説明

燃料電池システム

【課題】小型化および軽量化が図れ、短時間で安定した電力供給が可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池セル10を含む発電部と、燃料容器とを備え、燃料電池セル10は、電解質膜7、電解質膜7の上面に配置されるカソード極9、電解質膜7の下面に配置されるアノード極8、ならびに、アノード極8の下方に配置され、アノード極8に燃料を供給する経路となる燃料流路13およびアノード極8において生成する反応生成物を排出する経路となる排出流路14が形成されるアノード流路板12を有している。燃料容器には、アノード極8に供給される燃料が貯蔵され、燃料電池システムは、発電部の温度が所定の温度以下の場合には排出流路14に燃料を供給し、発電部の温度が所定の温度より高い場合には排出流路への燃料供給を停止する、制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、特に、直接メタノール型燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化社会を支える携帯電子機器の小型電源として、高い発電効率を有する発電装置が求められており、その可能性を秘めた燃料電池に対して期待が高まっている。燃料電池は、アノード極において、たとえば、水素、メタノール、エタノール、ヒドラジン、ホルマリンおよびギ酸などの燃料を酸化し、カソード極において空気中の酸素を還元する電気化学反応を利用して、携帯電子機器などに電子を供給する化学電池である。
【0003】
プロトン交換したイオン交換膜を電解質膜に用いる固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell;以下、「PEMFC」と称す。)は、100℃以下の低温動作においても高い発電効率が得られる。また、PEMFCは、リン酸型燃料電池および固体酸化物型燃料電池などの高温で動作させる燃料電池に比べて、外部から熱を与える必要がないため、大掛かりな補機類が不要であり小型電源としての実用化の可能性を秘めている。
【0004】
PEMFCに供給される燃料として、高圧ガスボンベに充填された水素ガス、または、改質器により有機液体燃料を分解して得られる水素ガスと二酸化炭素ガスとの混合ガスなどが用いられる。また、燃料としてメタノール水溶液をPEMFCのアノード極に供給し、メタノール水溶液からプロトンおよび電子を直接取り出すことにより発電を行なう燃料電池として、直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell;以下、「DMFC」と称す。)がある。
【0005】
DMFCは、改質器を必要としないため、PEMFC以上に小型化が期待されている。さらに、大気圧下で液体であるメタノール水溶液を燃料として用いるため、燃料を充填する高圧ガスボンベが不要となる。メタノール水溶液は高い体積エネルギ密度を有する燃料であるため、DMFCでは、燃料容器の大きさを小さくすることが可能である。そのため、DMFCに携帯電子機器の小型電源への応用が、特に、携帯電子機器用の2次電池からの代替として期待されている。
【0006】
DMFCにおいては、アノード極側に供給されたメタノールの一部が電解質膜を透過してカソード極側に移動するメタノールクロスオーバ(Methanol Cross-Over;以下、MCOと称す。)が発生する。このMCOはメタノール水溶液の濃度勾配によって生じるため、燃料濃度が高濃度になるほど、MCOによって移動するメタノールの量が増加することが一般的に知られている。
【0007】
MCOが発生すると、発電に寄与せずにメタノールが消費されるため燃料効率が低下するとともに、カソード極の電位が低下してしまう問題がある。よって、DMFCでは、MCOを抑制するため、一般に、3重量%〜10重量%の低濃度のメタノール水溶液が燃料として使用されてきた。
【0008】
DMFCにおいて、発電に適した温度は40℃〜80℃である。そのため、発電開始時など燃料電池が40℃以下の低温状態にある場合は、電子機器などに必要な電力を安定して供給することができない。よって、発電開始時に燃料として低濃度のメタノール水溶液を供給するだけでは、燃料電池の発電部を発電に適した所定の温度まで上昇させるために時間を要し、DMFCが安定して電力を供給できるようになるまでかなりの時間がかかってしまう。
【0009】
DMFCでMCOが発生した場合、カソード極においてメタノールが酸化されるため、酸化熱による発熱が起こり燃料電池の発電部の温度が上昇する。このMCOによる発熱を利用して、短時間で発電部の温度を所定の温度まで上昇させる燃料電池システムを開示した先行文献として、特許文献1および2がある。
【0010】
特許文献1に記載された燃料電池システムでは、低濃度の燃料が貯蔵される燃料容器と高濃度の燃料が貯蔵される燃料容器とが設けられ、発電セルの温度に応じて燃料を供給する燃料容器を切り替えている。特許文献2に記載された燃料電池システムでは、アノード極に供給される燃料が収容される燃料容器と、その燃料容器に補充する燃料が収容される補充容器とが設けられ、発電部の温度が上昇して設定温度との温度差が減少するにしたがって、供給される燃料の濃度を低下させる濃度制御機構が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−4868号公報
【特許文献2】特開2006−286239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の燃料電池システムにおいては、通常の発電時と発電部の昇温時とでは異なる濃度の燃料を供給するため、濃度の異なる燃料が充填される燃料容器がそれぞれ備えられている。そのため、通常の発電時においては不要となる高濃度の燃料が充填される燃料容器を収納するスペースが必要となり、燃料電池システムの小型化および軽量化を図るうえで障害となる。
【0013】
特許文献2に記載の燃料電池システムにおいては、発電部の温度に応じて供給する燃料の濃度を調整する機構が必要である。この燃料濃度調整機構として使用されるポンプなどを配置することにより燃料の供給機構が複雑化するため、燃料電池システムの小型化および軽量化が制限されてしまう。
【0014】
さらに、発電部が所定の温度に上昇した後も、供給する燃料を低濃度の燃料に切り替えた直後は、燃料流路内に高濃度の燃料が残存するためMCOが継続して発生してしまう。そのため、燃料流路内の高濃度の燃料が低濃度の燃料に置換されるまでの間、カソード極の電位が低下するため安定して電力を供給することができない。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、小型化および軽量化が図れ、短時間で安定した電力供給が可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池セルを含む発電部と、燃料容器とを備える。燃料電池セルは、電解質膜、電解質膜の上面に配置されるカソード極、電解質膜の下面に配置されるアノード極、ならびに、アノード極の下方に配置され、アノード極に燃料を供給する経路となる燃料流路およびアノード極において生成する反応生成物を排出する経路となる排出流路が形成されるアノード流路板を有している。燃料容器は、アノード極に供給される燃料が貯蔵される。さらに、燃料電池システムは、発電部の温度が所定の温度以下の場合には排出流路に燃料を供給し、発電部の温度が所定の温度より高い場合には排出流路への燃料供給を停止する、制御手段とを備える。
【0017】
このような構成にすることにより、発電開始時に、燃料電池セルの燃料流路および排出流路の両方に燃料を供給することができるため、短時間で発電部を所定の温度まで昇温させることができる。そのため、高濃度の燃料を貯蔵する燃料容器を別に備える必要がなく、複雑な燃料供給機構も不要であるため、燃料電池システムの小型化および軽量化を図ることができる。さらに、発電部が所定の温度まで昇温された後、短時間で通常の発電状態に切り替えることができ、安定した電力供給が可能になる。
【0018】
また、燃料流路の上部を塞ぐように、アノード流路板とアノード極との間に配置され、燃料を所定の抵抗を有して透過する第1燃料透過層を備えるようにしてもよい。このようにした場合、アノード極への燃料の透過流束を制御できるため、高濃度のメタノール水溶液を燃料として使用することができる。高濃度の燃料を使用することにより、短時間で発電部を所定の温度まで昇温することが可能となる。
【0019】
さらに、第1燃料透過層は、液体のみ浸透させ、燃料流路を気密に保つようにしてもよい。このようにした場合、アノード極で発生した気体の二酸化炭素が燃料流路内に流入することを防ぐことができる。
【0020】
本発明に係る燃料電池システムは、排出流路の上部を塞ぐように、アノード流路板とアノード極との間に配置され、燃料を第1燃料透過層より多く透過させる第2燃料透過層をさらに備えるようにしてもよい。このようにした場合、排出流路からアノード極への燃料の透過流束を制御することができるため、さらに高濃度のメタノール水溶液を燃料として使用することができる。このため、発電部の昇温時間を削減し、通常発電時には高い出力を得ることができる。
【0021】
また、第2燃料透過層が撥水性を有するようにしてもよい。このようにした場合、アノード極において発生した気体の二酸化炭素が第2燃料透過層の表面に集まりやすくなるため、排出流路に二酸化炭素を円滑に排出することができる。その結果、二酸化炭素の排出不良による発電部の出力低下を防ぐことができる。
【0022】
さらに、排出流路の内壁面が撥水性を有するようにしてもよい。このようにした場合、排出流路内に燃料が流入しにくくすることができ、また、排出流路から燃料などの液体の排出を円滑に行なうことができる。この結果、排出流路が液体で占められることによる気体の二酸化炭素の排出不良を防ぐことができ、発電部の出力を維持することが可能となる。
【0023】
本発明に係る燃料電池システムは、同一平面内に所定の間隔をおいて並ぶように配置される複数の燃料電池セルと、燃料電池セルの並ぶ方向に長手方向を有するスペーサ部材とが、交互に積層される燃料電池スタックを含む発電部を備えるようにしてもよい。上記スペーサ部材は、アノード流路板に形成される排出流路と連通し、アノード極において生成する反応生成物を排出する経路となる排出孔を有している。
【0024】
このような構成にした場合、積層される燃料電池セルのカソード極の周囲に空間を形成することができる。この空間に存在する空気がカソード極に効率よく供給されることにより、発電部の出力を高く維持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、アノード極に燃料を供給する流路が2つ備えられ、発電部を昇温させる際は同一の濃度の燃料を2つの流路からアノード極に供給し、通常の発電時には1つの流路のみからアノード極に燃料を供給する。このような構成にすることにより、アノード極に供給される燃料の濃度を変更することなく、アノード極に供給されるメタノール量を調整して発生するMCOを制御することができるため、燃料を蓄える燃料容器を1つにすることが可能となる。よって、複雑な燃料供給機構が不必要となり、燃料電池システムの小型化および軽量化が図れる。
【0026】
さらに、発電部が所定の温度まで昇温し、燃料供給を1つの流路のみに切り替えた直後において、燃料流路内に存在する燃料は通常の発電時の濃度の燃料であるため、MCOの発生を短時間で低減することができる。その結果、燃料電池を安定して電力供給することができる状態に短時間ですることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態1に係る燃料電池システムの構成の一例を示す構成模式図である。
【図2】同実施の形態に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池セルの構造を示す断面模式図である。
【図3】図2のIII−III線矢印方向から見た断面平面図である。
【図4】図2のIV−IV線矢印方向から見た断面平面図である。
【図5】同実施の形態に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池セルにおけるアノード流路板の断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池セルの構造を示す断面模式図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池セルの構造を示す断面模式図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池スタックを示す斜視図である。
【図9】図8のIX−IX線矢印方向から見た一部断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明に基づいた実施の形態における燃料電池システムについて、図を参照しながら説明する。
【0029】
実施の形態1
図1は、本発明の実施形態1に係る燃料電池システムの構成の一例を示す構成模式図である。図1に示すように、本発明の実施の形態1に係る燃料電池システムは、燃料電池セルを含む発電部1と、発電に利用されるメタノール水溶液などの燃料を貯蔵する燃料容器2とを備えている。発電部1には、アノード極へ燃料を供給する経路となる燃料流路の燃料流路入口13Aおよび燃料流路出口13Bが設けられている。さらに、アノード極において生成する二酸化炭素などの反応生成物を排出する経路となる排出流路の排出流路入口14Aおよび排出流路出口14Bが設けられている。
【0030】
また、燃料電池システムは、発電部1に燃料を供給するための燃料ポンプ3、発電部1の温度を測定する温度センサ11、および、排出流路からの排出物を気体成分と液体成分とに分離する気液分離装置4を有している。
【0031】
燃料容器2は、燃料ポンプ3を経由して発電部1の燃料流路入口13Aおよび排出流路入口14Aに接続されている。燃料ポンプ3が駆動することにより、燃料容器2内のメタノール水溶液が発電部1に供給される。発電部1の燃料流路出口13Bは燃料容器2と直接接続され、発電部1の排出流路出口14Bは気液分離装置4を経由して燃料容器2と接続されている。
【0032】
燃料流路において反応しなかった未反応メタノール水溶液は、燃料流路出口13Bから燃料容器2へ戻される。排出流路において反応しなかった未反応メタノール水溶液は、二酸化炭素などの反応生成物とともに排出流路出口14Bから気液分離装置4に送られる。気液分離装置4では、二酸化炭素などの気体成分と、メタノール水溶液などの液体成分とが分離される。分離された気体成分は、気液分離装置4から外部につながる配管を通じて放出され、液体成分は、燃料容器2に戻される。
【0033】
さらに、燃料電池システムは、燃料ポンプ3と発電部1の排出流路入口14Aとをつなぐ配管の開閉を行なうバルブ6と、温度センサ11の測定値に応じてバルブ6に開閉の指示を送る制御装置5とを含む制御手段を備えている。制御手段は、発電部1の温度が所定の温度以下の場合には排出流路に燃料を供給し、発電部1の温度が所定の温度より高い場合には排出流路への燃料供給を停止する。
【0034】
図2は、本実施の形態に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池セルの構造を示す断面模式図である。燃料電池セルとは、燃料電池を構成する1ユニットである。発電部1では、必要な出力電圧に応じて、複数の燃料電池セルが平面的に配列、または、垂直方向に積層されて電気的に直列に接続される。
【0035】
図2に示すように、燃料電池セル10は、電解質膜7、この電解質膜7の上面に配置されるカソード極9、電解質膜7の下面に配置されるアノード極8で構成される膜電極複合体を有している。また、アノード極8の下方に配置され、アノード極8に燃料を供給する経路となる燃料流路13、および、アノード極8において生成する反応生成物を排出する経路となる排出流路貫通孔15が形成される第1アノード流路板12Aを有している。第1アノード流路板12Aの下面に、排出流路貫通孔15と連通して、アノード極8において生成する反応生成物を排出する経路となる排出流路14が形成される第2アノード流路板12Bが配置される。アノード流路板12は、第1アノード流路板12Aおよび第2アノード流路板12Bを含む。
【0036】
さらに、カソード極9の上面に配置され、空気を供給するための経路となる開口17が形成されるカソード集電層16を有している。燃料電池セルには、必要に応じて、他の構成部品が付加されてもよい。
【0037】
以下、本実施の形態に係る燃料電池システムの構成部材について詳細に説明する。
電解質膜7は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する高分子膜、無機膜またはコンポジット膜で形成されるのが好ましい。高分子膜として、たとえば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜であるデュポン社製のNAFION(登録商標)、ダウ・ケミカル社製のダウ膜、旭化成社製のACIPLEX(登録商標)、旭硝子社製のフレミオン(登録商標)などを使用してもよい。その他にも、ポリスチレンスルホン酸またはスルホン化ポリエーテルエーテルケトンなどの炭化水素系電解質膜などを高分子膜として使用してもよい。無機膜として、たとえば、リン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸またはポリリン酸アンモニウムなどを使用してもよい。コンポジット膜として、たとえば、ゴア社製のゴアセレクト(登録商標)を使用してもよい。
【0038】
アノード極8は燃料の酸化反応を促進する触媒を備えている。アノード極8では、触媒存在下で燃料が酸化反応を起こすことにより、プロトンおよび電子が生成される。カソード極9は、酸化剤の還元反応を促進する触媒を備えている。カソード極9では、触媒存在下で酸化剤がプロトンおよび電子と結合する還元反応が起きる。
【0039】
アノード極8を、たとえば、触媒を担持したアノード担持体および電解質を含むアノード触媒層と、アノード触媒層上に積層されたアノード多孔質基材との積層体として構成してもよい。同様に、カソード極9を、たとえば、触媒を担持したカソード担持体および電解質を含むカソード触媒層と、カソード触媒層上に積層されたカソード多孔質基材との積層体として構成してもよい。
【0040】
アノード多孔質基材およびカソード多孔質基材が設けられる場合、アノード多孔質基材は、アノード極8のアノード流路板12側に配置され、カソード多孔質基材は、カソード極9のカソード集電層16側に配置される。
【0041】
アノード極8をこのような構成にした場合、アノード触媒層は、燃料である、たとえばメタノールおよび水から、プロトンおよび電子を生成する酸化反応を促進させる機能を有している。電解質は、生成したプロトンを電解質膜7へ伝導する機能を有している。アノード担持体は、生成した電子をアノード多孔質基材へ伝導する機能を有している。また、アノード多孔質基材は、メタノールおよび水をアノード触媒層へ供給することができる空隙を有し、また、アノード担持体からアノード流路板へ電子を伝導する機能を有している。
【0042】
一方、カソード極9において、カソード触媒層は、酸素、プロトンおよび電子が結合して水を生成する還元反応を促進する機能を有している。電解質は、電解質膜からカソード触媒層の近傍にプロトンを伝導する機能を有している。カソード担持体は、カソード多孔質基材からカソード触媒層に電子を伝導する機能を有している。カソード多孔質基材は、酸素をカソード触媒層へ供給することができる空隙を有し、カソード集電層からカソード触媒層へ電子を伝導する機能を有している。
【0043】
なお、上述の通り、アノード担持体およびカソード担持体は電子伝導の機能を有しているが、触媒も電子伝導性を有しているため、必ずしも担持体を設ける必要はない。また、アノード多孔質基材およびカソード多孔質基材も必ずしも設ける必要はなく、多孔質基材を設けない場合、アノード触媒層およびカソード触媒層は電解質膜に直接形成され、アノード触媒層はアノード流路板と、カソード触媒層はカソード集電層とそれぞれ電子の授受を行なうことになる。
【0044】
アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒としては、たとえば、Pt,Ru,Au,Ag,Rh,Pd,Os,Irなどの貴金属、Ni,V,Ti,Co,Mo,Fe,Cu,Zn,Sn,W,Zrなどの卑金属、あるいは、これらの貴金属および卑金属の酸化物、炭化物、炭窒化物、または、カーボンなどを使用してもよい。これらの材料は、単体もしくは2種類以上組み合わせたものを触媒として用いることができる。アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒は、必ずしも同種類のものに限定されず、異なる物質を用いてもよい。
【0045】
アノード極8およびカソード極9に用いられる担持体は、電気伝導性の高い炭素系材料であることが好ましく、たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブおよびカーボンナノホーンなどを用いてもよい。また、炭素系材料の他に、Pt,Ru,Au,Ag,Rh,Pd,Os,Irなどの貴金属、Ni,V,Ti,Co,Mo,Fe,Cu,Zn,Sn,W,Zrなどの卑金属、あるいは、これらの貴金属および卑金属の酸化物、炭化物、窒化物、炭窒化物などを使用してもよい。これらの材料は、単体もしくは2種類以上組み合わせたものを担持体として用いることができる。また、プロトン伝導性を付与した材料、具体的には、硫酸化ジルコニアまたはリン酸ジルコニウムなどを担持体として用いてもよい。
【0046】
アノード極8に用いられるアノード担持体は、親水性であることが好ましい。このようにすると、アノード触媒層がメタノール水溶液をその細孔内に保持するため、燃料およびプロトンが拡散しやすくなり、アノード極8における酸化反応が促進される。また、排出流路貫通孔15および排出流路14に存在する酸素がアノード極8に進入した際、アノード触媒層の表面に保持されるメタノール水溶液により酸素の拡散が妨げられ、アノード触媒層まで到達する酸素の量を少なくすることもできる。その結果、酸素がアノード触媒層で反応することにより生じる燃料電池の出力低下を防ぐことができる。
【0047】
アノード担持体を親水化する方法しては、アノード担持体の表面をカルボキシル基またはヒドロキシル基などの親水性の官能基で修飾させる方法が好ましい。具体的には、カーボンのグラフト重合による表面修飾、または、シランカップリング剤による表面修飾などにより、親水性の官能基で修飾することができる。
【0048】
アノード極8およびカソード極9に用いられる電解質は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されないが、メタノールなどの燃料によって溶解しない固体もしくはゲルであることが好ましい。具体的には、スルホン酸基あるいはリン酸基などの強酸基、または、カルボキシル基などの弱酸基を有する有機高分子材料で形成されるのが好ましい。
【0049】
このような有機高分子材料として、スルフォン酸基含有パーフルオロカーボンであるデュポン社製のNafion(登録商標)、カルボキシル基含有パーフルオロカーボンである旭化成社製のフレミオン(登録商標)、ポリスチレンスルホン酸共重合体、ポリビニルスルホン酸共重合体、イオン性液体(常温溶融塩)、スルホン化イミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などを使用してもよい。また、上述のプロトン伝導性を付与した担持体を用いる場合には、この担持体がプロトン伝導を行なうため、必ずしも電解質は必要ではない。
【0050】
アノード触媒層は、プロトン伝導の抵抗およびメタノールなどの燃料の拡散抵抗を低減するために、0.2mm以下の厚さで形成されるのが好ましい。カソード触媒層は、電子伝導の抵抗および酸素などの酸化剤の拡散抵抗を低減するために、0.2mm以下の厚さで形成されるのが好ましい。また、燃料電池としての出力を向上させるために、十分な触媒を担持させる必要があり、アノード触媒層およびカソード触媒層は、少なくとも0.1μm以上の厚さで形成されるのが好ましい。
【0051】
アノード多孔質基材およびカソード多孔質基材は、導電性の材料で形成されるのが好ましい。たとえば、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属発泡体、金属焼結体、金属繊維の不織布などを使用してもよい。金属発泡体、金属焼結体、金属繊維の不織布の材料として、Pt,Ru,Au,Ag,Rh,Pd,Os,Irなどの貴金属、Ni,V,Ti,Co,Mo,Fe,Cu,Zn,Sn,W,Zrなどの卑金属、および、これらの貴金属または卑金属の酸化物、炭化物、窒化物、炭窒化物などの金属材料を用いてもよい。
【0052】
また、多孔質基材として、金属発泡体や金属焼結体などの電気抵抗が比較的低い材料を用いた場合、多孔質基材を集電層として用いることができる。多孔質基材を集電層として用いる場合、アノード集電層およびカソード集電層16を別途設ける必要はなく、アノード流路板12とアノード極8との電子の授受を行なう必要もない。
【0053】
図3は、図2のIII−III線矢印方向から見た断面平面図である。図4は、図2のIV−IV線矢印方向から見た断面平面図である。アノード流路板12は、第1アノード流路板12Aの下面に第2アノード流路板12Bを積層することによって構成される。図3に示すように、第1アノード流路板12Aは、燃料を供給する経路となる燃料流路13およびアノード極8において生成する反応生成物を排出する経路となる排出流路貫通孔15を備えている。
【0054】
燃料流路13は、発電部1の燃料流路入口13Aおよび燃料流路出口13Bと連通し、排出流路貫通孔15は、第1アノード流路板12Aを層厚方向に貫通している。第2アノード流路板12Bは、発電部1の排出流路入口14Aおよび排出流路出口14Bならびに第1アノード流路板12Aの排出流路貫通孔15と連通し、アノード極8において生成する反応生成物を排出する経路となる、排出流路14を備えている。
【0055】
図5は、本実施の形態に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池セルにおけるアノード流路板の断面図である。図5に示すように、アノード流路板12は、第1アノード流路板12Aの全ての排出流路貫通孔15が第2アノード流路板12Bの排出流路14に連通し、燃料流路13が上面に位置するように、第1アノード流路板12Aと第2アノード流路板12Bとが対向して積層される。
【0056】
燃料であるメタノール水溶液は、燃料流路13を通ってアノード極8に供給される。アノード極8において生成する二酸化炭素などの反応生成物は、第1アノード流路板12Aの排出流路貫通孔15から第2アノード流路板12Bの排出流路14を通って、排出流路出口14Bから発電部1の外部に排出される。
【0057】
アノード流路板12は、燃料流路13ではメタノール水溶液などの燃料を、排出流路14では二酸化炭素などの反応生成物を流路内で流動させるため、メタノールおよび二酸化炭素に対して非透過性を有することが好ましい。さらに、アノード流路板12は、メタノールなどの燃料に対して耐性を有し、アノード極8と電子の授受を行なう導電性を有することが好ましい。
【0058】
このような特性を有する材料として、カーボン材料、導電性高分子、Au,Pt,Pdなどの貴金属、Ti,Ta,W,Nb,Ni,Al,Cr,Ag,Cu,Zn,Suなどの金属、Si、および、これらの窒化物、炭化物、炭窒化物など、さらに、ステンレス、Cu−Cr系、Ni−Cr系、Ti−Pt系の合金などを使用してアノード流路板12を形成してもよい。
【0059】
より好ましくは、Pt,Ti,Au,Ag,Cu,NiおよびWからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の元素を含む材料を使用してアノード流路板12を形成するのが好ましい。これらの元素を含むことにより、アノード流路板12の比抵抗が小さくなるため、アノード流路板12の抵抗による電圧低下を軽減し、燃料電池の発電能力を高めることができる。
【0060】
アノード流路板12を形成する材料に、Cu,Ag,Znなどの、酸性雰囲気下で耐腐食性が乏しい金属を用いる場合には、Au,Pt,Pdなどの耐腐食性を有する貴金属などの金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物または導電性酸化物などを表面にコーティングして用いてもよい。
【0061】
また、アノード極8とアノード流路板12との間に、図示しないアノード集電層を配置し、アノード集電層とアノード極8とで電子の授受をさせるようにしてもよい。このようにした場合、アノード流路板12に非導電性材料を用いることが可能となり、たとえば、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂あるいはポリエーテルスルホン樹脂、または、耐熱性を有するポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂あるいはテフロン(登録商標)樹脂を用いてもよい。
【0062】
燃料流路13および排出流路14の形状は特に制限されず、その断面形状は、たとえば図2に示すように、四角形でもよい。燃料流路13および排出流路14の幅および深さは、第1アノード流路板12Aとアノード極8との接触面積などを考慮して適宜決定され、0.1〜1mmの幅および深さで形成されるのが好ましい。
【0063】
排出流路貫通孔15の形状は特に制限されず、その断面形状は、たとえば図3に示すように、円形でもよい。貫通孔の直径は、第1アノード流路板12Aとアノード極8との接触面積などを考慮して適宜決定され、0.05〜1mmの直径で形成されるのが好ましい。
【0064】
カソード集電層16は、カソード極9へ空気を供給するための複数の開口17を備えている。開口17は、発電部1の外部と通じており、大気中の酸素が開口17を通してカソード極9へ供給される。
【0065】
カソード集電層16は、アノード流路板12と同様の材質を用いて形成することができる。たとえば、カーボン材料、導電性高分子、Au,Pt,Pdなどの貴金属、Ti,Ta,W,Nb,Ni,Al,Cr,Ag,Cu,Zn,Suなどの金属、Si、および、これらの窒化物、炭化物、炭窒化物など、さらに、ステンレス、Cu−Cr系、Ni−Cr系、Ti−Pt系の合金などを使用してカソード集電層16を形成してもよい。
【0066】
より好ましくは、Pt,Ti,Au,Ag,Cu,NiおよびWからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の元素を含む材料を使用してカソード集電層16を形成するのが好ましい。これらの元素を含むことにより、カソード集電層16の比抵抗が小さくなるため、カソード集電層16の抵抗による電圧低下を軽減し、燃料電池の発電能力を高めることができる。
【0067】
カソード集電層16を形成する材料に、Cu,Ag,Znなどの、酸性雰囲気下で耐腐食性が乏しい金属を用いる場合には、Au,Pt,Pdなどの耐腐食性を有する貴金属などの金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物または導電性酸化物などを表面にコーティングして用いてもよい。
【0068】
また、アノード集電層を設ける場合は、アノード集電層は、燃料流路13と連通する開口を備え、燃料流路13内のメタノール水溶液をアノード極8へ供給する機能を有し、カソード集電層16と同様の材料を用いて形成されてもよい。
【0069】
燃料容器2は、内部にメタノール水溶液などの燃料が収容され、燃料ポンプ3が駆動することによって、燃料容器2内のメタノール水溶液が発電部1へ供給される。発電部1で反応しなかった未反応メタノール水溶液が、発電部1から燃料容器2へ排出されることにより、メタノール水溶液が循環供給される。
【0070】
また、燃料容器2内に収容されているメタノール水溶液は、通常発電時に適した濃度に調整されている。通常発電とは、発電部1の温度が所定の温度より高くなっている状態で、燃料電池システムに接続されている図示しない電子機器を動作させるために、発電を行なっている状態のことである。
【0071】
燃料容器2を形成する材料は、燃料に対して非透過性であれば特に限定されない。たとえば、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂またはテフロン(登録商標)樹脂などを用いて燃料容器2を形成してもよい。
【0072】
温度センサ11は、発電部1の温度を測定し、バルブ6に信号を送る制御装置5と接続されている。用いられる温度センサは特に限定されるものではなく、測定対象となる発電部1によって適宜変更される。DMFCの場合、発電部1が40℃から80℃程度まで上昇するため、温度センサ11はこの温度を超えても十分に測定することができるものであればよい。
【0073】
温度センサ11の測定位置は、発電部1の表面または内部の温度を測定することができれば、特に限定されない。好ましくは、発電部1の中心付近に位置する燃料電池セルのアノード流路板12の温度を測定することが好ましい。この温度センサ11によって、発電部1の温度が測定され、その測定温度によって、制御装置5からバルブ6に配管の開閉を行なわせる信号が送られる。
【0074】
制御装置5は、発電部1に設けられる温度センサ11により測定された温度を読み取り、バルブ6の制御を行なうことができる。制御装置5は、温度センサ11の測定値が所定の温度以下であれば、配管を開く指示をバルブ6へ送り、温度センサ11の測定値が所定の温度より高ければ、配管を閉じる指示をバルブ6へ送ることで、燃料の排出流路14を経由した供給を管理する。
【0075】
気液分離装置4は、発電部1の排出流路出口14Bと燃料容器2との間に設けられる。発電部1の排出流路出口14Bから排出されるメタノール水溶液および反応生成物が、気液分離装置4へ送られる。メタノール水溶液および反応生成物は、気液分離装置4により液体成分と気体成分とに分離される。分離された液体成分は燃料容器2に戻され、気体成分は燃料電池システムの外部に排出される。
【0076】
次に、発電部1の温度が所定の温度以下である状態から通常発電に移行するまでの、本実施の形態に係る燃料電池システムの動作について説明する。
【0077】
発電前の状態においては、発電部1の温度は室温と同等であるため、温度センサ11の測定値は所定の温度以下であり、制御装置5からバルブ6に配管を開放する信号が送信される。信号を受けてバルブ6が開くことにより、燃料ポンプ3と発電部1の排出流路入口14Aとを接続する配管が通じた状態となる。
【0078】
燃料電池システムを作動させ、燃料ポンプ3が駆動すると、燃料容器2内のメタノール水溶液が発電部1の燃料流路13および排出流路14へ供給され、発電部1で発電が開始される。発電部1に供給されたメタノール水溶液の一部は、MCOによりカソード極9へ移動し、大気中からカソード極9に供給された酸素とカソード極9のカソード触媒層上で反応する。この反応により発熱が起こり、発電部1が昇温する。
【0079】
発電部1に配置された温度センサ11の測定値が所定の温度より高くなると、温度センサ11に接続された制御装置5からバルブ6に配管を閉じる信号が送信される。信号を受けてバルブ6が閉じることにより、排出流路14へのメタノール水溶液の供給が止まる。このとき、排出流路14内に存在するメタノール水溶液は、発電によって生成した二酸化炭素とともに排出流路出口14Bから発電部1の外部に排出される。
【0080】
本実施の形態に係る燃料電池システムにおける発電部1では、燃料流路13および排出流路14に燃料を供給することにより、燃料流路13のみに燃料を供給した場合と比較して、MCOを多く発生させて、発電部1における発熱量を増加させることができる。そのため、発電部1を短時間で昇温させることができる。
【0081】
よって、本発明の燃料電池システムでは、アノード極に供給される燃料の濃度を変更することなく、アノード極に供給されるメタノール量を調整して発生するMCOを制御することができるため、燃料を蓄える燃料容器を1つにすることが可能となる。よって、複雑な燃料供給機構が不必要となり、燃料電池システムの小型化および軽量化が図れる。
【0082】
さらに、発電部が所定の温度まで昇温し、燃料供給を1つの流路のみに切り替えた直後において、燃料流路内に存在する燃料は通常の発電時の濃度の燃料であるため、MCOの発生を短時間で低減することができる。その結果、燃料電池を安定して電力供給することができる状態に短時間ですることが可能となる。
【0083】
実施の形態2
図6は、本発明の実施の形態2に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池セルの構造を示す断面模式図である。図6に示すように、本実施の形態に係る燃料電池セル18は、燃料流路13の上部を塞ぐように、アノード流路板12とアノード極8との間に配置され、燃料を所定の抵抗を有して透過する第1燃料透過層19をさらに備えている。第1燃料透過層19以外の構成については、実施の形態1と同一であるため、説明を省略する。さらに、第1燃料透過層19は、液体のみ浸透させて燃料の透過流束を制限し、その厚さ方向に気体の通過を妨げて燃料流路13を気密に保つ機能を有するようにしてもよい。ここで、透過流束とは、燃料が透過層を透過する速度を透過層の面積で除したものをいう。
【0084】
第1燃料透過層19を備えることにより、燃料流路13からアノード極8に透過する燃料の透過流束を制限することができる。このため、メタノール水溶液のMCOを抑制することができ、燃料として高濃度のメタノール水溶液を使用しても、発電部1が過剰に発熱することを防ぐことができる。
【0085】
高濃度のメタノール水溶液を燃料として使用すると、発電部1が所定の温度以下の状態にあって排出流路14に燃料が供給された場合に、MCOが急激に起こるため短時間で発電部1を昇温させることができる。また、発電部1が所定の温度より高くなって、排出流路14からの燃料供給を停止した後の通常発電時においても高い出力を得ることができる。さらに、貯蔵する燃料の量を減らすことができるため、燃料容器2の小型化を図ることもできる。
【0086】
第1燃料透過層19は、層の表裏を連通する孔を有さない非多孔性物質で形成されることが好ましい。第1燃料透過層19が非多孔性物質で形成される場合、第1燃料透過層19は気体の通過を妨げる機能を有する。そのため、燃料流路13を気密に保つことができ、アノード極8で生成する二酸化炭素などの気体の反応生成物が燃料流路13内に流入することを防ぐことができる。よって、二酸化炭素などの気体の反応生成物は排出流路へ集中的に排出され、発電部1が所定の温度まで昇温した後に排出流路14に存在するメタノール水溶液は、気体の流れとともに円滑に排出される。この結果、発電部1が所定の温度まで昇温した後、発生するMCOが短時間で減少するため、通常発電への切り替え時間を短縮することが可能となる。
【0087】
また、二酸化炭素が燃料流路13に流入しないことにより、燃料を安定してアノード極8に供給することができる。これにより、燃料流路13に二酸化炭素が溜まって、メタノール水溶液のアノード極8への供給が阻害されることによる燃料電池セル18の出力が低下することを防ぐことができる。
【0088】
燃料電池セルの製造工程において、アノード極8の上面にアノード流路板12を加圧積層する際に、燃料流路13の深さが浅い場合には、燃料流路13がアノード極8を形成している材料により埋められる恐れがある。そのため、燃料流路13の深さを確保できるようにアノード流路板12を厚く形成しなければならず、燃料電池セル18の小型化を妨げていた。
【0089】
燃料電池セル18は、燃料流路13の上部を塞ぐように第1燃料透過層19を備えることにより、積層工程において燃料流路13にアノード極8を形成する材料が埋められることを防ぐことができる。その結果、アノード流路板12を厚くする必要がなく、燃料電池セルの小型化を図ることができる。
【0090】
第1燃料透過層19は、上記のとおり、その厚さ方向に燃料の拡散抵抗を有し、燃料の透過流束を制限する機能を有し、より好ましくは、気体を透過しない材料で形成される。第1燃料透過層19は、これらの機能を有していれば形状面において特に限定されず、たとえば、その厚さ方向に貫通した微細孔が設けられて燃料の透過機能を有するようにしてもよい。
【0091】
燃料にメタノール水溶液を使用する場合、第1燃料透過層19は、高分子膜、無機膜またはコンポジット膜で形成されることが好ましい。高分子膜として、たとえば、シリコンゴム、パーフルオロスルホン酸系電解質膜であるデュポン社製のNAFION(登録商標)、ダウ・ケミカル社製のダウ膜、旭化成社製のACIPLEX(登録商標)、旭硝子社製のフレミオン(登録商標)、または、スルホン化ポリイミド、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンなどの炭化水素系電解質膜などを使用してもよい。無機膜として、たとえば、多孔質ガラス、多孔質ジルコニア、多孔質アルミナなどを使用してもよい。コンポジット膜として、たとえば、ゴア社製のゴアセレクト(登録商標)を使用してもよい。
【0092】
また、第1燃料透過層19は、感光性樹脂で形成されてもよい。感光性樹脂としては、耐酸性および耐メタノール性を有するネガ型の感光性樹脂が好ましい。たとえば、エポキシ系感光性樹脂、ポリイミド系感光性樹脂、ポリアクリル系感光性樹脂などを使用してもよい。
【0093】
第1燃料透過層19を感光性樹脂で形成する場合は、フォトリソグラフィなどを用いることにより、数10〜数100μm程度の幅で、数10〜数100μm程度の微細なピッチで形成されている燃料流路13に対しても、第1燃料透過層19をパターニングすることができる。このようにすることにより、第1アノード流路板12Aの表面において燃料流路13の上部のみに第1燃料透過層19を容易に形成することができる。その結果、アノード極8と第1アノード流路板12Aとの間の導電経路を広く確保して接触抵抗を低減し、電圧低下を防ぐことができる。
【0094】
排出流路14および排出流路貫通孔15の内壁面は、撥水性を有することが好ましい。排出流路14および排出流路貫通孔15の内壁面が撥水性を有することによって、排出流路14から燃料などの液体が排出しやすくなる。その結果、排出流路14の内部に液体が存在することによって起こる、気体の反応生成物の排出不良を防ぐことができる。
【0095】
また、排出流路14および排出流路貫通孔15の内壁面が撥水性を有することによって、燃料流路13から供給されたメタノール水溶液が排出流路14の内部へ流入することを防ぐこともできる。内壁面の撥水処理は、フッ素樹脂などの撥水性材料含有物の塗布、プラズマグラフト重合処理、イオンビーム改質処理または電子線照射処理などによって行なうことができる。
【0096】
実施の形態3
図7は、本発明の実施の形態3に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池セルの構造を示す断面模式図である。図7に示すように、本実施の形態に係る燃料電池セル20は、排出流路貫通孔15の上部を塞ぐように、アノード流路板12とアノード極8との間に配置され、燃料を第1燃料透過層19より多く透過させる第2燃料透過層21を備える。第2燃料透過層21以外の構成については、実施の形態2と同一であるため、説明を省略する。
【0097】
第2燃料透過層21は、第1燃料透過層19と同様に、その厚さ方向に燃料の拡散抵抗を有し、燃料の透過流束を制限する機能を有する。また、第2燃料透過層21は、アノード極8において生成される気体の反応生成物も透過させる。
【0098】
一般的に、濃度が40重量%以上の高濃度メタノール水溶液をアノード極8へ直接供給した場合、過剰な発熱やアノード触媒層中の電解質の溶出が起こり、膜電極複合体が劣化してしまう。しかし、燃料電池セル20では、40重量%以上の高濃度のメタノール水溶液を燃料に用いても、第1燃料透過層19および第2燃料透過層21によってアノード極8への燃料の透過流束が制限される。よって、燃料流路13および排出流路14を流れる燃料中のメタノールがMCOによりカソード極9側へ移動することを抑制することができる。
【0099】
その結果、高濃度の燃料を使用することによる過剰な発熱およびアノード触媒層中の電解質の溶出を防ぐことができる。発電部1が所定の温度以下である場合、高濃度のメタノール水溶液が排出流路14に供給される。排出流路14に配置される第2燃料透過層21は第1燃料透過層19よりも多くの燃料を透過するため、排出流路14から、より多くのメタノールがアノード極8に拡散し、MCOが急激に起こって発電部1が短時間で昇温される。また、発電部1が所定の温度より高くなって、排出流路14からの燃料供給を停止した後の通常発電時においても高い出力を得ることができる。さらに、40重量%以上の高濃度のメタノール水溶液を燃料として使用するため、貯蔵する燃料の量を減らすことができ、燃料容器2の小型化を図ることもできる。
【0100】
第2燃料透過層21は、上記のとおり、その厚さ方向に燃料の拡散抵抗を有し、燃料の透過流束を制限する機能を有し、第1燃料透過層19よりも多く燃料および気体の反応生成物を透過する材料で形成される。第2燃料透過層21は、このような機能を有していれば特に形状は限定されず、たとえば、その厚さ方向に連通した微細孔が形成されて、気体の反応生成物および燃料を透過する機能を有するようにしてもよい。第2燃料透過層21の材質として、ポリプロピレンやPTFE(Polytetrafluoroethylene)などの高分子樹脂、セラミックまたはカーボンなどを使用してもよい。
【0101】
また、第1燃料透過層19と同様に、第2燃料透過層21を感光性樹脂を用いて形成してもよい。感光性樹脂として、耐酸性および耐メタノール性を有するネガ型の感光性樹脂が好ましく、たとえば、エポキシ系感光性樹脂、ポリイミド系感光性樹脂、ポリアクリル系感光性樹脂などを使用してもよい。
【0102】
第2燃料透過層21を感光性樹脂で形成する場合は、フォトリソグラフィなどを用いることにより、数10〜数100μm程度の幅で、数10〜数100μm程度の微細なピッチで形成されている燃料流路に対しても、第2燃料透過層21をパターニングすることができる。このようにすることにより、第1アノード流路板12Aの表面において排出流路貫通孔15の上部のみに第2燃料透過層21を容易に形成することができる。その結果、アノード極8と第1アノード流路板12Aとの間の導電経路を広く確保して接触抵抗を低減し、電圧低下を防ぐことができる。
【0103】
また、第2燃料透過層21は撥水性を有することが好ましく、たとえば、PTFEまたはPVDF(Polyvinylidenfluolide)などの多孔体で形成されてもよい。また、第2燃料透過層21は、撥水性を有する材料と導電性を有する材料との混合物を含む材料で形成されることが好ましい。このようにすることにより、アノード極8と第1アノード流路板12Aとの間の電気抵抗を低減させることができる。混合物として、たとえば、PTFEまたはPVDFなどのフッ素系高分子と、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブまたはカーボンナノホーンなどとの混合物を使用してもよい。
【0104】
撥水性材料と導電性材料との混合物のみから第2燃料透過層21を形成してもよいが、構造安定性の観点から、これらの混合物をカーボンまたはPTFEなどの多孔体に保持させて第2燃料透過層21を形成することが好ましい。第2燃料透過層21に撥水性を有させることによって、燃料透過流速の制限を行ないつつ、気体の反応生成物の排出性を高めることができる。その結果、アノード極8での気体の反応生成物の排出不良を防ぎ、燃料電池セルの出力を高く維持することができる。
【0105】
実施の形態4
図8は、本発明の実施の形態4に係る燃料電池システムの発電部に含まれる燃料電池スタックを示す斜視図である。図8に示すように、本実施の形態に係る燃料電池スタック22は、同一平面内に所定の間隔をおいて並ぶように配置される複数の燃料電池セル23と、燃料電池セル23の並ぶ方向に長手方向を有するスペーサ部材24とが、交互に積層される。
【0106】
図9は、図8のIX−IX線矢印方向から見た一部断面模式図である。図9に示すように、燃料電池スタック22を構成する燃料電池セル23は、電解質膜7、この電解質膜7の上面に配置されるカソード極9、電解質膜7の下面に配置されるアノード極8で構成される膜電極複合体を有している。
【0107】
また、アノード極8の下方に配置され、アノード極8に燃料を供給する経路となる燃料流路13、および、アノード極8において生成する反応生成物を排出する経路となる排出流路貫通孔26が形成されるアノード流路板25を有している。さらに、カソード極9の上面に配置され、空気を供給するための経路となる開口17が形成されるカソード集電層16を有している。燃料電池セル23には、必要に応じて、他の構成部品が付加されてもよい。
【0108】
スペーサ部材24は、アノード流路板25に形成される排出流路貫通孔26と連通し、アノード極8において生成する反応性生物を排出する経路となる排出孔27を有している。排出孔27は、発電部1の排出流路入口14Aおよび排出流路出口14Bと連通している。また、スペーサ部材24を挟んで積層される燃料電池セル23同士は、アノード流路板25とカソード集電層16とが対向するように積層される。
【0109】
このような構成にすることによって、積層される燃料電池セル23のカソード集電層16の周囲に空間を形成することができる。この空間に存在する空気がカソード集電層16の開口17からカソード極9に効率よく供給されることにより、発電部1の出力を高く維持することができる。このため、排出孔27を備える流路板とカソード極9へ酸素を供給するための空間を確保する空間確保部材を別々に備える必要がないため、燃料電池スタック22の小型化および軽量化を図ることができる。
【0110】
さらに、同一平面内の燃料電池セル23同士間の隙間、および、積層された燃料電池セル23同士間の空間が3次元的につながっているため、空気の循環が円滑に行なわれる。よって、燃料電池スタック22の内部に存在する空気を、自然対流または拡散によって燃料電池セル23の内部に円滑に供給することができる。
【0111】
また、発電によって酸素が消費された空気は、対流により燃料電池スタック22の側面または下面から流入する外部の空気と入れ替えられるため、エアポンプまたはファンなどの補機を必ずしも必要としない。よって、燃料電池スタック22を用いた燃料電池システムの小型化を図ることができる。仮に、エアポンプまたはファンなどの補機を用いる場合においても、燃料電池セル23の内部まで空気を供給するために必要な電力を低減させることができるため、補機の小型化が図れる。本実施形態に係る燃料電池セル23の他の構成については、実施の形態2と同様であるため、説明を省略する。
【0112】
スペーサ部材24を形成する材料は、燃料電池スタック22に外力が加わった際に、積層された燃料電池セル23同士の間の空間を確保できる強度を有する材料であれば特に限定されないが、導電性を有する材料であることが好ましい。スペーサ部材24が導電性材料で形成されることにより、外部配線を用いることなく、燃料電池セル23同士を電気的に直列に接続することができる。そのため、配線に要するスペースを削減することができ、燃料電池スタックの小型化を図ることができる。
【0113】
スペーサ部材24の好適な材質として、アノード集電層と同様の材質を用いることができる。たとえば、カーボン材料、導電性高分子、Au,PtまたはPdなどの貴金属、Ti,Ta,W,Nb,Ni,Al,Cr,Ag,Cu,ZnまたはSuなどの金属、Si、およびこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物など、さらに、ステンレス、Cu−Cr系、Ni−Cr系、Ti−Pt系合金などを使用してもよい。より好ましくは、Pt,Ti,Au,Ag,Cu,NiおよびWからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む材料でスペーサ部材24が形成されることが好ましい。
【0114】
これらの元素を含む材料でスペーサ部材24が形成されることにより、スペーサ部材24の比抵抗が小さくなるため、スペーサ部材24の電気抵抗による電圧低下を軽減し、より高い発電能力を得ることができる。スペーサ部材24を形成する材料に、Cu,Ag,Znなどの、酸性雰囲気下で耐腐食性が乏しい金属を用いる場合には、Au,Pt,Pdなどの耐腐食性を有する貴金属などの金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物または導電性酸化物などを表面にコーティングして用いてもよい。このようにして、スペーサ部材24の耐食性を確保することにより、燃料電池セル23および燃料電池スタック22の耐用期間を延ばすことができる。
【0115】
スペーサ部材24の形状は特に限定されないが、積層される燃料電池セル23同士の空間を均一に安定して確保するため、平面的に見て、燃料電池セル23の短辺の全体と接触できる長さを有する柱状であることが好ましい。スペーサ部材24の厚さ方向の断面形状は特に限定されないが、たとえば、楕円形または四角形などで形成されてもよい。
【0116】
スペーサ部材24が導電性材料で形成され、スペーサ部材24が電気的接続の役割を果たす場合は、スペーサ部材24の形状は直方体であることが好ましい。スペーサ部材24の形状を直方体とすることによって、スペーサ部材24とこれに接触する燃料電池セル23とを面接触させることができる。この結果、接触面積を確保することができ、スペーサ部材24と燃料電池セル23との間における電気的な接触抵抗を低減させることができる。
【0117】
スペーサ部材24の幅は、アノード流路板25の排出流路貫通孔26の孔径によって適宜決定されるが、燃料電池スタック22の構造強度を保つために、0.5mm以上であることが好ましい。一方、燃料電池スタック22内の空間を確保して燃料電池セル23に円滑に酸素供給が行なわれやすくするためには、スペーサ部材24の幅が5mm以下であることが好ましい。
【0118】
スペーサ部材24の厚さは、燃料電池スタック22内の空間を確保して燃料電池セル23に円滑に酸素供給が行なわれやすくするために、0.1mm以上であることが好ましい。一方、燃料電池スタック22の大型化を防ぐために、スペーサ部材24の厚さは、5mm以下であることが好ましい。さらには、スペーサ部材24の厚さが、0.2mm以上1mm以下であることがより好ましい。同一の平面内に配置されるスペーサ部材24の数は、燃料電池スタック22に加わる外力を安定して分担するために、2本以上であることが好ましい。
【0119】
また、アノード極8において生成する反応生成物の排出を円滑に行なうため、連通する排出流路が形成される、スペーサ部材24と燃料電池セル23との接触面の面積は、スペーサ部材24の上面の面積の20%以上であることが好ましい。一方、燃料電池スタック22内の空間を確保して燃料電池セル23に円滑に酸素供給が行なわれやすくするために、スペーサ部材24と燃料電池セル23と接触面の面積は、スペーサ部材24の上面の面積の80%以下であることが好ましい。
【0120】
スペーサ部材24は、接触しているアノード流路板25と接合され一体化していることが好ましい。ここで、一体化とは、外部から力を加えなくても分離しない状態のことをいう。接合方法として、たとえば、熱硬化性樹脂などの接着剤を用いた接着、拡散接合、超音波接合またはレーザー溶接などを用いることができる。
【0121】
スペーサ部材24とアノード流路板25とが接合されることによって、スペーサ部材24とアノード流路板25との界面の気密度を向上させ、気体の反応生成物の排出流路からの漏洩を軽減することができる。その結果、二酸化炭素などの反応生成物がカソード極9の周囲に拡散することによる、カソード極9への酸素供給不足を防ぐことができるため、燃料電池スタック22の出力を高く維持することができる。
【0122】
スペーサ部材24に形成される排出孔27の形状は特に限定されないが、たとえば、その断面形状を円形または四角形としてもよい。スペーサ部材24として、中空状スペーサにアノード流路板25の排出流路貫通孔26と対応する位置に開口を設けたものを用い、スペーサの中空部を排出孔27としてもよい。
【0123】
または、スペーサ部材24の排出孔27を、中実のスペーサ部材24のアノード流路板25との接触面側に1または2以上の溝を形成して設けてもよい。この場合は、同一平面内で隣り合う燃料電池セル23同士の間に位置するスペーサ部材24において、溝が露出することのないように、気体および液体が透過しない部材でスペーサ部材24の上面を覆う必要がある。スペーサ部材24の上面を覆う部材として、スペーサ部材24と同様の材料を用いることができる。排出孔27を溝で形成した場合、溝の幅および深さは、0.1〜1mmで形成されているのが好ましい。
【0124】
スペーサ部材24を導電性材料で形成する場合、排出孔27の幅は、スペーサ部材24とアノード流路板25との間の電気的な接触抵抗を考慮して適宜決定される。排出孔27となる溝は、エッチング加工、プレス加工または切削加工などによって形成することができる。
【0125】
燃料電池スタック22の最上面または最下面から燃料電池スタック22の内部へ流入した空気は、燃料電池セル23同士の間の空間を燃料電池セル23の短辺方向に向かって対流または拡散することによってカソード極9に供給される。このため、空気供給における移動距離を短くする観点から、燃料電池セル23の短辺の長さを10mm以下とすることが好ましく、5mm以下とすることがより好ましい。このようにすることにより、空気がカソード極9に容易に供給されるようになり、ファンやブロワーなどの補機を用いないパッシブ空気供給においても、空気供給不足による燃料電池の出力低下を抑制することができる。
【0126】
また、スペーサ部材24は、燃料電池セル23と交差するように積層されることが好ましい。これにより、スペーサ部材24と燃料電池セル23とが接触する面積を小さくすることができ、燃料電池セル23の周囲に空気が存在する空間を大きく形成することができる。このため、燃料電池セル23のカソード極9へ空気中の酸素を供給しやすくすることができ、燃料電池の出力を維持することができる。
【0127】
実験例1
本実験例では、実施の形態1に係る燃料電池システムを作製し、発電部1が所定の温度まで昇温されて、通常運転が開始するまでの時間を計測した。以下、実験例1で作製した燃料電池システムの発電部1に備えられる燃料電池セル10の作製方法について説明する。
【0128】
まず、電解質膜7として、幅25mm×長さ25mm、厚さが約175μmのデュポン社製のNafion(登録商標)117を用意した。次に、Pt担持量が32.5質量%で、Ru担持量が16.9質量%のPt粒子とRu粒子とカーボン粒子とからなる触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製:TEC66E50)と、20質量%のNafion(登録商標)を含むアルコール溶液(アルドリッチ社製)と、イソプロパノールと、アルミナボールと、を質量比で0.5:1.5:1.6:100の割合でテフロン(登録商標)容器に入れた。その容器を攪拌脱機を用いて500rpmで50分間の混合を行なうことにより、アノード触媒ペーストを作製した。
【0129】
また、Pt担持量が46.8質量%のPt粒子とカーボン粒子とからなる触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製:TEC10E50E)を用いたこと以外はアノード触媒ペーストと同様にしてカソード触媒ペーストを作製した。
【0130】
続いて、アノード極8の基材として、外形が23mm×23mmで、片面にフッ素系の樹脂と炭素粒子とからなる層(以下、マイクロポーラス層と称す)で撥水処理されたカーボンペーパー(SGLカーボン社製:25BC)を用いた。カーボンペーパーのマイクロポーラス層が形成された面とは反対側の面の全面に、撥水処理カーボン分散剤(御国色素社製:FCI−101)をバーコータを用いて均一に塗布した。そのカーボンペーパーを自然乾燥させた後、360℃の電気炉中で30分焼成させ、カーボンペーパーのマイクロポーラス層とは反対側の面に撥水層を形成した。
【0131】
カーボンペーパーのマイクロポーラス層が形成されている面の全面に、上記のように作製したアノード触媒ペーストを触媒担持量が2mg/cm2となるように、幅23mm×長さ23mmの正方形状の開口部を有するスクリーン印刷版を用いてスクリーン印刷した。その後、スクリーン印刷されたアノード触媒ペーストを室温で乾燥させて、約20μmの厚さのアノード触媒層を有するアノード極8を作製した。
【0132】
また、アノード極8と同様にして、カーボンペーパー(SGLカーボン社製:25BC)に撥水処理カーボン分散剤(御国色素社製:FCI−101)をバーコータで塗布した。そのカーボンペーパーを自然乾燥させた後、360℃の電気炉中で30分焼成させ、撥水層を形成した。さらに、アノード極8と同様にして、カソード触媒ペーストをスクリーン印刷し、約20μmの厚さのカソード触媒層を有するカソード極9を形成した。
【0133】
ついで、アノード触媒層およびカソード触媒層が電解質膜7と接するように、下からアノード極8、電解質膜7、カソード極9の順に積層した。この積層体を、50mm×50mmの正方形の貫通孔を有する、100mm角、厚さ0.30mmの額縁状のテフロン(登録商標)スペーサの貫通孔の内部に設置した。これらを100mm角、厚み3mmのステンレス板で挟持した後、ステンレス板の厚み方向に5kgf/cm2の応力をかけて130℃で2分間熱圧着し、電解質膜7と電極が一体化された膜電極複合体を作製した。
【0134】
また、次のようにしてアノード流路板を作製した。幅25mm、長さ25mm、厚さ200μmの耐硫酸性ステンレス(SUS316L)製の平板に、エッチング加工を施し、直径200μmの排出流路貫通孔15を、ステンレス製平板の長さ方向の端部より3mmの位置から350μmピッチで平板の長さ方向に一列に形成した。
【0135】
同時に、エッチング加工により、200μmの深さで、幅が500μmの溝を掘り、サーペンタイン状の燃料流路13を形成した。排出流路貫通孔15は、ステンレス製平板の幅方向の端部より2mmの位置から形成され、排出流路貫通孔15の外周と燃料流路13の側壁との間に150μmの間隔を設けた。また、燃料流路13の長手方向と平行に排出流路貫通孔15が並ぶラインを1000μmピッチでレイアウトして、第1アノード流路板12Aを作製した。
【0136】
次に、第2アノード流路板12Bとなる、幅25mm、長さ25mm、厚さ200μmの耐流酸性ステンレス(SUS316L)製の平板に、エッチング加工を施し、200μmの深さで、幅が500μmの溝を掘り、サーペンタイン状の排出流路14を形成した。第1アノード流路板12Aの排出流路貫通孔15が形成された位置に排出流路14の長手方向の溝が重なるようにレイアウトして、第2アノード流路板12Bを作製した。
【0137】
その後、第1アノード流路板12Aの全ての排出流路貫通孔15と第2アノード流路板12Bの排出流路14とが連通するように、第1アノード流路板12Aと第2アノード流路板12Bとを重ね合わせた状態で拡散接合させることでアノード流路板12を作製した。
【0138】
また、以下のようにして、カソード集電層16を作製した。幅25mm、長さ25mm、厚さ200μmの耐硫酸性ステンレス(SUS316L)製の平板を用いて、周辺部を除く23mm×23mmの領域に直径200μmの開口17を300μmピッチで形成することでカソード集電層16を作製した。
【0139】
下から順に、アノード流路板12、アノード極8、電解質膜7、カソード極9およびカソード集電層16を積層した。この積層体を、50mm角の正方形の貫通孔を有する100mm角、厚さ0.8mmの額縁状のテフロン(登録商標)スペーサの貫通孔の内部に設置した。これらを100mm角、厚み3mmのステンレス板で挟持した後、ステンレス板の厚み方向に5kgf/cm2の応力をかけて、130℃で2分間熱圧着し、積層体を一体化して燃料電池セル10を作製した。
【0140】
このように作製した燃料電池セル10を用いて、燃料電池システムを構築した。制御装置5からバルブ6に開閉指示を送信する設定温度は45℃とした。また、温度センサ11は、第2アノード流路板12Bの下面側に配置した。室温20℃の室内に燃料電池システムを設置し、燃料ポンプ3を用いて燃料流路13および排出流路14へ10重量%のメタノール水溶液を0.5cc/minの速度で供給した。この状態で、0.3Vの定電圧負荷による発電を行ない、触媒面積あたりの出力密度が45mW/cm2となるまでの時間は、2分30秒であった。
【0141】
実験例2
実験例1と同様の燃料電池セル10を用い、排出流路14へのメタノール水溶液の供給は行なわずに、燃料流路13にのみメタノール水溶液を供給して、実験例1と同様の測定を行なった。発電部1の温度が45℃以上となり、触媒面積あたりの出力密度が45mW/cm2となるまでに要した時間は、6分であった。
【0142】
実験例3
本実験例では、実施の形態2に係る燃料電池システムを作製し、発電部1が所定の温度まで昇温されて、通常運転が開始するまでの時間を計測した。以下、実験例2で作製した燃料電池システムの発電部1に備えられる燃料電池セル18の作製方法について説明する。
【0143】
燃料電池セル18は、第1燃料透過層19以外の構成については、実験例1の燃料電池セル10と同様に作製した。まず、厚さ45μmのレジスト樹脂からなるドライフィルムを、実験例1と同様の方法で作製したアノード流路板12の上面の全面にホットラミネートした。フォトレジストマスクを用いて露光、現像した後、350℃でキュアすることにより、燃料流路13の上部に位置するようにパターニングされた第1燃料透過層19を形成した。
【0144】
第1燃料透過層19は、燃料流路13の幅が500μmであるのに対し、650μmの幅を有するようにして、燃料流路13を塞ぐように形成した。この際、第1燃料透過層19が左右それぞれ75μmずつ、燃料流路13の幅からはみ出すように形成した。ついで、第1燃料透過層19に、10μmの直径の複数の開孔を長手方向に300μmピッチで、幅方向に端部より75μmの位置から125μmピッチで設けた。
【0145】
このように作製した燃料電池セル18を用いて、燃料電池システムを構築した。制御装置5からバルブ6に開閉指示を送信する設定温度は45℃とした。また、温度センサ11は、第2アノード流路板12Bの下面側に配置した。室温20℃の室内に燃料電池システムを設置し、燃料ポンプ3を用いて燃料流路13および排出流路14へ30重量%のメタノール水溶液を0.5cc/minの速度で供給した。この状態で、0.3Vの定電圧負荷による発電を行ない、触媒面積あたりの出力密度が40mW/cm2となるまでの時間は、1分50秒であった。
【0146】
実験例4
本実験例では、実施の形態3に係る燃料電池システムを作製し、発電部1が所定の温度まで昇温されて、通常運転が開始するまでの時間を計測した。以下、実験例4で作製した燃料電池システムの発電部1に備えられる燃料電池セル20の作製方法について説明する。
【0147】
燃料電池セル20は、第1燃料透過層19および第2燃料透過層21以外の構成については、実験例1の燃料電池セル10と同様に作製した。まず、厚さ45μmのレジスト樹脂からなるドライフィルムを、実施例1と同様の方法で作製したアノード流路板12の上面の全面にホットラミネートした。フォトレジストマスクを用いて、露光、現像した後、350℃でキュアすることにより、燃料流路13の上部に位置するようにパターニングされた第1燃料透過層19を形成した。
【0148】
第1燃料透過層19は、燃料流路13の幅が500μmであるのに対し、650μmの幅を有するようにして、燃料流路13を塞ぐように形成した。この際、第1燃料透過層19が左右それぞれ75μmずつ、燃料流路13の幅からはみ出すように形成した。ついで、第1燃料透過層19に、10μmの直径の複数の開孔を長手方向に500μmピッチで、幅方向に端部より100μmの位置から150μmピッチで設けた。
【0149】
次に、幅0.35mm、長さ19.7mmの大きさのカーボンペーパー(ケミックス社製:TGP−H−030)に撥水処理カーボン分散剤(御国色素社製:FCI−101)を含浸させた。そのカーボンペーパーを自然乾燥した後、360℃の電気炉中で30分焼成させ、第2燃料透過層21となるシート作製した。第1燃料透過層19が形成された第1アノード流路板12Aに形成された排出流路貫通孔15の並ぶライン上の0.35mm×19.7mmの領域に導電性ペースト(タムラ化研製:Carbolloid:MRX―713J)をスクリーン印刷で塗布した。
【0150】
導電性ペーストを塗布した領域に第2燃料透過層21となるシートを重ね合わせ、厚さ3mmのステンレス板で挟持した後、ステンレス板の厚み方向に5kgf/cm2の応力をかけて、130℃で2分間熱圧着し、排出流路貫通孔15の上部に第2燃料透過層21を形成した。
【0151】
このように作製した燃料電池セル20を用いて、燃料電池システムを構築した。制御装置5からバルブ6に開閉指示を送信する設定温度は45℃とした。また、温度センサ11は、第2アノード流路板12Bの下面側に配置した。室温20℃の室内に燃料電池システムを設置し、燃料ポンプ3を用いて燃料流路13および排出流路14へ64重量%のメタノール水溶液を0.5cc/minの速度で供給した。この状態で、0.3Vの定電圧負荷による発電を行ない、触媒面積あたりの出力密度が45mW/cm2となるまでの時間は、2分5秒であった。
【0152】
実験例5
本実験例では、実施の形態4に係る燃料電池システムを作製し、発電部1が所定の温度まで昇温されて、通常運転が開始するまでの時間を計測した。以下、実験例5で作製した燃料電池システムの発電部1に備えられる燃料電池スタック22の作製方法について説明する。
【0153】
まず、実験例1と同様の方法によって作製した膜電極複合体を、外形2mm×25mm、電極部2mm×23mmとなるようにトリミングナイフで切断し、短冊状の膜電極複合体を作製した。
【0154】
また、次のようにしてアノード流路板25を作製した。幅2mm、長さ25mm、厚さ300μmの耐硫酸性ステンレス(SUS316L)製の平板に、エッチング加工を施し、直径300μmの排出流路貫通孔26を2000μmピッチで、外形の長さ方向に一列に形成した。
【0155】
同時に、エッチング加工により、200μmの深さで、幅が800μmの溝を掘り、燃料流路13を形成した。排出流路貫通孔26は、ステンレス製平板の幅方向の端部より150μmの位置から形成され、排出流路貫通孔26の外周と燃料流路13の側壁との間に150μmの間隔を設けた。
【0156】
次に、厚さ45μmのレジスト樹脂からなるドライフィルムをアノード流路板25の上面の全面にホットラミネートした。フォトレジストマスクを用いて、露光、現像した後、350℃でキュアすることにより、燃料流路13の上部に位置するようにパターニングされた第1燃料透過層19を形成した。
【0157】
第1燃料透過層19は、燃料流路13の幅が800μmであるのに対し、950μmの幅を有するようにして、燃料流路13を塞ぐように形成した。この際、第1燃料透過層19が左右それぞれ75μmずつ、燃料流路13の幅からはみ出すように形成した。ついで、第1燃料透過層19に、10μmの直径の複数の開孔を長手方向に600μmピッチで一列に設けた。
【0158】
また、次にようにしてカソード集電層16を作製した。幅25mm、長さ25mm、厚さ200μmの耐硫酸性ステンレス(SUS316L)製の平板を用いて、周辺部を除く19mm×23mmの領域に直径200μmの開口17を300μmピッチで形成することでカソード集電層16を作製した。
下から順に、アノード流路板25、アノード極8、電解質膜7、カソード極9およびカソード集電層16を積層した。この積層体を、50mm角の正方形の貫通孔を有する100mm角、厚さ0.8mmの額縁状のテフロン(登録商標)スペーサの貫通孔の内部に設置した。これらを100mm角、厚み3mmのステンレス板で挟持した後、ステンレス板の厚み方向に5kgf/cm2の応力をかけて、130℃で2分間熱圧着し、積層体を一体化して燃料電池セル23を作製した。同様の方法により総数15個の燃料電池セル23を作製した。
【0159】
次に、外形1mm×14mm、厚さ400μmの耐流酸性ステンレス(SUS316L)製の平板に、エッチング加工を施し、200μmの深さで、500μmの幅の、中心がこの平板の中心に位置する溝からなる排出孔27を形成した。さらに、1mm角、厚さ100μmの耐酸性ステンレス(SUS316L)製の平板を、排出孔27の長手方向の端部から2mmの位置から2mm間隔で合計4枚、排出孔27を覆うように配置した状態で拡散接合することにより、スペーサ部材24を作製した。
【0160】
上記のように作製した燃料電池セル23を同一平面内に、燃料電池セル23の長辺同士が1mmの間隔をあけて並ぶように5つ配置した。次に、スペーサ部材24の排出孔27が露出している側の面であって、排出孔27以外の領域に導電性ペースト(タムラ化研製:Carbolloid:MRX―713J)をスクリーン印刷法により、塗布厚さが30μmとなるように塗布した。
【0161】
このスペーサ部材24の長手方向を燃料電池セル23の長辺方向と直交させ、かつ、アノード流路板25の排出流路貫通孔26が連続して並ぶ方向とスペーサ部材24の排出孔27が伸びる方向とが重なるように、2mmピッチで燃料電池セル23を配置して積層した。その後、この積層体を、50mm角の正方形の貫通孔を有する100mm角、厚さ1mmの額縁状のテフロン(登録商標)スペーサの貫通孔の内部に設置した。これらを100mm角、厚さ3mmのステンレス板で挟持した後、ステンレス板の厚み方向に5kgf/cm2の応力をかけて、130℃で30分間熱圧着し、燃料電池セル23とスペーサ部材24との積層体を形成した。
【0162】
続いて、上述と同様に燃料電池セル23を同一平面内に、燃料電池セル23の長辺同士が1mmの間隔をあけて並ぶように5つ配置した。次に、上記のように一体化した燃料電池セル23とスペーサ部材24との積層体において、スペーサ部材24の燃料電池セル23と接合されている側の面とは反対側の面に、導電性ペースト(タムラ化研製:Carbolloid:MRX―713J)をスクリーン印刷法により、塗布厚が30μmとなるように塗布した。
【0163】
そのスペーサ部材24を挟んで、燃料電池セル23同士が互いに対向するように積層した。この時、新たに積層した燃料電池セル23のカソード極9側の面がスペーサ部材24と対向するように積層した。その後、この積層体を、50mm角の正方形の貫通孔を有する100mm角、厚さ1.5mmの額縁状のテフロン(登録商標)スペーサの貫通孔の内部に設置した。これらを100mm角、厚さ3mmのステンレス板で挟持した後、ステンレス板の厚み方向に5kgf/cm2の応力をかけて、130℃で30分間熱圧着し、スペーサ部材24の上下に燃料電池セル23が積層された積層体を形成した。
【0164】
さらに、この積層体の上部の燃料電池セル23のアノード流路板12側に、スペーサ部材24を上記と同様に積層して一体化した。このとき、額縁状のテフロン(登録商標)スペーサは、厚み1.9mmのものを使用した。続いて、燃料電池セル23を同一平面内に、燃料電池セル23の長辺同士が1mmの間隔をあけて並ぶように5つ配置し、上記と同様に積層し一体化した。この時、新たに積層した燃料電池セル23のカソード極9側の面がスペーサ部材24と対向するように積層した。最後に、この積層体の上部の燃料電池セル23のアノード流路板12側に、スペーサ部材24を上記と同様に積層して一体化した。このとき、額縁状のテフロン(登録商標)スペーサは、厚み2.4mmのものを使用した。
【0165】
このようにして、上から順に、燃料電池セル23、スペーサ部材24、燃料電池セル23、スペーサ部材24、燃料電池セル23およびスペーサ部材24を積層して一体化した燃料電池スタック22を作製した。
【0166】
上記のように作製した燃料電池スタック22を用いて、燃料電池システムを構築した。制御装置5からバルブ6に開閉指示を送信する設定温度は45℃とした。また、温度センサ11は、第2アノード流路板12Bの下面側に配置した。室温20℃の室内に燃料電池システムを設置し、燃料ポンプ3を用いて燃料流路13および排出流路14へ30重量%のメタノール水溶液を0.5cc/minの速度で供給した。この状態で、0.9Vの定電圧負荷による発電を行ない、触媒面積あたりの出力密度が40mW/cm2となるまでの時間は、1分30秒であった。
【0167】
以上の結果から、本実施の形態に係る燃料電池システムでは、燃料流路および排出流路の2つの流路を経由して燃料を供給することができるため、発電開始時から短時間で通常の発電状態にすることができることが確認された。
【0168】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0169】
1 発電部、2 燃料容器、3 燃料ポンプ、4 気液分離装置、5 制御装置、6 バルブ、7 電解質膜、8 アノード極、9 カソード極、10,18,20,23 燃料電池セル、11 温度センサ、12A 第1アノード流路板、12B 第2アノード流路板、12 アノード流路板、13 燃料流路、13A 燃料流路入口、13B 燃料流路出口、14 排出流路、14A 排出流路入口、14B 排出流路出口、15 排出流路貫通孔、16 カソード集電層、17 開口、19 第1燃料透過層、21 第2燃料透過層、22 燃料電池スタック、24 スペーサ部材、25 アノード流路板、26 排出流路貫通孔、27 排出孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルを含む発電部と、
燃料容器とを備え、
前記燃料電池セルは、電解質膜、該電解質膜の上面に配置されるカソード極、該電解質膜の下面に配置されるアノード極、ならびに、該アノード極の下方に配置され、該アノード極に燃料を供給する経路となる燃料流路および該アノード極において生成する反応生成物を排出する経路となる排出流路が形成されるアノード流路板を有し、
前記燃料容器は、前記アノード極に供給される燃料が貯蔵され、さらに
前記発電部の温度が所定の温度以下の場合には前記排出流路に燃料を供給し、前記発電部の温度が所定の温度より高い場合には前記排出流路への燃料供給を停止する、制御手段とを備える燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料流路の上部を塞ぐように、前記アノード流路板と前記アノード極との間に配置され、燃料を所定の抵抗を有して透過する第1燃料透過層をさらに備える、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記第1燃料透過層は、液体のみ浸透させ、前記燃料流路を気密に保つ、請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記排出流路の上部を塞ぐように、前記アノード流路板と前記アノード極との間に配置され、燃料を前記第1燃料透過層より多く透過させる第2燃料透過層をさらに備える、請求項2または3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記第2燃料透過層が撥水性を有する、請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記排出流路の内壁面が撥水性を有する、請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
同一平面内に所定の間隔をおいて並ぶように配置される複数の前記燃料電池セルと、前記燃料電池セルの並ぶ方向に長手方向を有するスペーサ部材とが、交互に積層される燃料電池スタックを含む発電部を備える燃料電池システムにおいて、
前記スペーサ部材は、前記アノード流路板に形成される前記排出流路と連通し、前記アノード極において生成する反応生成物を排出する経路となる排出孔を有している、請求項1から6のいずれかに記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−182496(P2010−182496A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23807(P2009−23807)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】