説明

燃料電池システム

【課題】インジェクタに起因した振動及び騒音の発生、燃料電池へのガス供給の遅れの発生、あるいは減圧の発生を抑制できる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池10と、燃料電池10に反応ガスを供給するための反応ガス配管31と、弁体65を電磁駆動力で所定の駆動周期で駆動して弁座61から離隔させることにより反応ガス配管31内の上流側のガス状態を調整して下流側に供給するインジェクタ35とを備え、インジェクタ35を燃料電池10に一体的に設けることで、インジェクタ35の振動及び騒音を重量物である燃料電池10で吸収して抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に接続された反応ガス配管にインジェクタを備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、反応ガス(燃料ガス及び酸化ガス)の供給を受けて発電を行う燃料電池を備えた燃料電池システムが提案され、実用化されている。かかる燃料電池システムには、水素タンク等の燃料供給源から供給される燃料ガスを燃料電池へと流すための反応ガス配管に、オン・オフ制御されることでガス状態を調整するレギュレータを設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−310718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1に記載されているような従来のレギュレータは、その構造上、燃料ガスの供給圧力を迅速に変化させることが困難である(すなわち応答性が低い)上に、目標圧力を多段階にわたって変化させるような高精度な調圧が不可能であるため、レギュレータに換えて電磁駆動式のインジェクタを設けることが考えられている。
ところが、インジェクタは、弁体を電磁駆動力で駆動して弁座から離隔させることによりオン・オフ(開弁・閉弁)されるものであるから、インジェクタのオン・オフ時に振動及び騒音が不可避的に発生する虞があり、振動及び騒音への対策が新たに必要となってくる。また、インジェクタを採用した場合に、その配置によっては、燃料電池へのガス供給に遅れや減圧を発生してしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、インジェクタに起因した振動及び騒音の発生、燃料電池へのガス供給の遅れの発生、あるいは減圧の発生を抑制できる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池と、前記燃料電池に反応ガスを供給するための反応ガス配管と、弁体を電磁駆動力で所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることにより前記反応ガス配管内の上流側のガス状態を調整して下流側に供給するインジェクタと、を備えた燃料電池システムであって、前記インジェクタが前記燃料電池に一体的に設けられたものである。
【0007】
かかる構成によれば、インジェクタの振動及び騒音を重量物である燃料電池で吸収して抑制することができる。また、インジェクタが燃料電池に一体的に設けられるため、インジェクタと燃料電池との距離を短縮することができる。
【0008】
前記燃料電池システムにおいて、前記反応ガス配管が弾性体部を備えている場合に、前記燃料電池を収容するケース内に前記弾性体部を配置しても良い。この弾性体部は、絶縁体でも良いし、導電体でもよい。
【0009】
前記燃料電池システムにおいて、前記インジェクタの少なくとも下流側を前記燃料電池に結合しても良い。
【0010】
前記燃料電池システムにおいて、前記燃料電池が、並設された複数列の燃料電池スタックを備えてなる場合には、これら燃料電池スタック同士の中央部に前記インジェクタを配置しても良い。
【0011】
前記燃料電池システムにおいて、前記インジェクタが弾性部材を介して支持ブロックに支持されていても良い。
前記燃料電池システムにおいて、前記支持ブロックが前記燃料電池に結合されていても良い。
【0012】
前記燃料電池システムにおいて、前記燃料電池が、反応ガスの供給を受けて発電する単セルを所要数積層して構成される燃料電池スタックが前記単セルの積層方向両端部に配置された一対のエンドプレートで挟持されているとともに、これらエンドプレートが前記積層方向に対し直交する方向の両側に配置された一対のテンションプレートで互いに連結されてなる場合には、前記支持ブロック全体を二以上の固定点で前記燃料電池に固定し、前記エンドプレートを前記積層方向に見たときに、前記一対のテンションプレートと、少なくとも2つの前記固定点同士を結ぶ線分とが平行とされていても良い。
【0013】
前記燃料電池システムにおいて、前記燃料電池を収容するケースの換気穴を前記インジェクタと対向する面以外の面に設けても良い。
【0014】
かかる構成によれば、インジェクタが発生させた騒音が、ケースの換気穴から外に漏れ出すことを抑制できる。
【0015】
前記燃料電池システムにおいて、前記インジェクタを遮音材で覆っても良い。
【0016】
前記燃料電池システムにおいて、前記インジェクタと前記燃料電池との間に弾性体を設けても良い。
【0017】
かかる構成によれば、インジェクタと燃料電池との隙間で生じる共鳴を抑制できる。
【0018】
前記燃料電池システムにおいて、前記インジェクタの少なくとも一部又は前記遮音材の少なくとも一部が前記燃料電池に埋没していても良い。
【0019】
かかる構成によれば、インジェクタの騒音が輻射される面積を低減できる。
【0020】
前記燃料電池システムにおいて、前記インジェクタが前記弁体駆動方向を鉛直方向に沿わせて配置されていても良い。
【0021】
前記燃料電池システムにおいて、前記インジェクタのガス入口をガス出口に対して鉛直方向上側に配置しても良い。
【0022】
前記燃料電池システムにおいて、前記反応ガス配管における前記インジェクタへの入口側配管を当該インジェクタに固定しても良い。
【0023】
かかる構成によれば、インジェクタが一体的に設けられた燃料電池を移送する際に入口側配管に生じ得る破損を抑制できる。
【0024】
前記燃料電池システムにおいて、前記インジェクタの信号線接続用コネクタを前記燃料電池における前記インジェクタの配置面と平行に設けても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、インジェクタの振動及び騒音を重量物である燃料電池で吸収することが可能となり、インジェクタに起因した振動及び騒音の発生を抑制することができる。また、インジェクタと燃料電池との距離を短縮することが可能となり、燃料電池へのガス供給の遅れの発生、及び減圧の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】図1に示す燃料電池システムのインジェクタを示す断面図である。
【図3】図1に示す燃料電池システムの燃料電池を示す斜視図である。
【図4】図1に示す燃料電池システムが搭載された自動車を概略的に示す側面図である。
【図5】図1に示す燃料電池システムの燃料電池を示す一部を断面とした部分拡大正面図である。
【図6】図1に示す燃料電池システムの燃料電池のエンドプレートの変形イメージを示す側面図である。
【図7】図1に示す燃料電池システムのインジェクタの周辺を示す変形例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1について説明する。
【0028】
図1は、燃料電池システム1のシステム構成図である。この燃料電池システム1は、燃料電池自動車の車載発電システムや船舶、航空機、電車あるいは歩行ロボット等のあらゆる移動体用の発電システム、さらには、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システム等に適用可能であるが、具体的には自動車用となっている。
【0029】
本実施形態に係る燃料電池システム1は、図1に示すように、反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて電力を発生する燃料電池10を備えるとともに、燃料電池10に酸化ガスとしての空気を供給する酸化ガス配管系2、燃料電池10に燃料ガスとしての水素ガスを供給する水素ガス配管系3、システム全体を統合制御する制御装置4等を備えている。
【0030】
燃料電池10は、反応ガスの供給を受けて発電する単セル71を所要数積層して構成したスタック構造を有している。燃料電池10により発生した電力は、PCU(Power Control Unit)11に供給される。PCU11は、燃料電池10とトラクションモータ12との間に配置されるインバータやDC‐DCコンバータ等を備えている。また、燃料電池10には、発電中の電流を検出する電流センサ13が取り付けられている。
【0031】
酸化ガス配管系2は、加湿器20により加湿された酸化ガス(空気)を燃料電池10に供給する空気供給流路21と、燃料電池10から排出された酸化オフガスを加湿器20に導く空気排出流路22と、加湿器20から外部に酸化オフガスを導くための排気流路23と、を備えている。空気供給流路21には、大気中の酸化ガスを取り込んで加湿器20に圧送するコンプレッサ24が設けられている。
【0032】
水素ガス配管系3は、高圧(例えば70MPa)の水素ガスを貯留した燃料供給源としての水素タンク30と、水素タンク30の水素ガスを燃料電池10に供給するための燃料供給流路としての水素供給流路(反応ガス配管)31と、燃料電池10から排出された水素オフガスを水素供給流路31に戻すための循環流路32と、を備えている。
【0033】
なお、水素タンク30に代えて、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクと、を燃料供給源として採用することもできる。また、水素吸蔵合金を有するタンクを燃料供給源として採用してもよい。
【0034】
水素供給流路31には、水素タンク30からの水素ガスの供給を遮断又は許容する遮断弁33と、水素ガスの圧力を調整するレギュレータ34と、インジェクタ35と、が設けられている。また、インジェクタ35の上流側には、水素供給流路31内の水素ガスの圧力及び温度を検出する一次側圧力センサ41及び温度センサ42が設けられている。また、インジェクタ35の下流側であって水素供給流路31と循環流路32との合流部の上流側には、水素供給流路31内の水素ガスの圧力を検出する二次側圧力センサ43が設けられている。
【0035】
レギュレータ34は、その上流側圧力(一次圧)を、予め設定した二次圧に調圧する装置である。本実施形態に係る燃料電池システム1においては、一次圧を減圧する機械式の減圧弁をレギュレータ34として採用している。機械式の減圧弁の構成としては、背圧室と調圧室とがダイアフラムを隔てて形成された筺体を有し、背圧室内の背圧により調圧室内で一次圧を所定の圧力に減圧して二次圧とする公知の構成を採用することができる。
【0036】
図2は、インジェクタ35を示す断面図である。このインジェクタ35は、水素供給流路31のガス状態を調整するもので、水素供給流路31の一部を構成するとともに、軸方向一端の円筒部45の内側に形成された口部51において水素供給流路31の水素タンク30側に配置され、一方の円筒部45と同軸をなす軸方向他端の円筒部46の内側に形成された口部52において水素供給流路31の燃料電池10側に配置される内部流路53が形成された金属製のシリンダ54を有している。
【0037】
このシリンダ54には、口部51に繋がる第1通路部56と、この第1通路部56の口部51とは反対側に繋がる、第1通路部56よりも大径の第2通路部57と、この第2通路部57の第1通路部56とは反対側に繋がる、第2通路部57よりも大径の第3通路部58と、この第3通路部58の第2通路部57とは反対側に繋がる、第2通路部57及び第3通路部58よりも小径の第4通路部59とが形成されており、これらで内部流路53が構成されている。なお、円筒部45の外周部には環状のシール溝45aが形成されており、円筒部46の外周部にも環状のシール溝46aが形成されている。
【0038】
また、インジェクタ35は、両円筒部45,46間に形成されたこれらよりも大径の本体部47に、第4通路部59の第3通路部58側の開口部を囲むように設けられた例えばゴム等のシール性部材からなる弁座61と、第2通路部57に移動可能に挿入される円筒部62及び第3通路部58内に配置される第2通路部57よりも大径の傘部63を有し傘部63に斜めに連通穴64が形成された金属製の弁体65と、弁体65の円筒部62に一端側が挿入されると共に他端側が第1通路部56内に形成されたストッパ66に係止されることで弁体65を弁座61へ当接させて内部流路53を遮断するスプリング67と、弁体65を電磁駆動力によりスプリング67の付勢力に抗して第3通路部58の第2通路部57側の段部68に当接するまで移動させることで弁体65を弁座61から離間させて連通穴64で内部流路53を連通させるソレノイド69と、を有している。ここで、弁体65はシリンダ54の軸線方向に沿って作動する。
【0039】
インジェクタ35の弁体65は、電磁駆動装置であるソレノイド69への通電制御により駆動され、このソレノイド69に給電されるパルス状励磁電流のオン・オフにより、内部流路53の開口状態を変更(本実施形態に係る燃料電池システム1では、全開と全閉の2段階)することができるようになっている。そして、制御装置4から出力される制御信号によって、インジェクタ35のガス噴射時間及びガス噴射時期が制御されることにより、水素ガスの流量及び圧力が高精度に制御される。
【0040】
インジェクタ35は、その下流に要求されるガス流量を供給するために、インジェクタ35の内部流路53に設けられた弁体65による開口状態(開度)及び開放時間の少なくとも一方を変更することにより、下流側(燃料電池10側)に供給されるガス流量(又は水素モル濃度)を調整する。
【0041】
なお、インジェクタ35の弁体65の開閉によりガス流量が調整されるとともに、インジェクタ35下流に供給されるガス圧力がインジェクタ35上流のガス圧力より減圧されるため、インジェクタ35を調圧弁(減圧弁、レギュレータ)と解釈することもできる。また、本実施形態に係る燃料電池システム1では、ガス要求に応じて所定の圧力範囲の中で要求圧力に一致するようにインジェクタ35の上流ガス圧の調圧量(減圧量)を変化させることが可能な可変調圧弁と解釈することもできる。
【0042】
本実施形態に係る燃料電池システム1においては、図1に示すように、水素供給流路31と循環流路32との合流部A1より上流側にインジェクタ35を配置している。ここでは、燃料供給源として複数の水素タンク30を採用しているため、各水素タンク30から供給される水素ガスが合流する部分(水素ガス合流部A2)よりも下流側にインジェクタ35を配置している。
【0043】
循環流路32には、気液分離器36及び排気排水弁37を介して、排出流路38が接続されている。気液分離器36は、水素オフガスから水分を回収するものである。排気排水弁37は、制御装置4からの指令によって作動することにより、気液分離器36で回収した水分と、循環流路32内の不純物を含む水素オフガスと、を外部に排出(パージ)するものである。
【0044】
また、循環流路32には、循環流路32内の水素オフガスを加圧して水素供給流路31側へ送り出す水素ポンプ39が設けられている。なお、排気排水弁37及び排出流路38を介して排出される水素オフガスは、希釈器40によって希釈されて排気流路23内の酸化オフガスと合流するようになっている。
【0045】
制御装置4は、車両に設けられた加速操作装置(アクセル等)の操作量を検出し、加速要求値(例えばトラクションモータ12等の負荷装置からの要求発電量)等の制御情報を受けて、システム内の各種機器の動作を制御する。なお、負荷装置とは、トラクションモータ12のほかに、燃料電池10を作動させるために必要な補機装置(例えばコンプレッサ24、水素ポンプ39、冷却ポンプのモータ等)、車両の走行に関与する各種装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、懸架装置等)で使用されるアクチュエータ、乗員空間の空調装置(エアコン)、照明、オーディオ等を含む電力消費装置を総称したものである。
【0046】
制御装置4は、図示していないコンピュータシステムによって構成されている。かかるコンピュータシステムは、CPU、ROM、RAM、HDD、入出力インタフェース及びディスプレイ等を備えるものであり、ROMに記録された各種制御プログラムをCPUが読み込んで実行することにより、各種制御動作が実現されるようになっている。
【0047】
制御装置4は、所定の手順を経て算出したインジェクタ35の総噴射時間を実現させるための制御信号を出力することにより、インジェクタ35のガス噴射時間及びガス噴射時期を制御して、燃料電池10に供給される水素ガスの流量及び圧力を調整する。
【0048】
燃料電池システム1の通常運転時においては、水素タンク30から水素ガスが水素供給流路31を介して燃料電池10の燃料極に供給されるとともに、加湿調整された空気が空気供給流路21を介して燃料電池10の酸化極に供給されることにより、発電が行われる。この際、燃料電池10から引き出すべき電力(要求電力)が制御装置4で演算され、その発電量に応じた量の水素ガス及び空気が燃料電池10内に供給されるようになっている。
【0049】
図3に示すように、燃料電池10は、反応ガスの供給を受けて発電する矩形状の単セル71を所要数積層して構成される一対の燃料電池スタック10A,10Bが、互いに単セル71の積層方向を平行にして並設された状態で、これらに共通で積層方向両端部に配置された一対のエンドプレート72,73で挟持されて構成されている。
【0050】
なお、これらエンドプレート72,73は、燃料電池スタック10A,10Bの並設方向に対し直交する方向の両側に配置された一対のテンションプレート74,75で互いに連結されている。
【0051】
このような燃料電池10は、図4に示すように略直方体形状のスタックケース76に収容された状態で、自動車Vに搭載される。この搭載状態で、燃料電池10は、燃料電池スタック10A,10Bが相互に水平方向に並ぶ姿勢で自動車Vのフロント側に設けられたエンジンコンパートメントEC内に設置されることになり、このとき、一対のエンドプレート72,73が車体前後方向両端に配置され、一対のテンションプレート74,75が上下に配置された状態となる。以下はこの設置時の姿勢で説明する。
【0052】
インジェクタ35は、燃料電池10における車両前後方向後側となる一方のエンドプレート72に一体的に設けられている。これに対し、燃料電池10を収容するスタックケース76には、インジェクタ35と対向する後面76a以外の面であってインジェクタ35と乗員室Cとの間にない面、具体的には前面76bに内外を連通させる換気穴78が設けられている。
【0053】
この換気穴78には水素の通過を規制しつつ水蒸気の通過を許容するフィルタ79が設けられている。なお、換気穴78は、インジェクタ35と対向する面以外の面であってインジェクタ35と乗員室Cとの間にない面であれば、例えば上面76cあるいは側面等の他の面に設けても良い。
【0054】
上記した一対のエンドプレート72,73は、図3に示すように、複数の燃料電池スタック10A,10Bに共通であるため車幅方向に長い略長方形状をなしており、例えば車両前後方向後側となる一方のエンドプレート72における並設された複数列(図3では、2列)の燃料電池スタック10A,10B同士の中央部に、上記したインジェクタ35が一体的に設けられている。
【0055】
ここで、燃料電池スタック10A,10Bはエンドプレート72側の極性が互いに反対となり、それぞれに水素ガスを最短距離で供給するために水素供給口80A,80Bがエンドプレート72の長さ方向に対称に配置されることになることから、インジェクタ35が上記配置とされることで、水素供給流路31におけるインジェクタ35から延出する配管81から分岐して各水素供給口80A,80Bへ接続される配管部81A,81Bの長さを均等にできる。
【0056】
インジェクタ35は、より具体的には、図5に示すように、入口側の円筒部45が金属製の支持ブロック84の穴部85に、シール溝45aに配置された弾性部材であるOリング86を介して嵌合されており、出口側の円筒部46が金属製の支持ブロック87の穴部88に、シール溝46aに配置された弾性部材であるOリング89を介して嵌合されている。
【0057】
そして、一方の支持ブロック84が上側に配置された状態で一カ所の締結部(固定点)90においてエンドプレート72にボルト止めで固定され、他方の支持ブロック87が下側に配置された状態で両側の二カ所の締結部(固定点)91,92においてエンドプレート72にボルト止めで固定されている。この支持ブロック87をエンドプレート72に結合する二カ所の締結部91,92は、互いを結んだ線が水平となっている。
【0058】
以上により、インジェクタ35は、その軸線方向つまり弁体駆動方向(弁体65の移動方向)を鉛直方向に配置してエンドプレート72に設けられており、弾性部材であるOリング86,89を介して支持ブロック84,87に両側が支持されている。その結果、インジェクタ35はその上流側の円筒部45及び下流側の円筒部46が燃料電池10に一対の支持ブロック84,87を介して結合されており、これら円筒部45,46が支持ブロック84,87を介して伝わる燃料電池10の発熱で加温される。また、インジェクタ35は、ガス入口となる口部51をガス出口となる口部52に対して鉛直方向上側に配置している。
【0059】
また、支持ブロック84,87は、全体として三点の締結部90,91,92で燃料電池10のエンドプレート72に結合されており、下側の支持ブロック87をエンドプレート72に結合する二カ所の締結部91,92は、テンションプレート74,75のエンドプレート72への図3に示す結合部74a,75aの延在方向に平行に配置されている。
【0060】
なお、支持ブロック84,87を全体として三点ではなく四点でエンドプレート72に結合しても良いが、二点以下では安定的にインジェクタ35を支持できず、五点以上では支持カ所が多くなり過ぎてエンドプレート72の変形等により締結部の緩みを生じる可能性が高くなるため、いずれも好ましくない。
【0061】
ここで、図4に示すように自動車Vの後部に設けられた水素タンク30から延出する水素供給流路31が自動車Vの乗員室Cの床下を通ってエンジンコンパートメントEC内に導かれ、スタックケース76の下面76dに形成された穴部94を介してスタックケース76内に導入されて、図5に示すようにインジェクタ35の側方を通って上側の支持ブロック84に連結されている。このように支持ブロック84に連結された水素供給流路31は穴部85に連通し、この穴部85を介してインジェクタ35の口部51に連通する。
【0062】
なお、水素供給流路31は、支持ブロック84への連結側が、支持ブロック84に接続されるU字状をなす金属製の配管部95と、この配管部95に接続される弾性体からなる絶縁配管部(弾性体部)96と、この絶縁配管部96に接続される金属製の配管部(入口側配管)97とに分割されている。そして、絶縁配管部96によって、高電位の燃料電池10とボディアースされた水素タンク30とを結ぶ水素供給流路31を電気的に絶縁しており、この絶縁配管部96はスタックケース76内に配置されている。
【0063】
また、スタックケース76の下面76dの穴部94に挿通される配管部97は、支持ブロック87をエンドプレート72に固定する締結部91に共締めされたブラケット98で中間部が固定されている。これにより、絶縁配管部96が弾性体であることから、そのままでは姿勢が安定しない配管部97の姿勢を安定させることができる。
【0064】
以上説明した本実施形態に係る燃料電池システム1によれば、インジェクタ35が燃料電池10に一体的に設けられるため、インジェクタ35で起振する振動及び騒音を重量物である燃料電池10が吸収して減衰させることができ、抑制できる。したがって、乗員室Cの乗員に伝わるインジェクタ35の作動音を抑制できる。また、インジェクタ35が燃料電池10に一体的に設けられるため、インジェクタ35と燃料電池10との距離を短縮することができ、その結果、燃料電池10へのガス供給の遅れの発生、及び減圧の発生を抑制できる。
【0065】
また、水素供給流路31は、高電圧の燃料電池10とボディアースされた水素タンク30とを結んでおり、このため、途中に弾性体(ゴムあるいは樹脂)からなる絶縁配管部96を備えているが、材質から音を放射し易いこの絶縁配管部96を、燃料電池10を収容するスタックケース76内に配置しているため、スタックケース76で絶縁配管部96から放射される音の外部への放射を抑制することができる。
【0066】
さらに、インジェクタ35の金属製のシリンダ54の上流側及び下流側の円筒部45,46を金属製の支持ブロック84,87を介して燃料電池10に結合したため、インジェクタ35の上流側及び下流側を効果的に燃料電池10の余熱で加温することができる。
【0067】
例えば、高速連続走行等で極低温の水素ガスがインジェクタ35に供給された場合に、特に上流側に比べて下流側で、弁体65を通過後の断熱膨張によってさらに水素ガスの温度が下がることになるが、下流側の円筒部46を加温することで、ゴム製の弁座61や下流側のゴム製のシール部材等の低温硬化を抑制できる。したがって、低温硬化を水素ガスの流量制限で抑制する燃料電池10の出力制限の必要性を低くできる。
【0068】
加えて、並設された複数列の燃料電池スタック10A,10B同士の中央部にインジェクタ35を配置しているため、インジェクタ35から各水素供給口80A,80Bへの配管部81A,81Bの長さを均等にでき、各燃料電池スタック10A,10Bへの水素ガスの分配供給が良好となる。
【0069】
また、インジェクタ35が弾性部材であるOリング86,89を介して支持ブロック84,87に支持されているため、加振体であるインジェクタ35の振動がOリング86,89で減衰されることになり、インジェクタ35が発生する振動及び騒音をさらに抑制できる。
【0070】
しかも、インジェクタ35の入口側の円筒部45を支持する支持ブロック84と出口側の円筒部46を支持する支持ブロック87とが両方とも燃料電池10に固定されているため、いずれの支持ブロック84,87から伝達される振動も重量物である燃料電池10で減衰できる。
【0071】
また、支持ブロック84,87の全体が三点で燃料電池10に結合されているため、適正にインジェクタ35を燃料電池10に結合できる。
【0072】
しかも、そのうちの下側の支持ブロック87を燃料電池10に結合する二カ所の締結部91,92は、テンションプレート74,75のエンドプレート72への結合部74a,75aの延在方向に平行に配置されているため、燃料電池10の膨潤によるエンドプレート72の変形、すなわち図6に示すようにエンドプレート72に生じる結合部74a,75aと直交する方向の変形に対して、二カ所の締結部91,92に生じる位置ずれを最小限に抑えることができる。よって、エンドプレート72に生じる変形による荷重で締結部91,92に発生する緩みを抑制できる。
【0073】
加えて、燃料電池10を収容するスタックケース76の内外を連通させる換気穴78をインジェクタ35と対向する面以外の面である前面76bに設けているため、換気穴78を介してスタックケース76から外に漏れ出るインジェクタ35の騒音を抑制できる。しかも、スタックケース76のインジェクタ35と乗員室Cとの間にない面である前面76bに換気穴78を設けているため、換気穴78を介してスタックケース76から外に漏れ出るインジェクタ35の騒音が乗員室Cに伝わるのを抑制できる。
【0074】
また、インジェクタ35が弁体駆動方向を水平方向に配置した場合に、弁体65に移動方向とは異なる方向に重力が加わり、その作用で下部に荷重が偏って加わったり傾きを生じたりして、偏摩耗を生じてしまうことがあるが、弁体駆動方向を鉛直方向に配置しているため、弁体65の移動方向と重力の方向とが一致することになり、弁体65に偏荷重を生じることがなく、上記のような偏摩耗を防止できる。したがって、インジェクタ35の耐久性を向上できる。
【0075】
さらに、インジェクタ35がガス入口である口部51をガス出口である口部52に対して鉛直方向上側に配置しているため、水素供給流路31のインジェクタ35より下流側に合流する循環流路32において燃料電池10からの湿度の高い水素オフガスが導入されても、その水蒸気により生じる結露水がインジェクタ35に及ぶことを抑制でき、よって、システム停止時にインジェクタ35に生じる凍結固着を抑制できる。
【0076】
加えて、水素供給流路31におけるインジェクタ35の入口側にある配管部97が、支持ブロック87をエンドプレート72に固定するための締結部91に共締めされたブラケット98で固定されている。
【0077】
したがって、燃料電池10に支持ブロック84,87及びインジェクタ35とともに配管部95、絶縁配管部96及び配管部97が予め取り付けられた状態で、燃料電池10をスタックケース76に収容する際には、配管部97をスタックケース76の下面76dの穴部94に通す必要があるが、絶縁配管部96が弾性体であることから、そのままでは姿勢が安定しない配管部97の姿勢をブラケット98で安定させて、取り付け作業を容易とするとともに破損等を抑制することができる。
【0078】
また、輸送時において配管部97の姿勢が安定しない場合には配管部97を他の部品等に衝突させやすいが、配管部97の姿勢が安定しているため、このような衝突による破損を抑制できる。
【0079】
なお、以上の実施形態に係る燃料電池システム1において、図7に示すように、上記したインジェクタ35が配置されるエンドプレート72にインジェクタ35の本体部47が一部入り込む凹部100を形成し、インジェクタ35を覆うように硬質の湾曲板状の遮音材101を配置するとともに、凹部100及び遮音材101とインジェクタ35との隙間を軟質の弾性体(軟質層)102で満たしても良い。
【0080】
これにより、インジェクタ35と燃料電池10との間に弾性体102が設けられることになり、インジェクタ35は一部が燃料電池10に埋め込まれることになる。なお、遮音材101及び弾性体102がインジェクタ35を覆う吸音カバー103を構成する。
【0081】
このように、インジェクタ35を遮音材101で覆えば、インジェクタ35からの騒音の広がりを抑制できることになり、また、インジェクタ35と燃料電池10との間を含む遮音材101の内側に弾性体102を設ければ、インジェクタ35からの騒音の隙間での共鳴を防いで、騒音の広がりをさらに抑制できることになる。加えて、インジェクタ35の一部が燃料電池10に埋め込まれているため、インジェクタ35の騒音が輻射される面積を低減できる。さらに、弾性体102も一部が燃料電池10に埋め込まれているため、弾性体102の体積を最大化できる。なお、遮音材101を凹部100内に配置することでこの遮音材101を燃料電池10に埋め込んでも良い。このように構成すれば、インジェクタ35の騒音が遮音材101で輻射される面積を低減できる。
【0082】
ここで、インジェクタ35には、制御装置4からの制御信号を通信するための信号線を当該インジェクタ35に接続するための信号線接続用コネクタ104がエンドプレート72におけるインジェクタ35の配置面72aに平行に配置されており、この信号線接続用コネクタ104の信号線との接続部分である口部105は配置面72aと平行をなしている。これに合わせて、遮音材101には、この信号線接続用コネクタ104を外部に露出させるための開口部106がエンドプレート72側に形成されている。
【0083】
このように、インジェクタ35の信号線接続用コネクタ104を燃料電池10のインジェクタ35の配置面72aと平行に配置させれば、信号線接続用コネクタ104への図示略の信号線の良好な接続作業性を維持しつつ、口部105から広がるインジェクタ35の作動音を燃料電池10で低減できるとともに、口部105から広がるインジェクタ35の作動音を乗員室Cに指向させずに済む。よって、乗員室Cの乗員に伝わるインジェクタ35の作動音を抑制できる。
【符号の説明】
【0084】
1…燃料電池システム、10…燃料電池、10A,10B…燃料電池スタック(スタック)、31…水素供給流路(反応ガス配管)、35…インジェクタ、51…口部(ガス入口)、52…口部(ガス出口)、61…弁座、65…弁体、72a…配置面、72,73…エンドプレート、74,75…テンションプレート、76…スタックケース(ケース)、76b…前面(対向する面以外の面)、78…換気穴、84,87…支持ブロック、86,89…Oリング(弾性部材)、90〜92…締結部(固定点)、96…絶縁配管部(弾性体部)、97…配管部(入口側配管)、101…遮音材、102…弾性体、104…信号線接続用コネクタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、前記燃料電池に反応ガスを供給するための反応ガス配管と、弁体を電磁駆動力で所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることにより前記反応ガス配管内の上流側のガス状態を調整して下流側に供給するインジェクタと、を備えた燃料電池システムであって、
前記インジェクタが前記燃料電池に一体的に設けられている燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記反応ガス配管は弾性体部を備えており、
前記燃料電池を収容するケース内に前記弾性体部が配置されている燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記インジェクタの少なくとも下流側が前記燃料電池に結合されている燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、並設された複数列の燃料電池スタックを備えてなり、
これら燃料電池スタック同士の中央部に前記インジェクタが配置されている燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記インジェクタが弾性部材を介して支持ブロックに支持されている燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5記載の燃料電池システムにおいて、
前記支持ブロックが前記燃料電池に結合されている燃料電池システム。
【請求項7】
請求項6記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、反応ガスの供給を受けて発電する単セルを所要数積層して構成される燃料電池スタックが前記単セルの積層方向両端部に配置された一対のエンドプレートで挟持されているとともに、これらエンドプレートが前記積層方向に対し直交する方向の両側に配置された一対のテンションプレートで互いに連結されてなり、
前記支持ブロック全体が二以上の固定点で前記燃料電池に固定されており、
前記エンドプレートを前記積層方向に見たときに、前記一対のテンションプレートと、少なくとも2つの前記固定点同士を結ぶ線分とが平行とされている燃料電池システム。
【請求項8】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池を収容するケースの換気穴が前記インジェクタと対向する面以外の面に設けられている燃料電池システム。
【請求項9】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記インジェクタが遮音材で覆われている燃料電池システム。
【請求項10】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記インジェクタと前記燃料電池との間に弾性体が設けられている燃料電池システム。
【請求項11】
請求項9又は10記載の燃料電池システムにおいて、
前記インジェクタの少なくとも一部又は前記遮音材の少なくとも一部が前記燃料電池に埋没している燃料電池システム。
【請求項12】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記インジェクタが前記弁体駆動方向を鉛直方向に沿わせて配置されている燃料電池システム。
【請求項13】
請求項12記載の燃料電池システムにおいて、
前記インジェクタのガス入口がガス出口に対して鉛直方向上側に配置されている燃料電池システム。
【請求項14】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記反応ガス配管における前記インジェクタへの入口側配管が当該インジェクタに固定されている燃料電池システム。
【請求項15】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記インジェクタの信号線接続用コネクタが前記燃料電池における当該インジェクタの配置面と平行に設けられている燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−105076(P2009−105076A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33622(P2009−33622)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【分割の表示】特願2006−315927(P2006−315927)の分割
【原出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】