説明

燃料電池システム

【課題】固体高分子型燃料電池に使用される、個々の電解質膜の劣化を検出する方法を提供する。
【解決手段】電解質膜の劣化検出方法であって、電解質膜に偏光を入射する工程と、電解質膜を透過した透過光の強度を検出する工程と、透過光の強度の経時変化に基づいて、電解質膜の劣化を判定する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、電解質膜を備えており、燃料電池の運転・停止に伴って、電解質膜が徐々に劣化する。複数の単セルを積層して構成される燃料電池スタックにおいて、従来、発電性能の低下やガスリーク量の増加等を指標として、間接的に電解質膜の劣化を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−166937号公報
【特許文献2】特開2007−134214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような検出方法では、燃料電池スタック全体としての劣化状態を判定することはできるものの、劣化が生じている単セルを特定することはできない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、個々の電解質膜の劣化を検出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 電解質膜の劣化検出方法であって、
(a)前記電解質膜に偏光を入射する工程と、
(b)前記電解質膜を透過した透過光の強度を検出する工程と、
(c)前記透過光の強度の経時変化に基づいて、前記電解質膜の劣化を判定する工程と、
を備える電解質膜の劣化検出方法。
【0008】
燃料電池の運転・停止に伴って、電解質膜の乾燥・吸水が繰り返されると、電解質膜の結晶化が進行する。電解質膜の結晶化が進行すると、電解質膜に入射された偏光が吸収されにくくなるため、透過後の偏光の強度が大きくなる。そのため、透過光の強度の経時変化を監視することによって、容易に、電解質膜の劣化を検出することができる。
【0009】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電解質膜の劣化検出方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、そのプログラムが記憶された記憶媒体、電解質膜の劣化検出装置、その電解質膜劣化検出装置を備える燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施例としての燃料電池システム概略構成を示す説明図である。
【図2】劣化検出装置の概略構成を模式的に示す模式図である。
【図3】透過光の偏光面の角度の変化を示す図である。
【図4】劣化検出処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】透過光の経時変化の一例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図7】含水率検出処理の流れを表わすフローチャートである。
【図8】含水率の異なる電解質膜を用いて透過光の強度を測定した結果を示す図である。
【図9】電解質膜の含水率と透過光の強度との関係を表す図である。
【図10】透過光の強度変化を示す図である。
【図11】変形例の劣化検出装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.第1の実施例:
図1は、本発明の第1の実施例としての燃料電池システム1000の概略構成を示す説明図である。本実施例において、燃料電池システム1000は、車両に搭載されている。燃料電池システム1000は、燃料電池スタック100と、アノードガスとしての水素を燃料電池スタック100に供給して、燃料電池スタック100から排出された排ガス(以下、アノード排ガスともいう)を外部へ排出するアノードガス給排系と、カソードガスとしての空気を燃料電池スタック100に供給して、燃料電池スタック100から排出された排気ガスを外部へ排出するカソードガス給排系と、燃料電池システム1000の各部の動きを制御する制御部400と、燃料電池スタック100における電解質膜の劣化を検出するための劣化検出装置500と、表示装置600と、を備える。
【0012】
燃料電池スタック100は、比較的小型で発電効率に優れる固体高分子型燃料電池の単セルが複数積層された構成を有し、アノードガスとしての純水素と、カソードガスとしての空気中の酸素が、各電極において電気化学反応を起こすことによって起電力を得るものである。
【0013】
アノードガス給排系は、水素タンク210と、アノードガス供給路220と、アノード排ガス排出路270と、を主に備える。水素タンク210は、高圧水素を貯蔵する水素ボンベである。水素タンク210は、遮断弁212を備え、制御部400からの指示にしたがって、遮断弁212を開閉することによって、水素の供給・停止を行う。
【0014】
アノードガス供給路220には、圧力調整弁230が設けられている。水素タンク210に貯蔵される水素ガスは、水素タンク210に接続するアノードガス供給路220に放出された後、圧力調整弁230によって所定の圧力に調整されて、燃料電池スタック100を構成する各単セルのアノードにアノードガスとして供給される。アノード排ガス排出路270は、アノードから排出されたアノード排ガスを外部に排出させる。
【0015】
カソードガス給排系は、エアコンプレッサ310と、カソードガス供給路320と、カソード排ガス路330と、を主に備える。エアコンプレッサ310は、エアクリーナ(図示しない)を介して外部から取り込んだ空気を加圧して、この加圧空気を、カソードガス供給路320を介してカソードガスとして燃料電池スタック100のカソードに供給する。カソード排ガス路330は、カソードから排出されたカソード排ガスを外部に排出させる。
【0016】
劣化検出装置500は、燃料電池スタック100を構成する各単セルに1つずつ設けられ、電解質膜の劣化を検出する装置である。劣化検出装置500の構成については、後述する。
【0017】
制御部400は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成されている。制御部400は、劣化検出装置500の検出結果を取得して、電解質膜の劣化に関する情報を、表示装置600に表示させる。また、制御部400は、燃料電池スタック100の発電に関わる各部に駆動信号を出力する。
【0018】
表示装置600は、例えば、液晶パネル等を備え、制御部400からの指示にしたがって、電解質膜の劣化に関する情報を表示する。
【0019】
図2は、劣化検出装置500の概略構成を模式的に示す模式図である。図2では、燃料電池スタック100を構成する単セルが備えるMEA10の一部が拡大して図示されている。MEA10は、電解質膜12の両面に触媒層14と触媒層16とが積層されている。劣化検出装置500は、図示するように、電解質膜12の端部にレーザー光P1を入射可能に配置されている。
【0020】
劣化検出装置500は、レーザー光発振機520と、偏光板560と、検出器580と、を主に備える。レーザー光発振機520は、例えば、波長100μm程度のレーザー光(偏光)を発振可能である。本実施例において、レーザー光発振機520は、緑色のレーザー光を発振する。なお、レーザー光は、緑色に限定されず、単一波長の可視光であってもよい。
【0021】
偏光板560としては、例えば、結晶性の高い高分子膜を利用する。偏光板560は、レーザー光P1の進行方向と垂直な面内で、モーターによって360度回転可能に構成されている。偏光板560は、電解質膜12を透過した透過光P2を透過または遮断する。なお、本実施例において、偏光板560は、360度回転可能に構成されているが、後述する透過光P3の強度の最大値および最小値を測定可能であれば、360度回転する構成でなくてもよい。例えば、270度回転する構成でもよい。
【0022】
検出器は、劣化検出装置制御部582と、太陽電池パネル584と、判断部586と、を備える。劣化検出装置制御部582は、レーザー光発振機520、偏光板560を制御する。太陽電池パネル584は、受光した光を電力に変換して、判断部586に対して出力する。判断部586は、太陽電池パネル584からの出力を、偏光板560を透過した透過光P3の強度に換算し、透過光P3の強度変化に基づいて、電解質膜12の劣化を判断する。具体的には、透過光P3の強度変化が、予め定められた閾値よりも大きい場合には、劣化と判断する。そして、判断部586は、電解質膜12が劣化していると判断した場合には、その判断結果を入出力ポート(図示しない)を介して制御部400に対して出力する。
【0023】
電解質膜12を透過した透過光P2は、電解質膜12に入射されるレーザー光P1の偏光面に対して角度が変化していることが多い。この角度は、電解質膜12の結晶化の変化、含水状態等によって変化する。図3は、透過光P3の偏光面の角度の変化を示す図である。図3では、初期(新品)の電解質膜12(含水率0%、含水率100%)と、長時間使用した後の電解質膜12(含水率0%、含水率100%)、それぞれを透過した透過光P3の強度を図示している。図示するように、長時間使用した後の電解質膜を透過した透過光の最大値と、初期の電解質膜を透過した透過光の最大値とを比べると、偏光面がδθ変化している。なお、図3において、初期の電解質膜の含水率0%と100%とを比較すると、微小ではあるが、透過光P3の偏光面の角度が変化している。すなわち、電解質膜の含水状態によっても、透過光P3の偏光面の角度は変わる。
【0024】
本実施例における判断部586では、偏光板560を回転させて、透過光P3の最大値と最小値を検出し、振幅((最大値−最小値)/2)を透過光P3の強度(振幅)として、強度変化を監視している。
【0025】
図4は、燃料電池システム1000において実行される劣化検出処理の流れを表わすフローチャートである。この劣化検出処理は、各単セルに対応させて設けられた各劣化検出装置500において、それぞれ、実施される。燃料電池スタック100の運転が開始されると、図4に示す劣化検出処理が開始される。
【0026】
まず、劣化検出装置500が備える劣化検出装置制御部582が、レーザー光発振機520を制御して、レーザー光(偏光)を発振させる。レーザー光発振機520から発振されたレーザー光P1が、電解質膜12に入射される(ステップS102)。
【0027】
一方、劣化検出装置制御部582は、偏光板560を所定の角速度で回転させる。太陽電池パネル584は、偏光板560を透過した透過光P3を受光して電力に変換し、その電力を判断部586に対して出力する。判断部586は、太陽電池パネル584から入力される電力に基づいて、透過光P3の強度に換算する。この換算された強度を、以下、「換算強度」と称する。偏光板560が0〜360度回転すると、判断部586は、透過光P3の換算強度の最大値と最小値を抽出して、振幅((最大値−最小値)/2)を透過光P3の強度(振幅)とする(ステップS104)。
【0028】
そして、判断部586は、透過光P3の強度の初期値に対する変化(初期値との差)を算出して、透過光P3の強度の変化が、閾値よりも大きいか否かを判断する(ステップS108)。初期値は、未使用の燃料電池スタック100において検出された、透過光P3の強度の値である。透過光P3の強度変化が閾値よりも大きい場合には(ステップS106においてYES)、判断部586は、電解質膜12の劣化を示す信号を、入出力ポートを介して制御部400へ出力する。本実施例において、強度変化として、初期値との差を用いているが、例えば、強度変化として、初期値に対する変化割合(%)を用いてもよい。
【0029】
制御部400は、劣化検出装置500から電解質膜12の劣化を示す信号が入力されると、入力信号に基づいて、単セルの番号と共に、電解質膜12が劣化している旨を示すメッセージ(例えば、「50番の単セルの電解質膜が劣化しています。交換してください。」等)を、表示装置600に表示させる(ステップS108)。すなわち、制御部400は、複数の劣化検出装置500のうち、いずれかの劣化検出装置500から電解質膜の劣化を示す信号が入力されると、表示装置600に劣化を示すメッセージを表示させる。
【0030】
一方、透過光P3の強度の変化が、閾値よりも小さい場合には(ステップS106において、NO)、ステップS102に戻る。すなわち、電解質膜12の劣化が検出されるまでは、電解質膜12にレーザー光P1を入射して、透過光P3の強度変化を監視する。この劣化検出処理は、燃料電池スタック100の運転が停止されると、終了する。
【0031】
上記ステップS106において用いられる閾値は、予め、実験的に定めることができる。例えば、本実施例の劣化検出装置500を用いて、燃料電池スタック100に用いられる電解質膜12の新品のものと、劣化した電解質膜12を透過する透過光の強度変化を、実験的に求めておいて、その強度変化に基づいて、閾値を定めてもよい。
【0032】
以下に、本実施例の劣化検出装置500における太陽電池パネル584に換えて光電子倍増管を用いた劣化検出装置を用いて電解質膜を透過する透過光の強度変化を調べた実験結果を示す。本実施例における含水率検出装置500を用いて、以下に示すのと同様の方法で、劣化判定に用いる閾値を定めてもよい。
【0033】
図5は、透過光の経時変化の一例を示す図である。図5では、新品の電解質膜を用いて、透過光の強度を測定した結果(図5において、「初期」と記載)を破線で、冷熱サイクル試験後の電解質膜を用いて透過光の強度を測定した結果を実線で示している。電解質膜としては炭素系電解質膜を用いている。冷熱サイクル試験は、70℃で5分、−20℃で30分を1サイクルとするもので、図5に示す「冷熱サイクル試験後」は、400時間冷熱サイクルを繰り返し行った後の電解質膜を用いた結果である。
【0034】
上記した含水率検出処理におけるステップS104と同様に、偏光板を360度回転しつつ、透過光の強度(換算強度)を測定した。図示するように、得られる強度は、90度ごとに振動するスペクトルである。各点のピーク強度のImax1〜4、Imin1〜4の値を読み取り、相加平均によりImax(最大値)、Imin(最小値)の値を算出した。
【0035】
初期の電解質膜を透過した透過光は、換算強度のImax(最大値)が0.098、Imin(最小値)が0.043、振幅(強度)が0.028であった。冷熱サイクル試験後の電解質膜を透過した透過光は、換算強度のImax(最大値)が1.424、Imin(最小値)が0.064、振幅(強度)が0.680であった。このように、電解質膜が劣化すると、振幅が大きくなる。この場合、強度変化は、0.612となる。
【0036】
燃料電池スタック100の運転・停止に伴って、電解質膜の乾燥・吸水が繰り返されると、電解質膜の結晶化が進行する。電解質膜の結晶化が進行すると、電解質膜に入射された偏光が吸収されにくくなるため、電解質膜を透過した後の透過光の強度が大きくなると考えられる。そのため、透過光の強度の経時変化を監視することによって、容易に、電解質膜の劣化を検出することができると考えられる。
【0037】
例えば、本実施例の劣化検出装置500、電解質膜12を用いて、上記と同様の実験を行って、冷熱サイクル試験400時間経過後の透過光の強度変化ΔIを求める。そして、上記フローチャートにおいて、閾値を実験で求めたΔIに設定すると、燃料電池スタック100のいずれかの単セルにおいて、冷熱サイクル試験400時間実施後の燃料電池と同等以上に電解質膜の劣化が進行している場合には、表示装置600に警告が表示される。したがって、ユーザは、燃料電池スタック100の異常、具体的には、電解質膜が劣化していることを知ることができる。
【0038】
さらに、上記実施例の燃料電池システム1000では、表示装置600に電解質膜12が劣化している単セルの番号も表示される。そのため、ユーザは、電解質膜12が劣化している単セルを特定することもできる。そのため、例えば、電解質膜が劣化している単セルだけを交換することにより、燃料電池スタック100に異常が生じる可能性を低減することができる。なお、閾値は、電解質膜の種類、劣化の判断基準等により、種々の値を設定することができる。
【0039】
また、本実施例の燃料電池システム1000によれば、燃料電池スタック100を解体して電解質膜を切り出したりせず、電解質膜の結晶化を検出することができる。そのため、本実施例の燃料電池システム1000を用いれば、例えば、燃料電池システム1000を車両に搭載したまま、電解質膜12の劣化を検出することができる。これは、電解質膜の結晶化を検出する方法として従来考えられている、以下の(A)、(B)の方法に比較して大きなメリットがある。(A)電解質膜の動的粘弾性率を測定し、貯蔵弾性率の増加に基づいて、結晶化を判断する方法。(B)電解質膜に熱をかけて、結晶構造を融解させるときに必要な熱量の変化量に基づいて、結晶化を判断する方法。この2つの方法の場合には、電解質膜を切り出して検査するため、燃料電池スタックを解体しないで、電解質膜の劣化を検出することはできない。
【0040】
また、本実施例における劣化検出装置500では、偏光を用いて透過光の強度を検出しているため、非偏光(自然光)を用いる場合に比べて、精度よく、透過光の強度を検出することができ、その結果、精度よく、電解質膜12の劣化を検出することができる。
【0041】
また、本実施例における劣化検出装置500では、光発振機として、レーザー光発振機を用い、透過光P3の検出部として太陽電池パネルを用いている。レーザー光発振機、太陽電池パネルは共に小さいため、劣化検出装置500を小型化することが可能できる。その結果、単セル1枚ごとに、劣化検出装置を設けて、精度のよい劣化検出を実現することができる。また、透過光P3の検出部として太陽電池パネルを用いると、光を受けることによって発電するため、外部電力を必要とせず、燃料電池システム1000の省電力化を図ることができる。
【0042】
B.第2の実施例:
図6は、本発明の第2の実施例としての燃料電池システム1000Aの概略構成を示す説明図である。本実施例における燃料電池システム1000Aが第1の実施例と異なる主な点は、アノードガス給排系において、アノードガスとしての純水素を加湿する加湿器250を備える点と、第1の実施例における劣化検出装置500に換えて、劣化・含水率検出装置500Aを備える点であり、その他の構成は、第1の実施例と同様であるため、同一の構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0043】
本実施例において、加湿器250として、バブラー式加湿装置(以下、「バブラー」という)を用いている。バブラーは、温度管理された水の中に乾燥ガスを通すことによって、所定の湿度の加湿ガスを作り出す装置である。後述するように、電解質膜12の含水率に基づいて、制御部400によって加湿器250が制御され、アノードガスとしての純水素が加湿される。具体的には、制御部400によって、加湿器250に加湿の指示が入力された場合には、加湿器250の備える切り替えバルブ252、254が制御され、アノードガス供給路220に放出された乾燥した水素が加湿器34に導入され、加湿器34によって所定の湿度(例えば、露点45℃)に加湿されて、アノードガスとして燃料電池スタック100のアノードに供給される。なお、アノードガスとしての水素を加湿しない場合は、水素タンク210からアノードガス供給路220に放出された水素は、加湿器250に導入されず、乾燥した水素のまま、燃料電池スタック100のアノードに供給される。
【0044】
本実施例における劣化・含水率検出装置500Aは、検出器580において、電解質膜の劣化の検出に加え、電解質膜の含水率を検出する点以外は、第1の実施例における劣化検出装置500と同様の構成である。そのため、以下に電解質膜の含水率を検出する工程について説明する。図7は、燃料電池システム1000Aにおいて実行される含水率検出処理の流れを表わすフローチャートである。この含水率検出処理は、各単セルに対応させて設けられた各含水率検出装置500Aにおいて、それぞれ、実施される。燃料電池スタック100の運転が開始されると、図7に示す含水率検出処理が開始される。
【0045】
第1の実施例における劣化検出処理におけるステップS102、ステップS104と同様に、透過光P3の強度を検出する。その後、判断部586は、透過光P3の強度に基づいて含水率を導出し、導出された含水率が、第2の閾値よりも小さいか否か判断する(ステップS110)。含水率が第2の閾値よりも小さい場合には(ステップS110においYES)、判断部586は、電解質膜12の含水率低下を示す信号を、入出力ポートを介して制御部400へ出力する。
【0046】
制御部400は、劣化・含水率検出装置500Aから電解質膜12の含水率低下を示す信号が入力されると、加湿器250を制御して、水素タンク210からアノードガス供給路220に放出された乾燥水素を加湿して、アノードガスとして、燃料電池スタック100のアノードに供給させる。すなわち、制御部400は、複数の劣化・含水率検出装置500Aのうち、いずれかの劣化・含水率検出装置500Aから電解質膜の含水率低下を示す信号が入力されると、加湿器250を制御して加湿された水素をアノードガスとして、燃料電池スタック100に供給させる。なお、図6では、含水率の検出処理に注目して、その流れを説明したが、本実施例における劣化・含水率検出装置500Aでは、電解質膜12に偏光を入射し(ステップS102)、偏光板560を360度回転させつつ透過光P3の強度を測定し(ステップS104)、ステップS104で測定された強度を用いて、電解質膜12の劣化を判断する(図4:ステップS106)と共に、電解質膜12の含水率の低下を判断することができる。
【0047】
ステップS110において、判断部586は、電解質膜12の含水率と透過光P3の強度との関係に基づいて、ステップS104で求めた透過光P3の強度から電解質膜12の含水率を導出する。電解質膜の含水率と透過光の強度との関係は、本実施例における劣化・含水率検出装置500Aを用いて、予めを求めておく。
【0048】
以下に、本実施例の劣化・含水率検出装置500Aにおける太陽電池パネル584に換えて光電子倍増管を用いた含水率検出装置を用いて電解質膜の含水率と透過光の強度との関係を調べた実験結果を示す。本実施例における劣化・含水率検出装置500Aを用いて、以下に示すのと同様の方法で、電解質膜の含水率と透過光の強度との関係を求めることができる。
【0049】
図8は、含水率の異なる電解質膜を用いて透過光の強度を測定した結果を示す図である。図8には、含水率0%の電解質膜と、含水率100%の電解質膜(純水に60分浸漬後、測定)を用いて測定した結果を示している。電解質膜としては炭素系電解質膜を用いている。上記した含水率検出処理におけるステップS104と同様に、偏光板を360度回転しつつ、透過光の強度を測定した。図示するように、得られる強度は、90度ごとに振動するスペクトルである。各点のピーク強度のImax1〜4、Imin1〜4の値を読み取り、相加平均によりImax(最大値)、Imin(最小値)の値を算出した。
【0050】
含水率0%の電解質膜を透過した透過光の換算強度のImax(最大値)は0.22、Imin(最小値)は0.10、振幅(強度)は0.06であった。一方、含水率100%の電解質膜を透過した透過光の換算強度のImax(最大値)は0.46、Imin(最小値)は0.12、振幅(強度)は0.17であった。図9は、電解質膜の含水率と透過光の強度との関係を表す図である。図9では、図8から算出した算出結果を図示している。図9に示す電解質膜の含水率を透過光の強度との関係に基づいて、透過光の強度から、電解質膜の含水率を導出することができる。
【0051】
図10は、透過光の強度変化を示す図である。図10では、初期(新品)の電解質膜12(含水率0%、含水率100%)と、長時間使用した後の電解質膜12(含水率0%、含水率100%)、それぞれを透過した透過光P3の強度を、本実施例の劣化・含水率検出装置500を用いて測定した結果を図示している。なお、上述の通り、電解質膜を透過した透過光は、電解質膜に入射される偏光の偏光面に対して角度が変化することが多いが、図10では、強度変化を明確に示すため、ピークの位置を揃えて、表示している。図示するように、例えば、初期の含水率100%の電解質膜を透過した透過光の強度は、初期の含水率0%の電解質膜を透過した透過光よりも大きい。また、例えば、含水率0%の長時間使用後の電解質膜を透過した透過光の強度は、含水率0%の初期の電解質膜を透過した透過光よりも大きい。
【0052】
このように、本実施例の劣化・含水率検出装置500Aを用いれば、透過光P3の強度変化に基づいて、電解質膜12の劣化を検出すると共に、電解質膜12の含水状態を監視することができる。したがって、本実施例の燃料電池システム1000Aによれば、一つの劣化・含水率検出装置500Aにおいて検出される、透過光の強度という1つのパラメーターに基づいて、劣化検出と含水率検出という二つの状態検出を行うことができるため、部品点数を減らすことができ、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0053】
また、本実施例の燃料電池システム1000Aによれば、電解質膜の含水率が、所定の閾値よりも低下した場合に、アノードガスを加湿することにより、電解質膜の含水率の低下を抑制することができる。その結果、電解質膜の含水率の低下による燃料電池性能の低下を抑制することができる。
【0054】
また、本実施例の燃料電池システム1000Aでは、電解質膜の含水状態を、透過光の強度変化に基づいて判断しているため、例えば、透過光の偏光面の角度変化に基づいて含水状態を判断する場合に比べて、精度よく、含水状態を判断することができる。
【0055】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0056】
(1)上記実施例において、光の強度を検出する光検出素子として、太陽電池パネル584を例示したが、太陽電池パネルに限定されず、その他の光を受けて発電する素子を用いてもよい。また、光を受けて電流を制御する素子(例えば、フォトトランジスタ、CMOS等)を用いてもよいし、種々の光検出素子を用いることができる。
【0057】
(2)上記実施例において、光発振機としてレーザー光発振機520を例示したが、上記実施例に限定されず、例えば、発光ダイオード等の非偏光(自然光)を発振させる光発振機を用いてもよい。非偏光(自然光)を発振させる光発振機を用いる場合には、上記実施例におけるレーザー光発振機520と偏光板560との間に、もう1枚、偏光板を供える構成にする。非偏光を偏光板を介して、電解質膜に入射することによって、電解質膜に偏光を入射させることができる。なお、上記実施例と同様に、光発振機として、レーザー光発振機520を用いる場合に、レーザー光発振機520と偏光板560との間にもう1枚、偏光板を供える構成にしてもよい。このようにすると、レーザー光発振機520から発振されるレーザー光の偏光面のゼロ点を調べることができるため、電解質膜を透過した透過光の、電解質膜に入射された偏光の偏光面に対する角度変化を検出することができる。
【0058】
(3)上記実施例において、劣化検出装置500において、電解質膜12の劣化が検出された場合に、視覚的に報知する方法として表示装置600にメッセージが表示される例を示したが、電解質膜12の劣化を報知する方法は、上記実施例に限定されない。例えば、視覚的に報知する方法として、警告ランプを点灯させるようにしてもよい。また、聴覚的に報知する方法として、例えば、音声やブザー音等で報知してもよい。また、触覚的に報知する方法として、振動によって報知してもよい。また、これらを組み合わせてもよい。
【0059】
(4)上記実施例において、表示装置600には、電解質膜12の劣化が検出された単セルの番号が表示されるが、電解質膜12の劣化のみを表示するようにしてもよい。また、例えば、表示装置600には、電解質膜12の劣化のみを表示して、修理の際に、故障診断機等を用いることによって、電解質膜12の劣化が検出された単セルの番号がわかるような構成にしてもよい。
【0060】
(5)上記実施例において、燃料電池システム1000が車両に搭載される例を示したが燃料電池システム1000は、車両に搭載される場合に限定されず、種々の用途に用いることができる。例えば、燃料電池システム1000が家庭用コージェネレーションシステム等の定置システムに用いられてもよい。
【0061】
(6)上記実施例において、電解質膜の劣化検出処理は、燃料電池スタック100の運転中に、常に実行される例を示したが、上記実施例に限定されない。例えば、燃料電池スタック100の運転時間が所定の時間(例えば、100時間)経過する毎に、電解質膜の劣化検出処理が実行されるようにしてもよい。また、車両の定期点検時等に、実行されるようにしてもよい。また、出力電圧、燃料電池内圧、排ガス温度等、種々の条件に基づいて、電解質膜の劣化検出処理が実行されるようにしてもよい。また、劣化検出装置500が、車両の点検時にのみ接続されて、点検するような構成にしてもよい。
【0062】
(7)上記実施例において、検出器580において、電解質膜12の劣化を判断する例を示したが、電解質膜12の劣化は、例えば、制御部400において判断してもよい。例えば、検出器580において、太陽電池パネル584からの電力を、制御部400に出力するようにしてもよい。また、制御部400とは別個に、各単セルに設けられている劣化検出装置500からの出力に基づいて、電解質膜の劣化を判断する構成にしてもよい。
【0063】
(8)上記実施例において、レーザー光(偏光)を電解質膜の厚さ方向に平行に(電解質膜の触媒層との接触面に垂直に)入射させる例を示したが、偏光の入射方向は、上記した実施例に限定されない。図11は、変形例の劣化検出装置の概略構成を示す図である。変形例の劣化検出装置500Cは、第1の実施例における劣化検出装置500と同様の構成を備える。変形例の劣化検出装置500Cでは、レーザー光発振機520から発振されたレーザー光(偏光)が、電解質膜の触媒層との接触面に平行に入射され、触媒層に平行に電解質膜内を進む。このようにしても、上記実施例と同様に、透過光の強度変化に基づいて、電解質膜の劣化を検出することができる。
【0064】
(9)また、上記実施例において、レーザー光発振機520と偏光板560との間に、集光レンズを供える構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
12…電解質膜
14、16…触媒層
34…加湿器
100…燃料電池スタック
210…水素タンク
212…遮断弁
220…アノードガス供給路
230…圧力調整弁
250…加湿器
252…バルブ
270…アノード排ガス排出路
310…エアコンプレッサ
320…カソードガス供給路
330…カソード排ガス路
400…制御部
500、500C…劣化検出装置
500A…劣化・含水率検出装置
520…レーザー光発振機
560…偏光板
580…検出器
582…劣化検出装置制御部
584…太陽電池パネル
586…判断部
600…表示装置
1000、1000A…燃料電池システム
P1…レーザー光
P2、P3…透過光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の劣化検出方法であって、
(a)前記電解質膜に偏光を入射する工程と、
(b)前記電解質膜を透過した透過光の強度を検出する工程と、
(c)前記透過光の強度の経時変化に基づいて、前記電解質膜の劣化を判定する工程と、
を備える電解質膜の劣化検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−261820(P2010−261820A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113121(P2009−113121)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】