説明

燃料電池システム

【課題】燃費悪化や不具合につながらない安定した燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システムにおける電気化学水素ポンプ26は、入口極においてアノードオフガスが流れる上流側の電流を検知する第一の電流検知部30であって、検知した電流が第一の所定値を下回った場合に、排出部が前記電気化学水素ポンプ26において濃縮された不純物を燃料電池システム外に排出する第一電流検知部30と、入口極においてアノードオフガスが流れる下流側の電流を検知する第二の電流検知部31であって、検知した電流が第二の所定値を上回った場合に、排出部が不純物の排出を停止する第二電流検知部31と、入口極の上流側と下流側の間に生じる電圧降下を検知する電圧検知部であって、検知した電圧降下がない場合に、電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を燃料電池システム外に排出する電圧検知部との内、少なくとも一つを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって電気を発生させる燃料電池システムは、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンであるため、環境に対する影響が極めて小さい。そのため、燃料電池は、発電用、低公害の自動車用電源等の様々な用途に期待されている。
【0003】
この燃料電池システムは、燃料電池の燃料極(アノード電極)に水素を含む燃料ガス、酸化剤極(カソード電極)に空気等の酸化剤ガスをそれぞれ供給し、これら燃料ガス中の水素と酸化剤ガス中の酸素とを燃料電池内において電気化学的に反応させて発電電力を得るものである。
【0004】
このような燃料電池システムにおいて、燃料電池のアノード電極から排出されるオフガスには、発電に使用されなかった水素が多く含まれており、このオフガスを循環経路において循環させて再利用することで、水素の利用効率を高めるようにした燃料電池システムが提案されている。
【0005】
また、この燃料電池システムにおいては、アノードオフガスの循環を繰り返す中で、燃料電池のカソード電極からアノード電極側へと電解質膜を透過してきた窒素ガスや、燃料ガス中に含まれる不純物等が循環経路に徐々に蓄積されていき、水素分圧低下によって燃料電池の発電効率が低下していく。そこで、このような燃料電池の発電効率の低下を防止するために、アノードオフガスが流れる循環経路に電気化学水素ポンプを設置する燃料電池システムが開発されている(特許文献1から3を参照)。電気化学水素ポンプは、電解質膜を挟んで入口極と出口極とが対設されており、電流を流すことで入口極に供給された循環経路を循環するアノードオフガス中の水素を出口極へと移動させ、アノードオフガス中の不純物は入口極側に蓄積され、入口極側の不純物濃度が高まったときに入口極側に接続された開閉弁を操作することによって、不純物を循環経路の外部に濃縮排出することが可能である。尚、開閉弁は、電気化学水素ポンプへの印加電圧、該電気化学水素ポンプの電解質膜を流れる電流量、若しくは該電気化学水素ポンプの入口極と出口極との差圧に基づいて操作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−19120号公報
【特許文献2】特開2006−19124号公報
【特許文献3】特開2005−346950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池システムは、燃料電池のカソード電極からアノード電極側へと電解質膜を透過してきた窒素ガスが、スタックの温度、湿度、及び圧力等、運転状態に大きく依存する為、窒素濃度が一定ではない。その結果、循環経路に設けられたバルブの周期的な制御において、透過してきた窒素ガスの濃度が高く、アノード電極に供給される水素濃度が低い場合は、電気化学水素ポンプへの印加電圧が急激に上昇し、燃費悪化を引き起こすと同時に、印加電圧によっては水の電気分解の反応が進み、電解質膜の触媒の劣化等を引き起こす
。一方、透過してきた窒素ガスの濃度が低く、アノード電極に供給される水素濃度が高い場合は、オフガス中の水素濃度が増加し、排出水素の低減が不十分となり、水素の利用効率が低減し、燃費悪化に繋がる。
【0008】
また、燃料電池システムにおいて、電気化学水素ポンプを利用して窒素ガス等を含む不純物を濃縮排出する場合は、出口極へ移動した水素の容積分、電気化学水素ポンプの入口極にオフガスが流入する。その結果、電気化学水素ポンプの入口極に流入するアノードオフガスの窒素濃度が低い場合は、該入口極の窒素が増加する速度は遅くなり、該入口極に流入するアノードオフガスの窒素濃度が高い場合は、該入口極の窒素が増加する速度は速くなる。従って、入口極のアノードオフガスの濃度は一定ではない為、電気化学水素ポンプへの印加電圧による制御において、水素濃度が低い場合には、印加電圧が急激に上昇し、燃費悪化を引き起こす。
【0009】
また、電気化学水素ポンプの電解質膜は、水素が存在する部分で反応が進む。水素の不足する領域では電流が流れず、水素が存在する領域に電流が集中する。このため反応領域の減少と反比例で局所反応量が増加し、印加電圧の急上昇を引き起こす。また、電流は反応が進むにつれて、入口極のガス流入部から最も遠い場所であり、水素が不足する場所から減少を始め、入口極ガス流入部近傍だけが反応するにいたると印加電圧が急激に上昇し、燃費悪化を引き起こす。
【0010】
そこで、本発明は、燃費悪化や不具合につながらない安定した燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、入口極を流れるアノードオフガスの上流側の電流、下流側の電流、若しくは入口極の上流側と下流側の間に生じる電圧降下に基づき、不純物の蓄積若しくは蓄積された不純物の排出を制御する点を工夫した。これにより、燃料電池システムは、燃費悪化や不具合につながらない安定した燃料電池システムを提供することが可能である。
【0012】
詳細には、水素を含む燃料ガスが燃料電池での電気化学反応のためにアノード電極側へ供給され、且つ該燃料電池からのアノードオフガスの一部又は全部が再び電気化学反応のために該燃料電池のアノード電極側に循環させるための循環経路と、前記燃料電池から排出されるアノードオフガスが流入する入口極と、該入口極と対向して設けられ、該入口極からの水素を前記循環経路によって前記アノード電極側へ供給する出口極と、該入口極と該出口極の間に設けられ、該入口極からの水素を該出口極へ透過する電解質膜と、を有する電気化学水素ポンプであって、該入口極と該出口極との間に電流が流れることで、該入口極を流れるアノードオフガスに含まれる水素を選択的に透過させ、該アノードオフガス中の不純物を濃縮し、該燃料電池から排出されるアノードオフガスの一部又は全部が供給されるように前記循環経路に接続される電気化学水素ポンプと、前記電気化学水素ポンプによる水素透過の結果、該電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を前記燃料電池システム外に前記入口極の下流側から排出する排出部と、を備える燃料電池システムであって、前記電気化学水素ポンプは、前記入口極においてアノードオフガスが流れる上流側の電流を検知する第一の電流検知部であって、検知した電流が第一の所定値を下回った場合に、排出部が前記電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を燃料電池システム外に排出する第一電流検知部と、前記入口極においてアノードオフガスが流れる下流側の電流を検知する第二の電流検知部であって、検知した電流が第二の所定値を上回った場合に、排出部が不純物の排出を停止する第二電流検知部と、前記入口極の上流側と下流側の間に生じる電圧降下を検知する電圧検知部であって、検知した電圧降下がない場合に、前記電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を燃料電池システム外に排出する電圧検知
部との内、少なくとも一つを有する。
【0013】
不純物を蓄積する際、下流側から不純物が蓄積されることから、入口極の上流側に不純物が蓄積されている場合は、既に下流側も不純物が蓄積されており、下流側の電流も小さい。従って、第一電流検知部が、入口極においてアノードオフガスが流れる上流側の電流を検知することにより、不純物が上流側まで蓄積されたか否か検知することが可能である。具体的に説明すると、入口極の上流側に水素が存在する場合は、電解質膜でのプロトン剥離現象が起こるため、第一電流検知部はある一定以上の電流値を検知する。一方、入口極における上流側に不純物が蓄積され、水素が少ない場合は、プロトン剥離現象が起こり難いため、第一電流検知部が検知する電流値は小さい。以上により、本発明に係る燃料電池システムは、第一電流検知部が入口極の上流側の電流を検知することにより、不純物が上流側まで蓄積され、電気化学水素ポンプのアノードオフガス中の不純物の濃縮終了を検知することが可能である。また、本発明に係る燃料電池システムは、第一電流検知部が検知した電流が第一の所定値を下回った場合に、排出部が、電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を燃料電池システム外に排出することにより、効率よく循環経路を循環するアノードオフガスを入れ替えることが可能であり、電気化学水素ポンプへの印加電圧が急激に上昇すること防止し、燃費悪化や不具合につながらなくすることが可能である。
【0014】
不純物を排出する際、入口極の下流側から排出部によって不純物が排出され、入口極の上流側からアノードオフガスが流れ込むため、入口極の下流側に水素が存在し、入口極の下流側がある一定以上の電流を検知している場合は、入口極の上流側にも水素が存在し、入口極の上流側もある一定以上の電流を検知する。従って、第二電流検知部が、入口極においてアノードオフガスが流れる下流側の電流を検知することにより、排出部によって不純物が排出されたか否かを検知することが可能である。具体的に説明すると、入口極の上流側と同様に、入口極の下流側に水素が存在する場合は、電解質膜でのプロトン剥離現象が起こるため、第二電流検知部はある一定以上の電流値を検知する。一方、入口極における下流側に不純物が蓄積され、水素が少ない場合は、プロトン剥離現象が起こり難いため、第二電流検知部が検知する電流値は小さい。以上により、本発明に係る燃料電池システムは、第二電流検知部が入口極の下流側の電流を検知することにより、排出部による不純物の排出終了を検知することが可能である。また、本発明に係る燃料電池システムは、第二電流検知部が検知した電流が第二の所定値を上回った場合に、排出部が、電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を燃料電池システム外に排出することを停止することにより、効率よく循環経路を循環するアノードオフガスを入れ替えることが可能であり、電気化学水素ポンプへの印加電圧が急激に上昇すること防止し、燃費悪化や不具合につながらなくすることが可能である。
【0015】
更に、電圧検知部が、入口極の上流側と下流側の間に生じる電圧降下を検知することにより、不純物が蓄積されたか否かを検知することが可能である。具体的に説明すると、入口極に水素が多く存在する部分は、電解質膜でのプロトン剥離現象が起こり、電子が入口極から出口極へ流れる。一方、入口極に水素が少なく存在する部分は、電子が入口極から出口極へ流れにくい。その結果、入口極の上流側と下流側とで存在する水素の量が異なることにより電位差が生じ、電圧降下が起こるため、入口極に水素が存在するか否かを検知することが可能である。従って、電圧検知部が検知した電圧降下がある場合は、電圧検知部が検知した入口極の部分は水素が存在する。一方、電圧検知部が検知した電圧降下がない場合は、電圧検知部が検知した入口極の部分は水素が少なく、電気化学水素ポンプのアノードオフガス中の不純物の濃縮終了を検知することが可能である。以上により、本発明に係る燃料電池システムは、電圧検知部が検知した電圧降下がない場合に、電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を燃料電池システム外に排出することにより、効率よく循環経路を循環するアノードオフガスを入れ替えることが可能であり、電気化学水素ポンプへの印加電圧が急激に上昇すること防止し、燃費悪化や不具合につながらなくすること
が可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃費悪化や不具合につながらない安定した燃料電池システムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】本発明の実施例1に係る燃料電池システムにおける電気化学水素ポンプの概略構成図である。
【図3】本発明の実施例1に係る燃料電池システムにおける電気化学水素ポンプの電子の移動を表す概略構成図である。
【図4】本発明の実施例1に係る燃料電池システムの電気化学水素ポンプにおける、入口極の上流から下流までの水素濃度を表すグラフである。
【図5】本発明の実施例2に係る燃料電池システムの電気化学水素ポンプにおける、入口極の上流から下流までの水素濃度を表すグラフである。
【図6】本発明の実施例4に係る燃料電池システムにおける電気化学水素ポンプの電子の移動を表す概略構成図である。
【図7】本発明の実施例4に係る燃料電池システムにおける電気化学水素ポンプの電子の移動を表す概略構成図である。
【図8】本発明の実施例4に係る燃料電池システムにおける、入口極の上流から下流までの水素濃度と電圧を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、本発明の実施例に係る燃料電池システム100について、図面に基づいて説明する。以下に示す実施例は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
<燃料電池システムの構成>
本発明の実施例1に係る燃料電池システム100の各構成について図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態に係る燃料電池システム100は、移動体である車両の駆動装置である駆動モータ(以下、単に「モータ」という。)6に対して電力を供給する供給源として、船舶やロボット等の車両以外の移動体での電力供給源として、移動は行わないが電力の供給を受ける必要がある物に対する電力供給源として採用が可能である。
【0020】
図1は、本発明に係る燃料電池システム100の概略構成を示す図である。この燃料電池システム100は、セル部5が積層された固体高分子型の燃料電池1を有し、燃料としての水素ガスを貯蔵しており、燃料電池1のアノード電極に水素供給路18を介して燃料を供給する高圧水素タンク9が設けられている。この高圧水素タンク9には、その内圧を調整するための調整弁10が設けられ、また高圧水素タンク9から水素供給路18への供給は、供給バルブ11の開閉に従って行われる。
【0021】
そして、燃料電池1のアノード電極に供給された水素は、後述するカソード電極への供給酸化剤との電気化学反応に供されることで、該燃料電池での発電が行われる。その後、燃料電池1のアノード電極から排出されるアノードオフガスは、オフガス排出路14に送り込まれ、気液分離ユニット2によって、アノードオフガスを液体と気体とに分離する。気液分離ユニット2によって分離された液体は、排液路25を通って排液バルブ24により調節されて外部へ排水される。また、気液分離ユニット2によって分離された気体は、このアノードオフガスには供給された水素であって燃料電池1での電気化学反応に供される使用されなかった水素が含まれている。この水素が含まれているアノードオフガスを効
率的に使用するために、バイパス路17が、気液分離ユニット2によって分離された気体が流れるオフガス排出路14から水素供給路18に向かって分岐して設けられる。また、バイパス路17を設けることによって、オフガス排出路14から排出されたアノードオフガスを、バイパス路17及び燃料供給路18を介してアノード電極に循環する循環経路3が形成される。このバイパス路17にはポンプ16が設置されており、これによりバイパス路17を流れる水素を含むアノードオフガスの流量が調整される。更に、循環経路3を流れるアノードオフガスの不純物を取り除くために、電気化学水素ポンプ26が循環経路3に接続される。尚、不純物は、燃料電池1のカソード電極からアノード電極側へと電解質膜を透過してきた窒素ガスや、燃料ガス中に含まれる不純物等である。電気化学水素ポンプ26は、電流が流れることで、気液分離ユニット2によって気体に分離されたアノードオフガスに含まれる水素を選択的にバイパス路17に透過させ、不純物を透過させないことにより、アノードオフガス中の不純物を濃縮する。電気化学水素ポンプ26によって濃縮されたアノードオフガス中の不純物は、排気バルブ20(排出部)により調節されて外部へ排気される。電気化学水素ポンプ26の構成の説明は、後述する。
【0022】
次に、燃料電池1のカソード電極には、酸化剤としての空気を供給するコンプレッサ12が設けられている。コンプレッサ12によって圧縮空気が空気供給路13を介して、燃料電池1へ供給される。そして、上記供給された水素とこの圧縮空気中の酸素が燃料電池1の電解質膜を介して電気化学反応を起こすことで、発電が行われる。以下に、その電気化学反応の反応式を示す。
(アノード電極):2H2 → 4H++4e-
(カソード電極):O2+4H++4e- → 2H2
【0023】
このようにカソード電極側では、発電のための電気化学反応において水が生成され、これを以下では単に「生成水」と呼ぶ。カソード電極からのオフガスは、オフガス排出路21に送り込まれ、その一部は減圧装置15を経て外部に排気される。また、このカソード電極側のオフガスには、上記生成水が含まれる。尚、上述したように、カソード電極に供給された空気中の窒素ガスが、アノード電極へと電解質膜を透過してしまう。そして、この窒素ガスが、アノードオフガスの不純物の一部となる。
【0024】
このように構成される燃料電池システム100には、システム全体の運転制御を司る電子制御ユニット(ECU)8が備えられている。ECU8は、図示しない出力要求受付部(燃料電池システム100が車両に搭載される場合には、アクセルペダルの開度を検知する開度センサがこれに相当する。)が受け付けた出力要求に基づいて、燃料電池出力を制御するべく、コンプレッサ12による圧縮空気の供給や、高圧水素タンク9からの水素の供給が制御される。そして、ECU8は、電気化学水素ポンプ26に設けられた第一電流検知部30及び第二電流検知部31からデータを取得し、排気バルブ20を制御することにより、電気化学水素ポンプ26による不純物の濃縮や、濃縮された不純物の排気を調整する。尚、ECU8によってプログラムが実行されることで、上記制御が行われる。
【0025】
電気化学水素ポンプ26の構成について説明する。図2は、本発明の実施例に係る燃料電池システム100の電気化学水素ポンプ26の概略構成図である。図3は、本発明の実施例に係る燃料電池システム100の電気化学水素ポンプ26の電子の移動を表す概略構成図である。電気化学水素ポンプ26は、図2及び図3に示すように、入口極27、電解質膜28、出口極29、第一電流検知部30、及び第二電流検知部31を有する。電気化学水素ポンプ26は、燃料電池1から排出され、気液分離ユニット2によって気体に分離されたアノードオフガスの一部又は全部が供給されるように循環経路3に接続される。
【0026】
先ず、入口極27について説明する。入口極27は、気液分離ユニット2によって気体と液体とに分離された気体のアノードオフガスが流入する電極である。また、入口極27
に流入したアノードオフガス中の水素は、図2及び図3に示すように、入口極27上で水素イオンと電子に分かれるプロトン剥離現象が起こる。出口極29は、電解質膜28を挟んで入口極27と対向して設けられ、電解質膜28を透過した水素イオンが電子を受け取り、水素ガスを生成し、その水素ガスを循環経路3によってアノード電極側へ供給する。次に、第一電流検知部30は、入口極27においてアノードオフガスが流れる上流側の電流を検知することが可能である。第二電流検知部31は、入口極27においてアノードオフガスが流れる下流側の電流を検知することが可能である。第一電流検知部30及び第二電流検知部31によって検知した電流は、ECU8に送信される。そして、ECU8は、電気化学水素ポンプ26に設けられた第一電流検知部30及び第二電流検知部31からデータを取得し、排気バルブ20を制御することにより、電気化学水素ポンプ26によるアノードオフガス中の不純物の濃縮と、濃縮された不純物の排気を調整する。
【0027】
次に、ECU8によって行われる排気バルブ20の制御について、図4に基づいて説明する。図4は、本発明の実施例1に係る燃料電池システム100の電気化学水素ポンプ26における、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表すグラフである。先ず、図4の(a)は、電気化学水素ポンプ26から排気バルブ20によって不純物の排出が完了し、不純物の濃縮を開始する際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。具体的に説明すると、入口極27に水素が存在する部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こる。従って、入口極27の下流側に水素が存在する場合は、電解質膜28でのプロトン剥離現象により、第二電流検知部31が電流を検知する。尚、入口極27の下流側から排気バルブ20によって不純物が排出され、入口極27の上流側からアノードオフガスが流れ込むため、入口極27の上流側には既に水素が存在し、第一電流検知部30は電流を検知する。以上により、本発明の実施例1に係る燃料電池システム100は、電気化学水素ポンプ26の第一電流検知部30及び第二電流検知部31が電流を検知した場合、排気バルブ2による不純物の排出が完了したことを示し、ECU8によって、開いていた排気バルブ20が閉じられる。そして、電気化学水素ポンプ26は、不純物の濃縮を開始する。
【0028】
次に、図4の(b)は、電気化学水素ポンプ26がアノードガス中の不純物を濃縮している際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。上述したように、入口極27に水素が存在する部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こり、電流が流れるが、入口極27に水素が少ない部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こりにくいため、電流が流れない。従って、入口極27の下流側から不純物が蓄積されるため、入口極27の下流側は水素が少なく、入口極27の下流側の電流を検知する第二電流検知部31は、電流を検知しない。一方、入口極27の上流側は水素が存在するため、入口極27の上流側の電流を検知する第一電流検知部30は、電流を検知する。尚、排気バルブ2は閉じた状態を維持している。
【0029】
次に、図4の(c)は、電気化学水素ポンプ26が不純物の濃縮を完了し、不純物の排出を開始する際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。入口極27に水素が少ない部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こらないため、電流が流れない。従って、入口極27の下流側から蓄積された不純物が、入口極27の上流側まで蓄積された際は、入口極27の上流側も水素が少ない。従って、入口極27の下流側の電流を検知する第二電流検知部31だけでなく、入口極27の上流側の電流を検知する第一電流検知部30も、電流を検知しない。以上により、電気化学水素ポンプ26は、ECU8によって、閉じた状態の排気バルブ2が開けられる。
【0030】
次に、図4の(d)は、不純物を濃縮した電気化学水素ポンプ26が、排気バルブ2によって不純物を排出している際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。入口極27に水素が存在する部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こり、電流が
流れるが、入口極27に水素が少ない部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こらないため、電流が流れない。従って、入口極27の下流側から不純物が排出され、入口極27の上流側からアノードオフガスが流れ込むため、入口極27の上流側は水素が存在し、入口極27の上流側の電流を検知する第一電流検知部30は、電流を検知する。一方、入口極27の下流側は、不純物が蓄積されており水素が少ないため、入口極27の下流側の電流を検知する第二電流検知部31は、電流を検知しない。尚、排気バルブ2は開いた状態を維持している。
【0031】
以上により、図4の(a)から図4の(d)を繰り返すことによって、ECU8によって排気バルブ20の制御が行われる。その結果、本発明の実施例1に係る燃料電池システム100は、効率よく循環経路を循環するアノードオフガスを入れ替えることが可能であり、電気化学水素ポンプへの印加電圧が急激に上昇すること防止し、燃費悪化や不具合につながらなくすることが可能である。
【実施例2】
【0032】
図5は、本発明の実施例2に係る燃料電池システム100の電気化学水素ポンプ26における、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。以下、本発明の実施例1に係る燃料電池システム100と異なる点を中心に説明する。
【0033】
本発明の実施例2に係る燃料電池システム100における電気化学水素ポンプ26は、入口極27における不純物の濃縮の完了を検知したい部位の電流を検知するために、第一電流検知部30を有し、第二電流検知部31を有しない。第一電流検知部30は、入口極27の上流側の電流を検知することにする。
【0034】
先ず、図5の(a)は、電気化学水素ポンプ26から排気バルブ20によって不純物の排出が完了した際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。入口極27における不純物の排出が完了することによって、入口極27がアノードオフガスに入れ替えられ、入口極27の上流から下流まで水素濃度が高い状態になる。尚、本発明の実施例2に係る燃料電池システム100は、電気化学水素ポンプ26への印加電圧と予め設定した閾値とに基づき、入口極27における不純物の排出の完了を判定する。
【0035】
図5の(b)は、電気化学水素ポンプ26がアノードガス中の不純物の濃縮を開始する際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。不純物を濃縮するために、ECU8によって、開いていた排気バルブ20が閉じられる。そして、入口極27の下流側から不純物が蓄積されるため、入口極27の下流側の水素濃度が低下している。
【0036】
図5の(c)は、電気化学水素ポンプ26がアノードガス中の不純物を濃縮している際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。上述したように、入口極27の下流側から不純物が蓄積されるため、入口極27の下流側から中流に向かって水素濃度が低下している。
【0037】
図5の(d)は、電気化学水素ポンプ26がアノードガス中の不純物の濃縮が完了し、不純物の排出を開始する際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。入口極27に水素が少ない部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こりにくいため、電流が流れない。従って、第一電流検知部30が検知する入口極27の電流が0になった場合は、入口極27の下流側から第一電流検知部30が検知する入口極27まで水素濃度が0であることを示し、不純物がある程度蓄積された事を示す。以上により、本発明の実施例2に係る燃料電池システム100は、第一電流検知部30が検知する電流が0となった場合は、不純物の濃縮が完了したことを示し、ECU8によって、閉まっていた排気バルブ20が開けられ、不純物の排出が開始される。そして、図5の(a)から図5の(d)
を繰りかえすことによって、ECU8による排気バルブ20の制御が行われる。
【0038】
以上により、本発明の実施例2に係る燃料電池システム100は、効率よく不純物を排出することが可能であり、電気化学水素ポンプへの印加電圧が急激に上昇すること防止し、燃費悪化や不具合につながらなくすることが可能である。
【実施例3】
【0039】
本発明の実施例3に係る燃料電池システム100における電気化学水素ポンプ26は、入口極27における不純物の排出の完了を検知したい部位の電流を検知するために、第二電流検知部31を有し、第一電流検知部30を有しない。第二電流検知部31は、入口極27の下流側の電流を検知することにする。
【0040】
本発明の実施例3に係る燃料電池システム100は、電気化学水素ポンプ26への印加電圧と予め設定した閾値とに基づき、入口極27における不純物の濃縮の完了を判定する。入口極27における不純物の濃縮が完了したら、閉じられた排気バルブ20が、ECU8によって開けられ、不純物の排出が開始される。尚、入口極27に水素が少ない部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こりにくいため、電流が流れない。従って、不純物の濃縮が完了した際、入口極27の下流側は水素が少ないため、第二電流検知部31が検知する入口極27の電流は0である。
【0041】
また、不純物の排出が開始される際、入口極27の下流側から不純物が排出され、入口極27の上流側からアノードオフガスが流れ込まれる。従って、入口極27の上流側から下流側へ徐々に水素濃度が高くなるため、入口極27の下流側に水素が存在する場合は、入口極27の上流側から下流側まで水素が存在する状態である。以上により、第二電流検知部31が検知した入口極27の下流側の電流が第二の所定値以上である場合、入口極27の下流に水素が存在することから、入口極27の上流から下流まで水素が存在し、入口極27に蓄積された不純物の排出が完了したことを示す。そして、不純物の排出が完了したら、開けられた排気バルブ20が、ECU8によって閉じられ、不純物の濃縮が開始される。
【0042】
以上により、本発明の実施例3に係る燃料電池システム100は、入口極27における水素の存在を直接検知することにより、水素排出量の精度を上げ、水素の排出を防ぎ、効率よく不純物の排出の完了を検知することが可能であり、電気化学水素ポンプへの印加電圧が急激に上昇すること防止し、燃費悪化や不具合につながらなくすることが可能である。
【実施例4】
【0043】
図6及び図7は、本発明の実施例4に係る燃料電池システム100における電気化学水素ポンプ26の電子の移動を表す概略構成図である。図8は、本発明の実施例4に係る燃料電池システム100における、入口極27の上流から下流までの水素濃度と電圧を表す。水素濃度は実線で表され、電圧は破線で表される。
【0044】
本発明の実施例4に係る燃料電池システム100における電気化学水素ポンプ26は、第一電流検知部30と第二電流検知部31の代わりに、電圧検知部32を有する。電圧検知部32は、図6及び図7に示すように、入口極27の中流側と下流側の間に生じる電圧降下を検知する。尚、電圧検知部32は、入口極27の上流側と下流側の間に生じる電圧降下を検知することができれば、何処に設けられてもよい。
【0045】
図8の(a)は、電気化学水素ポンプ26から排気バルブ20によって不純物の排出が完了した際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度と、電圧を表す。入口極27に
おける不純物の排出が完了することによって、入口極27がアノードオフガスに入れ換えられ、入口極27の上流から下流まで水素濃度が高い状態である。また、入口極27に水素が多く存在する部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こり、電子が入口極27から出口極29へ流れる。一方、入口極27に水素が少なく存在する部分は、電子が入口極27から出口極29へ流れにくい。従って、入口極27の上流側と下流側とで存在する水素の量が異なることにより電位差が生じ、電圧降下が起こるため、入口極27に水素が存在するか否かを検知することが可能である。
【0046】
図8の(b)は、電気化学水素ポンプ26がアノードガス中の不純物の濃縮を開始する際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度と、電圧を表す。不純物を濃縮するために、開いていた排気バルブ20が閉じられる。そして、入口極27の下流側から不純物が蓄積されるため、入口極27の下流側の水素濃度が低下している。尚、入口極27の中流側と下流側の間で存在する水素の量が異なることにより電位差が生じ、電圧降下が起こり、電圧検知部32が電圧を検知する。
【0047】
図8の(c)は、電気化学水素ポンプ26がアノードガス中の不純物を濃縮している際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。上述したように、入口極27の下流側から不純物が蓄積されるため、入口極27の下流側から中流にかけて水素濃度が低下している。尚、入口極27の中流側と下流側の間で存在する水素の量が異なることにより電位差が生じ、電圧降下が起こり、電圧検知部32が電圧を検知する。
【0048】
図8の(d)は、電気化学水素ポンプ26がアノードガス中の不純物の濃縮が完了し、不純物の排出を開始する際の、入口極27の上流から下流までの水素濃度を表す。入口極27に水素が少ない部分は、電解質膜28でのプロトン剥離現象が起こりにくい。従って、入口極27の中流から下流側に水素が少ない場合はプロトン剥離現象が起こらないため、電圧検知部32が電圧を検知する入口極27の中流から下流が出口極29へ電子が流れず、電圧降下が起こらず、電圧検知部32が電圧を検知しない。また、入口極27の中流から下流側に水素が少ない場合は、不純物がある程度蓄積された事を示す。以上により、本発明の実施例4に係る燃料電池システム100は、電圧検知部32が検知する電圧降下がない場合は、不純物の濃縮が完了したことを示し、ECU8によって、閉まっていた排気バルブ20が開けられ、不純物の排出が開始される。そして、図8の(a)から図8の(d)を繰りかえすことによって、ECU8による排気バルブ20の制御が行われる。
【0049】
ここで、本発明の実施例4に係る燃料電池システム100における電気化学水素ポンプ26は、図7に示すように、集電部位を設ける場所が、入口極27の下流側よりも上流側の方が望ましい。電気化学水素ポンプ26は、入口極27の下流側から排気バルブ20によって不純物が排出され、入口極27の上流側からアノードオフガスが流れ込む。その結果、入口極27の下流側よりも上流側の方が、水素濃度が存在し易く、プロトン剥離現象が起こりやすい。従って、集電部位が入口極27の上流側の方が、電子が流れやすいため、集電部位に適している。
【符号の説明】
【0050】
100・・・燃料電池システム
1・・・燃料電池
2・・・気液分離ユニット
3・・・循環経路
5・・・セル部
6・・・駆動モータ
8・・・ECU
9・・・燃料タンク部
10・・・調整弁
11・・・供給バルブ
12・・・コンプレッサ
13・・・空気供給路
14・・・オフガス排出路
15・・・減圧装置
16・・・ポンプ
17・・・バイパス路
18・・・燃料供給路
20・・・排気バルブ
21・・・オフガス排出路
24・・・排液バルブ
25・・・排液路
26・・・電気化学水素ポンプ
27・・・入口極
28・・・電解質膜
29・・・出口極
30・・・第一電流検知部
31・・・第二電流検知部
32・・・電圧検知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む燃料ガスが燃料電池での電気化学反応のためにアノード電極側へ供給され、且つ該燃料電池からのアノードオフガスの一部又は全部が再び電気化学反応のために該燃料電池のアノード電極側に循環させるための循環経路と、
前記燃料電池から排出されるアノードオフガスが流入する入口極と、該入口極と対向して設けられ、該入口極からの水素を前記循環経路によって前記アノード電極側へ供給する出口極と、該入口極と該出口極の間に設けられ、該入口極からの水素を該出口極へ透過する電解質膜と、を有する電気化学水素ポンプであって、該入口極と該出口極との間に電流が流れることで、該入口極を流れるアノードオフガスに含まれる水素を選択的に透過させ、該アノードオフガス中の不純物を濃縮し、該燃料電池から排出されるアノードオフガスの一部又は全部が供給されるように前記循環経路に接続される電気化学水素ポンプと、
前記電気化学水素ポンプによる水素透過の結果、該電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を前記燃料電池システム外に前記入口極の下流側から排出する排出部と、を備える燃料電池システムであって、
前記電気化学水素ポンプは、
前記入口極においてアノードオフガスが流れる上流側の電流を検知する第一の電流検知部であって、検知した電流が第一の所定値を下回った場合に、排出部が前記電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を燃料電池システム外に排出する第一電流検知部と、
前記入口極においてアノードオフガスが流れる下流側の電流を検知する第二の電流検知部であって、検知した電流が第二の所定値を上回った場合に、排出部が不純物の排出を停止する第二電流検知部と、
前記入口極の上流側と下流側の間に生じる電圧降下を検知する電圧検知部であって、検知した電圧降下がない場合に、前記電気化学水素ポンプにおいて濃縮された不純物を燃料電池システム外に排出する電圧検知部との内、少なくとも一つを有する、
燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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