燃料電池システム
【課題】フラッディングの発生を抑制して安定した発電を実施しつつ、燃費の悪化を抑制する。
【解決手段】燃料電池スタック10と、アノードガス通路20と、カソードガス通路30と、コントローラ40とを備え、反応ガスを燃料電池10に供給して発電する燃料電池システム1は、燃料電池10の発電電流に対してフラッディングが抑制できる目標反応ガス流量を、その燃料電池の経時変化度合に応じて算出する目標反応ガス流量算出手段を備える。
【解決手段】燃料電池スタック10と、アノードガス通路20と、カソードガス通路30と、コントローラ40とを備え、反応ガスを燃料電池10に供給して発電する燃料電池システム1は、燃料電池10の発電電流に対してフラッディングが抑制できる目標反応ガス流量を、その燃料電池の経時変化度合に応じて算出する目標反応ガス流量算出手段を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池システムは、発電電流と反応ガス流量との関係をマップとして備え、そのマップに基づいて反応ガス流量を調整し、フラッディングを未然に防止していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−190843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の燃料電池システムは、一義的に定められたマップによって反応ガス流量を調整していた。そのため、燃料電池の経時変化によってフラッディングの発生条件が変化してしまうとフラッディングの発生を抑制できないという問題点があった。また、このような問題点に対応するには予め反応ガス流量を過度に多く設定しておく必要があり燃費が悪化するという問題点があった。
【0005】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであり、フラッディングの発生を抑制して安定した発電を実施しつつ、燃費の悪化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段によって前記課題を解決する。本発明は、反応ガスを燃料電池に供給して発電する燃料電池システムであって、燃料電池の発電電流に対してフラッディングが抑制できる目標反応ガス流量を、その燃料電池の経時変化度合に応じて算出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、燃料電池の経時変化に応じてフラッディングを抑制できる最適な目標反応ガス流量を燃料電池スタックに供給できる。そのため、フラッディングの発生を抑制して安定した発電を実施しつつ、過度に大量の反応ガスを供給することもないので燃費の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】単セルの断面の一部を示す図である。
【図3】発電時間と限界SRとの関係を示した図である。
【図4】第1実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図5】第1実施形態による目標カソードガス流量の算出方法について説明するフローチャートである。
【図6】発電量と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図7】発電回数と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図8】第4実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図9】第5実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図10】第6実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
燃料電池は電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とで挟み、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)を供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
【0011】
アノード電極 : 2H2 →4H+ +4e- …(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(2)
この(1)(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
【0012】
このような燃料電池を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態による燃料電池システム1の概略構成図である。
【0014】
燃料電池システム1は、燃料電池スタック10と、アノードガス通路20と、カソードガス通路30と、コントローラ40と、を備える。
【0015】
燃料電池スタック10は、アノード電極とカソード電極とを備えた膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下「MEA」という)の両面にセパレータを配置させた単セルを、複数積層して構成される。単セルの詳細については、図2を参照して後述する。
【0016】
アノードガス通路20は、燃料電池スタック10のアノードガス入口孔10a及びアノードガス出口孔10bに接続される。アノードガス通路20は、燃料電池スタック10の上流側に燃料タンク21と調圧弁22とを備え、燃料電池スタック10の下流側に循環ポンプ23とパージ弁24とを備える。
【0017】
燃料タンク21は、燃料電池スタック10に供給するアノードガス(水素)を高圧状態で貯蔵する。
【0018】
調圧弁22は、燃料タンク11の圧力を適当な圧力に減圧調整する。
【0019】
循環ポンプ23は、アノードガスを循環させる。循環ポンプ23の下流には循環流路25が設けられて、燃料電池スタック10から排出された未反応の反応ガスを再度燃料電池スタック10に供給する。
【0020】
パージ弁24は、アノードガス通路20中に存在する窒素などの不純ガスや液水を系外へパージする。
【0021】
カソードガス通路30は、燃料電池スタック10のカソードガス入口孔10c及びカソードガス出口孔10dに接続される。カソードガス通路30は、燃料電池スタック10の上流側に、コンプレッサ31を備え、燃料電池スタック10の下流側に、圧力調整弁32を備える。
【0022】
コンプレッサ31は、燃料電池スタック10にカソードガス(空気)を圧送して供給する。
【0023】
圧力調整弁32は、燃料電池スタック10に供給するカソードガスの供給圧を調整する。
【0024】
コントローラ40は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ40には、燃料電池スタック10の運転状態を検出する種々のセンサからの信号が入力される。例えば、燃料電池スタック10を構成する全ての単セル11の電圧を検出する電圧センサ41からの信号が入力される。コントローラ40は、これらの入力信号に基づいてコンプレッサ31などを制御し、燃料電池スタック10に供給する反応ガス、すなわちカソードガス及びアノードガスの流量を制御する。
【0025】
以下では、図2を参照して、燃料電池スタック10を構成する単セル11について詳しく説明する。
【0026】
図2は、単セル11の断面の一部を示す図である。
【0027】
単セル11は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下「MEA」という)12の表裏両面にそれぞれセパレータ100が配置されて構成される。
【0028】
MEA12は、固体高分子電解質膜13と、アノード電極14と、カソード電極15とを備える。MEA12は、固体高分子電解質膜13の一方の面にアノード電極14を有し、他方の面にカソード電極15を有する。
【0029】
固体高分子電解質膜13は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。固体高分子電解質膜13は、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
【0030】
アノード電極14は、触媒層16とガス拡散層17とを備える。
【0031】
触媒層16は、固体高分子電解質膜13と接する。触媒層16は、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子から形成される。
【0032】
ガス拡散層17は、触媒層16の外側(電解質膜13の反対側)に設けられ、セパレータ100と接する。ガス拡散層17は、充分なガス拡散性および導電性を有する部材によって形成され、例えば、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスで形成される。なお、以下では特に、セパレータ100のリブ(隔壁)112に直接接するガス拡散層17を「リブ下ガス拡散層17a」という。これに対して、セパレータ100のガス流路111に接するガス拡散層17を「流路下ガス拡散層17b」という。
【0033】
カソード電極15もアノード電極14と同様に、触媒層16とガス拡散層17とを備える。
【0034】
セパレータ100は、ガス拡散層17と接する。セパレータ100は、ガス拡散層17と接する側にアノード電極14及びカソード電極15に反応ガスを供給するための複数のガス流路111を有する。ガス流路111は、ガス拡散層17と直接接するリブ112の間に形成される流路である。
【0035】
次に、本実施形態による燃料電池スタック10の作用について、図1及び図2を参照して説明する。
【0036】
図1及び図2に示すように、アノードガスは、アノードガス入口孔10aからアノード電極側のセパレータ(図2左側のセパレータ)100に形成されたガス流路111に流れ込む。アノードガスはガス流路111を流れながらガス拡散層17を通って触媒層16と接する。これにより、アノード電極14では、上記した式(1)の反応が生じる。ガス流路111を流れ、反応に利用されなかった余剰のアノードガスは、アノードガス出口孔10bから外部へ排出される。
【0037】
一方、カソードガスは、カソードガス入口孔10cからカソード電極側のセパレータ(図2右側のセパレータ)100に形成されたガス流路111に流れ込む。カソードガスは、ガス流路111を流れながらガス拡散層17を通って触媒層16と接する。これにより、カソード電極15では、カソードガスと、式(1)の反応で生じたプロトンH+、電子e-とから、式(2)の反応が生じる。
【0038】
カソード反応によって生じた水は、反応に利用されなかった余剰のカソードガスとともにガス流路111を流れてカソードガス出口孔10dから外部へ排出される。そのため、ガス流路後半になるほどカソードガス中の水分濃度が増加する。また、ガス拡散層内の水分濃度も増加する。
【0039】
そうすると、運転条件等によっては、結露した生成水がカソードガス出口孔10dの付近のガス流路111を塞ぎ、水詰まりが発生することがある。これにより、ガス流路111を流れるカソードガスの流れが阻害されて、カソード電極15へのカソードガスの供給量が不十分となる。その結果、ガス拡散性の低下によって濃度過電圧が上昇するフラッディングという現象が起きて発電効率が低下する。
【0040】
また、カソード反応で発生した水は、MEA12を通じて、アノード電極側のセパレータ100に形成されたガス流路111にも拡散していくので、アノード側でもフラッディングが起きて発電効率が低下するおそれがある。
【0041】
したがって、単セル1の発電効率を向上させるためには、フラッディングが発生しないようにカソードガス及びアノードガスの一方又は双方の流量を制御して、単セル1の発電反応で生じる水を速やかに燃料電池スタック10の外部へ排出する必要がある。
【0042】
そのため、従来例ではフラッディングが発生しないように、予め定められた発電電流と反応ガス流量との関係を示したマップに従い反応ガス流量を制御していた。しかしながら、発明者等の鋭意研究により、フラッディングの発生条件は、燃料電池スタック10の経時変化に応じて変化することがわかった。
【0043】
そこで本実施形態では、以下のように反応ガス流量を制御してフラッディングの発生を抑制する。なお、以下では反応ガスとしてカソードガスを例に説明するが、もちろんアノードガスでも構わないし、双方でも構わない。
【0044】
図3は、発電時間と限界ストイキレシオ(以下「限界SR」という)との関係を示した図である。
【0045】
なお、ここでいう発電時間とは、初期状態からこれまでの総発電時間のことをいい、初期状態とはいわゆる新品状態(出荷時、車載時、燃料電池スタック10の組み立て時)のこという。
【0046】
また、限界SRとは、アクセルペダルの踏み込み量や補機作動状況などの運転状態に応じて定まる理論的に反応に必要なカソードガス流量(以下「基本カソードガス流量」という)と、フラッディングの発生を抑制するために最低限必要なカソードガス流量と、の比である。限界SRが大きいときほど、基本カソードガス流量に対してフラッディングの発生を抑制するために必要最低限のカソードガス流量が多くなる。
【0047】
図3に示すように、限界SRは、発電時間が所定時間に達するまでは1より大きく、また、発電時間が増加するにつれて減少する。そして、発電時間が所定時間に達した後は一定となる。なお、本実施形態及び以下の各実施形態では、限界SRが一定となったときの値を1としているが、これは理想状態での一例であり、実際には1よりもやや大きい値で一定となる。
【0048】
このように、フラッディングを抑制するために最低限必要なカソードガス流量は、発電時間の増加とともに減少する。これは、燃料電池スタック10の組み立て初期には、セパレータ100のリブ112とガス拡散層17との接触状態が排水性の観点から最適な状態ではなく、発電回数の増加とともに接触状態が改善されるためと考えられる。
【0049】
すらわち、ガス拡散層17の内部で結露した生成水のうち、流路下ガス拡散層17bの生成水は、ガス流路111を通過する反応ガスによってガス流路111へと持ち出される。一方で、リブ下ガス拡散層17aの生成水は、セパレータ100のリブ112との表面張力等によってガス流路111へと持ち出される。そして、燃料電池スタック10の組み立て初期には、セパレータ100とガス拡散層17との接触状態が排水性の観点から最適な状態ではないために、リブ下ガス拡散層17aからの生成水の持ち出しが阻害されやすい。そのため、フラッディングが発生しやすい状態となり、限界SRが大きくなるものと考えられる。
【0050】
そこで本実施形態では、この限界SRが発電時間とともに減少していくのに合わせて目標ストイキレシオ(以下「目標SR」という)を減少させる。ここで目標SRとは、基本カソードガス流量と、実際に燃料電池スタック10に供給するカソードガス流量(以下「目標カソードガス流量」という)と、の比である。目標SRが大きいときほど、基本カソードガス流量に対して目標カソードガス流量が多くなる。
【0051】
図4は、発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【0052】
図4に示すように、目標SRは限界SRよりも少し大きい値をとるように設定される。これにより、確実にフラッディングの発生を抑制して安定した発電を実施できる。また、必要以上にカソードガスを供給しないので、コンプレッサの消費電力を抑えることができるので燃費の向上を図ることができる。
【0053】
図5は、本実施形態による目標カソードガス流量の算出方法について説明するフローチャートである。コントローラ40は、本ルーチンを燃料電池スタック10の運転中に所定の演算周期(例えば10ms)で実行する。
【0054】
ステップS1において、コントローラ40は、予め実験等によって定められたマップを参照して運転状態に応じて目標発電電流を算出する。燃料電池スタック10の負荷がおきいときほど目標発電電流は大きくなる。
【0055】
ステップS2において、コントローラ40は、予め実験等によって定められたテーブルを参照して目標発電電流に基づいて基本カソードガス流量を算出する。目標発電電流が大きいときほど基本カソードガス流量も大きくなる。
【0056】
ステップS3において、コントローラ40は、図4のテーブルを参照して燃料電池の経時変化に基づいて目標SRを算出する。具体的には発電時間に基づいて目標SRを算出する。
【0057】
ステップS4において、コントローラ40は、基本カソードガス流量に目標SRを乗じて目標カソードガス流量を算出する。
【0058】
以上説明した本実施形態によれば、燃料電池スタック10の経時変化、すなわち発電時間の増加に応じて限界SRが減少していくのに合わせて目標SRを変更させ、かつ、目標SRが限界SRよりも少し大きい値をとるようにした。そして、運転状態に応じて基本カソードガス流量を算出し、その基本カソードガス流量に目標SRを乗じて目標カソードガス流量を算出することとした。
【0059】
これにより、実際に燃料電池スタック10に供給するカソードガス流量(目標カソードガス流量)が、必ず運転状態に応じて定まる理論的に反応に必要なカソードガス流量(基本カソードガス流量)及びフラッディングの発生を抑制するために最低限必要なカソードガス流量よりも大きくなる。
【0060】
そのため、確実にフラッディングの発生を抑制して安定した発電を実施できる。また、必要以上にカソードガスを供給しないので、コンプレッサの消費電力を抑えることができるので燃費の向上を図ることができる。
【0061】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本発明の第2実施形態は、発電量に応じて目標SRを変更させていく点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。なお、以下に示す各実施形態では前述した実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を用いて重複する説明を適宜省略する。
【0062】
図6は、発電量と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。なお、ここでいう発電量とは、初期状態からこれまでの総発電量のことをいうものとする。
【0063】
図6に示すように、限界SRは、発電量が所定量に達するまでは1より大きく、また、発電量が増加するにつれて減少する。そして、発電量が所定量に達した後は一定となる。
【0064】
そこで本実施形態では、この限界SRが発電量とともに減少していくのに合わせて目標SRを減少させる。そして、目標SRが限界SRよりも少し大きい値をとるように設定する。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本発明の第3実施形態は、発電回数に応じて目標SRを変更させていく点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。
【0066】
図7は、発電回数と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。なお、ここでいう発電回数とは、初期状態からこれまでの総発電回数のことをいうものとする。
【0067】
図7に示すように、限界SRは、発電回数が所定回数に達するまでは1より大きく、また、発電回数が増加するにつれて減少する。そして、発電回数が所定回数に達した後は一定となる。
【0068】
そこで本実施形態では、この限界SRが発電回数とともに減少していくのに合わせて目標SRを減少させる。そして、目標SRが限界SRよりも少し大きい値をとるように設定する。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本発明の第4実施形態は、発電時間(発電量、発電回数でもよい)が所定時間に達するまでは目標SRを一律に高SRに設定し、所定時間に達した後は一律に低SRに設定する点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。
【0070】
図8は、本実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【0071】
図8に示すように、本実施形態では発電時間が所定時間に達するまでは目標SRを一律に高SRに設定し、所定時間に達した後は一律に低SRに設定する。
【0072】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果が得られるとともに、目標SRをステップ的に2段階に切り替えるだけなので、発電時間に応じて連続的に目標SRを変化させる場合と比べてカソードガス流量の制御が容易となる。
【0073】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。本発明の第5実施形態は、フラッディングを検出したときには目標SRを増加させる点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。
【0074】
図9は、本実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【0075】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、発電時間に応じて限界SRに合わせて連続的に目標SRを減少させる。このとき、燃料電池スタック10には個体差がある一方で、限界SRは実験等によって予め一律に定められたものなので、固体によっては予め定められた限界SRと実際の限界SRとの間でずれが生じる可能性がある。そのため、実際の限界SRが予め定められた限界SRよりも大きい値をとる可能性があり、目標SRが限界SRを下回ってしまう可能性がある。
【0076】
そこで、本実施形態では、図9に示すように、目標SRが実際の限界SRを下回ったと判断できるとき、すなわちフラッディングが発生していると判定したときは、目標SRを所定値だけ増加させる。そして、増加させた後は、その増加させた目標SRを基準として予め定められた限界SRの傾きに合わせて再び発電時間に応じて目標SRを減少させていく。
【0077】
なお、フラッディングが発生しているか否かは、以下のようにして判定することができる。すなわち、所定電圧以下となる単セル11の近傍にある他の単セル11の電圧が、前記所定電圧より大きい加湿過剰判定電圧より大きければフラッディングが発生していると判定できる。
【0078】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を得られるほか、フラッディングが発生したときには、目標SRの設定値を補正することができるので、より確実にフラッディングの発生を抑制できる。
【0079】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について説明する。本発明の第6実施形態は、所定時間が経過した後に複数回、同一の目標SRでフラッディングが発生したときは、その目標SR又はその目標SRを所定値だけ増加させた値を最終的な目標SRとして設定する点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。
【0080】
図10は、本実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【0081】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、発電時間に応じて限界SRに合わせて連続的に目標SRを減少させる。そして、フラッディングが発生していると判定したときは目標SRを所定値だけ増加させる。このとき、所定時間が経過した後に複数回、同一の目標SRでフラッディングが発生したときは、その目標SR又はその目標SRを所定値だけ増加させた値を最終的な目標SRとして設定する。
【0082】
これにより、第1実施形態と同様の効果を得られるほか、固体ごとに限界SRを把握することができ、その限界SRを目標SRとして設定することができる。そのため、フラッディングの発生を抑制できる必要最低限のカソードガスを供給できるので、より燃費の向上を図ることができる。
【0083】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0084】
例えば、上記各実施形態では燃料電池スタック10の経時変化を表す指標として発電時間、発電量及び発電回数を用いたが、これまでの燃料電池スタック10の運転時間がわかるものであればこれに限られるものではなく、燃料電池システム1の起動停止回数や発電に伴う潤滑回数、乾燥による収縮回数などを燃料電池スタック10の経時変化を表す指標として用いても良い。
【0085】
また、上記各実施形態では燃料電池スタック10の経時変化に応じてカソードガスの流量を制御してフラッディングの発生を抑制していた。しかしながら、アノードガスの流量を制御してフラッディングの発生を抑制しても良いし、カソードガス及びアノードガスの双方の流量を制御してフラッディングの発生を抑制しても良い。このとき、アノードガス流量の減少幅(目標SRの傾きの大きさ)は、カソードガス流量と同じでも良いし、異ならせても良い。
【0086】
また、上記第1実施形態から第3実施形態では、目標SRが限界SRよりも少し大きい値をとるように設定したが、目標SRと限界SRとを同じにしてもかまわない。
【0087】
また、発電時間、発電量及び発電回数の全てを考慮して精度良く燃料電池スタック10の経時変化を求めても良い。
【符号の説明】
【0088】
1 燃料電池システム
10 燃料電池スタック(燃料電池)
S1 目標発電電流算出手段
S2 基本反応ガス流量算出手段
S1〜S4 目標反応ガス流量算出手段
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池システムは、発電電流と反応ガス流量との関係をマップとして備え、そのマップに基づいて反応ガス流量を調整し、フラッディングを未然に防止していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−190843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の燃料電池システムは、一義的に定められたマップによって反応ガス流量を調整していた。そのため、燃料電池の経時変化によってフラッディングの発生条件が変化してしまうとフラッディングの発生を抑制できないという問題点があった。また、このような問題点に対応するには予め反応ガス流量を過度に多く設定しておく必要があり燃費が悪化するという問題点があった。
【0005】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであり、フラッディングの発生を抑制して安定した発電を実施しつつ、燃費の悪化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段によって前記課題を解決する。本発明は、反応ガスを燃料電池に供給して発電する燃料電池システムであって、燃料電池の発電電流に対してフラッディングが抑制できる目標反応ガス流量を、その燃料電池の経時変化度合に応じて算出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、燃料電池の経時変化に応じてフラッディングを抑制できる最適な目標反応ガス流量を燃料電池スタックに供給できる。そのため、フラッディングの発生を抑制して安定した発電を実施しつつ、過度に大量の反応ガスを供給することもないので燃費の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】単セルの断面の一部を示す図である。
【図3】発電時間と限界SRとの関係を示した図である。
【図4】第1実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図5】第1実施形態による目標カソードガス流量の算出方法について説明するフローチャートである。
【図6】発電量と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図7】発電回数と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図8】第4実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図9】第5実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【図10】第6実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
燃料電池は電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とで挟み、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)を供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
【0011】
アノード電極 : 2H2 →4H+ +4e- …(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(2)
この(1)(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
【0012】
このような燃料電池を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態による燃料電池システム1の概略構成図である。
【0014】
燃料電池システム1は、燃料電池スタック10と、アノードガス通路20と、カソードガス通路30と、コントローラ40と、を備える。
【0015】
燃料電池スタック10は、アノード電極とカソード電極とを備えた膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下「MEA」という)の両面にセパレータを配置させた単セルを、複数積層して構成される。単セルの詳細については、図2を参照して後述する。
【0016】
アノードガス通路20は、燃料電池スタック10のアノードガス入口孔10a及びアノードガス出口孔10bに接続される。アノードガス通路20は、燃料電池スタック10の上流側に燃料タンク21と調圧弁22とを備え、燃料電池スタック10の下流側に循環ポンプ23とパージ弁24とを備える。
【0017】
燃料タンク21は、燃料電池スタック10に供給するアノードガス(水素)を高圧状態で貯蔵する。
【0018】
調圧弁22は、燃料タンク11の圧力を適当な圧力に減圧調整する。
【0019】
循環ポンプ23は、アノードガスを循環させる。循環ポンプ23の下流には循環流路25が設けられて、燃料電池スタック10から排出された未反応の反応ガスを再度燃料電池スタック10に供給する。
【0020】
パージ弁24は、アノードガス通路20中に存在する窒素などの不純ガスや液水を系外へパージする。
【0021】
カソードガス通路30は、燃料電池スタック10のカソードガス入口孔10c及びカソードガス出口孔10dに接続される。カソードガス通路30は、燃料電池スタック10の上流側に、コンプレッサ31を備え、燃料電池スタック10の下流側に、圧力調整弁32を備える。
【0022】
コンプレッサ31は、燃料電池スタック10にカソードガス(空気)を圧送して供給する。
【0023】
圧力調整弁32は、燃料電池スタック10に供給するカソードガスの供給圧を調整する。
【0024】
コントローラ40は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ40には、燃料電池スタック10の運転状態を検出する種々のセンサからの信号が入力される。例えば、燃料電池スタック10を構成する全ての単セル11の電圧を検出する電圧センサ41からの信号が入力される。コントローラ40は、これらの入力信号に基づいてコンプレッサ31などを制御し、燃料電池スタック10に供給する反応ガス、すなわちカソードガス及びアノードガスの流量を制御する。
【0025】
以下では、図2を参照して、燃料電池スタック10を構成する単セル11について詳しく説明する。
【0026】
図2は、単セル11の断面の一部を示す図である。
【0027】
単セル11は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下「MEA」という)12の表裏両面にそれぞれセパレータ100が配置されて構成される。
【0028】
MEA12は、固体高分子電解質膜13と、アノード電極14と、カソード電極15とを備える。MEA12は、固体高分子電解質膜13の一方の面にアノード電極14を有し、他方の面にカソード電極15を有する。
【0029】
固体高分子電解質膜13は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。固体高分子電解質膜13は、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
【0030】
アノード電極14は、触媒層16とガス拡散層17とを備える。
【0031】
触媒層16は、固体高分子電解質膜13と接する。触媒層16は、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子から形成される。
【0032】
ガス拡散層17は、触媒層16の外側(電解質膜13の反対側)に設けられ、セパレータ100と接する。ガス拡散層17は、充分なガス拡散性および導電性を有する部材によって形成され、例えば、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスで形成される。なお、以下では特に、セパレータ100のリブ(隔壁)112に直接接するガス拡散層17を「リブ下ガス拡散層17a」という。これに対して、セパレータ100のガス流路111に接するガス拡散層17を「流路下ガス拡散層17b」という。
【0033】
カソード電極15もアノード電極14と同様に、触媒層16とガス拡散層17とを備える。
【0034】
セパレータ100は、ガス拡散層17と接する。セパレータ100は、ガス拡散層17と接する側にアノード電極14及びカソード電極15に反応ガスを供給するための複数のガス流路111を有する。ガス流路111は、ガス拡散層17と直接接するリブ112の間に形成される流路である。
【0035】
次に、本実施形態による燃料電池スタック10の作用について、図1及び図2を参照して説明する。
【0036】
図1及び図2に示すように、アノードガスは、アノードガス入口孔10aからアノード電極側のセパレータ(図2左側のセパレータ)100に形成されたガス流路111に流れ込む。アノードガスはガス流路111を流れながらガス拡散層17を通って触媒層16と接する。これにより、アノード電極14では、上記した式(1)の反応が生じる。ガス流路111を流れ、反応に利用されなかった余剰のアノードガスは、アノードガス出口孔10bから外部へ排出される。
【0037】
一方、カソードガスは、カソードガス入口孔10cからカソード電極側のセパレータ(図2右側のセパレータ)100に形成されたガス流路111に流れ込む。カソードガスは、ガス流路111を流れながらガス拡散層17を通って触媒層16と接する。これにより、カソード電極15では、カソードガスと、式(1)の反応で生じたプロトンH+、電子e-とから、式(2)の反応が生じる。
【0038】
カソード反応によって生じた水は、反応に利用されなかった余剰のカソードガスとともにガス流路111を流れてカソードガス出口孔10dから外部へ排出される。そのため、ガス流路後半になるほどカソードガス中の水分濃度が増加する。また、ガス拡散層内の水分濃度も増加する。
【0039】
そうすると、運転条件等によっては、結露した生成水がカソードガス出口孔10dの付近のガス流路111を塞ぎ、水詰まりが発生することがある。これにより、ガス流路111を流れるカソードガスの流れが阻害されて、カソード電極15へのカソードガスの供給量が不十分となる。その結果、ガス拡散性の低下によって濃度過電圧が上昇するフラッディングという現象が起きて発電効率が低下する。
【0040】
また、カソード反応で発生した水は、MEA12を通じて、アノード電極側のセパレータ100に形成されたガス流路111にも拡散していくので、アノード側でもフラッディングが起きて発電効率が低下するおそれがある。
【0041】
したがって、単セル1の発電効率を向上させるためには、フラッディングが発生しないようにカソードガス及びアノードガスの一方又は双方の流量を制御して、単セル1の発電反応で生じる水を速やかに燃料電池スタック10の外部へ排出する必要がある。
【0042】
そのため、従来例ではフラッディングが発生しないように、予め定められた発電電流と反応ガス流量との関係を示したマップに従い反応ガス流量を制御していた。しかしながら、発明者等の鋭意研究により、フラッディングの発生条件は、燃料電池スタック10の経時変化に応じて変化することがわかった。
【0043】
そこで本実施形態では、以下のように反応ガス流量を制御してフラッディングの発生を抑制する。なお、以下では反応ガスとしてカソードガスを例に説明するが、もちろんアノードガスでも構わないし、双方でも構わない。
【0044】
図3は、発電時間と限界ストイキレシオ(以下「限界SR」という)との関係を示した図である。
【0045】
なお、ここでいう発電時間とは、初期状態からこれまでの総発電時間のことをいい、初期状態とはいわゆる新品状態(出荷時、車載時、燃料電池スタック10の組み立て時)のこという。
【0046】
また、限界SRとは、アクセルペダルの踏み込み量や補機作動状況などの運転状態に応じて定まる理論的に反応に必要なカソードガス流量(以下「基本カソードガス流量」という)と、フラッディングの発生を抑制するために最低限必要なカソードガス流量と、の比である。限界SRが大きいときほど、基本カソードガス流量に対してフラッディングの発生を抑制するために必要最低限のカソードガス流量が多くなる。
【0047】
図3に示すように、限界SRは、発電時間が所定時間に達するまでは1より大きく、また、発電時間が増加するにつれて減少する。そして、発電時間が所定時間に達した後は一定となる。なお、本実施形態及び以下の各実施形態では、限界SRが一定となったときの値を1としているが、これは理想状態での一例であり、実際には1よりもやや大きい値で一定となる。
【0048】
このように、フラッディングを抑制するために最低限必要なカソードガス流量は、発電時間の増加とともに減少する。これは、燃料電池スタック10の組み立て初期には、セパレータ100のリブ112とガス拡散層17との接触状態が排水性の観点から最適な状態ではなく、発電回数の増加とともに接触状態が改善されるためと考えられる。
【0049】
すらわち、ガス拡散層17の内部で結露した生成水のうち、流路下ガス拡散層17bの生成水は、ガス流路111を通過する反応ガスによってガス流路111へと持ち出される。一方で、リブ下ガス拡散層17aの生成水は、セパレータ100のリブ112との表面張力等によってガス流路111へと持ち出される。そして、燃料電池スタック10の組み立て初期には、セパレータ100とガス拡散層17との接触状態が排水性の観点から最適な状態ではないために、リブ下ガス拡散層17aからの生成水の持ち出しが阻害されやすい。そのため、フラッディングが発生しやすい状態となり、限界SRが大きくなるものと考えられる。
【0050】
そこで本実施形態では、この限界SRが発電時間とともに減少していくのに合わせて目標ストイキレシオ(以下「目標SR」という)を減少させる。ここで目標SRとは、基本カソードガス流量と、実際に燃料電池スタック10に供給するカソードガス流量(以下「目標カソードガス流量」という)と、の比である。目標SRが大きいときほど、基本カソードガス流量に対して目標カソードガス流量が多くなる。
【0051】
図4は、発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【0052】
図4に示すように、目標SRは限界SRよりも少し大きい値をとるように設定される。これにより、確実にフラッディングの発生を抑制して安定した発電を実施できる。また、必要以上にカソードガスを供給しないので、コンプレッサの消費電力を抑えることができるので燃費の向上を図ることができる。
【0053】
図5は、本実施形態による目標カソードガス流量の算出方法について説明するフローチャートである。コントローラ40は、本ルーチンを燃料電池スタック10の運転中に所定の演算周期(例えば10ms)で実行する。
【0054】
ステップS1において、コントローラ40は、予め実験等によって定められたマップを参照して運転状態に応じて目標発電電流を算出する。燃料電池スタック10の負荷がおきいときほど目標発電電流は大きくなる。
【0055】
ステップS2において、コントローラ40は、予め実験等によって定められたテーブルを参照して目標発電電流に基づいて基本カソードガス流量を算出する。目標発電電流が大きいときほど基本カソードガス流量も大きくなる。
【0056】
ステップS3において、コントローラ40は、図4のテーブルを参照して燃料電池の経時変化に基づいて目標SRを算出する。具体的には発電時間に基づいて目標SRを算出する。
【0057】
ステップS4において、コントローラ40は、基本カソードガス流量に目標SRを乗じて目標カソードガス流量を算出する。
【0058】
以上説明した本実施形態によれば、燃料電池スタック10の経時変化、すなわち発電時間の増加に応じて限界SRが減少していくのに合わせて目標SRを変更させ、かつ、目標SRが限界SRよりも少し大きい値をとるようにした。そして、運転状態に応じて基本カソードガス流量を算出し、その基本カソードガス流量に目標SRを乗じて目標カソードガス流量を算出することとした。
【0059】
これにより、実際に燃料電池スタック10に供給するカソードガス流量(目標カソードガス流量)が、必ず運転状態に応じて定まる理論的に反応に必要なカソードガス流量(基本カソードガス流量)及びフラッディングの発生を抑制するために最低限必要なカソードガス流量よりも大きくなる。
【0060】
そのため、確実にフラッディングの発生を抑制して安定した発電を実施できる。また、必要以上にカソードガスを供給しないので、コンプレッサの消費電力を抑えることができるので燃費の向上を図ることができる。
【0061】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本発明の第2実施形態は、発電量に応じて目標SRを変更させていく点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。なお、以下に示す各実施形態では前述した実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を用いて重複する説明を適宜省略する。
【0062】
図6は、発電量と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。なお、ここでいう発電量とは、初期状態からこれまでの総発電量のことをいうものとする。
【0063】
図6に示すように、限界SRは、発電量が所定量に達するまでは1より大きく、また、発電量が増加するにつれて減少する。そして、発電量が所定量に達した後は一定となる。
【0064】
そこで本実施形態では、この限界SRが発電量とともに減少していくのに合わせて目標SRを減少させる。そして、目標SRが限界SRよりも少し大きい値をとるように設定する。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本発明の第3実施形態は、発電回数に応じて目標SRを変更させていく点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。
【0066】
図7は、発電回数と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。なお、ここでいう発電回数とは、初期状態からこれまでの総発電回数のことをいうものとする。
【0067】
図7に示すように、限界SRは、発電回数が所定回数に達するまでは1より大きく、また、発電回数が増加するにつれて減少する。そして、発電回数が所定回数に達した後は一定となる。
【0068】
そこで本実施形態では、この限界SRが発電回数とともに減少していくのに合わせて目標SRを減少させる。そして、目標SRが限界SRよりも少し大きい値をとるように設定する。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本発明の第4実施形態は、発電時間(発電量、発電回数でもよい)が所定時間に達するまでは目標SRを一律に高SRに設定し、所定時間に達した後は一律に低SRに設定する点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。
【0070】
図8は、本実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【0071】
図8に示すように、本実施形態では発電時間が所定時間に達するまでは目標SRを一律に高SRに設定し、所定時間に達した後は一律に低SRに設定する。
【0072】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果が得られるとともに、目標SRをステップ的に2段階に切り替えるだけなので、発電時間に応じて連続的に目標SRを変化させる場合と比べてカソードガス流量の制御が容易となる。
【0073】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。本発明の第5実施形態は、フラッディングを検出したときには目標SRを増加させる点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。
【0074】
図9は、本実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【0075】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、発電時間に応じて限界SRに合わせて連続的に目標SRを減少させる。このとき、燃料電池スタック10には個体差がある一方で、限界SRは実験等によって予め一律に定められたものなので、固体によっては予め定められた限界SRと実際の限界SRとの間でずれが生じる可能性がある。そのため、実際の限界SRが予め定められた限界SRよりも大きい値をとる可能性があり、目標SRが限界SRを下回ってしまう可能性がある。
【0076】
そこで、本実施形態では、図9に示すように、目標SRが実際の限界SRを下回ったと判断できるとき、すなわちフラッディングが発生していると判定したときは、目標SRを所定値だけ増加させる。そして、増加させた後は、その増加させた目標SRを基準として予め定められた限界SRの傾きに合わせて再び発電時間に応じて目標SRを減少させていく。
【0077】
なお、フラッディングが発生しているか否かは、以下のようにして判定することができる。すなわち、所定電圧以下となる単セル11の近傍にある他の単セル11の電圧が、前記所定電圧より大きい加湿過剰判定電圧より大きければフラッディングが発生していると判定できる。
【0078】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を得られるほか、フラッディングが発生したときには、目標SRの設定値を補正することができるので、より確実にフラッディングの発生を抑制できる。
【0079】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について説明する。本発明の第6実施形態は、所定時間が経過した後に複数回、同一の目標SRでフラッディングが発生したときは、その目標SR又はその目標SRを所定値だけ増加させた値を最終的な目標SRとして設定する点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点について説明する。
【0080】
図10は、本実施形態による発電時間と限界SR及び目標SRとの関係を示した図である。
【0081】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、発電時間に応じて限界SRに合わせて連続的に目標SRを減少させる。そして、フラッディングが発生していると判定したときは目標SRを所定値だけ増加させる。このとき、所定時間が経過した後に複数回、同一の目標SRでフラッディングが発生したときは、その目標SR又はその目標SRを所定値だけ増加させた値を最終的な目標SRとして設定する。
【0082】
これにより、第1実施形態と同様の効果を得られるほか、固体ごとに限界SRを把握することができ、その限界SRを目標SRとして設定することができる。そのため、フラッディングの発生を抑制できる必要最低限のカソードガスを供給できるので、より燃費の向上を図ることができる。
【0083】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0084】
例えば、上記各実施形態では燃料電池スタック10の経時変化を表す指標として発電時間、発電量及び発電回数を用いたが、これまでの燃料電池スタック10の運転時間がわかるものであればこれに限られるものではなく、燃料電池システム1の起動停止回数や発電に伴う潤滑回数、乾燥による収縮回数などを燃料電池スタック10の経時変化を表す指標として用いても良い。
【0085】
また、上記各実施形態では燃料電池スタック10の経時変化に応じてカソードガスの流量を制御してフラッディングの発生を抑制していた。しかしながら、アノードガスの流量を制御してフラッディングの発生を抑制しても良いし、カソードガス及びアノードガスの双方の流量を制御してフラッディングの発生を抑制しても良い。このとき、アノードガス流量の減少幅(目標SRの傾きの大きさ)は、カソードガス流量と同じでも良いし、異ならせても良い。
【0086】
また、上記第1実施形態から第3実施形態では、目標SRが限界SRよりも少し大きい値をとるように設定したが、目標SRと限界SRとを同じにしてもかまわない。
【0087】
また、発電時間、発電量及び発電回数の全てを考慮して精度良く燃料電池スタック10の経時変化を求めても良い。
【符号の説明】
【0088】
1 燃料電池システム
10 燃料電池スタック(燃料電池)
S1 目標発電電流算出手段
S2 基本反応ガス流量算出手段
S1〜S4 目標反応ガス流量算出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスを燃料電池に供給して発電する燃料電池システムであって、
前記燃料電池の発電電流に対してフラッディングが抑制できる目標反応ガス流量を、その燃料電池の経時変化度合に応じて算出する目標反応ガス流量算出手段を備える
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記目標反応ガス流量算出手段は、
運転状態に応じた目標発電電流を算出する目標発電電流算出手段と、
前記目標発電電流に応じた基本反応ガス流量を算出する基本反応ガス流量算出手段と、を含み、
フラッディングの発生を抑制するように、前記燃料電池の経時変化度合いに応じて前記基本反応ガス流量を増量補正して、その燃料電池に供給する目標反応ガス流量を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記目標反応ガス流量算出手段は、
前記燃料電池の経時変化度合いが大きくなるほど前記基本反応ガス流量の補正量を減少させる
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記基本反応ガス流量の補正量をステップ状に変化させる
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記目標反応ガス流量算出手段は、
フラッディングを検出したときは、前記基本反応ガス流量の補正量を増加させ、増加させた後はその増加させた補正量を再び前記燃料電池の経時変化度合いに応じて減少させる
ことを特徴とする請求項2から4までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項6】
フラッディングを検出したときの前記基本反応ガス流量の補正量が複数回同一値だった場合は、それ以降の補正量をその同一値に固定する
ことを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記目標反応ガス流量算出手段は、
前記燃料電池の経時変化度合に応じて1以上の値をとる目標ストイキレシオを算出する目標ストイキレシオ算出手段を含み、
前記基本反応ガス流量に前記目標ストイキレシオを乗じて前記反応ガス流量を算出する
ことを特徴とする請求項2から6までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記目標反応ガス流量算出手段は、前記燃料電池の総発電回数に基づいてその燃料電池の経時変化度合いを判断する
ことを特徴とする請求項1から7までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記目標反応ガス流量算出手段は、前記燃料電池の総発電量に基づいてその燃料電池の経時変化度合いを判断する
ことを特徴とする請求項1から7までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記目標反応ガス流量算出手段は、前記燃料電池の総発電時間に基づいてその燃料電池の経時変化度合いを判断する
ことを特徴とする請求項1から7までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項1】
反応ガスを燃料電池に供給して発電する燃料電池システムであって、
前記燃料電池の発電電流に対してフラッディングが抑制できる目標反応ガス流量を、その燃料電池の経時変化度合に応じて算出する目標反応ガス流量算出手段を備える
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記目標反応ガス流量算出手段は、
運転状態に応じた目標発電電流を算出する目標発電電流算出手段と、
前記目標発電電流に応じた基本反応ガス流量を算出する基本反応ガス流量算出手段と、を含み、
フラッディングの発生を抑制するように、前記燃料電池の経時変化度合いに応じて前記基本反応ガス流量を増量補正して、その燃料電池に供給する目標反応ガス流量を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記目標反応ガス流量算出手段は、
前記燃料電池の経時変化度合いが大きくなるほど前記基本反応ガス流量の補正量を減少させる
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記基本反応ガス流量の補正量をステップ状に変化させる
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記目標反応ガス流量算出手段は、
フラッディングを検出したときは、前記基本反応ガス流量の補正量を増加させ、増加させた後はその増加させた補正量を再び前記燃料電池の経時変化度合いに応じて減少させる
ことを特徴とする請求項2から4までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項6】
フラッディングを検出したときの前記基本反応ガス流量の補正量が複数回同一値だった場合は、それ以降の補正量をその同一値に固定する
ことを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記目標反応ガス流量算出手段は、
前記燃料電池の経時変化度合に応じて1以上の値をとる目標ストイキレシオを算出する目標ストイキレシオ算出手段を含み、
前記基本反応ガス流量に前記目標ストイキレシオを乗じて前記反応ガス流量を算出する
ことを特徴とする請求項2から6までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記目標反応ガス流量算出手段は、前記燃料電池の総発電回数に基づいてその燃料電池の経時変化度合いを判断する
ことを特徴とする請求項1から7までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記目標反応ガス流量算出手段は、前記燃料電池の総発電量に基づいてその燃料電池の経時変化度合いを判断する
ことを特徴とする請求項1から7までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記目標反応ガス流量算出手段は、前記燃料電池の総発電時間に基づいてその燃料電池の経時変化度合いを判断する
ことを特徴とする請求項1から7までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−44376(P2011−44376A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192864(P2009−192864)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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