乗じたものである。各イオンについて、そのイオンが示す導電率(単位:[S] )は異なるので、フィルタ寿命を算出するには導電率からイオン当量へ変換する必要がある。
【0017】
本実施形態では、あらかじめ冷却水中に溶出しているイオンの定性、定量分析を行っておき、各イオンの単位イオン当量当りの導電率(例えばNa+ は、50.1[S・cm2/eq]at25[℃])と溶出イオンのイオン量の割合より、冷却水の単位導電率当りのイオン当量β[eq/S]を算出しておく。このβの値より、冷却水導電率を冷却水が含むイオン当量へ換算でき、イオン当量を積算することでイオン交換樹脂でのイオンの吸着量、つまりイオン除去ユニット3の使用量を算出することができる。
【0018】
本実施形態で使用するイオン除去ユニット3は、図2の様に残存寿命によってイオン交換効率η(イオン除去ユニット入口の導電率Ciと出口の導電率Coの割合:η=Co/Ci)が変動する。また、イオン交換効率ηは、ポンプ回転数より求まるイオン除去ユニット3を通水する冷却水の流量l[L/min] によって図3のように変動し、ここでは通水流量に対するイオン交換効率ηの効率を流量交換効率αと表すこととする。
【0019】
本実施形態で使用するイオン除去ユニット3内のイオン交換樹脂は、冷却水温度T[℃]とその通水時間によって図4のように劣化する。
【0020】
ここでは、残存しているイオン交換樹脂量に対して、そのときの冷却水温度によって温度劣化しないイオン交換樹脂量の割合を、温度劣化に対する残存率θと表すこととする。
【0021】
イオン除去ユニット3の残存寿命は、イオン除去不能になったイオン交換樹脂量を算出することによって求められる。イオン除去不能になったイオン交換樹脂量は、冷却水中のイオンを除去するのに使用したイオン交換樹脂使用量A[eq]と、冷却水温度が上昇することによってイオン交換樹脂が劣化しイオン除去不能になったイオン交換樹脂の温度劣化量B[eq]の、それぞれの積算量の和で求めることができる。
【0022】
イオン交換樹脂使用量A[eq]は、下記の式(1)で、イオン交換樹脂の温度劣化量B[eq]は、下記の式(2)でそれぞれ算出することができる。尚、式(1)、(2)における時間積分は、冷却水流量l及び導電率Ciの所定のサンプリング間隔毎の積算に置き換えることができるのは、言うまでもない。
【0023】
そして、初期のイオン除去ユニットの総イオン交換量Cmax [eq]に対して、イオン除去が可能なイオン交換樹脂量の割合を、式(3)の残存寿命D[%] として求めることができる。さらに、例えば、残存寿命が所定値(例えば、10[%] )を切ると、警告灯の点灯など、報知装置10よりユーザにイオン除去ユニットの交換時期が近いことを知らせることができる。
【数1】

【0024】
図5は、本実施形態におけるイオン除去ユニットの残存寿命算出ロジックを示すロジックダイヤグラムである。
【0025】
ブロック101は、イオン除去ユニットの残存寿命Dであり、初期値は、100[%]である。ブロック102は、冷却水量を測定するブロックである。例えば、ポンプ2に内蔵された回転計によりポンプ2の回転速度を検出し、ポンプ2の回転速度に基づいて冷却水流量を算出する。
【0026】
ブロック103では、ブロック101の残存寿命Dと、ブロック102の冷却水量lとに基づいて、流量交換効率α、交換効率ηを算出する。ブロック104では、導電率計6により、イオン除去ユニットに流入する冷却水の導電率Ciを測定する。
【0027】
ブロック105では、上記式(1)により、導電率低減手段(イオン交換樹脂)の使用量であるイオン交換量Aを算出する。
【0028】
ブロック106では、温度計7により、冷却水温度Tを測定し、ブロック107では、この温度Tにおけるイオン交換樹脂が温度劣化しない割合である残存率θ(T)を、予めコンピュータ9に記憶したマップ等を参照して算出する。
【0029】
ブロック108では、導電率低減手段(イオン交換樹脂)の温度劣化量Bを上記式(2)により算出する。
【0030】
ブロック109では、ブロック105のイオン交換量Aとブロック108の温度劣化量Bとを用いて、上記式(3)により、導電率低減手段(イオン交換樹脂)の残存寿命Dを算出する。
【0031】
ブロック110では、残存寿命Dが20[%]以上であるか、否かを判定し、20[%]以上であれば、ブロック101で残存寿命Dを更新して、ブロック103の処理へ戻る。ブロック110の判定で、残存寿命Dが20[%]未満であれば、ブロック111へ進み、報知装置10により、ユーザへ導電率低減手段の残存寿命が既定値を下回ったことを報知する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る燃料電池システムの実施形態の概略構成図である。
【図2】イオン除去ユニットの残存寿命に対するイオン交換効率の特性例を示すマップである。
【図3】通水流量に対する流量交換効率の特性例を示すマップである。
【図4】通水時間と温度によるイオン交換樹脂の残存率の例を示すマップである。
【図5】イオン交換樹脂の残存寿命算出を説明するロジックダイヤグラムである。
【符号の説明】
【0033】
1:燃料電池スタック
2:ポンプ
3:イオン除去ユニット(導電率低減手段)
4:ラジエータ
5:冷却ライン
6:導電率計(導電率検出手段)
7:温度計(温度検出手段)
8:信号ライン
9:コンピュータ
10:報知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス及び酸化剤ガスの供給を受けて発電する燃料電池スタックと、
該燃料電池スタックに冷却水を循環させて冷却する冷却手段と、
前記冷却水の導電率を低減させる導電率低減手段と、
前記導電率低減手段へ流入する冷却水の導電率を検出する導電率検出手段と、
前記冷却水の温度を検出する温度検出手段と、
前記導電率検出手段が検出した導電率に基づいて前記導電率低減手段の使用量を算出する使用量算出手段と、
前記冷却水温度と前記冷却水の通水時間に基づいて前記導電率低減手段の温度劣化量を算出する温度劣化量算出手段と、
前記使用量及び前記温度劣化量に基づいて、前記導電率低減手段の残存寿命を算出する残存寿命算出手段と、
を備えたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記使用量算出手段は、
前記冷却水を圧送する冷却水圧送手段の稼働率に基づいて前記冷却水の流量を算出し、前記冷却水流量と前記冷却水の導電率から、前記使用量を算出することを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記使用量算出手段は、予め分析した冷却水のイオン種類に基づいて算出した単位導電率当たりのイオン当量を用いて、前記使用量を算出することを特徴とする請求項1または請求項2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記温度劣化量算出手段は、
前記導電率低減手段の冷却水通水時間と冷却水温度に基づいて前記温度劣化量を算出することを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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