説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池システム全体の小型化及びコスト低減をより確実に実現しつつ、出力を最大限に発揮可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池システムは、大気中の空気を燃料電池スタック1に供給する圧縮機13と、酸素を貯留する酸素タンク17と、酸素タンク17内の酸素を燃料電池スタック1に供給する酸素供給バルブ21等とを有する。コントローラ39は、燃料電池スタック1に要求される出力である要求出力Wdと、燃料電池スタック1に空気のみを供給した場合に得られる出力である基礎出力Wbとに基づき、圧縮機13及び酸素供給バルブ21を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料と酸化剤との反応により起電力を生じる単セルが複数積層された燃料電池スタックと、燃料電池スタックに燃料を供給する燃料供給装置と、燃料電池スタックに酸化剤を供給する酸化剤供給装置とを備えている。
【0003】
一般的な燃料電池システムでは、燃料供給装置として、水素タンク等が採用されている。また、車両等の移動体への搭載を意図した燃料電池システムでは、大量の燃料及び酸化剤を搭載することがスペースの面で困難であることから、酸化剤供給装置として、圧縮機や送風ファン等の空気供給装置が採用されている。この燃料電池システムでは、空気供給装置によって車外の空気が燃料電池スタックに供給される。
【0004】
また、酸化剤供給装置として、空気供給装置の他、酸素を貯留する酸素タンクと、酸素タンク内の酸素を燃料電池スタックに供給する酸素供給装置とを備えた燃料電池システムも知られている(例えば、特許文献1)。この燃料電池システムでは、酸素タンク内の酸素によって高濃度発電を行う一方、高濃度発電時に燃料電池スタック内に生じた過剰な水を高圧の空気によって排出することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−41516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、燃料電池システムにおいては、高価な触媒や多数の精密部品からなる燃料電池スタックがコストの大部分を占めることから、コストパフォーマンスを上げるべく、高出力化、触媒量の低減、部品点数の削減、小型化による材料使用量の低減等が図られている。これらのうち、燃料電池スタックの高出力化は、酸化剤供給装置として空気供給装置を採用し、圧縮機等で空気を圧縮して燃料電池スタックに供給することで実現され得る。また、酸化剤供給装置として酸素タンクを採用し、燃料電池スタックに高濃度の酸素を供給することによっても燃料電池スタックの高出力化を実現可能である。燃料電池スタックの出力が酸素分圧に依存するからである。
【0007】
しかし、燃料電池システムにおいて、空気を圧縮して供給する場合には、圧縮機等によって消費される電力が増大するという問題がある。つまり、燃料電池システムにおいては、期待する出力と効率との間にトレードオフの関係が成立する。そのため、従来の燃料電池システムにおいては、出力及び効率を許容できる範囲に空気の圧力が設定されることとなり、最大限の出力が発揮され得ない。
【0008】
また、酸素タンク内の酸素のみで燃料電池スタックの出力を得ようとすれば、酸素タンク内の酸素の消費量が多くなることから、大型の酸素タンクが必要になり、燃料電池システム全体の大型化及びコストの高騰を生じることとなる。そのため、上記特許文献1記載の燃料電池システムのように、空気供給装置及び酸素タンクを備えることとし、大気中の空気による発電と酸素タンク内の酸素による発電とを行うことが考えられる。しかしながら、特許文献1記載の発明のように、水の排出時に酸素タンク内の酸素を使用しないようにするだけでは、水を排出しない間は常に酸素タンク内の酸素を消費することとなり、やはり燃料電池システム全体の大型化及びコストの高騰が避けられない。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、燃料電池システム全体の小型化及びコスト低減をより確実に実現しつつ、出力を最大限に発揮可能な燃料電池システムを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の燃料電池システムは、燃料と酸化剤との反応により起電力を生じる単セルが複数積層された燃料電池スタックと、該燃料電池スタックに該燃料を供給する燃料供給装置と、該燃料電池スタックに該酸化剤を供給する酸化剤供給装置とを備えた燃料電池システムであって、
前記酸化剤供給装置は、大気中の空気を前記燃料電池スタックに供給する空気供給装置と、酸素を貯留する酸素貯蔵装置と、該酸素貯蔵装置内の酸素を該燃料電池スタックに供給する酸素供給装置とを有し、
前記燃料電池スタックに要求される出力である要求出力と、該燃料電池スタックに空気のみを供給した場合に得られる出力である基礎出力とに基づき、前記空気供給装置及び前記酸素供給装置を制御する制御装置を備えていることを特徴とする(請求項1)。
【0011】
本発明の燃料電池システムでは、酸化剤供給装置が空気供給装置と酸素貯蔵装置と酸素供給装置とを有している。空気供給装置は、圧縮機や送風ファン等からなり、大気中の空気を燃料電池スタックに供給する。酸素貯蔵装置は、酸素タンク等からなり、酸素を貯留する。酸素供給装置は、酸素貯蔵装置と燃料電池スタックとを接続し、酸素貯蔵装置内の酸素を燃料電池スタックに供給する。このため、この燃料電池システムでは、空気供給装置によって大気中の空気で発電を行うことが可能であるとともに、酸素貯蔵装置内の酸素によっても発電を行うことが可能である。
【0012】
そして、この燃料電池システムでは、制御装置が要求出力と基礎出力とに基づき、空気供給装置及び酸素供給装置を制御する。要求出力は燃料電池スタックに要求される出力である。基礎出力は燃料電池スタックに空気のみを供給した場合に得られる出力である。例えば、平常時には、基礎出力の範囲内で大気中の空気のみによって発電を行う。要求出力が基礎出力を上回れば、超える分だけ酸素貯蔵装置内の酸素によっても発電を行う。これにより、酸素貯蔵装置の容量を最低限としつつ、高い効率を実現することが可能となる。
【0013】
こうして、この燃料電池システムは、任意に酸化剤の酸素濃度を可変することにより、出力を最大限に引き出すことができ、燃料電池スタックを小型化することができる。また、それに伴い、燃料電池スタックの触媒や構成部材の低減、部品点数の削減が図れることから、燃料電池スタック、ひいては燃料電池システムを安価にできる。さらに、燃料電池システムが運転状況に応じて限定的に酸素を使用するものであるため、酸素貯蔵装置等の容量を小さくでき、燃料電池システムを車両等の移動体に容易に搭載することができる。
【0014】
したがって、この燃料電池システムは、全体の小型化及びコスト低減をより確実に実現しつつ、出力を最大限に発揮可能である。
【0015】
制御装置は、要求出力が基礎出力を超える場合、酸素供給装置による酸素の供給量を増やすことが好ましい(請求項2)。酸素供給装置による酸素の供給量を増やせば、高濃度の酸素が燃料電池スタックに供給され、燃料電池スタックは高い電圧、大きな出力で発電することとなる。また、酸素供給装置であれば、酸素の供給量を増やすために電力をほとんど消費しない。なお、要求出力が基礎出力を超えない場合には、酸素供給装置による酸素の供給を無くし、酸素の不必要な消費を控えることが好ましい。その場合は、空気供給装置によって大気中の空気による発電で要求出力を満足させる。
【0016】
制御装置は、要求出力が基礎出力を超え、酸素供給装置による酸素の供給量を増やす場合、空気供給装置による空気の供給量を減らすことが好ましい(請求項3)。高濃度の酸素によって燃料電池スタックが高い電圧、大きな出力で発電すれば、空気供給装置による空気の供給量を減らし、空気供給装置によって消費する電力を抑制することが可能になる。なお、要求出力が基礎出力を超えない場合には、要求出力の増減に応じて空気供給装置による空気の供給量を増減させることが好ましい。これによっても、空気供給装置によって消費する電力を抑制することが可能になる。
【0017】
制御装置は、要求出力が基礎出力を超え、酸素供給装置による酸素の供給量を増やす場合、要求出力と基礎出力との差が大きければ、空気供給装置による空気の供給量を減らし、酸素供給装置による酸素の供給量を増やすことが好ましい(請求項4)。この場合、要求出力と基礎出力との差が小さければ、空気供給装置による空気の供給量を増やし、酸素供給装置による酸素の供給量を減らす。これによって空気供給装置によって消費する電力を可及的に抑制することが可能になる。
【0018】
本発明の燃料電池システムは、燃料電池スタックの実出力を検出する実出力検出装置を備え得る。そして、制御装置は、実出力検出装置で検出される実出力が予め定めた下限値を超えるように空気供給装置及び酸素供給装置を制御することが好ましい(請求項5)。下限値は燃料電池システムに接続される負荷に応じて予め定められる。この場合、燃料電池スタックの状態や経時変化による電流−電圧特性の変動があっても、燃料電池スタックが常に下限値を超える実出力を発揮することとなり、出力不足や酸素の無駄な消費を抑制できる。
【0019】
本発明の燃料電池システムは、酸素貯蔵装置による酸素の残量を検出する酸素残量検出装置を備え得る。そして、制御装置は、酸素残量検出装置で検出される酸素の残量が閾値を下回る場合、空気供給装置により空気圧力を高めるか、又は燃料電池スタックにおける空気の出口側に設ける弁を絞って空気圧力を高めることが好ましい(請求項6)。この場合、想定以上の高負荷運転(酸素供給)が続いた場合や、酸素充填忘れ、酸素供給系のトラブル等により、酸素貯蔵装置内の酸素が残り少なくなった場合のフェールセーフである。空気供給装置等によって空気の供給量を増やし、燃料電池システムの使用上の不具合を生じないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1〜3の燃料電池システムの要部を示す模式構造図である。
【図2】実施例1〜3の燃料電池システムに係り、コントローラ等のブロック図である。
【図3】実施例1の燃料電池システムにおける制御マップである。
【図4】実施例1の燃料電池システムの制御フローである。
【図5】実施例1の燃料電池システムに係り、図3の制御マップと空気の供給量及び酸素の供給量との関係を示す説明図である。
【図6】実施例1の燃料電池システムに係り、空気の供給量とガス圧力との関係を示すグラフである。
【図7】実施例2の燃料電池システムに係り、制御装置の制御フローである。
【図8】実施例2、3の燃料電池システムにおける制御マップである。
【図9】実施例3の燃料電池システムに係り、制御装置の制御フローである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施例1〜3を図面を参照しつつ説明する。
【0022】
(実施例1)
実施例1の燃料電池システムは車両に搭載されるものである。この燃料電池システムは、図1に示すように、燃料電池スタック1を備えている。燃料電池スタック1は、燃料である水素と酸化剤との反応により起電力を生じる単セルが複数積層されたものである。燃料電池スタック1には、車両を走行させるためのモータ等の負荷2が接続されている。
【0023】
燃料電池スタック1の燃料吸入口には燃料供給管3が接続されており、燃料供給管3の上流側には水素タンク5が接続されている。水素タンク5内には水素が高圧状態で貯留されている。燃料供給管3には図示しない水素供給バルブ等が設けられており、水素供給バルブを開くことによって水素タンク5内の水素が所定の圧力で燃料電池スタック1に供給されるようになっている。水素タンク5、水素供給バルブ等が燃料供給装置に相当する。
【0024】
燃料電池スタック1の酸化剤吸入口には酸化剤供給管7が接続されており、酸化剤供給管7の上流側には空気供給管9及び酸素供給管11が接続されている。空気供給管9の上流側には、大気から空気を吸入して空気供給管9内に高圧の空気を供給可能な圧縮機13が接続されている。圧縮機13が酸化剤供給装置のうちの空気供給装置に相当する。圧縮機13はモータを内蔵したものであり、モータによって駆動されるようになっている。圧縮機13は、モータの回転速度を変更することにより、単位時間当たりの空気の流量を変更できるようになっている。空気供給管9には、空気供給管9内の空気の圧力P3を検出する第3圧力センサ15が接続されている。
【0025】
酸素供給管11には、上流側から、酸素タンク17、第1調圧弁19、酸素供給バルブ21、第2調圧弁23及び流量調整オリフィス25が設けられている。酸素タンク17が酸化剤供給装置のうちの酸素貯蔵装置に相当する。酸素タンク17内には酸素が高圧状態で貯留されている。第1、2調圧弁19、23は酸素供給管11内の酸素の圧力を一定圧力にするものである。酸素供給バルブ21は、電磁開閉弁(OPEN/CLOSE)又は開度調整可能な開度調整弁によって構成されている。また、流量調整オリフィス25は、構成がシンプルになるように固定絞りで構成されるか、又は酸素供給量の制御性を良くするために可変絞りで構成されている。第1、2調圧弁19、23、酸素供給バルブ21及び流量調整オリフィス25が酸化剤供給装置のうちの酸素供給装置に相当する。
【0026】
酸素タンク17と第1調圧弁19との間には充填管27の一端が接続されており、充填管27の他端は充填口27aとされている。充填口27aは酸素タンク17内に酸素を補充する際に用いられる。
【0027】
酸素供給管11には、充填管27が接続される接続点と第1調圧弁19との間に第1圧力センサ29が接続されている。第1圧力センサ29はその位置の酸素の圧力P1を検出する。第1圧力センサ29が酸素残量検出装置に相当する。また、酸素供給管11には、第2調圧弁23と流量調整オリフィス25との間に第2圧力センサ31が接続されている。第2圧力センサ31はその位置の酸素の圧力P2を検出する。
【0028】
燃料電池スタック1の酸化剤排出口には下流側が大気に開放された酸化剤排出管33が接続されている。酸化剤排出管33には、燃料電池スタック1内の空気及び酸素の背圧を一定圧力にするための背圧調整弁35が設けられている。
【0029】
また、酸化剤排出管33には、燃料電池スタック1と背圧調整弁35との間に第4圧力センサ37が接続されている。第4圧力センサ37はその位置の空気及び酸素の圧力P4を検出する。
【0030】
燃料電池システムは、図2に示すように、制御装置としてのコントローラ39を備えている。コントローラ39は、第1〜4センサ29、31、15、37等の検出信号が入力されるようになっている。また、コントローラ39には、負荷2から車両の走行状態等の情報が入力される。また、コントローラ39は、第1、2調圧弁19、23、酸素供給バルブ21、背圧調整弁35、圧縮機13等に制御信号を出力できるようになっている。
【0031】
また、コントローラ39には、図3に示す制御マップを演算するための計算式が記憶されている。この制御マップにより、燃料電池スタック1の電流−電圧特性及び電流−出力特性が規定される。電流−電圧特性は、燃料電池スタック1に空気のみを所定圧力で供給した場合の関係と、燃料電池スタック1に酸素のみを所定圧力で供給した場合の関係とを有している。電圧は複数のセルの平均値とされている。また、電流−出力特性は、燃料電池スタック1に空気のみを所定圧力で供給した場合の関係と、燃料電池スタック1に酸素のみを所定圧力で供給した場合の関係とを有している。燃料電池スタック1に空気のみを供給した場合の電流−電圧特性が基礎電圧Vbの特性であり、その場合の電流−出力特性が基礎出力Wbの特性である。
【0032】
この燃料電池システムでは、酸素のみが供給されることにより、電流値ISによって90(kW)程度の出力が得られるように設計されている。
【0033】
また、コントローラ39には、図4に示す制御フローを実行するプログラムが格納されている。
【0034】
以上のように構成された燃料電池システムでは、酸化剤供給装置として、圧縮機13、酸素タンク17、酸素供給バルブ21等を有しているため、圧縮機13によって大気中の空気で発電を行うことが可能であるとともに、酸素タンク17内の酸素によっても発電を行うことが可能である。
【0035】
そして、この燃料電池システムでは、コントローラ39が要求出力Wdと基礎出力Wbとに基づき、圧縮機13及び酸素供給装置を制御する。
【0036】
すなわち、ステップS10において、負荷2から入力される情報に基づいて、燃料電池スタック1に要求される出力である要求出力Wd(要求電流値Id)が演算される。そして、ステップS11では、基礎出力Wbの最大値を出力設定値Wuとし、要求出力Wdと出力設定値Wuとを比較する。ここで、要求出力Wdが出力設定値Wuより小さければステップS12に進み、要求出力Wdが出力設定値Wuより大きければステップS13に進む。
【0037】
ステップS12では、酸素供給バルブ21を開き、酸素タンク17内の酸素をより多く燃料電池スタック1に供給する。一方、ステップS13では、酸素供給バルブ21を閉じ、酸素タンク17内の酸素をより少なく燃料電池スタック1に供給する。
【0038】
そして、ステップS14では、その空気の供給量及び酸素の供給量における制御マップを演算する。次いで、ステップS15では、燃料電池スタック1がその出力を維持しながら、消費する電力が最小値になるように圧縮機13に対して流量の指令を行う。そして、ステップS10にリターンする。
【0039】
これらの間、酸素供給バルブ21の開閉は以下のように行われる。まず、演算された制御マップにおいて、図5に示すように、空気のみを供給した場合の最大出力点WA(IA(電流),VA(平均セル電圧))、酸素のみを供給した場合の最大出力点WC(IC,VC)、空気及び酸素を供給した場合の最大出力点WB(IB,VB)が規定される。各最大出力点WA、WB、WCの平均セル電圧VA、VB、VCは0.6(V)の下限電圧Vuとしている。各最大出力点WA、WB、WCにおいて、酸素供給バルブ21の開度、空気の供給量及び酸素の供給量並びに空気:酸素の供給割合の狙いが予め定められている。このため、要求出力Wdに対応する要求電流値IdがIBであれば、それらの定めに応じ、空気:酸素(=α:β)となる空気の供給量xがまず算出される。
【0040】
第2〜4圧力センサ31、15、37で検出される圧力P2〜4は図6の関係を満たす。このため、圧力P2と圧力P3との差圧により、酸素の供給量yが算出され、その酸素の供給量yになるように酸素供給バルブ21が開閉される。なお、圧力P3と圧力P4との差圧は燃料電池スタック1の圧力損失を示している。そして、空気の供給量xになるように圧縮機13に流量指令が出力される。
【0041】
こうして、この燃料電池システムでは、出力0〜空気のみ供給時の最大出力点WA(酸素のみ供給時の最大出力点WCの約1/2)までの間、基礎出力Wbの範囲内で大気中の空気のみによって発電を行うことが可能である。
【0042】
要求出力Wdが基礎出力Wbを超えない場合には、酸素供給バルブ21による酸素の供給を無くし、酸素の不必要な消費を控えることも可能である。その場合は、圧縮機13によって大気中の空気による発電で要求出力Wdを満足させることとなる。
【0043】
また、要求出力Wdが基礎出力Wbを超えない場合には、要求出力Wdの増減に応じて圧縮機13による空気の供給量を増減させることが好ましい。これによっても、圧縮機13によって消費する電力を抑制することが可能になる。
【0044】
そして、要求出力Wdが基礎出力Wbを上回れば、超える分だけ酸素タンク17内の酸素によっても発電を行う。これにより、酸素タンク17の容量を最低限としつつ、高い効率を実現することが可能となる。
【0045】
すなわち、この燃料電池システムでは、要求出力Wdが基礎出力Wbを超える場合、酸素供給バルブ21による酸素の供給量を増やし、圧縮機13による空気の供給量を減らす。こうして酸素の供給量を増やせば、高濃度の酸素が燃料電池スタック1に供給され、燃料電池スタック1は高い電圧、大きな出力で発電することとなる。また、酸素供給バルブ21の開閉であれば、電力をほとんど消費しない。そして、圧縮機13による空気の供給量を減らし、圧縮機13によって消費する電力を抑制することが可能になる。
【0046】
また、この燃料電池システムでは、空気供給管9及び酸素供給管11が酸化剤供給管7に合流し、空気の供給量xの増減により酸素の供給量yの調節を行っている。空気の供給量xは、図5に示すように、要求出力Wdが0〜50%の範囲では、出力に応じて増加させ、要求出力Wdが50〜100%の範囲では、出力に応じて減少させている。酸素の供給については酸素供給バルブ21の開閉で制御し、下流の第2調圧弁23で一定圧に調整しておくことで、空気供給管9との圧力差に応じた量の酸素の供給量yが得られる。空気供給管9内の圧力は空気の供給量xを制御することで行われるが、背圧調整弁35で調節しても良い。このように、空気の供給量xの制御で空気/酸素の割合を可変すれば、燃料電池システムの構成が簡単になる。
【0047】
さらに、この燃料電池システムでは、要求出力Wdが基礎出力Wbを超え、酸素供給バルブ21による酸素の供給量を増やす場合、図6に示すように、圧力P2と圧力P3との差圧により、酸素供給バルブ21の開度を決定するとともに、圧縮機13に流量指令を出力している。このため、要求出力Wdと基礎出力Wbとの差が大きければ、圧縮機13による空気の供給量を減らし、酸素供給バルブ21による酸素の供給量を増やすこととなる。要求出力Wdが50〜100%であれば、酸素の供給割合を0〜100%に制御することが可能である。これによって圧縮機13によって消費する電力を可及的に抑制することが可能である。
【0048】
以上のように、この燃料電池システムは、任意に酸化剤の酸素濃度を可変することにより、出力を最大限に引き出すことができ、燃料電池スタック1を小型化することができる。具体的には、図3に示すように、実施例1の燃料電池スタック1は、空気のみが供給された場合に比べ、酸素のみが供給された場合に約2倍の出力を発揮するものである。このため、この燃料電池スタック1は、空気のみが供給される燃料電池スタックと比べ、体格を約1/2にしても、十分に車両の走行等を担うことができる。
【0049】
また、この燃料電池システムでは、燃料電池スタックを小型化できることから、触媒や構成部材の低減、部品点数の削減が図れ、燃料電池スタック1、ひいてはシステム価格を安価にできる。
【0050】
さらに、この燃料電池システムは、運転状況に応じて限定的に酸素を使用するものであるため、酸素タンク17の容量を小さくでき、燃料電池システムを車両に容易に搭載することができる。つまり、水素と反応当量の酸素を車両に搭載するとすれば、酸素が足りなくなることはないが、搭載上の制約がある。このため、酸素タンク17の容量は可能な限り最小限であることが好ましい。実施例1の燃料電池システムの場合、要求出力の80%以上は、最大出力の1/2以下(空気で発電可能な領域、酸素供給不要)であることから、酸素タンク17の容量は、水素タンク5の容量に対し、反応当量の20%以下に設定している。そして、この燃料電池システムを搭載した車両においては、水素タンク5への水素充填時に酸素タンク17に酸素を充填する必要があるが、水素タンク5に対して1/5程度の大きさで足る酸素タンク17への酸素の充填にはさほどの時間を要さない。
【0051】
したがって、この燃料電池システムは、全体の小型化及びコスト低減をより確実に実現しつつ、出力を最大限に発揮可能である。
【0052】
(実施例2)
実施例2の燃料電池システムでは、図1に示すように、燃料電池スタック1に検出器4が接続されている。検出器4は、実際に生じている電流(A/cm2)、平均セル電圧(V)及び出力(kW)を検出する。検出器4が実出力検出装置に相当する。
【0053】
また、図2に示すように、コントローラ39は、第1〜4センサ29、31、15、37等の検出信号の他、検出器4の検出信号が入力されるようになっている。
【0054】
さらに、この燃料電池システムでは、図3に示すように、平均セル電圧0.6(V)を下限電圧(電圧設定値)Vuとしている。下限電圧Vuで燃料電池スタック1を流れる電流を下限電流(電流設定値)Iuとする。
【0055】
そして、コントローラ39には、図7に示す制御制御フローを実行するプログラムが格納されている。また、このコントローラ39には、図8に示す制御マップを演算するための計算式が記憶されている。この制御マップにより、実施例1と同様、燃料電池スタック1の電流−電圧特性及び電流−出力特性が規定される。また、この制御マップには、電流−電圧特性がA〜C領域に区画される。A領域は、電流が0〜IC及び平均セル電圧が0〜下限電圧Vuの範囲内である。B領域は、電流がIA〜IC及び平均セル電圧が下限電圧Vu以上の範囲内である。C領域は、電流が0〜IA及び平均セル電圧が下限電圧Vu以上の範囲内である。他の構成は実施例1と同様である。
【0056】
この燃料電池システムでは、図7のステップS20において、実施例1と同様、要求出力Wd(要求電流値Id)が演算される。そして、ステップS21では、下限電圧Vuを電圧設定値とし、燃料電池スタック1で実際に生じている平均セル電圧Vxと電圧設定値Vuとを比較する。ここで、平均セル電圧Vxが電圧設定値Vuより大きければステップS22に進み、平均セル電圧Vxが電圧設定値Vuより小さければステップS24に進む。
【0057】
ステップS22では、下限電圧Vuを生じる下限電流Iuを電流設定値とし、燃料電池スタック1で実際に生じている電流Ixと電流設定値Iuとを比較する。ここで、電流Ixが電流設定値Iuより小さければステップS25に進む。この状態では、燃料電池システムはC領域で運転されていることから、要求出力Wdに補正を行わない。ステップS22において、電流Ixが電流設定値Iuより大きければステップS23に進む。
【0058】
ステップS23では、燃料電池システムがB領域で運転されていることから、酸素の供給量が過剰であり、出力を抑えるように要求出力Wdにマイナスの補正を行う。次いで、ステップS25に進む。
【0059】
ステップS24では、燃料電池システムがA領域で運転されていることから、酸素の供給量が過小であり、出力を上げるように要求出力Wdにプラスの補正を行う。次いで、ステップS25に進む。
【0060】
ステップS25では、要求出力Wdと出力設定値Wuとを比較する。ここで、要求出力Wdが出力設定値Wuより小さければステップS26に進み、要求出力Wdが出力設定値Wuより大きければステップS27に進む。
【0061】
ステップS26では、酸素供給バルブ21を一定開度だけ閉じ、酸素タンク17内の酸素をより少なく燃料電池スタック1に供給する。一方、ステップS27では、酸素供給バルブ21を一定開度だけ開き、酸素タンク17内の酸素をより多く燃料電池スタック1に供給する。
【0062】
そして、ステップS28では、その空気の供給量及び酸素の供給量における制御マップを演算する。次いで、ステップS29では、燃料電池スタック1がその出力を維持しながら、消費する電力が最小値になるように圧縮機13に対して流量の指令を行う。そして、ステップS20にリターンする。
【0063】
この燃料電池システムでは、燃料電池スタック1の状態や経時変化による電流−電圧特性の変動があっても、燃料電池スタック1が常に下限電圧Vu、下限電流Iuを超える実出力を発揮することとなり、出力不足や酸素の無駄な消費を抑制できる。他の作用効果は実施例1と同様である。
【0064】
(実施例3)
実施例2の燃料電池システムでは、図9に示す制御制御フローを実行するプログラムがコントローラ39に格納されている。他の構成は実施例2と同様である。
【0065】
この燃料電池システムでは、ステップS30において、実施例1、2と同様、要求出力Wd(要求電流値Id)が演算される。そして、ステップS31では、燃料電池スタック1で実際に生じている平均セル電圧Vxと電圧設定値Vuとを比較する。ここで、平均セル電圧Vxが電圧設定値Vuより大きければステップS32に進み、平均セル電圧Vxが電圧設定値Vuより小さければステップS33に進む。
【0066】
ステップS32では、燃料電池スタック1で実際に生じている電流Ixと電流設定値Iuとを比較する。ここで、電流Ixが電流設定値Iuより小さければステップS34に進む。この状態では、燃料電池システムは図8に示すC領域で運転されていることから、要求出力Wdに補正を行わない。図9のステップS32において、電流Ixが電流設定値Iuより大きければステップS35に進む。
【0067】
ステップS35では、燃料電池システムが図8に示すB領域で運転されていることから、酸素の供給量が過剰であり、出力を抑えるように要求出力Wdにマイナスの補正を行う。次いで、図9のステップS34に進む。
【0068】
ステップS33では、燃料電池システムが図8に示すA領域で運転されていることから、酸素の供給量が過小であり、出力を上げるように要求出力Wdにプラスの補正を行う。次いで、図9のステップS34に進む。
【0069】
ステップS34では、要求出力Wdと出力設定値Wuとを比較する。ここで、要求出力Wdが出力設定値Wuより小さければステップS36に進み、要求出力Wdが出力設定値Wuより大きければステップS37に進む。
【0070】
ステップS37では、第1圧力センサ29によって検出される酸素の圧力P1が閾値としての圧力設定値Puより高いか否かを判断する。ここで、圧力P1が圧力設定値Puより高ければスタップS38に進み、圧力P1が圧力設定値Puより低ければスタップS39に進む。
【0071】
ステップS36では、酸素供給バルブ21を一定開度だけ閉じ、酸素タンク17内の酸素をより少なく燃料電池スタック1に供給する。一方、ステップS38では、酸素供給バルブ21を一定開度だけ開き、酸素タンク17内の酸素をより多く燃料電池スタック1に供給する。そして、ステップS40に進む。
【0072】
ステップS39では、酸素タンク17内の酸素が残り少なくなっていることから、空気流量を最大にする表示を行う。また、背圧(P4)の設定値を増大する。そして、ステップS41に進む。
【0073】
ステップS40では、その空気の供給量及び酸素の供給量における制御マップを演算する。この際、背圧(P4)の設定値は通常としている。
【0074】
ステップS41では、消費する電力にかかわらず、圧縮機13に対して流量を大きくするように指令を行う。また、背圧(P4)の上昇に備え、背圧調整弁35の開度を大きくする。そして、ステップS30にリターンする。
【0075】
この燃料電池システムは、想定以上の高負荷運転(酸素供給)が続いた場合や、酸素充填忘れ、酸素供給系のトラブル等により、酸素タンク17内の酸素が残り少なくなった場合のフェールセーフを実現している。圧縮機13による空気の供給量を増やし、燃料電池システムの使用上の不具合を生じないようにすることができる。他の作用効果は実施例1、2と同様である。
【0076】
以上において、本発明を実施例1〜3に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜3に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は車両等の移動体の駆動源等に利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1…燃料電池スタック
5…燃料供給装置(水素タンク)
13…空気供給装置(圧縮機)
17…酸素貯蔵装置(酸素タンク)
19、21、23、25…酸素供給装置(19…第1調圧弁、21…酸素供給バルブ、23…第2調圧弁、25…流量調整オリフィス)
Wd…要求出力
Wb…基礎出力
39…制御装置(コントローラ)
4…実出力検出装置(検出器)
Wu…下限値(Vu…下限電圧、Iu…下限電流)
29…酸素残量検出装置(第1圧力センサ)
Pu…閾値(圧力設定値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と酸化剤との反応により起電力を生じる単セルが複数積層された燃料電池スタックと、該燃料電池スタックに該燃料を供給する燃料供給装置と、該燃料電池スタックに該酸化剤を供給する酸化剤供給装置とを備えた燃料電池システムであって、
前記酸化剤供給装置は、大気中の空気を前記燃料電池スタックに供給する空気供給装置と、酸素を貯留する酸素貯蔵装置と、該酸素貯蔵装置内の酸素を該燃料電池スタックに供給する酸素供給装置とを有し、
前記燃料電池スタックに要求される出力である要求出力と、該燃料電池スタックに空気のみを供給した場合に得られる出力である基礎出力とに基づき、前記空気供給装置及び前記酸素供給装置を制御する制御装置を備えていることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記要求出力が前記基礎出力を超える場合、前記酸素供給装置による酸素の供給量を増やす請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記空気供給装置による空気の供給量を減らす請求項2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記要求出力と前記基礎出力との差が大きければ、前記空気供給装置による空気の供給量を減らし、前記酸素供給装置による酸素の供給量を増やす請求項3記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池スタックの実出力を検出する実出力検出装置を備え、
前記制御装置は、該実出力検出装置で検出される実出力が予め定めた下限値を超えるように前記空気供給装置及び前記酸素供給装置を制御する請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記酸素貯蔵装置による酸素の残量を検出する酸素残量検出装置を備え、
前記制御装置は、該酸素残量検出装置で検出される酸素の残量が閾値を下回る場合、前記空気供給装置により空気圧力を高めるか、又は前記燃料電池スタックにおける空気の出口側に設ける弁を絞って空気圧力を高める請求項1乃至5のいずれか1項記載の燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate