説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池システム全体の複雑化や、操作の煩雑化を抑制しつつ、電位の上昇に起因する電極劣化を抑える。
【解決手段】第1および第2の燃料電池スタックを備える燃料電池システムは、負荷要求が基準の負荷要求よりも小さいときには、第1の燃料電池スタックから第2の燃料電池スタックへと酸化ガス接続路を介して酸化ガスを流入させると共に、第2の燃料電池スタック内を通過した酸化ガスを酸化ガス循環路へと流入させることによって、第1および第2の燃料電池スタックの間で酸化ガスを循環させ、負荷要求が前記基準の負荷要求を上回るときには、少なくとも第2の燃料電池スタック内を通過した酸化ガスを酸化ガス排出路へと流入させるように、酸化ガスが流れる状態を切り替えるガス流切り替え制御部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池においては、その電極電位が高まったときには、触媒電極であるカソードが劣化することが知られている。このような高電位を抑制するための構成の一つとして、従来、燃料電池の運転を停止あるいは一時的に負荷を開放して待機する際に、カソードに供給する酸化ガスを不活性ガスに切り替えると共に、燃料電池の出力側を抵抗で短絡させてカソード電位を低下させる構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平01−128362
【特許文献2】特開2006−049134
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように不活性ガスを用いて酸化ガスを切り替えパージする場合には、燃料電池システムにおいて、別途不活性ガスを用意する必要があり、燃料電池システムが複雑化してしまう。特に、燃料電池システムを車両の駆動用電源として用いる場合のように、燃料電池システムを搭載可能なスペースに制限がある場合には、不活性ガスを別途用意する構成は、採用し難い場合がある。また、不活性ガスを用いる場合には、不活性ガスを補充して常に用意しておく必要があり、操作が煩雑化するという問題も生じる。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池システム全体の複雑化や、操作の煩雑化を抑制しつつ、電位の上昇に起因する電極劣化を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0007】
[適用例1]
負荷要求に対応する電力を発電する燃料電池システムであって、
電解質膜と該電解質膜上に設けられた電極とを有する発電体を積層して成る第1および第2の燃料電池スタックと、
前記第1の燃料電池スタック内を通過した、酸素を含有する酸化ガスを、前記第2の燃料電池スタックへと導く酸化ガス接続路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記酸化ガスを、前記第1の燃料電池スタックへと導く酸化ガス循環路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記酸化ガスを、前記燃料電池システム外部へと導く酸化ガス排出路と、
前記負荷要求が、予め定めた基準の負荷要求よりも小さいときには、前記第1の燃料電池スタックから前記第2の燃料電池スタックへと前記酸化ガス接続路を介して前記酸化ガスを流入させると共に、前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記酸化ガスを前記酸化ガス循環路へと流入させることによって、前記第1および第2の燃料電池スタックの間で前記酸化ガスを循環させ、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回るときには、少なくとも前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記酸化ガスを前記酸化ガス排出路へと流入させるように、前記酸化ガスが流れる状態を切り替えるガス流切り替え制御部とを備える燃料電池システム。
【0008】
適用例1に記載の燃料電池システムでは、負荷要求が基準の負荷要求よりも小さいときには、第1の燃料電池スタックおよび第2の燃料電池スタックの間で酸化ガスを循環させるため、負荷要求が小さいにも関わらず、各燃料電池スタックにおける出力電圧値を抑えることができる。そのため、負荷要求が小さく出力電圧が高くなることに起因する電極の劣化を抑制することができる。また、第1の燃料電池スタックと第2の燃料電池スタックとの間で酸化ガスを循環させることにより、速やかに酸化ガス中の酸素濃度を低下させることができるため、負荷要求が小さいときに、低電圧運転と酸化ガス流量の確保とを両立することが可能になる。
【0009】
[適用例2]
負荷要求に対する電力を発電する燃料電池システムであって、
電解質膜と該電解質膜上に設けられた電極とを有する発電体を積層して成る第1および第2の燃料電池スタックと、
前記第1の燃料電池スタック内を通過した、水素を含有する燃料ガスを、前記第2の燃料電池スタックへと導く燃料ガス接続路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを、前記第1の燃料電池スタックへと導く燃料ガス循環路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを、前記燃料電池システム外部へと導く燃料ガス排出路と、
前記負荷要求が、予め定めた基準の負荷要求よりも小さいときには、前記第1の燃料電池スタックから前記第2の燃料電池スタックへと前記燃料ガス接続路を介して前記燃料ガスを流入させると共に、前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを前記燃料ガス循環路へと流入させることによって、前記第1および第2の燃料電池スタックの間で前記燃料ガスを循環させ、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回るときには、少なくとも前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを前記燃料ガス排出路へと流入させるように、前記燃料ガスが流れる状態を切り替えるガス流切り替え制御部とを備える燃料電池システム。
【0010】
適用例2に記載の燃料電池システムでは、負荷要求が基準の負荷要求よりも小さいときには、第1の燃料電池スタックおよび第2の燃料電池スタックの間で燃料ガスを循環させるため、負荷要求が小さいにも関わらず、各燃料電池スタックにおける出力電圧値を抑えることができる。そのため、負荷要求が小さく出力電圧が高くなることに起因する電極の劣化を抑制することができる。また、第1の燃料電池スタックと第2の燃料電池スタックとの間で燃料ガスを循環させることにより、速やかに燃料ガス中の水素濃度を低下させることができるため、負荷要求が小さいときに、低電圧運転と酸化ガス流量の確保とを両立することが可能になる。
【0011】
[適用例3]
適用例1記載の燃料電池システムであって、さらに、前記第1の燃料電池スタック内を通過した、水素を含有する燃料ガスを、前記第2の燃料電池スタックへと導く燃料ガス接続路と、前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを、前記第1の燃料電池スタックへと導く燃料ガス循環路と、前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを、前記燃料電池システム外部へと導く燃料ガス排出路と、を備え、前記ガス流切り替え制御部は、さらに、前記負荷要求が、予め定めた基準の負荷要求よりも小さいときには、前記第1の燃料電池スタックから前記第2の燃料電池スタックへと前記燃料ガス接続路を介して前記燃料ガスを流入させると共に、前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを前記燃料ガス循環路へと流入させることによって、前記第1および第2の燃料電池スタックの間で前記燃料ガスを循環させ、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回るときには、少なくとも前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを前記燃料ガス排出路へと流入させるように、前記燃料ガスが流れる状態を切り替える燃料電池システム。適用例3に記載の燃料電池システムによれば、負荷要求が基準の負荷要求よりも小さいときには、第1の燃料電池スタックおよび第2の燃料電池スタックの間で、酸化ガスの循環に加えて燃料ガスの循環も行なう。そのため、負荷要求が小さいときに、電極の劣化を抑制すると共に、低電圧運転と酸化ガス流量の確保とを両立する効果を、さらに高めることができる。
【0012】
[適用例4]
適用例1ないし3いずれか記載の燃料電池システムであって、さらに、前記第1および第2の燃料電池スタックにおける出力電圧を検出する電圧検出部と、前記負荷要求が前記基準の負荷要求よりも小さいときに、前記電圧検出部が検出した前記第1および第2の燃料電池スタックにおける出力電圧が、第1の基準値以下となるように、前記第1および第2の燃料電池スタックからの出力を制御する制御部とを備える燃料電池システム。適用例4に記載の燃料電池システムによれば、負荷要求が基準の負荷要求よりも小さいときに、第1および第2の燃料電池スタックにおける出力電圧を第1の基準値以下にするため、出力電圧が第1の基準値を超えることに起因する電極の劣化を抑制することができる。
【0013】
[適用例5]
適用例4に記載の燃料電池システムであって、さらに、前記負荷要求が前記基準の負荷要求よりも小さいときであって、前記第1および第2の燃料電池スタックにおける出力電圧が、前記第1の基準値よりも小さい第2の基準値以下となるときに、前記第1および第2の燃料電池スタックを循環する前記酸化ガスおよび/または燃料ガスに対して、酸素および/または水素を補充する循環ガス補充部を備える燃料電池システム。適用例5に記載の燃料電池システムによれば、第1および第2の燃料電池スタックを循環する酸化ガス中の酸素濃度および/または燃料ガス中の水素濃度が低下しすぎることに起因する不都合を抑制することができる。
【0014】
[適用例6]
適用例2または3に記載の燃料電池システムであって、前記第2の燃料電池スタックは、前記第1の燃料電池スタックよりも、積層される前記発電体の数が少なく形成されると共に、電極の総面積が小さく形成され、前記ガス流切り替え制御部は、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回るときにも、前記燃料ガスを、前記第1の燃料電池スタックから前記第2の燃料電池スタックへと前記燃料ガス接続路を介して流入させる燃料電池システム。適用例6に記載の燃料電池システムによれば、負荷要求が基準の負荷要求を上回るときには、第1の燃料電池スタックから排出された燃料ガスを用いて第2の燃料電池スタックにおいて発電を行なうため、燃料電池システム全体の水素の利用率を向上させることができる。このとき、第2の燃料電池スタックは、第1の燃料電池スタックよりも、積層される発電体の数が少なく電極の総面積が小さいため、第1の燃料電池スタックから排出された燃料ガスを用いて支障なく発電を行なうことが可能になる。
【0015】
[適用例7]
適用例1ないし6いずれか記載の燃料電池システムであって、前記第1および第2の燃料電池スタックは、高分子電解質から成る電解質膜を備える固体高分子型燃料電池であり、前記燃料電池システムは、さらに、前記第1および第2の燃料電池スタックが備える前記電解質膜における含水状態を反映する値を検出する含水状態検出部と、前記負荷要求が前記基準の負荷要求よりも小さい状態から、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回る状態へと変化したときに、前記含水状態検出部の検出結果から、前記電解質膜の含水状態が不十分であると判断されるときには、前記含水状態を反映する値に基づいて、前記第1および第2の燃料電池スタックからの出力を制限する出力制限部とを備える燃料電池システム。適用例7に記載の燃料電池システムによれば、負荷要求が基準の負荷要求を上回る状態に変化して、電解質膜の含水状態が不十分であると判断されるときには、電解質膜における含水状態を反映する値に基づいて出力を制限するため、各スタックが備える電解質膜の含水量が不十分であるときに過大な発電を行なうことによる不都合を抑制することができる。
【0016】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本発明の燃料電池システムを駆動用電源とする移動体などの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
A.装置の全体構成:
図1は、本発明の好適な一実施例である燃料電池システム10の概略構成を表わすブロック図である。燃料電池システム10は、メインスタック20と、サブスタック22と、燃料ガス供給部24と、ブロワ26と、制御部28と、を備えている。なお、本実施例の燃料電池システム10は、車両の駆動用電源として車載されて用いられている。
【0018】
メインスタック20およびサブスタック22は、それぞれ、電解質膜と、電解質膜上に形成された電極と、電極との間でガス流路を形成するガスセパレータと、を備える単セルを、複数積層することによって形成されている。電極とガスセパレータとの間に形成されるガス流路としては、水素を含有する燃料ガスの流路であってアノード上に形成されるセル内燃料ガス流路と、酸素を含有する酸化ガスの流路であってカソード上に形成されるセル内酸化ガス流路と、が形成される。本実施例のメインスタック20およびサブスタック22は、いずれも固体高分子型の燃料電池であって、単セルが備える電解質膜は、固体高分子材料、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸を備えるフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜とすることができ、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。メインスタック20およびサブスタック22の各々においては、内部を積層方向に貫通する複数の図示しない流体流路が形成されている。具体的には、各単セル内に形成されるセル内燃料ガス流路に対して燃料ガスを分配する燃料ガス供給マニホールドと、各セル内燃料ガス流路から排出される燃料ガスが集合する燃料ガス排出マニホールドと、各単セル内に形成されるセル内酸化ガス流路に対して酸化ガスを分配する酸化ガス供給マニホールドと、各セル内酸化ガス流路から排出される酸化ガスが集合する酸化ガス排出マニホールドと、が形成されている。
【0019】
ここで、メインスタック20は、燃料電池システム10に要求される電力の大部分を発電している。また、メインスタック20よりも発電量が小さいサブスタック22は、メインスタック20に比べて積層される単セルの数が少なく形成されると共に、サブスタック22が備える単セルは、メインスタック20が備える単セルに比べて電極面積が小さく形成されている。すなわち、サブスタック22は、メインスタック20に比べて電極の総面積が小さく形成されている。ここで、本実施例の燃料電池システム10から電力の供給を受ける負荷としては、主負荷と副負荷とがある。主負荷は、車両の駆動用モータを含む。副負荷は、主負荷に対して燃料電池システム10から電力供給するのに伴って電力を消費する装置、例えば、ブロワ26や制御部28を含む。
【0020】
燃料ガス供給部24は、メインスタック20およびサブスタック22に対して燃料ガスを供給する装置である。燃料ガスとして純度の高い水素ガスを用いる場合には、燃料ガス供給部24は、例えば、高圧の水素ガスを充填した水素ボンベ、あるいは水素吸蔵合金を内部に有する水素タンクを備えることとすればよい。また、燃料ガス供給部24が、炭化水素やアルコールなどの改質燃料を貯蔵する燃料タンクと、この改質燃料を改質して水素含有ガスを生成する改質器とを備えることとして、燃料ガスとして改質ガスを用いることとしても良い。例えば、燃料ガス供給部24が水素ボンベを備える場合には、水素ボンベから水素が流入する流路における圧力に基づいて、水素ボンベ出口に設けた弁の開度を調節することにより、供給燃料ガス量を制御することができる。また、燃料ガス供給部24が水素吸蔵合金を有する水素タンクを備える場合には、さらに、水素タンクに対する加熱量を調節することにより、供給燃料ガス量を制御することができる。また、燃料ガス供給部24が改質器を備える場合には、改質器に供給する改質燃料量および改質器の加熱量を調節することにより、供給燃料ガス量を制御することができる。
【0021】
本実施例の燃料電池システム10では、燃料ガス供給部24から供給される燃料ガスは、まず、メインスタック20に供給された後に、サブスタック22へと供給される。以下に、燃料ガスの流路の接続状態を説明する。図1に示すように、燃料ガス供給部24とメインスタック20との間は、燃料ガス供給路30によって接続されている。具体的には、燃料ガス供給路30は、メインスタック20内の既述した燃料ガス供給マニホールドに接続されており、各セル内燃料ガス流路に対して燃料ガスを供給可能になっている。そして、メインスタック20とサブスタック22との間は、燃料ガス接続路32によって接続されている。ここでは、燃料ガス接続路32によって、メインスタック20内の燃料ガス排出マニホールドと、サブスタック22内の燃料ガス供給マニホールドとが接続されており、メインスタック20内で電気化学反応に供された残りの燃料ガスが、サブスタック22へと供給可能になっている。サブスタック22の燃料ガス排出マニホールドには、燃料ガス排出路34が接続されている。
【0022】
さらに、本実施例の燃料電池システム10では、燃料ガス排出路34と燃料ガス供給路30とを接続する燃料ガス循環路36が設けられている。この燃料ガス循環路36は、後述する待機運転時に、メインスタック20とサブスタック22との間で燃料ガスを循環させる際に用いられる。燃料ガス排出路34と燃料ガス循環路36との接続部には、第1切替弁38が設けられており、この第1切替弁38によって、サブスタック22から排出された燃料ガスが燃料電池システム10の外部に排出される状態と、メインスタック20とサブスタック22との間で燃料ガスが循環する状態とを切り替えることができる。さらに、燃料ガス循環路36には、内部を流れるガスに循環駆動力を与える第3ポンプ54が設けられている。
【0023】
ブロワ26は、メインスタック20およびサブスタック22に対して酸化ガスを供給する酸化ガス供給装置である。本実施例の燃料電池システム10では、メインスタック20とサブスタック22の双方に対してブロワ26から酸化ガスを供給可能であると共に、メインスタック20とサブスタック22との間で酸化ガスを循環させることも可能となっている。以下に、酸化ガスの流路の接続状態を説明する。
【0024】
図1に示すように、ブロワ26とメインスタック20との間は、第1酸化ガス供給路40によって接続されている。具体的には、第1酸化ガス供給路40は、メインスタック20内の既述した酸化ガス供給マニホールドに接続されており、各セル内酸化ガス流路に対して酸化ガスを供給可能になっている。また、第1酸化ガス供給路40から分岐して、第1酸化ガス供給路40と、サブスタック22内の酸化ガス供給マニホールドと、を接続する第2酸化ガス供給路41が設けられている。さらに、燃料電池システム10では、メインスタック20内の酸化ガス排出マニホールドから酸化ガスが排出される第1酸化ガス排出路42が設けられている。この第1酸化ガス排出路42は、第2切替弁43を介して、第2酸化ガス供給路41へと接続している。また、上記第1酸化ガス排出路42は、第2切替弁43を介して、さらに、燃料電池システム10の外部へと酸化ガスを導く第2酸化ガス排出路44にも接続されている。したがって、第2切替弁43を切り替えることにより、メインスタック20から第1酸化ガス排出路42へと排出された酸化ガスが、第2酸化ガス排出路44を介して燃料電池システム10外部へと排出される状態と、第2酸化ガス供給路41を介してサブスタック22へと供給される状態とを、切り替えることができる。また、第2切替弁43を切り替えることによって、ブロワ26から供給される酸化ガスが、第1酸化ガス供給路40を介してメインスタック20のみに供給される状態と、さらに第2酸化ガス供給路41を介してサブスタック22にも供給される状態とを切り替えることができる。さらに、燃料電池システム10では、第1酸化ガス供給路40において第1ポンプ50が設けられると共に、第2酸化ガス供給路41において第2ポンプ52が設けられている。ブロワ26からメインスタック20およびサブスタック22に対して酸化ガスが供給される際には、各々のスタックに供給される酸化ガス量は、ブロワ26の駆動量と、第1ポンプ50および第2ポンプ52の駆動量によって調節される。
【0025】
さらに、燃料電池システム10では、サブスタック22内の酸化ガス排出マニホールドに接続して酸化ガスを燃料電池システム10の外部へと導く第3酸化ガス排出路45が設けられており、第3酸化ガス排出路45には、第3切替弁46が設けられている。さらに、この第3切替弁46を介して、第3酸化ガス排出路45と第1酸化ガス供給路40とを接続する循環流路47が設けられている。したがって、第3切替弁46を切り替えることにより、サブスタック22から第3酸化ガス排出路45へと排出された酸化ガスが、燃料電池システム10外部へと排出される状態と、循環流路47および第1酸化ガス供給路40を介してメインスタック20へと供給される状態とを、切り替えることができる。
【0026】
制御部28は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、CPU、ROM、RAM、および、各種の信号を入出力する入出力ポート等を備える。この制御部28は、負荷要求に係る情報(例えば図示しない車速センサやアクセル開度センサから検出信号)や、燃料電池システム10の状態を検出するための種々のセンサ(例えば各スタックの内部温度を検出する温度センサ)からの検出信号を取得して、燃料電池システム10の各部に駆動信号を出力する。具体的には、例えば、燃料ガス供給部24やブロワ26、あるいはポンプ50,52,54に駆動信号を出力して所望の電力を得るために必要なガスを燃料電池に対して供給可能にすると共に、第1切替弁38、第2切替弁43、第3切替弁46に対して駆動信号を出力して、ガスが流れる状態を所定の状態に変更する。
【0027】
さらに、図1では記載を省略しているが、燃料電池システム10は、メインスタック20およびサブスタック22の内部温度を調節するための冷却装置を備えている。冷却装置は、メインスタック20およびサブスタック22の内部に形成される冷媒の流路と、冷媒を冷却するためのラジエータと、各スタック内の冷媒流路とラジエータとの間で冷媒を循環させる流路と、を備えている。燃料電池では発電に伴って熱が生じるため、各スタックの内部に形成した冷媒流路に冷媒を流すことにより、各スタックの内部温度を所定の範囲に維持している。
【0028】
なお、本実施例では、メインスタック20とサブスタック22とに酸化ガスを供給する流れを並列にする場合であっても、単一のブロワ26を用いているが、各々のスタックに対して異なるブロワを用意しても良い。また、本実施例の燃料電池システム10において、さらにバッテリを設け、メインスタック20および/またはサブスタック22によってバッテリを充電可能としたり、主負荷および/または副負荷に対して、バッテリからも電力を供給可能としても良い。
【0029】
B.駆動走行時の動作:
車両が駆動力を発生しつつ走行を行なっている時、すなわち、主負荷である車両の駆動用モータにおいて負荷要求があるときには、主負荷および副負荷における負荷要求に応じて、メインスタック20およびサブスタック22において発電が行なわれる。このような駆動走行時には、燃料ガスは、メインスタック20からサブスタック22へと順次流れると共に、制御部28が第1切替弁38を切り替えることによって、サブスタック22から排出された燃料ガスは、燃料電池システム10の外部へと排出される。また、駆動走行時には、第2切替弁43および第3切替弁46が切り替えられることによって、酸化ガスは、メインスタック20とサブスタック22とに対して別々に供給される。すなわち、メインスタック20は、第1酸化ガス供給路40から酸化ガスを供給され、メインスタック20から排出された酸化ガスは、第1酸化ガス排出路42、第2切替弁43および第2酸化ガス排出路44を介して燃料電池システム10の外部へと排出される。そして、サブスタック22は、第2酸化ガス供給路41から酸化ガスを供給され、サブスタック22から排出された酸化ガスは、第3酸化ガス排出路45を介して燃料電池システム10の外部へと排出される。このとき、燃料ガス供給部24、ブロワ26および第1ポンプ50、第2ポンプ52が駆動されて、負荷要求の合計量に応じた発電が可能となるように、燃料ガス及び酸化ガスの供給が行なわれる。
【0030】
本実施例では、車両走行時において、上記のようにメインスタック20で発電に供した残りの燃料ガスをサブスタック22へと供給しているため、燃料ガス中の水素の利用率を向上させることができる。ここで、燃料電池において発電を行なう際には、通常は、負荷要求に応じた発電を行なうために理論的に必要とされるガス量よりも多くのガスを、燃料電池に対して供給することによって、燃料電池が備える各単セルに対するガスの分配状態を良好に維持している。そのため、このように理論的に必要とされるガス量に対する実際に供給したガス量の比(以下、ストイキ比と呼ぶ)を大きくしてメインスタック20に対して燃料ガスを供給すると、メインスタック20から排出される燃料ガス中には、発電に用いられなかった多くの水素が残留することになる。本実施例では、このようにメインスタック20から排出された燃料ガス中に残留する水素を、さらにサブスタック22において発電に用いるため、メインスタック20における燃料ガス流量を確保して水素欠乏を抑制しつつ、外部に廃棄される水素量を削減することで、システム全体としての水素利用率を向上させている。ここで、本実施例の燃料電池システム10が備えるサブスタック22は、既述したように、メインスタック20に比べて、積層される単セルの数が少ない。そのため、メインスタック20内を経由して発電に用いられることでガス量が減少した燃料ガスが供給されても、サブスタック22において各単セルへのガスの分配不良を抑制することができる。また、サブスタック22は、既述したようにメインスタック20に比べて電極の総面積が小さいため、メインスタック20を経由して水素量が減少した燃料ガスを用いても、支障なく発電を行なうことが可能になる。さらに、メインスタック20から排出された燃料ガスをサブスタック22で用いることにより、たとえサブスタック22において燃料ガス量が不足して分配不良が生じる場合があったとしても、大部分の電力を発電しているメインスタック20がサブスタック22から独立しているため、ガス不足に起因する影響をシステム全体として充分に抑えることが可能になる。
【0031】
C.待機運転時の動作:
図2は、燃料電池システム10の稼働中に、制御部28において所定の時間間隔で繰り返し実行される待機運転時処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンが起動されると、制御部28は、まず、燃料電池システム10が待機運転中であるか否か、すなわち、主負荷である駆動用モータにおける負荷要求がゼロである(アクセル開度がゼロである)か否かを判断する(ステップS100)。待機運転中ではないとき、すなわち、車両が駆動走行中である場合には、そのまま本ルーチンを終了する。
【0032】
ステップS100において待機運転中であると判断されたときには、制御部28のCPUは、燃料ガスおよび酸化ガスの流路の接続状態が、待機運転の状態として定められた所定の状態となるように、切替弁38,43,46に対して駆動信号を出力する(ステップS110)。待機運転の状態として定められた所定の状態とは、燃料ガスおよび酸化ガスの各々が、メインスタック20とサブスタック22との間で循環する状態をいう。すなわち、燃料ガスの流路においては、メインスタック20およびサブスタック22内を通過してサブスタック22から燃料ガス排出路34へと排出された燃料ガスは、第1切替弁38および燃料ガス循環路36を介して燃料ガス供給路30へと導かれ、再びメインスタック20へと供給される。また、酸化ガスの流路においては、メインスタック20内を通過した酸化ガスは、第1酸化ガス排出路42、第2切替弁43および第2酸化ガス供給路41を介して、サブスタック22に供給される。そして、サブスタック22内を通過した酸化ガスは、第3酸化ガス排出路45、第3切替弁46および循環流路47を介して、第1酸化ガス供給路40へと導かれ、再びメインスタック20へと供給される。ステップS110においては、車両が駆動走行中である状態から待機運転へと変化して最初に待機運転時処理ルーチンが実行されるときには、上記のようにガスが循環する状態となるように制御部28から各切替弁に対して駆動信号が出力され、その後に再び待機運転時処理ルーチンが実行されるときには、切替弁46の切り替えが既に行なわれているため、引き続き次のステップに進む。なお、上記のように燃料ガスおよび酸化ガスの各々が、メインスタック20とサブスタック22との間で循環する状態になったときには、第2ポンプ52と第3ポンプ54の各々によって、酸化ガスあるいは燃料ガスに対して循環駆動力が与えられる。なお、このように燃料ガスおよび酸化ガスが2つのスタック間を循環するように切りかえたときには、本実施例では、燃料ガス供給部24およびブロワ26の駆動は停止している。後述するように、ガスを循環させる動作は、流路中の水素濃度あるいは酸素濃度を低下させるためのものであるため、循環運転中には、水素濃度あるいは酸素濃度が充分な速さで低下可能となるように、少なくとも、ガス流路に対する新たな燃料ガスあるいは酸化ガスの供給を充分に抑制する必要がある。
【0033】
上記のようにガス流れを循環状態にすると共に、制御部28のCPUは、メインスタック20およびサブスタック22における出力電圧が第1の基準値以下となるように出力制御を行なう(ステップS120)。第1の基準値とは、メインスタック20およびサブスタック22のカソードが劣化しない電圧の上限として、予め定めた値である。図3は、燃料電池における一般的な電流−電圧特性を表わす説明図である。図3において、グラフAは、定常状態における電流−電圧特性を示している。図3に示すように、一般に燃料電池は、負荷要求がゼロのときに最も端子間電圧が大きくなり(図中、OCVと示す)、出力電流が大きくなるほど出力電圧は低下する。ここで、燃料電池の出力電圧が高いときには、カソードが劣化することが知られている。具体的には、カソードが、白金などの触媒金属を担持するカーボン粒子を備える場合には、電圧が高くなると担体であるカーボン粒子の酸化が起こる。また、触媒金属の凝縮が起こる場合もある。上記した第1の基準値は、このような劣化が充分に抑えられるときの電圧として定められている。
【0034】
図3では、このような第1の基準値を、V1と表わしており、このときの出力電流値を、I1と表わしている。待機運転となったときに最初にステップS120を実行する際には、出力電流値をI1とすることにより、出力電圧をV1にする。本実施例では、制御部28、ブロワ26、第2ポンプ52および第3ポンプ54のように、燃料電池システム10における発電に伴って電力を消費する装置(副負荷)に対して電力供給することにより、出力電流値をI1としている。なお、上記のような副負荷に対して電力供給するだけでは出力電圧をV1以下にできない場合には、例えばさらにバッテリを充電することによって、出力電圧をV1以下にすればよい。また、副負荷が要する電力を供給しようとすると出力電流値I1に対応する電力では不足する場合には、不足分はバッテリによって補えばよい。
【0035】
メインスタック20とサブスタック22との間で燃料ガスおよび酸化ガスを循環させながら発電を行なうと、循環するガス中の水素濃度あるいは酸素濃度が次第に低下する。また、発電に伴ってカソードで生じた生成水がガス中に気化することにより、循環するガス中の水蒸気濃度が上昇する。また、燃料電池の出力電圧は、ガス中の電極活物質(燃料ガス中の水素あるいは酸化ガス中の酸素)の濃度が低くなるほど低下する。図3中のグラフBは、グラフAよりもガス中の電極活物質濃度が低いときの電流−電圧特性の一例を表わし、図3中のグラフCは、グラフBよりもさらにガス中の電極活物質濃度が低下したときの電流−電圧特性の一例を表わす。出力電圧がV1となるように出力電流値をI1にして発電を行なうと、ガスを循環させることによって、燃料電池における出力電圧は次第に低下する。
【0036】
次に、制御部28は、燃料電池システム10に備えられた、メインスタック20およびサブスタック22における出力電圧を検出するための図示しない電圧計から検出信号を取得する(ステップS130)。そして、検出した電圧値が、第2の基準値以下であるか否かを判断する(ステップS140)。ここで、第2の基準値とは、第1の基準値よりも低い値であって、出力電流値をI1としたときに、ガス中の電極活物質の濃度が許容できる下限の状態となったときの電圧値として予め定めて制御部28に記憶しておいた値である。ガス中の電極活物質濃度が低くなりすぎると、燃料電池から安定した出力を得ることが困難となる場合があるため、このような不都合が生じない基準値として、第2の基準値が定められている。ステップS140において、出力電圧値が第2の基準値を上回るときには、ステップS130に戻って、電圧値の検出の動作と、第2の基準値との比較の動作とを繰り返す。
【0037】
ステップS140において、出力電圧が第2の基準値以下であると判断されたときには、制御部28は、燃料ガスおよび/または酸化ガスの循環する流路に対して、新たなガスを追加する処理を行なって(ステップS150)、本ルーチンを終了する。具体的には、酸化ガスを追加する場合には、ブロワ26を駆動すれば良く、燃料ガスを追加する場合には、燃料ガス供給部24を駆動すれば良い。なお、ステップS150におけるガスの追加の動作は、循環するガス中の電極活物質濃度を上昇させるためのものであるため、ガスが循環する流路に対する単なるガスの追加ではなく、循環するガスの一部を排出して、循環するガスの一部の入れ替えとしても良い。このように循環するガス中の電極活物質濃度を上昇させることにより、燃料電池からの出力電圧が上昇する。なお、ステップS150における新たなガスを追加する動作は、ガスの追加により燃料電池からの出力電圧が上昇したときに、出力電圧が第1の基準値を超えないように行なえばよい。
【0038】
なお、上述した待機運転時の動作に係る説明では、メインスタック20とサブスタック22とを区別することなく出力電圧に基づく制御を説明したが、実際には、各々のスタックに関して、上記した制御を行なえばよい。例えば、ステップS120では、双方のスタックにおける出力電圧が第1の基準値以下となるように、出力制御を行なえばよい。また、ステップS140では、少なくとも一方のスタックにおいて出力電圧が第2の基準値以下となったときには、ステップS150のガスの追加を行なえばよい。このような制御を行なう際の第1の基準値および第2の基準値は、メインスタック20とサブスタック22とでは、同じ値としても良く、異なる値としても良い。
【0039】
D.再駆動走行時の動作:
図4は、燃料電池システム10が待機運転中に、所定の時間間隔で繰り返し実行される再駆動走行時処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンが起動されると、制御部28は、まず、燃料電池システム10に対して、駆動要求があったか否かを判断する(ステップS200)。具体的には、制御部28は、アクセル開度センサの検出信号を取得して、アクセルの踏み込みが成されたか否かを判断する。駆動要求が無く、待機運転が継続されているときには、そのまま本ルーチンを終了する。
【0040】
ステップS200において駆動要求があったと判断したときには、制御部28のCPUは、燃料ガスおよび酸化ガスの流路の接続状態が、待機運転時に対応する循環状態から解除されて駆動走行時の状態に戻るように、切替弁38,43,46に対して駆動信号を出力する(ステップS210)。これにより、燃料ガスは、メインスタック20からサブスタック22へと順次供給されると共に、第1切替弁38が切り替えられることによって、サブスタック22から排出された燃料ガスは、燃料電池システム10の外部へと排出されるようになる。また、酸化ガスは、第2切替弁43および第3切替弁46が切り替えられることによって、メインスタック20とサブスタック22とに対して別々に供給されるようになる。
【0041】
次に、制御部28のCPUは、メインスタック20およびサブスタック22の各々の内部温度を検出する図示しない温度センサから検出信号を取得すると共に、メインスタック20およびサブスタック22における抵抗値を検出する(ステップS220)。この段階では、燃料電池システム10からは待機運転時と同等の出力がなされている。なお、本実施例では、ステップ220における抵抗値の検出は、交流インピーダンス法により行なっている。
【0042】
そして、制御部28のCPUは、検出した抵抗値が、基準の抵抗値以下であるか否かを判断する(ステップS230)。この基準の抵抗値とは、電解質膜の含水量が充分であると判断するための基準値として予め定めて、制御部28に記憶しておいたものである。すなわち、燃料電池においては、電解質膜の含水量が少ないほど抵抗値が大きくなるため、ここでは、各スタックにおける抵抗値を指標として、電解質膜の含水状態を判断している。
【0043】
少なくともいずれかのスタックにおいて、検出した抵抗値が基準の抵抗値を超える場合には、電解質膜の含水量が不十分であると判断され、制御部28のCPUは、検出した温度に応じた量のガスが各スタックに供給されるように、燃料ガス供給部24、ブロワ26およびポンプ50,52を駆動制御する。また、検出した抵抗値に応じた電流値となるように出力制御を行なう(ステップS250)。
【0044】
ここで、燃料電池にガスを供給する際に、燃料電池の内部温度が高い場合には、供給するガスの流量が多いほど、電解質膜からガスへと水分が奪われやすく、電解質膜が乾きやすくなる。そのため、本実施例では、内部温度が高いほど供給ガス流量が少なくなるように、各スタックの内部温度に応じて供給ガス量の上限を定めている。具体的には、制御部28は、スタック温度に応じて供給することができる燃料ガスおよび酸化ガスの最大流量をマップとして予め記憶しており、ステップS250においてCPUは、このマップを参照して、駆動要求に関わらず供給ガス流量が上記最大流量以下となるように、供給ガス量を設定する。
【0045】
また、燃料電池において発電を行なわせる際に、電解質膜の含水量が不十分であるときに過大な発電を行なわせると、予期しない電圧低下等の不具合を生じる可能性がある。そのため、本実施例では、電流量に対する抵抗値の上限値を予め定めてマップとして記憶しておき、検出した抵抗値が、駆動要求を賄うための電流値に対応する抵抗値の上限値を超えるときには、抵抗値が上限値を超えないように出力電流を駆動要求に対応する電流値よりも低く抑える制御を行なっている。
【0046】
なお、本実施例では、ステップS230において抵抗値を基準値と比較することにより、電解質膜の乾燥状態を判断しているが、異なる構成としても良い。例えば、検出した燃料電池温度が予め定めた基準温度よりも低いときには電解質膜の含水量が充分であると判断し、基準温度以上であるときには電解質膜の含水量が不十分であると判断することも可能である。第1および第2の燃料電池スタックが備える電解質膜における含水状態を反映する値に基づいて電解質膜の含水量を判断できれば良く、また、電解質膜の含水量を反映する値に基づいて、供給ガス量を制限し、あるいは各スタックからの出力を制限すればよい。
【0047】
その後、制御部28のCPUは、ステップS220に戻り、各スタックの温度および抵抗値の取得と、検出した抵抗値と基準値との比較を行ない、抵抗値が大きければ、スタック温度に応じたガス流量の上限値と、抵抗値に応じた出力電流の上限値の範囲内で、発電制御が行なわれる。このような制御を行なうことにより、燃料電池システム10において負荷要求に応じた電力を発電することができない場合には、負荷要求に対して不足する電力は、例えばバッテリから補っても良く、また、負荷に対する電力供給を負荷要求よりも小さく抑えても良い。
【0048】
上記のような制御を繰り返して発電を行なうと、生成水量が次第に増大し、電解質膜の含水量が増えるため、抵抗値は徐々に低下する。したがって、ステップS250における抵抗値に応じた電流値がより大きくなり、駆動要求に近い、より多くの電力を出力可能になる。そして、さらに抵抗値が低下して、やがてステップS230において、抵抗値が基準の抵抗値以下であると判断されるようになる。ステップS230において、検出した抵抗値が基準の抵抗値以下であると判断されたときには、電解質膜の含水量が充分になったと判断されるため、制御部28のCPUは、負荷要求に応じた電力を燃料電池システム10から得るための通常の処理を開始して(ステップS240)、本ルーチンを終了する。
【0049】
以上のように構成された本実施例の燃料電池システム10によれば、車両の待機運転時には、副負荷に対して電力供給するための微小な量の発電を継続するため、端子間電圧を、OCVよりも低く、具体的には基準値V1以下とすることができる。そのため、待機運転中のカソードの劣化を抑制することができる。また、このような待機運転時には、酸化ガスおよび燃料ガスを、メインスタック20とサブスタック22との間で循環させることにより、速やかにガス中の酸素濃度あるいは水素濃度を低下させることができるため、低負荷運転時に、低電圧運転とガス流量の確保とを両立することが可能になる。
【0050】
本実施例のサブスタック22は、既述したように、駆動走行時には、メインスタック20からされた排出された燃料ガスを有効利用して水素の利用率を向上させるために用いられている。このようなサブスタック22を備えるシステムにおいて、待機運転時にはメインスタック20とサブスタック22との間でガスを循環させて、両方のスタックで酸素や水素を消費することにより、単一のスタックのみを有する場合に比べて、ガス中の酸素濃度あるいは水素濃度を低下させるスピードを速めることができる。したがって、待機運転時においてガス流量をより多くしても、ガス中の酸素濃度あるいは水素濃度を充分に低くすることができる。このようにガス流量を確保することにより、スタック内におけるガスの分配不良に起因する不具合の発生を抑制することができる。また、ガス中の酸素濃度あるいは水素濃度を低下させることにより、出力電流値に対して電圧値を低下させることができるため、待機運転時における発電量が過大となることを抑制できる。なお、本実施例によれば、このようなガス中の酸素濃度あるいは水素濃度の低下を、流路の切り替えという簡便な構成により実現しているため、ガス中の電極活物質濃度を抑えるために別途不活性ガスなどを用意する必要が無く、システム構造の複雑化や操作の煩雑化を抑えることができる。このように、本実施例によれば、メインスタック20に加えてサブスタック22を設けて、駆動走行時にはメインスタック20からサブスタック22へと燃料ガスを順次流して燃料ガス中の水素の利用率を向上させるシステムにおいて、待機運転時には酸化ガスおよび燃料ガスを循環させることで、サブスタック22を有効に利用して、待機運転時における電極劣化を効果的に抑制できる。
【0051】
また、待機運転時にメインスタック20とサブスタック22との間で酸化ガスおよび燃料ガスを循環させることにより、循環するガス中の水蒸気量を、2つのスタックが発電することにより生じる生成水を用いて、効率よく増加させることができる。したがって、燃料電池をより高温で運転する場合であっても、待機運転中における電解質膜の含水量の低下を抑制することができる。車両が駆動走行しており、燃料電池システム10が主負荷である駆動用モータに対しても電力供給しているときには、発電により生じる生成水の量も多くなるため、燃料電池の運転温度が高くても、生成水によって電解質膜の含水量の低下を抑制することができる。しかしながら、待機運転時のように発電量が少ないときには、生じる生成水量も少ないため、生成水によって電解質膜の含水量を維持することが困難になる。本実施例では、待機運転時には、メインスタック20とサブスタック22との間でガスを循環させてガス中の水蒸気量を高めているため、充分な生成水が発生する駆動運転時だけでなく、生成水量が少なくなる待機運転時にも電解質膜の含水量を確保可能となり、全体として燃料電池の運転温度をより高く設定することが可能になる。燃料電池の運転温度をより高くしても支障なく運転可能となることにより、各スタックを冷却して運転温度を制御するための冷却装置(例えば、ラジエータと、スタックおよびラジエータの間で冷媒を循環させる冷媒流路など)を、小型化し、あるいは不要とすることが可能になる。
【0052】
また、上記のように、待機運転時には2つのスタックが発電することにより生じる生成水を用いて、循環するガス中の水蒸気量を効率よく増加させることができるため、燃料電池スタックに供給される酸化ガスおよび/または燃料ガスに対する加湿量を抑えることができる。すなわち、生成水量が多い駆動走行時だけでなく、生成水量が少ない待機運転時にも、電解質膜の含水量を維持可能となるため、燃料電池スタックに供給するガスに対する加湿量を削減し、あるいは無加湿としても、電解質膜の含水量低下を抑えて支障なく発電を継続することが可能になる。そのため、燃料電池スタックに供給するガスを加湿する加湿装置を小型化し、あるいは不要とすることが可能になり、システム構成を簡素化することができる。
【0053】
なお、本実施例の燃料電池システム10では、待機運転時に酸化ガスおよび燃料ガスを循環させるために用いるサブスタック22は、駆動走行時にも発電しているため、駆動走行から待機運転へと移行する際に、サブスタック22は直ちに定常状態で発電を行なうことができる、すなわち、待機運転時に移行したときに、ガスを循環させるためのサブスタック22を特別に起動する必要がないため、ガス中の酸素あるいは水素の消費、および、生成水を生じることによる酸化ガスおよび燃料ガスの加湿を、直ちに良好に行なうことができる。
【0054】
さらに、本実施例の燃料電池システム10によれば、待機運転から再び駆動走行へと移行するときには、抵抗値などにより電解質膜の含水量をモニタしながら、定められた上限の範囲内で発電を行なっている。そのため、電解質膜が水分不足の状態で過剰な発電を行なわせることによる不都合を抑制することができる。
【0055】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0056】
E1.変形例1:
実施例では、待機運転時には、酸化ガスと燃料ガスの双方を循環させるように流路の接続状態を変更したが、異なる構成としても良い。待機運転時のような低負荷運転時に、少なくとも一方のガスを2つの燃料電池スタックの間で循環させるならば、循環するガスの流量を確保しつつガス中の電極活物質濃度を速やかに低下させることができるため、電圧を抑制しつつ発電量を抑えることにより、触媒劣化を抑えることができる。また、循環するガス中の水蒸気量を確保することにより、電解質膜の含水量を確保することが可能になる。
【0057】
E2.変形例2:
実施例では、燃料電池システム10を車載して車両の駆動用電源として用いたが、異なる構成としても良い。車両の駆動用モータのように変動する負荷の他、一定の大きさの負荷を主負荷として、主負荷がゼロになる待機運転時において、酸化ガスおよび/または燃料ガスを循環させる場合にも、実施例と同様の効果が得られる。
【0058】
また、酸化ガスおよび/または燃料ガスが循環するような流路の切り替えは、主負荷がゼロになる待機運転以外の場合に適用しても良い。燃料電池システム10から電力供給を受ける負荷全体の大きさが所定値以下になることにより、燃料電池における電圧値が、電極劣化を生じ得る程度に高くなる可能性がある場合であれば、本発明を適用することにより同様の効果が得られる。
【0059】
E3.変形例3:
実施例では、メインスタック20およびサブスタック22は、固体高分子型燃料電池としたが、異なる構成としても良い。固体高分子型燃料電池であれば、本発明を適用することにより、既述したように高温運転を可能にすると共に加湿器を削減できる効果を奏するが、他種の燃料電池に本願を適用しても良い。この場合にも、待機運転時などの低負荷運転時に、電圧が高すぎることに起因する触媒劣化を抑制する同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】燃料電池システム10の概略構成を表わすブロック図である。
【図2】待機運転時処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図3】燃料電池における電流−電圧特性を表わす説明図である。
【図4】再駆動走行時処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
10…燃料電池システム
20…メインスタック
22…サブスタック
24…燃料ガス供給部
26…ブロワ
28…制御部
30…燃料ガス供給路
32…燃料ガス接続路
34…燃料ガス排出路
36…燃料ガス循環路
38…第1切替弁
40…第1酸化ガス供給路
41…第2酸化ガス供給路
42…第1酸化ガス排出路
43…第2切替弁
44…第2酸化ガス排出路
45…第3酸化ガス排出路
46…第3切替弁
47…循環流路
50…第1ポンプ
52…第2ポンプ
54…第3ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷要求に対応する電力を発電する燃料電池システムであって、
電解質膜と該電解質膜上に設けられた電極とを有する発電体を積層して成る第1および第2の燃料電池スタックと、
前記第1の燃料電池スタック内を通過した、酸素を含有する酸化ガスを、前記第2の燃料電池スタックへと導く酸化ガス接続路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記酸化ガスを、前記第1の燃料電池スタックへと導く酸化ガス循環路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記酸化ガスを、前記燃料電池システム外部へと導く酸化ガス排出路と、
前記負荷要求が、予め定めた基準の負荷要求よりも小さいときには、前記第1の燃料電池スタックから前記第2の燃料電池スタックへと前記酸化ガス接続路を介して前記酸化ガスを流入させると共に、前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記酸化ガスを前記酸化ガス循環路へと流入させることによって、前記第1および第2の燃料電池スタックの間で前記酸化ガスを循環させ、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回るときには、少なくとも前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記酸化ガスを前記酸化ガス排出路へと流入させるように、前記酸化ガスが流れる状態を切り替えるガス流切り替え制御部と
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
負荷要求に対する電力を発電する燃料電池システムであって、
電解質膜と該電解質膜上に設けられた電極とを有する発電体を積層して成る第1および第2の燃料電池スタックと、
前記第1の燃料電池スタック内を通過した、水素を含有する燃料ガスを、前記第2の燃料電池スタックへと導く燃料ガス接続路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを、前記第1の燃料電池スタックへと導く燃料ガス循環路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを、前記燃料電池システム外部へと導く燃料ガス排出路と、
前記負荷要求が、予め定めた基準の負荷要求よりも小さいときには、前記第1の燃料電池スタックから前記第2の燃料電池スタックへと前記燃料ガス接続路を介して前記燃料ガスを流入させると共に、前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを前記燃料ガス循環路へと流入させることによって、前記第1および第2の燃料電池スタックの間で前記燃料ガスを循環させ、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回るときには、少なくとも前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを前記燃料ガス排出路へと流入させるように、前記燃料ガスが流れる状態を切り替えるガス流切り替え制御部と
を備える燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記第1の燃料電池スタック内を通過した、水素を含有する燃料ガスを、前記第2の燃料電池スタックへと導く燃料ガス接続路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを、前記第1の燃料電池スタックへと導く燃料ガス循環路と、
前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを、前記燃料電池システム外部へと導く燃料ガス排出路と、を備え、
前記ガス流切り替え制御部は、さらに、前記負荷要求が、予め定めた基準の負荷要求よりも小さいときには、前記第1の燃料電池スタックから前記第2の燃料電池スタックへと前記燃料ガス接続路を介して前記燃料ガスを流入させると共に、前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを前記燃料ガス循環路へと流入させることによって、前記第1および第2の燃料電池スタックの間で前記燃料ガスを循環させ、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回るときには、少なくとも前記第2の燃料電池スタック内を通過した前記燃料ガスを前記燃料ガス排出路へと流入させるように、前記燃料ガスが流れる状態を切り替える燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記第1および第2の燃料電池スタックにおける出力電圧を検出する電圧検出部と、
前記負荷要求が前記基準の負荷要求よりも小さいときに、前記電圧検出部が検出した前記第1および第2の燃料電池スタックにおける出力電圧が、第1の基準値以下となるように、前記第1および第2の燃料電池スタックからの出力を制御する制御部と
を備える燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記負荷要求が前記基準の負荷要求よりも小さいときであって、前記第1および第2の燃料電池スタックにおける出力電圧が、前記第1の基準値よりも小さい第2の基準値以下となるときに、前記第1および第2の燃料電池スタックを循環する前記酸化ガスおよび/または燃料ガスに対して、酸素および/または水素を補充する循環ガス補充部を備える燃料電池システム。
【請求項6】
請求項2または3記載の燃料電池システムであって、
前記第2の燃料電池スタックは、前記第1の燃料電池スタックよりも、積層される前記発電体の数が少なく形成されると共に、電極の総面積が小さく形成され、
前記ガス流切り替え制御部は、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回るときにも、前記燃料ガスを、前記第1の燃料電池スタックから前記第2の燃料電池スタックへと前記燃料ガス接続路を介して流入させる
燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか記載の燃料電池システムであって、
前記第1および第2の燃料電池スタックは、高分子電解質から成る電解質膜を備える固体高分子型燃料電池であり、
前記燃料電池システムは、さらに、
前記第1および第2の燃料電池スタックが備える前記電解質膜における含水状態を反映する値を検出する含水状態検出部と、
前記負荷要求が前記基準の負荷要求よりも小さい状態から、前記負荷要求が前記基準の負荷要求を上回る状態へと変化したときに、前記含水状態検出部の検出結果から、前記電解質膜の含水状態が不十分であると判断されるときには、前記含水状態を反映する値に基づいて、前記第1および第2の燃料電池スタックからの出力を制限する出力制限部と
を備える燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−55927(P2010−55927A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219467(P2008−219467)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】